Words:Pictures南北アメリカ

種類 ショート
担当 えりあす
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 3.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/25〜04/29

●本文

●Pictures
 クリスティーナは幼少の頃から体が弱く、病気がちだった。
 病院へ入退院を繰り返している為、学校も半分以上は欠席している。
 しかし、彼女は辛抱強く、謙虚な性格であり、人一倍の努力でその穴を埋めていた。
 顔を合わせる機会は少ないが、男女問わず親友も多く、彼女が登校すれば周りに輪が出来る。
 病気が多いという事を除けば、クリスティーナは他の生徒と何も変わらない生活を送っていた。

 だが、ある日‥‥

 突然、クリスティーナは倒れた。
 意識は無い。
 ただ、辛く苦しそうな呻き声を発するだけ。
 直ぐにクリスティーナは病院へ運ばれた。
 昏睡状態は1週間続き、彼女が意識を取り戻した時‥‥体に異変を感じた。

 思うように体が動かない。

 このままでは危険と判断され、緊急手術を行うことになった。
 だが、彼女の体力は既に限界へ達している。
 最後の力を振り絞り、地獄のような苦しみを耐え抜き‥‥手術は何とか終了し、クリスティーナは一命を取り留めた。
 しかし、命と引き換えに、クリスティーナは足の自由を奪われた。
 全く立ち上がる事も、歩く事も出来ないのである。
「そんな‥‥学校へ行ったり、お友達と遊んだりする事が出来ないなんて‥‥もう、死にたい! こんな苦しい人生なんてイヤ! 殺して!」
 クリスティーナは嘆き悲しみ、そして、半ば狂乱したように暴れた。
 テーブルにある本やカップを投げつけ、運ばれてきた食事も拒否し、ただ、嗚咽と共に『死にたい』と叫ぶのである。
 これには家族も医師も手を付ける事が出来なかった。

 泣き叫ぶ体力が無くなった頃。
 彼女の病室に来客があった。
 近くの教会に仕えるシスターであった。
「初めまして、クリス」
 シスターは優しくクリスティーナに微笑みかけた。
「あなたは‥‥」
 その慈悲に満ち溢れた表情に心を許したクリスティーナは、シスターに尋ねる。
 シスターはマリーと名乗った。
「苦しく、辛いのはよく分かります。でも、神は若いあなたに、ただこのような試練を与えるだけではありません」
 マリーはクリスティーナの足を優しく擦りながら続ける。
「あなたは足の自由を失いました。しかし、神はそれ以上の力をあなたに与えてくれます」
「失った以上の‥‥力?」
 マリーは真剣な眼差しでクリスティーナの瞳を覗く。
「そう。失うものがあれば、得るものもあるという事です。そうですね‥‥クリスの好きな事は?」
「え? 好きな事‥‥って」
 突然のマリーの質問に、何て答えればよいのか悩むクリスティーナ。
 その時、彼女の脳裏に浮かぶ一つの答え。
「わたし‥‥絵を書くのが好き」
「そうなのね‥‥」
 クリスティーナの答えを聞くと、マリーは彼女の手を握り締める。
「歩く事が出来ない分、神はきっとこの手に力を与えてくれるわ。そして、この手できっと素晴らしい絵が生まれる事でしょう」
 優しく握り締められた手‥‥真剣な眼差し‥‥溢れる愛情‥‥。
 クリスティーナはこのシスターの言葉を信じてみようと思った。

 翌日から、クリスティーナはスケッチブックに絵を描き始めた。
 最初は納得いくものが描けなかったが、描き続ける間にいくつか満足いくものが生まれた。
 その絵を病室に飾っていると、それを見た院長から『是非、他の患者にも見せたい』という申し出があり、クリスティーナは快く承諾した。
 ロビーに飾られた絵は、シスターが誰かの手を握っている絵であった。
 やや、荒削りな所もあるが、シスターの慈悲深い表情が絵を見る患者の心を癒した。
 そして、この絵を見る事で病気が治ったというお礼の手紙がクリスティーナの元へ届く。
 それから、この絵は大きな話題となり、クリスティーナは若き車椅子の画家として有名になった。
 もう、歩けないということに苦しみは感じない。
 歩けない分、神はこの手に力を与えてくれた‥‥。
 この力で、苦しんでいる人達に少しでも勇気と希望を与えられるような絵を描きたい‥‥。
 クリスティーナは、あの優しいシスターの表情を思い浮かべながら、車椅子で絵を描き続けるのであった。

