マッサージチェア芝居アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
江口梨奈
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/02〜11/08
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●本文
劇団PPの団長・箕輪トキオは悩んでいた。
PPでは3〜4ヶ月に1回、定期公演を行っている。地道な活動のおかげで人気も出てきた。ここでもう一押ししたい。次の舞台でドカンとでかいステージを作ってみたい。
そこで必要なのが金だ。
おかげさまでこれまでの公演でそこそこ利益が出てきたので、基本的な費用は十分まかなえる。それ以上のセットを組むとなると、もう少し資金が必要だ。だが、どこからその金を出す?
「スポンサーが、いれば‥‥」
トキオは閃いた。公演の度に刷っていたパンフレットに、広告枠を作ろう。ポスターにも企業名を入れよう。当日のグッズ売り場に関連商品も並べよう。
その案を持って、トキオと団員達は手当たり次第、さまざまな会社を回った。
手応えはない。
当然だ、人気が出つつあるとはいえ、まだまだ無名の劇団だ。聞いたこともない芝居集団に会社の名前を預けるなど容易に許せるものではない。
しかし、ひとつだけ、いい返事をもらえた。
有限会社カワタヘルス。
健康器具・健康食品を扱っている会社だ。
「若い人たちが頑張るのは素晴らしいね。微力ながら応援させてもらうよ」
なんて有難いことだろうか!
ただし。
条件を二つ、提示された。
まず一つ。芝居を実際に見せること。台本片手の簡単なスタイルで構わない、要は中身が分かればいいのだ。場所は会社の会議室がある。
それからもう一つ。カワタの製品を芝居の中でアピールすること。ことさらに商品名を連呼しろ、というのではない。登場人物達がさりげなく触れる道具の中に、自社製品を置いてくれればいい、と。
どちらももっともな条件である。
「それで、川田社長。その商品というのは?」
「『マッサージチェア・やすらぎ』だ」
「どうするんですか、ミノワさん!?」
「どうするって‥‥考えるんだ、マッサージチェアを使う舞台を!」
「そんな急に作れませんよ! それも来週には、それで出来た脚本を先方に見せるんでしょ?」
「助っ人を呼んだッ! 何としてもこの話をまとめるんだ。マッサージチェア芝居をひっさげて、川田社長を接待してみせるぞ!」
●リプレイ本文
劇団PPの練習場所は市内の公民館。今回のスポンサー獲得作戦の協力を快く請け負ってくれた仲間達も今日は一緒に集まり、箕輪が持ってきたビデオを見ていた。これまでのPPの公演を録画したものだ。
「‥‥ぷっ、はははは!」
感情などないのかと思うほどに黙って画面を見ていた勇姫凛(fa1473)が噴き出したのだから驚いた。
「あっはっは、ベタベタやん。あかん、ツボに入った」
葉月竜緒(fa1679)も辺り構わず笑っている。PPの芝居はちっとも文学的でも芸術的でもなく、あっちこっち走り回るドタバタ劇だったのだ。
「でもよかったです、下ネタなんかあったらがっかりするところでしたけど」
胸をなで下ろす華夜(fa1701)。スポンサーをつけるとなれば品が問われる。ごく一部の若年層にだけウケるものを演じる劇団では、カワタヘルス側もいい顔はしなかっただろう。
「うちは、だいたいいつもこんな感じだな」
PP団長の箕輪トキオは言った。
「次の戯曲も、こんな感じで?」
「そのつもりだ」
次の戯曲、それがマッサージチェア『やすらぎ』を使ったものとなる。
「それじゃ、さっそくで悪いけど。いろいろ案を出してみようか」
箕輪は隅っこにあったパイプ椅子を部屋の真ん中に置いた。これがマッサージチェアの代わりらしい。
「俺が思いついたのは、温泉の卓球場でさ‥‥」
「あとは電器屋とか、おじいちゃんのいる居間とか」
PP団員達が口々に言うが、言いながらもしっくりきていないんのだろう、複雑な表情だ。
「どの場面も、なんか生活臭いんだよな。もっと意外性がほしいんだ」
「だったらこういうのはどう?」
凛が言う。
「3台並べて3人が座って、それぞれがマッサージを受けながらミステリーを語る、ということで。3つの話が最後に一つの解答に繋がっていくというのは?」
「なるほど‥‥おもしろいな、それ」
箕輪は大きく頷いた。だが。
「それ、舞台よりもテレビドラマに合うんじゃないか? 3話ものオムニバスになると、場面転換が多くなるしな‥‥」
遠慮無く贅沢なことを言う箕輪。またうんうんと唸る。そこへ伝ノ助(fa0430)が高々と右手を挙げた。
「はいはいはいッ、あっしも案があるっス」
「なんだなんだ?」
「ファンタジー物っすよ!」
「ほう、面白そうじゃのう」
突飛な意見に興味を持つ釈杖ヒカル(fa1381)が続きを促す。伝ノ助は待ってましたと、考えていた物語を一気にまくしたてた。
