ささのはさらさらアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 江口梨奈
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや易
報酬 3.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/28〜07/04

●本文

 ここはとある商店街。
 の、商工会議所。
 月に1度ある、商店主たちの会議が今日も開かれていた。
「7月かあ。7月にちなんだイベントって、何があるかな」
 これから夏にむけて商店街は厳しい状況を強いられる。中元だ夏休み行楽だといった大きな商材は、どうしたって近所の大型デパートの方が強い。真っ向から勝負して敵うわけがない。だから、違う方向からの魅力を提示していかなければ。
「7月っていうと、七夕、海の日、えーと、他に」
「半夏生ってのもあるぞ」
「なんだそれ」
「24日は河童忌、だって」
「『忌』はイメージがなあ」
 そんな、なんだか分からないものまでそれらしく理由を付けてセールに結びつけられないか、と頭を悩ませる商店主達。
「ま、七夕が一番分かりやすくていいんじゃないか」
 ということでやっぱり落ち着いた。
 しかし、話はこれからである。
 七夕にちなんで笹飾りを作ったり、そうめんを食べたり、織姫彦星がどうだこうだとするのは、やっぱりライバルデパートと同じことだ。商店街ならでは、のイベントが何か無いか。
「‥‥あのさ、去年に商店街に飾ったでっかい笹、あるよな?」
「ああ」
 自然物では枯れるので、毎年使えるように、プラスチック製の大きな笹を数本作っていた。
「今年はそこに、短冊じゃなくて割引券をぶら下げる、ってのはどうだ?」
「ま、悪くはないわな。でももう一捻り、欲しいな」
「じゃ、それを持って逃げる」
「誰が!」
 ただのボケ話だと思ってツッコんだが、どうやら発案者は本気のようだ。
「いや、だから笹を持って走って逃げるんだよ。お客さんはそれを追いかけて、割引券を奪いとる。『短冊争奪戦』だ!」
 そこまで聞いて商店主たちは、「ほう」と感嘆する。
「でもいくらアーケード内っていっても暑いぞ。それに中央広場だとモロに直射日光だ」
「でしたらランクを5つぐらいに分けましょう。レベル1は粗品プレゼントで数もたくさん作って。2で500円ぐらいの買い物券、5だと8割引限定2枚とか」
「それなら、少々派手に逃げ回ってくれてもいいし、な」
「よし、決まった。じゃあ『短冊争奪戦』ということで」
 こうして『短冊争奪戦』計画はスタートした。
 短冊を持つ者は本気で逃げ回って欲しい。しかし、サービス精神も忘れずに。粗品券や100円券などはどんどん奪われてくれて構わない。老若男女だれでも楽しめなければ意味がないのだ。
 さあ、祭りで大いに盛り上がり、商店街を賑やかにしよう!

●今回の参加者

 fa0115 縞りす(12歳・♀・リス)
 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2870 UN(36歳・♂・竜)
 fa3144 大太郎(25歳・♂・牛)
 fa3196 雪野 孝(48歳・♂・猿)
 fa3755 青山 まどか(17歳・♀・狐)
 fa3871 上野公八(23歳・♂・犬)

