The Train:Cry南北アメリカ

種類 ショート
担当 えりあす
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/29〜01/04

●本文

●オムニバス・ドラマ『The Train』制作依頼
 この度、当TV局におきまして、複数の監督を起用したオムニバス・ドラマ『The Train』を企画しております。
 地下鉄を走る謎の列車を舞台に、数人の監督が競作するオムニバス・ドラマとなる予定です。
 つきましては、資料を添付いたしますので、ご確認下さい。
 良いご返事をいただける事を期待しています‥‥

  *

「オムニバス・ドラマか‥‥まぁ、新人には選択の余地は無いからな」
 新米監督のミスジャー・L(エル)は送られてきたメールを読むと、すぐに返信した。
 もちろん『Yes』。
 今回の依頼は、複数の監督によるオムニバス・ドラマ。
 同じ舞台で、それぞれの監督が違うドラマを演出するという。
 添付された資料を確認し、ミスジャー監督は早速準備に取り掛かる。
「相変わらず、脚本家の知り合いっていないんだよな‥‥」
 思いついたアイディアをメモに書き殴り、脚本を仕上げていく。
「列車は得意のCGで表現して‥‥後は役者だな。やっぱり、外に出ないと、こういった知り合いって増えないんだよなぁ」
 ミスジャー監督は脚本を仕上げると、役者募集の告知をサイトにアップした。

●『The Train:Cry』出演者募集
1):配役(名前は変更可)
 ・主人公:少年(少女でも可)役
 ・車掌:1人
 ・家族:1人〜
 ・クラスメイト:1人〜
 ・列車に乗っている人:2人〜
 ・その他:自由

2):脚本
 1970年以降、ニューヨークでは犯罪が増え続けていた。90年には全米で最も犯罪が多い『極めて危険な』犯罪都市となった。
 地下鉄でも年々犯罪は増加し続け、利用者数も減少していった。地下鉄は犯罪の温床となっていたのだ。
 しかし、近年、地下鉄での犯罪は減り、10年間で半分まで犯罪数を減らした。
 何故か。
 それは、地下鉄の落書きを徹底的に消した事による。
『割れ窓理論』をご存知だろうか?
 廃屋等で窓が一つでも割られて放置されていると、すぐに他の窓も割られてしまう。
 つまり、放置されているという事は人がいないと言う事。誰もいない、そのような場所に犯罪者は集まるのだ。
 落書きも同じだ。
 一つでも落書きが放置されていれば、そこに落書きが増える。手入れが無いという事は、誰もそこにはいないと言う事。犯罪者には都合がいいという訳だ。犯罪を犯しても誰も見ていないのだから。そうして、地下鉄の犯罪は増え続けてきた。
 しかし、84年以降、巨額の費用を投じて、地下鉄の落書きは消し去られた。同時に落書きをする者、無銭で乗車する者、列車内でタバコを吸う者、いわゆる軽犯罪を徹底的に排除した。その結果、凶悪犯罪は減り、地下鉄は以前に比べて安全に利用できるようになったのだ。

 夜の地下鉄。
 駅は閉まり、すでに構内には誰もいない‥‥筈だった。
 だが、闇に隠れて動く人陰。
 少年だった。
 少年は警備員がいない事を確認してホームに移動する。
 手にはスプレー。
 少年は落書きをするつもりだった。
 どうせ、落書きをしても、次の日には消し去られるのはわかっている。
 でも、少年は落書きをやめなかった。
 少年には友達はいない。学校に行っても虐められるだけ。家に帰っても待っているのは虐待。
 少年には自分がいる場所というものが無かった。
 この思いをどうすればいい?
 魂の叫び‥‥
 少年は落書きでそれを表現するしかなかったのだ。
 少年は落書きを始めた。
 少年を駆り立てる衝動。
 一心不乱に自分を表現する‥‥
 その時。
 眩い光と共に轟音が響く。
「え!? この時間は地下鉄走っていないハズなのに!」
 少年は驚いた。
 列車はホームに止まると、少年の前のドアが開く。
 少年は無意識のうちに列車に乗った‥‥

