ロケ地:○○アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 江口梨奈
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/16〜11/22

●本文

 ここはとある商店街の一角にある高橋楽器店。どこの店でもそうであるように、平日の昼間は退屈だ。店長の高橋進は、ふらりと立ち寄ってきた友人の辻と、レジカウンターで向かい合わせになり、コーヒーをすすっていた。
「で、なんで辻がここにいるんだ? さては営業の途中だろ。サボってるな」
 言われて辻は、急に何かを思い出したようにハッとした。ホットコーヒーで和んでいる場合ではない。
「何言ってんだ、仕事だよ、お前に仕事を頼みに来たんだ」
「新人歌手のCDを置けってのか?」
 辻はレコード会社に勤めている。小さな会社で、店舗のBGMテープなんかを主に扱っている。
「いやいや、真面目な話。頼みたいことがあってさ」
 と、辻はついと入り口そばの階段を見た。階段は地下に続いており、その下にスタジオがあるのを知っているのだ。
「この店ってさ、芸能人の卵たちがよく来るんだろ、数人紹介してくれないか?」
「何する気だよ、うさんくさいな」
「カラオケ用の映像を作らなくちゃいけなくてさ」
「カラオケ用の? 今時、あれは通信だろ?」
「それが違うんだよ」
 辻は説明する。
 飲み屋や宴会場などは、未だレーザーディスクやビデオテープタイプの、ごく初期のカラオケ機材を使っているらしい。歌詞と画像がまったくかみ合っていない、それっぽい風景画像がエンドレスで流れたりする、あれだ。
 しかし年月と共にそれらは劣化し、また客から「飽きた」と言われ、新しい映像が必要になってくる。
「それを作るのを手伝って貰いたくてな。だいたい、3パターンぐらいあればいいかな。演歌用の艶っぽいのが一つ、あとはテキトーなのを、15分ずつぐらいで」
「テキトー、ねぇ」
「うまい具合に、お前の店、録画機材も一式揃ってるし」
「うちのを使う気かよ!?」
「予算が無いんだよ、予算が」

●今回の参加者

 fa0363 風見・雅人(28歳・♂・パンダ)
 fa0386 狐森夏樹(18歳・♀・狐)
 fa0587 猫美(13歳・♀・猫)
 fa0917 郭蘭花(23歳・♀・アライグマ)
 fa1500 風光 明媚(24歳・♂・狐)
 fa1766 AD(24歳・♂・豚)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2044 蘇芳蒼緋(23歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

「うわっ、大きなカメラ! 本格的な業務用なの?」
「いやいや、ここのは古いからデカいだけだって」
「おまえ、人のものだと思って好き勝手言うなよ」
 高橋楽器店の地下スタジオ。安賃金で集まってくれた8人の協力者達。高橋と辻が引っ張り出してきた撮影機材の数々を見ながら、本日撮影係の郭蘭花(fa0917)は驚いたが、ここは所詮練習スタジオ、まともな機材があるはずはない。
「テープはコレな」
 言いながら辻は、一番近くにいたAD(fa1766)に2時間用のテープを1本投げて渡す。慌てて受け取るAD。
「それだけじゃ足りないだろ、もう4.5本持って行け」
「そんなに使うなよ」
 高橋が無造作にひょいひょい投げるのを、必死で受け取ろうと右往左往するAD。
「あ、あの、2本もあれば十分ですから‥‥」
「ここで撮影してもいいのぉ?」
 語尾を遮って、猫美(fa0587)が聞いてきた。どこかのレストランや美術館を借り切る予算なんて無いことは重々承知だ、使えるものはとことん利用したい。
「いい、いい。24時間使ってくれ」
「おまえが許可するなよ。‥‥えー、今日は予定を入れてないから、いいよ」
「だったらさっそく道具を入れさせてもらうよ」
 と、風見・雅人(fa0363)は店の入り口に置いていた大量の鞄を降ろしてきた。中には今日使う小道具達が詰まっている。この仕事が決まったときから、駆け回って集めてきたらしい。まず最初の撮影は、リクエストのあった演歌用。そしてここが舞台の、女の部屋になるようだ。
「もしかして主役はあんた?」
「当たり!」
 アイリーン(fa1814)は着物の裾をつまんで、くるりと回ってみせた。
「ポイントはここですよ。ほら、うなじ。いまから化粧して化けますからね、楽しみにして」
「そりゃ、楽しみだ。こっちのカノジョは?」
「街で遊ぶ女の子役よ。猫美ちゃんと姉妹って設定でね」
 狐森夏樹(fa0386)はごく普通の格好だ。猫美は学校の制服を着ているのに。
「その格好で?」
「このあといろいろあるわよ」
 含みのある言い方をして、ウインクしてみせる夏樹。
「男性陣は? 出番ナシか?」
「何言ってんだ、男がいないとご希望の映像はできないだろ?」
 風光 明媚(fa1500)と蘇芳蒼緋(fa2044)は揃ってアイリーンの肩を抱いた。なるほど、この3人がいろいろと絡むようになるのだろう。
 思った以上に皆がこの仕事を面白がっているので辻は安心した。あとの作業を彼らに全て任せ、自分たちは本来の仕事に戻った。

