legend of DIANA 5アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 2.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/01〜08/04

●本文

 ここは波止場の一画に建つライヴハウス兼バーの『EVANS』。
 薄暗い店内は紫煙と酒の匂い、密やかに聞こえる怪しげな会話。そしてオールディズの曲が足を踏み入れた者にまとわりつく。
 陰と陽。独特な雰囲気を持つ店のフロアを横切り、カウンター席へ足を進めると、そこに座る一人の異国人・英国人カメラマンであるギルバード・エバンスが、静かに語り出す。
「そう彼らは恋愛や青春を謳歌し、スピードと風、そして仲間。DIANAを心から楽しんでいたのさ。‥‥もっと聞きたいのか? あぁいいだろう」
 ギルバードは酒を飲み干すとスマートな男の前にグラスを置く。彼は無言で新たな酒を注いだ。
「楽しい時は、止まる事を知らない流水の如く過ぎ、彼らはハイスクールの三年生になった。その年の夏、また事件が起こったんだ‥‥」
 ギルバードはゆっくりとした口調で話し始め、また思い出すように視線を遠くにやった。
 その時、画面はゆっくりとズームアウトし切り替わる。
 映し出された飴色の画面は、その当時の『EVANS』。広い店内は人で溢れているが、どうも客ではない。そうこの辺一体の浜で海の家を構える人達だ。その顔はそれぞれ怒りを露わにしている。
「どういう了見で浜に建てた店を壊すんだ! 商品まで持ち去りやがって」
「‥‥皆さんのお怒りは尤もだが、まずは弟達に聞いてみない事には解りかねるのだが‥‥」
「聞くも聞かねぇも、俺はこの目ではっきり見たんだっ! あんた達が着ているジャンバーに付いたマークをさ」
 ボルテージを上げていく彼らとは裏腹に冷静な譲。だが一人の男が前に進み出て証言。
 瞬間的に譲の表情が変わった。っがすぐに戻り。
「そうであれば俺にも責任があります。大変申し訳ない。後日、皆様の所に改めてお詫びに伺わせて頂きます。無論、あいつらにも悪さをしないよう、きつく叱っておきますので、今日は怒りを収めて下さい‥‥」
 譲は深々と皆に頭を下げた。誰もが低姿勢の彼にこれ以上言葉を紡げるはずがなく。口々に文句を呟きながら店を後にする。
 ようやく最後の一人が出てたところで頭を上げる譲。その顔はもの凄い怒りに満ちたもの。
「リサに要‥‥聞いていただろう。お前ら何をしてんだ。早いところ、どいつがこんな悪さをしているか見つけてこい。難しいようだったら桜田や蒲生に連絡して付き合って貰え」
 突然の雷に体を千々込めるリサと要、そして金三。受け流すのは玲。三人は静かに頭を下げると店を出て行った。
 残された譲は、カウンターの角に座った若かりし頃のギルバードに酒を注ぎながら、
「とんでもねぇところをみせちまったな。ギルバード‥‥。これは俺のおごりだ」
 流暢な英語で呟く。グラスを傾けるギルバードの瞳は心配げな色が浮んでいたが、譲は見る事なくいつものオールディイズのレコードを手にステレオへ向かう。
 場面がスッと戻り、あの時に比べ顔にシワの増えたギルバードが映し出された。
「だが、事はこれだけでは済まなかったんだ」
 シュッと投げた写真。そこに映し出されていたのは、ずぶ濡れで傷ついた猛禽類のように鋭い視線を投げるケビン。
 カラーの写真は徐々に飴色の画面へ変わっていく。
 ザンザンザン‥‥。アスファルトを叩く雨の中、傷ついたケビンは一人の少女に抱えられていた。
「わ、私があんな事をいったばかりに迷惑を掛けちゃってごめんなさい‥‥」
「‥‥」
 泣きじゃくる少女に抱えられながら電話ボックスへ入るケビンは受話器を取り、血まみれの震える手で番号を回した。
「‥‥ごめんね‥‥ケビン。彼はちっともあなたに似てないわ‥‥。こんな‥‥あなたの大切なジャンバーを奪うなんて‥‥」
 懸命に詫びを入れる少女。だが彼女も怪我を負っていた。ケビンは彼女に向かって数回頭を振り、コールに出るであろう人物を待つ。
「‥‥はい。‥‥ケビンか?! どうした」
 出た人物、玲はいつになく焦ったように問う。