●Words
 現在、ある番組制作会社で次のドラマ用の脚本が準備されていた。
 脚本家の書いたものはかなりの分量であったが‥‥。

 数日後。
 チーフ・プロデューサーであるジェニファーが手にしていたのは、僅か1枚の紙。
「これが今回のドラマの脚本よ」
 紙にあるのは単語の羅列。
 ストーリ−、登場人物、セリフすらも単語で表現されている。

 さて。
 今回、この単語を元に番組を制作しなければならない。
 君達の想像力と演技で、この単語をドラマへと昇華させて欲しい。

●番組名:Pictures
 少女、学校、親友、生活、病気、入院、呻き声、手術、成功、足、不自由、狂乱、シスター、慈悲、自由、力、眼差し、絵、握手、神、愛情、スケッチブック、飾る、癒し、お礼、手紙、画家、勇気、希望、車椅子

●今回の参加者

 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa2112 酉家 悠介(35歳・♂・鷹)
 fa3033 大宗院・真莉(30歳・♀・一角獣)
 fa3081 チェリー・ブロッサム(20歳・♀・兎)
 fa3205 桜庭・夢路(21歳・♀・兎)
 fa3449 グレッグ(59歳・♂・蛇)
 fa3569 観月紫苑(31歳・♀・熊)
 fa3571 武田信希(8歳・♂・トカゲ)

●リプレイ本文

 ある制作会社の番組制作室で短編ドラマ・シリーズ『Words』の制作会議が行われていた。
 今回の脚本は、脚本家見習いの武田信希(fa3571)と、何度かこのドラマ・シリーズの脚本と演出を手がける弥栄三十朗(fa1323)が担当。
「短い時間でよくここまで出来たものね、お疲れ様」
 チーフ・プロデューサーのジェニファーが新たに構築された脚本をチェックし、二人を労う。
「本番はこれからですよ。映像を見る人にどれだけ印象を与える事が出来るか‥‥演出家としての手腕が問われるところです」
 三十朗は番組の演出を手がけており、彼の繊細な演出と表現にはジェニファーも一目置いている。

 いよいよクランクイン。
「女優として、最高の演技が出来るように努めさせていただきます」
 大宗院・真莉(fa3033)は、出演者や撮影スタッフに挨拶をしに回っていた。
 それから、僅かな時間を利用して三十朗指導の下、酉家 悠介(fa2112)ら出演者は演技の指導を受け、本番へ備える。


●Words:Pictures
<キャスト>
 クリスティーナ(主人公の少女):チェリー・ブロッサム(fa3081)
 トール(主人公の弟):武田信希(fa3571)
 マリー(シスター):大宗院・真莉(fa3033)
 レイク(主人公の親友):桜庭・夢路(fa3205)
 グレッグ(画家):グレッグ(fa3449)
 酉家(主治医):酉家 悠介(fa2112)
 ケリー・ホンドー(リハビリセンター職員):観月紫苑(fa3569)


●突然の悲劇
<演出>
 映像は最初からややくすんだ処理が施されている。時間が経過すると共にくすみは色濃くなっていく。

<映像>
 クリスティーナの夢は世界中を旅する事だった。
 夢を現実のものにする為、少女は今日も明るく学校へ通う。
 だが、ある日‥‥
 通学路を歩いていたクリスティーナへ向かって、暴走した車が突っ込み‥‥
「‥‥え!? きゃぁぁぁ!」
 運転手は酒帯び運転だった。
 気づいた時にはブレーキも間に合わず‥‥
 クリスティーナは強い衝撃と共に意識を失った。

