鈴音的声音道士 5アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/21〜05/25

●本文

 ――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
 ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
 人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
 画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
 ――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。

 画面は切り替わり、映し出されるのは煉瓦造りの塀が並ぶちょっとした町中。そう賑やかな通りではないが行き交う人はそこそこある。
 その通りに店を構える薬屋の前を行ったり来たりしている娘がいた。
「またお前か! 何度言ったら解るんだ。金がなければ薬は売れない。さぁ帰った、帰った! 営業の邪魔だ!」
「お願いです。そこを何とか‥‥来週、いえ‥‥今週中には、お代を持って参りますから。でないと父が死んでしまいます」
 店の主人に蔑ろにされる娘は、わっと声を上げ泣き出す。
 彼女の父は、先月から重い病に倒れ動けなくなっていたのだ。父の治療のため今まで蓄えていたお金を注ぎ込むがもうすでに底を尽きかけていた。
「そういってもな、こっちも商売なんだよ。解ってくれよ」
「お願いです! 助けて下さい。お金は必ず持って参りますから!」
「‥‥だったら、お代の代わりにひとつ頼んでもいいか?」
 主人も彼女の苦しみが解らないわけでもない。しかし無料で渡すわけにはいかず、ひとつ案を考えた。
「お前も知ってると思うが、香山に住む讙という妖怪を知っているな」
「はい‥‥」
「なら、あいつの涙を採ってきてくれないか? あの涙には薬になる成分があって、あれをあんたの親父に与えれば良くなるはずだ」
「そうなんですか‥‥。けれどあの妖怪は人を食べるとか聞いてます‥‥」
 この町の裏手にある山に住む妖怪、讙は酷く恐ろしい容姿からそう言われ続けていた。しかしその真相は定かではない。
「もし、言うことを聞かせたかったらキヨという妖怪を探すんだ。あいつと仲が良いらしい」
「‥‥はい、解りました‥‥。讙の涙を採ってくれば父を助けて下さいますか?」
「もちろんだとも。お前一人に行かすのは、なんか心苦しいが‥‥。助けてくれる方がいらっしゃるようなら、ちゃんとお願いして手伝って貰うんだ。なんといっても相手は妖怪、一筋縄ではいかないかも知れないからな」
「はい、解りました。では行って参ります」 
 心配そうに見送る主人にひとつ頭を下げ、娘はその場を後にした。


〜出演者を募集〜
 中国ドラマ「鈴音的声音道士」の中で、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
 また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
 

〜道士の法力選択〜
 ・青い鈴
 青龍
 春と東の守護神 
 能力:水 守備型
 武器 龍笛&方位計  龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
 玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。

 ・赤い鈴
 朱雀
 夏と南の守護神
 能力:炎 攻撃型
 武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。

 ・白い鈴
 白虎
 秋と西の守護神
 能力:森または道 攻撃型
 武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。

 ・黒い鈴
 玄武 
 冬と北の守護神
 能力:山 守備型
 武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。

 ・黄色い鈴
 麒麟 
 ? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
 能力:?
 武器 ?

 なお詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、能力、武器など一から決める事が出来ます。
 ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
 鈴は玄武、麒麟に限り二つに分けることが出来ます。しかし力は半分となってしまいます。また能力に適した技以外の力は、使えないことがあります。
 この五つの鈴は必ず埋めて下さい。

妖怪情報:
讙(カン):山に住む妖怪。犬に良く似た姿だが虎のように縞があり、顔の真ん中に大きなひとつ目。尾が三つに分かれている。凶を防ぐ妖怪だが、眼光鋭く鋭利な牙を持つため人々が勝手に恐れている。
 性格は、やや早とちりをする癖があり悪戯好き。旅人を得意の百種類以上の動物の声音で驚かす。涙は薬になるが、そうそうに分けてくれないかもしれない。
キヨ:讙と同じ山に住む小さな鳥の姿をした妖怪。鳥の声でよく笑い、こちらも人をからかうのが趣味。だがそれだけで別に大した悪さをする訳ではない。

