female Buccaneers2−2アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 8.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/10〜09/13

●本文

 一艘の木造船が沖を滑るように進んでいく。その旅立ちを真っ青な空も海も祝福しているようだ。
 風を孕み脹れる真っ白な帆。高々と立てられたマストに真っ赤なジョリー・ロジャー(海賊旗)がはためく。
 そこに映し出された金色の飾り文字『female Buccaneers 〜海を彩る美しき女海賊たち〜』と、このドラマのタイトルが流れ消えた。

 プライベーティア達から、まんまと船を奪還する事に成功したジョリールージュの面々。
 ようやく冒険の海へ出航したが、いかんせん行き先と地図が解らない‥‥。
「‥‥アジアの方にお宝があるってぇのは解っているが、どうしたもんか」
 溜め息をつく乗組員の一人に、船長はコンパスを手に現れた。
「解らないんだったら、解るようにして貰いに行くしかない。‥‥だな?」
「‥‥解るようにって‥‥もしかして妖術師、トゥルーガ・トゥーガに聞くんですかい?」
 ゴクリ息を呑む乗組員。船長は、構わず指示を出す。
「そうだ、解らない事があったら、アイツに聞くのが一番。おい、船を西へ! 目指すは神秘島‥‥生死の森だ!」
 乗り組員の顔が引きつる。どうもあまり印象の良いタイプではないらしい。
「荒らし回ってる海賊が持つ宝剣の話に引っ掛かる事がひとつある。あのトゥルーなら知っているかも知れない。あぁ、そうだ。ヤツの住処に近付いてきたら極力注意を払うことだ。なにかトラップがあるかもしれない」
 コンパスと真っ青な海を眺めながら、嬉しげに言う船長。

 一方、プライベーティア。
「君は、立場を解っておるのかね? ジル船長‥‥いや、本名は何だったかな? いつまでも愛称ばかりというのは、君の威厳にも関わるというモノだよ」
 真っ白な巻き毛の鬘を乗せ威厳を示すハーカー卿。年相応というか、それより増して刻まれた顔の皺が彼を老け込ませている。
 彼‥‥ハーカーは何代も続く貴族の生まれで、その家系は王室に近いところで仕えてきたという由緒正しい血筋なのだ。
 ハーカーは、皮張りの座り心地の良い椅子に深く腰を掛け、立派な机に肘を付き、挟んで立つ青年に叱咤する。
 青年・プライベーティアの船長は俯き、今回の失態‥‥奪った海賊船・ジョリー・ルージュ号をまんまと彼女達に奪い返されてしまった事を反省しているようだ。
「まぁ、終わってしまった事をとやかく言っても仕方がない。ただ女王は、少々ご立腹されているという事だけを伝えておこう」
「‥‥」
 苦々しく言葉を発するハーカー。ジロリと青年を見ると、不意に思い出す。自分にも居た同じ年頃の子供。しかしその子は息子でなく娘だったが。
 しかも先日、見かけた娘が酷似していた。驚きと動揺が隠せなかったのを今も憶えている。
 そんな物思いに耽った彼をプライベーティアの船長は不思議そうな顔で覗きこむ。ハーカーは視線に気付き、ジロリとにらみ返すと、
「‥‥何を見ているのだね。君は私の顔よりも己のクビについて、深く考えた方が良いのではないのか? さ‥‥この任務を受け取りなさい。成功させなければ君に明日は無いと思った方がいい」
 ハーカーはヒラリと羊皮紙を彼の前に差しだす。そこにはアジアの海賊島制圧とそこの海賊王であるクイ・ホァンとその仲間の捕縛命令が書かれ、女王の印が押されている。
「解るだろう? 最近になって我らが運ぶ積み荷の殆どがあの下賤共に奪われる一方だ。商船も何隻沈められたか解らない。用意した軍艦は君の船を含め5隻。その他、必要な物資があるのなら検討しよう」
 でも、ジョリーをと、口をついてで様とした言葉をハーカーは飲み込ませる。
 彼らはジョリーを追う事が許されず、激戦が予想される地域へ。


