legend of DIANA 6アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 3.2万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 08/15〜08/18

●本文

 ここは波止場の一画に建つライヴハウス兼バーの『EVANS』。
 薄暗い店内は紫煙と酒の匂い、密やかに聞こえる怪しげな会話。そしてオールディズの曲が足を踏み入れた者にまとわりつく。
 陰と陽。独特な雰囲気を持つ店のフロア。足を進めていくと、カウンター席に座る一人の異国人・英国人カメラマンであるギルバード・エバンスの話を聞く事ができる。
 彼はちろりと青い瞳をこっちに向けると、呟くように語り出す。
「‥‥三年間、本当にスピードと風、仲間達との交流を心から楽しんでいた。しかし楽しい時間というのは留まる事を知らない。時は流水の如く流れ、あっという間に卒業の時期を迎えた。‥‥学校もそうだが、DIANAをもだ‥‥」
 ギルバードは視線を遠くにやる。合わせて画面はズームアウトして切り替わった。
 飴色の画面に映るのは、明け方近くの海辺。波打ち際ではしゃぐ少年達の姿だ。
 傍には彼らの乗ってきただろう4台のバイクもある。
 ギルバート‥‥若い頃の彼は、彼らに向かってシャッターを幾度も切る。その隣では大きく伸びをしながら、タバコを吸う譲の姿があった。
 場面が戻り、あの時に比べ顔にシワの増えたギルバードがいつの間にか店から抜け出し、波打ち際へ立っていた。
「輝く時間を共有した彼ら。喧嘩や啀み合い‥‥悪ふざけ‥‥様々な思い出を波に帰すようにそこにいたのさ」
 そう言ってシュッと投げた写真。肩を組み笑い合う5人の姿があった。
 卒業までの一週間。時が静かに動き出した。

「‥‥あのさ俺、あんまし上手く言えねっけど‥‥告白した方が良いと思うぜ」
「‥‥だよね。話に付き合ってくれてありがとう中島君。勇気を出して定岡君に言ってみる」
 校舎の裏。一人の少女と要が居た。表情から察するに深刻のようだ。
 そこに入ってきたケビン。
「おーー、いたいた! 要ぇ、早く帰ろうぜ。ギルさんがサ、写真を見せてくれるってよぉ。んだぁ、デート中かぁ?」
 ヨソの学校なのだがケビンはまったくもって気にせず、勝手知ったる我がハイスクールのように入ってくる。
 驚いた少女に苦笑いを浮かべた要は、
「違う! あ‥‥わりぃ‥‥。もう行かなくっちゃ。金ちゃんはまだ残ってると思うぜ」
 そう言ってケビンと歩き出す要。
 店には皆が写真を見ていた。しかし金三の姿はない。要はひっそりと少女の願いが叶うように祈った。
 だが後日、少女は泣いていた。海岸に小さく蹲って。
「どうしたん? やっぱ駄目だったか‥‥」
「ち、違うの。やっぱり彼を前にすると、どうにも言えなくて‥‥」
 勇気がない自分に切なくなったようだ。
「‥‥けどありがとう。中島君。あなたDIANAの中で一番優しそうだから、話を聞いて貰っちゃった。迷惑じゃなかった?」
「‥‥」
 波の音を聞きながら佇む二人。EVANSから出てきた金三は、その影を見てキリリっと顔を引き締めた。
「あれー? また二人でいるなぁ。この前もいたぜ」
 覗きこむケビン。
「いいじゃねぇか。卒業まで僅かだから色々とあるんだろう」
 玲はオトナ顔で言う。隣で聞いていたリサはクスリと笑い。
「そうだろうね、もう卒業だからな‥‥。あぁ金三、卒業集会のルート頼むぜ。きっとMINERVAや他のチームも出てくるだろうな。まぁ、最後だHappyに終わらせようぜ!」
 ぼんやりしていた金三だが、リサの言葉に任せておけっと胸を張った。
 再度、画面が切り替わり元のバーの画へ。
 ギルバードはカウンターに腕を組み、呟くように言葉を紡いだ。
「最後のツーリング。そして恋。最後まで彼らは輝きを放つ事を忘れなかったんだ」
 そこで馬が嘶くようなバイクの排気音が響き、飴色だった画面がフルカラーへと変わり、流れ出すテーマ曲。

