Mirror world南北アメリカ

種類 ショートEX
担当 えりあす
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 9人
サポート 0人
期間 03/20〜03/24

●本文

<CM>
 さーて、皆さん!
 もし、現実と何もかもが反対の世界に迷い込んじゃったらどうしますか?
 文字も逆だし、テレビの映像だって逆。
 見慣れた風景も逆だし、あの子の性格だって現実と正反対なのですよ!
 こーんなヘンテコな世界に突然放り投げられたら、誰もが慌てるでしょう。

 ――その世界に入れる不思議な鏡があったとしたら‥‥

 ある人は、骨董品を扱うお店で偶然見つけた鏡に手を触れた瞬間、鏡の世界に飛ばされてしまいました。何もが反対の世界でパニックになり‥‥
 ある人は、いじめっこに復讐する為に、自分から鏡の世界に入っていきました。そう、何もが反対の世界だから、ここではいじめっこは‥‥

 このドラマは、そんな鏡の世界に偶然迷い込んだ、あるいは、自らその世界に行く事を望んだ皆さんの物語です。
 もし、あなたの部屋にある鏡がその入り口だったとしたら‥‥

●ドラマ『Mirror world』出演依頼
 ある制作会社が手がけるドラマ『Mirror world』の出演者を募集しています。
 鏡のように全てが正反対の世界に入り込んだ人々の物語を演じていただきます。
 ドラマはオムニバス形式で、鏡の世界を舞台に複数のストーリーを展開する予定です。

A):偶然、鏡の世界に入り込んでしまった人々を演じる。
 何かの拍子で偶然にも鏡の世界に入ってしまった人を演じ、その世界でパニックになったり、元の世界に戻る為に解決策を練ったり‥‥

B):自分から鏡の世界に入り込んだ人々を演じる。
 鏡の世界に行くことができるという噂を聞き、何かの目的を持ってこの世界に入り込んだ人を演じます。意中の人を振り向かせたり、強いヤツに復讐したり‥‥ハッピー・エンドでもバッド・エンドでもOK。

C):その他
 例えばその鏡を扱う骨董品店の店主やストーリーテラー等。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0867 朝守 黎夜(22歳・♂・獅子)
 fa1431 大曽根カノン(22歳・♀・一角獣)
 fa1571 SAKUYA(18歳・♀・兎)
 fa1737 Chizuru(50歳・♀・亀)
 fa2021 巻 長治(30歳・♂・トカゲ)
 fa2378 佳奈歌・ソーヴィニオン(17歳・♀・猫)
 fa2668 大宗院・慧莉(24歳・♀・狐)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)

●リプレイ本文

●Mirror world
 あるマンションの一室。
 窓から街の様子を眺めている少女がいます。
 少女は車椅子に座っていました。
 彼女は足が不自由で病気がち。
 学校にも行けず、友達もいませんでした。
 ただ、自室から街の人達を眺めているのがいつもの日課となっているのです。
「いいな‥‥みんな楽しそうにお買い物したりしていて‥‥わたしは‥‥」
 少女の白皙の頬を涙が濡らしました。
 溢れる暗く、苦しく、悲しい感情。
 少女は堪らず銀色の小さな鏡を手に取り、自分の顔を見ます。
 映し出されたのは‥‥
「何て醜い顔‥‥」
 涙が頬から落ち、鏡を濡らしました。
「こんな体じゃなかったら、みんなみたいに遊んだりできるのに‥‥」
 少女は鏡を睨みつけます。 
 睨んでいる相手は‥‥自分。
「鏡は反対に物を映すわ。それなら、鏡の中のわたしは‥‥そう、あなたよ? あなたは元気なんでしょ?」
 鏡に問う少女。
 勿論、答えが返ってくる筈はありません。
「もし、鏡の世界に行けるのなら‥‥」

