legend of DIANA 4アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
極楽寺遊丸
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/25〜07/28
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●本文
ここは波止場の一画に建つライヴハウス兼バーの『EVANS』。
薄暗い店内は紫煙と酒の匂い、密やかに聞こえる怪しげな会話。そしてオールディズの曲が足を踏み入れた者にまとわりつく。
陰と陽。独特な雰囲気を持つ店だ。
興味本位に足を踏み入れただけの者はここで踵を返し、戸を閉めるのはザラ。だが勇気を持って奥へ歩みを進めていくと、落ち着いた色合いの木目カウンター席に座る一人の異国人・英国人カメラマンであるギルバード・エバンスと話が出来る。
「どうだい? DIANAのレースは。もの凄いだろう? 彼らは本当に青春を謳歌し、スピードと風、そして仲間であるDIANAを楽しんでいたのさ。‥‥もっと話を聞きたい? あぁいいだろう」
ギルバードはゆっくりと酒を飲み干すとリーゼントをしたスマートな男の前にグラスを置いた。彼は無言で新たな酒を注ぎ、そっと前へ出す。
「彼らは走りだけを堪能していたわけではないんだ。少しだけ大人になった彼らは恋もするようになった」
ギルバードはゆっくりとした口調で話し始め、また思い出すように視線を遠くにやった。
その時、画面はゆっくりとズームアウトし切り替わる。
映し出された飴色の画面にはこの店‥‥まだ異国人相手のバーだった頃。店を切り盛りする中島譲のトコロでたむろう5人。楽しげに話す彼ら。そこに一人の少女がオドオドしながら扉を開けた。容姿は至って真面目風。着ている制服も標準丈でカバンすら潰していない。
ジロリと視線をやる五人とDIANAの他のメンバー達。縮み上がった少女は、顔を青ざめさせながら呟く。
「あのぅDIANAさんの溜まり場ってここですか? 親衛隊長さんを務める方にお願いです。私‥‥と5日間付き合ってくださいっ」
呆気にとられる4人。指名された彼など顔が思いっきり引きつっている。
どうやら訳ありの様子。譲はニヤリと笑い、傍のギルに視線を流す。面白がっているとも取れる仕草だ。
見られたギルバードは、譲に向かって止めなさいとでも言うように頭を振って酒を煽る。
そこで場面が展開。あの時に比べ顔にシワの増えたギルバードが映し出された。
「そう、ちょっと風変わりな告白を受けた話さ‥‥。あの時のDIANAの誰もが吃驚した顔は今でも忘れられない一枚だ」
彼はシュッとカウンターに一枚の写真を投げた。映っているのは少女とメンバー達の姿。どうやらギルバードがこっそりと撮したモノらしい。
「‥‥恋はこれだけではなかった。もう一つ、重要なまモノもあった」
また飴色の画面へ変わった。そこはまた別の日、インターナショナルハイスクール前で待つ女性生徒。些かワルぶった風にセーラ服のロングスカートを引きずった容姿である。
彼は誰かを待っている様子。出てきたのは無表情のリサ。そこにいる彼女はバー『EVANS』でみせるようなクルクル回る表情など無い。
彼女ははおもむろに近付き、
「ねぇ、あたしのこと覚えてます? ほら港で元彼氏に絡まれてる時さ、助けて貰った者です。ようやく見つけたわ、リサお姉様。あの時のお礼をしに来たんだ。ここではなんだからお茶ぁとか食事をしませんか?」
目の前に立たれ訝しげに眺めるリサにカバンを抱え陽気に話しかける女性。話で事の顛末を飲み込んだリサは、フッと息を漏らし手だけを差しだすと、
「礼など、あの時に言われたので十分だ」
いつものように素っ気ない対応。そんな彼女に怯まず、
「つれない事をいわないでください。四時限目からサボって待ってたんだから。お昼も食べてないからお腹ペコペコー。いいじゃないですか」
くっついてくる彼女。リサはそんな彼女をさらりとかわし、隠していた自分のバイクに跨りエンジンを掛ける。
