あかかてしろかてアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 江口梨奈
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/28〜10/04

●本文

 ここはとある商店街。
 の、商工会議所。
 月に1度ある、商店主たちの会議が今日も開かれていた。
「今年も無事、市営グラウンドの予約が取れましたんで、例年どおり町民体育祭を開催、ということで‥‥」
 呑気な商会長はカレンダーを捲りながら日程の説明をする。彼は気付いていないのだろうか、さっきから会議用テーブルを挟んで二つのグループが火花を散らし合っていることに。
「去年の借りは返させてもらいますよ、赤組さん」
「お手柔らかに頼みますよ、白組さん」
 アーケードの下を一直線に並ぶ商店と、周辺の住宅街、その丁度真ん中辺りで二つのチームに分かれ、一方を赤組、一方を白組として毎年対決をしている。
 もとよりお祭り騒ぎの大好きなこの町の商店主達は全力投球する。お互いがお互いに、勝利チームの名が欲しくて仕方がないのだ。勝ったところで、せいぜい古ぼけたトロフィーが手に入るだけなのに。彼らは今年の優勝組という栄誉をただただ欲しがっている。
 このぐらいに真剣にならないと、商店街のイベントとして成立しないのだ。お客さんが面白がって見てくれなければ、開催する理由がない。

「白組がどんな手で来るか分からん、こっちも対策を練らないと」
「何か仕掛けてくるかもしれませんね、借り物競争の内容を書き換えたりとか」
「よし、こっちも負けじと書き換えてやるぞ!」
 あれこれ作戦を考える赤組。
「ううむ、これだけでは心許ない。足の速いやつは足りているか? 力の強いやつは足りているか?」

「うーん、去年は赤組に僅差で負けちまったなあ」
「障害物競走に出た奥さん達が、そろってハシゴくぐりにつっかえちゃったからね」
「今年はでかいハシゴを用意してやるか」
 あれこれ作戦を考える白組。
「ううむ、これだけでは心許ない。足の速いやつは足りているか? 力の強いやつは足りているか?」

 赤組はこっそり助っ人を呼んだ。
「白組の邪魔をしつつ、赤組を勝利に導いてくれ」と。
 白組はこっそり助っ人を呼んだ。
「赤組の邪魔をしつつ、白組を勝利に導いてくれ」と。

 商店会長から、正式なプログラムが発表された。

********************
 第×回 △△町民体育祭
 ○年○月○日(小雨決行) 於:市営グラウンド

競技種目(※選手はひとり3種目まで出場出来ます)
・入場行進
・短距離リレー
・長距離リレー
・借り物競走
・障害物競走
・玉入れ
・綱引き
・騎馬戦
・表彰式
(※変更の場合有り)

●今回の参加者

 fa0115 縞りす(12歳・♀・リス)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3048 真田・真(30歳・♂・兎)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa3453 天目一個(26歳・♀・熊)
 fa3871 上野公八(23歳・♂・犬)
 fa3982 姫野蜜柑(18歳・♀・猫)
 fa4673 磯野兵衛(32歳・♂・豹)

●リプレイ本文

 2連覇を狙う赤組。
 雪辱を果たさんとする白組。
 それぞれが応援を呼び、そしてそれぞれに頼もしい助っ人が集まった。
「ま、俺が来たからには、赤組の皆は大船に乗ったつもりでいてくれていいぜ」
 どんと胸を叩くブリッツ・アスカ(fa2321)。
「やるからには‥‥全力で頑張らせてもらう」
 力が有り余っているのだろうか、真田・真(fa3048)は「全力で」と何度も繰り返す。
「足が速くて力が強い人材が必要なんだってな? 全てはあたしに任せておけ!」
 ティタネス(fa3251)だって負けてはいない、拳を縦横無尽に走らせて、パワーをアピールしてみせる。
「しかし、白組にも手強そうな人たちが集まったらしいですよ、油断出来ませんね」
 磯野兵衛(fa4673)は眉を寄せて真剣な顔をしている。だが、彼の顔は赤組という気合いの表れか、絵の具らしき塗料で真っ赤に塗られており、さして困ったようには見えていない。
 一方、白組は。
「おーけい、白組のリベンジの為に、大いに頑張るよ!」
 姫野蜜柑(fa3982)は耳をピンと立てるしぐさをして、その気合いの大きさを見せていた。
「えーと、えーと、お役に立てるかどうか‥‥とにかくがんばるでぃす」
 『赤組の妨害をする』という条件に不安を感じながらも縞りす(fa0115)は意欲を示す。
「真剣勝負かー。地域の運動会でありがちなマッタリ感が無いのも、それはそれでいいな」
「真剣勝負をすることでイベントが盛り上がるって考えは賛成よ。お祭りなら楽しまなきゃね!」
 上野公八(fa3871)と天目一個(fa3453)は本当に楽しそうだ。こういう助っ人が来てくれれば、呼んだ甲斐があるというもの。
「ところでリーダー、盛り上がるためにはちょっとこんなモノのお世話になってみてもいいかしら?」
 不敵な笑みを浮かべて一個が背中から出したのはなんと一升瓶。商店主のオヤジたちもたぶん同じことをするだろうから、それは別に構わないのだが‥‥。
「それなら僕も、できれば新鮮な海の幸があると力が湧くんだけどな〜」
 蜜柑がちらりとリーダーを見る。白組メンバーに鮮魚店がいたはずだが?
「ぃよぉおっし! 鯛のお頭持ってくるからな。いっちょ、全員で前祝いだ!!」
 白組リーダーは、なんて話の分かる男なのだろう!

