female Buccaneers2−1アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 8.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/27〜08/30

●本文

 一艘の木造船が沖を滑るように進んでいく。その旅立ちを真っ青な空も海も祝福しているようだ。
 風を孕み脹れる真っ白な帆。高々と立てられたマストに真っ赤なジョリー・ロジャー(海賊旗)がはためく。
 そこに映し出された金色の飾り文字『female Buccaneers 〜海を彩る美しき女海賊たち〜』と、このドラマのタイトルが流れ消えた。

 手に入れれば海の覇者となるいう伝説の宝珠『紺碧の心臓』を巡った女海賊とプライベーティア達の冒険は、一人の男が砕けた宝珠を胸に抱き深海へと消え終演を迎えた。
 あれから半年。波の上を渡る潮風はいつも穏やかで、誰もが平和になったと感じていた。海を渡るカモメでさえもそう信じていた。
 不気味な予兆を感じるまでは――。

 冒険の始まりは、いつもヒスパニョーラ島から。
 ここは海賊達が憩いと安らぎを求め、長い海上生活の疲れと強奪した金品を落とすため、必ず訪れる場所。
 毎夜、繰り広げられる男達とその相手をする女達の嬌声が止む事はなく何時でも騒がしい土地である。
 そんな島のメインストリートに大きく店を構える居酒屋『オールアドミット』。普段と変わりない乱痴気騒ぎの中、カウンターで一人静かに飲む男に胸元が開いたセクシーなドレスを纏う女が擦り寄っていった。
「ねぇ‥‥あんた聞いた? 数ヶ月前に素敵な船長様が怪物に襲われて海に沈んだ話」
 甘い声音で話す女の声も聞き取るのもやっとの程の煩さ。だが男も気にする風でなくジョッキの酒を飲みながら頷いた。その拍子に皮帽子から覗いた顔。酒の所為だけではないだろう薔薇色に染まる頬、そして海の荒くれにあるまじき程きめ細かい肌がランプに晒された。下を見れば海賊服に包んだ身体も驚くほどか細い。
 そう、彼は男ではない。れっきとした女性‥‥レディである。彼女こそ女性のみが船長を務め、前回の冒険で更に伝説的な噂を広めた海賊船『ジョリー・ルージュ』号の船長なのであった。
「あぁ、勿論。女達にとっては多大な損害だったろうねぇ」
 船長は些か嫌味に近い冗談を放つ。尤も彼女はその目で事の経緯を見ていた証人。確かにジョリー・ルージュの乗組員と相手方、プライベーティア‥‥海に沈んだ男の仲間によって、男が海に身を投じた姿は勇ましく描かれ殊更、ここにいる女達が憧れるほどの良い男に違いない。
「それもだけど、更に惜しいのはその男が愛用していた剣さ。なんでも高価な宝石を散りばめた一級品で、その剣が男と一緒に海へ落ちてからというもの、そこの海域に凄腕の海賊が出没するようになったんだって。おかげで貿易船がいくつも積み荷を奪われ沈められてって‥‥」
「‥‥だからか‥‥どこの国の王達が躍起になってプライベーティア共に命じて海賊を取り締まり、アジアの海域を探索掛けてんのは」
「そうみたいね。ねぇ、あんたは興味ないの? 本当にそこまで凄い話なんて本当かどうか解らないけど」
「あぁ、行きたい。っが、残念かな船がない」
 ふっと息を吐き、飲み干したジョッキをテーブルに置いた。女性のわりに声が低くぶっきらぼうだ。
 実のところ彼女達‥‥ジョリールージュ号の乗組員もプライベーティア達にまんまと騙され船を奪われてしまったのだ。それでも逃げ切り縛り首を免れ、この地に逃げ込んできたらしい。
 店の女はどことなく事情を察し、にっこりと微笑むと、
「ふぅん。あたしさ昨日、真っ白な帆を張った船がここの港に入ってくるのを見たよ。真っ赤な旗が立ってたよーな」
 女船長はその言葉に席を立ち、仲間がいるテーブルに歩み寄っていった。