 英国発のドラマ『female Buccaneers2』は、海賊船・ジョリー・ルージュの女船長、そして乗組員また彼女の敵役をしてくださる出演者を募集しています。
 前回同様、ジョリー・ルージュは基本的に女船長が仕切る船のため、こちらは女性の船員が好ましいと考えております。またプライベーティアは英国の貴族によって組まれた王室から許可書を得た私掠船。男性乗組員で構成して頂きたいです。
 そして配役は二つの船の船長以外、決まっておりません。この二つの役が重ならない限り皆様のご希望を頂ければ、添えるよう努力させて頂きます。ただしあくまでもこのドラマに沿った役でお願いします。
 そして引き続き出演して頂ける方は、前回と同じ配役でお願いします。代役は出来ませんのでご理解ください。
 配役の決定は皆様の話し合いで、くれぐれも喧嘩のないようお願いします。

 ジョリー・ルージュの船長 腕っ節と機転の良く利く女船長。
 プライベーティアの船長  二代目船長。前船長に引けを取らないほど明晰な頭脳と気配りを見せる船長。
 
 一等航海士・操舵手
 帆手
 甲板長
 大工
 砲手
 キャビンボーイ
 調理長など船に関わる仕事

 トゥルーガ・トゥーガ  腕利きの妖術師で謎めいた人物。海賊達が何故か恐ろしがる存在。それは些か性格に難点があるからか?(この役は男女問わずどちらでも)

●今回の参加者

 fa0047 真神・薫夜(21歳・♀・狼)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa3293 Even(22歳・♂・狐)
 fa3325 マーシャ・イェリーツァ(23歳・♀・兎)
 fa4123 豊浦 まつり(24歳・♀・猫)
 fa4563 椎名 硝子(26歳・♀・豹)
 fa4764 日向みちる(26歳・♀・豹)

●リプレイ本文


 明るい太陽の日差し。小さく波の立つ海の上を滑るように進むジョリー・ルージュ号。プライベーティア達から自由を手に入れ、また冒険の海へ繰り出していた。
 愛おしそうにジョリー・ルージュの舵輪を握るメアリー・ショウ(マーシャ・イェリーツァ(fa3325))は、すこぶる機嫌が良い。ロゼッタ(紗綾(fa1851))の弾くリュートに合わせて歌まで披露しそうな程だ。何故なら薄汚い男達の手垢のついた愛船を波で洗い、元の自分達の船へと戻したから。
 しかしそれも長くは続かなかった。
 船長のリコリス・コーラル(椎名 硝子(fa4563))は、今回の獲物‥‥宝剣と取り巻く謎をサイリーン(豊浦 まつり(fa4123))から聞き動いていた。だが、いかんせん海図がない。それに情報も断片過ぎた。それでもコンパスを頼りに動いたが無理と判明。というと最後は妖術師トゥルーガー・トゥーガーに頼るしかいない‥‥のだ。彼らに今後の進路を告げた。
「アブナイ、タスケテ、クワレル」
「‥‥出来れば会いたくない人物だな‥‥」
 聞いた異国の服、左の裾から大きく開いた旗袍を着るランファ(真神・薫夜(fa0047))は顔を顰め景気直しとばかりに酒を飲む。ロゼッタのオウム、ノヴァは騒々しく羽ばたき叫んだ。愛用のダイスを手中で弄ぶサイリーンだけが静かに耳を傾けている。
「本当に貴女は怖いもの知らずですのね。まぁけれど貴女の判断なら間違いありませんわよね? では針路を西へ。サイリーン、用意は良くって?」
 フッと息を吐き言葉を紡ぐメアリー。リコリスに多大な信頼を置く彼女は納得し舵を回した。サイリーンもすぐさま動きロープを掴んで帆を張り、風を孕ませる。
 船はゆったりと大きく回り西へ進路を取った。