「‥‥悪い、お姉様っていうガラじゃないし、年下のコとお友達チャラチャラする気はないんだよ」
それだけ告げるとボォォンっとエンジンを唸らせ去っていった。
ちぇっと舌打ちする彼女。けれどその後ろ姿を見、頬を染めながら呟く、「でも格好いい人‥‥だよね、もっと知りたいな、リサお姉様のこと」っと。
ここで再度、画面が切り替わり元のバーの画へ。
カラリと氷を鳴らしグラスを傾けたギルバードは、コンッと小気味いい音を立てカウンターに置く。そして小さく呟くように言葉を紡いだ。
「‥‥これはワルぶった少女とリサだけの問題ではなかった。そう、彼女の元の彼氏というのはMINERVAの下っ端だった。元彼はリサとつるんだ彼女を見、こてんぱんにやられた恨みを晴らす材料として使おうとほくそ笑み、桜子の元へ走ったのだ‥‥」
そこで馬が嘶くようなバイクの排気音が響き、飴色だった画面がフルカラーへと変わり、流れ出すテーマ曲。
『月の女神』
いとしい月の女神 あの蕾はいつ花になるだろう
孔雀みたいに羽を広げて待っている
いとしい月の女神 握る刃だけでは強さじゃなかった
白い光を弾き立ち尽くしている
暗闇を照らしてくれたなら――速く、速く いくつもの夜を越えながら、走ってゆける
ギルバードの話による、深夜の海岸沿いを湧かせた走り屋チーム・DIANAの伝説が幕開けである。
■ドラマ『legend of DIANA』に出演して下さる方を募集します。
英国人カメラマン・ギルバード・エバンスが20年前の日本で体験した出来事が、ドラマとなりました。出演して下さる方を募集致します。
リーダー 日系二世or三世 蛇威亞奈の紅一点。
副リーダー 日本男性 中島 譲の弟。
親衛隊長 英国系二世男性
特攻隊長 外国人or二世。
旗持ち 日本人男性。 バイクは乗れず、副リーダーのケツに乗る。
親衛隊長に告白する真面目な少女 15歳〜23歳前後 いたって真面目な少女。優等生のようだが、心に何かあるよう。
リサに惚れた少女 15歳〜24歳前後 不良系。元彼氏がMINERVAの下っ端。ワルぶっているが本当は真面目で優しい子。
敵役のチーム 二大勢力であるMINERVAのメンバーやその他のDIANAの他のメンバーなど。
※できれば引き続き入って下さる方は同じ配役でお願いします。また変わってしまう場合は前回の役を参考にしてください。
■注意事項
必須となっているのはDIANAのメンバー5名。ですが、もしかしたらそれよりも多いかもしれません。その人数は不明。ですので他のDIANAのメンバーとして出てくださっても大丈夫です。
ですが女性はリーダーのみ。他の女性メンバーは一切存在しませんのでご注意下さい。
配役の決定は皆様の話し合いで、くれぐれも喧嘩のないようお願いします。
またこのドラマはフィクションではなく、ギルバードが語るほぼノンフィクションをいう設定になってます。ですので役設定・武器等はリアルに懸け離れたモノの使用はあまり好ましくありません。あまりに不自然ですと反映できませんので、ご理解下さい。
●リプレイ本文
●
ここはバー『EVANS』。カウンター席にいる一人の異国人・ギルバードが語り始める。
「‥‥さぁ僕が聞いた恋の話をしよう」
バーの扉が開く。まばゆい光りの後、そこにはDIANAがいた。
●
波止場にある『EVANS』。店の中はいつものように賑やかな会話が響いていた。
DIANAの5人に譲の友人・ギルバードは英語で問いかけるとリサ・ナガセ(ブリッツ・アスカ(fa2321))に玲・スコット(克稀(fa5812))・ケビン(メル(fa5775))は苦笑い。
だが定岡金三(MIDOH(fa1126))と中島要(伏屋 雄基(fa5600))は? マーク。仕方なしに譲が通訳。
「お前達はいつも一緒だが、彼氏・彼女はいないのか? ってさ」
「そうか。‥‥俺達は今、走りの方が楽しいんだ。こればっかは女が入る余地‥‥っと、リサは別格。女とは意識してない。もー仲間だかんな」
と、要。ケビンと金三も頷く。喧嘩とバイクの腕前は並の男じゃ敵わないだろうと玲は呟いた。
