ちびっ子にお芝居をアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
江口梨奈
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/16〜12/22
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●本文
「もうすぐクリスマスね〜」
「クリスマスだわ〜」
「そうだね、クリスマスだね」
「クリスマスクリスマス♪」
劇団『チョコレート・ウエファース(CW)』の4人は、何をするでもなく意味のない会話を繰り返していた。
劇団員は、いろいろあって今はたった4人。まともな公演をうつこともできず、練習する戯曲もない。暇にあかせていつ使うか分からない衣装や小道具を作っては部屋を狭くしている。
と、そこへリーダーの沙希カカオの携帯電話が鳴った。
『もしもし、沙希さん? ひじきホールの根田ですが』
近くの公会堂の支配人だ。以前、芝居を上演したことがあり、お世話になった。
「あら、こんにちは。どうしたんですか?」
『いや、実はね。今度うちでクリスマスバザーがあるんだけど、そこで子供向けのお芝居してくれる人を捜してるんだ』
「お芝居? やりますやります! やらせてください!!」
果報は寝て待てとでもいうのか。いい話が向こうから転がり込んできた。断る理由などどこにあろうか。クリスマスに相応しい子供向け戯曲なら、いくらでも見つかるだろう。
『助かったよ。みんなクリスマスは忙しいって言ってね』
「はあ‥‥」
こちらは女4人もいるのに、誰一人クリスマスに予定はないのだが。
『ともかく、そういうことで。場所は小ホールのほうで。時間は1時間ぐらいかな、またこっちに打ち合わせに来てくださいよ』
さて、安請け合いしたはいいが。
何の芝居をすればいいだろうか?
「やっぱ『クリスマスキャロル』でしょ!」
「暗いなあ。『賢者の贈り物』は? 役者2人でいいし」
「子供には難しいでしょ。『マッチ売りの少女』なんてどう?」
「あれは大晦日の話だよ」
あれこれ考えるが、たった4人では制約が大きすぎて出来る芝居が限られてしまう。
ここは一つ、人を呼んで手伝って貰おう。
それで意見は一致した。
●リプレイ本文
ひじきホール多目的室。今週いっぱい、劇団CWの練習場所として貸し出されている。今回の彼女たちの芝居は、人手を増やして、いつもより大きなものとなる。
「来てくれてありがとう」
沙希カカオが、挨拶をし、他の3人のメンバーの紹介をした。
「ウチみたいな弱小劇団を手伝おうなんて物好きな‥‥痛ッ」
その一人、ビターが無礼なことを口走ったので、慌ててカカオがどつく。
「弱小でも、これもお仕事ッ‥‥痛いッス」
神田 八助(fa2387)が輪をかけて失礼なことを言い出しそうになったので、葉月竜緒(fa1679)の拳がとんだ。
「あんたらの為やない。うちは子ども達の喜ぶ顔が見たいんや」
「そ、そうッス。子ども達のためッスよ」
「うわあ、そう言ってくれるとうれしいなア」
無邪気に手を叩いて喜ぶCWメンバーのクリームだが、無邪気と言うより、場の空気を分かっていない。
「えー、こほん、さっそくで悪いが、芝居の話をさせてもらうぞ」
と、茶臼山・権六(fa1714)が咳払いと共に、半ば強引に話題を変えた。カカオもほっとして、メンバーを椅子に座らせる。
「何か用意してきてくれたんですって? 聞かせてもらえますか」
「うむ。創作でな、ちびっ子ならみんな知ってるおとぎ話の主人公を全部登場させる」
権六はコピーした脚本を渡した。
ストーリーは、おとぎ話の主人公達が住む世界が舞台。ここでも今日はクリスマス。しかしサンタクロースが悪い魔女にさらわれてしまうというものだ。
「要所要所で、客席の子ども達にも参加して貰えるように考えたんだよ」
大海 結(fa0074)が付け加える。
「ほら、こことか。みんなで合唱するようにしたんだ。後半のここと、ここも」