 英国発のドラマ『female Buccaneers2』は、海賊船・ジョリー・ルージュの女船長、そして乗組員また彼女の敵役をしてくださる出演者を募集しています。
 前回同様、ジョリー・ルージュは基本的に女船長が仕切る船のため、こちらは女性の船員が好ましいと考えております。またプライベーティアは英国の貴族によって組まれた王室から許可書を得た私掠船。こちらは男性の乗組員で構成して頂きたいです。
 そして配役は二つの船の船長以外、きちんと決まっておりません。この二つの役が重ならない限り、皆様のご希望を頂ければ嬉しく、また添えるよう努力させて頂きます。ただしあくまでもこのドラマに沿った役でお願いします。

 ジョリー・ルージュの船長 腕っ節と機転の良く利く女船長。
 プライベーティアの船長  二代目船長。前船長に引けを取らないほど明晰な頭脳と気配りを見せる船長。
 
 操舵手
 帆手
 甲板長
 調理長など船に関わる仕事。

●今回の参加者

 fa0047 真神・薫夜(21歳・♀・狼)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa3293 Even(22歳・♂・狐)
 fa3325 マーシャ・イェリーツァ(23歳・♀・兎)
 fa4563 椎名 硝子(26歳・♀・豹)
 fa4764 日向みちる(26歳・♀・豹)
 fa5939 祥月 暁緒(19歳・♀・兎)

●リプレイ本文


 ヒスパニョーラ島に夜の帳が降りると、酒場に海賊と女達の嬌声や笑い声、欲望の声が響き渡る。だが奥のテーブルだけは違う。
「なんとした事‥‥! わたくし達があんな罠に引っ掛かるだなんて‥‥。あの娘が今頃汚らわしい男共に弄られていると思うと‥‥ちょっと、ラム酒のお代りよ! 水なんかで薄めないで生のままで頂戴っ!」
 ドレス姿のメアリー・ショウ(マーシャ・イェリーツァ(fa3325))が、自棄気味に空のジョッキを振り次の酒を注文する。彼女の言う娘とは人子の事ではない。船・ジョリールージュ号の事だ。
 こんなに荒れるとは余程悔しかったのだろう。隣に座るフェイリー(祥月 暁緒(fa5939))も、
「ホント、頭くるよねー。僕達の船、キッチリ返して貰わなきゃ!」
 同意し怒りを露わにした。それに関してロゼッタ(紗綾(fa1851))は無言のままである。しかし彼女の肩に止まるオウムのノヴァは、白い羽根を大きく広げ、人の声に似せた声でブーイングを放つ。
「まったく厄介事に巻き込まれたもんだ。色々と調べた方が良さ気だな」
 一番静かに酒を飲むのは丈夫なウールで作られた旗袍を着るランファ(真神・薫夜(fa0047))だ。今後を思案する彼女の傍にジョリー・ルージュ号の船長リコリス・コーラル(椎名 硝子(fa4563))が現れ席に着く。
「‥‥おい、クダを巻いている暇は無くなったぜ、運命の女神は俺達に味方を始めたようだ」
 さっきまでカウンター席で女と話し情報を入手したよう。
 それにメアリーが反応。今まで酔っていたなどと思えない程シャンとしている。
「まず最初はランファ‥‥。任せた」
 リコリスの策にランファは頷く。そんな彼女達を柱の影で傍観してるリコリスと話していた店の女。
 彼女‥‥七変化が得意なクリス(日向みちる(fa4764))は、この場で奪還の相談に首を捻るも、すぐに合点がいった。
 そう、ここにいる海賊の殆どが酔い任せ話の半分も憶えていないうえ、隣の席の声すらも聞きづらい喧騒。人の多さに怪しまれる事なく相談が出来るのだ。
 それでもリコリスは念を入れメアリーを見張りに立たせている。用心深い彼女達にクリスは深くは聞けないと判断しドレスの裾を翻して酒場を後にした。


