ユカタdeビート☆アワーアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 5.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/24〜07/26

●本文

 去年の梅雨時期に始まったこの番組。ゆったりとしたペースであったが夏、冬、春と季節を追い素敵なGSを沢山聞く事ができたのを心より嬉しく思っているディレクター。
 同じように若い方々が徐々に、彼が若い頃から愛して止まない曲に触れ喜んでくれたうえ、近状の報告メールをくれる事も本当に有り難いことだった。

 番組を手掛けてから一年。今年も梅雨の季節となり、去年と同じように窓の外は灰色の重い雲に覆われた雨模様が続いていた。
 ディレクターは珈琲を啜りながら、窓の外を眺め何かを思案している。
「長いようで短い一年だった。それだけ沢山詰まったものだったね」
 誰に言うと無くぼんやりと雨粒を眺めていた彼に転機は訪れた。ノックもそこそこに戸が開けられ、一人のスタッフが慌ただしく入ってくる。
「ディレクター、一年おめでとう企画が通り、屋外の会場が押さえられました。今度は梅雨のない場所といわれる北海道! 派手にGSライヴをキメちゃいましょう!」
「本当か?! よしっ、さっそく演奏をしてくれるミュージシャンを探そう!」
 ADスタッフの言葉に俄然、燃え出すディレクター。瞳を輝かせ企画書を作りに入り、愛用のPCのキーボードに指を滑らしていく。っが、途中でピタリと動きが止まった。
 どうしたんだろうと訝しげに覗きこむスタッフ。
「ねぇ、今回は折角だから、みんなに最新の浴衣を着て貰って、背後から花火を打ち上げるなんてどうかな?」
 些か危険が伴うように思えるが、きちんとした段取りが組まれるのは当然。その辺の配慮もディレクターはきっちり企画書に書き込む。
 良いんじゃないですか? っと彼が打つ書類が出来上がるのを楽しみにしているスタッフは、ディレクターにもう一杯、珈琲とクッキーを二つ添えて、彼の邪魔にならない場所にそっと置いた。

〜〜ユカタdeビート☆アワーの出演者募集〜〜
 またディレクターの企画が採用され、ライヴとあいなりました。
 しかしGSとは今の若者には少しばかり馴染みの薄い言葉。
 音楽的な特徴は、洋楽の要素を取り入れながらも独自の音を見つけ展開した日本発のポップス。
 今の時代からすればノスタルジックな曲が多いのですが、名前も知らない人でもちょっと聞けばなんとなく懐かしさを覚える歌やルックス、揃いの衣装が印象にあると思います。
 どうぞ皆様で楽しいライヴに仕上げてください。
 グループサウンズと言っていますが、歌手さまお一人での参加も大丈夫です。
 また司会者、演出家、衣装担当、大道具を担当の方も同時に募集しておりますので、奮ってご参加下さいませ。

 ライヴのテーマ:男女問わず浴衣を着用して頂きます。そしてライヴの最中、曲に合わせて打ち上げ花火を上げる予定。曲は夏に向けての淡い思いや、お祭りの出来事など青春を謳歌したものを歌ってください。

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa4980 橘川 円(27歳・♀・鴉)

