legend of DIANA 3アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 8.4万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 07/18〜07/21

●本文

 ここは波止場の一画に建つライヴハウス兼バーの『EVANS』。
 薄暗い店内は紫煙と酒の匂い、密やかに聞こえる怪しげな会話。そしてオールディズの曲が足を踏み入れた者にまとわりつく。
 陰と陽。独特な雰囲気を持つ店だ。
 興味本位に足を踏み入れただけの者はここで踵を返し、戸を閉めるのはザラ。だが勇気を持って奥へ歩みを進めていくと、落ち着いた色合いの木目カウンター席に座る一人の異国人・英国人カメラマンであるギルバード・エバンスと話が出来る。
「どうだい? ジョーからDIANAを次いだ彼らの話は。あの時代は横須賀一番の暴走族になるため手段を選ばなかったんだ。血で血を洗う抗争‥‥。それは酷いものだったのさ。しかしDIANAは生き抜いた‥‥。ジョーが抜けても新たなリーダーが見事に引き継いでくれた。そしてまた新たな伝説を作りだしていくんだ‥‥。ん、その話を聞かせてくれ? あぁいいだろう」
 ギルバードはゆっくりと酒を飲み干すと派手なシャツを纏い、ポマードでリーゼントをきっちりと固めたスマートな男の前にグラスを置いた。彼は無言で新たな酒を注ぎ、そっと前へ出す。
「その後‥‥彼らは少しだけ大人になり、ハイスクールの二年となった。バイクの免許を取得し、DIANAの先輩からバイクを譲り受け、彼らが自分というものを発揮できる夜の時間を楽しんでいった」
 ギルバードはゆっくりとした口調で話し始め、また思い出すように視線を遠くにやった。
 その時、画面はゆっくりとズームアウトし切り替わる。
 映し出された飴色の画面にはこの店‥‥まだ異国人相手のバーだった頃。親から継いだ店を切り盛りする中島譲のトコロでたむろう5人。
 何か楽しげに話し合い、事が決まったようで譲が出してくれたソフトドリンクで乾杯の後、店を出ていく。
 どうやらこれから走りに行くようだ。
 無言でグラスを拭きながら見送る譲。賑やかな声はバタンと締まった扉によって遮られた。かわりに譲が耳にするのは曲調が明るいOLDIES。
 土曜の晩に良く合う曲だ。
 そこで紫煙の浮かぶバーへ画は戻り、グラスを傾けるギルバードが映し出される。
「‥‥そうこれからレースの始まり。公道では彼らの勇姿を一目見ようと大勢の見物客がいる。活気立ち異様な熱を帯びる彼らの真ん中には‥‥」
 また飴色の画面へ変わった。そこはPM11:00の湾岸沿い。深夜間近だというのに異様な活気と熱の帯びる場所である。
「おい、今日のコースは箱根なんだって? もぅどこのチームも出ちまったのか?」
「‥‥いや、まだだ。三チームほど抜けって行っただけだ。トップはどこだ?」
「確かMINERVA【魅祢屡罵】と二番手は鎌霧だったぜ」
 DIANAを観戦する者の中に今の状況を話す男たち。
 そう、彼らは毎週深夜に行われる公道レースを観戦しに来ているのである。
 そんな沢山の若者の中心に今入っていったのは、抜き身の日本刀を抱く茨と赤と黒の薔薇とゴシック体で書かれたチーム名『DAIANA 蛇威亞奈』のスイングトップ。
 トレードマークを見た多くの人々は彼らに向かって手を振ったり、歓声を上げたりと様々なリアクションを見せている。
 それに応えるかのようにエンジンを吹かすDIANAのメンバー。まるで馬が嘶くような排気音が響き、飴色だった画面がフルカラーへと変わり、流れ出すテーマ曲。

『shine』
  まぶしすぎてめまいがした 光 惹かれた一瞬 追いかける
  探してた 吹き込む風を そして全部もってかれて 僕も風になる
  通り抜ければ一瞬 リアルがほしいから
  走り続ける 駆けてゆける