●忍び寄る病魔
<演出>
 映像は徐々にくすみによって侵食されていく感じになる。

<映像>
 クリスティーナが意識を取り戻した時、そこは病室のベッドだった。
 そこで、自分が事故に遭った事を認識する。
 病院での生活は退屈だった。
 食事、診察、治療‥‥規則正しい生活というのは、束縛と何ら変わりは無いとクリスティーナは思う。
 そんな生活の中で、彼女は一つの楽しみを得る。
 親友‥‥同じ病院へ入院しているレイクとの出会い。
 レイクは幼い頃から病気がちで、何度も入退院を繰り返している。
 その為、親友も少なく、クリスティーナとの出会いは彼女にも変化を与えた。
 親友となった二人に笑顔が戻り、レイクはクリスティーナの病室で好きな絵を描いては親友に見せたりしていた。
 レイクは毎日絵を描く事で腕が上達し、いつか画家になる事を夢見るようになる。
 彼女には絵の師匠がいた。
 左手に手袋をした画家・グレッグである。
「何事もゼロからじゃよ。この白いキャンパスを見てみい‥‥これと同じ事じゃ」
 この画家は時折、病院に来ては彼女らに絵の指導をしているのだ。
 レイクは絵の上達と一緒に徐々に容体が回復し、ついに退院することになる。
 だが、レイクと対称的にクリスティーナの体は病魔に蝕まれつつあった‥‥。

 レイクが退院してから暫く時間が経ち、まだ入院中のクリスティーナの元へ見舞いに来た時の事。
 必死に描いた自慢の絵を彼女へ見せようと思い、病室に入ると‥‥。
 クリスティーナは苦しそうな表情で悶えていた。
「クリス‥‥どうしたの? 大丈夫‥‥」
 レイクは手にしていた絵を落とした。
 そして、クリスティーナのベッドへ近寄ると‥‥彼女はさらに苦しそうに呻き声を上げる。
 レイクは慌ててナースコ−ルを通して助けを呼ぶ。
 すぐにクリスティーナの主治医である酉家が病室に来た。
「手術をすれば、後遺症が残る可能性はあるものの‥‥その苦しみからは解き放たれる筈だ。また学校に行けるようにもなるだろう」
 クリスティーナは事故による怪我が原因の感染症が発病し、その病原菌は下半身を中心に転移していたのだ。
 もはや手術しか助かる方法は無い‥‥酉家はクリスティーナが苦しむ姿を見たくないという思いから手術を勧める。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん! 手術すれば絶対治るって!」
 弟のトールもそう言い、両親も手術する事を承諾する。
 そして、クリスティーナは緊急手術を行う事になった。
 数時間にも及ぶ手術は成功。
 しかし‥‥命と引き換えに、クリスティーナの足は不自由となった。

●それぞれの努力
<演出>
 初めは主人公の心情を表現するように映像は暗く、時間の経過と共に背景は色合いの明るいものになっていく。

<映像>
 外はクリスティーナの心中を表すかのように雷雨だった。
 激しい雨が病室の窓を打ち付け、雷鳴が響く。
「神の慈悲があるなら、いっそあの事故の時に死なせてくれれば良かったのよ! 自由に動かせない足なんて何になるというの、力の出ない足なんて!」
 クリスティーナはベッドの上で狂乱していた。
 自由に世界を飛び回る事を夢見ていた少女に、神は何とも過酷な試練を与えた。
「落ち着くのじゃ!」
 暴れるクリスティーナをグレッグは必死に抑えようとしていた。
「わしの左手を見てみい」
 グレッグは左手にしていた手袋を外す。
 そこには‥‥痛々しい傷跡があった。
「昔は左手で筆を握っておった。じゃが、ちょっとした事故でそれができなくなった‥‥あの時はもうダメだと思うた。じゃが、今わしは右手で絵を書いとる。努力したのじゃよ‥‥諦めなければ困難な願いも叶うんじゃ。諦めては、希望を捨ててはならん」
 グレッグは画家を諦めざるを得なかった時、努力する事でそれを克服した経験を話し、クリスティーナを宥める。
 彼の手の傷跡を見せられて‥‥クリスティーナは大人しくするしか無かった。

 その頃。
 酉家は自室の机の前で悩んでいた。
 机の上には辞表がある。
 彼はクリスティーナの足を不自由にしてしまった事への責任を感じ、医師を辞めようと考えていた。
 だが、その前にクリスティーナに謝らなければ‥‥
 そう思い、彼女の病室を訪ねる。
 だが、クリスティーナはいなかった。
「お姉ちゃんなら教会に行ったよ?」
 トールからそう告げられる。