●リプレイ本文

● 控え室はいつも賑やか
 未だ梅雨が明けない本州を抜け出し、心地よい風が通過する北海道のさる場所にライヴ会場を設置したディレクターは、出演者達の集まる控え室へ向かった。
 がちゃり。
 警戒気味に戸を開ける彼。何故なら柊ラキア(fa2847)の来襲を予測していたのだ。だが敢えなく空振り。柊は婚約者の文月 舵(fa2899)に浴衣を着せて貰っていた。
 柊は彼女と一緒なのがよほど嬉しいらしく終始笑顔。周囲にもスイーツな幸せのお裾分けで緊張の走る場を和ませていた。
「ディレクターさん! 先日はお祝いをありがとうございますっ。頂きましたー。えへへへ、いつもとってもありがとう! 僕ら本当、幸せ一杯っ」
「ラキちゃん、伊達締めが上手くいかへんよって動いたらあきまへん。ディレクターはん、ほんまおおきにありがとぅさんどす。どへんしても直接御礼を言いたかったさかい、遅ぅなってすんまへん」
「いやいいんだよ‥‥。今日も宜しくね、お二人さん」
 笑顔で話す柊と手を休めお礼をくれる文月に恐縮してしまうディレクター。そこに浴衣姿の橘川 円(fa4980)が現れた。
「GSって懐かしい響きだけれど、落ち着くのはどうしてかしらね?」
 小首を傾げる彼女にディレクターは微笑む。
 和む雰囲気の中、カーテンの向こうから助けを呼ぶ声。
「ぴぇー、難しいよー‥‥誰か浴衣を着付けてくれないかなーっ」
 カーテンの合間から頭を突き出すベス(fa0877)だ。ディレクターを見るなり、
「ぴよ?! おはようございまーすディレクター。一年ぶりのGSライヴ楽しみにしてました」
「ベスさん手伝うわ。実は私、着物好きなのよ。着付けも帯結びも一通りは可能よ」
「あのぅ橘川さん、そちらが終わったら私の浴衣選びを手伝ってください」
 こくり頷くディレクター。
 橘川はベスの着付けの手伝いを申し出る。彼女の言葉に富士川・千春(fa0847)も浴衣選びのお願い。橘川は短く返事をすると、まずはベスの着付けに取り掛かった。幾つかの華やかな声も聞こえた。どうやた紗綾(fa1851)とアイリーン(fa1814)も居たようだ。手を空いた文月も手伝いに入っていく。
 楽しそうな女性陣の声を聞くだけの柊とディレクター。そんな彼らに月見里 神楽(fa2122)が大きな瞳で見上げ、
「浴衣ときたら夏祭り! 神楽はね‥‥おやつにリンゴ飴、夜食は焼きそばが食べたいですー」
「ふふふ、いいよ、解った。でもねライブが終わってからだよ」
 可愛いお強請り。
 ディレクターはつい子供扱いで悪いと思いながらも可愛さに頭を撫でてしまった。

 数分後、更衣室のカーテンが音を立て開く。
「さー準備は万端! みんなぁ頑張って盛り上げよーねっ♪」
 カランコロン♪
 ベスは下駄を履き楽しげに鳴らす。
「へぇ、気張っていきましょ。にしても皆はん浴衣似合ぅてますわ。‥‥うん、ラキちゃんも可愛らし‥‥よう似合てる」
「‥‥ふふふ、お熱いなぁ‥‥。さて時間のようです。素敵なGSをよろしくお願いします」
 ディレクターは文月に軽く肘を当てつつ微笑み、出演者をステージへ導いた。

●ユカタdeビート!
「期待を膨らませる一周年記念ライブへようこそ!」
 日が落ち、気持ちが高ぶる夏のライヴの始まりに紗綾がまず観客に挨拶。とたんに客席前列とステージの間にある置き型の花火が吹き上がった。勿論、安全の配慮は怠りない。
 いやが上にも盛り上がりを見せるファン。
「ではー最初は『EARtoREMAIN』の3人娘が歌うこの曲‥‥七月の約束。耳に残る素敵な音をお届けします」
 紗綾の紹介の後、間髪も入れず赤や黄、青の光の幕が下から吹き出す。花火の向こうから白地に薄桃色の花模様の付いた浴衣にレースの半襟が覗く富士川と彼女と色違い白地に淡いブルーで描かれた花模様が涼しげなベスの歌声が響く。合わせて助っ人の紗綾のピアノと富士川のギターが爽やかに旋律を奏でだす。

『七月の約束』 富士川・千春
「 光り輝く 青い瞳は
  水しぶきから 飛びたつDolphinの魔法
  波の柔らかな音伝われば いつも二人‥‥共にこのままいれる気がするの‥‥ 」

 音を支えるのはドラムの月見里。白地に赤い花模様の浴衣が印象的だ。勿論、裾のはだけを考え総レースのレギンスを穿いている。
 ベースを爪弾くベスは、間奏で動き出しフリルの兵児帯を揺らす。嬉しげな彼女の顔の横には夜店で買った最近流行のヒーローのお面。それをもう一つを取り出し、富士川にも被せた。
 笑顔で見合う二人は示し合わせ、同じ動作で左右逆にクルリと一回転。富士川が兵児帯に挟んだ金魚型の団扇を見せる。可愛い演出に観客は更に湧いた。

「 透明な水面 二人の姿は(並び)
  映し出す鏡 二人の心は(揺れて)
  砂浜を歩く 二人の気持ちは(ずっと)
  明日もこのまま 波に誓うよ‥‥(側に) 」

 富士川の主線にベスのコーラスが追う。歌のアクセントはピアノだ。

「 いつもと同じ そんな気持ちで
  歩いていける この砂浜を 波打ち際 忘れた想い
  波が届ける メッセージを運ぶ 」

 ここで富士川のソロ。楽器がすぃっと止み、あるのはピアノ音と彼女の声のみ。

「 いつも隣りで 私と生きてる
  探している 夢の中へと歩いていける事
  四季が巡るたび 抱きしめている
  夏を想い 溢れ出す あなたとの日々を‥‥ 」

 重視された歌声は穏やかな潮風を思い描くよう。そこで徐々に音が戻り華やかになる。

「 波の柔らかな音伝われば
  探している 夢の中へと歩いていける事
  光り輝く 青い瞳は
  水しぶきから 飛びたつDolphinの魔法
  七月の約束‥‥ 」