  どこまでも どこまでも いつか いつか 離れても 
  この日 あの時を 抱いているから

  まぶしすぎてめまいがした 光 惹かれた永遠 今は共に

 ギルバードの話による、深夜の海岸沿いを湧かせた走り屋チーム・DIANAの伝説が幕開けである。


■ドラマ『legend of DIANA』に出演して下さる方を募集します。

 英国人カメラマン・ギルバード・エバンスが20年前の日本で体験した出来事が、ドラマとなりました。出演して下さる方を募集致します。

 リーダー 外見年齢17歳〜23歳
 日系二世or三世 蛇威亞奈の紅一点。必ず女性である事。
 
 副リーダー 外見年齢17歳〜25歳
 日本男性 DIANA三代目リーダー・中島 譲の弟
 学生服:長ラン&ドカン

 親衛隊長 外見年齢19歳〜30歳
 英国系二世男性

 特攻隊長 外見年齢17歳〜25歳
 外国人or二世。

 旗持ち 外見年齢 17歳〜25歳
 日本人男性。 バイクは乗れず、副リーダーのケツに乗る。
 短ラン&ドカン 特攻服:黒

 敵役のチーム 二大勢力であるMINERVA【魅祢屡罵】のメンバーやその他のチーム。そしてDIANAの他のメンバーなど。

※できれば引き続き入って下さる方は同じ配役でお願いします。また変わってしまう場合は前回の役を参考にしてください。


■注意事項
 必須となっているのはDIANAのメンバー5名。ですが、もしかしたらそれよりも多いかもしれません。その人数は不明。ですので他のDIANAのメンバーとして出てくださっても大丈夫です。
 ですが女性はリーダーのみ。他の女性メンバーは一切存在しませんのでご注意下さい。
 配役の決定は皆様の話し合いで、くれぐれも喧嘩のないようお願いします。
 またこのドラマはフィクションではなく、ギルバードが語るほぼノンフィクションをいう設定になってます。ですので役設定・武器等はリアルに懸け離れたモノの使用はあまり好ましくありません。あまりに不自然ですと反映できませんので、ご理解下さい。

●今回の参加者

 fa0047 真神・薫夜(21歳・♀・狼)
 fa1126 MIDOH(21歳・♀・小鳥)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa5055 鳳雛(19歳・♂・鷹)
 fa5600 伏屋 雄基(19歳・♂・犬)
 fa5775 メル(16歳・♂・竜)
 fa5812 克稀(18歳・♂・猫)

●リプレイ本文


 ここはバー『EVANS』。カウンターに座るギルバードが語り始める。
「‥‥さぁ僕が聞いた彼らのレースの話をしよう。それはもぅ熱狂的なものさ」
 彼の青い瞳が思い出すように目の前に立つ譲の向こうを見る。とたんにバーの扉が開き、そこには若い時分の譲と5人の若者がいた。