 この列車は心に傷がある者しか乗ることの出来ない、謎の列車だった。
 少年はこの列車で出会う車掌や同じ傷を持った人と触れ合い、心の傷を癒していく。
 そして、虐めや児童虐待を乗り越え、主人公が自立していく姿を描くドラマである。

3):撮影箇所
 ・学校で主人公がクラスメイトに虐められる(A)
 ・家で主人公が家族に虐待(B)
 ・深夜の地下鉄で主人公が落書きをしに行く(C)

<CG挿入>

 ・謎の列車が主人公を導く(D)
 ・列車で車掌と出会い、この列車が何なのか知る(E)
 ・同じ心に傷を持つ乗客と触れ合い、傷を癒していく(F)
 ・列車を降り、主人公は自立していく(G)

4):資料
 ・オムニバス・ドラマ『The Train』:同じ舞台(列車)で複数の監督による競作となるドラマ。今後、他の監督による全く違うドラマが展開される予定。
 ・謎の列車:心に傷を持つ人しか見ることが出来ず、また乗車する事が出来ないという不思議な列車。どこで止まるのか‥‥それは乗客が本当に望んだときしか止まる事はない。その為、ずっとこの列車に乗り続けている人もいる。実はこの列車が犯罪減少に繋がっている等、そういう点を演出しても面白いかもしれない。
 ・車掌:主人公と出会う不思議なオーラを放つ乗務員。主人公にこの列車が何なのか、何故主人公がこの列車に乗ったのかを説明する。
 ・乗客:主人公と同じように心に傷を持つ人々。

5):その他
 ・極端に内容が変わらなければ脚本を修正可

●今回の参加者

 fa0472 クッキー(8歳・♂・猫)
 fa0613 (20歳・♂・狐)
 fa0814 水月夜(16歳・♀・狐)
 fa1571 SAKUYA(18歳・♀・兎)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2196 リーゼロッテ・ルーヴェ(16歳・♀・猫)
 fa2378 佳奈歌・ソーヴィニオン(17歳・♀・猫)
 fa2547 蒼夜(14歳・♂・リス)

●リプレイ本文

●キャスト
・アレサ(主人公):アイリーン(fa1814)
・アーリン(主人公の妹):水月夜(fa0814)
・ハミルト(主人公の弟):クッキー(fa0472)
・カルマ・チェインズ(クラスメイト):SAKUYA(fa1571)
・ジム・グラント(車掌):縁(fa0613)
・ホロウ(乗客):リーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)
・エカテリーナ(乗客):佳奈歌・ソーヴィニオン(fa2378)
・鈴(乗客):蒼夜(fa2547)

●The Train:Cry
<学校>
 講義が終わり、生徒達は次々と教室を出て行く。少女アレサは一人教室に残っていた。後片付けをしたり、窓から外で遊んでいる生徒を眺めたり‥‥

「家に帰っても‥‥」

 アレサには自分のいる場所が無かった。
 家に帰っても、待っているのは家族からの酷い仕打ち。唯一、気の休まる場所はこの教室だけなのだ。
「ちょっと! いつまでも教室に残ってて邪魔だよ!」
 しかし、その領域もクラスメイトの少女カルマによって侵される。彼女は大会社の社長令嬢であるが、立場的な事から本当の自分を見てもらえず、そのフラストレーションを解消する為にアレサを虐めていた。
「‥‥ご、ごめんない‥‥私が悪いんです」
「いつも、いつも、そういう態度でムカツクよ!」
 カルマは不幸を演じているかのようなアレサに苛立ちを覚え、つい手を出してしまう。

