Words:Tears Dont Lie南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
えりあす
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
13.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/10〜01/16
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●本文
「はい、次の企画。今忙しいから、後はお願いね」
ジェニファーはそう言うと脚本をわたしに手渡した。
脚本‥‥と、言っても、ただ番組のタイトルと文字が列挙されているだけの紙だ。
彼女は優秀なプロデューサーであるが、いつも突拍子の無いアイディアで関係者を困らせている。
脚本に書かれている内容は‥‥文字が幾つも羅列されているだけ。
彼女が言うには‥‥
『極限まで文字を削る事で、逆にストーリーに奥深さが出るの。文字から文字へ繋がるそこに物語が生まれる。飾り立てられた文章では、奥深いストーリーは表現出来ない』
と言う事らしい。
さて、君達の力を借りて、この文字だけの脚本に命を吹き込み、ドラマとして映像にしたい。
協力をお願いする。
●番組名:Tears Don’t Lie
部屋、二人、怒声、扉、外、涙、木、雪、空、遠い、距離、見上げる、男性、公園、ベンチ、子供、笑い声、走る、時計、家、日記、涙、ビル、都会、人ごみ、喫茶店、椅子、テーブル、コーヒー、会話、女性、嘘、音楽、携帯、メール、謝罪、真実、涙
●リプレイ本文
「ジェニファー監督はご多忙か‥‥それでは、彼女にこれを渡してくれるかな」
ミハイル・チーグルスキ(fa1819)は手にした花束を彼女の部下に渡した。ジェニファーは他の番組や仕事で多忙な為、この番組の制作は彼女の部下に任せられている。
「今回はなかなか面白い企画です。演出家として、脚本家の端くれとしてこの文字に魂を吹き込みましょう」
演出は気鋭の演出家である弥栄三十朗(fa1323)が担当。脚本は前回同様、アーティストとしての感性が評価されたSAKUYA(fa1571)が迎え入れられた。
●Tears Don’t Lie
<出演>
・セオドア:伝ノ助(fa0430)
・セレ:華夜(fa1701)
・喫茶店のマスター:ミハイル・チーグルスキ
・ウェイトレス:百瀬 愛理(fa1266)
・客1・女性:ライラ・フォード(fa2162)
・客2・高校生:佐々峰 菜月(fa2370)
●二人の口論
<演出>
主人公の部屋で恋人達が口論となる場面。三十朗による生活感溢れる場面が演出される。
<映像>
セオドアの部屋に婚約者であるセレが来ていた。
ソファーに座り、寛ぐ二人。
恋人同士の甘い一時‥‥の筈だが、どうもセオドアの様子が変だ。
いつもと違う様相のセオドアにセレは『どうかしたの?』と問う。
暫しの沈黙後、彼はゆっくりと口を開いた‥‥
「な、何を言ってるの? 急に‥‥何かあったの?」
セレはセオドアの切り出した言葉に驚いた。
――君とは‥‥結婚出来ない
冗談でしょ?
そう、思いたかった。
友達にも近々結婚すると言ってある。一緒にドレスを選ぼうって約束もしたのに‥‥
だが、セオドアの目は真剣だった。
二人の口調は荒くなり、次第に口論へと発展する。
「煩い! 俺には他に婚約者がいて、その人と結婚する事になったんだ!」
セオドアの怒声が部屋に響く。
「そ、そんな‥‥セオドアの馬鹿ー!」
セレは叫びながら扉を開けて外へ飛び出した。
景色がぼやけて見える位、涙を滲ませて‥‥
●公園で
<演出>
三十朗の提案により、別撮りした場面にはめ込む形で映像化した。ラストは背景を霞ませ、次の女性のシーンへ繋がっていく。
<映像>
何であんな嘘を言ってしまったのだろう‥‥
あの時は‥‥ただ、彼女と一緒にいるのが嫌だった‥‥
セオドアは公園のシンボルでもある大きな木を眺めながら考える。
外は雪が残るくらい寒い。
心も‥‥寒々とした寂寞感が漂う。
空を眺めた。
いつも近くにいたのに‥‥愛し合ったのに‥‥
今は彼女が遠く感じる。
――娘の将来の為に別れてくれ
セレの父親からの言葉‥‥歯車が狂い始めたのはここからだった。
狂った歯車は、彼女との距離をますます遠ざける。
呪文のような怖気のする言葉を思い出し、俯くセオドア。
ふと、人の気配がして見上げると、男性が目の前にいた。
その時‥‥背景が霞んで見えた。
――泣いているのか、俺‥‥
●あの頃のように
<演出>
背景が霞み、男性の視点から女性の視点へと切り替わる。
<映像>
公園のベンチに座るセレ。
周りでは子供達が元気に遊んでいる。
その表情は明るく、幸せに満ち溢れていた。
自分はどうだろう。
悲傷に満ちた情けない表情で、涙を浮かべている。
「ずっと、子供のままでいたかった‥‥こんな思いをするくらいなら」
子供達の笑い声を聞きながら、昔の事を思い出す。
手を繋いで、いつも一緒に遊んでいたよね‥‥
何時から‥‥こうなったんだろ‥‥
もう一度、一緒に手を取り合って‥‥あの頃のように‥‥
――ポタッ
手の甲に冷たい雫が落ちたのを感じ、セレは現実へ引き戻された。
●喫茶店
<演出>
セオドアが都会の街の人ごみの中へ消えていく。セレは何か思いついたように、走って公園から抜け出していく。まるで、セオドアを追いかけていくかのように‥‥
