The Train:Power南北アメリカ

種類 ショート
担当 えりあす
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 5.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/27〜02/02

●本文

●オムニバス・ドラマ『The Train』制作依頼
 お世話になります。
 以前、制作を依頼したオムニバス・ドラマ『The Train』が好調なので、再度監督に制作をお願いします。
 今回も設定は前回と同じ、謎の列車を舞台にしたドラマです。
 詳しくは添付致しました資料をご覧下さい。
 それでは、良い返事を頂ける事を期待して‥‥

  *

「おぉ! もう一度、この作品に携わる事が出来るなんて!」
 新米監督のミスジャー・L(エル)は送られてきたメールを読んで絶叫した。
 ミスジャー監督にとっても、このオムニバス・ドラマは感慨深いものだったようだ。
 再び、この制作に携わる事が出来ると思うと嬉しくなる。
 早速、ミスジャー監督は制作準備に取り掛かった。

●『The Train:Power』出演者募集
1):配役(役名は任意)
 ・主人公:1人
 ・自警組織リーダー:1人
 ・列車に乗っている人
 ・その他(車掌含む)

2):脚本
 主人公は体が弱かった。
 体が弱いから、いつも虐められる。
 奴等に立ち向かうだけの力は無い。
 ボクシングとか、空手とかを習って強くなりたいけど、そもそも基礎体力が無いから続かない。
 いつも虐める奴等を倒す力が欲しい‥‥
 そう思ったとき、ある方法を思いつく。

 ――体力だけが力じゃ無い‥‥

 お金を握り締め、地下鉄に向かう主人公。
 彼の前に止まった列車‥‥それは、心に傷を持つ人しか乗れない謎の列車『アンタレス』だった‥‥

 同じ頃、自警組織のリーダーも地下鉄にいた。
 ニューヨークは以前に比べて犯罪は減ってはいるが、それでもいつ事件が起こってもおかしくない都市だ。
 彼らはボランティアで周辺地域の安全監視パトロールを行っている。
 この自警組織は犯罪に非暴力で立ち向かう。
 武器は一切持たない。
 銃や刃物を持っているのが当たり前の犯罪者に‥‥だ。
 暴力では何も解決しない。
 これが、自警組織の理念。
 安心して住める地域を目指し、彼らは命を掛けて活動する。
 ある日、悲運はやって来た。
 サブリーダーが銃弾に倒れたのだ。
 その日を境にメンバーは減り続けた。
 誰だって死ぬのは怖い。
 たかがボランティアで死と隣り合わせなんて‥‥

 ――やってきた事は意味の無い事だったのか‥‥

 リーダーは苦しみ、悩んだ。
 そんな彼の前に『アンタレス』が停車する‥‥

3):撮影箇所
 ・主人公が地下鉄に向かう(A)
 ・自警組織リーダーが地下鉄に向かう(B)
 ・各々、乗客と触れ合う(C)
 ・主人公とリーダーが出会う(D)
 ・本当の力とは何か‥‥リーダーや乗客と話す中で主人公はようやく気が付く(E)

4):資料
 ・オムニバス・ドラマ『The Train』:同じ舞台(列車)で複数の監督による競作となるドラマ。
 ・謎の列車『アンタレス』:心に傷を持つ人しか見ることが出来ず、また乗車する事が出来ないという不思議な列車。どこで止まるのか‥‥それは乗客が本当に望んだときしか止まる事はない。その為、ずっとこの列車に乗り続けている人もいる。『アンタレス』とは蠍座の赤い恒星で、ギリシャ語で『火星に対抗するもの』を意味し、ラテン語『コル・スコルピイ(さそりの心臓)』等、多くの固有名詞がある。
 ・乗客:何かしらの理由で心に傷を持ち、列車に乗っている人々。
 ・車掌:主人公と出会う不思議なオーラを放つ乗務員。主人公にこの列車が何なのか、何故主人公がこの列車に乗ったのかを説明する。 今回は特に必要ではない役。

●今回の参加者

 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa0352 相麻 了(17歳・♂・猫)
 fa0540 江人原 雷華(20歳・♀・狐)
 fa1181 青空 有衣(19歳・♀・パンダ)
 fa1431 大曽根カノン(22歳・♀・一角獣)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa2823 (22歳・♀・ハムスター)

●リプレイ本文

●キャスト
・リュウ・タチバナ:相麻 了(fa0352)
・ケイト・フロスト:角倉・雨神名(fa2640)
・ライカ:江人原 雷華(fa0540)
・ミスティ:大曽根カノン(fa1431)
・上月祥子:青空 有衣(fa1181)
・ベラ・ロッソ:大道寺イザベラ(fa0330)
・無名の格闘家:タケシ本郷(fa1790)