●アンティーク・ショップ
 ある雑居ビルの間を抜けて、奥の方に看板も無い小さな骨董品店がありました。
 一体、どんなものを扱っているのか、店構えからは全くわかりません。
 恐る恐る店のドアを開け、中に入ると‥‥
「いらっしゃいませ」
 女性の声が店内に響きました。
 店にはこの女性しかいないようです。
 恐らく、この女性が店主なのでしょう。
 店の中を見渡すと‥‥目に付くのは鏡。
 古今東西、大小様々な鏡がこの店に存在しています。
 骨董品店らしい古いアンティーク調の大きな鏡もあれば、普通にどこの店でも売っているような手鏡もあるのです。
「何かお探しですか」
 店主は銀色の小さな鏡を手に話しかけてきました。
「この鏡なんていかがでしょう」
 店主は鏡を覗くと、優しく微笑みます。
 その笑みに緊張が解れ、店主が勧めた銀色の小さな鏡を手に取り‥‥

●エピソード1:鏡の向こうの二人
「鏡は忠実に物事を映します。この鈍色の銀の鏡さえ、貴方の事を映そうとしています」
 骨董品店・店主兼ストーリーテラーのSAKUYA(fa1571)さんがそっと鏡を覗きました。
 銀の鏡に優しくも怪しい、何とも不思議な笑みが映し出されます。
 しかし、何かを感じ取ると、その表情が一変。
 表情を読まれまいと、素早く手で鏡を隠します。
「‥‥さて、鏡に取り込まれた方がいるようです。何もかもが現実と反対の、鏡の世界に足を踏み入れた人達の物語‥‥見てみましょうか?」
 鏡を隠していた手を退けると、そこには買い物をしている2人の女性が映し出されていました‥‥。


<出演>
・カノン:大曽根カノン(fa1431)
・佳奈歌:佳奈歌・ソーヴィニオン(fa2378)
・骨董品店・店主:SAKUYA


 ポカポカと早春の日差しが暖かい休日の昼下がり。
 佳奈歌さんは街でウィンドウショッピングを楽しんでいます。
「お休みの時くらいは、こうやってゆっくりとしたいですわね」
 少し歩きつかれた佳奈歌さんは、ファーストフード店でハンバーガーとコーラを買って、公園のベンチで休憩をしていました。
 公園では手を繋ぎながら歩いているカップルや、友達と仲良く会話を楽しんでいる人、子供と遊んでいる親‥‥
 実に様々な人達が、思い思いの過ごし方で休日を楽しんでいます。
 皆、本当に楽しそうで幸せそうで‥‥
 その様子を見ていると、自分もその楽しさや幸せを感じる事ができて‥‥ちょっとハッピーな気分。
「さて‥‥ちょっと、お洋服でも見にいこうかしら」
 佳奈歌さんは立ち上がると、再び街へ向かいます。
 街には休日ということもあり、沢山の人達で賑わっていました。
 佳奈歌さんと同じようにお買い物を楽しんでいる女の子や、ちょっとお洒落なレストランへ食事を楽しみに来たカップル、大勢で街に遊びに来ているグループ等、昼の繁華街はお互いの袖が触れ合う距離でひしめき合っています。
「あら?」
 佳奈歌さんは雑居ビルの間で立ち止まりました。
 ちょっと気になるので、その通路を通り奥へ進むと‥‥。
 そこには、不思議なお店がありました。
「いらっしゃいませ」
 中に入ると、そこは骨董品店でした。
 様々なアンティークが置かれていますが、特に鏡が多い事に気が付きます。
「いろいろ覗いてみて下さい」
「は、はい」
 女性店主の言葉に答えると、佳奈歌さんは幾つか鏡を覗いてみました。
 その中で気になる鏡がありました。
 大きくてデザインは見た感じパッとしないのですが、何故か吸い込まれるような感じの鏡‥‥。
 無意識に手を伸ばすと、鏡が突然輝きだし、佳奈歌さんを包み込みました。
 気が付くと、そこは現実とまったく逆さまの鏡の世界。
 佳奈歌さんはその世界で一人、呆然と立ち尽くしているのでした。