「あとはめいっぱい、舞台の端から端まで使って踊るんだ。ちびっ子を飽きさせない自信はあるよ」
胸を張る月 李花(fa1105)。ちびっ子の李花がそう言うのだから、楽しいお話であることは間違いない。
「歌って踊るのか。ピアノかオルガン出してこようか?」
メンバーのアマンドが提案した。メジャーなクリスマス楽曲なら弾けるという。
「だったらタンバリンや鈴みたいなのもあるとよくないか?」
由里・東吾(fa2484)が言った。いい案だ。
「数、揃うかしら?」
「なんとか捜してみる」
ただでさえ作業が多いのに、ここでまた一つ仕事を増やしてしまった東吾。
「この戯曲で進めるんだね? じゃあ配役だ。もちろん、みなさんにも役をお願いするよ」
ホワイトボードを引っ張ってきて、七瀬・瀬名(fa1609)がそこに書き出した。
サンタクロース:茶臼山権六。
おとぎ話の主人公達:沙希カカオ、愛栖クリーム、大海結、月李花。
悪い魔女:葉月竜緒。
魔女の手下:七瀬瀬名、クラッシュ・ビター。
「なんであたしが魔女の手下なの?」
「まあみなさん。ビターが根性曲がりってコト、よくご存じでしたのね」
こうして配役は決定した。
1週間に満たないわずかな期間、カカオ達は懸命に練習を繰り返した。ダンスは得意でも芝居は‥‥という結や李花は台詞の暗唱を繰り返し、竜緒率いる魔女軍団・瀬名とビターは悪い動きの研修に余念がない。。
その合間に、舞台のセットや道具を準備しなければならないのだから、目の回るような忙しさだ。誰が役者で誰が裏方か、なんて言っている場合ではなく。
クリームはこれまで自宅を埋めていた小道具や衣装をとにかく何でも持ち込み、権六はスクーターをあっちこっち走らせて足りないものを買い集め、東吾と八助は客に配る歌詞カードをコピーしては折り、アマンドはオルガンの鍵盤を何度も叩く。
「最後の通し稽古します!」
明日は、本番だ。
クリスマスバザーは、ホール周辺のフリースペースから屋内のロビーまで露店が並んでいる。婦人会の軽食店や、学校クラブの手作り品、幼稚園児達の絵の展示などさまざまだ。
露店の所々に、チラシが貼ってある。もっと奥には大きな立て看板もある。
『クリスマス特別劇場 小ホールにて 入場無料』
客の入りは上々。銘々、小さな歌詞カードがいき届いている。予定通り開演。
緞帳の下りた舞台。
その前に、サンタクロースが姿を現した。
「メリークリスマス。みんな、今年一年いい子にしていたかな?」
東吾の操作するスポットライトの中で、権六が客席に手を振る。親子連れが大半を占める客席、拍手と歓声があがった。
(「ここで音楽ッス」)
音響室の八助がスイッチを入れる。ドロドロドロ‥‥と気味の悪い音楽が流れた。
音楽に乗って現れたのは、悪い魔女軍団!
「みつけたぞ、サンタクロース! 我々と一緒に来て貰おう!!」
竜緒がサッと右手を挙げると、手下AとBがサンタを担ぎ、そのまま舞台袖に消えてしまった。
「ほーほっほっほ。これで今年のプレゼントは全部わたしのものよ!」
高笑いを残して、魔女もまた消えた。入れ替わりで、ようやく幕が上がった。
ステージの上は明るい。中央にクリスマスツリーがあり、おとぎ話の主人公達が皆でそれを飾り付けようとしている。
「もうすぐクリスマスだね」とカカオシンデレラ。
「サンタさん、いつ来るかなあ」と結桃太郎。
「プレゼント楽しみー」と李花赤ずきんちゃん。
「早く来てほしいね」とクリーム白雪姫。
待ち遠しくて仕方ない、というふうに、4人ははしゃぐ。そしてタンバリンを取りだして、『ジングルベル』を歌い出した。
「みんなも、いっしょに、歌ってね!」
カカオが呼びかける。前奏を弾くアマンド。ちびっ子達は歌詞カードを開く。
ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る‥‥♪ と、楽しくみんなで歌っているところに、息せき切って赤鼻のトナカイ(権六/二役)が飛び込んできた。
「たいへんだ、サンタさんがさらわれちゃったよ!」
「何ですって」