「お前は本当に使えないな! モーゼの法律を受ければマトモになるかっ」
「ひぇぇ〜。そ、それだけは‥‥それ以上も以下の罰も勘弁っス。だってあのお嬢さん達‥‥話には聞いてましたがあまりにキレイだったッスから‥‥つい」
 停泊所でプライベーティアの乗組員の凄む声が響く。囲まれているのは入ったばかりの新米・ホーケン(AAA(fa1761))だ。
 ドジって逃がしてしまった責任に金属を継いだバケツ型ヘルムは小突かれまくっている。必死に押さえる様子は、さながら滑稽が売りの道化師のよう。市民や暇を持て余す水兵達には恰好の見せ物となっていた。
「まぁまぁ皆さん、ここは陸地ですよ。海の掟の処罰を持ち込むのはどうでしょうかね。なにより我々は乱暴で薄汚い海賊と一線を置く陛下直々に免許状を頂いた私掠なのですからここは別の罰を与えましょう」
 ブーツの踵を鳴らしながら現れたプライベーティアの船長のジル(Even(fa3293))が制止した。
 ようやく落ち着いた彼らに向かって再度、彼は笑みを浮かべつつも嘆息し、
「少しの間だけ、仕事を増やさないでくださいね新人さん。僕も船長業務が新任なんで結構、憶えなくてはいけない事や、やる事が多くて‥‥そう、そちらの方。話を聞かせて頂けます? えぇ、アジアの海で襲われた海賊の事をです」
 人柄を表すように柔和な叱り。だが聞く者によっては棘を感じるもの。
 ジルはホーケンを一瞥すると、今話題になっている海賊に襲われ命辛々逃げてきたという商船の乗り組員と共に部屋へ足を運ぶ。
 立ち去る彼を見送りながら一人の船員が呟いた。
「‥‥今の船長は甘いな。顔もロクに見せないどこの馬の骨だか分からなヤツを雇い、やらかすドジを大目に見るとはな」
「そんな事無いッス。やっぱ雲の上のお人ッスね‥‥。そういやぁ船長が連れて行ったヤツらからちょいと聞いたんスけど、ありゃあ尾ひれに背びれがくっついた酷い噂ッスよ。その手の話は良くある事で、一人歩きってなもんッス!」
 羨望の眼差しで後ろ姿を見詰めるホーケン。尤も僅かな隙間からしか見えない目では窺い知れぬところ。口も柔らかくなった彼はどこから出る自信なのか根拠の見えない知ったかぶりを晒す。
 バコン!
「んな、ことお前如き下っ端以下が知るわきゃないだろうが。無駄話をする前にそのヘルムをバケツにして掃除だ。そういやぁ俺達顔を拝んだ事無いな。一体どんなツラしてんだ?」
「そりゃお見せできないくらいひでぇ顔ッス。ガキん頃火傷をおっちまって見るも無惨。だから被ってんス」
 ホーケンはヘルムの中の話にしどろもどろで応える。
「そうなんか? けど鉄兜姿が素敵だよお兄さん。あそこに停泊しているあの綺麗な船が貴方達のか? ここからだと遠くて見えづらいけれど、エラく早そうな船じゃないか」
 上手く話に加わるランファ。バレ難いよう旗袍のみ脱ぎ休憩中の漁船乗組員を装っている。
 突然の珍客にあからさまに不快と疑念で凄む船員。だが彼女は引き下がらず、腰に付けた徳利を差しだす。
 その酒を一口、舐めたホーケンは驚きの声をあげた。
「たまげた! 上等の酒ッス」
「少しばかり儲けたからな。それもあんた達プライベーティアが海を守ってくれるおかげさ! 飲んでくれよ」
 笑うランファ。上等な酒と聞いて群がる船員達に色々と質問し、いとも容易く情報を入手することが出来た。


