OLDIESは聴こえるかアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 5.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/24〜04/26

●本文

 英国カメラマンのギルバード・エバンスは約二十年振りに日本・横須賀に来ていた。彼は改札を出るとすぐに当時行きつけにしていたライヴハウスへと向かっていく。
 ギルバードはそこまでの道のりを迷う事はなかった。が、近代的な建物や行き交う人々の変わりように驚き溜め息が終始、唇からもれていた。
 そう、初めて日本‥‥横須賀で感じた古くて懐かしい匂いがどこにもない事に喪失感を抱いていたのだ。
 尤もそれは時間の移り変わりが成すものであり、どこにでもある事。「仕方がないんだ‥‥」っと彼は心の奥で何とか納得し、再度諦めを含ませた溜め息を一つ吐き捨て足を進めていく。
 小一時間後、ギルバードは波止場に建つライヴハウス『EVANS』の前にいた。
 店の前まで来た途端に、彼の顔から落胆と疲れの色は掻き消えた。
 なぜなら、ここだけ時代から切り取られたように当時と変わりがなかったのだ。古いレンガ造りの壁にピンクと青のチカチカする蛍光管の飾り、厚い扉の向こうから微かに聞こえてくる懐かしい音。も‥‥である。
 ギルバードは自然と零れる笑みを一つ鼻を鳴らして隠すと手摺りを押した。
 とたんに彼を包むサウンド。懐かしいアメリカンポップ‥‥オールディズだ。追って聞こえてくる、友人の低く穏やかな声。
「よぅ、ギル。待っていたぜ。いきなり日本に帰ってくるとはどういう風の吹き回しだい? 二十年ぶりに潮風が恋しくなったか」
「ヤァ、ジョー。あぁ‥‥年を取ったせいか昔を懐かしむ傾向が出てきてね‥‥。と言うのはジョーダンで実は頼み事があるんだよ」
 笑顔で出迎えてくれたのは二十年来の友人、この店を経営するジョーの愛称で親しまれる中島 譲(ゆずる)と固い握手とハグで長年の行き違い、凍結した時間の氷を溶かした後、ギルバードは案内されるままテーブルに着きグラスを傾けながら、用件を切り出した。
 それは英国でブームになっているノンフィクションドラマ制作の依頼の話。
 小さな雑貨屋から今やアクセサリーの老舗とまで謳われるほどにまで昇り詰めた人物のサクセスストーリーであったり、小さな街に住む少女の恋愛が発展した一大シンデレラストーリーであったりと多様だ。
 カメラマンをしていたギルバードにも番組からオファが来た。長い間胸に仕舞っていた思い出と数百枚にも及ぶ写真の数々をドラマ化したいというのだ。
 最初、渋ったギルバードもある条件を飲めばという事で承諾をした。
 それはこの『EVANS』で演奏するバンドにドラマにあったテーマとエンディングとなる曲を制作して貰う事。
 番組側は言われるままにギルバードを横須賀へ派遣し、十二日間の滞在費用を出したのだ。
 そこまでされたのなら彼だってきちんと仕事をするしかない。
 ふいにジャケットの内ポケットから一枚の古ぼけた写真を取り出し、友人の前へ出した。
「ジョー、憶えているかい? こいつらの事を」
「あはは、忘れるはずもないだろう。すっかり大人になっちまったよ」
 写っていたのは波止場に止まる五台のバイクに跨りポーズを決める一人の女性と四人の男。
 親指を立てたり、微笑んだり。はたまた態とらしい厳めしそうな表情を作ったりと思い思い好きな恰好でキメている。
「DIANA‥‥伝説の走り屋達。彼らの話を英国がドラマ化したいそうなんだ。そのテーマとエンディングの曲を作ってくれるCOOLなバンドを捜している。どうかなジョー。乗らないか?」
「‥‥。そうだな、あれから二十年。俺達の青春をしっかり活かせるならいいぜ」
「勿論。良いドラマを作りたいと思ってる」
 話は決まったようだ。