 また別の日、インターナショナルハイスクール前でちょっとした騒ぎがあった。
 無表情のリサを前に凄む男と一人の少女。同じ学校に通っていた
「‥‥あんた、桜子さんをどうする気だ。早いところ居場所を教えな!」
「なんの事だが解らないが?」
「バックレんじゃねぇ! 昨日の夜、桜子さんを連れて行っただろが」
「‥‥」
 ここでリサは勘付いた! なにかが‥‥起きだしている事を。彼らを振りきり、隠していたバイクに跨ると一直線に走り出す。そう目指すのは『EVANS』。
 ここで再度、画面が切り替わり元のバーの画へ。
 苦々しい表情を浮かべたギルバードはカウンターに腕を組み、呟くように言葉を紡いだ。
「‥‥これはDIANAがとんでもない事態へ傾く序章だったんだ‥‥」
 そこで馬が嘶くようなバイクの排気音が響き、飴色だった画面がフルカラーへと変わり、流れ出すテーマ曲。

『ハイライト』
 ドラムとベースがビートを刻みインパクトのある音が響く。合わせるようにメロディラインを爪弾くギター。そして男性ボーカルによる
ハミング。
 ビート変調するのがアクセントとなった一曲だ。

 ギルバードの話による、深夜の海岸沿いを湧かせた走り屋チーム・DIANAの伝説が幕開けである。


■ドラマ『legend of DIANA』に出演して下さる方を募集します。
 英国人カメラマン・ギルバード・エバンスが20年前の日本で体験した出来事が、ドラマとなりました。出演して下さる方を募集致します。

・リーダー 日系二世or三世 蛇威亞奈の紅一点。
・副リーダー 日本男性 中島 譲の弟。
・親衛隊長 英国系二世男性
・特攻隊長 外国人or二世。
・旗持ち 日本人男性。 バイクは乗れず、副リーダーのケツに乗る。
・桜田&蒲生 共に20歳〜三十代ぐらいまで。 DIANAのメンバー。譲と共に走っていたがまだ残っている様子。 譲を良く理解する男達

・ケビンと一緒にいる少女 外見年齢15歳〜20歳 いたって普通の少女。彼氏が不良らしく、仲間数名と共にケビンからジャンバーを奪った模様。
・敵役のチーム DIANAと共に分散する勢力MINERVA。
・蟷螂

※できれば引き続き入って下さる方は同じ配役でお願いします。また変わってしまう場合は前回の役を参考にしてください。

■注意事項
 必須となっているのはDIANAのメンバー5名。しかし人数は不明。ですので他のDIANAのメンバーとして出てくださっても大丈夫です。
 ですが女性はリーダーのみ。他の女性は一切存在しませんのでご注意下さい。
 配役の決定は皆様の話し合いで、くれぐれも喧嘩のないようお願いします。
 またこのドラマはフィクションではなく、ギルバードが語るほぼノンフィクションをいう設定になってます。ですので役設定・武器等はリアルに懸け離れたモノの使用はあまり好ましくありません。あまりに不自然ですと反映できませんので、ご理解下さい。

●今回の参加者

 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2573 結城ハニー(16歳・♀・虎)
 fa3020 大豪院 さらら(18歳・♀・獅子)
 fa4548 銀城さらら(19歳・♀・豹)
 fa5450 皇 流星(18歳・♂・一角獣)
 fa5600 伏屋 雄基(19歳・♂・犬)
 fa5629 式部さやか(17歳・♀・猫)
 fa5775 メル(16歳・♂・竜)