 朝靄の掛かる港に大樽を運ぶ二人の少年。共に大きな帽子を被り、サッシュを締めないと落ちそうなズボンからはみ出したシャツが薄汚く汚れている。
 彼らは荷を運ぶ事で金を得ているだろう少年。しかしよく見れば、フェイリーとロゼッタである。
 昨晩ランファからの情報を元に策が練られ、火薬に詳しいフェイリーとその相棒にロゼッタが指名されたのだ。
「いいか、翌朝に荷運びに混じり潜り込め。任務は解っているな。火事を起こす‥‥だ。危険であるが明朗な性格のお前達にしか出来ない仕事だ。‥‥出来るな?」
 リコリスは二人の顔を見つめ、期待していると肩を叩いた。
 無論、応えるべく二人は運ぶ荷を男から奪った。中を覗けば運が良いのか悪いのか酒樽だったよう。
 彼女らはヨシっと手を打ち合い酒樽を担ぎ、食料を運ぶ男の後に続く。そこで床を磨く兜を被った男とその仲間とすれ違った。
「‥‥おい、ホーケン、さっき自分を売り込みにきた新入りから聞いたんだが、女海賊達が船の奪還を企てているようだぜ。ジル船長が注意を怠るなっと仰ってる」
 会話に少年達の肩が微妙に揺れる。が、男達は話に夢中で気付かない。安堵するもそれは束の間。ハッチ前で検査が待ち構えていた。
「よし次! 坊主達、見ねぇ顔だな。まぁいい確認させて貰うぜ」
 強面に帽子を持ち上げられ焦る二人。万一の為に油や泥を塗った汚れた顔で誤魔化せたよう。
「駄目だって。ちゃんと運ばねぇと親方にどやされちまうんだ。中は注文の酒類だよ、な。全く重いんだから停めないでおくれ」
「そうそう船長さんに頼まれた物さ。僕達がちゃんと届けないと怒られちゃう」
 明るい抗議に怪しむ男。困った二人に天の助け。
「‥‥船長がお呼びですぜ。ここは俺に任せてくれ。君達、行って良いぞ。次」
 低くもどこか艶のある声と持ち場を変わった。どうやら先程話に出ていた新人のようだが、その声音に聞き覚えがある。だが今は構ってられない。二人は任務を遂行すべく出航の準備に追われる貯蔵庫へ入り込んだ。
「火事騒ぎは僕の出番だよね〜♪」
 フェイリーは下ろす素振りに合わせ、大樽で隠し持ってきた火薬の詰まる無数の小樽を結んだ紐に火を放つ。
 予定では彼女の父親の祖国アジアで有名な火薬玉に火を付け持ち込むハズだったが、傍で停泊する自分達の船を傷つける恐れと被害の拡大を考え却下された。
 二人は火が付いたのを見届けると素早く倉庫を後にする。
「船長なんて面倒ごとばかりですね。‥‥おや?」
 ジルは前船長に結び付けられる噂の真意を確かめるべく数々の尋問で夜を徹した。どうやら心中秘めた噂への憤りを取り除くべく徹底追求を考えているよう。
 そんな彼は疲れを取るべくデッキに立った。その真横を走り抜ける少年‥‥否、フェイリーとロゼッタ。
「毎度! 御代はしっかり頂くね♪」
「御苦労様、船長殿」
 軽く手を振るフェイリーはルビーの付いたバングルを閃かす。共に揃いのルビーの付いた指輪を煌めかせ敬礼&ウインクするロゼッタ。そのまま入り口へ突っ走る。
 途端に凄まじい爆発音が響き船体がグラリと揺れた。
 訳も解らずパニックに堕ちる男達。逃げ惑う者に火を消しに走る者が、入れ替わり立ち替わり大きな足音を立て床を鳴らしていく。
「なるほど‥‥やってくれますね」
 ジルは紅茶を一口啜ると、
「消火活動員以外は持ち場を離れないよう、各船に火事を伝達」
 ジルは控える男にカップを渡し、代わりに受け取った双眼鏡を覗き的確に命を下す。彼は騒ぎに動じる事なく不審者を見つけると男から剣と銃を受け取り走った。
 走るジルの前を右往左往するホーケン。
「大変ッスよ! 大変ッスよ!」
「解ってますよホーケン。君は早く消火活動をしなさい」
 ジルはスルリと彼をかわすと先を急ぐ。言われた通りホーケンは騒ぎしながらも火を鎮めるため奮闘。だが彼が水樽と思い投げ込んだのは酒樽。
 割れた板の間から零れる匂いでそれに気付き、大慌てで甲板に飛び出す。っと次の瞬間に引火し第二の大爆発!
「やったなあの二人‥‥。二度目も爆発とは派手過ぎだな。よし、メアリー来い! 火事の騒ぎで手薄になった所へ奇襲だ。‥‥またお前の勇ましい戦いぶりを楽しみにしているぜ」
 リコリスとメアリーはやや離れた場所に停泊していた商船に潜り込み、奪還の機会を見計らっていた。
 酒から燃える黒い煙が目くらましとなっている今がその時のよう。二人は船のメインマストの細い柱を伝いロープに体を預け飛び出す。
「今助けるわ、可愛いジョリー・ルージュ!」
「俺達の自由の為に!」
 ドレスを翻すメアリー。リコリスは高々と叫び、喧騒の真っ直中にいる我が船ジョリールージュへ向った。
 一方、ランファと落ち合ったフェイリーとロゼッタ。
「おやここで何をしてらっしゃるので?」
 ジルは笑みを浮かべ剣を三人に突き付ける。二人を庇うよう前に出たランファ。細かいルビーで仕上げた牡丹の花飾りの付く簪を髪に挿す彼女は簪に似た長剣を軽く振る。
「戦うのですか? 構いませんが船に乗り遅れますよ。貴女達の船長殿にお伝えください。この有様では出航するあの船には追いつけません。物資も焼かれてしまいましたし‥‥仕入れ直しです。そして僕はまた上司からどやされる。この倍返しにされた借りは必ずお返ししますとね」
 相変わらず笑み絶やさず言付けするジルに困惑する三人。だが次の瞬間、ジルの顔から笑みが消え、剣を握る反対の手からタガーが閃く。
 その先には入り口で男と替わっていた新人クリスが居た。
「レディの貴女が男に成り済まし僕を欺く事は無理ですよ。貴女の目的は‥‥懐に隠した物のようですね。それをこちらへ返して頂けません?」
 また屈託のない笑みを浮かべ言うジル。彼は直感で見抜いていた。クリスが女性である事とジョリー・ルージュを煽りプライベーティアに火事を起こさせ金品を奪う目的だった事も。
「返してくだされば、煙に紛れる事を許しますよ」
 笑顔で凄むジルに降参したクリスは懐に入れた小袋を出すとその場に置き去った。ジルは追ってきた部下に拾わせ確認させる。っが石が入っていただけ。してやられた事に苦笑い。そして更に気付く。
「おや、ジョリールージュのお嬢さんも雲隠れですか。今回はツキが無かったようです」
 溜め息を混じらせた。