  *

 同じ頃。
 カノンさんは街の人の群れの中を、慌てた様子で走り抜けていました。
「まるで現実と逆の世界‥‥一体、どうなっているのよ!?」
 電光掲示板の文字も逆に流れているし、時計もよく見ると反対に動いている‥‥。
 どうして、こんな世界に来てしまったのだろう‥‥。
 カノンさんは焦っていました。

 話は数時間前に戻ります。
 カノンさんは何の目的も無く、街をふらふらと歩いていました。
「レポートも提出したし、今日は暇ねぇ‥‥」
 医大生である彼女は普段と同じ白衣を着ています。
 街行く人達はちょっと不思議そうな目で彼女を見ていますが、カノンさんはそんな視線は気にしません。
 カノンさんがベンチに座ると、隣の男性が鏡を見ていました。
 銀色の小さな手鏡です。
 気になったカノンさんがちょっと覗くと‥‥。
 突然、鏡が光出して‥‥。

「あ、佳奈歌!」
 カノンさんは親友の佳奈歌さんを見つけました。
 でも、もしかしたら、反対の性格になっているんじゃないか‥‥。
 恐る恐る近づくカノンさん。
「カ、カノンさん‥‥?」
「あ、本物だわ」
 大人しくてちょっと臆病な性格の佳奈歌さんの態度を見てホッとするカノンさん。
「本物のカノンさんなんですね!?」
 佳奈歌さんもいつものカノンさんと分かると、安堵の息を吐きます。
「一体、どうなっているのよ‥‥」
「何か‥‥見るものが全部逆で‥‥本当に鏡の中にいる感じです‥‥」
 二人は鏡の世界に迷い込んだ事でかなり混乱しているようです。
「こうしていても仕方が無いし、ここから抜け出す方法を探さないとね」
 カノンさんは元の世界に戻る為に情報を集める事にしました。
 しかし、いくら鏡の世界と言っても、違う世界から来たなんて誰も信じてもらえる筈はありません。
 結局、情報は見つからないまま。
「ボク達、一体どうなるのかな‥‥」
 カノンさんは不安そうな表情で言いました。
「そう言えば、佳奈歌はここに来る前は何していたの?」
「あたしは‥‥お買い物をしたり、骨董品店を覗いたり‥‥あ!」
 佳奈歌さんが声を上げます。
「その骨董品店‥‥鏡が沢山あったから、そこから鏡の世界に入ったのかもしれない‥‥」
「骨董品店ってどこにあるの!?」
「えぇと‥‥この近くの筈です」
 佳奈歌さんは記憶を辿り、雑居ビルの間を抜けて看板も無い小さな店へと戻ってきました。
「ここがその骨董品店?」
「は、はい‥‥」
 二人が店内へ入ると‥‥店には誰もいませんでした。
「勝手に入っちゃっていいのかな‥‥」
 店の奥には沢山の鏡が陳列されています。
「あ、この鏡‥‥」
 佳奈歌さんは大きな鏡の前で立ち止まりました。
 あの時、気になっていた鏡‥‥。
 もしかしたら、ここから戻れるのかも‥‥。
「じゃあ、いい?」
「うん‥‥」
 二人は鏡に手を伸ばします。
 すると、急に鏡が輝きだして‥‥その光は二人を飲み込んでしまいます。
 こうして、突然鏡の世界へ飛ばされた佳奈歌さんとカノンさんは、どうにか元の世界へ戻る事が出来ました。


●エピソード2:歌手の話
「鏡は物事を反対に映しますが、それも真実なのです。普段見ることの無い反対の自分を見つめ直す事で、新たな自分を発見できるかもしれません」
 ストーリーテラーのSAKUYAさんが鏡を覗きます。
「さて‥‥今度は自ら鏡の世界に飛び込んだ人がいるようですね。その人は何を見つけに鏡の世界へ足を踏み入れたのでしょう‥‥」
 鏡に映し出されたSAKUYAさんの表情が徐々にぼやけていき、一人の中年女性の姿に変わっていきます。