『you don’t know』
「 静かな予感は 絶えずどこかで始まる
  届かない悔しさ難しい言葉で飾っても 今は何も分からない

  意味も知らず歌う耳で覚えた流行歌の方が
  上手く伝えられる気がした

  この一瞬を ただ生きるために
  焦がれる眩しさ難しい言葉で飾っても 今は何も分からない

  誰もが荒削りな輝きを抱え迷いながら
  その胸の奥秘めた何か 確かめに歩き出す 」

 ギルバードの話による、深夜の海岸沿いを湧かせた走り屋チーム・DIANAの伝説が幕開けである。


■ドラマ『legend of DIANA』に出演して下さる方を募集します。
 英国人カメラマン・ギルバード・エバンスが20年前の日本で体験した出来事が、ドラマとなりました。出演して下さる方を募集致します。

・リーダー 日系二世or三世 蛇威亞奈の紅一点。
・副リーダー 日本男性 中島 譲の弟。
・親衛隊長 英国系二世男性
・特攻隊長 外国人or二世。
・旗持ち 日本人男性。 バイクは乗れず、副リーダーのケツに乗る。
・要に相談する少女  外見年齢15歳〜20歳 どうも要と金三のクラス委員。普通で真面目、几帳面な少女。
・敵役のチーム DIANAと共に界隈を二分する勢力・MINERVAの構成員。

※できれば引き続き入って下さる方は同じ配役でお願いします。また変わってしまう場合、代役は出来ません。他のDIANAのメンバーかMINERVAその他の役をお願いします。

■注意事項
 必須となっているのはDIANAのメンバー5名。しかし人数は不明。ですので他のDIANAのメンバーとして出てくださっても大丈夫です。
 ですが女性はリーダーのみ。他の女性は一切存在しませんのでご注意下さい。
 配役の決定は皆様の話し合いで、くれぐれも喧嘩のないようお願いします。
 またこのドラマはフィクションではなく、ギルバードが語るほぼノンフィクションをいう設定になってます。ですので役設定・武器等はリアルに懸け離れたモノの使用はあまり好ましくありません。あまりに不自然ですと反映できませんので、ご理解下さい。

●今回の参加者

 fa0047 真神・薫夜(21歳・♀・狼)
 fa1126 MIDOH(21歳・♀・小鳥)
 fa2150 エレーヌ・桜井(19歳・♀・兎)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa5055 鳳雛(19歳・♂・鷹)
 fa5600 伏屋 雄基(19歳・♂・犬)
 fa5775 メル(16歳・♂・竜)
 fa5812 克稀(18歳・♂・猫)

●リプレイ本文


 ここはバー『EVANS』。カウンター席にいるギルバードが語り始める。
「‥‥さぁ僕が聞いたDIANAの最後の話をしよう」
 バーの扉が開く。カラーから飴色の画面へ包まれた。

 波止場にある『EVANS』の店内に響くのは辿々しい玲・スコット(克稀(fa5812))の声。
「お、おぼ‥‥朧、ひあ? ひな‥‥日向で、そう‥‥か‥‥。リサ、なんて読むんだ?」
 画面は飴色から少しずつカラーへ変わり、玲はブルーの便箋に書かれた端整な文字と小一時間、苦戦していた。差出人はあの少女。無事に手術を成功し今はこの文通を楽しめる程だ。尤も彼女が3通出すのに対し、玲は1通という形であるが。
 リサ・ナガセ(ブリッツ・アスカ(fa2321))に頼る彼にケビン(メル(fa5775))が茶々入れ。
「んな辿々しい読みじゃ彼女が可哀想だぜ。それにもっとマメに書いてやれよ。でないとフラれちまうよ」
「煩せぇ」
 間髪入れず玲がケビンのデコにチョップ! 笑うリサと譲。釣られた二人も笑顔を見せるが、ふいにケビンは寂しさを覚え、
「もうチョップを見舞われる事が無くなるンか‥‥。なんつーか3年間ってアっという間だったなぁ。全然、走り足りねぇっつーか、いっそ時間が止まっちまえとか思うよ。んでさ皆はこれからどうするんだ? 俺はダッドの代わりにマム達を護って行かなきゃならないし、一応は真面目に働く。って、玲。今おめぇの柄じゃねぇとか思っただろ?!」
「‥‥それもだが、相変わらずよく動く口だとも思ったぜ」
 捲し立てるように話す彼に、つれない玲。しかし顔には出さないだけで玲も寂しいのだ。そんな彼らに更なる辛さを募らせる出来事がある。
「なぁ、誰か金三と連絡取ったか? 要もこの頃いないし‥‥あいつらどうしちまったんだ」
 ケビンはリサの他、店にいる連中に問う。しかし誰も首を横に振るばかり。
「金三んち親父さんが事故って大変みたいだしさ」
「辞めるって言ってたけど本気か‥‥チームが好きだった癖に」
 蒲生がボックス席から話し、リサは呟く。
 それを聞いた玲はすぃっと店を出ていくと、愛車の爆音と共に姿を消した。