サンタさんがいなくなっては世界中の子ども達が楽しみにしているプレゼントが貰えない、と皆は大騒ぎ。いますぐ助けにいこう、ということになった。
さて、場面は変わって、魔女の隠れ家。サンタから奪った袋からプレゼントを全部引っ張り出している手下達。そこへ、駆けつけた赤ずきん達が遠巻きに様子を伺っている。
「悪いやつらだ、あいつをやっつけなきゃ」
「でもどうやって?」
「まず、外へおびき出そう。‥‥ねえ、みんなにお願いがあるの」
赤ずきんは客席に向かった。
「もう一度、みんなで歌を歌って。さっきよりもずっと楽しく、元気に!」
「サンタさんを助けるために、大きな声で歌ってくれるお友だちは拍手をしてー!」
桃太郎がそう言うと、大きな拍手が返ってきた。それでアマンドが、もう一度オルガンに手をやった。
「ジングルベル、ジングルベル♪ ‥‥もっともっと!」
タンバリンを鳴らし、赤ずきんは舞台の上でぴょんぴょん飛び跳ねる。桃太郎と白雪姫は腕を組んでくるくる回り、シンデレラはドレスの裾をつまんで足を上げる。客席からも負けじと手拍子と歌声。
「おや、なんだか外が楽しそうだぞ? どれどれ‥‥」
手下Bがひょっこり顔を出すと、待ってましたと4人が飛びかかった。
「ガラスの靴キーック!」
「きびだんご攻撃!」
「毒リンゴー!」
「えーと、えーと‥‥ただのパンチー」
「ぎゅう」
ボコボコにされて倒れるビター。仲間の危機に気付いて、今度は手下Aの瀬名が現れた。
「手下A〜、やられました〜」
「ええい、なんて弱っちいのだ手下B」
瀬名がビターを蹴り飛ばすと、ビターはゴロゴロ転がりながら下手へ引っ込んだ。出番終わり。
「ふふふ。サンタを取り返しに来たのだろうが、そうはいかない。返して欲しくば、この私を倒してからになさい」
戦う気満々の瀬名。拳を上下左右に繰り出し、格好良くポーズを決める。
「そーれっ」
瀬名がポーズに酔いしれているところに、4人は落ちていた空っぽのサンタ袋を上から被せて、そのまま口を縛った。
「さようなら悪い魔女の手下さん」
袋の中でもがく瀬名、それを担いで上手袖にさっさと片付ける。手下Aもご退場。
「サンタさん、助けに来たよサンタさーん!」
「どこにいるの、サンタさん?」
呼べども返事はない。代わりに、高笑いが聞こえてきた。そう、開演の最初に響いた、あの高笑いだ。
「ほーっほっほ。ここまで来たのは褒めてあげる。でもサンタクロースは返さないわ」
「そんな悪いやつは、パーティーに呼んでやらないんだから」とシンデレラ。
「こっちにはケーキもごちそうもあるのにね」と桃太郎。
「クリスマスツリー、すっごく綺麗に飾ったのに」と赤ずきんちゃん。
「こんなに楽しいパーティーなのに」と白雪姫。
そしてアマンドのオルガン。今度は違う歌だ。ステージの4人と、客席のちびっ子達。皆が声を揃えて歌う、踊る。しかし魔女のまわりだけ、しいんと沈んでいる。
「‥‥う、うわああん」
淋しさに耐えきれなくなって、ついに魔女は泣き出した。
サンタさんを返して。みんなで一緒にクリスマスを祝おうよ。それで魔女は改心して、サンタクロースを返してくれました。
お話はこれでおしまい。めでたしめでたしの1時間。最後は綺麗に飾り付けの終わったクリスマスツリーの前で、サンタクロースと、おとぎ話の主人公達と、魔女とその手下達、それからちびっ子達とで、『きよしこの夜』の合唱で締められた。
さて、これで本当に子ども達には喜んで貰えたのだろうか?
「成功したのかな? 舞台はテレビと違って、反応が直接来るから怖いよ‥‥」
汗を拭いながら、李花は呟く。
「よ。お疲れさま」
客席のライトを全て付け、最後の仕事を終えた東吾が戻ってきた。
「‥‥帰るお客さん、つまらなさそうだったの?」
「え。何でそんなこと聞く?」
「だって、怖い顔してるから‥‥」
照明を操作する調整室からは客の出入りが見える。だから東吾も見ていただろう、客の反応を。
だが東吾の目つきの悪さゆえ、李花を不安がらせたのだろう。
舞台は成功だった。それを笑顔で伝えたかっただけなのに。