<出演>
・千鶴:Chizuru(fa1737)
・BARの常連:巻 長治(fa2021)
・骨董品店・店主:SAKUYA


 千鶴さんはとあるBARの歌手として長い間働いています。
 シンガーとして突出した才能は無いものの、人当たりの良さから常連客に親しまれていました。
「どうしたのですか? 浮かない顔をして」
 出勤してきた千鶴さんが、常連客の一人であるサラリーマン風の男に声を掛けます。
「はぁ‥‥取引先とトラブルがありまして‥‥」
 男は疲れた表情で酒を飲んでいました。
 突然、携帯の音が鳴ります。
 この常連客の携帯でした。
「〜の携帯です‥‥はい、いつもお世話になります‥‥納期ですか‥‥はい‥‥えぇ‥‥そこを何とか‥‥」
 男は携帯の相手へ何やら低頭で謝っている様子でした。
 そんな常連客の様子を見て『大変ねぇ‥‥』と呟きながら、千鶴さんはBARの控え室へと向かいました。
 控え室に入ると、若手の歌手達が既に準備を整えていました。
 千鶴さんが部屋に入っても挨拶は無く、逆に『今日も来たんだ』と冷たい視線で睨まれます。
 若手の歌手と千鶴さんの関係は険悪でした。
 千鶴さんもいい年なので、実力派の若手から『さっさとやめれば?』と目の敵にされています。
 そんな関係に悩みながらも、千鶴さんは今日もBARで美声を響かせるのでした。

 営業終了後。
 千鶴さんは一人、カウンターでお酒を飲んでいました。
「どうすればいいのでしょうかねぇ‥‥」
 若手歌手の台頭は時代の流れ。
 それは当然仕方の無い事だし、歓迎すべき事でもあります。
 でも、良い関係を築く事が出来ないとなると‥‥。
 千鶴さんは今後の活動に不安を抱いていました。
 そんな時、ふと常連客の会話を思い出しました。
『どうせ単なる都市伝説だろうけど、現実と全く逆の世界である鏡の世界に行ける鏡が、ある骨董品店にあるらしい』
 鏡の世界‥‥。
 もし、若い歌手の別な姿を見たら、考え方が変わるかも‥‥。
 翌日。
 冗談だと思いつつも、興味を持った千鶴さんはその鏡に関する情報を集めました。
 すると、そのような噂は結構広まっているらしく、その鏡を扱っているという骨董品店の情報も聞く事ができました。
 でも‥‥聞いたのはあくまでも噂。
 その骨董品店を見たという人は誰もいませんでした。
 住所を調べても、地図にその住所は存在していません。
「やっぱり、都市伝説なのでしょうね‥‥」
 半分諦めつつも、聞いた住所の近くを探す千鶴さん。
 雑居ビルの間を抜けて、暫く奥へ進むと‥‥。
「あら? こんな場所、地図には無いのに‥‥」
 そこには、看板も無い小さな骨董品店があったのです。
 恐る恐る店のドアを開け、中に入ると‥‥。
「いらっしゃいませ」
 女性の声が店内に響きました。
 店の中にはこの女性しかいません。
 多分、この店の主なのでしょう。
 店には骨董品店らしく、様々なアンティークがあります。
 その中でも目を引くのは、様々な鏡でした。
「お望みのものは見つかりましたか?」
 店主が千鶴さんに声をかけます。
「鏡の世界に行ける鏡があると聞いてきたのですが‥‥」
「はい、ありますよ」
 店主の答えに千鶴さんは驚きました。
 やはり、そのような鏡は存在する‥‥。
「鏡はありのままの自分を映し出します。本当の自分を映し出す鏡は、あなたにしか分かりません。自分の感覚を信じ、その鏡に手を触れてください。それが、あなたを映し出す鏡の世界への入り口‥‥」
 店主に言われるまま、千鶴さんは色々な鏡を覗きます。
 その中の1枚‥‥古いけど、手入れの行き届いた鏡の前に千鶴さんは立ち止まりました。
 そして、無意識に手を鏡へ伸ばし‥‥。