 飛び移ってきたリコリスとメアリーはデッキにいるプライベーティア達を片っ端から追い詰め海へ落としていく。
「準備は出来ましわね‥‥皆はまだ戻りませんの?」
 ある程度、倒し舵を取り出航を急ぎたいメアリー。まだ剣を振うリコリスは男を蹴り飛ばし海へ落とすと、一方を指さした。そこには上がってくる面々。
「待たせてごめんね、ルージュ、さぁまた一緒に冒険に行くよ! 船長、出港準備完了!」
 愛船の縁をそっと撫でリコリスに合図を送るロゼッタ。
「ジル! この借りは返したぜ。さぁみんな、お宝目指して行くよ!」
 リコリスはロゼッタに応え港で佇むジルに向かって叫ぶと、出航のゴーサインを出す。
「ジルの二枚舌を切って魚の餌にして差し上げようと思ってましたのに、残念ですわ。けれど船に物資は充分。さぁ沖で体を洗ってあげるわね」
 メアリーは悪態を一つ放つも、再び握った舵に嬉しげだ。ロゼッタはヒュッと口笛を吹きノヴァを呼び寄せると薔薇彫りが美しいリュートを奏で始める。
「自由に向かって出発〜♪」
 調子を合わせ手を叩くフェイリー。デッキでのんびり勝利の酒を煽るランファは小さく呟く。
「Bon voyage‥‥」
 さぁ! また彼女達の冒険が新たに始まった!

 さてはてようやく鎮火したプライベーティア。片付けに大わらわな船内を見て息を吐くジル。
「困りましたねぇ。船を一艘失いました。まぁ‥‥なにより目的は一緒。運が巡れば逢えるでしょう。女性の相手に焦りは禁物です」
 彼らしい物言いだ。ジルからやや離れた所で作業するホーケンがこっそり身を隠した。