●今回の参加者

 fa0369 天深・菜月(27歳・♀・蝙蝠)
 fa0537 シャルベリア(15歳・♀・鴉)
 fa2830 七枷・伏姫(18歳・♀・狼)
 fa2986 朝葉 水蓮(22歳・♀・狐)
 fa3262 基町・走華(14歳・♀・ハムスター)
 fa3298 御崎伊庵(25歳・♂・狐)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3656 藤宮 誠士郎(37歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文


 撮影現場の裏手にある休憩所。出演者達が和気藹々と台本の確認をしている。今回の妖怪、讙の模型は精巧な作りだ。
 もう一つの妖怪、キヨ役はシャルベリア(fa0537)が演じることとなった。スタジオにいる彼女は身体の至る所に鳥の羽毛を付けた姿だ。それは本物と見間違うほどの出来映え。もっとも本物である事はここにいる者以外、知らない。
 そのすぐ隣で黒鈴の道士役、天曹の衣装を纏いボイスチェンジャーを手に妖怪、讙役の声音に挑戦するのは藤宮 誠士郎(fa3656)。一声挙げては再生で聞き、声の調子を確認していた。
「これでどうやろか?」
「凄いじゃんっ、どうみても男の子だ」
 女性スタッフからメイク術により少年――小風へ変貌を遂げた基町・走華(fa3262)の姿に驚きの声が挙がった。今回も青の鈴の道士であるが役名を変えての登場だ。以前の役に気付きづらい程の出来である。
「皆さん、お願いします」
 徐々に準備が整い始め、盛り上がりだす出演者達をスタッフが呼びに来た。その声に銘々、緊張を解したり意気込みを見せ始める。
 ――さぁ撮影開始だ。


 薬屋にいた娘の自宅。赤の鈴以外、四神の鈴を持つ道士達がそこにいた。
「妖怪‥‥讙が住む山なんて、そんな危ない所にお姉ちゃん一人に行かせられないよ」
「そりゃそうだが、どうするんだ? 山海経をまともに読んでない俺にゃ、さっぱりだ」
「ともあれ、お父上の命が危ういのでござろう? 拙者が持つ黄鈴を使い仙術で気力を戻す事もできるが状態が酷いので僅かしか持つまい。その間に涙を採りに行くでござる」
 少女のような高い声で、娘に気遣をみせる雑伎団員の少年、小風の言葉に愛用の酒瓶を机の上に置き、しわだらけの道士服を着流す天曹が、ぼさぼさの頭を掻き掻き困り果てている。
 命の危険に晒されている彼女の父に延命の処置と今後の対策を並べるのは美月(七枷・伏姫(fa2830)) 。自らの力を高め武者修行をする彼女は先ほど薬屋と娘のやり取りを目撃し、協力を買って出たのだ。
「ともあれ山じゃな‥‥」
「あら、讙のいる山なら心当たり有るわよ、案内しようか? ね、春梅さん」
「ちょっと離してよっ! 今回の赤の道士は他にいるんでしょ! だったらあたしが行く必要ないじゃない」
「む?! お、お主らは‥‥」
 聞き覚えのある声に美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))は驚き振り返った。戸口に二人の女性の姿、賑やかな姉御肌の麗君(桜 美琴(fa3369))と彼女にがっちり掴まれ、甚だ迷惑そうにもがく春梅(天深・菜月(fa0369))が立っていた。
「赤鈴を持つ主は春梅殿ではないのか? それに麗君殿、貴公は‥‥」
「あっと、うふふ〜〜。私は旅の道士よ、よろしくねぇ」
 自己紹介もそこそこで麗君は正体を知っている美蓮の言葉を慌てて遮り、「なんだ知り合いか?」の表情を浮かべた天曹達に言い繕い隠す。
「それよりも早く讙の涙をでござる。そこの娘御、否、春梅殿。元赤鈴の道士なれば手伝うが良いと思うが」
「そだね、春梅さんも一緒に行こう!」
「なんでよ?! って、むぅ〜‥‥仕方ないな。協力すれば良いんでしょっ」
 ちりん、黄色の鈴を鳴らし、得意の仙術で娘の父に気力を与えた美月が反抗的な春梅に意見すると、すかさず小風もニッコリ笑顔で彼女の参加を促す。そんな二人の言葉に嫌々ながらも協力を約束する春梅であった。