 店の照明が落とされ、奥に座っているギルバードのみが照らされる。
「仲良かった二人がどうして喧嘩をしてしまったのか‥‥色々と絡む糸があるようだ‥‥」
 深く息を付くと、画面はまた飴色へ移った。

 金三の自宅‥‥定岡食堂。
 夜のピークも過ぎ、客も疎らになりだした店で大柄な二人の兄と共に定岡金三(MIDOH(fa1126))は、テーブルを片付けていた。
「らっしゃい‥‥って玲! 邪魔しに来たンかよ。帰りな」
「ばーか。随分と水臭いんじゃないか。俺だって皿洗いくらいは出来るぞ。お兄さん方、後は任せて休んでください」
 金三の怒声も聞かず、玲は用意したエプロンを掛け厨房へ行く。二人の兄達は喜び、宜しくっと奥へ引っ込んだ。なんせここ数日働き詰めで参ってきたところだったから。
 舌打ちし隣で皿を片付け始める金三に玲は呟く。
「お前‥‥らしくないと言えば怒るか? 俺はあんたらが羨ましかったんだが‥‥。あぁ。かった、だがな。今の俺にはDIANAの仲間がいる‥‥勿論お前もだ。何を意地になってるか解らねぇが少しは信頼しろよ」
 親身な顔で話す玲に金三は俯くと、
「‥‥解ったよ。俺ん家さ、この通り親父が事故っておふくろも疲れでぶっ倒れちまっただろ。これじゃぁ来週の卒業式どころじゃねぇんだ‥‥そのどころか整備工の専門学校もどうしようか迷ってる。それにDIANAの後継人も探さねぇと‥‥だし。んな時に女の恋愛話に現を抜かす要にムカついちまって‥‥。八つ当たりなのは解ってンけど。要にはもっとチームを盛り立てて欲しいんだ。そら譲さんの弟でもあんだしさ‥‥。でも結果、傷付けちまっただけだったな」
 本音を漏らす。
「そうだったのか‥‥。おい、ケビンにリサ。要も聞こえたろ? とっとと来て手伝え」
 玲はにんまり顔でエプロンを捲る。その下から最近出したショルダーフォンがあった。意外な策略に呆気にとられ怒る金三。しかし鮮やかな手口に笑いが止まらなくなった。
「お前、親が元気になったらシバき‥‥な」
 ひとりで背負い込んだ金三に納得出来なかった玲の一言。

 EVANSで聞いてたリサとケビン。
「おじさん、おばさんが‥‥。暫く会ってないけどアイツの家族も皆、俺やユズ兄にとって大事な人‥‥だ」
「だったら行けばいいじゃん。まったく金三の奴、遠慮しないで言やぁいいのによ。ま、らしいと言えばらしいよな」
 事実に驚く中島要(伏屋 雄基(fa5600))だが、どうも煮え切らない。しかし玲同様に実直なケビン。リサはグリーンの瞳に呆れたというような色を浮かべ、
「‥‥男って面倒だな。先に行くよ。考えが纏まったらくるんだな」
 店を後にする。そこに私服姿の清水真央(エレーヌ・桜井(fa2150))が奥の席から要の元へ来た。
「中島君‥‥ありがとう。もういいの。私、彼を好きだった事は忘れない。私の高校時代の思い出そのものだから‥‥。ホント貴方達って自由で強くて‥‥特に5人が集まると、この世に怖いモノとかないんだろなって思った‥‥。みんな不良だ暴走族だって陰口叩いてたけど、5人の見えない結束力が羨ましかったんだよ‥‥?」
 強く結う三つ編みの所為で緩いウェーブを描く髪に触れながら緊張気味に話す真央。揺れる瞳に普段見えない美少女振りが伺える。
「‥‥私ね。横須賀の海が一番好き。きっとこれから行くどこの海より好きかもしれない。水面がね、太陽を浴びてキラキラ光るでしょ。まるで金三君みたい‥‥うぅんDIANAみたいで。だから輝きが最後まで欠ける事のないよう‥‥中島君、お願い」
 話を聞く要はリサと違う雰囲気に戸惑う。
 実は彼女の父親は去年、事故で帰らぬ人となっていた。彼女の卒業を機に母方の実家・九州へ行きそこの大学へ通う事となっていたのだ。真央はそのことで意を決して金三に告白しようしていたが、どうもそのままにすると決めたよう。
「解った‥‥。行こうか清水。俺のマシンに乗んな」
 要は真央を促し急いだ。

