The Train:Pain南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
えりあす
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
4.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/31〜01/06
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●本文
●オムニバス・ドラマ『The Train』制作依頼
この度、当TV局におきまして、複数の監督を起用したオムニバス・ドラマ『The Train』を企画しております。
地下鉄を走る謎の列車を舞台に、数人の監督が競作するオムニバス・ドラマとなる予定です。
つきましては、資料を添付いたしますので、ご確認下さい。
良いご返事をいただける事を期待しています‥‥
*
複数の監督が同じ舞台で違うドラマで競作するという企画は、敏腕プロデューサーのジェニファーが所属する制作会社にも届いた。
「面白いじゃないの」
送られてきたメールに添付された資料を読んだジェニファーは無表情に呟いた。
「もちろん、OKしたわ。今から企画会議するわよ」
ジェニファーはスタッフを集めると、早速『The Train』の企画を始めた。
彼女の手腕はここでも発揮される。的確に内容を把握し、スタッフの質問に次々と答えていく。そして、あるスタッフからこの企画の共通部分について質問が出ると、彼女は資料を見せた。
TV局側から送られてきた資料は下記の通り。
・オムニバス・ドラマ『The Train』:同じ舞台(列車)で複数の監督による競作となるドラマ。今後、他の監督による全く違うドラマが展開される予定。
・謎の列車:心に傷を持つ人しか見ることが出来ず、また乗車する事が出来ないという不思議な列車。どこで止まるのか‥‥それは乗客が本当に望んだときしか止まる事はない。その為、ずっとこの列車に乗り続けている人もいる。
・車掌:主人公と出会う不思議なオーラを放つ乗務員。主人公にこの列車が何なのか、何故主人公がこの列車に乗ったのかを説明する。
・乗客:主人公と同じように心に傷を持つ人々。
「どうせ、他の監督は主人公を立てて、その視点からドラマを制作してくるでしょ。それらと差別化する為に、あえて主人公は出さず、この列車に乗っている心に傷を持つ乗客の視点でドラマを描くわ」
ジェニファーの突拍子もないアイディアにはスタッフ一同慣れている。主人公がいないドラマ‥‥いや、一人一人皆が主人公というべきか‥‥こうして企画は出来上がった。
ドラマは役者がそれぞれ、心に傷を持つ乗客の一人として、何故自分はこの列車に乗ったのか、これからどうしたいのかを演じる。
役者の数だけ存在する物語‥‥あなたは、どのように演じますか?
●リプレイ本文
撮影前に演技指導を行うミハイル・チーグルスキ(fa1819)と練習を重ねる役者達にジェニファーが声を掛ける。
「いいわね。やる気の無い有名俳優より、演技が上手くなくても必死に頑張る新人の方が私は好きよ」
無表情な顔に微笑が見え隠れする。
「今回は共に仕事ができて光栄です。脚本家でもありますので、また機会があればよろしくお願いしますよ」
ミハイルから差し出された名刺を受け取ると、ジェニファーは『OK』のサインを出した。
撮影は順調に進む。
●The Train:Pain
<戦場を駆け抜ける者達>
●傭兵:ダン・クルーガー(fa1089)
「俺の居場所は‥‥戦場だけだ」
俺は傭兵として世界中の戦場を渡り歩いてきた。傭兵とは名の通り金で雇われる兵士の事だ。金さえ貰えば何だってやる。
「平和、愛‥‥そんなもの、突きつけられた銃口には無力だ」
目の前にいるヤツには恨みは無いが、これも仕事だ。倒さなければ倒される。だから、俺は銃口を引く。
だが、戦いに明け暮れ、体も心も悲鳴を上げていた。でも、本能は戦いを求めている。矛盾した感情に苦しんでいた時、そいつは俺の目の前に現れた‥‥
俺はこの列車に乗った。車掌からこの列車は『アンタレス』と言い、心に傷を持つ者しか乗れず、心の傷を癒した時、本当に自分が望んだ時にこの列車を降りることが出来ると聞いた。
「心の傷だと?」