●リプレイ本文


 ここはバー『EVANS』。カウンター席にいる一人の異国人・ギルバードが語り始める。
「‥‥さぁ僕が聞いた恋の話をしよう」
 バーの扉が開く。まばゆい光りの後、そこにはDIANAがいた。

 店内はいつものような賑やかさはなく、代わりに窓を叩きつける雨音と肌を突き刺すような異様な空気が包んでいた。
 玲から連絡を受けた要と桜田が、路上で倒れていたケビン(メル(fa5775))を店まで運び込んだのだ。
 幸い怪我は割りに軽かったよう。
「‥‥俺に‥‥あの女‥‥振られた彼氏に似ていたから、気になって‥‥って近付いて来たんだよ‥‥。行くところに待ち伏せしてさ、仕方なく何度か会ううちに‥‥なんだか可哀想になってきちまって‥‥」
 桜田の手当を受けながらソファに座り呟くケビンはいつもと違い、ひどく弱々しく苛立ちと不甲斐なさ‥‥様々な物が混じった声で話す。
 誰もが黙って聞いている。
「海がみてぇって‥‥俺のマシンで連れて行ってっとせがまれてさ‥‥。人気のないトコロに案内され‥‥おかしいと思ったらよ、不意打ちだ‥‥。どうも有栖川のやり方に不満を持つ下っ端の罠だったみてぇだ。まんまと俺‥‥乗せられちまって‥‥大事な革ジャンまで盗まれちまうとは‥‥!」
 思い出しただけでも腹ただしそうにグッと器を睨み、怒りを抑え込もうとするケビン。どうも彼の中でまだ皆に伝えていない事‥‥。ケビンを庇った少女アヤカ(大豪院 さらら(fa3020))にまで元彼氏は手を上げ酷い目に合わせていたのだ。
 思い出すのは自分を庇い殴られ蹴られる姿。そして泣きながら自分に詫びを入れ電話のトコロまで運んでくれた彼女の顔だ。
 怒りの矛先は仕掛けてきたMINERVA。目をぎらつかせ、手当が終わったら出て行こうと目論むケビン。
「これまで、俺達の名を騙り荒らし回ってるのは全てMINERVAの奴等の仕業だったんだ! DIANAの評判を落として潰すつもりだ。‥‥こうなったら俺一人でやってやるっ全面戦争だ!」
「待て! ケビン、よく考えろよ。お前の言う通りDIANAの似非を演じる事のメリット‥‥当然俺らの評判落としだ。素直に盗まれた革ジャンの被害届をマッポに出すは一般ピープルのやり方だが‥‥俺達はDIANAだ。俺らが起こした不始末は自分らのやり方でスジを通す! これが原則。‥‥ユズ兄も皆でそいつらを召し取れと言ってるし、ケビン一人で行く事はないぜ。みんな一緒だ」
 憤るケビンを宥めるのは中島要(伏屋 雄基(fa5600))。
 リサ・ナガセ(ブリッツ・アスカ(fa2321))はカウンター席に座り緑色の瞳で一点だけ見詰め、ひっきりなしに頭を働かる。
「‥‥なんか引っ掛かるんだよ‥‥あぁケビンの方にまだ情報がいってなかったようだな。実は有栖川が何者かに攫われたらしい。学校帰りにMINERVAの連中に凄まれたんだよ‥‥。おかしいだろ? そんなヤツらがケビンのジャンバーを狙うなんてさ。どうもうちらと向こうを争わせ潰し合いをさせたいらしい。それをして得するのは‥‥蟷螂‥‥か? とはいえ、最初から決めつけてかかるのも問題だろうな」
 結論に達しているがはっきりとした断定がない。DIANAとMINERVAを潰したい輩はなにも蟷螂だけではないのは確かだ。そんな連中はわんさといる。そしてチームとして弱っている今を突かれたらマズイ。ここはひとまず、桜子の事も気になるが様子見と名を騙り悪さをする連中の捕縛へかける事にした。それをするには情報収集からだ。
「皆がそう言うなら‥‥。だが早く何とかしないと、取り返しがつかなくなるぜ」
 ケビンは渋々だが怒りを治め、真相究明の為に協力する。おっしゃーっと頷く要にリサはふとこの場にいない二人の様子を聞く。
「そういえば玲と金三はどうしたんだ?」
「あぁ、玲は夏風邪をひいちまったようで熱が39度あるって。金ちゃんは、浜辺の悪さ親に責め立てられて、家から出してもらえないそうだ。ほら、あそこん家、食堂だろ? 万年誰かしらいるから、抜け出せないんだよ」
 要は苦笑い。リサとケビンはふと前に聞いた言葉を思い出した。金三の母さんは綺麗だがエラクおっかないっと。しかしそんな親でもしっかりと自分を見てくれているだけ幸せなんだろうなっと。

