海の男選手権アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
江口梨奈
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
10.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/05〜07/11
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●本文
これからの季節、どこの海水浴場でもさまざまなイベントが用意されていることだろう。ビーチバレー大会、砂のお城コンテスト、遠泳競技会、日焼けコンテスト、などなど‥‥。
ここ、△△海水浴場も例に漏れず、客寄せのための企画を用意していた。
それがこの『海の男選手権』だ。
女性の水着コンテストにすると、いろいろと反感を持たれるこのご時世。なので逆手を取って男性のコンテストにしてみた。となると、外見の美しさだけでなく、力強さを求めたくなった。
というわけで選手権は、ちょっとしたトライアスロンと言い換えてもいいだろう。
スタート地点は500メートル沖のボートからスタート。岸まで泳ぎ着いたら、同じく500メートル先のゴール地点まで砂浜を走る。1着ゴールの男が優勝だ。
記念すべき第1回大会の、現在までの参加希望者は8名。
・A氏(18歳)大学生、運動部
・B氏(19歳)フリーター、元運動部
・C氏(20歳)遊泳場監視員
・D氏(23歳)海の家従業員
・E氏(24歳)高校体育教師
・F氏(25歳)消防士
・G氏(28歳)会社員、ジム通いが日課
・H氏(28歳)会社員、トライアスロン出場経験有り
さて、今回出した依頼の内容であるが。
この参加者達の進路を妨害して欲しい。
もう一度ルートを見てみよう、泳いで、走って。疲れる以外は面白みのないルートではないか! そこで様々なアクシデントを発生させるのが皆に課せられる使命である。
泳いでいる途中で誰かが溺れたら? 後ろから得体の知れない獣が追いかけてきたら? 真横で女の子の水着がポロリとしたら? 砂浜がウニだらけだとしたら? ‥‥もっとも、シャレですむ範囲で済ませてほしい。海に引きずり込んで溺死、なんてことになっては第2回大会が開けなくなってしまう。
もしあなたが男性なら、いち参加者として紛れ込んでも構わない。他の観衆に協力を頼んでもよい。
思いつく限りのワナを張り巡らせるのだ!
●リプレイ本文
快晴。打ち上げられる花火もよく響く。
『海のォおとこォ〜選手権んんん〜〜!!』
テンションの高い司会者がマイクに向かって絶叫すると、集まったギャラリーはそれ以上の歓声で応答した。
『それではぁ、この記念すべき第1回大会参加者をご紹介ぃッ! 1番、A山くん、18歳‥‥』
自慢の肉体をアピールしながら出場者達が次々とステージに現れる。
『9番、東洋の神秘、カラーテの使い手。アメリカからやってきたのはミゲールさんだーぁ』
『むぁいど〜』
巨体のミゲール・イグレシアス(fa2671)が流暢な関西弁で挨拶をしたので、会場からドッと笑いが出た。
『10番はぁ、ドォクター、ノグーチー! こんなイイ体で、ほんまもんの医者だぜ』
司会者がわざわざ強調したのは、Dr.ノグチ(fa3080)のいでたちがあまりにも胡散臭かったからだ。水着の上に白衣。言わなければ誰も医者とは思わないだろう。
『11番、11番なのにハチ! なんとこいつは泳げないのに参加っちゅーツワモノだ!』
『失礼なっ、泳げますよー』
頭を掻きながら登場したのは上野公八(fa3871)。
『得意は?』
『犬かき』
『じゃあその泳ぎを存分に見せて頂きましょー。以上、11名のエントリーでぇすっ!!』
司会者のマイクがアシスタントに移り、彼女がルールの説明を続けて行う。
『参加者のみなさん、あちらをごらんください』
アシスタントが指さす方向には、大太郎(fa3144)の屋台。
『あちらの屋台は給水所も兼ねてます、ご利用下さい』
「ご来場の皆さんにも販売中です〜。観戦のおともにどうぞ〜」
売り子のふりをした大神 真夜(fa4038)が自分の首に下がっているクーラーボックスを指して案内する。中にはたっぷりのアイスキャンディー。その他にも屋台では、海定番の食材達が、じゅうじゅうと煙を上げて美味しそうに焼かれていた。早速それらをつついている女の子集団もいる。にぎやかで、可愛らしい。
ひととおりの説明が終わり、いよいよ参加者はボートに乗り込む。
「みなさん、意気込みを一言で!」
すかさず一二三四(fa0085)がマイクを差し出した。直前インタビューである。
「優勝狙います!」
「俺が一番だ!」
「浜のハニー達に格好いいところ見せてやります!」
それぞれが自慢のポーズをとる、それを二三四は写真に収める。さすがにこんなイベントに出る彼らは他人から見られ慣れているというのか、恥ずかしがることもなく堂々とポーズを決めてくれる。
「がんばってくださいね〜」
鳴瀬 華鳴(fa0506)が沖へ行く彼らに声援を送ると、ボートの上から手を振りかえされた。
『花火が上がったらスタートだ! カウントダウン開始! 5、4‥‥‥‥』
沖には数隻のボートが並び、それぞれが花火のあがるのを待っていた。イベント用に作られた簡素な桟橋に腰掛けた観客も、今か今かとそわそわしている。
『‥‥3、2、1、スタート!!!』
ボンッボンッと音が響き、青い空に白い煙が飛び散る。そして11人が一斉に、ボートから海に飛び込んだ。
いや、ひとりだけ、一拍ぶん、飛び込むのが遅れた。ドクターだ。そして彼に手には、何やら黒いものが。
「隣に並んだのが不運と思え」
黒いものを丸めて、客席に放り投げた。
なんとそれは、B氏の水着! さりげなく後ろに立ち端を摘んで、飛び込む勢いに任せて脱がせてしまったのだ。
「な、なんてことをーー!!」
B氏も気づき、慌てて桟橋の方向へ向きを変える。客席では女の子達の悲鳴があがる。
「さあ、次の犠牲者は誰だっ!?」
ドクターは次なる得物を求めて泳いだ。
『あ、先頭集団が見えてきました。1位はE川くん。その後が、C田くんですねー』
実況が彼らの姿を捉えたので、華鳴は人垣をかきわけ、彼らがよく見える位置まで移動する。片手にはなぜか、ソフトクリーム。ぺろぺろと白いクリームに舌を這わせ、甘い味を堪能しながら、先頭集団の到着を待った。
そしてE氏がいまにも水からあがりそうになったとき‥‥。
「きゃっ」
華鳴はソフトクリームをひっくり返し、胸元に落としてしまった。
「やだぁ、勿体なぁ〜いん」
泣きそうな顔をして、胸に付いたクリームを指ですくって口元に運ぶ。
「ふふ、美味しい♪」
艶っぽい声まで出してみる。サービスしすぎだ。
さあ、このセクシー作戦にどれだけの男がひっかかったか、と参加者の方に視線を向ける。
が。
誰にも気付かれていなかった!
