哀愁の演歌アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
えりあす
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/18〜11/22
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●本文
「また、売れなくなってきたねぇ‥‥」
某メジャーレコード会社傘下の新興演歌レーベル事務所。現在売り出し中の美少年演歌歌手・愁と専務が話し合っていた。
愁はアイドルとして売り出されていたが、さっぱり売れないのでこの演歌レーベルに移籍。それと同時にリリースされたシングルが話題となり、演歌チャート、有線リクエストを独占した。
しかし、ヒットしたのはこの1枚のみで、続けてリリースされた曲は軒並み低セールス。所謂、一発屋である。次第に愁の名前は忘れ去られようとしていた‥‥。
「これじゃあ、ダメなのはわかっているよね? 次で結果を出さなければ契約打ち切るよ」
「は、はい‥‥」
愁は専務の厳しい言葉に、ただ頭を下げるしかなかった。
「今まで作詞は君がやっていたけど、今回は外部に発注を出す事になった。新人を起用して、デビュー当時の勢いを目指す。君の作った歌詞が悪いという訳ではないが‥‥いや、社内では評価は高いんだよ? だが、リスナーが望むものとちょっと差があるんじゃないかってね。君の年代の恋愛感が、演歌のメインターゲットに受け入れられるか? って事」
専務は書類に目を通すと、再び口を開いた。
「まぁ‥‥無理に中高年に合わせる必要もないが‥‥プロデューサーも新人を起用する予定だ。どの層をターゲットにするかは彼らに任せる。新譜のリリースに合わせて深夜番組にも出演する事が決まっている。歌うのは君だ。もう一度、言っておく。次で結果をださないと‥‥わかったかな」
「はい!」
これが最後のチャンスである。失敗は許されない。愁は決意を胸に返事をした。
そして、レーベルのHPにプロデューサー募集の告知が流れたのは、それからまもなくであった。
●リプレイ本文
愁が所属するレーベルの会議室で、次にリリースするシングルの打ち合わせが続いていた。
「どのようなコンセプトで、誰をターゲットにした歌詞にするかを愁君に決めてもらいたい」
椚住要(fa1634)は愁に幾つか候補に挙がっているコンセプトを提示した。要はこちらが用意した歌詞を愁に歌ってもらうより、愁のセンスや気持ちを取り入れ、共同で歌詞した方がいいのではないかと考えている。その為、大まかなプロットは要が用意し、後は愁との共同で歌詞を仕上げていく事にした。愁は手渡された資料を真剣に読み、結論を出した。
「ぼ、僕は‥‥この方向で行きたいと思います!」
その言葉に迷いは無かった。愁は提示されたコンセプトの一つ『今の状況から這い上がって再起することを誓った歌』を選択した。多分、愁は自分自身の現状をこのコンセプトに重ね合わせているだろうという事は要も感じている。
「では、この路線でいこう。明るく、中高年にも受けるような曲を目指す」
コンセプトが決まり、要は作曲の為にスタジオに向かう。愁は会議室に残り、手渡された資料を見ながら歌詞を書き始めた。
「失礼するわね」
今回、愁のマネージャーを勤める藍染右京(fa0566)が会議室へ入ってきた。
「テーマは‥‥これね。若い人にも中高年にも当てはまるから、幅広い層に受けるんじゃないかしら?」
「う、うん‥‥」
右京が優しく目くばせすると、愁は少し顔を朱色に染めて俯いた。
「共同作詞も大変かもしれないけど、次は衣装合わせの予定が入っているからね。急がないと」
手帳をめくりスケジュールを確認する右京。愁の腕を掴むと、やや駆け足で待ち合わせ場所へと向かう。