 いつになく華やかで和んだ空気が流れる『EVANS』。
「見てよ、可愛いだろ?」
「もう何度も見せられってから知ってんよ‥‥。けどホント可愛いな。譲さんに似なくて良かったよなァ」
「だな。万年シブ顔の女って辛いぜ」
「んだとコラ、ケビンに金三。聞こえてんぞ」
 カウンターに座る中島要(伏屋 雄基(fa5600)は、姪のるなが可愛くて仕方ないらしい。免許入れの中に写真を入れて持ち歩き、事ある毎に見せているのだ。
 玲・スコット(克稀(fa5812))は、素知らぬ顔でダーツの方へ。ケビン(メル(fa5775))は覗きこみ一言。それに追い打ちを掛けるのはバイク雑誌から顔を上げた定岡金三(MIDOH(fa1126))だ。
 二人はにぃっと笑った途端、カウンター向こうから譲の両手が伸び頬を抓ねられる。
「るなはまだチビだから、店にはまだ連れて来れねぇって義姉さんいってたしな‥‥つまんねぇ」
「そんな事ばかり言ってないで要、勉強だよ。ホラこの問題を解いてみな」
「面倒を見せて悪いなリサ。おい、要。るなの事ばっか考えてねぇでしっかり勉強しろ。成績が下がったら引退だからな」
 ぼやく要にリサ・ナガセ(ブリッツ・アスカ(fa2321))が叱咤。彼女は譲に頼まれ要の勉強をみているらしい。
「お勉強ちゃん頑張れよ〜ぉ」
「煩せぇケビン。お前も手伝えよ!」
「嫌だねー。俺はレースに備えてマシンの手入れをすんだよ。お前は夜が明けちまわないうちにさっさと片付けr‥‥ってうわぁ?!」
 からかうケビンに要が突っ掛かる。ヤレヤレと息を吐くリサは止める事はしない。その役は別にいるからだ。
 思った通り、間髪も入れずダーツの矢がケビン目掛けてすっ飛んできた。彼は紙一重で避けると、すぐさま矢を投げた玲を睨む。
 無論、玲はケビンが避けるは計算の上である。
「今からはしゃいでるな。レース中に疲れてバイクの上で寝ちまっても知らねぇぞ」
「うるせぇ! 当たったらどうするんだよっ。痛てぇじゃすまねぇんだぜ」
 要に代わり突っ掛かるケビンに冷淡な視線を投げる玲。彼のはケビンのクルクル変わる感情を内心楽しんでいる。
 和んだ空気が破られ、張りつめたモノへ変わりだす。が、
 次の瞬間、ケビンが挑発的な変な顔。見ていた玲は吹き出さずにいられない。大爆笑だ。
 残念な事にリサや要、金三には見えなかった。だが玲の声から察するに凄い顔だったよう。
 また空気が和みだす。
「‥‥アホだあいつら。な、早く終わらせちまえよ、要。お前ぇのマシンが出ねぇと俺も動けねえんだよ」
 金三がバイク雑誌の向こうから急かす。
「解ったよ、金ちゃん。なぁまだ免許の事、親に反対されてんか? お前の母ちゃん、超絶美人だけど怒ると鬼よか怖えかんなァ‥‥。けどさ俺、なんとなく判るな‥‥。叔父になってるなを抱いてみっとさ親が心配する気持ちってぇの‥‥」
「オイ、俺の子で悟りを開くな」
「だよー。爺クセえぞ、要」
 要は遠くを見つめ話す。譲はそんな弟の頭を軽く小突く。金三は要の気遣いを嬉しく思いながらも悪態を一つ。聞いていたリサも小さく笑っている。
 玲はそんな遣り取りを垣間見ていた。要と金三。二人の阿吽の呼吸というか幼馴染みの良さに少々羨ましげである。
 彼は小さく頭を振ると、的目掛けて矢を投げた。
 その1時間後。
 勉強を終えた要が譲から解放された。皆、嬉しげに『EVANS』の扉を抜け外へ飛び出す。頭の中は今夜のレースの事で一杯のようだ。そんな彼らを譲は見送る。
「良い夜だな‥‥お前ら楽しんでこい」
 その言葉はDIANAでよく使われるモノ。5人とも頷くと戸を締めた。

 ‥‥店の照明が落とされ、奥に座るギルバードのみが照らし出される。
「1年前と変わった事は、沢山あった。なかでも家庭で自分の居場所が無いと思い暴れていたケビンと、日々力を持て余し苛立ちながら過ごした玲だ。彼らはDIANAと『EVANS』、そして仲間を得て、少しだが雰囲気が良くなったようだ。尤も普通の人々が恐れ嫌う不良――族である事には違いないが」
 ギルバードは一息付き、また言葉を紡ぐ。
「さ、彼らの熱いレースの始まりだ」
 また画面は飴色へ変わった。


 ブォォォン、グォォォン!
 飴色の画面に鳴り響く独特な音。熱の帯びた歓声に包まれる夜中の公道。
 大勢のギャラリーがエンジンが唸る度に、声を張り上げ腕を掲げるとカラーへ変わった。
 中心にいるのはMINERVA【魅祢屡罵】のスイングトップ――ギラついた目の梟がズラリと並んでいる。
「今日は足自慢のレースです。解ってると思いますが無粋な小細工などこのMINERVA‥‥戦いの女神には無用! 名に恥じる行動は慎み、今日こそレースを制覇するのです!」
 声を張る有栖川 桜子(真神・薫夜(fa0047))は、真っ赤な革ジャンを翻しメンバー達に喝を入れると、愛車を跨ぎアクセルを開ける。
 そのままギアをローへ落とし一気に走り出した。
 聞いていた坂巻流(鳳雛(fa5055))も桜子を追う。それに反応し背後に控えた男達も次々に走り出した。
 隊列を組み蛇行やスローを繰り返す彼らのパフォーマンス。そこに桜子が静かに左手を挙げると、皆一斉にスピードを上げた。
「イヤォホーイ! そうこなくっちゃな、姐さんよぉ」
 嬉々として茶色い髪を風に靡かせる流。
 同じチーム内でも今はライバル。流は彼らを抜く為、ローからセカンド、そしてサード‥‥っとクラッチを握り込み左足のギアを幾度か蹴り上げ、スピードを増させる。
 桜子は並列してきた流を見やると薄く微笑みグリップを握り直した。彼女の耳元で風の鳴く音を聞きながら呟く。
「気持ちのいい風‥‥」
 この瞬間が桜子の唯一自由であり好きに呼吸が出来る時であった。