観客たちの中に紛れて行う動きとして、あまりに小さすぎたのだ。選手はどんどん海から出て、給水所へ向かい、ついには誰もいなくなった。
だがガッカリすることはない。観客達の視線は今は汗を光らせ走る選手ではなく、華鳴ひとりに注がれているのだから。
給水所兼屋台は大盛況。大太郎がせっせと焼きそばを炒め、とうもろこしに醤油を塗り、それらを女の子達に配っている。
「うわーん、おいしー」
「コレとジュース、さいこー」
海で泳いだ経験のあるものなら、この幸せが分かるだろう。夏の陽射しの下、ちょっと疲れた体。そこへ流し込むキリリと冷えたドリンク、アツアツの焼きそば。お腹をいっぱいにして、とろとろまどろむ。それらがこの屋台で待っている。
「さささ、飲んで飲んで!」
大太郎が給水を求める選手にドリンクを渡す。何の疑いも抱かず、それを飲み干すE氏。
「‥‥ななな、なんじゃこりゃー!!」
渡されたのは健康にいい麦発酵飲料。要するにビール。
「ささささ、次はこのマスタードの効いたフランクフルトです‥‥」
危ない、危険だ、ここはデンジャラスすぎる。E氏は急いでそこから立ち去ろうとするが。
「おっと、失礼」
真夜がうっかり砂浜に開いた穴に足を取られて躓き、クーラーボックスの中身をEの前にぶちまける。
「すぐ拾うから、な。すぐだからな」
そうして足止めを喰らっている後ろから、香ばしい匂いが後ろ髪を引く。負けてたまるかと、真夜をまたいで先へ行こうとするが。
「うわっ」
そこにもまた穴が。大空 小次郎(fa3928)の掘っておいた落とし穴が、給水所の周りにはびっしりなのだ。
「ワハハハー。日本の男、修行が足りぬ。そんなんではアカンでー」
罠に落ちることなくミゲールは、先頭集団を追い抜きトップに躍り出た。
「しまった、抜き返してやる!」
選手はミゲールを追いかける。その表情は真剣そのもの。
「はい、みなさん、こっち向いてー!」
格好いい被写体にカメラを向けたくなるのはカメラマンとして当然の欲求だ。二三四は走る男達にカメラを向け、シャッターをばんばん切る。フラッシュをばんばん焚く。
ああ、なんてサービス精神旺盛な男達なのだろう。二三四の要求されるまま顔を向けてしまう。
「どぅりゃああああああああ!!!」
そのわずかな隙をついて公八が最後尾の男にタックルをかました。
「うふふー。つーかまーえた♪」
まるで砂浜で追いかけっこをしていた恋人同士のような台詞である。
「ああん、待ってぇ」
砂にめり込んだH氏を踏みつけ、公八は目の前を走る男を猟犬の目で捉えた。
「こっちへ来るなー!」
自分までもタックルされてはかなわない、と選手は公八から逃れるように走る。
そのおかげなのか、彼らのスピードはどんどん上がる。あっという間にミゲールとの距離を縮めた。
ゴールはもうすぐ。このままラストスパートをかけて追い抜いてしまおう。だが、そうはさせじとミゲールも必死で走る。選手は団子状になっていた。
今がチャーンス。
用意してあったスイカの皮。
ミゲールはそこに己の足を乗せた。
つるり!
ミゲールの巨体は砂浜に倒れ込む。突然の出来事に後続の選手は驚き、その転倒に巻き込まれてしまう。
『おーーと、大転倒! ゴールまであと50メートルというところで、選手が全員転倒だー!!』
ゴールで待つ司会者の実況は乗りに乗っている。期待したとおり、ただのトライアスロンもどきが、アクシデント続出の面白イベントになっているのだから。
『誰が最初に立ち上がるか? テープを切った男が優勝だ!』
最初に立ったのはG氏だ。
あと50メートル。
このまま走りきれば、自分が優勝だ。
真っ白のゴールテープが見える。あれに胸をぶつけて駆け抜ければ終わりだ。
男は両手を広げ、テープを受け止めた。
ぐにょ。
ゴールの向こうにみっちりと敷き詰められた、ナマコのカーペット。
「‥‥‥‥うわぁ」
悲鳴にもならなかった。
でも優勝はG氏。おめでとう。