 ‥‥。
 さて話は変わり、ここでギルバードと譲、そしてDIANAについて話をしよう。
 およそ20年前の日本。東京に隣接する神奈川県、横須賀。
 若者達が荒れ狂う時代の中で当時、爆発的な人気を誇る走り屋がいた。
 湾岸線を駆ける彼らの目印は茨と厳めしい赤と黒の薔薇が抱く抜き身の日本刀の画のスイングトップと旗。横須賀を拠点する走り屋『――蛇威亞奈 DIANA』だ。
 横須賀一、最速かつ最強を誇るまさに伝説の暴走族である。
 抜擢された四代目リーダーはなんと女性。一見大人しめに見えるが走りと喧嘩は大の男が敵わないくらいの技術を持ち、一本筋の通った勇ましいハーフのレディ。その姿は歴代のリーダ達を唸らす程である。
 そんな彼女に惚れた個性豊かな四人の野郎達。生粋の日本人もいればハーフやクォータもいた。
 ギルバードとDIANAとの出会いも、彼らが出会い仲間になったのと同じように必然的で単純だった。
 個展開催の為、日本に来日し横須賀の風景撮影していたギルバード(当時25歳)が見かけたツーリング中、休憩をとっている旧式のバイクとその乗り手達。
 興味を抱き話を聞けば、彼らには国籍も人種も無く、ただ好きなバイクに跨り走る事で互いの気持ちを分かち合い、そして恋に友情、遊びに喧嘩っと高校時代を惜しみなく謳歌している。
 そんな彼らに魅せられたギルバードは、友人である譲に頼み紹介して貰ったのだ。
 なんと譲は元DIANAメンバーであり弟は現役だったのだ。
 交渉の末、青春を満喫する彼らを写真に収め、メンバーが愛好していたオールディーズに乗せて個展を開いた。
 勿論、それは手放しで喜べるほどの成功ではなかった。あちこちで様々な論争を呼んだ。しかし個展は共感した当時の英国の若者の力によって成功を収めた。
 その後、写真と音楽は人の目に晒されることなく二十年間、ギルバードが大切に保管してきた。そして今、また日の目を見る事となった。写真展ではなく、ドラマとして‥‥。
 二十年経った今、英国人ギルバードが異郷で出会ったDIANAという走り屋と五人の若者の青春がオールディーズの曲に乗って彼の記憶の底から甦ろうとしていた。


■バンドを募集します。
 横須賀にあるライヴハウス『EVANS』では、オールディーズに因んだバンドとその曲を募集します。
 テーマは20年前、伝説と謳われたDIANA・蛇威亞奈という走り屋達の青春を一人の英国人カメラマン・ギルバードの視点から見、扱ったドラマのオープニング曲とエンディング曲です。
 ドラマの1話目はギルバードがDIANAのメンバー達に聞くメンバーとの出会いの話です。
 因みにストーリーの流れは彼らの回想であり、入学時15歳ということで免許取得年齢に達していない為、バイクに乗るシーンは殆どありません。
 曲目は一バンド、二曲まで。あまり曲数や曲に長さがあると時間の都合上、最後まで演奏が出来ない場合があります。
 採用された曲はもれなくドラマのOPに使われ、ストーリーの本線や伏線となる予定です。
 どうか皆様の手で、COOLな曲を作ってくださいね。
 ではギルバードと譲と共にEVANSでお待ちしてます。

●今回の参加者

 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2870 UN(36歳・♂・竜)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa3956 柊アキラ(25歳・♂・鴉)
 fa4406 珂鴇大河(25歳・♂・犬)
 fa4658 ミッシェル(25歳・♂・蝙蝠)
 fa5307 朱里 臣(18歳・♀・狼)
 fa5320 倭和泉(20歳・♂・猫)

●リプレイ本文


 波止場。古いレンガ造りの壁に掛けられたピンクとブルーのネオンサインで描かれた店の名前、『EVANS』が宵闇の中にチカチカと音を立てて浮かぶ。
 その隣にある厚い扉の向こうから微かに聞こえてくるサウンド。つい釣られて手摺りを押し開けると、薄暗い店の中に立ちこめる紫煙と酒の匂い。独特な雰囲気がそこにはあった。そう、ここは平成という時代から切り取られ忘れられたような店。だが頑として店はその色を変えることはなかった。
 やはり店のムードや依頼曲の内容に些か戸惑う出演者達。だが用意された少しばかり狭いステージの上に立ち、薄暗い中に浮かぶ無数の顔を眺めた。その中にオーナーの中島譲とギルバード・エバンスの顔もある。彼らは楽しみだというように出演者達に笑みを浮かべ、GOサインのように頷いた。
「こんばんは。朧月読+です。今日は宜しくお願いします。では僕達が用意した曲を演奏したいと思います。歌が使われる使われないに関係なく、ドラマの方‥‥楽しみにしてます。聞いてください『ハイライト』と『only day』!」
 緊張した面持ちでMCをした柊アキラ(fa3956)が軽く頭を下げると、店で良く使い込まれているドラムを前にした珂鴇大河(fa4406)が全身でインパクトのある音を打ち出す。それに合わせ軽快なミッシェル(fa4658)のギターがメロディを奏で、支えるアキラのベースとハミング。
 楽しげな音が店内に響き渡ると、すぃっとドラムの音が切れ、ベースとギターの二本の弦楽器のみで始まる曲へ変わった。

