迷子の仔猫ちゃんアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
江口梨奈
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芸能 |
フリー
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
2.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/22〜03/26
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●本文
小川氏の元で可愛い仔猫が生まれた。名前はベス。ペットプロダクション『ニアン』は、その仔猫を買い取った。それと同じ頃、ニアンでペットフード会社のCMの話が入った。さっそくベスの初仕事にしてやろう、と、ニアン社長の丸山は楽しみにしていた。だが、ベスの世話をしているニアン専属ブリーダーから、とんでもない報告が入ったのだ。
「ベスちゃんがいなくなりました!!」
なんてことを! このブリーダーは猫獣人で、ベスの言葉も理解できるから安心して任せていたというのに!
「おまえの世話の仕方に不満があったんじゃないか? 一緒に暮らしている他の動物と折り合いが悪かったのか?」
「いえ、ただ‥‥小川さんを恋しがっていたようです」
丸山は慌てて、小川氏に電話をかけた。もしかしたら、ベスがそっちへ帰ってはしまいかと。
返事はノー。
「まだちっちゃい子でしたからね。でも、こっちへ来たら、そちらへ戻るように叱っておきますよ」
と小川は言った。
けれど、2日たっても、3日たってもベスの行方はしれない。
帰ろうとして、どこかで迷子になっているのではないか!?
ニアンと小川家は、人間の足なら遠くはないが、仔猫にとってはどうだろう? ざっと見回しても、危ない箇所がいくつもあるのだ。
まず、交通量の多い交差点。昼間はひっきりなしに車が通っている。
川沿いの道を通る必要もある。ガードレールなんて、仔猫には無意味だろう。
そして野良犬のたまり場になっている空き地。常に数匹がうろうろしている。
危ない場所ではないが、小学校もある。子供というのは動物好きだ、仔猫を連れかえっているかもしれない。
「ベスが心配だ、みんなで手分けして捜そう」
●リプレイ本文
駅前で『DreamGarden』の二人‥‥小桧山・秋怜(fa0371)とリュティス(fa1518)によるミニライブが開催中だ。
「僕たちはいま、仔猫を捜しています」
だが、通行人達は遠巻きに眺めてはいるが、二人のそばに積み上げられているビラをわざわざ持って帰ろうとはしてくれない。
「お願いします、迷子のベスちゃんを捜して下さい」
歌の合間にビラの手渡しを試みるリュティス。せっかく受け取ったビラも、無造作にポケットにしまわれてしまう。
「もっと目立つように、がんばろう、リュティス」
それでも二人はめげずに、次の曲にとりかかった。
さて、こちらは捜索本部。という名のニアン事務所。
「ボスはアタシ、大豪院よ」
電話のある机に座り、大豪院 さらら(fa3020)は宣言した。
「秋怜さんとリュティスさんは駅前、シャミー(fa0858)さんと織石 フルア(fa2683)さんは川方面‥‥」
それから神代タテハ(fa1704)と新月ルイ(fa1769)が小学校に、残った大太郎(fa3144)は空き地を捜す‥‥と、さららは全員の予定をもう一度確認した。
「それではアタシは行政の力を借りて捜索することにしましょう」
さららは受話器をとると、どこかに電話をした。
「‥‥あ、もしもし。保健所ですか? 新種のインフルエンザに感染した猫が逃げ出し」
「わーーー!!!!」
慌てて丸山社長が受話器をふんだくり、電話を切った。
「大問題に発展させるなー!」
「あら、いい案だと思ったのですが」
無茶をするボスである。
「というわけで、我々の力だけで捜すことになりました。皆は早速所定の場所に移動なさい」
「はぁ〜い。がんばるわよ、ボス☆」
はりきるボスの命令に、ルイは大げさな敬礼で応える。
「それじゃ、行ってきます」
銘々、連絡先を刷ったビラを持って事務所を出て行った。
大太郎が来ているのは、野良犬が住み着いているという空き地。空き地と言っても鉄骨や車の残骸といった廃棄物が転がっており、なるほど、野良犬が雨風をしのぐには丁度良い場所かもしれない。
「大きな音を出さないようにしてくださいね」
一緒に来たニアンの社員に、そう言い聞かす。それから大太郎は、ゴミ山から離れた場所に紙を敷き、そこに持ってきた犬の餌を置いた。しばらく待つと、うなり声を上げながら犬が数匹、姿を見せた。
「向こうに」
そっと離れ、大回りで今度は犬のいなくなったゴミ山へ向かう。
「ベスを呼んでください」
猫語の分かる社員は、ベスの名を呼ぶ。だが、返事はない。ここにはいないのだろうか?
「もし見つかったら」
捜しながら、大太郎は社員に尋ねる。
「もし見つかったら、やはりニアンに帰すんですか?」
「もちろんですよ」
「ですが、ベスにとっての幸せってなんでしょうね? ‥‥社長に、ベスの気持ちも汲んでほしいって、あなたからも言って貰えませんか」
ベスは小川の元へ帰りたいのか、それとも一度でも顔を見ればそれで満足なのか。
とにかく、ベス本人にそれは聞いてみたい。犬の様子を伺いながら、大太郎は探し続けた。
だが、ベスはいない。
「何かヒントの一つも見つかるかと思ったんですが‥‥」
犬の言葉がわかれば、もう少しいろいろ聞けだしたかもしれなかったが。
他の皆は、どうだろうか?