*
「お待ちしてましたわよ〜♪」
衣装室では、新月ルイ(fa1769)が本番用の衣装のラフスケッチを用意して愁を待っていた。
「じゃあ、新月さん。宜しくお願いするわ。次は振り付けの指導があるから、先に準備してくるわね」
「いってらっしゃ〜い♪」
右京は次のスケジュールの用意の為、すぐに衣装室から出ていった。
「‥‥うふふふ、これで2人きりね‥‥」
キラリ。ルイの眼光が鋭くなった。
「ぼ、僕は‥‥そのような趣味は‥‥」
「愁ちゃんのような美少年の担当になれるなんて‥‥」
「わわわっ」
「もう、超張り切っちゃうんだから♪ よろしくねっ♪」
ルイは愁にウインクすると、彼をぎゅっと抱きしめた。少し魂が抜けたような状況の愁を椅子に座らせると、ルイは衣装デザインのラフを用意した。
「愁ちゃんに似合いそうな衣装を描いてきたんだけど、どれにするか選んでもらいたいの」
「選べって‥‥僕はあまり衣装の事とかわからないし、ルイさんに選んで欲しいんだケド‥‥」
「ダ〜メ♪ 愁ちゃんには、これからバックアップ無しでも、一流になれるよう審美眼やその他諸々の能力を鍛えて欲しいと思うワケ。だ・か・ら♪ 歌や自分に合うと感じる衣装を、自分のセンスで選んで欲しいのよ♪」
「そう言われても‥‥」
愁は提示されたデザインを選ぶのに悩んだ。今までは担当が用意してくれたので、自分はそれを着て唄うだけ‥‥
「はっ!」
愁は突然声を上げた。
結局、今までの自分は会社に作り上げられたキャラクターでしかなかったのだ。自分じゃない人を演じてきたのだ。じゃあ、歌詞だって自分じゃない自分が書いてきたのか‥‥その時、愁は気がついた。
「僕は僕で‥‥僕に合うものは‥‥」
「ん?」
「あ、いえ! この衣装でお願いします!」
愁は決断した。
*
「次は振り付けよ。りなちゃ〜ん」
右京に手を引っ張られながらダンススタジオに入った愁。そこには、愛瀬りな(fa0244)とフィミア=イームズ(fa0036)がいた。
「きゃ〜☆ 結構、好みのタイプね☆」
スタジオインした愁へ真っ先に飛びついたのは恵ミルク(fa0675)。
「こらこら。これからレッスンがあるのですから、じゃれ合いは後にして下さい」
「ぶぅ〜」
愁に抱きついていたミルクをフィミアが引き離す。
「まぁ、あたしも女優だから『いかに自分を魅せるか』というのはアドバイス出来ると思うよ」
そう言うと、ミルクは愁の瞳を見つめた。
「はい! 売れるには自分自身を魅せるという事が大切だと思います! 是非、その秘訣を教えて下さい!」
素直な愁のその言葉にミルクは『この子なら出来る』と直感した。何故だかわからないけど。
「椚住さんからデモテープをいただきましたので、早速振り付けの指導をさせていただきます」
ミルクから真剣に話を聞いている愁へフィミアが恐縮しながら声を掛けた。要から受け取ったデモテープには、若者にも中高年にも受け入れられそうな明るい曲が入っていた。その曲を聴いた愁は独り言のように歌詞を呟く。
「いい曲ですね。これなら、絶対にヒットしますよ」
りなは曲に合わせて唄う愁の様子に、成功を確信した。精神的に大変だろうと予測していたが、思ったよりも症状は軽いようだ。りなは愁を優しく励ましながら、モデルらしく立ち振る舞いや魅力的にカメラに映るアドバイスをした。
「流石、元アイドルというで、振り付けを憶えるのが早いですね」
フィミアの振り付け指導は好調に進んでいた。愁にはやはりセンスがある。これなら本番でも問題ないだろう。
「うまく出来ていますか?」
「これなら大丈夫ですよ。気楽に行きましょう」
レッスンは無事に終了。右京はスケジュール帳をめくると、愁の腕を掴んでスタジオを飛び出した。
*