 晴天に恵まれ、絶好の体育祭日和だ。
 グラウンドには朝から人が集まり、テントを立てたり屋台を引いたりと忙しそうに動き回っている。
 中央の本部席では幹事達が最後の調整に余念がない。
 開会式までまもなくというころになると、応援の家族や友人たちがカメラとお弁当を片手にテントに陣取りだした。かなりの人手だ、商店街が力を入れているのもこれなら分かる。
 時間きっかりに花火が打ち上げられ、スピーカーは聞き慣れた運動会ミュージックを流し、いよいよ町民体育祭のスタートである。
 まず最初の種目は短距離リレー。
 お互いの出方を測るためだろうか、大半の助っ人が参加していた。
(「予行練習はみっちりしてきたんです、負けられません」)
 柔軟体操を繰り返し、体を温める公八。いきなり最初の種目から妨害をしかけるつもりはない。この競技は正々堂々走るつもりだ。
 それは真も同じこと。参加した以上は全力で頑張ることが最優先だ。
「頭使うことは他の人に任せて、あたし達はとにかく体を張ろうな!」
 真の考えていることが分かったのか、ティタネスはチームメイトの肩を叩いて、言った。
(「シンプルなこの競技なら妨害工作も仕掛けようがないだろうし、普通にすればいいよね」)
 蜜柑はそう予想する。
「‥‥だから大丈夫だよ、普通にやれば」
 隣にいるりすにもそう言う。さっきから彼女は、第一走者としての緊張で縮こまっていたのだ。
「はぁ、ドキドキするでぃす」
「そんなにカチカチになっちゃ、バトンを落としちゃうよ」
「がんばるでぃす」
 各選手がスタート位置についた。
「よーい‥‥‥‥スタート!!!!」
 ばぁんとピストルの音が鳴り響き、赤組の真と白組のりす、両選手が飛び出した。雰囲気を否応にも盛り上げる音楽とともに実況アナウンスが観客を焚きつける。
『さあ、コーナーを曲がって、両選手、ほぼ同時に第2走者にバトンを‥‥‥‥ああっっ!!』
 アナウンサーも観客もチームメイトも皆、同時に悲鳴を上げた。
 りすが、バトンを渡し損い、それを拾おうとして体勢を崩し、そのまま転倒! しかも位置が位置だけに、第2走者達をも巻き込んで‥‥つまり全員がそこで転んでしまったのだ。
「チャーンス!」
 誰よりも俊敏に立ち上がったのは、赤組第2走者のティタネス。こうなる予感をなんとなく感じていた彼女は、さっと体勢を立て直した。白組の米屋の息子がもたついている間に、颯爽とコースを進み出した。
『ようやく白組、立ち上がりました。必死で追うが、差が縮まらない! 赤組、第3走者・食堂の看板娘のさっちゃんに今、バトンタッチ!』
 少し遅れて、白組のバトンは公八に移った。予行練習の本領発揮、差はどんどん縮んで縮んで、バトンタッチ直前に追いついた。
 アンカーの蜜柑に、バトンを渡そうと‥‥。
「は‥‥はっくしょん!!」
「くしゃん!」
『どうしたのでしょう、黒い煙が‥‥ああっ、あれはコショウです! コショウの煙です!!』
 何と赤組アンカー・アスカが公八の鼻めがけてコショウ爆弾を破裂させたのだ。こんな刺激物を嗅がされてはたまったものじゃない。公八も蜜柑も、さっちゃんもアスカもくしゃみが止まらない。涙目になりながらアスカはバトンを奪いとると、そのままゴールテープに飛び込んだ。
『ゴォオ〜ル! まずは赤組に10点が入りました!!』
 というアナウンスも、最後はくしゃみで締められた。

