タラシと純潔アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
べるがー
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/22〜11/26
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●本文
「イヤです、イヤに決まってます!」
テレビ局のとある一室で、若い女の声が響いた。切羽詰った、金切り声。
「だ、だからその、オレ達で君を守るから。ね?」
「嘘ッ!! 私知ってるんですよ、その日がカップルしか入れないイベントの日だって!」
腰を低くしてなだめすかそうとする男が、女の意外な反撃に『うっ』とつまる。バレてたか。
「しかも何でよりによってあのたらしアイドルと一緒に!? ずええっっったい、いやー!!」
うわあああんと泣き出した女──横山みおうの悲鳴は大層悲壮なものだった。
最近十代の男女に人気の出てきた、ぴちぴち十五歳アイドル・横山みおう。彼女は今、未だかつてない嫌なオファーに怯え、慄いている。
今度出演する事になった番組は『とらいあんぐる・はっぴー』というテーマパークの取材。みおうの愛読月刊誌にもしょっちゅう登場する人気テーマパークだ。もちろんみおうだって年頃の女の子、ジェットコースターだって観覧車だって大好きだ。むしろ仕事が忙しくって休日がない中、仕事と称して遊べるのだから凄く嬉しい。
だけど!
「何っであの『隣に並ぶだけで子供が出来る』とまで言われるあの! 遠山秀樹さんと行かなきゃいけないのー!?」
うえええん、とみおうは泣いた。
実は以前ちょろっと共演した事があるのだが、初対面だというのに肩に手は回す、顎に手をかける、至近距離で話しかけられると鳥肌絶好調にさせられた相手だ。しかも業界中で彼の評判はあまりよろしくない。下手に売れているだけに、テレビカメラの前で露骨な嫌がり様は出来ないのだ。
「だ、大丈夫大丈夫オレ達がいるから‥‥」
な? とスタッフとマネージャーは頷きあう。しかし何の足しにもならない。
「知ってるもん、弱小事務所のうちが遠山の大手事務所に圧力かけられたの〜」
「ううっ」
マネージャーが胸を押さえて呻く。そんな事まで若干十五歳のみおうにバレていたとは!
「事務所に売られたんだあ〜」
うびゃあああ、と泣き喚くみおう。マネージャーは溜め息を吐いた。
「出来るだけの事はするよ、ディレクターがボディガードを雇っていいって話だから‥‥」
「ぼでぃがーど?」
ぐすん、と涙だらけの顔を上げるみおう。
「まぁ、悪い噂が立つのも困るしね、遠山くんの悪癖は業界じゃ有名だし」
だから先手を打っておいたんだよ、と自慢げに笑うマネージャー。ならば仕事を断れ、と思わずにいられないみおう。
「知っての通り、とらいあんぐる・はっぴーはその日カップリングデーだ。つまり恋人同士しか入れない。‥‥が」
ディレクターが言うには人数は遠山に伝えていないという。
「わ、私を守ってくれる恋人達が同行してくれるっていうこと‥‥?」
──つまりは、そういう事。
==仕事内容:たらしアイドルからみおうを守って下さい。==
仕事内容はボディガードとして恋人同士の振りをし、テーマパークに同行する事。
大手と弱小の事務所の力関係、人気アイドルとカメラ前という体面がある手前、ごく自然に! 邪魔をして下さい。
遠山秀樹は事務所の力を使って取材相手に選ぶほどみおうを気に入ってますので、結構手強いかも。頑張って応戦して下さいね!
●リプレイ本文
「そこを何とか。番組自体はきちんと撮影できる形でやりますし。ロケ先にも放映中止は痛い話でしょう? ‥‥お願いします、この企画に許可を」
TOMIテレビ局一室で。とらいあんぐる・はっぴー取材について、笹木詠子(fa0921)がディレクターに直談判に来ていた。
「‥‥考えてもいいが、君は何故そこまでするのかな?」
詠子はほやんと微笑む。
「前途ある少女の将来を、男の欲望で踏み潰させる訳にはいきませんわ」
●とらいあんぐる・はっぴーへようこそ!
