オオカミ少年の誕生日アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
江口梨奈
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
5.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/25〜01/29
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●本文
「僕のパパはテレビ局のエライ人なんだから」
ミツル少年はそれが口癖だった。
「有名な歌手の人が、パパにオセイボ持ってくるんだぞ」
「昨日のテレビのあのアイドルなんかボクにクリスマスプレゼントくれるんだから」
「この監督が、ボクを主役に映画撮りたいって言ったこともあるんだから」
ミツル少年はみんなに嘘つきと呼ばれていた。
だが、彼は本当のことを言っていた。若干誇張している部分もあるが、彼の父親がプロデューサーであることは本当だし、彼の家に有名歌手の所属事務所から季節の進物が届くこともある。
ミツル少年は悔しかったのである。
歌手や俳優やお笑い芸人の顔や名前はみんな知っている。けれど、裏方であるディレクターやプロデューサーの名前は誰も知らない。
「それでいいんだよ。それがお父さんの仕事だ」
ミツル少年は寂しかった。だから、ことさらに自分の父親が、大スターよりも偉いのだと強調して回っていたのだ。
この日も、そんなつもりで言ったのだ。
「来週のボクの誕生日は、ゲーノー人がいっぱい集まるんだぞ」
「ほー。じゃあ見せてみろよ」
級友がいじわるく、ミツルに言った。
「芸能人が来るんだろ? じゃあ俺たちも会わせてくれよ。おまえの誕生日パーティー、クラスメイトの俺たちも招待してくれるよな。な!」
ミツル少年の父親は、息子の様子がおかしいのに気が付いた。問いただしてその見栄の話を聞いた。
まったく、なんて愚かなことをするのだろう。
「だって、ボク、悔しかったんだよ!!」
息子の気持ちはありがたい、だが、たかがプロデューサーの息子の誕生日、芸能人達に「来てくれ」とは言えない。
「‥‥まあ、声はかけてみるがな。お前の馬鹿話に付き合ってくれる人たちがいれば、だぞ。それから、お友だちにはちゃんと謝るんだぞ」
●リプレイ本文
ミツル少年は複雑な気分だった。
いつもは日曜日でも家にいない父親が、今日は自分の誕生日だからと家にいるのである。それはとても嬉しい。だが一方で父親は、ハッキリとは言わないが、自分のくだらない見栄に付き合ってパーティーをセッティングしてくれたらしい。それがとても心苦しい。
「ミツル、お友だちどのくらい来るのかしら? お皿、これだけで足りる?」
母親は前日から張り切っていた。彼女はこんな集まりが大好きだ。仕事柄、人が大勢来ることはあるので食器は一通り揃っている。手伝いながらも少年は気が重い。ゲーノー人は来るのだろうか、その人たちは嘘つきの自分をなじったりしないだろうか。
と、予定より早く玄関のチャイムが鳴らされ、同級生達がどやどやと遠慮無く上がり込んできた。
「よぉ、ミツル。来てやったぜ。どうした、誰もいないじゃないかよ」
「‥‥だって、まだ、時間じゃないから‥‥」
「ハッ、やっぱり嘘だったんだ。おーいみんあー。ミツルは嘘つきだ‥‥」
クラスメイトが囃し立てようとしたときだ。再び、チャイムが鳴った。
「ハッピーバースディ、ミツルくん!!」
今日のパーティに招待された『芸能人』たちが、そこに現れたのだ。
「プロデューサー、いつもお世話になっております!」
「本日はお招き、ありがとうございます!」
華やかな大人達が一斉にミツルの父親に頭を下げたものだから、子ども達は驚いた。よく知るアイドルや歌手ではないが、その艶やかな風貌から、ミツルの家族や親戚たちではないと子どもでも分かる。きょとんとしている彼らを尻目に、今度は次々とミツルにプレゼントが渡されていく。ミツル自身も、訳が分からない風に呆然としている。
「ミツル君、話はお父さんから聞いたよ」
大海 結(fa0074)が言った。
「約束だよ、まずみんなに謝ろう」
それでミツルは我にかえった。それから、言いにくそうに、これまでの話は誇張しており、今日のパーティも無理を言って来て貰ったのだと素直に説明した。
それを聞いた子ども達は意外な反応を見せた。
無理を言えば芸能人を集めることの出来るミツルの父親、彼は実はすごい人なんだ‥‥!
