あめあめふれふれアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
江口梨奈
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
10.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/24〜05/30
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●本文
ここはとある商店街。
の、商工会議所。
月に1度ある、商店主たちの会議が今日も開かれていた。
「ゴールデンウィークまではいいんだけど、終わると、どうも活気が、ね」
「そうそう。暑くなってくるし、雨も多くなるしな」
「なにかこう、パーッと盛り上がること、ないかねえ」
大型ショッピングモールに客の流れを持って行かれても尚、この商店街はなんとか生き残っている。しかしこのまま現状に甘えてはいられない、積極的に活性化を図らなければ。
「なんでもいいから、『お祭り』にすればいいんだよ」
「5月から6月にまつわるもの? 何があるっけ。母の日、プール開き、立夏、梅雨入り‥‥」
「あ、それだ」
会長がぽんと手を打った。
「去年、空梅雨だっただろ? だから雨乞いするんだよ」
「雨乞いって、祈祷師みたいなのが火の周りであれこれやるやつか? 確かに、見た目には派手だよな」
「火、使うの? 大丈夫なの?」
「中央広場でしよう。あそこなら周りに家もないし、人も集められる」
「場所はいいけど、肝心の祈祷師は? そんな派手なパフォーマンスが出来る人、なんてな」
素人が奇抜な格好をして踊っても見苦しいだけだ。ある程度芝居っ気があり、観客に効果的に見せる手法を知っている人がいい。少なくとも、ここに集まっている商店主たちでないことだけは確かだ。
「高橋さん」
楽器店の店長が呼ばれた。
「おたくの店、役者やら歌手やら来るんでしょ?」
確かに、この楽器店の地下スタジオを目当てに若い芸能人が来ることも少なくない。
「誰か数人、手伝ってもらうってこと、できないかい?」
「そうですね。声をかけてみましょう」
「よし、決まった。じゃあ『雨乞い祭り』ということで。出店も出すか。おたくは軽食、おたくはくじ引き、おたくはヨーヨーすくい、おたくは‥‥」
こうして『雨乞い祭り』計画はスタートした。
雨は降っても降らなくてもいい、単なるお祭りなのだから。寧ろ降られては祭りが中止になるのだし。
さあ、祭りで大いに盛り上がり、商店街を賑やかにしよう!
●リプレイ本文
商店街は恵みの雨を期待してか、お祭り騒ぎを楽しみにしてか、はたまは便乗したバーゲンセールが目当てか、ともあれなかなかの盛況ぶりだった。
午後0時の時報と共に、商工会議所から、神主のような厳かな衣装に身を包んだ雪野 孝(fa3196)が姿を見せた。後ろには風間由姫(fa2057)と冬織(fa2993)、EUREKA(fa3661)とそれにニコラ・リリェフォシュ(fa3724)の4人が、それぞれ商店街が用意した巫女装束でしずしずと付いて歩く。彼らは、今日のメインイベント、雨乞いのための祈祷師役なのである。
会議所をスタート地点に、中央広場までのしばらくの道のりを行列が進む。通路の両脇には露店が並び、たこ焼きや綿アメなどが売られている。さっきまで綿アメに夢中だった子ども達も、この珍しい格好の行列に思わず目を奪われていた。
「まもなく中央広場にてメインイベントが始まります。みなさまぜひぜひ、お誘い合わせの上お集まりくださいませ♪」
一足先に通路に出て案内をしているChizuru(fa1737)は姿を亀に変えていた。さながら竜宮城の使者といったところか。水の祭りになかなかぴったりではないか。
中央広場では行列の到着まで、小桧山・秋怜(fa0371)とリュティス(fa1518)のポップスユニット、『DreamGarden』がミニライブを開いて会場を盛り上げていた。
「‥‥さあ、そろそろ祈祷師の皆さんが到着しました。拍手で出迎えて下さい」
リュティスがそう言って手を叩くと、客もそれにあわせて大拍手で行列を歓迎した。すでにステージの体温は上がっている。
(「ははっ、ええムードになってはるなあ」)
孝はつられて思わず表情がほころびそうになるのを、ぐっと堪えてしかつめらしい顔をなんとか作る。
