劇場荒らし、現るアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 江口梨奈
芸能 1Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/08〜03/14

●本文

 最近、劇場荒らしが出るらしい。同業者の集まりがあった際、ひじきホール支配人の根田はそんな話を聞いた。
 劇場には有名人が出入りする場合もある。その楽屋に忍び込まれ、使用済みのコップやら、汗を拭ったタオルやら、口紅の着いたタバコの吸い殻などを盗まれるそうだ。
「ストーカーってやつかい? 気持ち悪いね」
「女だけの劇団は狙われやすいよ、裏方にも男がいないってところ、あるだろ?」
「なんだい、女なら誰でもいいのかよ」
 どうやら特定のアイドルに固執しているわけではなく、ちょっと美人がいれば、その彼女の持ち物が狙われるそうだ。
「女だけの劇団ね‥‥」
 と、そこまで聞いて根田はハッとした。
 今、彼のホールでは演劇コンクールの予選を行っており、いくつもの劇団が毎週のように出入りしている。
 その中で、女の子だけの劇団があるのだ。
 劇団チョコレート・ウエファース。
 沙希カカオをリーダーとする、女の子4人だけの劇団だ。4人とも、可愛いほうに入る。もし劇場荒らしが来るなら、彼女たちはいいカモではないか。
 来週の予選では、CW(チョコレート・ウエファース)含めて4つの劇団が参加する。
 もともと大きくはない劇場、楽屋の数もなく、今回のように多劇団を集める場合は一つの部屋を衝立で仕切って使わせている。つまり、楽屋に鍵など無い状態で、自分の劇団員じゃない人物が同じ部屋に出入りするのだ。
 皆、貴重品は自分で持ち歩くし、楽屋なんてせいぜい着替えしか置いていないのだから、これまでそのスタイルでやってきて問題は発生しなかった。けれど、そんな変質者の話を聞かされては、放っておくわけにはいかない。
 楽屋の作りを直すのは改装計画の一つに入れるとして、今はとにかく、来週のコンクールをつつがなく終わらせなければ。

●今回の参加者

 fa0095 エルヴィア(22歳・♀・一角獣)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa2215 和山 繁人(19歳・♂・ハムスター)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3144 大太郎(25歳・♂・牛)
 fa3156 所所楽 杏(30歳・♀・熊)
 fa3158 鶴舞千早(20歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文

 ひじきホール支配人に呼ばれた協力者達は、誰もが怒っていた。
「こういう陰湿なヤツが一番腹がたつんだよな」と、ブリッツ・アスカ(fa2321)。
「楽屋は役者にとって大事な場所なのに‥‥」と、エルヴィア(fa0095)。
「大事どころじゃない、神聖な場所よ!」と、鶴舞千早(fa3158)。
 誰もが鼻息荒く、この変質的な盗人がいかに許せないものであるか、拳を握りしめて銘々訴えた。
「面倒でしょうが、やはり人の出入りは入り口でチェックすべきでしょう」
 和山 繁人(fa2215)は言った。これまでの慣例ではあまりに不用心すぎる、幸い今日は人手ならあるのだ、受付を作り、そこで関係者以外をシャットアウトする、というのが彼らの総意だ。
「そして、中は中でこんな防犯装置を作ってみたわ」
 槇島色(fa0868)は市販の防犯ブザーを見せる。ピンの先に糸を付け、反対の端に試しにとタオルが付けてある。
「これを、こう引っ張ると‥‥」
 誰かが持ち出そうとするとピンが抜け、ブザーがなるという簡単な罠だ。
「しかし音が鳴っただけでは‥‥逃げられてしまいます。そこで、犯人をすぐに捕まえるために、ゆくるが‥‥隠れています」
 湯ノ花 ゆくる(fa0640)は重たそうに何かを運び込んできた。
「これは‥‥ロビーの自販機の横にあったゴミ箱じゃないのか?」
「‥‥正解です。3つもあったから、一つ‥‥‥拝借しました」
 呆れる支配人を尻目に、ゆくるはその中にもぞもぞ体を沈めていく。
「これで蓋を閉めれば‥‥ほら、全然分かりませんよ」
「うん、どこからどう見てもゴミ箱だ」
 褒められた、と受け取ったのか、ゆくるは満足そうだ。
「根田支配人、早速ですが予選日まで間がありません、関係者名簿を作りたいのですが?」
 大太郎(fa3144)にせかされ根田も、「そうだった」腰を上げた。
「その名簿の中に、私の名前も入れておいてね」
 そう、所所楽 杏(fa3156)は言う。
「沙希さんのお母さん、ということにでもしておいてくれるかしら?」