「よ、よろしくお願いしまっ‥‥わきゃあ!」
朝早くから人気のテーマパークに集まったのは、メインのみおうと遠山、取材班とボディガード依頼を受けた偽恋人達だ。
「よ・ろ・し・く、みおうちゃん」
ご機嫌な遠山が、年相応のミニスカートで来たみおうの肩を早速抱く。男に親密に抱きつかれた事のないみおうは既に涙ぐみ、一同に緊張が走った。
「や、やめ」
て、と言う前に縁(fa0613)が動く。関心を引くように顔に近い襟に手を伸ばす。視線を受け、はにかむように微笑んだ。
「あ、あの‥‥ここ汚れてましたよ」
「そう、ありがとう。君は優しいね」
ハンカチを握ったまま照れる縁を見て、遠山は疑ってもいない。縁は女装だという事に。
「凄いっ! 雑誌で見てたよりおっきーい!」
恋人として腕を組んだ彼らが入った先には、色とりどりのコーヒーカップや長くうねるジェットコースター、入口からじゃ結構遠そうな高い観覧車が見える。
「ここはね、本来オーナーが恋人用に作った夢の楽園なんだ。収入面の関係で誰でも自由に入場出来るけど、二人っきりで楽しめる場所が沢山あるんだよ」
そう言いながらも手が伸びる。その間に、
「んじゃどこから回ろっかー」
何故か、縁の恋人である筈のゼクスト・リヴァン(fa1522)がいた。みおうに年齢が一番近い若者という素振りで、はしゃいでいる振り。更に遠山が口を開く前に、
「ばっ、ばかやろう、肩なんか抱くなよ!」
「肩は嫌か。それなら腰は」
「余計ダメに決まってるだろ!」
騒がしく篠田裕貴(fa0441)と鳥羽京一郎(fa0443)が通過する。お互いの事に夢中で、遠山の迷惑になっている事に気付いてない振り。男性同士だが、もちろん恋人役だ。
通過した男同士の濃密な会話に気をとられた遠山が、すぐみおうを探す。この番組のテーマはカップルデーのテーマパークデートなのだ。チャンスを活かさずどうする!
だというのに。
「ほえ〜、年の差カップルですかぁ」
「そうなの。(相手がこんなおばさんでごめんなさいね?)」
長身痩躯のモデル体型な稲森梢(fa1435)にひょこひょこついて行くみおう。彼女にはボディガードだと知られているため、みおうも含めこそっと恋人役の風和浅黄(fa1719)に詫びてる様子は三人で内緒話をしてるかのようだ。
「‥‥クソッ」
カメラも騒がしい恋人達を追っているため、遠山の口汚い呟きには気付かない。事前調査をしていた浅黄だけが、三人の輪に居つつも遠山を見ていた。
──幼馴染見てるみたいで苦手‥‥とはいえ、お仕事だし。
溜め息を押し殺し、ナンパ男相手にはボケで対処するかと目論む。
●地獄のカップルズ
「楽しかったねー!」
「はは、そうだねみおうちゃ」
「喉渇いたー」
くっ。カップリングデートだというのに何だこの大所帯は。必死こいてミラーハウスで見つけ出したみおうとの間に何故かまた出現するゼクスト。しかも
「みおうちゃん、次は」
「わあーっ」
何故紙コップをこちらに向けてスライディングをかますのか? 咄嗟にハンカチを差し出してしまったみおうの腕を半ば強引に掴む。負けてたまるか!
「ありがとう、君の優しさは」
「クエーッ!!」
ばっさばっさ、いででででカー、やめろカー、離せばかやろうカー、うわあああアホーアホー、ちっくしょおおおカー!
「フフッ‥‥最近のカラスは物騒だねぇ‥‥」
上空で旋回していた烏という烏が遠山めがけて襲い来る。みおうがぽかんと見つめる中、鹿堂威(fa0768)が不敵に笑う。
恋人役の詠子が『デートスポットにカラスは無粋だと思わない?』と尋ねている事からも、威の仕業なのは明確。
「え、えと次はお昼ご飯でぇす! こ、ここの焼きそばは一味違うんですよー」
カラスに急襲された遠山はトイレに篭って髪を整え直してから出てきたが目が血走っている。みおうが慄いて店舗を紹介する中、誰一人として遠山の不機嫌には気付いてないようにイチャイチャ振りを発揮している。
「べ、弁当作って来たんだけど‥‥って箸!」
「食べさせてくれるんだろう?」
「誰がそんな事やるか!」
「何だ、食べさせて欲しいのか?」
と男同士で箸の奪い合いをしてみせたり、みおうと遠山の間に陣取り『簡単なお昼を作ってきたの。ほら、みおうちゃんも』と卵サンドを渡している。ちなみに遠山には八割はマスタードのホットドッグを手渡してみた。
「みおうちゃんの隣に座りたかったけどね‥‥ありがたく頂くとするとぐはあっ」
突っ伏す遠山の掌に青汁を握らせる梢。
「女性にもてる秘訣は何ですか?」
にこぱっ、と笑って売れっ子遠山に尋ねる浅黄。みおうに再び魔の手が迫った瞬間カメラを呼ぶように声をかけた。
「あ? そんなもの──」
と言いかけて、カメラ前である事に気付き慌てて取り繕う。入場してからというものロクな目に遭ってない(もちろん偽カップル達の仕業)事からイライラしているのが分かり、より一層近づけさせられない。激した遠山に殴られた女の子がいる事も調査済みだ。
「さってではメインであるお化け屋敷へGOだッ」
──あまりの邪魔に錯乱したか。
冷静に判断する偽恋人達の前で、『お化け屋敷は二人一組で入るのが当たり前、恋人同士で入るのが当たり前、お前らは入って来るな!』と一生懸命念を押している。一瞬『ヤバイんじゃないのか』と裕貴が京一郎を見るが、威が朗らかに薦めた。
「え、ええっ!?」
「そうか、じゃあ行こうみおうちゃん!」
やたらハイテンション遠山。みおうは助けのない事に泣き出しそうになっていた。不審がるメンバーに一つ微笑み、自らも二人を追って入って行く。
「それじゃ私も」
何故か縁も入って行った。
「そんなに離れないでよ。君の事が好きで仕方ないんだ‥‥」
お化け屋敷の暗闇の中、アトラクションと遠山のダブル恐怖に泣いているみおうに遠山が迫る。今まで邪魔しまくってくれた妙な恋人達はもういない、今だ!