場面は暗転。セオドアは吸い込まれるようにビルの中へ入る。
喫茶店の中は出演者以外、ぼやけた映像処理をして非現実感を演出。
<映像>
セオドアは喫茶店の前に立っていた。
何故、自分がここに来たのかわからない。
でも、何か不思議で懐かしい雰囲気がそこにあった。
まるで、隠れ家のような‥‥
――そう言えば昔、セレとこんな雰囲気の廃屋で一緒に遊んでいたよな‥‥
思い出が脳裏を過ぎると同時に、セオドアは喫茶店の扉を開けていた。
「いらっしゃいませ」
ウェイトレスが出迎える。
喫茶店にはマスターとウェイトレス、客が2人。
店内は何だか言葉で表せない空間だった。
心地よい音楽、懐かしい雰囲気‥‥過剰な装飾は無く、目に付くのは大きな本棚。
案内された席の椅子に座るセオドア。
ふと、時計に目を移すと‥‥針が無い。
疑問に思うセオドアのテーブルに、無言でコーヒーとクッキーを差し出すウェイトレス。
「まだ、何も注文していませんが‥‥」
「此処は‥‥特別なんです」
ウェイトレスは優しい笑みを湛えた顔で答えた。
混乱するセオドア。
その時、彼の耳に声が届く。
「香りを楽しむ心の余裕が今の君には必要だ」
声はマスターからであった。
少し厳しく、でも温かい言葉と雰囲気に父親のようなものを感じる。
コーヒーのいい香りが漂う‥‥ようやく、自分が冷静になったんだと気づく。
「彼女と喧嘩したんだ?」
セオドアの隣には何時の間にか女性客が座っていた。
気配はしなかったのに‥‥
しかし、そんな事より、セレと喧嘩した事をあたかも知っているかのような言動に驚いた。
「何で、そんなこと知ってるのって? ここにいる連中は皆、私みたいに得体の知れない人間ばかりよ」
クスッと微笑む女性。
笑っているのに、感情が顔に無い。
不思議な女性‥‥としか、言葉が思いつかなかった。
「嘘には二種類あるのよ。相手の為の嘘と、相手をどん底に突き落とす嘘と。間違えたら、取り返しが付かないわよ? よく考える事ね‥‥」
嘘‥‥女性から出た言葉に胸が痛む。
――俺が吐いた嘘は‥‥
「悩みがおありなのでしょう? よければお聞かせ願えませんか?」
違う女性の声が聞こえる。
それは、ウェイトレスの声だった。
ハッ、と我に返り、隣に居た女性の方を見る。
しかし、そこには誰もいなかった。
今、話していた女性は何だったんだ‥‥
ウェイトレスはコーヒーを注ぎながら微笑んでいる。
彼女には見えていたのだろうか?
「悩み‥‥」
「あちらの本棚をご覧ください。貴方に必要なものが見つかる筈です」
ウェイトレスが示した場所には大きな本棚がある。
セオドアは吸い込まれるように本棚へ近づき、一冊の本を手に取った。
‥‥日記だった。
彼女の父親の言葉に苛立ち、感情的になって嘘を言ってしまった事。
それによって、彼女が傷ついた事。
書いたのは誰かわからないが‥‥憶えのある事柄が事細かに綴られていた。
手が震える。
心の奥から言いようの無い熱い感情が込み上げてきた。
それを堪えようと必死に我慢をするが、隙間から漏れるものを感じる。
‥‥涙だった。
●悩める者達
<演出>
視点が客である一人の高校生に移る。
<映像>
「今日も来ちゃったのね‥‥」
あたしは受験勉強の息抜きをする為にこの喫茶店に来ていました。
ここで紅茶を楽しむのが、あたしの唯一落ち着く時間。
ウェイトレスのお姉さんに注文しようとすると‥‥見知らぬ男性と何か話しているようでした。
「新しい人かしら?」
ちょっと気になったので、チラチラと見ていると‥‥男の人を励ましているような感じです。
すると、男性は立ち上がって本棚に向かいました。
勝手に読んでいいのかなぁと思って見ていると、何か震えている様子でした。
突然、音楽が鳴ります。
ここ、携帯禁止なのに‥‥
男性は携帯のメールを読むと、外に飛び出して行きました。
そこには‥‥彼女がいました。
ちょっと妬いてしまいそうですが、不思議と微笑ましい気持ちになったのです‥‥
●真実の涙
<演出>
再び、主役へ視点が戻る。
<映像>
携帯のメールはセレからだった。
『会いたいよ‥‥』
すぐに彼女へ電話を掛け、喫茶店を飛び出す。
外には‥‥セレがいた。
携帯を耳に当て、涙の痕が残っているという情けない格好だったが‥‥そんな事どうでもよかった。
「どうしてここが‥‥」
震える声で尋ねる。
「不思議な女性に‥‥セオドアがここに居るって‥‥」
不思議な女性‥‥?
何故か心当たりがあった。
でも、そんな事より、彼女に謝罪したかった‥‥
嘘を吐いてしまった事を‥‥
セレを抱きしめ、小さく囁く。
真実を‥‥
――俺には地位も、名誉も、財力も無い。でも、俺がお前に相応しい相手だという事を父親に証明する‥‥微かだけど、必要なものが何かわかったような気がするから‥‥絶対に‥‥結婚しよう‥‥
●終幕
高校生へ視点が移り、二人を見ながら『あたしも彼等みたいに‥‥悩みを吹き飛ばせるかな』と独り言のように呟きながら喫茶店を後にし、エンディング。
愛理のナレーションが入れる。
「口で嘘は言えても、涙は嘘を吐きません‥‥嬉しい時も、悲しい時も一緒にいてくれるパートナーですから」
<脚本>
・SAKUYA
<演出>
・弥栄三十朗
●後日
撮影終了後、SAKUYAの携帯へメールが届く。
ジェニファーからだった。
『やる気は伝わるけど‥‥もっと、サク自身を表現して欲しかった』