Words:Snow white St.南北アメリカ

種類 ショート
担当 えりあす
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 13.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/02〜02/08

●本文

●Winter night again
 ある冬の夜。
 その日は雪だった。
 ある通りの店の軒先で、ルーシーは待ち続けた。
 今日、片思いの男性とデートの約束をしていたのだ。
 しかし、約束の時間を過ぎても彼は現れなかった。
 2時間、3時間‥‥時間だけが過ぎていく。
 先程まで人通りの多かった通りは、もう誰もいない。
 雪が通りを白く染めてゆく。
 店の明かりも消え、暗闇の中でルーシーは彼を待った。

 ――寒い

 体も心も‥‥
 温もりが欲しい‥‥
 彼はきっと来てくれる‥‥
 ただ、自分にそう言い聞かせて、待ち続ける。

 ‥‥‥‥

「ルーシー!」
 声が聞こえた。
 彼‥‥アダムスの言葉が‥‥
 何故か体が熱かった。
 愛する人が来てくれたから‥‥
 ‥‥いや、違う。
 振り返った時、彼の顔がぼやけて見えた。
 そして‥‥意識が無くなった‥‥

 ルーシーは酷い熱だった。
 こんな状態でアダムスを待ち続けていたのだ。
 アダムスに倒れ掛かるルーシー。
 彼の手からバラの花束とカードが落ちる。
 カードが開くと、そこには『Be My Valentine』の文字があった‥‥

  *

 病院に運ばれるルーシー。
 だか、熱は酷く、意識も回復しない。
 数日後、彼が受け取った連絡は‥‥

 ――ルーシーは死んだ

 愕然とするアダムス。
 あの日、仕事で残業をしなければならなかった。
 少しくらい遅れても‥‥その甘い考えが間違いだった。
 結局、仕事は長引き、彼女を長い間待たせてしまったのだ。
 そして‥‥失ってしまった。

 それから、アダムスは毎年ここ時季になると、バラの花束を待ち合い場所だった店の軒先に供える。
 もちろん、カードも一緒に‥‥
 彼の隣には新しい恋人がいる。
 でも、ルーシーの事は永遠に忘れる訳にはいかない。
 自分の犯した罪によって、彼女の想い、愛、命‥‥全て奪ってしまったのだから。
 アダムスはこの時季‥‥バレンタイン・デーになると、必ずこの場所を訪れる。
 罪を償う為に‥‥

 ――――‥‥‥‥

●新しい息吹
 ジェニファーは過去に撮影されたドラマ『Winter night again』の脚本を読んでいる。
 彼女の表情は釈然としない様子であった。
「さて‥‥彼らはこのドラマをどうリメイクしてくれるかしら」

 ある制作会社からドラマ制作の依頼があった。
『Snow white street』というタイトルのドラマだ。
 このドラマの脚本は下記の通り‥‥
 あるのは文字の羅列だが、皆の想像力と演技力でこれに魂を吹き込み、ドラマとして映像にしたい。
 協力をお願いする。

●番組名:Snow white street
 夜、雪、通り、軒先、女性、約束、時間、デート、寒さ、白い、暗闇、遅刻、声、男性、温もり、バラの花束、カード、文字、病院、連絡、死、仕事、残業、失う、隣、恋人、永遠、忘却、罪、償い

●今回の参加者

 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa1819 ミハイル・チーグルスキ(44歳・♂・狐)
 fa1861 宮尾千夏(33歳・♀・鷹)
 fa2162 ライラ・フォード(22歳・♀・一角獣)
 fa2215 和山 繁人(19歳・♂・ハムスター)
 fa2370 佐々峰 菜月(17歳・♀・パンダ)
 fa2627 ラルス(20歳・♂・蝙蝠)
 fa2650 ジョン・ハーレー(24歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

 ある制作会社の会議室。
 ここで、ドラマ『Snow white street』の制作会議が行われていた。
「この前は素敵な花束をありがとう。今回も宜しく頼むわ」
 チーフ・プロデューサーであるジェニファーが入室する。
 彼女は相変わらず感情の読めない表情でミハイル・チーグルスキ(fa1819)と握手を交わす。
「こちらこそ宜しく。相変わらず忙しそうだね」
「えぇ。でも、この様子なら今回も安心して任せる事ができそうね」
 ミハイルは弥栄三十朗(fa1323)と共に、脚本の構成や演出を練りこんでた。
「脚本は中々いい具合に纏まりました。後は大まかなセッテイングと、細かい演出を決めていきたいと思います」
 今回、三十朗はBGMやSEにかなり力を入れており、各場面に相応しいサウンドをセレクトしている。
 また、出演者の要望をセットに生かす為に、場面毎の構成を考えたり、映像にする際の処理をどうするか等を細部に渡って決めていた。
 その為、資料やコンテは膨大な量となり、三十朗はそれらを入念にチェックしている。
「これなら、今回もいい映像が撮れそうね」
 三十朗の仕事振りにジェニファーは表情に僅かな笑みを漏らした。
「これが演出家、脚本家としての本分ですからね」
「いい役者といい裏方がいて、初めていい作品が出来る。期待しているわ」
 ジェニファーは三十朗と強く握手を交わすと部屋を出た。
「さて、脚本と構成はこんな感じでいいかな」
「実は、主人公の彼女の役が空白なのです。これを埋めるにはどうしたらよいでしょか」
「ふむ‥‥では、以前にも『Words』に出演した事のあるライラ君を推薦しようかな」
 ミハイルは携帯を取り出すと、会議室から退室した。