「何なんだよ、お前らはっ?! ウゼエから帰ぇれ」
「料理は苦手だが‥‥電話番と配達なら出来るよ」
「丁度良かったぜ。配達があるんだ宜しくリサ、ケビン」
 リサは金三の怒声を流し、玲から説明を受け、岡持ちを手に小型バイクに跨る。
「どうしたんだい金三。あら、お友達‥‥。おや、要ちゃんお久しぶりねぇ」
 息子の大声に裏からカーディガンを羽織って現れたのは金三の母、瑠璃子(ベルタ・ハート)。金三によく似た美貌の持ち主だが、やつれ気味なのが気になる。
「煩せぇな、寝てろよ!」
 開いた戸に立った要と真央に気付き瑠璃子は優しく声を掛ける。彼らは苛立つ金三の脇を抜け、
「こ、こんばんは。突然、押しかけてすみません。お身体の具合どうですか‥‥」
 途中で買った花束を渡す真央。瑠璃子は微笑み受け取ると、要に付き添われ奥へ。彼にとって勝手知ったる他人の我が家である。
「あのさ、おばさん‥‥。金ちゃんとダチにしてくれてありがとう‥‥」
 電話向こうで聞いた金三の言葉に胸に詰まる。小姑で心配性な彼にとって要はどうも世話の掛かる奴らしい。
「いえいえ、あのきかん坊にそういってくれるのは要ちゃんだけよ。にしても自分の方が誕生日が後の癖に兄貴気取って‥‥どうしょうもないわね」
 苦笑いの瑠璃子。要は部屋に連れて行くと店に戻る。金三の横を過ぎる時小さな声で呟いた。
「相談したくても俺と清水が一緒だと話しかけ辛かったろー、ゴメンな‥‥金ちゃん」
「‥‥おう、というか馬鹿! 俺も‥‥だ」
 照れくさそうな二人に玲は食器を洗いながら唇の端を持ち上げた。


 映し出された画面はカラー。いつものバー『EVANS』。カウンター席にいるギルバードが話し出す。
「珍しく仲違いをした二人だったが、やはり元の鞘。店も彼らの手伝いで上手く運びだしたんだ。そして卒業が迫った日‥‥。DIANAの彼らよりも1年早く旅立った少女は随分と大人びた顔で街に現れた。そう、最後のレースをするためにね」
 ここで画面はグッと引き飴色へ。だが独特のエンジン音が響き出すと、色が付きだした。

「桜子の姐さん、お久しぶりです! 手紙届いたんっすね。って、それ‥‥頭切ったんすか」
「坂巻、久し振りですわね。えぇ勿論。リサ達が卒業するのですね‥‥。にしてもあの字、何とかなりません? 解読が難解でしてよ。それに頭ではなく髪ですわ。長いと手入れが大変なんですもの」
 MINERVAの男達による出迎えを受ける有栖川桜子(真神・薫夜(fa0047))。前列で頭を下げるのは現総長の坂巻流(鳳雛(fa5055))だ。
 一年先に足を洗っていた桜子。今は親の監視から飛び出し、単身で英国の大学に留学。無論、家の金を当てにせず奨学金でである。
「籠の外にでる事は、意外に簡単な事でしたのね」
 ふふっと笑い、今は当に求めた自由を謳歌していた。
「‥‥あの3年前から彼らと出会い、起こった‥‥色々な出来事が、まるで昨日ようですわ」
「そうですねぇ。おっといけねぇ。あいつらも集会が始まっちまいますぜ、行きやしょ!」
 思い出すように目を細める桜子。流は無粋だと思いつつも、走りへ促した。