  *

 気が付くと、千鶴さんは見慣れたBARの前に立っていました。
 でも、ここは鏡の世界。
 配置も文字も、何もかもが反対です。
「ここが鏡の世界なのですね‥‥」
 千鶴さんはちょっと変装して、このBARへ足を踏み入れました。
 BARの中の雰囲気は、元の世界と変わりありません。
 雰囲気も、働いている人も、店に来ているお客さんも‥‥。
 テーブルに着き、店の様子を眺める千鶴さん。
 そんな中、千鶴さんはいつもBARに来る常連のサラリーマンを見つけました。
 いつもは疲れた様子で酒を飲んでいるのですが、彼は携帯の相手に何やら怒っているようです。
 低頭だったサラリーマンが一変して、偉そうな態度で携帯の相手を責めているのでした。
「一体、自分はどんな性格になっているのでしょう‥‥」
 そんな様子を見て千鶴さんは期待と不安が入り混じった、何とも言えない気分になりました。

 BARの営業が終わると、千鶴さんは歌手達の控え室へ忍び込みました。
 一体、自分がどのように振舞っているのか‥‥。
 そっとドアを開き、控え室の中を覗く千鶴さん。
 そこで目にしたのは‥‥
 何と、新人歌手達に威圧的な態度で振舞っている自分の姿でした。
 大御所歌手のように偉そうな態度で新人に身の回りの世話をさせ、気に入らない事があれば当り散らし、新人を扱き使い、虐めて‥‥
 中には泣き出してしまう新人の子もいます。
 そんな姿を見て千鶴さんは憤慨しました。
 文句を言おうと部屋に入ろうとしましたが、一瞬冷静になり、立ち止まりました。
「‥‥落ち着かないと‥‥そう、あの姿は自分を映し出す鏡なのですから‥‥」
 そう、反対の性格とはいえ、それは自分自身。
 反対の自分を見ることで、自分では気が付かなかった性格を知る事が出来るチャンスなのです。
 怒りを押し留め、冷静に鏡の自分自身を見つめる千鶴さん。

 BARも閉店し、働いている人も帰っていきます。
 そんな中で、鏡の中の千鶴さんはまだBARに残っていました。
「一体、何をしているのでしょう‥‥」
 気になってその姿を追う千鶴さん。
 すると、鏡の中の千鶴さんはBARの清掃を始めました。
 カウンターからテ−ブル、控え室まで念入りに清掃をしているのです。
 そして、清掃が終わると衣装の整理。
 新人の歌手が明日使う分を用意し、解れた部分があれば自分で縫い直したり‥‥
 鏡の中の千鶴さんは、偉そうにしているだけでは無く、同時に店や新人を思いやる心を持っていたのでした。
 その姿を見て千鶴さんは考えました。
「鏡の中の自分が持っている心‥‥では、その反対の自分は‥‥」
 反対の自分を見る事で知った本当の姿。
 それは、自分勝手で気ままに歌ってきた事で、新人の活躍の場を奪っていた自分でした。

 元の世界に戻った千鶴さんは、BARを去る決心をしました。
「いつだって自分を見つめてきました。けれど、自分自身を見つめ直す事とは‥‥簡単なようで難しい事ですね‥‥」
 これから活躍していく若い歌手達の為に‥‥。