●Snow white street
<出演>
・パーシー・ウェイン(主人公):和山 繁人(fa2215)
・主人公の彼女:ライラ・フォード(fa2162)

<演出>
 演出全般は三十朗が担当。
 主人公の彼女が軒先で待っているシーンでは、最初は期待に胸を膨らませている(やや明るいBGM)が、時間の経過と共に不安と苛立ちが見え始めてくる。同時にBGMも暗くなっていき、重苦しい雰囲気となる。

<映像>
 その夜。
 街の通りは白い雪に覆われていた。
 ある店の軒先で一人、誰かを待っている女性がいた。
 彼氏を待っているのであろうか?
 彼女は頻りに時間を気にしている。
 今日は彼とデートの筈だった。
 だが、約束の時間はもう過ぎている。
 少し位の遅刻は、期待を煽る彼の演出だと割り切る事ができる。
 でも、こんな寒い外で長時間も待たせるなんて‥‥
 彼女は手にしていた白いバラの花束を強く握り締めた。
 震えが止まらない。
 寒さだけでなく‥‥
 暗闇で一人取り残されているという不安‥‥
 本当はもう帰りたかった。
 でも、彼を信じているから‥‥
 彼女は時間が過ぎると同時に、期待が不安へと変わっていくのを感じていた。

 ――ザッ、ザッ、ザッ‥‥

 雪を踏む足音が近づいてくる。
 僅かに明かりが漏れる街灯が彼女に近づいてきた人の顔を照らす。
 彼氏‥‥パーシー・ウェインだった。
「遅いじゃない! 今、何時だと思っているのよ!」
「ごめん、急に仕事が入って遅れたんだ」
 仕事?
 彼女はパーシーの遅刻の言い訳に激怒した。
 そんな言い訳なんか聞きたくない。
「本当はすぐに帰るつもりだったけど‥‥絶交すると言いたくて待っていたのよ!」
 彼女はそう言うと、パーシーに背を向けてその場を立ち去ろうとする。
「待ってくれ! 僕にだって都合があるんだ!」
 パーシーは彼女を引き止めようとする。
 だって、クビになったら‥‥
 本当は今日、彼女にプロポーズする予定だった。
 でも、今の彼女の機嫌はそれどころじゃない。
 誰もいない通りに二人の口論の声が響く。
「外は寒い。中へお入りなさい」
 そんな二人へ声がかかった。
 振り向くと、小さな店の入り口から男性が手招きしている。
 そこは、古風な小さい喫茶店だった。
 こんな所に喫茶店なんてあったっけ?
 疑問に思うパーシーを置いて、彼女は一人喫茶店へと入っていく。
「ま、待ってくれよ!」
 彼女を追うようにパーシーも喫茶店の中へと入っていった。

●喫茶店の中で
<出演>
・フランク・コールドウェル(喫茶店の店主):ジョン・ハーレー(fa2650)
・喫茶店の客(占い師):宮尾千夏(fa1861)

<演出>
 二人が喫茶店へ招かれるシーンは、周囲がだんだんとぼやけていき、喫茶店が徐々に浮かび上がってくるように演出。
 喫茶店の中は現実世界と離れているかのように、幻想的な雰囲気で周囲はぼやけた映像処理がされている。

<映像>
 喫茶店の中は何か言い難い、不思議な雰囲気だった。
 どう表現すればいいのか‥‥例えば、時間が止まっているような‥‥そして、店には暖炉があり、何か温もりも感じる‥‥
 妙な感覚を覚えつつ、喫茶店に入ったパーシー。
 彼女は既にカウンターに座って、コーヒーを注文していた。
「何か‥‥お悩みのようですね」
 喫茶店にいた客がパーシーに声をかける。
 テーブルにはタロット・カードが広げられていた。
 占い師だろうか?
「宜しければ、占って差し上げましょう。解決の糸口が見つかるかもしれません」
「はい‥‥」
 パーシーはその占い師のテーブルに座った。
 占い師はカードを一枚めくる。
「‥‥これは不吉な」
 現れたカードは‥‥『DEATH』
『死』を表すカード。
 勿論、直接的に死と言う意味では無いが、いい解釈は出来ない。
「だが‥‥」
 占い師はさらに、もう一枚のカードを横位置に重ねた。
 そのカードは‥‥『THE WORLD』
「今は辛い時期でしょう。でも、この現状を乗り越えると、そこに新しい世界が広がるでしょう」
「ありがとう。気持ちが楽になったよ」
 パーシーは礼を述べると、彼女の座っているカウンターに向かう。
「素敵な花束ね」
 だが、彼女はパーシーよりも、近くに飾られていたバラの花束に興味を持っていた。
 よく見ると、そこにはカードが挿してある。
 バラは新しく見えるのに、カードは古びた感じがした。
「これかい?」
 眼鏡をかけ、髭を蓄えた40歳位の店主‥‥フランク・コールドウェルと名乗った‥‥は、苦笑しながらカードを見せる。
『ハッピー・バレンタイン 貴方を世界一愛するライザよりフランクへ』
 そこにはこのような文字が書かれていた。
「まぁ、これには色々思い出があってな‥‥」
 フランクはカードにまつわるストーリーを二人に語り始めた‥‥