商店街活性イベント、集まった客が楽しめれば楽しめられるほど成功なのだと孝は分かっているし、そんな楽しみ方は大好きだ。しかし、本来なら雨乞いというのは厳粛な神事。最初だけはそれらしく形式に則った方が引き締まるというものだ。
そんな孝たちの苦労を知ってか知らずか、観客は凛々しい姿の彼らにカメラを向ける。
「やはりこの格好は、珍しいのぢゃろうな」
襟を直しながら、冬織は言った。一人二人ならまだしも、正月でもないのに七人の巫女集団。普段にも和服に慣れている冬織だが、巫女装束はまた意味が違う。
「これって、あれだよね。『萌えー』ってやつだよね?」
ニコラが言う。
「そうか、これが『萌え』か」
「冬織さんも気をつけて下さいね。こういう場合には、お騒がせ的なカメラマンの方がいたりしますからね」
由姫はそっと耳打ちした。
なるほど、例えばモーターショーなどでは車よりも案内嬢ばかり撮影する輩もいるという、そんな彼らがここにも全くいないわけではなかった。
「はあい、それではこれより始まりますので、どうぞ皆様お静かに。ご協力お願いいたします」
Chizuruが境界線からはみ出しそうになるカメラ小僧を甲羅で威圧し、後ろに下がらせる。そうしてざわめきが落ち着いたのをみはからって、孝は軽く咳払いをした。
「今日の儀式に皆様お集まり頂き、ありがとうございます‥‥」
挨拶をしている間に、助手巫女たちはいそいそと、松明を用意する。広場の中央には櫓が組まれており、そこで大きく火を焚くのだ。
「それでは、櫓に最初の火を入れるのは‥‥商会長さん、お願いします」
松明を渡され、商会長は緊張しながらもなんとかそれを櫓の中へ押し込んだ。
予め用意していた新聞紙や小枝にうまく燃え移り、櫓は真っ黒な煙を空へ噴き上げて、ごうごうと焼ける。
「‥‥熱い」
まだ初夏とはいえ、こんな真横で火を焚かれて熱くないわけがない。ましてや重たい巫女姿。あっという間にEUREKAの額にも玉のような汗が滲むが、しかし我慢、我慢である。
「たにやた、うたかだいばな‥‥」
孝は火の真正面に立ち、模造刀を掲げ、どこで教わったのか雨を呼ぶための真言を奉じ始めた。
「たにやた、うたかだいばな、えんけいえんけい」
(「たにたや、うただかいなば‥‥えーと、なんだって?」)
(「たにやた、ですよ」)
孝の詞に合わせてあとから付いていこうとする秋怜だが、慣れない言葉にうっかり舌を噛んでしまいそうになる。
(「祈祷の演技だと思うから上手くいかないんですよ。いつもみたいに、歌を歌っていると思って合わせてみましょう」)
リュティスがそうアドバイスをしてくれるので、それを信じてもう一度祝詞を繰り返す。
「えーと、えんけいえんけい、そわか」
「上手ですよ。えんけいえんけい、そわか」
しばらく、祈祷師たちによる儀式が続いた。さっきまで物珍しさにざわついていた客達も、今はしんと静まりかえり、長く続く詞に耳を傾けていた。
すべての祝詞が終わった。
と、今度は笛の音が流れてきた。続いて琴の音も。
そして音に合わせて冬織が両手に刀を持って舞いをはじめたのだ。
さっきまでの静寂とはうって変わってた華々しさ。銘々が、雨にちなんだ歌を歌い、踊り、雨を呼ぶ。
「雨祭りなので、雨をイメージした曲をよういしてきました! 皆さん、満喫してますかー!!」
「おおーーっ!!」
「さあ、もっと歌って歌って! そしたら、ほら、アメが降ってくるよ〜!」
ニコラがステッキで宙をさすと、今度は飴玉が現れて、手拍子鳴りやまぬ観客の山に向かってぱらぱらと投げ渡す。
「このあとまだまだライブは続きます。『DreamGarden』に続いて『Argent』! 手拍子はそのまま、一緒に歌ってね!」
日曜日の晴天の下で行われた雨乞い祭りは、商店街が望んだとおり賑々しく終了した。老若男女だれからも好評だったと聞き、そして実際バーゲンセールも成功した。ライブのCDを売っていたとも聞くが、どうやらそれもそこそこ売れたらしい。
天気予報はしばらく晴れ、梅雨入りの兆しか、来週に数日の雨。平年通りである。
雨乞い祭りが終わり、露店は畳まれ、燃えかすの残った櫓は早々に撤去された。借りてきた巫女服も脱ぎ、元の場所に戻された。
お疲れさま、と言い合って、皆が帰る。
Chizuruはこっそり、商工会議所の裏口に回った。
そこにぶら下がっていたのは、てるてる坊主がひとつ。
「はい、お疲れさま。今日は晴れにしてくれて、ありがとうね」
今日の成功の影には、こんな小さな秘密もあったのである。