あぁ、血で汚された過去の事か‥‥
「吹き飛ばされた花は‥‥もう、元には戻らん」
俺は望んでこの列車を降りた。
この傷を癒せるのは戦場だけだ。
ここは愚痴を言うにはいい場所だが、立ち止まっているだけでは何も解決しない。自ら育てた闇を克服する手段は、戦場に戻る事。
俺には戦いが待っている。
●戦場カメラマン:ロバート・キャリコ(fa2460)
僕はダンさんとは戦場で何度かお会いした事があります。彼の生き様を追う間に、僕も何故か『アンタレス』に乗っていました。
この列車でダンさんの胸中を知りました。
‥‥地獄の様な場所でもがき苦しみ、そんな地獄でしか生きられないという矛盾。何か、僕にも当てはまる点があるのです。
商業主義一辺倒のジャーナリズム、その結果起こる報道被害と事実の隠蔽。戦争という悲惨な実情よりも、ファインダー越しの真実を追う自分‥‥そんな矛盾に僕も知らない間に心が病んでいたのです。
僕もダンさんと共に列車を降りました‥‥彼を追っていけば、自分にも答えが見つかるかもしれないから‥‥
<罪と愛情の狭間で>
●女刑事役:ヒロカ(fa2440)
かつて、わたしは難解な連続誘拐事件を解決した。
その時の上司からの褒め言葉、被害者の親からの感謝の言葉がとても暖かく、忘れる事が出来なかった‥‥
その暖かさが欲しくて‥‥自ら事件を起こしてそれを解決してきた。
でも、自作自演の事件はすぐに発覚し、わたしは逃げた。
逃げるあたしの目の前に『アンタレス』は止まった‥‥
席に座り自分の事を考える。
何故、あんな事件を起こしてしまったのだろう‥‥
解決した時、感謝してくれた人の顔が浮かんだ。
同時に自分が子供の時の頃が思い出される‥‥
わたしは親に捨てられ、孤児院に引き取られた。
親の顔は知らない。
褒められた事も、笑顔を見せてくれた事も無い。
愛情に飢えていたんだ‥‥
涙が零れる‥‥
おかぁさん‥‥おとぉさん‥‥会いたいのに‥‥
とんでもない事しちゃった‥‥自分の身勝手で‥‥
わたしは列車を降りた。
自らの愚かさを悟り、自首する為に‥‥
<他人と自分の在り方>
●大学生『上月祥子』役:青空有衣(fa1181)
私は演劇サークルを設立して、処女公演を成功させる為に頑張っていたんだ。
「私は人が笑っているのを見るのが好きだから。それを見ていられたら、それだけで私は幸せだよ」
皆が楽しめたら、それが私にとっての成功。
でも、公演日時が迫ってくるにつれて、私の心に積もっていく何か言いようの無い疲れが精神を侵し始めたの。自分では辛いなんて思っていないのに‥‥恥ずかしいけど、片思いの人に相談したら、こう言われちゃった。
「お前はもう少し自分のことを考えるべきだ」
ふと気がつくと、私は列車に乗っていたんだ。車掌からこの列車は『アンタレス』と言って、心に傷を持つ者しか乗ることが出来ないと聞いたの。『アンタレス』って列車、噂で聞いた事がある。都市伝説かと思っていたけど、まさか自分が乗っているなんて‥‥
皆と一緒に笑いたいのに‥‥私は十字架のペンダントを握り締めながら窓の外を覗く。
早く降りたいのに‥‥そう思っても立ち上がる事が出来ない。
彼に逢いたいのに‥‥本心は、心の奥底では、自分に負担のかかる現実へ戻りたいとは願っていなかった‥‥
<失って初めて気づくもの>
●実業家役:ミハイル・チーグルスキ(fa1819)
私はこれでも地方では有名な実業家だ。今日は重要な取引の為にニューヨーク行きの列車に乗り込んだのだが‥‥何か違う。車掌に聞いてみると、この列車は『アンタレス』と言うらしい。一体、この列車は何なんだ? 問うと車掌は『心に傷を持つ者しか乗ることが出来ない列車』と答えた。
傷? あぁ、思い当たる事はあるな。私は仕事一筋のあまり、妻子に逃げられた。ある日、久しぶりに家に帰ると、既に抜け殻だった訳さ。心の傷か‥‥良い機会だ。現実から離れて、暫く自分を見つめ直そう。今まで気が付かなかった事に気づかせてくれた事に感謝したい。
私は手紙を書き始めた。妻宛に‥‥この列車を降りた時、もう一度やり直せる気がするから‥‥
<スポットライトの影>
●モデル『クラウディア』役:ライラ・フォード(fa2162)
私は友達と一緒にオーディションを受けに都会へ来たの。容姿には自信あるから、絶対合格すると思っていたのに‥‥受かったのは友達の方だったのよ!