●フランクの回想
<出演>
・フランク・コールドウェル(若い頃の店主):ラルス(fa2627)
・ライザ(若い頃の店主の彼女):佐々峰 菜月(fa2370)
・オーナー:ミハイル・チーグルスキ

<演出>
 喫茶店の店主の回想シーン。
 映像全体はセピア調で、出演者以外はぼかして回想シーンらしい映像処理を行っている。
 BGMは昔、喫茶店でよく流れていた曲のアコースティック・バージョンを使用。

<映像>
 少女は雪の中で恋人を待っていた。
 デートの約束をしていたのに、時間になっても来ない。
「もう‥‥フランクはいつも仕事ばかりなんだから‥‥」
 少女‥‥ライザは呟いた。
 彼の事は心から愛している。
 でも、彼はいつも仕事ばかりで‥‥
 あたしより、仕事の方が大事なの?
 そう思った時、一番考えてはいけない事が脳裏を過ぎった。

『あたしのこと、好きじゃないのかな‥‥』

 急に不安に駆られるライザ。
 その不安を振り払うかのように俯きながら首を振る。
 そんな事は無いと‥‥
 だが、その時。
 彼女は急接近してくる車に気が付いてはいなかった‥‥
 雪でスリップした車がライザに勢い良く向かってくる。
「え‥‥!?」
 小さな体が宙に舞う。

 数分後。
 ライザはすぐに病院へ運ばれた。

  *

「車が雪でスリップして‥‥ライザに突っ込んだだって!? そ、そんな!?」
 病院から電話で事故の連絡を受けたフランクは愕然とした。
「そ、それで、ライザは大丈夫なんですか!」
 彼女の容態は極めて危険な状態だと告げられる。
 慌てて、病院へ向かおうとするフランク。
「おい! 仕事が終わっておらんぞ! 今日中に終わらせる事が出来なかったら給料から引くからな!」
 仕事場のオーナーの声を無視し、フランクは職場を飛び出した。

 病院で彼を待っていたのは‥‥ライザの死。
 彼女の遺体に面会しようとするが、医師に止められる。
「何故、邪魔を!? 彼女に会わせてくれ!」
 医師は首を振る。
 ライザの遺体は損傷が激しく、特に顔は生前の面影を残していないと医師は告げた。
「そ、そんな‥‥」
 もし、残業をしていなかったら、彼女は‥‥
 フランクは泣き崩れた。

●幻
「まぁ、こんな過去の話さ‥‥あの頃は仕事が第一で、よく彼女を待たせたものだった。あの夜も、残業なんかせずに時間通りに待ち合わせ場所に行っていればライザを死なせずに済んだものを‥‥失って、初めて彼女が本当に大切な存在だったと気づいたんだ」
 喫茶店の店主・フランクはパーシーと彼女に昔話を語り終えた。
 パーシーはその話と自分を照らし合わせていた。
 今の自分と重なる部分がある‥‥そして、自分にとって彼女存在とは‥‥
 昔は人見知りが激しかったけど、そんな自分を変えてくれたのが彼女だった。
 そんな大事な彼女を失いたくは無い。
(「昔の僕なら、こんな事出来やしない」)
 パーシーはスーツの上からポケットを触る。
 小さな感触。
「幸せはいつも隣にあるが、気付かない事が多い。貴方達も恋人なら簡単に別れると言わず、お互いの事もう一度考えてごらん。そうでないと私の様に永遠に苦しむ。私はライザを忘却できなかった。その罪の償いとして」
 フランクが悲しい眼をしながら言う。

 二人は喫茶店を出た。
 顔を見合わせると、パーシーは彼女の指にそっと指輪をはめる。
「え!?」
 驚く彼女だが、すぐに彼の手を握り、耳元で囁く。
 愛してる‥‥と。

  *

 その後、二人は結婚した。
 その事を報告する為に、二人はあの夜にお世話になった喫茶店を探した。
 だが、不思議な事にその喫茶店はどこにも見当たらなかった。
 街の人に尋ねてもそんな喫茶店は無いという答えだけ。
 あの日の出来事は幻だったのか‥‥
 そう思い始めたパーシーの耳にある噂が飛び込む。

『20年前にこの近くで、ある青年が事故死した恋人の後を追って自殺したらしい』

 パーシーにはあの日の出来事が何だったのか理解出来た。
 フランクさんは忘却できなかった。罪の償いとして‥‥でも、僕は彼女を忘却しない。想いの証として‥‥

<脚本>
・オール・キャスト

<演出>
・弥栄三十朗