●The Train:Power
 その日は雨だった。
 パーカーのフードを深く被った男がニューヨークの街道を歩いている。
 彼の名はリュウ・タチバナ。
 濡れたフードの奥に見える顔には‥‥誰かに殴られたのか、アザと酷い傷があった。
「あいつら‥‥絶対に許せねぇ‥‥」
 彼の目には復讐‥‥いや、それ以上の激情が宿っている‥‥

 ――殺意

 あいつら人間じゃねぇ‥‥人間じゃないヤツは死んじまえ‥‥
 呪文のように呟きながらリュウはショットガンを入手する為、ガンショップへ向かった。
 地下鉄で列車を待つリュウ。

 同じ頃、ケイト・フロストも地下鉄に向かっていた。
 表情に深い悲しみを浮かべ、落胆した様子でゆっくりと歩いている。
 彼女は先日、実の兄を亡くした。
 フロスト兄妹は周辺地域の安全を守ろうと自警組織を設立し、この組織に賛同した仲間達と共に日夜パトロールをしている。
 彼らは武器を一切持たない。
 ケイトの兄は犯罪に怯える弱者を放っておけない性格だったが、同時に乱暴者でもある。
 その為、度々事件に繋がる行動を取ってしまい、妹に迷惑を掛ける事があった。
 だが、そうした事がきっかけで暴力に疑問を持った兄は、ケイトと共に非暴力で犯罪に立ち向かう自警組織を立ち上げて、周辺地域の安全を守る活動をしていたのだ。
 その兄が‥‥先日、銃弾に倒れた。
「兄さん‥‥これからどうすればいいの?」
 信頼する兄を失ったケイトは、まだそのショックから立ち直っていない。
 これからどうすればいいのか、組織をどうしていけばいいのか、全くわからなかった。
 何かを探しにケイトは地下鉄に向かう。
 そこは‥‥兄が倒れた場所だった‥‥

●アンタレスという名の列車
 2人の前に列車が止まる。
「あれ‥‥見たことの無い車両形式だな?」
 新車両かな? と、少し不思議に思いながらリュウは列車に乗った。
 車室には数人の乗客のみ。
「昼間なのに何でこんなに人が少ないんだ?」
 いつも乗っている列車と何か違う雰囲気にリュウは疑問を抱いた。
 違う車両に乗ったのか? リュウは戸惑いながら車室に入る。
「あの、すいませんが‥‥」
 リュウはこの列車がどこに向かうのか、座っている学生らしき女性に尋ねた。
「この列車の名は『アンタレス』。次に降車出来るのは‥‥心の傷が消えたとき‥‥」
 大学生・上月祥子は、十字架のペンダントを握り締めながらリュウに答える。
「聞いた事無い名前だな‥‥それに、心の傷って! 一体、何なんだ!」
 リュウは確信した。