「エグいことをかましましたね、赤組さん」
「子供のイタズラですよ、白組さん」
「子供のイタズラですかー、じゃあ、何が起こってもしょうがないですね」
 赤白リーダーの間に火花が飛んだ。

 長距離リレー、障害物競争、ちびっ子リレーなど競技は続き、次の種目は玉入れだ。
「あっ、あれなに?」
「赤鬼だ、赤鬼だー」
 全身を真っ赤に塗り、鬼の面を被った兵衛が競技場に進み出た。赤組の士気を高めようと言うのか。しかし、それなら腹に描かれた的の意味は?
「覚悟!」
 競技が始まると、兵衛は持っていた玉を、頭上の籠ではなく白組の選手に向かって投げ出した。
「なにをするー!」
 怒った白組の選手が赤鬼に向かって玉を投げ返す。
「がおー。10点」
 それを聞いて白組の選手は、ようやく的の意味を知った。
「‥‥そういうことなら‥‥」
 最初に玉を当てられた恨み、晴らしてやらんと的に向かって、赤白構わずどんどん玉を投げる、投げる、投げつける!
(「あー‥‥言うの忘れてたわ」)
 応援席で何本目かのビールを開け終わっていた一個は、鬼退治ゲームと化していた競技場を見て呟いた。
「何がどうした、一個ちゃんよ」
「いえね、玉を重くしてやろうと、いくつかに石を仕込んでたんだけど‥‥ま、大丈夫よね」
 気付かなかったことにして、新しいビールを開ける。つまみは惣菜屋のおばちゃんが持ってきた唐揚げ。
「がおー。10点、20点、10点、50点‥‥‥‥がくっ」
 ついに退治成功。しかし白組、調子に乗りすぎた。彼らが玉を投げるべきは目の前の赤鬼ではなかったはずだ。
 ここでまたも赤組と差を開けられてしまった。

 さあ、次は借り物競走だ。
 全員の目が光った。
 なにせこれは妨害工作の基本中の基本。
 赤組は考えた。普通ではまず誰も持っていないようなものを選んだ。そしてその対象品はあらかじめ用意してある。
 白組は考えた。白組の商店でしか扱ってないもの、白組の人間しか持っていないものに借り物を書き換えた。
(「さあ、ここで差を付けてやる」)
(「さあ、ここで差を付けるわよ」)
 お互いがお互い、妨害工作をしたのは自分だけだと思い、相手の困惑する様を楽しみにしていた。
 けれど、借り物メモを作成する実行委員が、この変更点をどれも受け入れてしまったということを、彼らは誰も知らなかった。
『よーい‥‥‥‥スタート!!』
 選手達が一斉に、借り物メモの入っている封筒に飛びついた。
「『招き猫』。持ってきてたよね♪」
「『惣菜「みなみ」の唐揚げ』。あるあるある♪」
 借り物としてわざわざ用意させていたものだ。どうしてグラウンドのど真ん中に招き猫など置いてあろう。
「『小川米穀店の4代目』。ありゃ、白組の人間じゃん」
「『馬井食堂の幸子ちゃん』。うわー、赤組の子だよね」
 ものは簡単でも、敵チームのものとなれば借りてくるのに一苦労。テントのあちこちで選手達が口説いている。
「‥‥‥‥しょ、商会長。『商会長のカツラ』が指定なんですが‥‥」
「なにおぅ。おまえまでわしがカツラじゃと思うておったのかー!」
「『愛人』‥‥‥‥‥‥‥‥?」
 とても借りてくるのが不可能なもの、それらが無差別にコート上に散らばっている。
「くそう、赤組も同じことを考えていたなんて!」
「くそう、白組も同じことを考えていたなんて!」
 結果、借り物競走はドロー。
 勝負はラスト競技、騎馬戦に持ち越された。

「いけーーーー!!!!」
 一個が突っ込む! エタノールを燃料として動くオヤジ軍団を煽動して突っ込む! もはや誰が敵で誰が味方かも分からない。
 そんな中で全ての競技は終了。閉会式となった。
「‥‥結局、どっちが勝ったの?」
「さあ」
 赤組のリーダーがトロフィーを持っていたから、たぶん赤組が勝ったのだろう。
 こんなふうな体育祭で、見に来てくれたお客さんは満足してくれただろうか?
 大丈夫だ、満足している。
 なぜなら『赤組優勝』を予想していたお客さんには買い物券が配られたのだから。