「無理と言いますが、プロデューサー直々のご招待ですもの、これを断るなんてもったいない」
少年達の抱いた印象を更に確固たるものにするため、アキ(fa2477)は尚も強調した。その口調は冗談めかしているが、自分たちはプロデューサーとの関係を大切にしたいのだということを暗に匂わせている。
「ミツルくんとは実は今日が初対面ですがぁ、お父さんにはいつもお世話になってるんですぅ。お父さんはテレビ局では偉い人なんですよぉ」
猫美(fa0587)までもが後押しをする。制作者がいなければテレビ番組自体存在しないし、ましてやそこに出演する自分たちも存在しない。画面には顔こそ出てこないが、プロデューサーあってこその自分たちなのである。
「ねぇねぇ、いつまで挨拶してるんですか? 早くパーティ始めましょう、僕、お腹空きましたです!」
恐縮しあう堅苦しい雰囲気を壊すように、霧隠・孤影(fa1010)はおどけて言った。
「それもそうだわ。お友だちもみんな立ちっぱなしじゃない」
久遠(fa1683)は「早く」と急かす。彼女の右手にはケーキの箱が下がっていた。
「この人数じゃ一つじゃ足りないだろうと思って、焼いてきたのよ。もちろん、ろうそくもね」
「やったぁ!!」
さあ、パーティだ。母親がジュースの栓をどんどん開けていった。
「この中で、私のこと知ってる人ー?」
雪音 希愛(fa1687)が皆に聞く。
「知らなーい」
子どもというものは正直だ。分かっていた反応だが、やはり悲しい。
「こう見えても私、ミュージシャンなんですよ」
「あたしもこう見えて歌手だ。知ってるか?」
亜真音ひろみ(fa1339)のことも、やはり子どもは知らない。
「家に帰って、お兄さんかお姉さんに言ってみな、たぶん羨ましがられるぜ」
「こっちのお姉さんは、何している人?」
「モデルですよ」
愛瀬りな(fa0244)の返事に、女子から「すっごーい」と歓声があがる。
「何の雑誌ですか?」
「うーん、大人向けだから知らないでしょうね。‥‥あ、あなた達でも知ってると言えば、『ぷにっと海賊団☆』でしょうか?」
「えーーっ!?」
子ども達がますます驚いた。
「TOMI−TVでやってる番組だ、それなら知ってる!」
子どもには出演者の名前より、番組の名前を言った方が分かりやすいらしい。
「わたくし達も出たわよ」
アキが出演したときの話をすると、子ども達は聞き入った。
「あのユイも出たし、孤影ちゃんはオープニング曲を手がけたんじゃなかったかしら?」
ああ、もう子ども達の目は輝いている。少年達にとって彼女らは紛れもない芸能人。ミツルが呼んだとか父親が偉いとかそんなことは関係なく、芸能人のいるパーティに呼ばれている、そのことでもう胸がいっぱいだった。
「じゃあ、ここで芸人としてネタのひとつも披露させていただきますです」
頬張っていたケーキをごくりと飲み込み、孤影は立ち上がった。
「それではショートコントです」
両手に猫と鼠のパペットをはめて、孤影は用意していたネタを始める。仲良しに見えて実は猫が鼠を美味しそうに食べてしまうコントに、子ども達は笑い。
「『にゃんとちゅーだふる』どうもありがとうございましたー。さて次は?」
「あたしとノアで、歌を歌うぞ」
「最初は『ハッピーバースディ』。それから、他にリクエストは?」
希愛はキーボードを持ち込んでいる。彼女の演奏に合わせて、ひろみがその美声を披露するという。最初のほう皆で歌ったが、最後の曲は違う。
「この歌は、ミツルくんにプレゼントです」
なんと二人はそれぞれ、オリジナルソングを小さな親友のために作ってくれたという。子ども達の羨望のまなざしが少年に向けられる。ミツルは恥ずかしそうに頭を掻いていた。
「みなさん素敵なプレゼントね。私のはありきたりで、申し訳ないわ」
久遠はそんなことを言うが、とんでもない。
「お姉さんのケーキ、おいしかったよ! セーターも大事に着るよ」
「ありがとう。でもせっかくだから、もう一つびっくりするネタを披露しようかしら?」
「何、なに?」
「ふふふ‥‥」
久遠はミツルの手を取り、自分の胸を触らせた。
「お、お姉さ‥‥じゃない‥‥お兄さん!?」
「おいおいくー姐さん、うちの息子を誘惑しないでくれ」
「あら失礼」
大人に少しからかわれながらも、ミツルとそのクラスメイト達は愉快だった。家族揃って、友人に囲まれ、美味しい料理が並び、たくさんのプレゼントに埋まった誕生日。これが、父親が金をばらまき『仕事』として雇った人たちだと、少年は微塵も気づきはしなかった。
「みんな、お疲れさん。今日はわざわざありがとう」
パーティが終わり、友人達も返し、プロデューサーは予定通りの出演料を彼らに渡そうとした。
「これくらいのことでお金はいただけませんですぅ」
そう言い出したのは猫美だ。
「楽しいパーティに呼んでもらってぇ、その上お金なんて受け取れませぇん」
「そうですよ。あたし達、料理もお腹いっぱいいただきましたし、子ども達も喜んでくれたし、それで十分です」
続けてりなも言った。あんな大人数のパーティ、決して安くつくものではないだろう。自分たちの報酬は、そちらに充ててくれればいい。
「そういうわけにはいかないよ、きちんと仕事をしてくれた人にはきちんと報酬を払う。君たちは期待以上の仕事をしてくれたんだ、これは私の気持ちだ」
「そう言われると‥‥」
結は言いながらも、このプロデューサーの誠実さにうたれた。中には、自分達みたいなまだまだ三流の芸能人を安くこき使い、威張り散らす制作者もいるという。だが、少年の父親はそうではない。彼はプロデューサーという仕事がよく分かっていないが、それでもこの父親が真面目な仕事人であり、また真面目な父なのだと感じていた。それはアキも同じに思ったのだろう、差し出されたのし袋を受け取りながら、言った。
「ミツルくんが見栄を張った気持も、分かるわ」
お父さんは偉い人。
ミツルは嘘をついていない。
ミツルは誇張もしていない。