 軽い小さな音が徐々に増し夢へっと言葉を紡いだ時、全て音色が重なった。合わせてスターマインが夜空に飛び交い華を添える。
 最後の一音と共にステージの明かりが落ちた。
 数秒後、スポットライトにベスが浮かびMC。
「‥‥みんなありがとーっ♪ ユカタdeビート☆アワーは始まったばかり! 次はビート☆アワーでお馴染みのユニット、ラキア&舵の『ALR―Liberties―』。曲は『PLEASE!』」
 ベスは客席へマイクを向け一緒に曲目を合唱! 三度目に『PLEASE!』っと発した途端。
 ドドーン!
 カラフルなスターマインが夜空を駆けた。とたんに明るくアップテンポな柊のギターが響く。
 彼は絣風に縦縞の紺地浴衣を黒い帯の渋い姿だ。襷掛けの白い紐の結び目と愛用のゴーグルが跳ね回る。
「こんばんわー! ご紹介にあずかりましたALR―Liberties―文月舵と柊ラキアでっす! 今日の曲はお馴染み『PLEASE×3』だけども進化してまっす! 一緒に楽しんでね‥‥じゃぁいっくよー!」
 前奏の間のMCをする柊。
 白地に絽の浴衣と瞳に合わせた空色の帯を締め、夜会巻きに上げた髪にも空色簪。大人の女性らしい華やかさでありながら、清楚さも演出している文月はパーカッションを前もって入力したキーボードを弾く。
 MCの終わりを合図に夜空に幾つもの火の華が咲き乱れ、軽快な曲が会場を包む。

『PLEASE×3』 柊ラキア
「 I LOVE YOUR GRACEHUL FACE AND NATURE
 『NO,ALL!』

  I WANT YOU TO STAY WITH ME,SO MORE
 『TURN MY FACE!』

  PLEASE!PLEASE!PLEASE! LOOK AT ME
 『DARLING!』

  YOU TO LOVE IT FOR ME LOVE IT
 『ONLY IT!』

  ONLY I LOOK AND WANT YOU TO SMILE
 『HOLD ME!』

  PLEASE! PLEASE! PLEASE!
  KISS ME,KISS ME‥‥PLEASE? 」

 自分を見詰める柊に、文月はそっぽを向きつれない素振りで鍵盤を叩く。勿論、演出。途中、ギターに合わせ観客も腕を振り上げ合いの手のように歌う。
 ラスト。新しく加えられた歌に差し掛かり、柊は訴えるような眼差しで文月を見る。ここで彼女はようやく艶やかな笑みで見返す。最後のフレーズに差し掛かる前、一瞬音が止み柊は語りかけるように歌う。それはセクシーでいてオトナな演出。
 騒ぐ少女達は瞳をうっとりさせ歓声を上げた。
 曲はまた軽快になり、低音を支える文月に早弾きでメロディを奏でる柊。
 息のあう演奏の間、幾度も音を上げ鼠花火に似た打ち上げ花火が空を踊り狂う。
「さーラストはwinde。『夏の泡沫』よろしくねー!」
 ババッババ!
 飛び散る花火で一瞬、明るくなった会場は少しの間鎮まると三人の女性が登場。共にドイツ語のバンド名をイメージして浴衣の柄は朝顔。
「今日はビートアワー一周年! おめでとうーーっ!」
 金糸の髪を軽く結い上げたアイリーンは白地に橙色の模様。彼女はギターを一掻き鳴らし、観客を巻き込んだお祝いの言葉を叫ぶ。っが、返ってきたのは、
「アイリーン、お誕生日おめでとう!」
 だ。驚く彼女。
「え‥‥あ、ありがとー♪ 誕生日に素敵なライブができて嬉しいわ。では曲へ『夏の泡沫』」
 ミドルテンポでメロディラインをアイリーンが奏で、裏腹に軽快なテンポで支えるベースの橘川。白地に紫の朝顔柄に同色の帯で統一し、アップした髪に朝顔の花をモチーフにした簪で止めている。
 そしてドラムの紗綾。朝顔の髪飾りに臙脂の朝顔柄の入った白地の浴衣を襷掛けにした彼女は、着崩れを気にしてホットパンツを下に穿いていた。
 どこか懐かしさを憶える曲が会場に響き、合わせて幾つも光の矢が天へ上がる。