 香山の山中。生い茂る草のあいだから一頭の犬ほどの大きさの妖怪、讙が現れた。地に這うように身体を伏せて歩き回り、土に顔を突っ込んで辺りを嗅ぎ回る。数十分後、何かを察知したように空を仰ぎ仲間を呼んだ。
「おーい、おい。キヨよ、なんか山がおかしいぞ。ただの人に混じっておかしな気配も感じる。もしかして妖怪達のあいだで噂の道士とやらが来てるんじゃないか?」
 讙の大きなひとつ目が見る先に黒い鳥の姿をした妖怪、キヨ(シャルベリア(fa0537))が木の枝に留まっていた。
「ちちちっ、そうかもしれない。讙、お前が悪戯ばかりするから人間共が捕まえに来たようだ」
「それは俺だけじゃないだろぉ、キヨ。お前も一緒だ。俺達を封印するつもりだな。よ、よしっ追っ払ってやる」
「あぁ、そうしよう、そうしよう。お前は案外、臆病だから手伝おうぞ讙」
 二つの妖怪は道士達を退けるため行動を開始した。


「讙がこの山にいることは確かよ。けどこう広くっちゃ、簡単に見つかりそうもないわね」
「あぁ、それに山の中の所為か日暮れも街よりは早い。段々と視界も悪くなるから早いところ見つけないいけないなぁ」
「なれば二手か、三手に別れていくでござるか」
「そうだね、それが良いよ。オイラ賛成! ね? お姉ちゃん、その方が早く見つかってお父さん元気になるもんねっ」
「あたしは、どうでも良いけど早いところ片づけて山を下りたいね」
 麗君の案内で山を歩く一同。野草を採りに来る人々が残した道はすでに無くなり膝丈の草木が茂っている。陽光は木々で遮られ薄暗く感じるが、時間を読めばまだ昼間。だがそこで安心出来ない。天曹の言う通り山は夜の訪れが早い。
 一旦、足を止めた美月が提案をひとつ。それに娘を気遣いながら元気よく賛同する小風。その隣で春梅は相変わらず拗ねた様子だ。一同、組み分けを考えだしたその時、鋭い威嚇声が木霊した。
 ぎゃおぉぉ! がおぉぉぉ!
「あの声は野犬か? それとも虎じゃろうか?」
「これは動物じゃなくって妖怪の気だね。二つあるよ、西と東南の方向。片方は飛び回ってる見たいだ」
 讙が道士達からやや離れたところから得意の声音を使い自分を封印しようとする彼らを脅し、追い出しを掛ているのだ。キヨも上空を飛び回り声帯模写を駆使し、連呼し更に脅す。
 瞬時に護符を取り出し見構える美蓮。一同、辺りを見回すが動物の気配は感じない。首を傾げる彼らに小風が青鈴を小さく鳴らし、方位計で妖怪を確認し動き回る妖怪達の正確な位置を割り出した。
「このまま屈んでいても仕方ないわ。別れて捕まえに行きましょ。娘さん、あなたは危ないからここにいてね。動いちゃ駄目よ」
 麗君の声と共に道士達は自然と二手に分かれ、妖怪達を追いだした。


