超有名人、来たるアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 江口梨奈
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/02〜08/08

●本文

 夏真っ盛り。
 ここ、とある私立大学では、この時期に学園祭を行っている。夏休み中の学生や、盆休みを利用して帰省した人々、活気好きな若人などが集まり、毎年それなりに好評だ。
 サークルが屋台を出し、ゼミが研究発表をし、講堂では講演会も開かれる。
 そして今年の講演者は、テレビやネットで大人気のあの人なのだ!

「‥‥って、誰だよ」

 実はこの期に及んで、その講演者が決定していない。
 いや、学園祭実行委員会はきちんと、某芸能人に依頼をだしていた。あろうことか先方が、同じ日に別の仕事を入れてしまい、一方的に反故にされてしまった。パンフレットやポスターの名前はなんとか削除できたが、代わりの講演者は決まらない。委員会はあちこち駆け回ったが、こんな直前になって捕まるのは、テレビでもネットでも顔が知られていない、素人に毛の生えた程度の連中ばかりだった。
「ずいぶん失礼な依頼者だな」
「申し訳ありませんッ」
「まあ、事実だけど」
 本来呼ぶはずだった某芸能人に比べると、声のかかった自分たちは足下にも及ばないのは誰の目にも明らかなことである。いまさら否定する気もない。
「それで、私たちが代わって、トークショーなり何なりをすればいいの?」
「まあ、そういうことなんですが‥‥」
 言いにくそうに、委員会は続ける。
「‥‥超有名人だと、言い切って貰えますか?」
「はあ?」
 つまり、こういうことだ。
 依頼を受けた彼らの知名度など、無いに等しい。しかしだからといって「無名の新人で〜す」と舞台に立てば、場が白けてしまうのは当たり前。
 だから最初に、ハッタリをカマしてしまうのだ。

「自分たちは、超有名人である!」と。

 それをどうやって信じさせるか? どれだけ大ボラをカマせられるか?
 今回の依頼の肝は、まさにそこなのである。

●今回の参加者

 fa0115 縞りす(12歳・♀・リス)
 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa0360 五条和尚(34歳・♂・亀)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2044 蘇芳蒼緋(23歳・♂・一角獣)
 fa3306 武越ゆか(16歳・♀・兎)
 fa3635 甲斐・大地(19歳・♀・一角獣)
 fa3983 キラ・イシュタル(17歳・♂・竜)

●リプレイ本文

『今年の文化祭は、各業界の超有名人が勢揃い。
 国内で、海外で、舞台に音楽に大活躍!
 当日をお楽しみに!!』
 文化祭のパンフレットやポスターは、講演者の決まる前に刷り上がってしまい、そこに名前を入れることは間に合わなかった。それでも実行委員会は頭をひねって、それなりの煽り文句を作りあげた。
「しまりすが超有名人でぃすかあ? それは絶対にあり得ないでぃすよ〜」
 大げさな表現の踊るパンフレットを見て、顔を赤らめる縞りす(fa0115)。
「りすさん、それは分かってますから!」
 実行委員が容赦なく肯定する。
 急遽集めたメンバーが、一般人に顔を知られていないのは百も承知。だからこそ、あれこれ理由を付けて、何も知らずに集まった観客を納得させろと言っているのだ。
「私は、歌手だっていうつもりだったんだけど」
 キラ・イシュタル(fa3983)は素直に、現在の職業をあげてみたが、ミリオンヒットの曲を出したわけでもない新人という事実は動かせない。もうプラスアルファに、何か味付けは出来ないだろうか。
「客の半分は在学生だろ? あんた達は、舞台芝居を見ることがあるか?」
 蘇芳蒼緋(fa2044)が、同じ大学生である委員に聞いた。
「見ませんね。映画なら見るんですが」
「じゃあ俺は、『舞台演劇会で有名』の方向で押すぞ」
 実際の知名度はさておき、言ってしまった者の勝ちなのだ。テレビの普及したこの日本で、テレビで有名と言えばばれてしまうが、舞台演劇なら実際に見ている学生はせいぜい演劇部員ぐらいだろう。
「そういうことなら、私は『アメリカで活躍中』ね」
 桐沢カナ(fa1077)が言う。アメリカ方面でいくつか仕事をしたことがあるカナは、実際の仕事履歴を挙げろと言われても難なく答えることが出来る。
「僕もアメリカで、ってことにするつもりだけど、いいよね?」
 巨乳グラビアアイドルという本職の設定を使うつもり甲斐・大地(fa3635)。こちらも、活動の中心をアメリカだと言い張ることにしていた。その準備も万端、手には海外雑誌が。
「この雑誌に掲載されているってことで‥‥」
「えっ、掲載されてるんですか?」
「さて、どうかな?」
 広い会場の壇上で、こんな小さな雑誌を広げて誰が詳細を分かるだろうか。
「大地さんがアイドルっていうなら、あたしだって負けてないからね」
「イザベラさんも、アイドル路線を強調しますか?」
 委員が目を輝かすが、大道寺イザベラ(fa0330)は笑ってはぐらかす。
「それは当日のお楽しみ、だよ」
 ああ、これで当日はなんとかなりそうだ‥‥実行委員達は胸をなで下ろしていた。