「‥‥ルージュの魅惑的なお尻ばかりを追い掛けて、親愛なる女王陛下に愛想を尽かされては困りますから、ここはひとつ、きちんとお仕事をしましょう」
 相変わらず笑みを貼り付け飄々と話すジル(Even(fa3293))。その手にはハーカー卿から渡された羊皮紙がある。
 プライベーティア号とその艦隊は早くもアジアの海域まで進み、クイ・ホァンを討伐の号令を出すところであった。
 後方で聞いているホーケン(AAA(fa1761))は腕を組み、
「あっちの探索を中止して、アジアの海賊王なんていわれる男の討伐なんて、ついてないッスね。なんでもここ最近、力を付けて、本国の船の積荷を強奪どころか女や貴族を拐かし身代金も国に要求するらしいッス。あんなの卑劣な奴が王なら、ウチの船長は神様になっちまうっスよね」
 さも見て知ったように話す。ヘルムでスッポリと隠された顔もきっと自信満々なハズ。だがその情報は些か疑わしく、そんな彼を快く思っていない仲間が、我が船長を一緒にするなと殴る。ホーケンは頭を押さえ騒ぐも相手にしてくれない。
 ジルは困った表情を浮かべつつ配置、攻撃方法について指示をだす。その矢先、船員の敵船襲来の声。急ぎ双眼鏡を覗けば、前方にジャンクと呼ばれるアジアの海賊の船が数隻、向かって来ていた。二枚の帆が追い風を受け凄い速さだ。
「おや、お出ましですか? ‥‥」
 ドォォン!
 ジルは各自持ち場へ、抗戦準備と伝えようとしたした瞬間。船が大きな波に翻弄され揺れた。どうやら一番小さな軍艦が一隻、大砲によって落ちたよう。
 おやまぁっと息を吐くジルは、総員に新たな指示。
「一隻落ちましたか‥‥仕方ないでしょう。皆、ムキになる必要はありません。目的はクイ・ホァンの捕縛! 我が国の船、海路に手を出したものがどうなるか、思い知らせてさしあげる事です。ホァンを捕獲すれば、あとは赤子同様。まずは手足となる船をもぎとってから、じっくりと料理してやりましょう」
 余裕な発言で味方の動揺を抑え、他船に旗艦を押さえに掛かるプライベーティアの援護指示。そして自ら舵を握る。
 右往左往で出撃に追われる船員達。誰もが紅潮し銃の準備や大砲の砲撃配置につく。っが、怒声が聞こえだした。
「誰だ〜〜! 火薬を湿らせた奴は! あれほど管理を徹底しておけっといったのに」
「おい、こっちもだ!」
 あちこちから響く苛立ちの声を聞き、ジルは火薬樽を持ってこさせる。見れば火薬の殆どが使い物にならない程、酷い有様。
「こりゃ、まずいッスね‥‥。ここは退却ッスか?」
 のたまうホーケン。ジルはヘルム頭を一睨みすると、
「いえ、進撃します。各位残りの火薬樽を確認。取り急ぎ他船から火薬をよこすよう伝えなさい」
 素早い判断力。その直後音もなく近づいてきた敵船の砲撃。爆音と共に船は傾く。ジルは再度命令。
「使える火薬で砲撃します。きちんと引きつけて撃って下さい! やつらの乗船を許さないよう注意。してきた場合、各自武器を手に迎え撃ちです」
 開戦し混戦を極める船内。そんな中、ホーケンは腰を抜かしたように床を這いつつ逃げ出した。


