banquet in Evansアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 不明
参加人数 10人
サポート 1人
期間 07/27〜07/29

●本文

 ここは波止場の一画に建つライヴハウス兼バーの『EVANS』。
 薄暗い店内は紫煙と酒の匂い、密やかに聞こえる怪しげな会話。そしてオールディズの曲が足を踏み入れた者にまとわりつく。
 陰と陽。独特な雰囲気を持つ店だ。
 興味本位に足を踏み入れただけの者はここで踵を返し、戸を閉めるのはザラ。そんなやや変わった空気の流れるバーだが、今日は些か様子が違っていた。
 派手なシャツを着た男が、カウンターの中でグラスを磨いているこの店のオーナー中島譲に近付き、ウイスキーを注文しながら、
「よぅ、聞いたよ! 娘さんが結婚するんだって。君の娘を貰うとは、随分と豪胆な男もいたもんだな。義父に万年睨みを効かされそうで恐いだろうに‥‥。同情するなぁ」
「‥‥随分な言いようですねぇ。まぁ、その昔は須賀をならしたくせに、今じゃ出っ張った腹の中年親父のところに嫁がねぇだけマシですけどね」
 悪態とも取れる客のその言葉をしっかりと倍返しにする譲。
 普通ならここで険悪な雰囲気になりそうだが、この二人、長年のつき合う親友というかファミリーのようなものらしく笑い合っている。
 どうやらこの悪態合戦も馴れ合いの一つのようだ。
「お式と披露宴はどうするんだい?」
「式は、近くの教会で行うそうです。披露宴はこの店を貸し切りにして‥‥って言ってましたよ。まったく花嫁の父だってぇのに、こき使うらしいですぜ、ウチの娘は‥‥」
「ほぅ、ここでやるのか! そりゃぁいいね。そういえば、芸能界の方でも結婚式がラッシュしているんだよ」
 出されたウイスキーを舐めながら、譲に問う彼。いつになくにやけ顔で答える譲は普段見せることのないパパの顔。
 彼の言葉と表情で一緒に喜びを噛みしめる男は、ふいと一つの案を思いついた。
「あのさ、この店を僕にも貸して貰えないだろうか? 披露宴の出来る場所を探しているバンドの人達に使わせてあげたいんだ」
「‥‥えぇ。いいですよ、まぁ他ならぬ先輩の頼みなら断るわけにもいきませんからね。お手伝いをさせてもらいましょうか」
 二つ返事で応える譲。男‥‥某音楽ディレクターは嬉しげに譲の手を取り堅く握った。


■ライヴハウス兼バーの『EVANS』で披露宴をおこないたいカップル・招待客さんを募集します。
 某音楽ディレクターの頼みにより、中島譲の経営する『EVANS』で披露宴が出来ることとなりました。
 こちらで近々結婚式予定・したカップルを募集させて頂きます。もちろん、彼らを祝福するご友人の方々もです。
 カップルは二組程がベストと思います。
 また『EVANS』はライヴハウスも兼ねてますので楽器やステージもあり、演奏も可能です。ボックス席との合間に20畳ほどのフロアもありダンスもできます。盛り上がる披露宴にしてください。
 そして同時に譲のお手伝いをして下さる方も募集します。彼と共にお酒やソフトドリンク、軽食を作り来店したお客様達をもてなしてください。

●今回の参加者

 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)
 fa3861 蓮 圭都(22歳・♀・猫)
 fa3956 柊アキラ(25歳・♂・鴉)
 fa4980 橘川 円(27歳・♀・鴉)
 fa5307 朱里 臣(18歳・♀・狼)