●エピソード3:仲が悪い恋人達の話


<出演>
・リサ:姉川小紅(fa0262)
・フタヤ:朝守 黎夜(fa0867)
・仲の良い親友役:巻 長治
・骨董品店・店主:SAKUYA


 休日の昼下がり。
 繁華街の道は沢山の人達で埋め尽くされていました。
 手を繋いで仲良く歩いているカップルも多く見受けられます。
 でも、中にはそうでないカップルもいるのです‥‥
 リサさんとフタヤさんは恋人同士ですが、互いに無言で傍から見ればカップルとは思えません。
 前を歩くフタヤさんの背を見ながらリサさんは溜息を吐きました。
『少し前までは、こんな沈黙だって愛しくて、気にならなかったのに』
 二人は最近、喧嘩が絶えず、仲が良くありません。
 今日もデートの筈なのですが、つい先程も喧嘩をしたばかり。
 怒ったフタヤさんはリサさんを置いてどこかへ歩いて行きます。
「もう‥‥どこに行くのよ!」
「どこでもいいだろ!」
 何か言葉が出ればすぐ口論になってしまう‥‥。
 いつからこうなってしまったんだろう‥‥リサさんは嘆きます。
『フタヤはもう、あたしの事なんて‥‥』
 リサさんは思い詰めていました。
 周りを見れば手を繋いで愛を語らうカップルや、楽しそうに会話をしている親友同士‥‥。
 皆、仲が良いな‥‥でも、自分達は‥‥。
 再びリサさんの視線がフタヤさんの背中へ移ります。
 フタヤの大きくて強そうなその姿にリサさんは惚れたのですが‥‥今では鉄の壁にしか見えません。
 鉄には感情がありません。
 もう、あたし達は‥‥。
 リサさんが別れの言葉を投げかけようとした時。
 急にフタヤさんが立ち止まります。
「あれ?」
 立ち止まったのは雑居ビルの間の通路でした。
「こんな所に通路は無かったよな?」
「さ、さぁ‥‥?」
 気になったフタヤさんは雑居ビルの間を歩いていきます。
 その奥には、不思議な雰囲気の店がありました。
 看板も無く、何を扱っているのかも分かりません。
「新しくオープンした店かな? 入ってみようか」
「う、うん」
 リサさんは別にどんな店であろうと関係ありませんでした。
 もしかしたら、仲直り出来るチャンスかも‥‥。
 そのきっかけに期待しつつ、ドアを開けて店へ足を踏み入れたのでした。
 店はどうやらアンティーク・ショップのようです。
「いらっしゃいませ」
 女性の声がしました。
 店にはこの女性しかいないので、彼女が店主なのでしょう。
「ここは骨董品店?」
 フタヤさんが尋ねます。
「はい、そうです。様々なアンティークを扱っていますので、ごゆっくりと店内をご覧下さい」
 そう言うと、店主は頭を下げて店の奥へと戻っていきます。
 店内にはいろいろなアンティークがありました。
 その中でも一際目を引くのが鏡でした。
「わぁ‥‥この鏡、素敵ね」
 古くて大きな鏡の前に立つリサさん。
 古今東西、大小様々な鏡がこのアンティーク・ショップにはあるのですが、リサは何故かこの大きな鏡に惹かれたのです。
「これ、欲しいな♪」
「こんな大きな物、どこに置くんだよ」
 冷静に言うフタヤさんに口を尖らせつつも、鏡を覗くリサさん。
「‥‥あれ?」
 すると、何か不思議な感覚が彼女を包み込みます。
「どうしたんだ?」
 変な表情のリサさんを見て、フタヤさんも鏡を覗くと‥‥。
 二人は急に意識を失いました。