 西へ進んだジョリー・ルージュ号の前に薄く靄の掛かった島が見えてきた。妖術師トゥルーガの棲む神秘島だ。
「丁度良さそうな入り江があるし、あそこに停泊しましょう」
 船を進めるメアリーが、うってつけの場所を見つけて舵を回そうとする。っが、すぐにサイリーンの手に制された。
「いや、駄目。なんか変だ。風の流れがおかしい。安易に停めると転覆しかねない。様子を見よう」
「そうね。波の流れと比べて島の岩が削られ方が少し変だわ。植物もよく見ると枯れてるし。嫌な予感がするの」
 ロゼッタが縁から海を覗きこむと、つぶさに疑問点を伝え、すぐマストへ上り高い位置から島を見る。
「すでにトゥルーの術中だな‥‥。まったく嫌な奴だ」
 悪態をつき船尾回廊へ回り縁から覗き様子を窺うリコリス。
「あ、島の東の方に良い所がありそう! 船長そっちへ行きましょう」
 下の彼らに叫ぶロゼッタ。メアリーは彼女の指示に従い東へ舵を取る。そこで霧が晴れ、現れたのは座礁をしかねない程の浅瀬。ロゼッタとサイリーンのカンによって船底に穴を開けずに済んだ。
「なんだかあの入り江が落ち着かなかったのは、そういう訳でしたのね‥‥やるわね、2人とも」
 メアリーは称賛の言葉を述べた。嬉しそうに見張り台から笑むロゼッタに対し、まだ浮かない顔のサイリーン。
「風や波の動きもだけど‥‥なんかこの船、港を出た時からいつもと違うのよねぇ」
「だろうな。そら行け!」
 ずっと感じていた違和感を口にするサイリーン。同意したのは、いつの間にか消えていたランファ。彼女は男の背に長剣を軽く当てながら連れてきた。
「船長に会わせて貰えないか? ちょっとした知り合いなんだ」
「貴方はあの時の‥‥あたし達を利用してたの?」
 やや戯けた口調で話す男に、あの時の人と気付いたロゼッタは密航者の本心を探るような言葉を呟く。男は意味ありげに笑むだけ。
「騒がしいな。何事だ?」
 甲板に戻ったリコリスは彼らの元に歩み寄ると、囲まれた密航者に冷ややかな視線を送る。彼は、船長と気付くと、
「なぁ憶えているか? ‥‥ふぅん。あたしさ昨日、真っ赤な旗を立てた船が港に入るのを見たよ」
 艶っぽい女の声で話す。閉口した彼女達に、
「ま、そう言う事。今この船が此処にあるのも私の情報があっての事。別に感謝しろとは言わないけれど、鮫の餌にされる言われは無いわね。あら、自己紹介がまだだったわね。私はクリス。フリーランスの海賊、いうなれば傭兵みたいなもの。雇って損はないと思うけど?」
 自分のペースに巻き込み喋るクリス(日向みちる(fa4764))。話術に長けた彼女を観察するような視線を送っていたリコリスは、
「‥‥ふん。俺達を利用し、密航した上に仲間に加えろとは‥‥随分と図々しい頼みだな。まぁいい‥‥気に入った。好きにしろ」
 にやりと笑う。と、出航の準備を告げ、サッシュを翻し船を降り始める。誰もが急ぎ動く中、ランファだけは渋々顔。
「包帯に軟膏、即効性のある痛み止めと‥‥足りるか問題だね」
 どうも乗り気でないが宝の為、仕方ない様子だ。


「そのホァンの乗る船に狙いを定めて撃ち方用意!」
 敵船の船長、ホァンの姿を見たジル。手配所通りの顔に頷き、指示しながら舵を手に相手の砲弾をくぐり抜け、船を近づけていく。っとそこに消火活動と称して現れたホーケンが船縁大声で、
「ホァンを狙い撃ち‥‥火薬が少ないから大砲も銃もあまり使えないし、一発勝負ッスね」
 思いっきり事情を叫ぶ。無論、敵船はすぐそこ。叫べば多少なりとも聞こえる程の距離まで接近させていた。ホァンはその声に薄気味悪い笑いを浮かべ、自分の配下共に新たな指示を出す。
 ジルはクッとホーケンを睨むが、その場にホーケンの姿はない。部下の一人が殴りつけ騒ぐ彼の襟首を掴んで引きずっていったからだ。
 シュン!
 不意をつかれ風を切るロープの音が聞こえたと思うと、ホァン達が乗り込み剣や銃を閃かす。ジルの部下達は軍事の戦法にならい隊列を組み応戦の射撃を開始。悲鳴や鈍い音が甲板を支配する。
 混戦を極めた戦局。
「うはは〜、お前が船長か! 俺の命を狙うとは大したタマだ!」
 舵を取るジルにホァンが剣を振るい襲いかかった。勿論、己の剣を抜き戦うジル。
 凄まじい爆発音と剣を交える音。ジルとホァンも押しつ押されつ戦う。だが力の強いホァンに剣を弾き飛ばされたジルは、窮地に追い込まれる。
 笑い最後の一突きだっと叫ぶホァンに、ジルは長い足で彼の下腹部を蹴りつけコートの下のホルダーから抜いたピストルを突き付けた。
 もんどり打って倒れたホァンを踏み押さえ、その心臓にしっかりと銃口を向ける。
「チェックメイト」
 ジルはいつものように笑んだ。


