結婚おめでとう!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 江口梨奈
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/29〜04/03

●本文

 菜種梅雨、なんて呼ばれる時期も過ぎ、うららかな陽射しが注ぐようになってきた。
 横山はそんな窓の外を、目を細めて眺めていた。
 広い森と庭園が特徴的な結婚式場『チェリーブロッサム』。横山はここの社員だ。昔、アナウンサーをしていた経験もあって司会役などを任されている。
 横山はこの式場の結婚式プランの一つである、ガーデンパーティーが好きだ。自慢するようだが、チェリーブロッサムほど立派な森と庭を備えている式場などないだろう。だが、ガーデンパーティー形式の披露宴を行う式場は増えてきた、森が立派というだけではセールスポイントとしては弱い。新しい企画がないか、と社員達は常に頭を悩ませていた。
 ふと、横山の頭にアイデアが浮かんだ。
 森の動物たちがお祝いに駆けつける‥‥なんてのはどうだろう?
 企画会議で提案してみた。
「いい案だが、安っぽい着ぐるみなんかじゃ、逆効果だぞ」
「昔の仕事の関係で、ぬいぐるみ劇団を知ってます、そこなら本格的ですよ」
 と、横山は言った。
 ぬいぐるみ劇団、なんてのは一般に向けての建前、本当は獣人達の集まりで、そのリアルさは今更説明の必要はない。
「そんな劇団があるのか、それは好都合」
 上司は乗り気になった。
「試験的に、やってみたいな」
「でしたら、私の担当しているカップルが‥‥」
 別の社員が言った。彼女の担当しているのは幼稚園の保育士同士の結婚式で、披露宴の途中、園児達が20人ほど、花束を持って顔を出すことになっている。新婦は、せっかく教え子がくるんだから、子ども達にも思い出になる式にしたいと言っていた。
 そこでこの二人に、新企画の協力を申し出た。ありがいことに快諾してくれた。

 新郎・織田克彦と新婦・田中鞠子の新しい門出に、森の動物たちはどんなお祝いをしてくれるのか‥‥?

●今回の参加者

 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa0964 Laura(18歳・♀・小鳥)
 fa1126 MIDOH(21歳・♀・小鳥)
 fa1257 田中 雪舟(40歳・♂・猫)
 fa1609 七瀬・瀬名(18歳・♀・猫)
 fa2174 縞榮(34歳・♂・リス)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa3294 (10歳・♀・ハムスター)

●リプレイ本文

 『チェリーブロッサム』の社員達は驚いていた。横山の紹介で雇った『森の動物たち』が、本当に生きて動いている動物のようだったからだ。
「それで、お色直しが3回、余興は各人5分から10分ぐらいで‥‥」
 それでもやはり中に入っているのは人間に間違いない。片手に進行表を持って、言葉を喋りながらそれぞれの出番について打ち合わせを行っている。
 チェリーブロッサムの自慢の庭園は、4月に入ってますます緑が濃くなった。進行表片手とはいえ、動物たちがその中をあっちこっち動いている。ああ、のどかな光景だな、と横山と彼の上司は満足そうにそれを眺めていた。

 礼服を着た招待客が会場に案内された。春の陽射しが梢から差し込み、テーブルには真っ白なクロスがかけられている清々しい会場だ。招待客達は皆一様に「ほう」と感嘆の声を上げた。
 彼らを出迎えたのはLaura(fa0964)とMIDOH(fa1126)、2羽のエナガだった。縞榮(fa2174)の奏でるピアノに合わせて、今日のために作った歌を歌っている。
「まあ、リスのピアノに小鳥のコーラス隊? 凝った演出ね」
 なんてほほえましいのだろう、というふうに、視線が向けられた。
(「うん、特訓の成果が十分に出ているな」)
 その後ろで満足そうに頷いているのは、タンバリン担当の田中 雪舟(fa1257)。今日のために、血の滲むような特訓を繰り返したらしい。
 披露宴の始めはゆっくりと柔らかいもの、半ばでは楽しく軽やかなもの、終盤では優しく包み込むようなもの‥‥単に自己主張するだけの歌ではなく、宴をより盛り上げる進行をすることも大事だと、徹底して曲順も研究を重ねた。
 辛く苦しい時間だった。けれど、こうして披露宴が無事スタートを切れたことで報われた。あとはこの調子で、失敗することなく最後まで勤め上げなければ。
 客が揃い、給仕が全員に乾杯用のグラスを行き渡らせると、歌を止めるように指示が来た。
 いよいよ、新郎新婦が入ってくる。

「まだぁ? カツヒコ先生はどこぉ?」
「およめさんのマリコ先生、早く見たいよ」
 花束贈呈のために集まった園児達。けれど、出番は披露宴の後半、すっかり退屈してむずがってしまっている。
「退屈している場合じゃないぞ、お花渡す練習しとかないとな」
 森のくまさん、ティタネス(fa3251)はいち早く子ども達に募るだろう不満を察知し、こうして合間に控え室を覗きに来たのだ。
「ほら、余った花貰ってきたから、これで練習だ。最初のおよめさん役は‥‥」
 しかし、そうして遊んでやっているのは、子供には喜ばれるが従業員には咎められる。
「ティタネスさん、どうぞ会場の方へ行って下さい。あっちを盛り上げて頂かないと」
 ティタネスの親切心はありがたいが、彼女の本来の仕事は披露宴を演出することで、そのために呼んでいるのだ。子守なぞ、チェリーブロッサムの従業員と幼稚園の引率員に任せておけばいい。
「‥‥さて、追い出されてしまったし、会場に戻るか」
 頭を掻きながらティタネスは、再びガーデンパーティー会場へ行った。