 クリスティーナは病院近くの教会へ招かれていた。
「お話はあなたの親友から聞いています。その悩みを神の前で打ち明けてみてはどうですか?」
 出迎えてくれたのはシスターのマリー。
 その優しく慈愛に満ちた眼差しに、クリスティーナは警戒心を解く。
 クリスティーナは歩けなくなった事への不安や夢が叶わなくなった事、体調が回復し自由に動き回れる友人をも忌み嫌い遠ざけてしまった事等、悩みを打ち明ける。
「神は全ての人々に慈悲を与えています。それは、自由に生きるれる事を意味しているのではありません。全ての人には、平等に幸せに生きる為の力が与えられています。あなたは足を失いましたが、それを補う為の力が必ず与えられています。希望を以ってその力を見つけてください」
 マリーはクリスティーナの悩みを真剣に聞き、助言する。
 先程まで荒れていた外の天候は次第に良くなってきた。
 教会のステンドガラスからは、時折雲の間から差す日が二人を照らす。
「それと‥‥これは、あなたの友人から預かっているものです」
 マリーはスケッチブックを取り出した。
「‥‥これは?」
 スケッチブックに描かれた絵は、夢を諦めず、もう一度外の世界を歩く事ができるようにと願いを込めてレイクが描いたものだった。

 それから、病院に戻ったクリスティーナをレイクが出迎えてくれた。
「ありがとう。このスケッチブックの絵を見ていると、神の愛情が信じられるわ。これだけの絵が描けるのなら、貴方は立派な画家になれるわ。貴方の絵には誰もが癒されるでしょう。この絵をここに飾らせて」
「えぇ、勿論です」
 クリスティーナは病室の壁にスケッチブックの絵を飾った。
 そして、レイクを手を差し出す。
「‥‥リハビリをすれば、ほんの少しだけど可能性があるってお医者様が言うの。私は希望を信じて頑張るつもり。だから、貴方も勇気を持って画家の道に進んで」
 二人はしっかりと握手を交わす。
「俺が辞めたところで彼女が歩けるようになる訳じゃない。恨み辛みの全てを聞いて、それでも、彼女の足が良くなるように力を尽くす。それが本当に俺がやるべきことじゃないのか」
 その様子を見ていた酉家は、辞める事はただ逃げている事と思い、リハビリに手を貸して彼女を立ち直らせる事が唯一責任を取る道だと悟った。
 そして、酉家はすぐに行動を取り、リハビリセンターへ連絡を取った。

 クリスティーナはリハビリセンターへ移動する事となった。
 その間、レイクとは会えなくなるが、手紙のやり取りは欠かさなかった。
 次に会う時は‥‥お互いに夢を叶えた時。
 それまで、希望と勇気を持って努力する事を誓った。
「今日も調子良さそうね。でも、無理はしないでね」
 リハビリセンターの担当はケリー・ホンドー。
 彼女もまた、片足が不自由になった事があり、その経験を活かして彼女が再び立ち上がれるように努力した。

 そして、数年後‥‥。
 クリスティーナとレイクは再開した。
 その間、絵を描き続け、実力を付けたレイクは新鋭の画家としてデビューしていた。
「貴方が立派な画家になって嬉しいわ‥‥今度は私の番よ」
 クリスティーナは勇気を出して車椅子から立ち上がろうとする。
「だ、大丈夫‥‥?」
 よろけつつも、必死に立とうとするクリスティーナ。
 そして‥‥
「た、立てた‥‥!?」
 クリスティーナは再び大地に立つ事が出来た。
 そして、一歩ずつゆっくりと親友の元へ歩み寄る。
 時間を掛けてレイクの傍へ辿り着いたクリスティーナは、思わず彼女へ抱きついた。
「よかった‥‥よかったね!」
 夢を希望を持って努力する事で現実のものとしたクリスティーナを、レイクが祝福する。
「「「「「おめでとう!」」」」」
 歩けるようになったクリスティーナを祝福する為にトール、グレッグ、マリー、酉家、ケリーも駆けつけた。
 勿論、彼女が歩けるようになったのか彼らの努力があったからだと、クリスティーナは理解していた。
「ありがとう」
 にっこりと笑い、今まで力になってくれた全ての人々に礼を述べる。
 空は雲一つ無い晴天だった。
 今のクリスティーナの心を表すかのように、青空は澄み渡っていた‥‥。

 Words:Pictures The END


<脚本・演出>
 弥栄三十朗(fa1323)
 武田信希(fa3571)