『夏の泡沫』 橘川 円
「 今でもはっきりと思い出す 逃げ水追いかけてる姿
  鼻先がつんとしてむせ返る またこの季節がやってきた
  ふたりで育てた朝顔の花 今年も綺麗に咲いているよ‥‥ 」

 アイリーンが夏への高潮感を仰ぐような歌詞を大切に紡ぐように歌う。

「「 あの日 宿った熱は今もこの胸に 」」
「 強く優しく残っているのだから 」
「「 君が残したものが例え錆びようと 」」
「 いつも笑顔は鮮やかに思い出せる 」

 伴奏は次第に切なさへ変わり伸びやかに三人の歌声がハモる。2フレーズ、交互に追うように歌が進む。合間に打ち上がる花火も交互に赤・青と夜空を彩った。そのままサビへ。

「 会いたいよ、 と木霊する声が響いては消える
  ‥‥「夏の泡沫」 」

 澄んだ声を響かすアイリーンに合わせ、落ち着いた曲調。爪弾くギターに合わせドラムとベースも聞こえる。
 最後は呟くように三人が声を合わせ、静かに曲が終わった。
 金色の打ち上げ花火が空全体を覆い、一瞬会場を明るくすると儚く消えた。


 再度明るくなった舞台に出演アーティスト達6名が、それぞれの楽器を前にスタンバイしていた。
「さぁフィナーレ! 最後まで盛り上がっていこう。今日は2つのお祝いがあるんだよね、舵さん」
「そうなんどす。先程もおめでとーがありましたけど、ここにいるアイリーンさんとビートアワーの一周年記念なんどす」
 紗綾と月見里、橘川の紡ぐ軽快なドラムとベース音にベスが楽しそうにMC。文月も笑顔だ。
 柊と富士川がカートを押し、小さな花火が華やぐ文月特製ケーキを運び込んだ。それぞれ生クリームの上に乗るチョコのメッセージボードには『お誕生日おめでとう アイリーン』と『祝 ビート☆アワー』とある。
 アイリーンは感極まり口を手で押さえる。そこに柊が照れ顔のディレクターをつれてきた。
「‥‥おめでとうーアイリーン! おめでとービート☆アワー」
 柊が二人の手を取り万歳に客席が湧き拍手喝采。それを合図にカウントを取る紗綾。
 ドシューン!
 派手な連発花火で上がる。
 富士川と柊が花火に対向するように背中合わせになり深紅ギター・フレイムストームを掻き鳴らした。月見里も負けじと彼らの間に入り、冷青色のベース・アイスブリザードの低音を響かせる。
 並ぶ三人。漢らしい音を紡ぐ富士川に柊は少々たじろぎ顔だ。文月はそんな彼を愛おしそうに見ながらキーボードを奏でていく。
 音を支える橘川と紗綾に、ステージ狭しと跳び撥ねるベスと手を振り愛嬌を撒くアイリーンが歌い出す。

『HAPPY HAPPY HAPPY!』
「 歌おう 踊ろう 騒ごう! 歌おう 踊ろう 騒ごう!
  波間に揺れる夏を楽しもうよ 君と僕の夏だから!
  HAPPY HAPPY HAPPY! ×3
  次の季節にはまだ早すぎる! もっともっともっと! 太陽を求めていこうよ‥‥ 」

 夏らしく賑やかなリクエスト曲。更に盛り上がるように花火が次々と打ち上がり、まるで昼間のように彩っていった‥‥。

●夏夜の夢のあと
 華やかなライヴの後。出演者達は文月のケーキと橘川持参の軽く甘めのシャンパンを楽しんでいた。勿論、未成年者にはジュースだ。
 紗綾はアイリーンに向日葵の花束と金色のシャンパンのプレゼント。
 ベスと月見里、富士川は一般用の打ち上げ花火や手持ち花火でひとはしゃぎ。それを舞台の隅で眺める柊と文月。どちらともなく寄り添い微笑み合っている。そこにディレクターが登場。
「皆さんありがとう、楽しかったよ。アイリーンさん、お誕生日おめでとう」
 彼はリボンの付いたシャンパンと小さな包みを背後から出す。
「そや、ディレクターさん、そろそろお名前も教えて貰えると嬉しいんどすけど‥‥」
 不意に文月が尋ねた。彼は笑顔で、
「名前かい? ん〜、笑わないでね‥‥木原朱音っていうんだ。改めましてよろしくお願いします」
 そう言って手を差しだした。