 劇団CWのメンバー4人がひじきホールに到着した。いよいよ今日は予選。もし、もしここで勝てば全国大会へ行き、そこで優勝でもすれば知名度は一挙に全国に‥‥。
「‥‥カカオちゃん、なにボーッとしてんのよ」
 メンバーのひとり、クリームに肩を叩かれて吃驚する。変な顔でもしてただろうか、クリームは笑っていた。
「あれ? なんか通路が混雑してるわね」
 同じくメンバーのビターが気が付いた。ここを通らなければ楽屋へいけないのだが、そこがやけに混んでいる。
「ああ、今回から関係者以外入れないようにしたって言ってたわね」
 4人目のメンバー、アマンドが言った。どうも自分たちCWは、噂に聞く変質者の格好のカモだというので、根田が防犯対策を施してくれたと聞いていた。
「お待たせしました。ご協力ありがとうございます」
 エルヴィアが忙しそうに応対している声が聞こえてきた。
 適当におしゃべりしているうちに受付の順番が回ってきた。
「えーと、劇団CW、4人だな? 他に当日スタッフを呼んでいたりとかは?」
「してないわ」
 ブリッツは名簿に印をいれつつ、人数分の通行証を渡す。
「所持品の管理に気をつけてください、物騒ですから」
 繁人は本当に心配になって、心から忠告した。
 なるほど、今日初めて会ったCWの4人は、根田の言うとおり可愛らしい。本当なら、変質者騒ぎのことなど知らせずに、そんな騒ぎがあったことすら知られずにしてやりたかったが、自分たちもまたCWの楽屋に入り込む以上、黙って行うわけにはいかない。そして次に彼らがしなければならないことは、CWを変質者の被害に遭わせないことだ。
「まさかとは思うけど‥‥」
 人のいなくなった受付テーブルで、ブリッツはぽつりと言う。
「なに?」
「まさか、劇場関係者が犯人、なんてことはないよな?」
「‥‥最悪を想定する、というのは大切だわ」
 否定も肯定もせず、エルヴィアは答えた。考えたくもない事態であるが、100%否定出来ない以上、彼らもまたむやみに楽屋に入れてはならない。
 いや、これが本来あるべき形なのだ。
 これまでが、無防備すぎたのだ。