 ――この列車は違う、何かが変だ。

 次の駅で降りよう‥‥そう思ったリュウだが、祥子の言葉が脳裏を過ぎる。

『次に降車出来るのは心の傷が消えたとき』
 一瞬、何故か胸に痛みを感じた。
 何の痛みかはわからない。
 同時に不安が湧き上がる。
 ‥‥いつ降りられるんだ、と。
 慌てるリョウに乗客の一人が近づいて来る。
「よう、久しぶりじゃねぇか」
 格闘家‥‥だろうか、筋骨隆々の男が声を掛けてきた。
 名前は知らないが、リュウも彼を知っている。
 一度、この格闘家に弟子入りしたが、リュウの不甲斐無さに放り出された過去があった。
「世の中ってのはな‥‥でかいブツを持った方が勝つんだよ。お前でも強くなれる」
 リュウの肩を叩き、その格闘家は席の隣にある大きなカバンを手にしようとした。
 彼が何故、この列車に乗っているのかはわからないが、そこにリュウが欲している力がある。
 リュウが首を縦に振った、その時‥‥
「それは銃でしょ!」
 突然、大きな声が聞こえた。
『銃だ』と聞こえれば、車内はパニックになる筈だが、乗客は平然としている。
 そんな不自然さも感じずにリュウが振り返ると、そこには小柄な少女がいた。
 ケイトだった。
「そんなもので強くなれる訳は無い! ただ、人を傷つけるだけよ! そんなの本当の力じゃない!」
「じゃあ、弱い者は強いヤツにやられるだけか! 力が無ければ、自分がやられる!」
 ケイトの言葉にリュウが反論する。
 睨みあう二人。
「あなたの『力』ってなぁに?」
 感情がぶつかり合う二人に、黒い服を着た神秘的な雰囲気の女性が話しかけてくる。
 ミスティという名の女性であった。
「いつも俺を傷つけるヤツを倒す事が出来る力‥‥俺はその力が欲しいんだ!」
 リュウが言うと、ミスティは鋭い眼光を放ち、憎悪をも感じさせる口調で答える。
「それ以外に解決する方法は無いのかしら?」
 その邪悪なオーラに気圧されるリュウ。
「その力に怯える弱者を守るもの‥‥それが本当の力だと思う」
 ケイトが正反対の意見を言う。
「では、弱者を守りきれるだけの力があなたにはあるのかしら? 力が無いから‥‥」
 ミスティは慈悲を感じさせる雰囲気で答える。
 最後の言葉をあえてミスティは言わなかったが、ケイトは理解できた。
『兄さんは‥‥死んだ』
 ケイトは心の傷が痛んだ。
「私は誰よりも上手く踊れるのよ! なのに‥‥」
 車椅子に乗った少女がケイトに近づいてくる。
 彼女はバレエ界で将来を有望視されていた元ダンサー・ベラ・ロッソであった。
 しかし、強盗事件に巻き込まれ、逃げようとした所を至近距離から銃撃されて病院に送り込まれた。
 一命は取り留めたものの‥‥二度と自分の足で歩く事が出来ない体になってしまったのだ。
「大体アンタらみたいなのが、しっかりしないから!」
 ベラは泣きながらケイトに掴みかかる。
 興奮し、車椅子が倒れ‥‥それでも、砕かれたプライドと将来を奪われた深い悲しみを怒りに変えてケイトへぶつける。
 ベラの泣声が車内に響く中、女性の独り言がケイトに耳に届いた。
「銃さえ‥‥銃さえ無ければ、わたくしは何も失わずに済んだのに」
 未亡人・ライカは、家族二人と写っている写真を握り締め、すすり泣いていた。
 彼女の夫と子供も強盗と警察の銃撃戦に巻き込まれ、その流れ弾に当たって死んだのだ。
(「こんなにも銃で傷ついている人達がいるなんて‥‥」)
 ケイトは自分達がやってきた事、非暴力による治安維持は幻想だったのかと思い始めてきた。
「結局、銃がなきゃ自分の身も守れないんじゃないか!」
 リュウが叫ぶ。
「‥‥あなたは、本当に銃を使いたいのかしら? 見ず知らずの人の命を奪うことになっても」
 だが、そんなリュウに向かってライカが呟く。
「わたくし達はただ平凡に生きていたいだけなのに‥‥何故、二人は亡くならなければならなかったのかしらね?」
 涙で潤んだ瞳をリュウに向けるライカ。
 リュウは心の傷口が広がった。
 銃を持った後の顛末と後悔‥‥それを垣間見た気がしたから‥‥
「あなたは、あの時の‥‥」
 ライカはケイトと目が合った。
 実はケイトと兄も、ライカが巻き込まれた事件現場にいた。
 通行人に被害が出ないように非難させたりしていたのだ。
「2人を失ってしまったわたくしには、もう何も残ってはいないけれど‥‥それでも、あなたには感謝しているの。生きていれば、こうして二人を思い出すことが出来るから‥‥ありがとう」
 ライカはケイトに頭を下げる。
「何でだろう‥‥こんな悲しみに包まれた中でも、すごく暖かい気持ちになれるのは‥‥」
 ライカの『ありがとう』という言葉を聞いて、ケイトの心に不思議と湧き上がってくる感情があった。
 僅かでも、こうして助けられ、感謝してくれる人がいるのなら、今までやってきた事は間違いじゃない。
 そう、思えてきた。

●降車
『アンタレス』の乗降車口が開く。
 降りようとするケイトに祥子が話しかける。
「他の人の為に何かをしてあげられるっていうのは、とても素晴らしい事だと思うよ。でも、その為に自分を犠牲にしちゃダメ。自分の事を考えれない人が他の人の事を考えるなんて、出来っこ無いんだから」
 祥子はケイトに忠告するように言った。
「私は大学で演劇サークルを設立して、皆の為に頑張ってきたんだけど‥‥」
 そこから祥子は黙った。
 皆の喜びが自分の喜び‥‥でも、他人の事ばかり考えるあまり、自分自身の存在が薄れてしまい、心が病んでいた。
「『自分』をしっかり持って。そうじゃなきゃ、この列車から降りられても、また乗り込む事になる。次は、私と同じ理由で‥‥」
 想い人からのプレゼントである十字架のペンダントに触れながら、祥子はケイトを見送った。
 心の傷に自覚はあるが‥‥想い人を心に描き、一刻も早く帰りたいと思いながらも彼女は降りられない
 きっと、永遠に‥‥

「結局、報復は報復しか産まない‥‥って事かよ」
 降りたのはケイトだけではなかった。
 リュウもいる。
 虐めとの戦いが自分との戦い‥‥リュウは困難に立ち向かう勇気という力を手にした。
「答えが出たのですね‥‥」
 ミスティは微笑みながら二人を見送った。
「一度失敗したけど、もっといい方法があるかも‥‥私にはまだわからないけど、きっと見つけてみせる」
 ケイトの表情には今までに無い自信があった。
 隣には誰よりも頼れる仲間がいるのだから‥‥