『only day』

「 どこで生まれたか それで何が分かるの 貫きたいのは単純なこと
  たった一つの心だけがこの両手に 溢れる程の勇気をくれる

  正直でいるのに良いことばかりじゃなくて 小さな真実は転がるたび、すぐ嘘に変わった
  守りたくて傷つけた日を忘れずに 零れていった涙を拭う

  出会いとサヨナラを繰り返し繰り返し 強くなり脆くなり今も傷だらけ
  貫きたいのは単純なこと 私が私であるように 」

 アキラの声は伸びのある中に歌詞にある言葉、嘘や涙、傷など前向きでない印象を受けるものも、ドラマの主人公達が力に変えていくようなイメージを持って貰えるようにと、曲全体に強さと思いを込め語り口調で歌い上げる。スポットライトの明かりが彼らを照らしアキラの黒髪がやや赤みを帯び、ミッシェルの穏やかで優しげな表情がステージに良く映える。
 途中、フッと息を抜き再度マイクに向かう彼にミッシェルが弾くギターが切れることなく澄んだ音色を響かせる。そこに大河のバスドラが力強さを増させ、伴いグンッと勢いを付けた曲。そこで彼にもライトが当たる。スティックを奮う彼は飛ばしすぎず、あくまでもタムをリズミカルに刻み強すぎずはっきりとした曲調で二人をサポート。ミッシェルもこっそりと練習した結果が良く現れている。
 最後のフレーズに差し掛かった。アキラの歌と重なるギターの音。それは綺麗なハモリを見せライトが落ちるのと一緒に静かに消えた。
 すぐにライトが上がり照らし出されたのは次のユニット、Un‐titlEだ。率いるメンバーは店の雰囲気にしっくるとくるワイルドな容貌のUN(fa2870)とサッパリとした衣装の中でも可憐さが漂う少女、朱里 臣(fa5307)。そして‥‥
「もう出番ですかー? わーUNさんと臣さんと一緒だー楽しくやるぞー! ‥‥にぎゃっ?!」
 ごげし!
 つい前ユニットの演奏をのんびり聞き入ってしまっていた倭和泉(fa5320)が、二人の呼ばれ、薄暗いステージに慌てて上がろうとし、盛大に転げた。
 吃驚したのは本人もだが、ステージのメンバーも一緒。そして前列のテーブル席で目の当たりにした文月 舵(fa2899)も空色の瞳をまん丸くする。
「や‥‥大丈夫でっしゃろか‥‥?」
「倭君、生きてるかーっ」
 彼女の隣で出番待ちをしていた婚約者の柊ラキア(fa2847)も吃驚。つい飛んでもないことを口走るが、そう言われても可笑しくないほど盛大に転げた倭。彼は恥ずかしそうに起きあがり、
「‥‥うぅぅ‥‥だ、大丈夫。転け傷あっても熨しがないですがお願いします‥‥ギルバードさん、譲さんそして他の方も宜しくー!」
「ああ、熨しなんてなくても歓迎だ。そら」
 笑いを堪えるUNに引き上げられステージに上がった倭。
「そうそう、にゃごにゃごにゃーご! こっちへおいでー。‥‥ということで、少し脱線して賑やかな一幕もありましたけど『Un‐titlE』です。頑張りますので、宜しくお願いします」
 臣のさばけた挨拶と共に引き続きドラムを担当する大河がカウントをとり音を刻む。それに合わせ臣のベース、そして先程のお茶目はどこへやら、真顔の倭がギターを奏でていく。

『you dont know』

「 静かな予感は 絶えずどこかで始まる
  届かない悔しさ難しい言葉で飾っても 今は何も分からない 」
  意味も知らず歌う耳で覚えた流行歌の方が
  上手く伝えられる気がした