<家>
 ベストプレイスを追われたアレサは、途中公園に立ち寄ったり時間を潰していた。時間は刻々と過ぎてゆく。日は沈み、景色は闇のヴェールに覆われていく。
「帰らなくちゃ‥‥」
 アレサは仕方なく家に戻った。
「遅いじゃない! 何してたのよ!」
 帰宅したアレサに妹のアーリンは声を荒立てた。彼女は姉と正反対の派手な服装に化粧だった。
「おそい! おそい! どうせ、アレサはせんせいにおこられてたんだ」
 弟のハミルトも傍にあったおもちゃをアレサに投げつけながら叱責する。
 アレサは一番年長という事で、親からはいつも『年上らしくしろ!』と言われてきた。その為、親は下の子には甘く、妹と弟の責任は全てアレサが背負わなくてはならなかった。アレサとハミルトはその事を利用し、アレサを虐待しているのだ。
「‥‥お姉ちゃんが悪いのよ‥‥ゴメンね」
 口癖のように呟くアレサ。そのような環境が、アレサを何かある度に自分に責任が無くても謝ってしまう性格にしていた。
「あんたよりも、私達のがパパ達に愛されてるんだからね!」
 アーリンは自分達が両親に愛されているという立場を利用し、何かにつけてアレサを虐め続けていた。
「そうだ! 僕はアレサなんかより、ずっとえらいんだぞ!」
 ハミルトも他人の前では『良い子』を演じているが、裏を返せば弱者に対して執拗に嫌がらせを行う『悪魔』であった。アーリンの軽蔑を含んだ言葉と、ハミルトの同情の無い視線を背に受け、アレサは部屋に逃げ込んだ。

<叫び>
 深夜。
 家族が寝静まった頃、アレサは家を抜け出した。
 手にはスプレー。
 目的地は地下鉄。
 その時、アレサと同じく地下鉄に向かう影があったのだが、彼女は気づかなかった。
「どうせ、明日には消される‥‥その繰り返し、ずっと‥‥」
 アレサは必死に自分の心からの叫びを落書きで表す。
 親から下の子の面倒を見る『良い子』と見られたくて必死だったのに、その結果が妹と弟からの虐待。
『我慢しなきゃ』と自分を抑え込んできたものを吐き出す。

 誰かに見て欲しい、気づいて欲しい‥‥

 その願いは翌日に消去される。でも、アレサはやめなかった。行き場の無い感情を落書きで表現するしか、心の叫びを表す手段が無いから‥‥

 ――ゴォォォォ

 轟音が地下鉄に響き渡る。
「何で‥‥こんな時間に‥‥」
 アレサの前に突然、列車が止まった。
 そして、扉が開く‥‥アレサは何かに導かれるように列車に乗った。

<アンタレス>
 列車に乗ったアレサは車室に入った。
 中には4人の乗客。
「私は車掌のジム・グラントと申します。乗車券を拝見します」
 席に座ったアレサに濃緑の制服に身を包み、帽子を深く被った車掌のジムが声を掛けた。
 乗車券?
 そんなもの持ってはいない。
 焦るアレサの手を軽く握るジム。
「拝見いたしました」
「あ、あの‥‥」
 拝見したって何を? それに、この列車って? 軽く会釈するジムにアレサは尋ねようとした。
「この列車『アンタレス』は心に傷を持つ方だけが乗車する事ができます」
 一瞬、心の中をジムに覗かれたような気がして、アレサは胸に手を当てた。
 心の傷‥‥確かに覚えはある。
「心の傷を癒して降車される方も、ずっと乗車されている方もいます。心から望めばすぐに列車は止まるでしょう。しかし、あなたは辛い現実に心から戻りたいと願いますか?」
 ジムの問いにアレサは答える事が出来なかった。