●リプレイ本文


 波止場。古いレンガ造りの壁にあるネオンサインが示す店の名前『EVANS』。
 扉の向こうから聞こえてくる声は、いつになく賑やかなモノだった。
「ねぇ譲。これでいいかな?」
 ギャルソンエプロンを付けた四條 キリエ(fa3797)が、淡い色のシルクフラワー達をブーケのように飾ったwelcomeボードを掲げる。そこには花嫁・文月 舵(fa2899)の案で、花婿の柊ラキア(fa2847)との写真とメッセージがあり、また同じように共に式を挙げる伊達 斎(fa1414)と都路帆乃香(fa1013)のも添えられていた。
 譲は頷きながら、出来上がったばかりの料理をテーブルへ並べる。味気ないテーブルを彩る料理達‥‥食べやすいよう小分けされたウニとフルーツトマトの冷製カッペリーニに、たっぷりの生ハムと水菜のサラダ。そしてよく冷えた南瓜のミルクスープ。
 その他にも様々な良い匂いがテーブルの上を占領している。
 綺麗に飾られ見るからに美味しそうな出来映えのそれは全て橘川 円(fa4980)のお手製。料理が得意と微笑むだけの事はあった。邪魔になったのは自分の方だと譲は苦笑い。そこで扉が開き、
「こんにちはー譲さん。お久しぶりです。少し早めに来ちゃいましたー」
「譲さん、場所を貸して下さりありがとうございます。未だに兄貴が結婚するのが少し信じられない弟です。必要あればお手伝いをさせてください」
「いらっしゃいお二人さん。手伝ってくれるのかい? ありがたいな、頼むよ。アキラ君はそこの皿をテーブルに運んでくれないか。朱里さんは四条さんと一緒に飲み物の準備をお願いするよ」
 元気な朱里 臣(fa5307)ときちんと挨拶をする柊アキラ(fa3956)。挨拶を交わした譲は早々にお手伝いを要請。二人はいそいそと自前のエプロンを掛け作業開始。
 取り皿や必要な食器を移動させるアキラ。朱里は四條と共にフルーツポンチやサングリア用の果物を切っていく。
「‥‥あのう、僕にも何か手伝わせて頂けないでしょうか?」
 賑やかさが増した所で伊達が現れた。その表情、いつもと変わらないポーカーフェイスだが、譲が見た限り緊張を隠しきれずどこか心許なさそう。
「手伝いは嬉しいが、流石に花婿にはなぁ‥‥あぁそうだ、これがあった」
 譲は彼の言葉に困った顔。だが直ぐに何か思いついたらしい。急ぎ冷蔵庫から二段重のフルーツケーキを取り出し、橘川と共にステージに設置したテーブルへ運びこんだ。
「昨日、彼女と仲良く焼いていたケーキの仕上げをお願いできるか? 四條さんに頼もうと思ったが、これから着付けとかあるから出来ないだろ。俺もその作業はちょいと苦手でさ。用意した生クリームやシュガークラフトで飾り付けをして貰いたい」
 譲は仕上げを頼む。伊達は快く頷き、
「ウェディングケーキは以前作った事はあるから‥‥大丈夫。何かやっていた方が落ち着くのでね。‥‥やはり緊張してるかも」
 照れたように笑むと飾り付けを始めた。
 それから約1時間半後。そろそろ準備の整った店内。飾り付け作業に没頭する伊達にドレスに袖を通す前の都路が現れた。
「やはりここだったんですね。早く用意を済ませませんと遅れてしまいますよ」
「そうですね、けれど僕よりも帆乃香さんの方が時間掛かるでしょう。こういう場合、新郎は添え物だから思う程手間はないですよ。では行こうか‥‥あぁそういえば、昨晩焼いたケーキ‥‥仕事以外で帆乃香さんと協力して何かを作ったのはこれが初めてだったかもしれないね」
 伊達の意外にロマンティストな言葉に驚く都路。彼はその手を引き更衣室へ急いだ。