 ティタネスが戻ったとき、ちょうど新郎新婦も高砂に着いたところだった。
 披露宴は結婚式も兼ねている。このカップルは人前結婚式、というスタイルを選んでおり、皆の前で婚姻届に署名をしてから乾杯に移るのだ。
 署名を終えた二人の前にシルクハット姿のハムスター、葵(fa3294)が近付いた。
「見てみてみんなー、この帽子、タネも仕掛けも無いんだよー」
 ハムスターはかぶっていた帽子をくるりとひっくり返し、内側を見せる。
「でもね、あら不思議。ここにひらひらのスカーフを入れると、ほら、卵に早変わり」
 よくある手品だが、これがハムスターがちょこちょこやっていると、格段に滑稽だ。
「この卵を割ると‥‥中から指輪が出てきましたー。それでは指輪の交換ですー」
 なるほど、そういう仕掛けか! 客達から拍手が起こった。
 新郎新婦は指輪を取り交わし、誓いのキスをして、めでたくここに夫婦として皆に認められたのだ。

「結婚式。披露宴。お目出度いわね。あたしにもお目出度いこと、あるのよ」
「ほ〜、何があったんや?」
「こうして披露宴に出て、鯛の刺身食べられて、鮃のムニエル食べられて、鮪のカルパッチョ食べられて‥‥」
「アンタは魚が食べられたら目出度いんか!」
「だってあたしは可愛い猫ちゃんだから」
「自分で言いなや」
 披露宴は中盤になり、余興が始まっていた。森の動物たちからもステージに上がるものがいた。大道寺イザベラ(fa0330)と七瀬・瀬名(fa1609)が持ち出したネタは、なんと兎と猫の動物漫才であった。か弱いにゃんこと、鞭を振り回す関西弁の兎というちぐはぐな外見も相まって、客達からは始終笑い声が聞こえた。
「もぉ、すぐそうやって鞭振る‥‥あ痛ッ」
「何言うてんねん。ヨメはこうやってダンナの尻に鞭せなアカンねんよ」
「ダメダメ。新婚のうちはネコ被って、こうして可愛いポーズ取っておかないと」
「うわっ、そのポーズ、ちょっとええ感じちゃう?」
「ちょっと? じゃあ、もっといいの教えてあげる‥‥最高のダンスだよ!」
 瀬名がそう言うと、待ってましたと榮が鍵盤を叩いた。元気な4拍子。それに合わせて他の動物たちも一緒に踊り出す。

 ♪HAPPY・HAPPY! 楽しく過ごそう
 ♪右手を挙げて、エルボー・エルボー
 ♪右の膝、左の膝、キック・キック!

 MIDOHとLauraの歌詞に合わせて、動物たちは踊り出す。楽しい歌に、皆から自然に手拍子が溢れた。体を左右に揺らすものもいる。
 誰にでも真似できそうな、簡単な振り付けだ。
「さあ、皆さんもご一緒に!」

 ♪HAPPY・HAPPY! 楽しく過ごそう
 ♪左手を挙げて、エルボー・エルボー
 ♪右の膝、左の膝、キック・キック!

「ハッピー、ハッピー、たのしくうたって」
 と、二人の歌に重なるように、子ども達の歌声が聞こえてきた。

 子ども達の出番だ。
 予め教わっていたダンスを踊り、歌を歌い、先生達の結婚を祝うために駆けつけた園児達が、ティタネスを先頭に、ひよこの行列のように出てきたのだ。

「せんせい、けっこん、おめでとう!!」
 そうして代表の子から、新郎と新婦に花束が渡された。予定されていたと知っていることなのに、鞠子の目からは感激の涙がぼろぼろこぼれている。
「鞠子さん、泣いちゃダメですよー」
 葵はまたシルクハットをひっくり返し、そこからハンカチを出して鞠子に渡す。
「今度はお二人から、ご両親に花束を渡さないと」
 すると今度はシルクハットから花束が現れた。まるでこの森の動物は魔法使いであるかのように。
 Lauraの歌が静かに流れる。

 ♪この出発の日は二人にとって大切な日
 ♪この素晴らしき瞬間を過ごせたことを
 ♪忘れないように 大切にアルバムにしよう

 新たな人生を歩み始める二人を祝福する歌を背に、披露宴はいよいよピーク。最後の花束贈呈は宴を綺麗に締めくくり、結婚式は無事に終了した。

「いやあ、なんとも感動的でしたね」
 披露宴も終わり、雪舟はネクタイを弛めながら言った。自分自身、披露宴というものをあげたことがなく、この仕事に興味津々であった。その結果はこのとおり。恥ずかしながら目頭が熱くなってしまった。
 一服終えた頃、控え室に横山が、今日の給料を持って入ってきた。
「どうも、今日はみんなお疲れさま。おかげで好評だったよ」
 試験的な試みだった、そしていい反応が得られた。チェリーブロッサムはこの企画を、これから定着させていこう、と張り切っている。
「もし、次に同じ企画があったら、また来てくれるか?」
「こんなネコ耳オジさんでよければ」
「う‥‥。ぜ、ぜひ‥‥」