男共の失礼な言葉にリサは咎めはしない。それは彼らの褒め言葉と解ってるからだ。
「けどさ女にとって恋愛は大事だろうな。女の青春は短いもんなぁ」
「金三、一言多いんだよ」
小姑の余計な一言にリサの鉄拳が飛ぶ。
「まったくそんな事ばっか言って。本当はリサを須賀一にしようとしてる癖に。最近は遊びも減ったじゃん」
要の言う通り最近の金三は、ラフな恋愛は減っていたようだ。野望を暴露われ焦る彼を笑ったところで重い扉が開いた。
「すみません、店はまだなんですよ‥‥」
そこにはこの場にそぐわない可憐な容姿の少女が立っていた。彼女は譲の声が聞こえない程、硬い表情で唇を開いた。
「あ、あのぅ、DIANAさんの溜まり場はここですか? 親衛隊長を務める方にお願いです。私‥‥と5日間付き合ってください」
その声は僅かにうわずっている。余程の緊張のようだ。
「‥‥ヒュゥ♪ 親衛隊長殿も隅に置けないな、いつの間に引っ掛けたんだ? すっげー美少女じゃん、羨ましいねぇ!」
突然の告白に玲が呆然。ケビンは彼をからかうようにその腹を肘で突っついた。
「‥‥まずはあんたは誰だ? そこからじゃねぇのか?」
凄みを効かせる金三。それに対しリサは手を上げ止めると、
「‥‥いかにもここがDIANAの溜まり場だ。そこに居るのが親衛隊長を務める玲だ」
同性のリサを見て少女は落ち着いた様子となり、
「‥‥ご、ごめんなさい。私は橘花織っていいます。お願いがあるんです。親衛隊長‥‥いえ、玲さんにお話があります」
橘花織(千架(fa4263))と名乗った少女を玲は無言のままボックス席へ連れて行った。邪魔されずに用件を聞くためだ。
無論、穏やかでない男三人はしっかりと聞き耳を立てている。呆れた譲はステレオの音量を上げ阻止。仕方なく諦めた三人はリサに向き直ると、先程までのふざけた表情と変わり真顔で、
「なぁリサ。小耳に挟んだのだが片山エミリってぇ女につきまとわれてんだろ。不味いぜ。彼氏がMINERVAらしい」
「‥‥場合によっちゃ、抗争になりかねない」
要、金三が私事に対してあまり頼らないリサに問う。玲の時と反応が違う。それもそのハズ、彼女の相手は敵対するチームだからだ。リサに近付き、謎だらけのDIANAの情報を聞き出そうとしていると考えてもおかしくない。妥当な事だ。
「女同士の恋愛ってどんなモンだ? まぁ、あんたなら自分で何とかするかもしれないが。尤も警戒するに越した事はねぇんじゃね?」
ケビンが好奇心を見せつつ戸惑い顔で話す。リサは緑色の瞳を揺らし息を付くと、
「‥‥元彼に絡まれているのを助けたんだ‥‥。彼女はチームの動向は解ってないみたいだな。まぁそろそろ考え時だと思ってた」
簡単に事の経緯を説明。納得した彼らはどうするかを話し合い始めた。
●
「此処には来ないように行っておいた筈ですわよね? ‥‥それで急ぎの話というのはなんですの?」
リサも通うインターナショナルスクールの裏門。人気のない場所に有栖川桜子(真神・薫夜(fa0047))、黒崎綾菜(因幡 眠兎(fa4300))と薄汚い男がいた。
桜子は笑みを絶やさず一蹴した。その声音に言いしれぬ恐さが含んでいる。男は落ち着かない様子で話し始めた。聞いていた綾菜が凄む。
「‥‥なにぃ、リサにやられただと?!」
「は、はい‥‥俺が好きな女と一緒にいたら、インネンつけて殴ってきたんです。お願いしますカタキをとって下さい」
黙って聞いていた桜子がぽつり。
「あまり気の進む内容ではないけれど‥‥これもDIANAを潰すチャンスはチャンス‥‥で、宜しいのかしら」
「そ、そうですよ! のさばらしとく訳にはいきませんぜ! 一気にカタをつけちまいましょう」
男が嗾ける。桜子は蔑むように一瞥をくれると、
「解りましたわ、この話‥‥もし失敗するような事があれば‥‥解っていますよね? 今日は早退をいたします。綾菜さん後をお願い致しますわ」
場を後にした。男は頭を下げつつニヤリと笑んだ。綾菜はそれを見逃さず訝しげに首を捻った。
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「ジーザス! 神は俺を見捨てたー‥‥」