「やっ、ちょっ、待っ」
「待てない‥‥君が欲しぎゃあっ」
ぬるずるりんっ。何かが遠山の首筋を這った。濡れたソレが何か分からぬおぞましさに、全身鳥肌が立つ。
「ちっくしょ、何だよこれっ‥‥っておい!」
「さっ、先に出てますーっ!」
一瞬の隙をつき、みおう逃亡。上から現れた正体を知ると握力のまま握り潰し、吐き捨てた。
「っくそっ!」
ガン、と蹴られるアトラクション。小さく悲鳴が上がった。
「‥‥あ?」
目を凝らすとそこには縁がいた。みおうが出て行き、仲間が飛び込んでくるまでの勝負。
「その‥‥私、実は遠山さんの事が‥‥」
遠山の目が光った。
「はあっ、はあっ、はあっ‥‥」
「みおう!?」
中を伺っていたゼクストに体当たりを食らわすように飛び出してきた。みおうは逃げる途中で涙を我慢出来ず泣きだしてもう感情が乱れている。
「もっ、もうやだあ〜!」
何があったのかわんわん泣くみおうに、梢が肩に手を回す。涙が溢れた目とぶつかった。
「泣いてないでこの窮状を切り開く力を身に付けなさい? 大丈夫、事務所の裏を読んだあなたなら出来るわ」
──そう、逃げてばかりでは芸能界を生き残れない。
「ああ、綺麗な人に告白されると嬉しいな‥‥君の瞳を見てると初恋の人を思い出すよ」
さりげに腰に手を回す遠山に、縁は恥らうように俯く──そろそろの筈だ。
「ほら、照れないで俺を見て‥‥」
そっと頤を手にかけ、目を合わす二人。レフ板を持ったスタッフが見つめている。
「ってああ!? 何でお前らいるんだよ!」
あともうちょっとで食えたのに! ととんでもない事を叫ぶ遠山。尻尾を出したな、と浅黄が笑う。
「はい、そこまで。ドッキリ終了よ」
スタッフによって隠されていたプラカードを持ち乱入する梢。詠子がディレクターにお願いした、『実はドッキリだったの、ゴメンナサイ』エンディングである。
「ドッキリ‥‥? ドッキリだと!? それじゃわざとジュースぶっかけられたのも」
「悪かったな」
無邪気さ100%のまま笑うゼクスト。呑気に変態かと思っていた男二人が笑っている。カアッと頭に血が昇った。
「てめぇらっ」
「本当は全部気付いてたんでしょ? TVを分かってるのね、流石だわ」
詠子、先手必勝。凄いわ、と尊敬する眼差しと賞賛のキスに目を見開いて硬直した。このままで終わるのは番組的に面白くない、と思った縁はむんずと遠山の腕を取り、胸へと導く。
「──っ!?」
掌が何かを探し求めるように動いたが、ないものはない。愕然とする告白した相手の目はイタズラっぽく光っている。
「そう、私、実は男なの騙してしまってごめんなさい遠山さん」
完璧なオチ。
●タラシに制裁を
「笑いもんになるじゃねぇか、どうしてくれんだよああ!?」
激した遠山の勢いは止まらない。その長い足で傍らのゴミ箱を蹴ると、怯えるみおう腕を引っ掴む。
「やめっ」
「来いよコラァ!」
スタッフと共に撮影後の乾杯。その和やかな時間が瞬時に強張った。
ぼごっ!
「っが!」
「ナイッシュー」
空のペットボトルが放物線を描いて遠山の頭にクリーンヒットする。小声で京一郎が呟き、裕貴がにっこり微笑んだ。
「サッカーやってた時のクセがつい出ちゃって。危険物以外はリフティングしちゃうんだよね〜」
「‥‥‥‥」
んなワケあるか!
とその場にいる誰もが思ったが、あえて言う必要もない。頭を押さえて蹲る遠山に、梢が屈みこむ。もちろん、可愛い言葉をかける筈もなく。
「この先もおイタが過ぎるようなら、次はドッキリじゃ済まないわよ?」
という、恐怖の笑顔つきであったが‥‥。