「‥‥そこまでマッサージチェアを強調しなくてもいい思うがな」
「まあいいのではないか、今回は先方に好印象を与えるのが目的だ、そのくらい露骨で丁度いいだろう」
匂宮霙(fa0523)の言葉に、箕輪も納得する。
「それもそうだ。よし、その案で進めよう!」
その頃、せせらぎ鉄騎(fa0027)は何をしていたのかというと。
なんと一人、カワタヘルスを訪れていたのだ。
「PPの方? 会議室はあちらです」
応対に出た女性が案内してくれる。会議室は狭くて、今は長机とホワイトボードと椅子が詰まっている。当日はこれらを畳んだ、空いたスペースが舞台となる。
「おお、わざわざ来たのかい」
川田社長が通りがかりついでに声をかけた。
「場所の寸法を見に来ただけだ、すぐ失礼する」
「せっかく来たんだから、どうだ、『やすらぎ』を体験していかんか?」
と、社長は鉄騎をロビーに引っ張っていく。そこは簡素ながら商品展示場として数機のマッサージチェアが並んでいた。
その一つに座らされた鉄騎は‥‥。
「お帰り鉄騎。どうだった?」
「‥‥‥‥」
「鉄騎?」
「‥‥‥‥最近のは、高機能だな」
「はあ」
そして台本は着々と出来上がっていく。朝から晩まで公民館にこもり、閉館後は箕輪の家に集まる。ヒカルと霙が中心になって作り、少しでも出来れば全員で読み合わせをする。時々熱が入りすぎて隣人にうるさいと怒られてしまうこともあったり。
「‥‥‥‥出来た!!」
窓の外はとっくに白んでいる。
「できたで、ミノワ。これで川田社長をぎゃふんと言わせてや」
「台本片手でいいって? 全部覚えて行ってやるッスよ!」
誰もが目を真っ赤にし、ひどい者は床で倒れている。けれど、不思議と眠気はない。早く広い場所でこの戯曲を動かしてみたいと思っていた。
「それでは、出来上がった台本です」
タイトルは『王様に贈る椅子(仮題)』。
昔々あるところに。とても怒りっぽい王様がいました。
どうしてそんなに怒りっぽいのでしょう? 王様はとても忙しいのです。だって王様ですから。
けらいだっていっぱいいるのです。でも王様は何でも自分でしようとします。だって王様ですから。
今日も王様は朝からぷりぷり。これではけらい達もたまったものではありません。
世界中から王様の怒りを静める秘法を捜し集めます。
でもどれもこれも効き目がありません。
最後に、王女様が不思議な椅子を届けさせました。
不思議な椅子の力で王様は少しずつ癒されていき、だんだん怒らない優しい王様となっていったのでした。
カワタヘルス社員達へお披露目をする当日となった。鉄騎は一番に入り、会場の設営を終わらせる。
予定では3時過ぎから。竜緒は給湯室を借り、開演時間に丁度いい温度の茶が出せるように準備を始めた。
川田社長と副社長、それから社員達が会議室に集まりだした。若い社員は、この突然の催しに喜んでいる。
会議室の窓には暗幕があるので、中を真っ暗に出来る。全員が集まったところで蛍光灯を消し、代わりに映写機の電源を入れる。即席のスポットライトだ。真ん中には箕輪がいる。
「えー。カワタヘルスさんにこのような機会を与えて頂いたことに、心から感謝いたします」
これは華夜から言ってもらいたいと頼まれた挨拶だが、箕輪も彼女と同じ気持ちだ。無茶な提案ではあった、だが、新しいジャンルの開拓の機会を与えられた。そうして彼女たちも舞台に関わり、小さな会議室とはいえ演技を披露する場を与えられた。
「マッサージチェアというたった一つのテーマから、たくさんのストーリーが生まれました。全部お見せできないのが残念なぐらいです」
「その中で俺たちが選んだのは‥‥怒りっぽい王様の物語だ」
続けて霙があらすじの説明をする。ちらりと川田社長の反応を見た。不満はなさそうだ、竜緒の茶を美味しそうに飲んでいる。
「それでは、精一杯演じさせていただきます。どうぞ寛いだままでごらんになって下さい」
王様役の伝ノ助が、あっちへチョロチョロ、こっちへチョロチョロ。それを追いかけてはひどい目に遭う大臣の箕輪。困った大臣が占い師の竜緒に助言を求めるが、まあこの占い師の言うことが適当なことこのうえなし! ヘビを飲ませろ頭にカボチャ面を被せろなど言ってしまう。それを真に受けた大臣が家臣の凛にそれを命じるが、彼も一緒になってチョロチョロするものだからますます大混乱。後半になってやっと華夜王女がマッサージチェアを持ってきて、みんなで座って一件落着、と。
観客の反応はまずまずだった。単なる立ち稽古レベルの芝居、それに大喝采を求めてはいけないだろう。
「いやー、面白かったよ」
川田社長は気に入ってくれたようだ。スポンサーの件もこのまま進めてくれるという。
「だがなあ。効能の誇張表現にならないようにしてくれよ。この頃は色々と五月蠅いんでね」
「おや、誇張表現とは思ってませんよ?」
箕輪は鉄騎の方を見た。彼から話を聞いて一行は、近所の電器屋に試しに行っていたのだ。
最近のマッサージチェアは高機能である。