本当に悔しかったわ。その後も違うオーディション受けたり、仕事が欲しくてプロデューサーと寝たり‥‥でも、全然ダメだった。仕事もお金も無くて‥‥何で私がこんな惨めな思いをしなきゃいけないの!
涙をプライドという仮面で隠し、オーディションへ向かう為に乗った列車‥‥それが『アンタレス』。
本当に自分が望んだ時にしか降りれないなんて‥‥すぐにでも降りて、スポットライトが当たる場所に出たい! それが、本心なのに‥‥何で降りれないのよ‥‥こんな場所、私に相応しくない。でも‥‥乗り続けなきゃいけない‥‥
私の心の傷って何‥‥わかんないよ‥‥
クラウディアは仮面を脱ぎ捨てるまで、永遠に『アンタレス』に乗り続ける‥‥
<いつか響くバイオリンの音色>
●会社員役:ジーン(fa1137)
仕事帰りの通い慣れた深夜の道。今日は雨だった。俺は帰宅する為、愛車を飛ばしていた。
――トゥルルル‥‥
携帯が鳴り、一瞬目を離した瞬間‥‥俺は致命的なミスを犯した。
信号は赤。目の前に道を渡る歩行者がいた。
急ブレーキを踏むが‥‥間に合わなかった‥‥衝撃だけが鮮明に記憶に残っている。
被害者は少年のバイオリニストだった。一命は取り留めたものの、命よりも大事な右腕が動かないという。
演奏家としては致命的な傷だ‥‥
保障も謝罪もしたが‥‥彼の将来を奪ってしまった事はどうにも出来ない。
どうすればいいんだ‥‥どうやって罪を償えばいいんだ‥‥
『アンタレス』でずっと彷徨い続けている俺がいる。
●バイオリニスト:寒河江 薫(fa2239)
音楽教室の帰り。その日は練習が長引いて、帰るのが遅くなってしまったんだ。帰り道は街灯が少なくて、雨であまり見通しが良くない。遠くに見えた車のライトが、気がつくと目の前に迫って来ていて‥‥そこから記憶が無くなった。
目を開けると、そこは病院。少しパニックになったけど、落ち着くと体が変な事に気づいて‥‥右腕の感覚が無い‥‥
演奏家の命の言える利き腕が‥‥医師から、一生動かないと宣告されたんだ。
「動かない右腕なんか要らない!」
俺は加害者をすごく恨んだ。バイオリニストになるという夢、今までの努力を容易く奪った加害者が許せなかったんだ。
動かない右腕を擦りながら、ふと立ち寄った地下鉄で‥‥その列車は俺の前に止まった‥‥
「えっ!」
その列車には加害者のジーンさんが乗っていた。俺よりもずっと前から乗っているそうだ。
「本当に‥‥申し訳ありません」
ジーンさんは必死に謝り続けた。
「もういい‥‥もういいよ」
俺は心から謝るジーンさんを見て言ったんだ。誰かを恨み続けるのはすごく辛いから‥‥もしかしたら、ジーンさんは俺より辛い思いをしていたのだろうかって思うと、不思議と許せる気持ちになったんだよね。すると‥‥今まで辛い、自分は不幸だと思っていた心の傷が無くなったんだ。
俺はジーンさんを引っ張って列車を降りた。何年かかってもリハビリで治して、もう一度バイオリンを弾きたい‥‥列車に閉じこもってちゃ右腕は治らないからね。俺にはまだ捨てきれない夢があるんだ。
『アンタレス』に乗車する人、降車する人、そして‥‥窓から降りる人を眺める人‥‥それぞれにある物語。
列車の通過音が小さくなっていき、薫が弾くバイオリンの音色が鮮明になってくる。
――END