 蘭花は重たいカメラをよろけそうになりながら三脚に乗せ、撮影の準備にかかった。
「始めるわよ。照明の準備はいい?」
「大丈夫です」
 ADも調整室に入って、手順を書いたメモを何度も繰っている。
 ここは女の部屋。赤紫色のライトを点けて、ドライアイスのスモークも焚いた。『部屋』なのだから調度品の全てを揃えるべきなのだろうが、そこは演出、色味のある照明の方がより雰囲気が醸し出せるというものだ‥‥予算との兼ね合いもあるのだし。
 アイリーンが敷かれた毛氈(もうせん)に座り、せわしなく身だしなみを整える。そこへ待ち人が来たのか、明るい表情で振り返る。
「照明上げて!」
「はいぃ」
 逆光の中から現れたのは明媚。アイリーンの待ち人などではなかった。明媚は派手な、カタギの人間では着ないだろうスーツを着て、つかつかとアイリーンに近づくと、ぐいっと手首を掴んだ。
 そして、そのまま毛氈の上に押し倒す。
 抵抗するアイリーン。着物がどんどん乱れていく。
 ここに本来の恋人役・蒼緋が止めに入るのだが。
「そろそろ行くか?」
 蒼緋がカメラフレームに入ろうとする。
「んー? スモークがもう少し消えてからね」
 レンズを覗いたまま、蘭花が止める。ADがドライアイスの器に蓋をしたので、間もなく消えるだろうが。
「これ以上待つと脱げちゃうよ」
 不安になったのか雅人が、その辺の雑誌で扇ぎ、かき回す。
「あ、いい感じ。そのまま扇いでて。ドライアイスもう一回」
 スモークに動きが出来たのがいい効果になった。これを利用して、そこに蒼緋が入っていった。女を巡って二人の男が争い、最後は蒼緋が勝利。よろよろと情けなく消えていく明媚。あとに残った二人は、ひしと抱き合った。
「よし。次は夏樹と猫美の部屋に設定を変えよう。撮り終わったら、次は街に出るぞ!」

 街に出て、というより、ここ高橋楽器店がすでに商店街の真ん中にある。近所のよしみで協力して貰おうと雅人は数店に頭を下げて回り、撮影の許可を取っていた。
「ふふン。本当の姉妹みたいだって言ったら言い過ぎぃ?」
「よそ見していたら街路樹にぶつかるわよ」
 歩道を並んで歩く夏樹と猫美。オモチャの兵隊のように同じ角度で足を上げ手を振り、歩いている。その姿を真正面から捉えるカメラ。
 そして二人はあるブティックに目が留まり、猫美はそこに夏樹を半ば強引に押し込む。
 猫美はその猫の名の通り、ハンガーにかかった服にじゃれつき、次々と引っ張り出しては夏樹に渡す。しかたなく夏樹はそれを持ち、試着室に入る。
 閉じられたカーテンが開く。かちっとしたスーツできめた夏樹。
 再びカーテンが閉まる。開く。うってかわったゴチック調。
 そしてもう一度。今度はまたも正反対の、コギャル風。
 撮影の時間は長いが、これが編集されるとテンポ良く、夏樹がカーテンを開くたびに変身しているように見えるはずだ。
 そして最後。待ちきれない猫美がカーテンを引っ張る。と、何も履いていない夏樹がそこに! いやいや、実はちゃんとホットパンツを穿いているのだが、そのすらりとしたナマ足はばっちり丸見え。ちょっとしたサービスシーンである。
 以上、コミカルな姉妹の日常風景をテーマにした撮影が終わり、次は公園に場所を移す。