「ちーちちっ! 僕を捕まえたいのか? 残念だったな、そう簡単には捕まらない」
「うるせぇ! 焼き鳥にして酒の肴に喰っちまうぞ!」
「おぉ恐い恐い! いやだいやだ、野蛮は」
 先ほどから得意の声帯模写を使い道士や動物の声音を真似て、彼らをからかっていたキヨがようやく姿を現した。天曹の言葉にその声を真似て再度からかう。怒鳴る天曹。鈴の能力がない春梅は拾った棒を剣代わりに振り回し、そのあいだの間合いを差すように長い布を武器に繰り出す美月。だが、どれも上手い具合にかわされる。以外にも敏捷なキヨに翻弄されていた。
「あ〜ぁ僕、疲れちゃった。ま、ついておいでよ。もっとも僕の早さについて来られたらだけど」
 なんとも生意気な事を吐き、ばさり大きな羽根を広げ飛び立った。
「あとで絶対、焼き鳥にして喰ってやる!」
 怒り任せに天曹は呟き追う。

 讙に迫るのは小風、美蓮と麗君。小風は手にした方位計に集中しながら小走り進む。
「実は讙って凶を防ぐ益獣なのよねぇ、うっかり倒されたりでもしたら目も当てられないわ」
 こっそり苦笑いを浮かべ後を追う麗君に美蓮が声を掛ける。
「のぅ、お主はあの時の仙女なれば、疑問を問うてもよいかのぅ? 人と妖怪は共存できないのか? そのような折に現れるこの鈴、そして何故、うちは選ばれ続けるのじゃろうか?」
「さぁ、実は私も解らないのよ。五神と天の意図、どうも同じでは無いというのかしら? 鈴達は資質のより強い者を求めてるようにも思えるけど、同じ人物を選び続けている色もあれば替える色もあるから一概にそうだと言えない。私は鈴に選ばれるあなたたち道士が、何を考えて力を使っているか興味が有るからというか、仕事なのよ。大変よ中間管理職って」
 なんだかはぐらかされたようにも思える言葉だが、どうも本当の事らしいと麗君の言葉から美蓮は感じ取った。
「何を話しているの? 早く早く! 讙がこの辺にいるみたい。それにもう一つの気も近付いてる」
「あぁ、すまぬ」
 小風に遮られ、今はこれ以上を話すことを断念した美蓮は、讙の涙を手に入れることに集中することにした。