「籤の言い出しっぺはお前で引いたのもお前。くれぐれも良い彼氏を演じるこったな」
「要ならお似合いだ。いっそこのまま付き合っちまうとかはどうだ?」
要が『偽彼氏作戦』を提案し、リサは疑念を抱きつつ承諾。そしてこれが結果である。
金三も納得いかないまでも引いたが見事にハズレ。安堵し、当たりを引き落ち込む要をケビンと共に囃し立ていた。
「‥‥なんだ、相手があたしじゃ不服か?」
あまりの態度に不機嫌に睨むリサ。要は慌てて首を振り、
「リサはそこらの野郎よか中身漢前じゃん。正に女の中の漢! 女が惚れるのも仕方ない。その引き剥がし役、喜んでお受けします」
些か意味不明な事を口走りる。
「‥‥お前達、何の騒ぎだ。彼女がビビっちまってる」
「こっちの事は気にするな玲。なぁ5日間と言わずに付き合ってやれよ、女の子に恥を掻かせたら男が廃るぜ!」
「そうだ。こっちは気にせず一夏の思い出作りに付き合ってやれ」
どうやら切実そうな願いに折れた玲。ケビンと金三は話を悟られないように肩をビシバシ叩いたり脇腹を突いたりで冷やかし誤魔化す。
複雑な表情の玲。また同じように困惑気味のリサ。譲は一人、楽しげに笑っている。
そこでライトが落ちた。スポットが照らされいるのはギルバード。しかし若い時のではない。
「‥‥こうして二組のカップルが誕生したんだ‥‥。なかなか初々しいだろ? 勿論、話はまだ続く‥‥」
話の切れに合わせ、画面が明るくなった。
そこはいつものバーではない。爽やかな潮風が吹く外だ。
●
玲と花織は近くの遊園地へ来ていた。
リーゼントにアクセサリー、そしてDIANAのジャンパーを着る玲に対し、白いワンピースに薄手のカーディガン姿の花織。些か不釣りな二人である。だがこの四日間、映画に茶店、散歩と普通のデートを楽しんでいた。
「ふふふ、楽しい‥‥」
「大丈夫か? 少し休もう」
相次いで乗り物で遊んだ所為か花織は眩暈を起こし体がふらつく。すかさず玲が肩を支えた。
「‥‥ごめんなさい。‥‥ふふ、あの時と同じ。初めてあった時、車道に倒れそうになった私を支えてくれたんですよね。ちょっと勇気を出して告白して‥‥良かった」
「そうだったけか? 勇気か‥‥あのEVANSに一人乗込んだ時点で十分あるんじゃねぇの? 落ち着いたら出ようか」
花織の言葉にすっかり忘れているのを誤魔化す玲。彼女が落ち着くのを待って歩き出した。ふいに足下に転がる缶を蹴り。それは音を立て柱に直撃。
困惑する花織に玲は、
「何でもない。そうだ、バイクで海岸を走ろう‥‥気持ちいいぜ」
出口へと向かった。
彼らが居なくなった後、柱の影からケビンが顔を覗かせ頭を撫でている。見事、缶が当たったようだ。
「いってー‥‥何だよー。心配して来ただけなのにさ。玲の奴、照れる事ないだろう」
口と違い単なる好奇心以外の何ものでもない。
●
リサの学校の校門前には彼女を待つ片山エミリの姿があった。
門から出てきたリサを見、嬉々とした表情を浮かべるが次の瞬間、落胆した色。
何故なら要と並んで歩くのを見たからだ。
「‥‥こいつかぁ、何リサにちょっかいだしてんだ。迷惑がってんだろ。向こうにいきやがれ」
「そういう事なんだよ、悪いな‥‥」
要はリサと肩を組みぎこちなくエミリに凄む。リサもまた緊張気味に言葉を発すると、その場を離れ街へ繰り出した。
後ろを追う彼女を意識し更にギクシャク。それでもデートらしくするため映画を観て、今は海岸沿いのベンチに座り缶珈琲を飲んでいる。
勿論、後を付けていたのはエミリだけではない。金三もだ。
彼は何でリサを車道側に歩かせるんだとかブツブツ。デートのノウハウを教えなかった事を悔やんでいた。
並ぶ二つの影を見るエミリに彼らの会話が聞こえる。
「‥‥るながさ、喋り出したんだ。俺さ楽しくって。るなの子守をして思ったんだ。将来、保父目指そうかなって」
リサも最初はバイクの話で盛り上がっていたが、家の事や将来の話へ変わると生返事となる。リサはまだ将来を見いだせず、るなに羨ましさを憶えつつ、どう返事して良いのか解らなかったのだ。会話が続かなくなったところにエミリが飛び出してきた。