 真夜中。134号線、海岸通り沿いにマシン達の奏でる爆音が響く。明日の卒業式を控えDIANAが最後の集会を開いているのだ。
 見事な走行を見せるリサに付く玲は、いつも以上に大胆な走り。その顔はこの道同様、紆余曲折を経て辿り着いたものへの想いが胸を満たし満足げだ。
 器用にスロットルを操り蛇行を繰り返すケビン。
「結局、一度もリサに勝てなかったなぁ」
 言葉とは裏腹に悔しそうな表情ではない。寧ろ晴れやかである。要はケビンを見、笑う。その後ろに乗る金三が潮風に靡く旗を握っている。
「よー要、暗すぎて桜が見えねぇなぁ。ライトで照らせや」
「金ちゃん、無理だよ。けど匂いすんべ?」
「‥‥いんやしねぇ。すんのは排気のイイ匂いだけだな!!」
「ご機嫌ようDIANAさん。リサ‥‥第一線を離れたからといって簡単に抜かせると思わないで下さいね」
「うぉ?! 手前ぇらも懲りねぇな」
 豪快に彼らの真ん中に割り込んできた流と桜子。彼らは先頭を走るリサに横付けると、最後の勝負とばかりにゴーサイン。
 もちろん挑まれた勝負を買わないリサではない。
 一瞬にして遠ざかる3人。ケビンと玲も顔を見合わせると、思いっきりアクセルを回す。
 耳元でざわめく潮風。体を右へ左へ傾けカーブを曲がり、追い追われのデットヒートが繰り広げられる。
 しかし数時間後、水平線にうっすらと明かりが差し夜が明け出す。誰もがここで感じた爽快感と達成感。そして小さな切なさ。
「こんなにゴールしたくないと思ったのは初めてだ‥‥」
 やはりトップを行くリサが呟く。その後ろの流が、
「おいおい、やっぱ勝ち逃げかよ? ま、あんたの名は俺が更に高めてやンよ。横須賀最速の男・坂巻流様がただの一度も勝てなかった相手って事をさ」
 冗談めいた言葉。後ろに付いた玲がにやっと唇を歪める。
「ばーか。お前らに俺たちゃ抜かせないのさ! DIANAは走りも喧嘩も、んで熱さもスカNO1チームだ」
「うるせーバカで悪かったな。おう他にも馬鹿やりたい大馬鹿がいたらついてきな!」
 怒ることなく笑いながら応える流。一つ下の彼はまだまだ走りがあるようだ。
「いや、ここで止めておく。あたしは次のステージへ行くだけ。悔しかったら追い掛けてきな」
 振り返り叫ぶリサ。その顔は晴れやかだ。
「‥‥なぁ今更、言うまでもないことだが‥‥例え離れ離れになっても俺達はいつまでも仲間だ」
「あぁ! あの時、皆に会えて本当に良かったぜ。やっぱDIANAサイコー!」
 笑む彼女に応えるケビン。ようやく追いついてきた要。なんせ後ろでハイテンションの金三を押さえるのに苦労しているのだ。
「ふふふ、本当に楽しかった‥‥そう思いますわ。DIANAさん‥‥ご機嫌よう」
 本気走りをして負けた桜子。それでも悔いがないとばかりに微笑んだ。
 そんなスピード狂達が走り去る134号線の片隅で手を振る真央。
 彼らは真新しい朝日を沢山浴び、明日への道へ走り抜けていった。


 画面はEVANSのカウンターへ。
「どうだった? ‥‥彼らは3年間で走りや喧嘩。友情に恋を謳歌し、自ら歩む道を見つけ走っていったんだ」
 氷が溶けグラスを鳴らす。ギルバードは薄く笑むと写真を数枚取り出した。そこにはその後の彼らが写っている。
「数年後の彼らだよ。‥‥旗持ちをしていた金三は両親の容態は良くなり、整備工の専門学校へ。その後は整備士となった。特攻のケビンはね、家族を養いながら結婚をし、今じゃ三児のダッドさ。親衛の玲‥‥彼は走る悦びを胸に両親と共に英国へ帰り、有名なロードレーサーとなった。心優しい副総長の要、あいつは保父を目指して進学し、そして今は保育園の経営者だ。そんな彼は真央という良きパートナーに恵まれたんだ。そして4代目総長のリサ‥‥彼女は譲の紹介でバイクショップに住み込みで勤務し、後にレーサーとなった。ワールドグランプリの優勝者‥‥そう彼女だ」
 楽しげに語ったギルバード。フッと息を吐くとカメラから視線を外し、立ち上がり、
「君達も彼らのように疾風になって走り抜けてみたらどうかな? きっと何か見出せるかもしれないよ」
 そういってEVANSの扉を思いっきり開いた。