「うわ、もう追いつかれたよっ、キヨ、いるんだろ! 隣の山の天狗から習った幻術をやるから手伝え」
「わかったよ、早いところ一纏めにして追い出そう」
 大きな目で見回しキヨの姿を確認すると讙は三つ又の尻尾を振った。辺りに白い靄が立ちこめ出す。
「な、なんでござる? お、小風殿。妖怪を捕まえたでござるか?」
「まだ、この靄も讙の仕業? って、あ、あれ?! お姉ちゃん! 駄目だよちゃんと待ってなきゃ」
 合流した彼らの前に現れたのは先ほど残してきた娘。小風が慌てて近づく。娘は笑顔で応えた。
「えぇ、もう大丈夫。私が先ほど妖怪を退治しましたの」
「な、何言ってるのじゃ? 退治したとな?!」
「さては、お前妖怪だろ!」
「あーあ、ばれちゃったらしょうがない」
 キヨは、讙の作り出した幻影を使い娘に化けていたのだ。天曹にあっさり見破られ姿を現し、飛んで逃げようとする。
「させないよっ、それ以上悪戯をするな。オイラ達が許さない!」
 小風が龍笛を取り出し、青鈴の音と共に『奇声の奏』を奏でる。高音で妖怪の耳を劈き、たちまち力を失い、よろめくキヨに追い打ちが掛かる。
「本気で酒の肴にしてやる‥‥結界之縛・花籠」
 棍で地を打つと先に付いた黒鈴が強く鳴り響き、結界が現れる。キヨの前に見えない壁が現れ閉じこめられ、更に美月の布で身体を縛られ地面に落ちた。
「‥‥人間に捕まるなんて僕としたことが恥だ」
 もがくが段々と逃げる気が失せそのまま静かになる。それを見て慌てたのは木の陰に隠れていた讙。震える足を踏みだし、
「お、俺はこの山の大妖怪、讙様だ! お前らとっと山を降りろ! さもないとく、喰っちまうぞ!」
「こりゃー! 主ら酷い悪戯ばかりしくさって、いい加減にせぬかっ! 白き鈴音の響きに応えよ――白蛇ッ!」
 龍の鳴き声でキヨを囲む道士達を威嚇する。が、母親のように叱りつける美蓮が髪を結う白鈴が付いた紐を白蛇に変え讙を縛り上げた。さすがに身動きが取れずバタバタ暴れる讙。半べそ状態だ。
「う、嘘嘘! 確かに悪戯するけど人は喰わないんだ! だから封印しないで」
「あれだけの悪戯したんだから、お仕置きありよっ‥‥ってなんで止めるのよ!」
「以金気剣成、疾! そんなコトしたら用事が果たせないでしょ」
 木を振りかぶり殴りかかろうとする春梅の木が、麗君の繰り出す仙術の剣で弾かれた。文句タラタラ言うが、本来の目的を果たすために黙った。
「道士達、俺を封印するために来たんじゃないの?」
「誰がそんなことを言ったのじゃっ! 早とちりも程があるぞ」
「やーい、怒られてやんの」
「キヨ! お前も一緒じゃ! どうせけしかけたのはお主じゃろうが。一緒に反省をせぬか!」
「まぁ、まぁ。いいんじゃないか? 俺も棍を使わずに済んだし。お叱りはそのくらいにしといてさ、讙に話を聞いて貰おうぜ」
 訳も分からず、美蓮に問う讙。隣でちゃちゃを入れたキヨも一緒に怒られてシュンとする。天曹が横から助け船を出す。
「そうだ、早く涙を貰わないとだよ! 僕が解りやすいように寸劇をするから見ててね」
 小風が再度、青鈴で拍子をとりながら龍笛を吹き始める。『幻惑の奏』だ。薬屋の前で必死に薬を乞う娘の姿を映し出される。こっそり美月も仙術を使い黄鈴をその音に乗せ慈悲の心を増幅させてた。
 みるみるうちに讙の大きな目から涙がこぼれ落ち出す。最後に小風が一芝居。お姉さんの表情を真似た。
「‥‥お願いです、涙をわけてください。お父さんが‥‥お父さんが」
「うぉぉ〜ん‥‥なんて可哀想なんだぁ〜。俺の涙で助かるんだったら幾らでも持っていきなよぉ」
 毛皮からボタボタ流れる涙を美蓮が小瓶に集めた。


「はい、これ。これでお父さんの病気が治るよ! よかったね」
「ありがとうございます、これで父は助かります」
「あ、あたしは道士じゃないから! お礼はこっちに言ってよね‥‥でも良かったね」
「親父さんを大切にな」
 妖怪達に以後、悪戯を控える約束をさせ山に帰した道士達は、待たせていた娘と合流し、涙の入った小瓶を渡した。
 薄暗くなり始めたので急いで山を降り、麓まで彼女を送る。
 娘は別れの挨拶と共に一人一人、丁寧に頭を下げお礼の言葉を述べていく。言われた春梅は照れ隠しにぶっきらぼうに言い放つと背中を向け歩き出してしまった。そんな彼女に数名の道士がくすりと笑う。
「さて、僕は団の後を追わないとね。じゃぁ」
「拙者もそろそろ暇をする。これからもどうぞ父上とお元気で過ごすのでござるよ」
「ん〜〜、今回は随分賑やかだったわねっと、さぁて帰って報告しますか!」
「うちも行くかのぅ‥‥。っと、その前に」
 それぞれ歩き出す道士達。美蓮は天へ帰ろうとした麗君を呼び止めた。
「最後にお主の住まう天界へと続く道を知るには、どうすればよいのじゃ?」
「人のままでは天には行けぬ。陰陽極めた天仙か神の一族か‥‥或いは天に帰される者か」
 静かに答える麗君の言葉に納得した美蓮はひとつ頷くと、一礼をして歩き出した。

 彼らから抜け出した鈴達。どこからか赤の鈴も現れ、また新たな妖怪に立ち向かうべき道士達を捜しに空へ飛び立った――