「‥‥やっぱり! こんな芝居までして、何故私の事をかわすんですか‥‥」
半ベソ顔で問う彼女にリサは言葉が紡げない。要も突然の涙に戸惑う。
「‥‥んなもん簡単だ。お前の元彼がMINERVAだからだよ」
「あんたにゃ関係なくともこっちには大あり。諦めな」
草陰から金三とケビンが顔を出した。お前達もかと溜め息を吐くリサ。エミリは嫌々っと首を振り彼らの言葉を聞かない。
「そんなの私には関係ない!」
泣きじゃくる彼女に誰もが閉口。要が溜め息混じりに言う。
「解ったよ。あんたがMINERVAじゃないって事は。リサに助けられたのも縁だ。チームに仮加入させる。リサが居る以上女が駄目とは言えねぇ」
エミリが顔を上げ要を見やる。そこに派手な爆音が響いた。
「おいエミリ。とうとう裏切ったな‥‥。一度、MINERVAの旗振った過去は消せないんだぜ‥‥」
車高を下げた紫色のセダンが急停車。降りてきたのは元彼だ。彼はエミリに近寄り素早く細い腕をねじ上げた。
リサは咄嗟に動こうとするが、
「いい夜ですわね、DIANAさん。ご機嫌如何? ねぇこの世界‥‥破ってはいけない掟があるのを‥‥勿論、判っていらっしゃいますわよね?」
高らかな声する方を見やる。そこには制服姿の桜子がいた。鉄扇を口元に当て笑んでいる。
あちこちからMINERVAの車、バイクと続々と集結。元彼も彼らの後を付け、桜子に連絡したようだ。
「本意ではないのですが、これもルール。勝者が全てですわ」
笑みながら桜子は合図を出す。
「そんなん百も承知だ。数分前に仲間だって言っちまった以上、撤回する気もねぇ! 返しな」
「そうだ、そうだ! 喧嘩は控えてるとはいえ一度、仲間になった奴を見捨てるのは、DIANAの精神に反するからな」
要は腕を振り迫る敵を薙ぐ。嬉々として躍り出たケビンは問答無用で相手を殴りつける。リサもストレス発散とばかりに飛びかかってくるヤツらに強烈な一撃を浴びせた。
「じゃかましい! 手前ぇらの内輪でガチャこいてんのをウチの所為すんじゃねぇ」
敵を抱え蹴り飛ばす金三。彼が睨んだ先はエミリの元彼である。
派手に始まった喧嘩。公園に鈍い音が響いた。
「‥‥向こう側、騒がしいですね」
「あぁ、何かあったのかな?」
一走り楽しみ、浜で海を眺めていた花織と玲。
大勢の人が一方へ走っていくのを訝しむ玲。その耳にどこからともなくDIANAとMINERVAの喧嘩だ! という声が届いた。
玲は咄嗟に立ち上がる。が。花織を見、座り直した。
「‥‥今日は最終日だ。あんたといるよ。あいつ等に任せて大丈夫‥‥だ」
玲は自分に言い聞かせるように呟く。花織はそんな彼の手を握り、
「‥‥行ってあげて。大切なお友達でしょ? 私はもう充分。ありがとう玲」
笑む。玲は頷くとバイクを跨ぎ闇へ消えていった。
「この喧嘩、待って!」
玲も参戦し、更に激しさを増した所に綾菜の声が掛かった。彼女は可愛い顔に似合わず、飛びかかってきた金三と要を倒し桜子の元へ。
ここで一旦、休戦。
「やはり‥‥解りましたわ。よくもMINERVAに恥を‥‥引き上げますわ」
桜子の言葉の先は男に向けられ、引き上げの合図を出した。
奴は小さく叫ぶとエミリを放り出し逃亡を試みる、がすぐに綾菜に捕まり地べたへ転がされた。そこに桜子が彼の右足首を踏みつける。鈍い音が木霊し、流石の面々も顔を背ける。
「‥‥ご機嫌よう。この男はこちらで処置しておきますわ」
のたうち回る男を乱暴に掴み連れ去る綾菜が不気味に微笑んだ。
「‥‥ごめんなさいリサお姉様。ありがとうございます皆‥‥」
今回の騒動にエミリは深々と頭を下げ、踵を返し去っていく。リサは安堵と同時に少し寂しそうに見送った。
翌日。引っ越しの作業に追われる花織の家を玲が訊ねた。
「‥‥頑張れよ。ほらこれ。手術‥‥絶対成功するぜ」
引っ越しの件は本人から聞いていた玲だが、一番大切な心臓の手術の事は玲は要と金三の情報で知った。些か出歯亀な仲間であるが有り難かった。
玲はお守りを渡すとバイクに跨り走り去る。残された花織は握ったお守りを見、温かい気持ちで微笑んだ。
「玲ったら‥‥安産祈願って‥‥」