 そこで店の照明が落とされ、奥に座っているギルバードのみが照らされる。
「彼らはジャンバーを奪われ、悪用されたんだ‥‥。元々悪党の集まりでしかなかったDIANAは直ぐに悪評が広がり、酷く彼らを悩ませた‥‥。真相を探るべく動き出した彼ら‥‥だったが、思わぬ裏切りにも合う事になる」
 ギルバードは一息付くと、画面はまた飴色へ変わった。


 真夏の浜辺。手分けして手掛かりを探す三人。
「あたしらの仲間がご迷惑を掛けてしまって本当に申し訳ありません。これからやった奴を見つけ、改めてもう一度お詫びに来たいと思います。ですが世帯が大きいもんでどいつの仕業か把握できないでいるんです。よかったら犯人がどんなヤツだったか教えてくれませんか?」
 低姿勢で詫びを入れていくリサ。彼女はいつものDIANAのスイングトップ入りジャンバーを羽織っていない。地味なシャツにデニムといった簡素な姿だ。
 メモを取り店を出ていっては次の海の家へ。周辺のパトロールを兼ねて動き回る。
 一方、リーゼントを解き、眼鏡や帽子で変装した恰好の要とケビン。要の母が所有するギアの付いた原付を二人乗りし、街を探索して歩いていた。
「‥‥まったく、お姉ちゃん達が水着で居るよなこのクソ暑い中、わざわざジャンパーを着て悪さをする事が既に狂ってるぜ」
 一軒一軒チェックを入れ、お詫びと犯人の詳細を訊ねて歩く彼らは道路の端に座り一休み。ケビンが買ってきてくれたジュースを開けながら要は小さく毒づく。隣で異様な程神妙な面持ちのケビンもあぁっと頷きジュースを飲み干す。その顔にはまだ、痛々しい痣や絆創膏が貼られている。
 彼らはジーパンに付いた膝の汚れを気にして払う。それは幾度かの土下座によって出来たものだ。それを悲しげに、
「あの人達にしてみたらDIANAだろうが、そうでなかろうが浜の平和を脅かすゾクである事には変わりねぇんだよな‥‥俺達も」
 呟く要。
「‥‥さ、しょんぼりしてる暇はねぇ。次ぎに行こうぜ。なんとなく見えてきたじゃん‥‥」
 鋭く何かを察し要の肩を叩くケビン。長い事寂しい思いをしていた所為かそういった感情に敏感なのだ。
 促され立ち上がった要はバイクに跨る。
「次は刺繍を専門発注しているドブ板通の源爺んとこだ。最近うちのデザインで注文があったかを確認しよう」
 二人はその場を走り去った。
 その背後、建物の裏からヌッと現れた男。
「金三さん、ケビンと中島の奴ら、やつらいっちまいますよ。いいんですか?」
「あぁ、いいんだよ。もう少し泳がせよう‥‥クックック‥‥やつらの時代は終わるのさ」
 急かす舎弟を達を制止し喉から引きつるような笑いを漏らす金三(皇 流星(fa5450))と呼ばれる男。しかしなにか様子がおかしかった。