「それではぁ、席に着いた方から、音楽に合わせて、手拍子お願いしまーす!!」
 開場し、ぞろぞろと人が入り始めたとき、武越ゆか(fa3306)は壇上でそれを出迎えていた。チアリーダーの格好をし、両手にはポンポンが。
 9割も人が入ると、音楽よりも手拍子の方が大きいぐらいだ。ゆかはそれに合わせて技を披露する。
「今日は、超有名人が大集合! ゆかと一緒に、応援の練習をしちゃお☆」
 ゆかは会場の盛り上げ係に徹していた。老若男女、全ての観客のボルテージは徐々に上がっていく。
「それでは、いよいよ登場です! どうぞーー!」
 そして音楽が止まり、ゲストの紹介がなされると、盛り上がった観客から割れんばかりの拍手が起こった。
 その拍手の嵐の中、申し訳なさそうにひょこひょこと、五条和尚(fa0360)が現れた。
 拍手は止み、代わりに「誰?」というひそひそ声が漏れてきた。
「えー。本日はお忙しい中、ようこそのお運びで」
 構わず和尚は、口上を続ける。
「そういえば私、俳句なぞを囓っておりまして。雅号が『左義長・幽冥仁』と申します。さぎちょう・ゆうめいじん。ほら、『ちょうゆうめいじん』‥‥」

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥ブーーー!!!」

 一転、激しいブーイング。
 誰がそんな詰まらないダジャレを聞きに来たか。
 進行用マイクを持ったゆかが近付いてくる。
「いやー、サー五条、怒られてしまいましたね」
「これは失礼。こんなにウケないとは」
 いつの間にか和尚の手にも、進行用マイクが渡されている。
「みなさーん、お待たせしました。今度こそ本当の、超有名人ですー」
「アメリカで女優として、モデルとして注目を集めている方々」
「国内の舞台で大活躍の俳優、そして12歳にして芸歴12年のベテラン子役」
「今年デビューしたばかりで早くも話題沸騰の歌手。以上の皆さんの登場です、拍手でどうぞーー」
 二人はさんざんに、出演者のことを煽った。
 催眠術のように、言い聞かせる。有名である、有名である、有名である、と。

「こんにちはー、どうもーー」
 そうして5人が舞台に上がった。
 しかし、会場の反応は芳しくない。当然だ、名前を紹介されても顔を見せられても、誰一人分からないのだから。
「『誰、こいつら?』って思ってるだろ?」
 蒼緋は冗談交じりに、観客に向かって言う。ちょっと笑いが出た。緊張は若干ほぐれたようだ。
「知らないのも無理はない、俺は主に劇場での舞台演劇をしているからな」
「カナたちもアメリカにいることがほとんどで、日本には久しぶりに帰ってきました」
「そしてアメリカでは、主にこんな仕事です。前列のお客さん、見えます? このグラビアページです」
「今日は、りすたちがやっているお仕事について話したり、得意なことをお見せしたりするつもりでぃす☆」
「それではご挨拶代わりに、まずはあたしの特技をお見せするよ」
 と、イザベラは大地を手招きすると、自分の前に立たせた。
「あたしは他の皆さんと違う、特殊な業界にいるんだよ。あえて言えば、芸術家として。そして今からお見せするのは、ロープアートです」
 言いながらイザベラは、大地の体にロープを巻き付けていく。
「この肉体に、亀の姿を浮かび上がらせて‥‥」
「こらーーー!!!」
 総掛かりでイザベラを退場させる超有名人達。次から次へと巻き起こるアクシデントに、会場は大爆笑だ。
「重ね重ね失礼。本来お見せしたかったのは、こういうものです。どうぞ」
 勧められて、今度はキラが前に出た。
 彼女が披露したのは、歌。
 本当なら誰も知らない、売れてもいない歌手であるが、こうして芸能界に身を置いている以上、それなりの練習はしてきている。歌手ということを証明するだけの説得力をキラの声は持っていた。
 爆笑はいつの間にやら、感嘆の声になる。
「このように私たちは、常に技術を磨いています」
 畳みかけるようにカナは、大股で前に出て、まるで芝居のワンシーンのように大きく腕を広げてみせた。女優はそのまま、威風堂々たる演説を続ける。
「努力は幸運を呼びます。アメリカでは、日本人だからという理由で辛い目にも遭いました。けれど、諦めてはいけません」
「その通り。一朝一夕で叶う夢なんて無い。習得するための道のりは辛くて険しいけれど、諦めずに努力し続ければそれが自分の力になる」
 蒼緋はこれまでの経験と、そしてまだ諦めていないこれからの目標についてを熱く語る。
「どんな仕事も経験の積み重ねが大事だよ。何事も頑張って精進しないと、機会が巡ってきたときに後悔しちゃう。だから今を精一杯頑張ろう!」
 講堂の半分を埋める若い学生のために、大地は明るくエールを送った。

 『超有名人』。
 この大嘘を全員が信じたかどうかは分からないが、彼らの講演を皆が面白く聞き入っていた、それだけは間違いないことだった。
「それではぁ、こんなエピソードもありますでぃす。子役ってのは‥‥」
「そういえば撮影の時なんですけど、雨が降ってて‥‥」
「テレビ局の楽屋って、個室になるとこんなに広くて‥‥」
 超有名人たちの講演は、まだまだ続く。