●リプレイ本文

 さてさて七夕とは7月7日の夜に祝うものではなかったのか? 今日はまだちと早い、それに青空に天の川は見られない。首をかしげるのは異国生まれの篠田裕貴(fa0441)。
「商売戦略だ」
 事も無げにUN(fa2870)は言う。暦に行事を合わせるのではなく、行事に暦を無理矢理こじつけるのが商売というものだ。
「何でもいいんでぃす、楽しければ☆」
 鼻歌を歌いながら縞りす(fa0115)は短冊ならぬ割引券を笹に飾り付けている。
「たくさん取られていい、って言ってたでぃすしぃ」
 りすの笹飾りにはカラフルな割引券が鈴なりになっていた。
「これ、他の飾りをつけてもええんやろか?」
 同じくたっぷり割引券を飾っている雪野 孝(fa3196)が商会長に尋ねた。
「星とか切り紙とか?」
「ま、それもあるけど、飴玉や駄菓子なんか、小袋に入れて吊したら、子供が喜ぶンちゃいますか?」
「グッドアイデアだよ、タカさん」
 商会長がぜひやれとゴーサインを出す。おかげで孝の笹は他のよりもずっと重たく、しなることとなった。
「孝さんがそれなら、こっちは‥‥」
 と、あずさ&お兄さん(fa2132)は用意された短冊束をドサッと机の上に乗せた。
「何が貰える券なんですか?」
 上野公八(fa3871)がその膨大な量に興味を持つ。
「ここで問題です。これから私たちは笹を担いで、追いかけて商店街じゅう走り回ります」
「走るのは大好きだー」
「そう、楽しく追いかけっこ。でも外は太陽ギラギラ。汗もダラダラ。そこで欲しくなるものは、ハイッ、公八さん、何でしょう!」
「冷たい飲み物!」
「大正解ー!」
 あずさの用意したのは『ドリンク引換券』。協力は馬井食堂。
 しかし、安い券ばかりが飾られているような印象だ。特賞となるものも用意しておかなければ。
「それは私の笹に」
 大太郎(fa3144)はそう言うと、飾り終えた自分の笹飾りを見せた。8割引券、食べ歩き無料券、1万円相当福袋券、アイドル生写真(?)‥‥なるほど、なかなか豪華商品が勢揃い、これは追いかけ甲斐もあろうというもの。
「こちら『ハートブレイク1』、これより商店街に出動する!」
 トランシーバーに向かっていよいよ作戦開始の宣言をする青山 まどか(fa3755)。
「誰と通信してるんだ?」
「10時00分、作戦開始!」
 聞いていない。まどかはそのまま、商工会議所の入り口から、鉄砲玉のようにアーケードの中へと突っ込んでいく。
「俺たちも行こう!」
 裕貴も負けてたまるかと、既に人の集まりつつある商店街へ。
「わーい、走るぞぉ!」
「逃げて逃げて逃げるでぃす☆」
 そうして全員が、鬼ごっこの鬼だらけの商店街に飛び出していった‥‥いや、ただ1人を除いて。
「あれ? たろさん、あんたは行かないのか?」
「私はここで隠れている作戦ですよ、居場所を書いた暗号地図を代わりに配って‥‥」
 と言い終わる間もなく、大太郎もまた外へ放り出されてしまった。
 炎天下を逃げ回る役だからこそ、健康な彼ら若人を呼んだのだ。隠れているだけなら商工会のご隠居にやらせればいい。
「わ、私、そんなに走るつもりでは‥‥」
「大丈夫ッ、疲れたアナタに『ドリンク券』。がんばって奪ってね〜」
 あずさが笹を、ひらひらと振った。

 公八は走る。走る。どんどん走る。
「足の速いやつはこっちだー!!」
 走りながらも笹を振り回す。ちらりと見える短冊は、『2千円買物券』『発泡酒1ケース』『御食事券』、などなど。そして担いで走っているのはヤサ男。あっちの、サッカーボールを蹴りながら走っている余裕綽々の男よりも、よっぽど奪いやすかろうと、足自慢の連中が公八を追いかける。
「おっと、取られました〜。100円券、おめでとー」
「ちっくしょー、もっとイイやつ、よこせー!」
 鬼が伸ばす腕は間一髪届かない。公八はすばしっこく、あっちこっち逃げ回る。
「まるで犬みたいなヤツだ」
 犬だから。