「源爺さん、ちわーす。なぁ俺っちのチームスイングトップを刺繍しに来たヤツらいなかったかですか?」
「おや、かな坊か。んな恐れ多い事をする様な馬鹿がいるのか? んなコトしたらリサや譲‥‥木原に何されるか解らなんじゃろ」
 ケラケラと笑う源爺。いないっとメモを記す要の横からずぃっとケビンが、
「じゃあさ、こいつ見た事ある? 最近海水浴場の海の家を荒らし回ってる奴の一人か?」
 偽の金三の首根っこを乱暴に突き出す。既にズタボロにされた男は呻くしかない。
「‥‥おいおい、ここまで酷く腫れ上がっちゃ解らないが、どうもその一人のようだ。ワシが早朝散歩に出た時に平井さんの海の家を壊した奴と背格好が良く似てるわい」
 あの後、付けているのを気づいていた彼らに逆に待ち伏せに合いこの様になった。ボクシングが強かろうが喧嘩慣れし中学時代から番格を張る彼らの敵ではない。
 二人は偽金三を無理矢理立たせると、源爺に礼を言って『EVANS』へ向かった。


「‥‥お帰り。なんだそのゴミは‥‥」
「あぁこいつ金ちゃんの名を騙っていた奴なんだ。MINERVAの下っ端らしい」
 怪訝な顔の譲に答える弟・要。リサも戻っていたらしく譲に報告を終えてくつろいでいた。
「ほぉ、金三を騙るにゃ、ちっとでっかいし、ついでに弱すぎだな。お前ら二人に伸されるなんて‥‥本物がいたら怒り狂うぜ」
 満足げな譲の口から悪態にも似た冗談口。聞いたリサはにこりと笑うも、ケビンと要はなんだかむっつり。
 それでも、ケビンがチラリと床に転がる男を見て、
「そっちも掴んだようじゃんか」
「‥‥あぁ、面白い情報を聞けたぜ。コイツが洗いざらい暴露ったよ。どうも共謀してたようだ。ソイツと」
「ひぃぃ‥‥お、俺はそんなつもりじゃなかった。裏切る気なんか無かった。けど‥‥蟷螂の奴が‥‥ゆ、許してくれよ」
 偽金三に負けない程、酷い有様のDIANAのパシリ・勘吉(式部さやか(fa5629))が睨むケビンや要達に向かって床に頭を擦り付け許しを請う。
「‥‥いくらパシリでも知ってるよな? 俺達の掟を‥‥仲間を裏切ったり騙ったりした奴の末路をさ!」
 珍しく怒り露わの要。それは今ここにいない幼馴染みの金三を思っての事だ。ドゥッと蹴りを入れ転がったトコロでもう一度入れようとした時、
「やめな! 要。熱くなるんじゃない。こいつらは雑魚だ。本体がいるハズ。あたし達DIANAの名を騙る野郎は生かしちゃおけない。行くぜ」
 リサの一喝に足を止める要。彼女の言葉にあぁっと小さく返事しクールダウン。戸口に向かうリサを追うケビンがその顔を見やる。
 なんとも表現しがたいほど怒りと悲しみに満ちた深いグリーンの瞳をしていた。