 披露宴をスタートさせるべく店内の明かりは消され真っ暗な状態。
 そんな中、大切な友人達の結婚式に明石 丹(fa2837)は些か緊張した面持ち。
「大丈夫かな‥‥お式もそうだけど、臣は司会をするって言ってたし‥‥なんだかこっちが緊張してきちゃうな‥‥」
 どうやら式だけではなく司会を勤める朱里への心配も入っているようだ。妹を思う兄の心境といったところか。
 そんな彼の隣に座る蓮 圭都(fa3861)は、
「大丈夫よ、上手にやるわ」
 っと明石の肩を軽く叩いた。
 そこで朱里の声がマイクを通し響く。
「お待たせ致しました! 新郎新婦の入場です。拍手でお迎え下さい」
 店内が突然明るくなる。っと一緒にウェディングマーチに乗って楽し嬉しの歌声もやってきた。
「ふーふ、ふーふ! 舵と結婚っ。素敵な日を迎える事ができて幸せです!」
 光沢のある灰色のフロックコートを着たラキアは、シャンパンカラーのドレスを纏う文月を抱き上げ会場入り。モダンな二人の背後から、照れくさそうに入場するスタンダードなタキシード姿の伊達。
 シャープな着こなしを見せる彼と腕を組む都路は、露出をおさえた清楚で可憐なウェディングドレスを着ている。
 沢山の拍手と弾けるクラッカーに迎えられた二組のカップルは、小さなステージに立つ。
 そこでイエローオレンジのワンピースにツインテールの朱里が次へ繋ぐ。
「では乾杯にいきたいと思います。オーナーの譲さん! ‥‥え、無理? 駄目だよ。だってほら場所提供して貰ってるんだから、ここはバシっときめてくださいな!」
 朱里は譲を呼ぶ。四條と一緒にシャンパンを用意していた彼は駄目駄目っと手を振る。が、ここで諦める朱里ではない。
 譲の腕を取り引っ張ってくる。勿論一人では敵わないのでドレスに着替えていた橘川にも応戦を頼む。
「‥‥参ったな。では今日は横須賀まで足を運んでくださり有難うございます。企画した木原も今、向かってると電話がありました‥‥」
 譲はチラリと四條がシャンパンを注いでいくのを見やる。蒼系のチャイナパンツスーツで軽快に動き回った彼女はOK合図を出した。
「‥‥では僭越ながら、俺、中島が音頭を取らせて頂きます。ラキアさん、文月さん。伊達さん、都路さん。ご結婚おめでとうございます! 末永くお幸せに‥‥乾杯!」
「「「かんぱーい!!」」」
 譲の音頭と共にカチンっとグラスの触れ合う音が響き合い、間を置いてまた拍手が起こった。
「ではこれより、用意致しましたお料理を楽しみながらご歓談下さい!」
 そう言うと朱里はさっそく料理の方へ。
「おめでとう! 本当におめでとう。‥‥もう舵さんじゃなくて義姉さんなんだね。うちは知っての通り賑やかだから楽しいと思います。これからは家族として宜しくお願いしますね、‥‥義姉さん」
 アキラの祝辞にマリアベール越しから文月は優雅な笑みを浮かべ頷く。彼は義姉さんという響きを照れくさいながらも嬉しいらしく、幾度か呼んでみたりしている。
 そこにシックなドレスを纏う蓮が微笑み、
「あら、なあにアキは義弟としては複雑な気分とか? けど文月さんがお義姉さんなんて羨ましいなあ。おめでとう文月さん、ラキア君! 伊達さん、都路さんもおめでとうございます」
 アキラに悪戯な笑みを向けつつ文月に向き直り祝辞。勿論傍にいる伊達&都路にも笑顔を向けた。
「お祝いの言葉をありがとう。え? 義姉さん?! アキが言うなら僕も僕もっ」
 テンションが上がりっぱなしのラキア。
「これを期にマコも早く結ばれるといいよね。あ、臣は相手がいてもまだ駄目だから。圭を貰う人は家事がこなせる人かな? でもまずは僕を納得させないとだけど」
 敢えて兄の言動をスルーしアキラはポツリ。その心境、先程の明石と同じようである。
「今日は披露宴にご一緒させて頂きありがとう。先程預かったキャロットシフォンはケーキの天辺に乗せたよ」
「いえいえ。本日はおめでとうございます。実は以前より局で何度かお会いしてるんですよね。それに都路さんと先日のお花見でご一緒した時にご結婚が間近だと窺ったものですから。連絡をさせて頂きました」
 グラスとアキラの差し入れの天ぷらやまきものの乗った皿を手に歓談する伊達と明石。
 その間、汚れた皿を下げたり、飲み物を回したりと橘川と四條は良く動く。
 因みに独身主義を貫く四條はこのスイーツな甘さにちょっぴり当てられたよう。笑みは絶やさないが黙々と気を配り、合間を縫ってポラロイドカメラのシャッターを切る。写真は直ぐに出来上がり、それをボードに張っていった。
 橘川は酒が苦手な文月を気遣い、アイスティーを淹れ持っていく。
「さて楽しんで頂けてますか? ではこれよりお色直しに移らせて頂きます。皆様はそのまま楽しんでください」
 時間を見計らい朱里はお色直しへ。二組のカップルはお辞儀をすると一旦奥へ向かった。


 程なくして着替えを済ませた彼らが再登場。彼らを迎えるのはお祝いセッション。
 朱里のキーボードと橘川のヴァイオリンが店内に響き、ギターのアキラが彼女達の音に合わせ旋律を乗せる。それらの音を支えるのは明石と蓮のベース。しかしここはドラムのリズムもあればなお華やぐところ。っと思ったら、文月がバスドラを刻み見事なスティック捌きを披露した。
 ドレスで大丈夫なのかと譲は心配するが、カクテルドレスはプリンセスラインのワンピース。その下にハーフパンツを穿いていた。
 一気に曲調は明るく軽快なサウンドへ。文月の下ろし髪の耳元に挿す薔薇飾りがまるで心を表すように楽しげに揺れる。