  この一瞬を ただ生きるために焦がれる眩しさ
  難しい言葉で飾っても 今は何も分からない―― 」

 ミドルテンポに仕上げられる曲調に合わせ、UNは語るようにそれでいて確かな発声で歌い上げていき、後ろで演奏する臣や倭をリードしていく。
 二度目の同じフレーズに差し掛かった時、すっと演奏が途切れUNの歌声だけになる。グッと伸びのある声が響き渡り消える瞬間、タイミングを見計らい臣のベースが低い唸りをあげ音が取り戻される。被さるように倭のギターがメロディを爪弾く。

「 誰もが荒削りな輝きを抱え迷いながら
  その胸の奥秘めた何か 確かめに歩き出す 」

 先よりも音に深みが増し、感情の強さが表れだす。そして徐々に終盤へ向かい、UNのワイルドな歌声と共に臣、大河の演奏が落とされ。最後は静かに倭のギターで曲を終えた。
 が、すぐにドラムの刻みで曲に入る。それは臣が、DIANAという走り屋の名前と四代目リーダーである少女をイメージして作詞した曲。アレンジをしたのは倭。もちろん歌うのはUNだ。力強い男性の声は、DIANAのメンバー達が彼女への憧れと畏怖を感じられる素敵な一曲となっている。

『月の女神』

「 いとしい月の女神 あの蕾はいつ花になるだろう
  孔雀みたいに羽を広げて待っている

  いとしい月の女神 握る刃だけでは強さじゃなかった
  白い光を弾き立ち尽くしている

  暗闇を照らしてくれたなら――速く、速く いくつもの夜を越えながら、走ってゆける 」

 前曲と変わり、ギターとベースの音を揃えられ歯切れのあるリズム。ややアップテンポさは彼らがバイクで駆け抜ける様に早く。そして繰り返される言葉、「速く」はそれを急き立てるようにUNが歌いあげ、そっとベースで盛り上げる臣。
 そして歌も音もしっかり揃えられラストを迎えた。倭がそっと右手の指を動かし音を弛ませる。それはまるで耳元で唸る風音。走り抜けたバイクが残すそれを表現し演奏を終えた。


 立て続けに二バンドの演奏。しかもかなりの好感触を覚えた譲とギルバード。最後に残ったカップルが席から立ち上がりステージへ向かう。
 演奏を終えた臣は、タオルと出されたドリンクで喉を潤すとステージで準備をする文月に熱い視線を送る。それは彼女が織りなすドラムテクニックへの関心の視線。終わったばかりの興奮ばかりでないモノを感じながら演奏を待つ。
「こんにちは、譲さん、ギルバードさん。舵と一緒に、アドリバティレイアで頑張りまーす! えへへっw 聞いてください。まずは『Shine』‥‥」
 未来(今でもそう)のハニーとの演奏にウキウキなラキア。ご機嫌良く首から固定したハーモニカに手を添えリズミカルに吹き始める。その音はブルースともロックとも取れる独自のポップス。
 ラキアは3フレーズ分の前奏をハーモニカで吹くとすぐに横へ退け、ギターを爪弾く。そしてスタンドマイクに近付き、体を預けるように歌い始める。

『shine』

「 まぶしすぎてめまいがした 光 惹かれた一瞬 追いかける
  探してた 吹き込む風を そして全部もってかれて 僕も風になる
  通り抜ければ一瞬 リアルがほしいから
  走り続ける 駆けてゆける

  どこまでも どこまでも いつか いつか 離れても 
  この日 あの時を 抱いているから

  まぶしすぎてめまいがした 光 惹かれた永遠 今は共に 」

 旋律をやや弱く、逆に歌声を明るく強く。2フレーズを終えるとふっと音を止め、更に明るくハジけるようにラキアは『探してた』っと軽く体を跳ね上げる。その時、ハーモニカと一緒にゴーグルもピョコンッっとジャンプ。
 だが、決して音は雑にならず、引きずらずテンポ良く切っていく。もちろん息を合わせた文月のタムタムが更にそのテンポを良くしているのは間違いない。
 駆け抜ける青春、DIANAを音で表し彼らが別れることを知っているというフレーズに差し掛かると、歌声と共にギターの弦を強く弾いた。
 最後の歌詞‥‥文月はベースドラムのみで音を取り、ラキアはギターから指を放すと、グッと低中音域のある歌声を伸ばし披露。スッと息が切れたところで最初のテンションに戻され、ドラムとギターが後奏。最後は出だしと同じようにハーモニカが聞こえ曲を終えた。
 歓声が上がる中、ラキアは嬉しそうにそれを優しく制すると、
「そしてこちらは、かじの作った曲です! ねー、かじぃvv えへへ‥‥『明日のヒーローへ』」
 デレデレ顔のラキア。本当に彼女のことが大好きで仕方ないらしい。見ているギルバードは笑い譲はしっかりしろ! っと野次を飛ばす。
 だがそんな彼も文月の刻む静かなベースドラムのカウントを聞くと一転。真剣な表情でマイクを抱え、切ないハーモニカの音色を響かせる。

