ヤ・セールキャンペーンアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
江口梨奈
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
1.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/11〜01/18
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●本文
有限会社カワタヘルス。
健康器具と健康食品を取り扱っている、小さな会社だ。そして、とある劇団のスポンサーでもある。年末、社長の川田は、その劇団の団長に電話をかけた。
「アルバイトをしてくれる人を捜しているんだけど、人前に出るのが好きな子を紹介してくれないか?」
郊外型ドラッグストアの店頭、駐車場の一部で、健康食品のPRをしてくれる人を捜している、というのだ。これまでは自社の営業員にやらせていたが、ただハッピを着て声をかけながらサンプルを渡すだけではどうも地味だ、だが恥ずかしながら今の営業員ではこれ以上派手なことが思いつかない。そこでひとつ、外部の人たちの違う観点から、面白いことをして販売促進に繋げて欲しい、そうだ。
商品は、7日間集中ダイエットフード『ヤ・セール・ミール7(セブン)』。こんにゃくを主原料にした低カロリー健康食品である。
しかし、売れない。
きちんと認可も貰い、モニター調査でも実績があり、長く売り続けている商品であるが、あまり売れてくれない。
3食×7日分で3万円という高額もさるとながら、最近の寒天ブームによるこんにゃくの人気低下。商品名のセンスの無さ。要因はいろいろだ。
「君たちにノルマ、なんてことは言わないが、とにかくキャンペーン期間の1週間、大勢にサンプルを配り、1セットでも多くの販売に繋げて欲しい。よろしく頼む。ドラッグストアの人には迷惑をかけないようにな」
●リプレイ本文
♪父ちゃん母ちゃん爺さん婆さん〜。
♪兄ちゃん姉ちゃん坊ちゃん嬢ちゃん〜。
♪ヤ・セール・ミール7はいかがです〜。
「はいはいコチラ只今キャンペーン中の、謎、謎のダイエット食品でございま〜す」
「セレブな私たちが愛用している本物の最高級品」
「歴史と伝統のこんにゃくダイエット。厚生労働省の規格も満たしております」
「お正月に太ってしもうたうちも実践中! 今晩のごはんはコレで決まり!」
「まずはサンプルでおためし下さい」
「よろしくお願いしまぁす」
♪試してみてみてヤ・セール。
♪ヤ・セール・ミール・セ〜ブ〜ン〜〜。
ドラッグストアの駐車場は、何だ何だと黒山の人だかり。その中心には若い子達が集まって、歌って踊って商品のアピールをしている。その姿を撮影しているカメラまである。いったい何事かと、買い物客達が遠巻きに、しかし興味深そうに足を止めて見ているのだった。
「今すぐ『トクホ』の申請をしましょう、特定保健用食品、ヤ・セールの実績なら大丈夫です!」
川田社長とヤ・セールの前で拳を握りしめ力説する結城 紗那(fa1357)。一介のアルバイトが経営方針に口を出すなど大それた事だが、川田は貴重な外部の意見を真摯に受け止めた。
「いやいや、心配ありがとう。しかし今日明日に出来る事じゃない。君たちは今ある商品を、精一杯紹介してくれたまえ」
特保に認定されていようがいまいが、ヤ・セールには変わりない。この良さを知り、通行人に訴える。それが彼女たちの今日の仕事だ。
「任せてといて。朝から晩までこの命果つるまで、精一杯やらせて貰うよ」
自慢は若さと根性! 御鏡 遥(fa0368)がドンと胸を叩く。期間中はとにかく、大量のサンプルを配ることに専念するつもりだ。
「これって、うちらが実際に食べてもかまわんのやろか?」
そのサンプルの1つを取って、椎葉・千万里(fa1465)が聞いた。
「だって、キャンペーンは1週間やろ? ちょうどコレの回数分と同じやんか」
「なに! 君たちが食べるっていうのか!?」
川田は飛び上がらんばかりに喜んだ。
実際に食べて、生きたデータを見せる、こんな効果的な方法が他にあるだろうか? サンプルと言わず、商品そのものをぜひ使えばよい。
「俺たちもいいか?」
被験者に名乗り出たのは志羽翔流(fa0422)とトシハキク(fa0629)。年齢・性別バラバラのほうがもちろんいい。どんな層にも効果がある、と訴えることが出来るのだ。
「千万里ちゃんはやめておきなさい」
緑川メグミ(fa1718)が止めた。まだ14歳の千万里、たった7日とはいえ無理な食事制限は体を壊しかねない。
「3食やなくても、1食置き換えなら大丈夫ちゃう?」
「それは困る。説明書通りに使って貰わないと」
売り側が、正しい使用法以外の方法を提案するわけにはいかない。ヤ・セールの一番の売りは集中ダイエットであること、そこらの単なる低カロリー食品ではない、というのが川田の主張だ。
