A県特産牛・エービーフアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 江口梨奈
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 10.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/26〜08/01

●本文

 今回の依頼は、A県で行われる『A県すこやか物産展』で、あるブロックのアピールを担当することである。
 元々は、某事務所が売り出そうとしていた新人グループ『ミルクガールズ』が行うはずであった。
 しかし彼女たちが、直前になってごねて、仕事を降りてしまった。
「あたし達、ベジタリアンなのよ! そんな、共食いみたいなマネ、出来るわけないじゃん!」
 物産展で扱うものは、A県特産牛『エービ−フ』であった。
 そしてミルクガールズは、牛獣人だったのだ。

「そんな事情なら、断るのも仕方ないですね」
 事務所の部長の下へ、依頼の詳細を聞きに来ていた別の獣人はそう言ったが、部長は鼻で笑って否定した。
「あの娘らがベジタリアンなものか。ハンバーガーもフライドチキンも、がつがつ食べてたぞ」
「えっ、じゃあ‥‥?」
「仕事が気に入らないんだろ、カメラが回るでもない、歌を歌えるでもない場所で『ご試食どうぞ〜』な仕事をやらされるのが、な」
 ミルクガールズは5人組だが、ちょっと可愛く、ちょっと胸も大きいだけの少女の集まりだ。はっきり言って、その程度の女の子集団は芸能界にいくらでもいる。だからあとはどれだけ仕事をこなすか、だ。多く仕事をして多くの人に顔と名前を覚えてもらう、そのためにも事務所はどんな仕事でも受けていた。
 だが、物産展の売り子、そんな小さな仕事ばかりの繰り返しに、ミルクガールズは我慢が出来なくなったのだ。
 事務所としては、牛の売り子に牛娘、こんな適任はいないと喜んで受けた仕事だったのだが、肝心の娘どもがこの調子だ。
「努力しない奴らは、うちには要らない。あの天狗娘どもに、お前らの代わりはいくらでもいると教えておかないと、な」
 無駄話が過ぎたな、と部長は、もう一度依頼の詳細を書いた紙を広げた。
 場所は県民ホールで、期間は1週間。
 エービーフのブロック内で、商品説明をしたり、試食を勧めたり、その試食品を調理したり、販売をしたりする、その手伝いである。衣装はとりあえずハッピとタスキ、牛のマスコットが縫いつけられた帽子があるが、華美にならない程度で自前でも可。
 物産展には他数社、数商品が出店している。呼び子達は、張り切りすぎて他の店に迷惑を掛けないように注意すること。
「他の店でも、本職のモデルや芸人を呼んでるらしいぞ。負けないようにな」

●今回の参加者

 fa0155 美角あすか(20歳・♀・牛)
 fa0213 一角 砂凪(17歳・♀・一角獣)
 fa1396 三月姫 千紗(14歳・♀・兎)
 fa1406 麻倉 千尋(15歳・♀・狸)
 fa1747 ライカ・タイレル(22歳・♀・竜)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)
 fa3175 下心充(22歳・♂・一角獣)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)

●リプレイ本文

 今日はまだ、物産展の前日。
 だというのに気の早い売り子達は、もう集まっていた。
 テーブルの上に、所狭しと並べられる、牛肉料理の数々。ステーキやしゃぶしゃぶと言ったスタンダードなものから、こってりビーフシチュー、定番牛丼、ヘルシー豆腐入りハンバーグ、簡単ミートボール、ゴージャス牛タタキ‥‥‥‥。
「お肉! お肉デスヨ!! ただ飯デスヨ!!!」
 まるで金塊を目の当たりにしたようにはしゃぐ三月姫 千紗(fa1396)
「千紗さん、これは試作なんですから‥‥」
 パトリシア(fa3800)が本来の目的を告げるも、聞いてはいない。
「食べさせてあげてよ。この子、ずっとソーメンばっかりの食生活だったんだから‥‥」
 目頭を押さえるのは、千紗のユニット仲間、ライカ・タイレル(fa1747)。今の相方にとってこの光景、どれほど極楽だろうかと知っているから、涙がこぼれそうになる。
「お肉って、ちょっと値が張っちゃうものだからね‥‥」
 つられてハンカチを取り出す一角 砂凪(fa0213)。試作用に材料を惜しみなく提供してくれたエービーフ振興会に心から感謝だ。
「ビバ、肉! ラブ、肉!!」
「まだ食べちゃダメッ。写真撮ってないんだから」
 デジタルカメラを構えているのは、今夜の試作発案者、麻倉 千尋(fa1406)。明日からの物産展でレシピ集を配布しようと、そのためにこうして大量の料理を作っていたのだ。
「テンプレートはだいたい出来たよ。あとは写真を入れて印刷するだけ!」
 阿野次 のもじ(fa3092)は描き上げたばかりの絵を見せる。『チビのもじ』と『サーロイン少佐』が並んでレシピの解説をする、凝ったイラストだ。
「よしっ、終わり! さ、みんなで食べよー」
「いただきまーす」
 しかし、一人浮かない顔をしているのは美角あすか(fa0155)。
「どうしたの?」
「実は‥‥‥‥私、ベジタリアンなんですよね」
 なんということを! まさか、あすかまで、例の仕事放棄した小娘グループと同じことを言い出すのか?
「いえ、仕事に対してワガママは言いません。このくらいこなせなくては、アイドルとしての未来は暗いです!」
 おお、と拍手が起こる。あすかの心意気、天晴れなり。
 そうして、物産展当日を迎えた。