  *

 気が付くと、フタヤさんとリサさんは繁華街にいました。
 今日はとあるデパートの前で待ち合わせをしていたのですが、何時の間にかそこへ戻っていたのです。
「あ、あれ? 変だな‥‥」
 フタヤさんが慌てて周囲を見渡します。
 いつもの見慣れた街ではあるのですが‥‥店の位置も電光掲示板の文字もみんな逆。
 まるで鏡の中に入ってしまったかのようです。
「不思議ね‥‥」
 リサさんも慌てていました。
 つい先程見た事のあるカップルは別れ話に悲しんでおり、楽しそうに会話していた親友同士は激しい口論をしているのです。
 二人は、アンティーク・ショップから鏡の世界に飛ばされたという事に気が付きました。
「あ、あれ見て、フタヤ!」
 リサさんが指差した方向に、何と自分達と全く同じ人物がいたのです。
 そう、鏡の世界のフタヤさんとリサさん‥‥。
 姿格好は全く同じですが、様子は全く異なっていました。
 手を繋ぎ、幸せそうにデートを楽しんでいるのです。
 まさにラブラブカップル。
 そんな鏡の世界の二人を見たフタヤさんとリサさんは互いに目を見合わせました。
「どうなってるの!?」
 気になった二人は、鏡の世界の自分達を尾行する事にしました。
 鏡の世界の二人は見ている方が恥ずかしくなるくらい、ラブラブでした。
 ぴったりと体を寄せ合って、人前で言う事の出来ないような台詞で愛を語らい‥‥。
「な、何て事言ってるのよっ! あんな事口にしたら死ぬ!」
 鏡の世界の自分に恥ずかしさと少しの憤りを感じつつも、どこかに憧れと羨ましさを感じるリサさん。
 実際にそんな事は言えないけど、本当は‥‥。
 尾行しているうちに、鏡の中の二人は公園へとやってきました。
 ベンチに座り、公園の景色を眺めながら談笑しています。
 リサさんとフタヤさんはその屈託の無い笑いに、かつての自分達を思い出しました。
「俺達にもこういう時があったよな‥‥」
「そうね‥‥」
 フタヤさんが呟くと、リサさんも頷きます。
 この公園は仲が良かった頃によく来ていた場所。
 もう一度、あの頃のように仲良くなりたい‥‥。
 リサのその思いを現しているのが、鏡の世界の二人。
 彼らがそうなのだから、あたし達だって出来ない事はない‥‥。
「今のままじゃ、ダメだよね?」
 リサさんがフタヤさんに問い掛けます。
「そうだな‥‥」
 フタヤさんもまた、リサさんと同じ事を考えていました。
 このままじゃいけない‥‥と。

  *

 現実世界に戻り、フタヤさんとリサさんは公園へとやってきました。
 日が沈み、景色は暗闇に包まれていきます。
 ベンチへ腰掛けると、二人は無言で手を取り合います。
「‥‥俺達も、あの二人の様になれるかな?」
「なれるよ。きっと‥‥」
 だって、あの二人も自分自身なのだから‥‥。
「あ、流れ星‥‥」
「本当だ」
 リサさんは手を握って願い事をします。
「何を願ったんだ?」
「内緒♪」
「教えてくれてもいいだろ? どうせ減るもんでもないし」
「イ・ヤ・よ☆」
 誰もいない公園に楽しそうなカップルの声が響きます。
 彼らが、鏡の世界の二人になるのに時間は掛からないでしょう。


●エピソード4:退魔師
「鏡、それはある意味表裏一体。何かを得たなら、何時かは失う可能性も負います。リスクとメリットもまた表裏一体なのですね」
 ストーリーテラーのSAKUYAさんが鏡を覗き込みます。
「さて、そろそろ鏡の世界の真実について話さなければならない時期かもしれません」
 SAKUYAさんの表情が豹変し、鋭い目付きに変わりました。
「‥‥お客さんが来たようです」