 MINERVAが出発してから10分後、またも公道に爆音が響く。観客達は遅れて来たDIANAにエールと状況説明。
「もう蟷螂もMINERVAも出ちまったぜ!」
「あぁ、解ってる。今はこの走り出す前のこの緊張感を味わってんだ。三番目に好きなものだな」
 雑踏の中、クールな笑みを浮かべるリサ。整備の済んだマシンは好調のよう。呼吸するかのように唸るエンジン音を楽しげに聞いている。
「みんな準備はいいか? 行くぜっ! コースはいつも通り。誰が早くゴールをキメるか勝負だ!」
「トップになったら兄貴が好きなだけ店内メニュー食っていいって言ってたぜ。気合い入れていけよなっ」
 風になる事への緊張すら楽しんでいる表情のリサは集まった数十名のメンバーに声を掛けた。続いて副リーダーの要が話す。
 間もなく始まるレースに瞳を閉じ集中するケビン。凄まじい排気音に包まれているハズなのに、耳には脈打つ心臓の音しか聞こえない。
「このまま風になれるなら、死んだっていいぜ」
 ケビンの呟きに玲はニヤリと見やり、
「あぁ良い夜風になれるといいな‥‥。尤もぶっ飛ばしすぎて空き缶踏んじまえば本物の風になっちまいそうだが」
 緊張を隠すように軽い冗談。
 昔のように暇潰しに盗んだバイクを転がすだけの時とは違い、今では風に魅せられる一人となっていた。
「途中、給油をする暇はねぇ、ノンストップだ! 当然だが作戦を忘れんなよ‥‥ゴゥ!」
 要のリアに座る金三は旗を振り下ろす。それが彼らのサイン。
 一斉にスタートを切る。再び観客の声を掻き消す程の爆音に包まれた。
 前輪が浮かない様体を使い押さえ込むケビンが瞬間的に前へ躍り出る。
「一旦走り出したらリーダーとかそういうのは関係無しだかんなっ。誰が一番か、正々堂々で勝負だぜ!」
 誰もがもの凄いスピードで公道を駆け抜けていく。
 リサはさっそく抜かれたが、慌てず騒がず好機を見計らう。
 彼らの出発した後に残ったのは、ガソリンの残り香と夜を裂く音。観客の悲鳴に近い歓声だけだった。


 すでに先を走っている蟷螂の一団と出会すMINERVA。桜子は彼らのガードを縫うように走り前方を走る蟷螂の総長に挨拶。
「‥‥蟷螂さんもいらしているのね、楽しい夜になりそうですわ‥‥ね」
 形良い唇に薄い笑みを乗せると、そのまま一気に加速。桜子の黒い髪が風を受け空を踊る。
 一瞬のうちに追い抜き夜の中へと消えた。
「流石だぜ、姐さん。俺も負けてらんねーぜ」
 彼女の技術に感心しつつ、無鉄砲で命知らずな流は速度を弛める事なく対向してくる車を紙一重で避ける。危険な目にあってもスピードを下げず、それを楽しむようにかっ飛ばしていった。
 呆気にとられる蟷螂。
 そこに追いついたのは、リサが率いるDIANA。彼女も上手く体を傾け抜ける。同じようにケビン、玲も進み3人は前を走る桜子と流を追う。
 後方でメンバーの動きや無線で掴んだ警察の大まかな動向を見る要。リアには旗を靡かせる金三が居る。
「峠と近隣住民の安眠を護るためと称して、族狩りに情熱をかけるマッポがいないとは限らないかんな、金ちゃん」
「あぁ、そうだな。しかしあいつらちゃんとリサをトップで通過させられんのか? あぁケビンの野郎は猪だし。玲も張り切ってるしな」
 一緒に様子を窺う金三。しかし突然、要がバイクを横に滑らせた停めた。危うく振り落とされそうになる金三。
 そうなった理由は蟷螂達が通路を塞いでいたのだ。
「もう抜かせやしねぇぜ。つーか俺らにゃ早さがどーのは関係ねぇんだよ。ここで定岡と中島のクビを取った方が得策なんだよ」
 蟷螂の一人が要達に襲いかかる。が、あと一歩。金三の蹴りが腹に入り、もんどり打つ。
「オイコラ、レースを楽しめねぇんじゃマシンに乗んなよ。‥‥ま、昔の俺ならお前達同様、兵隊も悪くねぇと思ったが、生憎うちの現リーダーは、抗争に興味がねぇらしい。理不尽な火の粉は振払っても自分からは火を放たねぇってタイプだ。ならここに兵隊は必要ねぇが、レースを楽しめないアホをぶちかますのには必要なんだよな」
 ドスっ!
 目の前の男の顔に思いっきり拳を入れる。
「俺はここでレースを降りて、ちょっくら遊んでくらぁ。お前は先に行け!」
「何言ってんだよ金ちゃん。今日はレースの日だろ。喧嘩は‥‥」
「うっせえなぁ。運動だよ、運動! 今のDIANAは走りてぇって仲間だけが集まったチームだ。しかしバイクに乗らない俺でも居心地がいいし、辞めるつもりも旗持ちを降りる気もねぇから安心しろ」
 旗を巻き付けた棒を振り回し周りを威嚇。要は溜め息を吐き、愛車――400ccネーキッドタイプのマシンに跨がり先へ急ぐ。
 残された金三は一暴れ。無論圧勝したのは言うまでもない。