 ジョリ・ルージュの面々は薄暗い森を慎重に歩みを進める。
「わぁ、凄い。何か出てきそう♪ けど怖いのが出てこないように‥‥ね?」
 ロゼッタは興味深げに辺りを見回しながらリュートを手に歌い歩く。それは皆を勇気づけの為もあるよう。
「あ、あれは?! よくもここまで追いかけてきたねぇ‥‥女の尻を追い掛けるのが仕事とは、なかなか粋じゃない?」
 突如、目の前に現れたプライベーティア達に驚く一同。皆すぐさま剣を抜き構え、ランファが痛烈な嫌味で挑発。
「女だからって舐めるんじゃないよ」
 誰もが踏みだそうとした時、サイリーンが腕を引っ張り動きを止めた。
「待て、いくらなんでも到着が早すぎだって。‥‥ジル! これでも受ける?」
 そういうと、手にしたダイスを男達に向かって勢いよく弾く。当たる直前、男達の姿は掻き消えた。どうもトゥルーガの起こした幻影らしい。
「また読んで見破ったのか?」
 クリスが訊ねる。サイリーンはダイスを拾いながら小さく笑み、
「完全に勘」
 っとしれっと答える。ヤレヤレ顔の船員達。そこに鋭い悲鳴が上がった!
 声の主はメアリー。振り返ると彼女の姿がない。焦り回りを見る一同の頭上から声がした。
 どうも罠に足を取られて逆さ吊りとなったよう。捲れたスカートを必死に押さえている。
「はっはっは。剣士、メアリーを罠で引っ掛けるとは‥‥トゥルーの奴、腕を上げたな!」
「笑っていないで、早く下ろして頂戴!」
 リコリスは楽しげに笑う。釣られて笑う皆に憤慨したメアリーは頬を膨らませ暴れる。っがスカートが危険な状態だ。ようやくランファの剣で蔦が切られ降りてきた彼女は暴れた際に落ちてたネックレスを拾う。クリスが興味深げに訊ねると、
「これは亡き母様に頂いたお守りなの。顔もあまり覚えていないけれど、父様の形見と聞いてますの」
 首に掛け服の内側に押し込んで、歩き出した。

 どれくらい歩いたのだろう。森がぽっかりと開け、妖術師の棲む小屋が現れた。誰もが歩き疲れた顔に達成感の笑みを乗せると、突然、小屋の回りに炎が躍り出た。
 灼熱に怯む彼女達。ロゼッタのオウムは頭上を忙しなく飛び回り、キケンケンっと叫んでいる。
「皆、これは奴が得意な幻影だ。怯まず進め! 俺達の心はこの程度の事で挫けたりはしないって見せてやろう」
 レイピアを振るい進むリコリス。驚き声を荒げたメアリーに、迷うサイリーン。だが二人とも意を決したように進み、ランファ、ロゼッタにクリスも次ぐ。
 炎は熱く本物のよう。しかし剣が触れれば揺らめき消滅していく。なにより決して衣服や肌を焦がす事がない。
「見抜いていたなんて、流石ですわね。やはりわたくしが剣を預けると決めた方ですわ」
 戸口に立つとメアリーは感心したように言う。リコリスは笑み、掛けてあった布を捲った。
「妖術師様のお出ましだ。おい、トゥルー生きていたか。くたばっていたらどうしようかと思ったぞ」
 軽口を叩き中に入る。異様な匂いに顔を顰める他の面々。テーブルにカードを並べ占いをしている妖術師トゥル−ガ・トゥルーは、そっちを見ずに、
「我に頼み事か、娘達。報酬は持ってきたか?」
 あれだけの仕打ちをしておいてこの台詞。呆れ返る一同にクリスが小さな包みを投げた。出てきたのは宝石。奪還作戦の時、混乱に紛れて持ちだしたものだ。驚き彼女の顔を見る皆に、
「言ったでしょう、雇って損は無いって。今の分は儲けが出た時に返してもらうわ。投資って事ね」
 っと、笑った。


 一方、ホァンを捕縛し勝利を収めたプライベーティア。誰もが勝利に酔いしれ宴が催されていた。そんな中、一人見張り台に立つ男。
「ふふふ。最低でもこのくらいのハンデが無ければ、彼は本気を見せないからねぇ」
 継ぎ接ぎだらけのヘルムを小脇に抱えている。月光に照らされた男の顔はよく見えないが美髭が印象的だ。それを一撫でし、口角をまるで三日月のように上げていた。