川である。河川敷公園なんて呑気なものはない、ただの川と土手である。ガードレールで入れないようにはなっているが、下に隙間の空いているそれは、仔猫には意味のないものだ。
土手に向かってフルアは、ヘッドホンステレオの再生ボタンを押した。
『ベス、ベス。どこにいるの?』
録音されていたのは小川の声だ。ベスを捜す声を入れて貰った。
「おーい、ベス。かにカマボコだぞー。おまえの大好きなかにカマボコ」
声の次は食べ物作戦。ベスの好物もフルアは調査済み。
「ベスちゃ〜ん。小川さんも心配してるよ。帰ってきて〜」
シャミーも土手を歩きながら呼ぶ。だが、返事はない。
「草むらの中で昼寝していて、聞こえないなんてことは‥‥」
と、シャミーは土手を下りてみた。
「‥‥きゃあッ」
ずるずるっと足を滑らした。
「あ〜あ‥‥」
フルアの助ける間もなく、シャミーは川へ落ちてしまった。
浅い川なので怪我はないが、まだ水は冷たい。
「お嬢ちゃん、大丈夫か?」
そこへ、犬の散歩をさせていた男性が声をかけた。運良くタオルを持っていたので、それを貸してもらえた。
「ありがとうございました」
「いやいや。しかし前の仔猫といい、よく落ちるなあ」
今、何と言った?
「『仔猫』って言ったか?」
「おお。一昨日だったかな? 川で仔猫が流されていてな。助けたんだが、暴れて、ほれ」
引っかかれた手の甲を見せてくれる。
「その猫はどこへ?」
「ピューって、あっちの方へ逃げたよ。ありゃ、パニックになってたな」
指さしたのは、車通りの多い交差点の方だった。
一方こちらは、小川邸までの道の途中にある小学校。学校は春休みだが、離任式だか入学式の準備だかで、子ども達は登校していた。
「終わるのは何時頃かしら?」
フェンスにしがみついて、中の様子を伺うルイ。
「ルイさん、今のご時世、あまりそんなことは‥‥」
オカマと小娘。これだけで目立ってしまう組み合わせなのに、それが学校を覗いているとなれば通報されてしまいかねない。
「そういう場合はねタテちゃん。こそこそするから逆に怪しいのよ。正々堂々、正門で待ちましょう☆」
二人は正門に回り、そこで下校時間を待った。待っている間も通行人に猫のことを聞く。
そうこうしているうちに、待ちに待った児童が校舎から溢れてきた。
「みんな、ちょっといいかな?」
タテハが呼び止めて、ルイがビラを見せる。
「こんな仔猫を捜してるんだ。名前はベス。知らない?」
子供というのは好奇心が旺盛で、ちょっとでも人が集まっているとそこに我も我もと集まってくるものだ。おかげで、一人呼び止めただけで数十人を足止めすることができた。一人にビラを渡すと、皆も欲しがる。あっという間に全員の手にビラが行き渡った。
と、ある女子が声を上げた。
「あれ? この猫、チヨちゃんが拾った猫に似てる」
「チヨちゃん?」
「うん。一昨日かな、車に跳ねられた猫を拾ったって。可哀想だから家で治してあげるって言ってた」
「その、チヨちゃん家に案内して!!」
ついにベスが見つかった。
「緊急連絡! 全員、○○町の梶原千代美ちゃん宅へ集合」
さららボスから他の5人の携帯電話に連絡が入る。
仲間がベスの元へ駆けつけたとき、そこでは別れの場面が繰り広げられていた。
「うわーん。ミーコちゃん、ミーコちゃぁん」
「ごめんね、この子はちゃんと飼い主がいるんだよ」
「イヤだイヤだ。ミーコはあたしのだー!」
「チヨちゃん、わがまま言わないの。オジさん、困ってるでしょ」
「あたしは女ですわよん、奥さん」
拾われたベスは可哀想に、両の後ろ足に包帯が巻かれていた。しかし骨折だけでそれ以外は元気だという。
(「ベスちゃん。チヨちゃんにお礼を言ってくれるかな?」)
シャミーはこっそり、ベスに耳打ちした。するとベスは泣いているチヨの頬を、そのザラザラした舌で2回舐め、大きく「ニャー」と鳴いた。
「こいつはこれからモデルとして頑張るんだ、応援してやってくれよな」
フルアがそう言うと、ようやく納得したのかチヨは黙って頷いた。
さて、このままベスはニアンに戻るのか?
大太郎は聞いた。強引にニアンに連れ帰っては、また同じことが起こりかねない。
「一度、小川さんに会わせて、心の整理をさせましょうよ」
ルイの案には皆が同意した。それでこの足で、小川邸に寄っていこうということになった。
「というわけで、ボス。そちらに戻るのはもう少し時間がかかるのでよろしく」
『了解。ところで、秋怜さんとリュティスさんはどうしたの?』
その頃、駅前では。
9回目の『部屋と猫と私』が歌われようとしていたのだった。