 峠に差し掛かる二つのチーム。接戦が繰り広げられている。
「何だ、遅いお出ましじゃねえか」
 横に並ぶケビンと玲に流が挑発。ジロリと睨むケビンを笑いとばし更なる加速。すぐそこにカーブが迫っているのに、だ。
 崖っぷちを大きく回る三台。ケビンは車体を滑らせるように傾ける。ステップが路面に当たり火花が散る。
 一番外にいた玲は大胆な切り込みで、ケビンと流を瞬時にごぼう抜き。
 負けじとケビンはカーブの出口手前で戻していたアクセルを開き、勢いで車体を起こす。鋭い動きで玲を抜いた。
 流といえば直線番長の彼らしく、カーブに戸惑いもたついた。しかし神業。そのスピードで転けずに曲がるとは大した腕前である。
 そして直線に入ればしめたもの。玲・ケビンと大接戦の上、抜き前を走る。あとは桜子とリサだけ。
「リサ、ご機嫌麗しゅう。聞こえまして? 峠の風が呼ぶ音‥‥」
「随分詩的な表現だな」
 風の音に合わせ歌うような桜子にリサは突っ慳貪な言い方。睨み合う二人。しかしそれはいったん中断。緩く大きな左カーブに差し掛かったからだ。
 桜子は前瞬時にギアを落とすとエンブレを用いてカーブを攻める。しかしリサは違う。
 バイクから身を乗り出し大きな体重移動を利用しバイクを深く傾ける。後ろで見ている玲が肝を冷やす程バイクがバンクしカーブを抜けだす。
 そしてリサはカーブの終わりを見極め体を起こしアクセルをオン。桜子より一つ早く抜きに出た。
 最後の直線。ここを抜ければゴールだ。
 そこでリサを追い抜く流。それでも彼女は冷静に好機を狙いピッタリと背後につき風を避ける。そして終点間近。
「やったぜ、今日は俺様だぜ」
「‥‥甘いな」
 リサは流の意表をついてスッと右横から躍り出てアクセルを開けた。加速が増し見事に彼を抜き、ゴール。
「残念。そっちの連中もなかなかやっじゃねえの!」
「イェイーやっぱDIANAサイコー!」
 口調とは裏腹に残念がる様子もなく笑い飛ばす流。追いついたケビンは両手を放し、ガッツポーズ。
「なぁリサ、三番目に好きなモノは解ったけどさ一番と二番はなんだ?」
「‥‥それはニ番目は走っている時。一番は先頭でゴールした時さ!」
 追いついてきた要の問いに微笑むリサ。背後で桜子は意味深に目を細めると、流と共に横道へ消えた。
「有栖川、走ってる時はイイ女なんだがな‥‥。ところで金三はどこだ?」
「あ、忘れてた‥‥拾いにいかなくちゃ」
 去っていく桜子の背中を一瞥した玲。ふと金三の姿がないことに気付き要に問う。
 要はやべっと目を見開き慌ててターンする。
「‥‥いつ迎えに来るんだ‥‥あいつら‥‥」
 金三はブッ倒した蟷螂を前に旗を肩にもたせふて腐れていた。