「うーん、今回のあたし達のスペース、狭くない?」
 アマンドは充てられた部屋を見て、不満そうだった。大きな部屋を衝立で仕切っている、それはいつもと同じなのだが、やけに狭く感じられる。
「‥‥ていうか、なんでココにゴミ箱があるの?」
 などと、4人がゴミ箱を取り囲んだその時だ。
「お久しぶりでーす」
 ゴミ箱から声がし、蓋が持ち上がった。中から出てきたのは、ゆくる。
「何やってんのっ!?」
 そりゃ驚く。
「ごらんの通り‥‥、隠れて見張りです‥‥あ、それから、これ‥‥差し入れのホットケーキです♪」
 カカオにホットケーキを渡すとゆくるは、再びゴミ箱の中に戻った。
「くんくん‥‥あら、いい匂いがするわね」
 そう言いながら入ってきたのは杏。全員が揃った今のうちに皆の匂いを覚えておき、犯人という異臭を嗅ぎ分ける手がかりにしようと思って来たのだが、一緒に甘い匂いもする。おいしそうだ。
「ほほほ、初めまして、カカオの母です」
 という設定なのだ、軽く芝居っ気も込めて杏は自己紹介した。もちろんカカオ達もそのことは知っているので、ノリ良く「初めまして〜」なんて挨拶を返す。
 すると、壁に立てかけてある姿見がガタガタと揺れた。
「お母さん、困りますね」
 姿見の後ろから現れたのは大太郎。物陰に隠れてゆくると同じようにCWの楽屋を見張っていたのだ。そして彼らの役目は侵入者はたとえ身内であろうと追い出すこと。他の劇団の手前、身内だからと長居はご遠慮願いたい。杏の背中を押し、強引に外へ押し出すと、再び大太郎は鏡の向こうに消えた。
「えーと、大太郎さん、ずっとそこにいるの?」
「はい、不審者がないか見張ってます」
「‥‥あたし達、着替えたいんだけど‥‥」
「し、失礼しましたッ!」
 着替えるとなると当然、姿見を使う。まさかその後ろに男性がいる状態で着替えられるはずはない。しばし外で待って頂いて、CWは急いで着替えにかかった。
「ふう、ドキドキしてきた。お茶、お茶っと‥‥」
 徐々にメイクも出来上がってくると、緊張も高まってくる。乾いた喉を潤そうと、クリームは机の上に置いてあったペットボトルに手を伸ばした。
「あっ、それは‥‥」
 気付いたカカオが止めたときにはもう遅い。

 ビー、ビー! ビーー! ビーー!!

「何事だっ」
 廊下にいた大太郎が飛び込んでくる。
 自分が外に出ている間に、変質者が来てしまったか、なんて失態だ! ‥‥と、歯噛みしたのは空回り。大太郎が見たのは、おろおろする小娘達。楽屋へ入る前に色製の防犯装置の説明はしただろうに、もう忘れてしまったのか?
「うわあっ、そうだった!!」
 ボトルの底に付いてあった糸は防犯ブザーのピンを抜いていた。慌てたクリームは持っていたボトルを床に落としてしまう。中身がどんどんこぼれていく。
「ああ、なにやってんの、タオル、タオル持ってきて!」
 アマンドがタオルを引っ張ると、悲しいかな、そこにも糸が。
 ビー、ビー! ビーー! ビーー!!
「CW! うるさいぞっ!!」
 ついに隣の楽屋から苦情まで出る始末。舞台前だというのに、余計な体力を使ってしまった気がしてしまった。
「ちょ、ちょっと疲れた‥‥。あ、このメロンパン、誰の? 半分ちょうだい」
 ビターがそれを囓った瞬間。
 ゴミ箱が立ち上がり、カメラのフラッシュが!
「ふっふっふ‥‥。囮のメロンパンにまんまとひっかかりましたね! ‥‥犯行現場もばっちり撮りました」
 なんと、一連の劇場荒らし犯はビターだったのか!
「何で!!!」

 さて、結論から言うと。
 ついに劇場荒らしは現れなかった。
 厳重すぎたのだ。
 入り口で出入りする人間の身元をチェックされれば、無関係のものが入れようはずがない。さりとて外から入ろうにも、しじゅう誰かが見回りに歩いている。そうこうしているうちに楽屋は片付けられ、ゴミはさっさと処分され、CWは帰ってしまった。
 犯人は確かにCWに目を付け、狙っていたのだろうが、しかし女なら誰でもよかった犯人は、どうしてもCWの4人でなければというわけでもなかったのだ。これほど警戒されている中に突っ込んで捕まるようなことになっては厄介だ、とでも思ったのか、劇場荒らしはどこかよその劇場に狩り場を変えてしまった。
 根田の依頼どおり、コンクール予選はつつがなく終了した。劇場荒らしに対しての姿勢を知らしめたのだから、今後、同じ事件が起こることはないだろう。
 しかし、ひとつだけ残念なことがある。
 犯人が現れないまま、ずっと警備をしていたのだから、彼らは舞台を全く見られなかった。そしてCWは予選敗退。
 次の機会はいつになるやら。