<出演>
・退魔師エリー:大宗院・慧莉(fa2668)
・少女の想い:ティタネス(fa3251)
・想いの守護者:巻 長治
・骨董品店・店主:SAKUYA


 退魔師であるエリーさんは、ある都市伝説について調査していました。
 それは『現実と全く逆の世界である鏡の世界に行ける鏡が存在する』というものでした。
 このような都市伝説はよく聞くものです。
 その殆どがただの噂にしか過ぎないのですが、今回の件については行方不明者も出ているということで、エリーさんが動いているのです。
 調査の結果、その世界が病気で外に出る事が出来ない少女の呪いのせいだという事が分かりました。
 そして、その世界の入り口がある骨董品店だということも判明。
「闇は払わなければなりませんね」
 エリーさんは霊刀を手に、雑居ビルの間の通路に立ちました。
 この奥にその骨董品店があるのです。
「成る程‥‥次元に歪みが生じていますね‥‥」
 本来、この通路は存在していない筈なのです。
 勿論、地図にも載っていません。
「ここが異世界への入り口‥‥」
 エリーさんが通路へ踏み込もうとした瞬間‥‥。
「‥‥! 何者!」
 突然、周囲の景色が消え、現実世界には存在しない異形の姿が現れました。
『ここはあなたが来る場所では無い‥‥』
 異形は徐々に実体化し、天使のような姿へと変わっていきます。
「現れましたか‥‥」
 エリーさんは霊刀を握り締め、戦闘態勢に入ります。
『わたしは少女の想い‥‥この世界は必ず守る‥‥』
「その世界にどんな想いがあるか知りませんが、正常ではないものは存在してはならないのです!」
 エリーさんが少女の想いへ切り掛かります。
 しかし、その攻撃は受け止められ、跳ね返されてしまいました。
 戦闘はエリーさんが一方的に攻めるも、少女の想いはそれを何とか防ぐという展開。
 徐々に力を失っていく少女の想いは少しずつ後退していきます。
 両者の戦いが続く中、何故か人が存在しない筈の場所に男がいました。
「ここは危険です! 早く逃げて下さい!」
 エリーさんが叫んでも、男は反応しません。
「仕方ありませんね‥‥」
 舌打ちをすると、エリーさんは少女の想いへ振り向き、霊刀を構えました。
「例え神であっても邪魔をさせません。神でもあなたは邪神です」
『‥‥ただ、わたしは少女の世界を守るだけ‥‥』
 すると、少女の想いは素早く後退していきます。
「待ちなさい!」
 追いかけるエリーさん。
 異形を追い詰めたその場所には、骨董品店がありました。
 その店先に女性が一人‥‥骨董品店の店主がいました。
 店主は少女の想いを守るかのように、立っています。
「何故、邪魔をするのです。友や子を失って悲しむ人々の事を考えたことはないのですか」
「あなたには鏡の世界を見ていただかなければいけませんね」
 店主は銀色の手鏡をエリーさんに向けました。
 すると、手鏡が光だし、エリーさんを包み込みます。
「っ!?」
 エリーさんは徐々に意識が遠のいていくのを感じました。

  *

 気が付くと、エリーさんは繁華街の中心に立っていました。
「これが‥‥鏡の世界!?」
 風景は全く逆なのですが、道行く人々は全く変化がありません。
 それもその筈。
 性格が逆だとしても、エリーさんはその人達の元の性格を知らないのですから。
 そこへ、ある男がエリーさんへ声を掛けてきました。
「私はこの世界の秩序を守る者‥‥少女の想いの守護者とでも名乗っておきましょうか」
 その男はエリーさんが戦っていた時にいた男でした。
「一体、この世界は何の為に存在しているのですか!」
「この世界は難病で苦しむ少女の想いが創り出した世界。現実と反対である鏡の世界なら、少女は元気なのです」
「しかし、この世界があるが為に、行方不明になる人もいるのですよ!」
「本当なら、この少女しか世界を出入り出来ない筈だったのですが‥‥この世界が出来てから、様々な場所に道が出来てしまったのです。その鍵は『想い』。つまり、この世界に来たいと願う人がそれ程多いのです。あちらこちらに道があってはあなたが言う通り、突然消えてしまう人も現れるでしょう。その為に、その鏡を管理する者もいるのです‥‥」
「あ!」
 エリーさんは骨董品店の店主を思い出しました。
 何故、そのような鏡が集まっているのか、次元が歪められた場所に存在するのか‥‥何となく理解できた気がしました。
「元の世界の人々に害を与えようとは思っていません。ただ、鏡の世界に来る事で助かる、問題を解決できる人もいるのです‥‥そのような人達の為にこの世界はあって欲しいのです。それが、少女の願いでもあります」
「分かりました‥‥」
 エリーさんが言います。

 結局、エリーさんは鏡の世界を破壊する事をやめました。
「何も変わらないのですね‥‥」
 現実でも鏡の世界でも変わらぬ人々の生活を見て、それは意味の無い事だと気が付き‥‥。
「今度は私が‥‥」
 エリーさんは雑居ビルの間の通路を歩いて行きました‥‥。

 ――END