『メロディアス』 橘川 円
「 どんなときも 繋いだ手 離さないで
  あなたのメロディ聞かせてよ リズムを感じていたいね

  どんな時も 幸せをもっていて
  二人のメロディ響かせて 少しだけ見守らせてね

  あなたに届けたい気持ちは たくさんのありがとうと幸せにという願い
  なにより伝えたい Congratulations! 」

 明石の優しく甘い歌声とアキラのコーラスが重なる。ウットリと聞く都路は白無垢にわたぼうしを深く被った顔を上げ、隣にいる黒紋付きの伊達に微笑む。
 二人は視線をかわし、歌が紡ぐ幸せの喜びを感じ合う。
 曲の終了にアキラが、
「僕からのサプライズ! 兄貴の小学校時代の作文です。きれーなお嫁さんもらって幸せになるって書いてあります。ほんと実現してよかったね」
「ぎゃーぎゃー何を持ってくるんだぁぁ! 恥ずかしいなー。でもアキも早く結婚できるといいねぇー。皆の幸せは僕にもとっても幸せ! だから僕の幸せも皆の幸せだよね? 誰か結婚する時は僕が張り切ってお祝いしちゃうけど、今日は舵に一杯、幸せになって貰いたいから‥‥‥といことで!」
 アキラは高々と作文用紙を広げた。確かに読み上げた通りの事が書いてある。彼は掲げながらも幸せそうでいいなぁとしみじみ。兄貴のように正直に自分の気持ち出せたらって思ったところに、お色直しを終えたラキアが突撃。
 その姿、新郎というよりイカしたバンドマンだ。斜め被りにしたヒョウ柄のテンガロン越しから弟を見、そのギターを素早く奪い取ると指ぬきグローブを嵌めた右手をしゃかりきに動かし音を紡ぎ出す。
 ステージ狭しと動く彼は、多重巻されたベルトやシルバーアクセ・ウォレットチェーン、そしてトレードマークの首から掛けたゴーグルを楽しげに揺する。
 徐々に曲へ変わり、それは彼と文月の思い出深い曲。
「最初はほえー女の人、ドラムの人だったのにいつの間にかだね‥‥本当にこれからも僕と幸せ紡ごうね! Please〜!!」
 ベースを響かせる蓮に合わせ、ラキアのギターから紡がれる弾む旋律。その左手には結婚指輪がライトに反射する。
 鍵盤を叩く朱里が艶やかさを加え、何故かマイク持ちの明石は嬉しそうな笑顔で調子を取る。
 歌詞の終わりに近づくと音が変調しドラム椅子に座る舵に甘く優しく語りかける。

「 PLEASE! PLEASE! PLEASE! PLEASE‥‥BE IT TOGETHER 」

 その歌詞に文月は感極まりぽろりと幸せの涙を落とし、
「‥‥ずっとずっと宜しゅうね。うちも大好き‥‥」
 曇りのない澄んだ気持ちを呟く。そこで皆が祝福の拍手を送った。
「さぁ盛り上がったところで、ウェディングケーキ入刀ですっ。このケーキはなんと伊達&都路さんのお手製! 上段はマコ兄特製キャロットシフォンです」
 伊達に手を引かれ都路は静々と歩く。ラキアと文月も手を繋ぎケーキの前へ立つ。
「ほんまマコちゃんにはいつも色々お世話になってます。うちとラキちゃんの出会いもマコちゃんあってこそやったし。手作りのキャロットシフォン‥‥こんなん時にまでうちの我が侭を聞いてくれておおきになぁ」
 明石にお礼を言う文月はラキアと共にケーキを切る。勿論、隣でナイフを入れる伊達は都路に呟く。
「華やかさでは兎も角‥‥僕には素敵な歌をあげられないから、これで‥‥。愛とは互いを理解し愛おしむ時に使う香料。それ故、その生涯全てに愛とその人が必要になり、費やし掛けても足りず‥‥無駄と思えるモノが一切なくなる どこかの詩人の言葉だよ」
 涙を滲ませる都路。そっと細い肩を抱きよせ、
「綺麗だよ、帆乃香さん。これからも宜しく、かな」
 微笑む伊達。
 大きな拍手が送られ、そこでアリエラが一歩踏みだし、
「おめでとうなのです! ちゃんとお祝いに参加できなくて残念なのです‥‥」
 本当に残念がる彼女はラキアに白薔薇、文月に淡いピンクの薔薇で作られた揃いのブーケを手渡す。一緒に木原も祝辞を述べ握手を交わし合い、明石と蓮が伊達と都路にブーケを渡す。
「‥‥披露宴はまだまだ続きます。大いに盛り上がりましょう」
 朱里の言葉に、橘川はケーキやプチフールを振る舞う。
 四條は薔薇に似せホイップした薔薇のアイスを座るアキラに出す。
 EVANSで行われた幸せの夜はいつまでも続いた。