 ブロックの設営は、すでに振興会が済ませている。売り子達は衣装に着替えて、そこに集まればよい。
 誰よりも早くそこに来たのは、下心充(fa3175)だった。がやがやと賑わう、オープン前の会場を、懐かしそうに眺めていた。
「懐かしいですね‥‥」
 充は、誰にいうでもなく呟く。
「デビュー前には、このハンサム顔をよく起用されたものです」
 だから誰も聞いていないというのに。
「買って頂くのは商品ではなく、私のスマイル。張り切っていきましょう」
「張り切ってますね、充さん」
 そうこうしているうちに、他のメンバーも集まってくる。
「女性客の視線は私が集めますから、お任せを‥‥」
「さあ、オープンだー!」
 整理員が慌ただしく動き出す。正面のゲートが開いた。「押さないで下さい」を連呼するも、周りの元気いっぱいの「いらっしゃいませ!」がかき消してしまう。
 さすがは、周囲のブロックも本職を呼んだ、ということか。
 負けてはいられない。
 あすかは半分だけ牛の姿を表し、その上からハッピを着た。
 我ながら、なんてインパクトのある格好だろうと思う。おそらく例の事務所も、あのグループにこういう効果を期待していたのだろう。こんな格好の可愛い巨乳アイドルが5人並んでいるだけで、きっとこのブロックは目立ったに違いない。勿体ないな、とあすかは思った。
「似合ってるよ、あすかさん」
 隣には、牛のきぐるみパジャマできめた千尋が。
「千尋さんもね」
「頑張って、おいしいエービーフ、売り尽くそうね!」
「もちろん!!」
 のもじは、録音したCDをデッキにセットした。

 じゅうとはじける おとがする
 ただようにおいが んんっと たまらない
 おいしービーフ おいしービーフ
 
 その歌詞に負けまいと、テント内では試食品の調理がスタートする。鉄板に油を引き、肉を乗せては「じゅうとはじけ」、ひっくり返しては「ただようにおい」。
「いらっしゃいませー! 特産エービーフのお勧めでーす!!」
 声を張り上げ、あすかは試食品の載った皿を次々と客に手渡していく。
「夏休み、お子さんと一緒に料理にチャレンジ! 簡単レシピもお配りしてまーす!!」
 砂凪は、無事に仕上がったレシピ集を、子連れの客狙って渡していく。受け取った親子にはすかさずミートボールの皿を。
「牛肉100%のミートーボールは、お父さんのおかずにもピッタリ!」
 夕べの試作の甲斐あって、お勧めする料理にも説得力がある。
「どうぞ貴女の愛情料理を食卓に」
 充のハンサムスマイルが後押しする。もう奥様はメロメロだ。
「かわいいお嬢さん、これがあればお手伝いも簡単ですよ」
「ミセス、家族の健康は貴女の手にかかってますよ」
「奥様、貴女の料理が食べられるご家族が羨ましい」
 ハンサムの勢い衰えず、老若見境無く、一息も休まず声をかけ続ける。下心充の名にかけて。

「ブロック肉、あと5パックです。追加到着は、10分後」
「了解」
 その合間合間ではパトリシアが、商品の状況を確認する。販売品だけではなく、試食皿の数も。せっかく来てくれたお客さんを手ぶらで帰すわけにはいかない。
 そうしていても、希望の品が揃っていないタイミングも出てくる。
「お肉! ビーフ! エキサイト!!」
 そんなときはすかさず、ライカと千紗が前に出た。
「奥さん、牛肉の料理って、何をする?」
「夏のお勧めはこちら、牛タタキに冷しゃぶ、牛刺し!」
「新鮮なエービーフなら、生でも美味しく安心・安全」
「こんなのをテーブルに並べて、横にはこう‥‥キンキンに冷やした黄金色の液体をグラスに注いだものを置いて、きゅ〜っと喉に流すと最高!」
「いやいやライカさん、未成年がそんなの勧めたらダメじゃない」
「‥‥‥‥そう! もちろん私は未成年。だからコレはジュースのことですよ」
「なんですか、その間は?」
「女の子にはヒミツがあるんです☆」
 などとテンポのいいトークをしているうちに、人垣はどんどん膨らんでいく。
「お肉! ビーフ! エキサイト!!」
「スタミナ付けて、夏を乗り切ってね〜!」
 そこに到着した追加品が、売れないわけがない。
 売り子達はそれぞれの本領を発揮し、どのブロックにも勝る賑わいを作り上げていた。

 物産展は大好評に終わった。
 地元の新聞が取材に来ていたらしく、その様子が記事になっていた。
 彼女たちは与えられた仕事に、何一つ文句を言わず、寧ろ楽しんでこなしてる雰囲気がそこには現れていた。