 ある朝、明媚が目覚めると狐人間に変身してしまっていた! ‥‥という設定である。このままでは表に出られない。けれど、大事な夏樹とのデートの約束が迫っている。慌てて外に飛び出す。だけど姿は狐人間のまま。どんどん人が集まってきて、追われてしまう羽目に。やっと公園に来たら、今度は夏樹が驚いて逃げてしまう。逃げる夏樹、追う明媚、それを更に追いかける野次馬‥‥?
「うわっ、知らない子供も集まってきたぞ」
「映しちゃっていいのかな?」
 大人達の追いかけっこ。その姿が面白かったのか、公園に遊びに来ていた子ども達も一緒になって追いかけっこを始めた。
「みんなも走って、走って! あっちの滑り台のところまで!」
 せっかくの賑わいを使わない手はないと、雅人は子ども達に指示をとばす。それがカメラに写っていると知った子供はますますヒートアップしていく。追いかけ役の蒼緋が弾き出されるほどだ。公園中を巻き込んだ追いかけっこは、ついに明媚が滑り台から転げ落ちて気を失うという場面まで続けられた。
「はーい。みんな協力ありがとうね〜」
 蘭花はカメラを降ろして撮影終了を伝えると、満足げに子ども達はそこから消えていった。
「‥‥さて、誰もいなくなったかな」
 最後の演出である。
 気絶した明媚に夏樹がキスをする。
 そうして目覚めた明媚は元の人間の姿に。
 しかし、今後は逆に夏樹が狐人間に???
 半獣化することで出来る映像だ、普通の人に現場を見られるわけにはいかない。まあもっとも、カメラが一緒にあるのだから、もし見られても特殊撮影と思われるだけだろうが。
「はーい、終了ー! じゃあこれ、効果処理してね」
 カメラからテープを出すと蘭花は、ADにそれを押しつける。細かな映像を足したりつなぎ合わせたりして、注文の完成品とする。

 注文。
 15分程度のものを3本。だからこれで十分である。
 しかしパワーの溢れている8人は、もう1本分の撮影をしようと決めていた。
 ストリートの雰囲気を作り、3on3のバスケットボールをしているシーンを撮るというものだ。
「本気ださないでよ。ってゆーか、もう疲れちゃったし〜」
 先ほどの追いかけっこ撮影から引き続き、この公園の中でバスケットボール。さすがにくたくただ。
「そうよね、ちょっと休んでからにしようか。実はこんなの用意してるのよね」
 そう言って蘭花はカセットコンロを持ち出した。後ろには、鍋を持ったAD。
「うわっ、おでんだー」
「温まるぅう」
 はふはふ、ほふほふ、ありがたい差し入れを食べながらしばし休憩。そうして活力を取り戻してから、再び撮影にとりかかかった。

「こんばんは、よし子さん」
「あら辻さん。今日は大勢連れてるのね」
 辻は出来上がったテープと、8人を連れて居酒屋に来た。
「まあ、新しいテープね。嬉しいわ、やっと交換してもらえるの?」
「この子達が手伝ってくれたんですよ。よし子さん、みんなに最初に歌わせてやってくれませんか?」
「いいですよ。何かお飲みになります? あなた達はジュースね」
 辻が慣れた手つきで、カラオケセットの設定を変更した。
「ネコミが1番! 『涙慕情』入れて!」
 小さなステージにある小さなモニターに、出来上がったばかりの映像が映し出される。
「じゃあ次、あたし。『ハッピー・キュート』ね」
「俺は『SO LONELY』」
「『無敵ヒーローマンのテーマ』〜」
 こうして実際のカラオケにあわせて、1時間分の映像の確認を終えた。
 そう、1時間分である。
 辻は、4パターンの映像全てを採用したのだった。