 勘吉と偽金三から聞き出した波止場。
 倉庫を一つ一つ見て回るにはかなりの時間が掛かりそうだが、ここにいるだろう有栖川を見つけるにはそんな事は言ってられない。
 MINERVAが事の真相をきっちり掴んで助け出していれば別だが。
「手分けして行くか。だが敵が隠れているかも知れない。注意するんだ」
 手早く指示を出すリサ。そこに轟音を立てバイクの音が響く。梟のスイングトップ‥‥MINERVAだ。
「リサーっ! やっぱり貴様の仕業かよ。あっちこっちを荒らした挙げ句うちの桜子さんを攫うとぁどういう了見だ! 手前ぇら昔の紅蛇のようになっちまったかのぁ」
 一人の少女が男のリアから飛び降りざまリサに突進。咄嗟に避けた彼女だが、最後の紅蛇と聞いて動きが止まった。
「‥‥違う! これはわたしらの仕業じゃない! まして紅蛇はもう壊滅しただろう。あんたも知ってるはずだ」
 繰り出されるパンチを避けながら言葉を紡ぐリサ。しかし総長を取られている少女は頭に血が上り聞いていない。
 他のケビンも要も乗り込んできた連中を相手にするのが忙しく、手を回すことができずにいる。
「確かにDIANAの前身‥‥紅蛇は極悪党だった。けどもう自分らの毒でやられちまって、今はもういない‥‥。それにあたしらはDIANA‥‥チームが違う!」
「うるせぇ! 悪党は悪党でしかないんだっ。桜子をどこにやった? いえ」
 追い詰められ壁に背中を強か打ったリサ。そこにまたもバイクの排気音。
「DIANA、お前らの悪事はこのレディース・蟷螂の会の総長ブリジット様がお見通しなんだよぉ。腐ったワルはこのアタシが叩きのめしてやる! サァかかってきな!」
 名乗りを上げ凄むブリジット(結城ハニー(fa2573))。その後ろに乗っているのは副総長のホノカ(銀城さらら(fa4548))。
 彼女達は二人に割って入ろうとするが、それをMINERVAの少女が許さない。
「あたしの目の前で桜子を攫ったのはあんた達だ。この目でしっかりと見たんだ」
「‥‥ち、違うっ」
「お止めなさい! 二人とも!」
 やり合う二人にの間に一喝が入る。それは桜子のもの。どうやら一緒に来ていた蒲生と桜田が見つけ出し逃がしたようだ。
「あなた、リサの顔をよく見なさい‥‥。瞳の色‥‥。あの時は咄嗟で失念しておりましたが、私を攫った輩の瞳は黒。そして本物のリサは緑。それに中島やケビンも少々雰囲気が‥‥不細工でしたわ」
 鉄扇を弄ぶ桜子。その顔にDIANAに借りが出来た事を悔しがっているよう。
「‥‥そして本当に私を攫ったのは蟷螂ですわ。さぁ、容赦は致しませんわよ。お覚悟はよろしいでしょうか?」
 中国拳法の構えを見せるブリジットだが、周りを見れば群がる男。その目はぎらつき野蛮な光りを放っている。
「‥‥愛と正義を貫くゾク‥‥。しかし今回はちょっと間が悪いようだ。‥‥いい目をしてるねアンタ達。困った事があれば、いつでも呼びな」
 そう言って乗ってきたバイクに跨り去ろうとする。あまりに陳腐な台詞に呆然とするリサ。聞いていたケビンは肩をすくめる。
 エンジンを掛け、逃げ出す彼女に要が真横から鉄の棒を前輪目掛けて突き立てた。バイクはつんのめりジャックナイフ。
 ドゥッと激しい音を立てて地面に投げ出された。
「‥‥あんだけの大口と俺達の名を騙ったんだ‥‥。その落とし前、きっちり付けて貰うぜ」
 ニヤリと凄む要。ケビンも楽しげに指を鳴らした。


 その後、レディースの蟷螂会の総長の行方は知れず族は壊滅した。
 そしてEVANSではいつものようにケビンの冗談口とリサに勉強を教わる要の姿。そしてやけに悔しがる男二人が譲に慰められジュースの自棄飲みをしているところが見られた。