「あ、右京さん。お疲れ様です」
「お疲れ様です。今、打ち合わせですか?」
「先程、終了した所です。曲もポップな感じですので、若年層へのアピールを重視する方向で行きます。そちらは、どうですか」
「こっちは、順調ですよ」
右京と愁は、番組の制作会社と打ち合わせをしていた巻長治(fa2021)と廊下で会った。
「そういえば、休憩取ってなかったわね。ごめんなさい。スケジュールが忙しくて、疲れているでしょう」
右京は飲み物を愁に渡すと、長治と会話を続けた。
「こちらも、いろいろ手は打っていますので、番組の方はご心配なく」
「それなら安心したわ」
右京も愁と一緒にベンチに腰掛けると、一息吐いた。
「それじゃぁ、次は本番ね。落ちついて。君の心をテレビの前の皆に伝えるのよ。自信持っていきましょう♪」
ポンと愁の背中を叩き、気合を入れる右京。
「はい!」
「期待していますよ。がんばってくださいね」
長治も愁を激励する。そして、右京は愁の腕を引っ張って収録スタジオへ向かった。
*
某TV局収録スタジオ。
『本番5秒前、4、3、‥‥、‥‥』
番組のOPテーマが流れ、司会者が入場。
その頃、楽屋では愁がスタンバイしていた。
「あ〜ら、バッチリ決まっているじゃない♪」
ルイが用意した衣装を着た愁。彼が選んだのは、既存のイメージをブチ壊すようなイメージのスーツだった。淡いピンク色のノーマルなスーツ。中のシャツはやや短く、ラフに着こなしている。
「やっぱり、ヘソ見せは基本ね☆ これで、若いコもおばさまもイチコロよ☆」
ミルクも衣装の魅せ方を愁に教え、準備は万全である。
「大丈夫ですよ。私もついてますから」
緊張気味の愁をフィミアが励ます。フィミアはバックでダンサーを務める事になっている。
「なかなか時間が取れなくて少々不安だったけど、いいものが出来たと思う。後は全力で歌うだけだ」
要も演奏の為、一緒にスタジオへ入る事になり、愁にとっては心強い支援となるだろう。
「どうか、力を入れ過ぎず‥‥かつ、初心を忘れずに‥‥ファイト!です、愁さん♪」
りなは満面の笑顔でガッツポーズを取る。愁も『うん!』と力強く頷き、同じくガッツポーズをした。
「では、そろそろ出番ですので‥‥」
気合を入れた愁を長治が送り出す。
*
「次は演歌歌手の愁さんです」
「宜しくお願いします」
「今までとは違った、派手で明るい衣装ですね。イメチェンですか?」
「いえ、曲調が明るいので、それに合わせています」
「そうですか。では、愁さんにスタンバイしていただきましょう。曲は『不死鳥のように』です」
若年層にアピールする為に、あえて演歌らしさは出さず、愁のルックスを前面に出した演出で撮影が進む。
曲は一度夢を諦めたものの、出会いがきっかけでもう一度夢に向かって努力し、成功を収めるというものだった。
愁は再起を誓うというものより、一歩進んで成功を勝ち得たという歌詞を書き上げていた。
♪あの頃、掴むことが出来なかった夢〜 今は自分の手に〜
あなたとの出会いが〜 わたしに力をくれた〜
人生は何度も挑戦出来る〜 不死鳥のように〜 夢へ向かって飛び立てる〜♪
収録は無事に完了した。
「お疲れ様でした。見事に出来ていたじゃないですか?」
フィミアは一緒に楽屋に戻る愁に労いの言葉を掛けた。
「はい!」
愁の返事は充実感に溢れていた。
楽屋に戻ると、そこには沢山の花束が届いていた。ファンから送られたものだという。
「これは‥‥」
愁の瞳は再起を確信したかのように、自信に満ちていた。
*
結果、今回の曲はセールス的には悪くない数字であったが、大きなヒットという訳でもなかった。
しかし、その歌は若者にも中高年にも幅広く受け入れられ、ロングセールスとなった。
愁も今回の結果に満足せず、次のステップ目指して努力している。