 そしてこちらは、余裕綽々サッカーボールの男、裕貴。とはいえ、笹を持ってバランスの悪い状態でのドリブルだ、フィールドの中のようには走れない。もたついている所をチャンスとばかりに、女の子達が寄ってきた。
「っと、っと、っと。ほいっ、はいっ」
 裕貴はボールを蹴っていた向きを女の子の方に変え、爪先で捉えていたそれを膝の上に乗せて見せた。器用に両膝へ、胸へと弾ませる。素人にしてはなかなかの腕前、いや足前だ。
「すっごォい!」
 女の子は感心して、その足技に見とれている。その隙をついてボールは再び地面の上に。そしてそこに爪先を当てて。
「じゃあね〜」
「‥‥‥‥逃げられたーー!!!」

「ふふふ、逃げられまい。挟み撃ちだ!」
 さて、困ったな、とUNは頭を掻く。
 身長を武器に、高く掲げ持った状態で逃げていた。敵も然る者、男子高生グループが肩車をしあい、UNを取り囲むように迫ってきたのだ。はっきり言って、そんな重さでヨロヨロの追っ手から逃げるのは簡単だ。だが少年達が知恵をしぼり編み出した技を讃えて褒美としてやってもいいのではないか。しかしここはやっぱり本気のまま彼らに応えてやるべきか。
 ふと、老人がそばにいたのに気付いた。こっちを見ているが、手ぶらだ。まだ何も奪えてないのだろう。
「それー、かかれー!」
「おじいちゃん、どうぞ1枚」
 少年達が飛びかかったと同時にしゃがんだUN。その結果はご想像願いたい。

「押さないで押さないで」
「ほーら、こっちでぃす。つかまえて☆」
「飴のおじさんはこっちに逃げるぞー」
 中央広場はすでに『掴み取り』だった。
 安い金券は言わば客寄せの撒き餌。どんどん奪われてどんどん商店街に還元してくれればいいのだ、奪われれば奪われるほど良い。なので孝たちは本気で逃げない。来る者は拒まず、まるで風船サービスのように短冊を取らせてやる。
「おかーさん、100円券取れたよ!」
「見て見て、ボクは2枚」
「飴もらったー。食べてもいい?」
 鬼ごっこに勝った子ども達はその戦果を、自慢そうに母親に見せている。
「いやあ、あんなに喜んではるわ」
「孝さん、嬉しそうでぃすね」
 額に汗の玉をびっしりこしらえても猶、顔のゆるんでいる孝をりすは笑う。
「実は僕、子ども好きなんですわ。あんまり寄ってきてくれまへんけど」
「さっきまでモテモテだったでぃすけど」
「お菓子が無くなったら、この通りですわ」
 2人の笹は、もうすっからかんだ。時間的にも終わるに丁度いい、子ども達に見向きもされなくなったことだし、そろそろ引き上げよう。
「こっちにはまだ短冊が残ってるよー!」
 そしてあずさが現れた。
 短冊はもちろん、あれ。
「2人も参加していいよ、でももちろん、捕まえてからねー!」
 あずさは逃げる。子ども達が追いかける。
「行きますでぃすか、孝さん」
「ああ、喉が渇いた」

 そろそろお祭りも終盤だ。
 しかし、まだ特賞はいくつか残っているらしい。

 道の隅で、段ボールがごそごそと動いている。中にはさっきまで走り回っていたはずのあずさと、息を切らした大太郎が。
「こちら『ハートブレイク1』、Xエリアを通過」
「こちら『フォールインラブ2』‥‥って、直接喋ってくれればいいから」
 高額商品を持っている2人は未だ逃げ回っていた。予告無く突発的に各エリアに出没し、さんざん暴れて去っていく作戦だ。そして今もこうして身を潜め、次なるエリアに向かっていたのだが。
「‥‥ん? 暗いな。日没にはまだ早‥‥」

 こちら『ハートブレイク1』、囲まれた!
 気をつけろ、やつら、底なしのパワーとスピードだ!
 『オバチャン』出現、『オバチャン』出現。
 至急応援求ム。至急応援求ム

 馬井食堂で、冷たいみかん水の瓶を開けていた仲間達に、その声は届かなかった。