「千万里ちゃんはメグと一緒にバイオリンを弾く担当ね。今決めたわそう決めたわ」
「それでええねん、千万里ちゃん。もっと背ェ高くせなアカンのやさかい、あんたは3食しっかり食べなはれ」
秋園 十字(fa2646)は千万里の頭を無造作になで回し、からかうように言った。
そんなふうに盛り上がっている一団から少し離れて、辻 操(fa2564)は冷めた目で皆を見ていた。
(「実際に食べる、ねえ‥‥。こんな安いバイト代で、よくそこまで」)
報酬以上のことはしたくないと明言する操。サンプル配りの仕事しか任されていないはずだ、その時間だけ集中的にやればいい。
などと言いながら操は、広報課へ向かった。商品知識をもっと頭に叩き込むため、とのことだが、さっきはあんなことを言っておきながら、なかなかどうして熱心ではないか。
初日の朝。
ヤ・セールを開封するトシハキクたち。1食分は、こんにゃくと海藻のサラダに、こんにゃくスープに、こんにゃくゼリーだった。
「『一緒に水や無糖の茶などをたっぷりお摂り下さい』、だって」
「‥‥まあ、味は悪くない」
悪くないが、量がもちろん物足りない。5分で食べ終わり、ドラッグストアの前に集まる。
「朝のぶんは食べたん? まあ、さっそく頬の周りがホッソリしてきはりましたなあ」
「んなワケあるか」
駐車場に簡易ワゴンを置き、商品の山を積む。左腕に通したカゴにサンプルを入れ、いよいよキャンペーン開始だ。
2日目。相変わらず食べ続けている。
「集中ダイエット、ヤ・セール。私たちも実践していま〜す」
自信のある容姿を強調する可愛らしい格好で臨んだ遥は、目一杯の笑顔を振りまきながらサンプルを手当たり次第配っていく。
「寒くないの?」
片や対照的に、上下ビシッとしたスーツで決めた操が純粋な疑問をなげかけた。
「このぐらい平気だよ。操さんこそ、動きづらくない?」
「これでいいのよ、ちゃらちゃらした格好はイメージを悪くするのよね」
「‥‥それってどぉいう意味?」
「あら、あなたのことを言ったつもりはないけど」
「だよねー。地味な格好で誰も寄りつかなくてサンプルが減らない、なんて事態を避けてるのよあたしは」
女達の間で火花が散る。溢れる若さと大人の色気、どちらが勝つのか?
「んまあ、あなた方、喧嘩なんてお下品だわ。格好がどうかなんて、ちっちゃいちっちゃい」
二人の間に入ったのは、頭から爪先までダイアモンドで飾り立てたメグミ。
「メグから見たらどっちもステキよ。着るものにこだわりを持つのは大事なの」
ころころとさえずるようにメグは言う、その間もダイアが太陽光を乱反射させている。
とにかく言えることは、なにを着ても上からカワタヘルスのハッピを着ているので同じ、ということだ。
4日目。肉の味が恋しくなる。
「こっちが初日のうちら。ほらほら見てって、今日が4日目」
広報課に用意させたモニターに、トシハキクがずっと撮影していたキャンペーンの様子を映させる。
「この端に移ってるのが私です。この日から毎日3食、食べています」
足を止めた客達に、紗那が画面と自分を交互に指し示してみせる。
「初日は辛かったけど、だんだん胃が小さくなったようです、空腹は感じません」
実際に食べているものの強みとして紗那は、細かい感想を伝えていく。
「俺も食べてるけど、まずお通じがよくなる、それから肌がツルツルに! ほら、触ってみてみて遠慮無く」
翔流が顔を出すと、客は躊躇なく頬を撫でた。皆、気になっているのだ、毎日ここでキャンペーンをしている彼女たちのことを。
「信じられないならまずはサンプル。こんにゃくスープが入ってるよ。いまは寒天は入手困難だけど、ヤ・セールはいつでも手に入る!」
「でもサンプルは無くなるかもよ〜。早い者勝ちやで〜」
十字が煽るように最後の一言を言うと、客達は一斉に手を伸ばした。
「さあさあ、サンプルで気に入ったら次は買うてやってな。お嬢さん方、ライバルと差を付けるチャンス! お兄さん方、彼女にプレゼントしてハートをキャッチ! 食べて痩せる、食べて痩せるヤ・セール・ミール7をよろしく〜」
7日目。おなかすいた。
ずっとカメラを持って撮影をしているトシハキクが、なんとなくふらついている。1日に2千キロカロリーを消費してしまう若い男子が、こんにゃくだけで足りるはずはない。
「明日には、普通の食事に戻せるんだよな?」
「いや、俺、自信ない‥‥」
「私も‥‥。なにか食べたら胸やけしそう」
トシハキクと翔流、それに紗那はお互いの顔を見合わせた。
「終わった後でドカ食いするなってことなんでしょう」
操は言った。胃が空っぽの状態では高脂肪分の食物は受け付けないはずだ。しぜん、ヘルシーな食事になるだろう。ヤ・セールの威力、侮り難し。
「それにしても、痩せたなあ」
千万里は、7日目の皆を見て感心する。見た目に大きな違いはないが、確かに体重計の数字が変化していたのだ。
「それにしても、減ったなあ」
そして簡易ワゴンを見る。
あれだけ山のように積んでいたヤ・セールが、ほとんど無くなっていたのだった。