『明日のヒーローへ』

「 無敵のヒーローが空からやってくるような期待と
  何も起こりやしないという現実を 両隣に座る僕らの明日
  一歩進む間に この世界はどれだけ変わるのか

  大人の言う事も分かるなんて言って まだ幼い顔で笑う時もある
  それでも分かり合えない日は 言葉も上手く形にならない

  そう、誰もがたてる誓い忘れないで
  誰かの後ろからじゃなく 自分の足で来たんだ
  そう、大勢と同じ道を行く時も
  足跡辿るんじゃなく 自分の足で行くんだ 」

 歌に入る時、楽器を持ち替えラキアはアコースティックギターをかき鳴らし、しっとりと歌い上げる。
 曲は徐々に盛り上りをみせ、文月のドラムも段々強くリズムを変化させていくが、間奏に入ると音は再び静かに語りかけるような最初のメロディへ。
 最後のフレーズに向けて丸み持たせた音はラキアの声音に良く合い、足を踏み込む仕草をする彼がしっかりと歌い上げ、ラスト、ハーモニカの幾つもの音色に乗るドラムがトトンっと消えてくように締め。ライトがスッと落ちた。


 彼らの演奏が終り、労いを含めドリンクと軽食を振る舞う譲。ギルバードは再度一から録音をしていた曲を聴き検討している。
「実はーぶっちゃけると、オールディーズって何って状態から始めたけど‥‥でもいくつか聞いたら、結構知っている曲もあるんだって気付いたよ。あぁーこの事を言うんだ〜って感じ。けど私には懐かしさよりも新鮮な感じが先に来たかな。コーラスとかギターがキラキラしてて面白かったー」
「そうやねぇ。20年前でオールディーズ‥‥なんや年代的には一応生まれてはいるんやけど、微妙なところどすなぁ。うちも作曲にあたって、幾つか改めて聴いてみましたんやれど、普段作る曲と比べて音楽も変化してるんやなあって、何やしみじみ聞き入ってしまいましたわぁ」
 可憐な少女と言う言葉が当て嵌まる臣は、でんっと座るUNの大きな背中に、よじ登りながら話す。同意をするのは、はんなりとした空気を纏う文月。その隣でべったりくっつく婚約者ラキアは満足を全身で表している。しかし何故だか頭にはアルミ両手取って付き鍋があった。
 理由を聞きたい譲だが、ここは敢えて聞かずに預かりモノを差しだした。
「忘れるところだったぜ、文月さんラキア君に先輩から預かりモノをしてたんだ。あ、誰かって? そらGS好きのディレクターさ。俺らの先輩なんだよ。一昨日、ここへ来ておいてったんだ。んで俺からも祝いを言うぜ! おめでとう、お二人さん。幸せになっ」
 譲はラキアと文月の手に赤白の水引の付く封筒を渡した。
「そうなんですよね。舵さんとうちの馬鹿でアホで意味不明な兄が結婚なんて‥‥。末永く宜しくお願いします」
 臣の頭を撫でていたラキアがじとりと兄の方に冷たい視線を送り未来の義姉に挨拶をする。
 なんだよーと口を尖らせ抗議するラキア。クスクスと笑いながら文月が、
「アキラさんとラキちゃん、さすがに双子で並ぶと不思議なもんやね。よぅ似てるけど違いますわぁ」
 当たり前ですっとアキラが言い切る。大笑いする大河と倭。
「日本の走り屋の話を英国でドラマ化。乗ってる身としちゃ楽しみな話だ。勿論、俺は安全運転だがな」
「んー蛇威亞奈‥‥この漢字でダイアナと読むのですね。日本文化は奥が深いです。もっと学ぶ事が多そうです」
 珈琲を一口飲みUNはポツリ一言。カウンターで日本通を自負するミッシェルは溜め息。彼女の言葉に慌てたギルバード。
「イエイエ。それは当て字です。あまり深く取らないでクダサイ。そう、決めマシタ。曲は‥‥全部採用させてくだサイ。どれを選ぶナンテ出来ません。ハイ」
 悩み抜いた顔をした彼がそう言った。