<乗客>
「他のお客様とお話になってはいかがでしょうか? 何か得るものがあるかもしれません」
 それでは良い旅を、と一礼してジムは去っていく。
 アレサは近くに座って本を読んでいる、淡い色のエプロンドレスを着た少女と目が合った。彼女は暫くアレサを見つめると、再び本へと視線を戻す。目の錯覚だろうか、本は白紙だったような気がした。
「あ、あの‥‥」
 アレサは勇気を出して少女に声を掛けた。
 彼女はエカテリーナと名乗った。アレサに優しく微笑むと、手にした本を見せる。本には何も書かれていなかったような気がしたのだが‥‥アレサの目に懐かしい光景が飛び込んで来る。そこには楽しかった家族との思い出の写真‥‥
「これは、あなたの心の本棚にある思い出のアルバムです。あなたにもこういう時期があったのですよ」
 エカテリーナはアレサに囁く。
 愛に満ちていたあの頃‥‥何時から愛情を感じなくなったのだろう。
 ‥‥いや、親に『良い子』に思われたくて、苦しいのを押さえ込んで、そうする事で‥‥自ら愛情を遮断してなかっただろうか‥‥
「さぁ、心を開きなさい。覆っている氷を私達が溶かして差し上げましょう」
 自愛に満ちた瞳はアレサの心を温かく包み込む。
 アレサの気持ちに変化が訪れた、その時‥‥
「‥‥ここに居れば辛く苦しい思いをすることはないんだよ。それは、幸福な事ではないの?」
 今まで無表情で窓の外を眺めていた女性の乗客が、感情の無い声でアレサに語り掛ける。彼女はホロウと名乗った。よく見ると、首筋や手に火傷の痕が見える。
 幸福? アレサはこの言葉に何か引っ掛かるものを感じた。ここに居れば虐めもない。でも、それだけが幸福な事なのか?
「現実から逃げているだけじゃ‥‥」
 そんな幸福よりも、困難に立ち向かう勇気が欲しい。家族との楽しかった思い出‥‥その時間の方が幸福を感じられた筈。じゃぁ、どうすれば‥‥
 その時、アレサの視線に良く知っている顔が飛び込んで来た。
「「え!?」」
 二つの声が重なった。この列車にアレサを虐めていたカルマが乗っていたのだ。
 一緒の席に座り、胸中を語り合う二人。
 カルマはアレサの態度を見ていると、以前の自分を映し出している様で‥‥目の前の自分を乗り越えたくて、破壊したくて‥‥暴力を振るってしまったのだという。相手は‥‥自分を映している鏡。そうして、カルマは自分自身の心も傷つけていたのだ。カルマの前でこの列車が止まったのも、その理由からなのだ。
「自分では立ち直ったと思っていたのに、心はすっきりしなかった。ここに来て、やっと理由がわかったような気がする‥‥」
 カルマと語り合う内に、アレサは苦しみを心に溜め込むだけじゃなく、逃げているだけじゃなく、自分が変われば回りも変わるんじゃないか‥‥そう、思い始めてきた。
「‥‥何だか、お二人って似たような感じがします‥‥雰囲気、匂‥‥それから、瞳も少しだけ」
 語り合う二人に少年が声を掛けた。少年は鈴と名乗った。何か、この少年から存在感が感じられない‥‥
「自分が確かなものになる為には、他者との関わりが必要なんですよね‥‥例え、それがどんな形でも」
 鈴は何時の間にかこの列車に乗っていて、それからずっと乗り続けているという。自分の存在を自分で知る事が出来ない‥‥大切な友に比重を掛けていたけど、その大事なものを失った時、自分というもの自体も崩壊してしまった。
「昔の僕と友達を見てるみたい‥‥でも、お二人は自分というものをしっかり持っています」
 小さく微笑む鈴。二人はお互いの顔を見合わせた。

<降車>
 二人は列車を降りた。
「私が降りるのは、この列車に誰も居らず誰も乗らなくなった時です」
 車掌が扉から二人に一礼する。
「私はまだ、心の傷が癒えないから‥‥」
 ホロウも二人を見送る。心を閉ざしていた彼女だが、最初の時には見えなかった感情の色が僅かだがそこにあった。
 エカテリーナと鈴は窓から二人に微笑んだ。気のせいだろうか、エカテリーナが本へ視線を戻した時、彼女の背中に白い羽根があった‥‥

「あんたとは友達になれそうな気がする」
 カルマは今までに見せた事の無い、清々しい顔でアレサに言う。
「チェインズさ‥‥ううん、カ、カルマ‥‥その‥‥あ、ありがとう」
 アレサも少々言葉に詰まりながら返事する。
 自分が変わらなくちゃ‥‥そうすれば、家族も‥‥
 大切な友も隣に居る。確かな決心がアレサの心にあった。

 ――END