月夜は難しからぬ噺かなアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 易しい
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/24〜09/26

●本文

 お盆を過ぎた途端、暑さが弛み爽やかでいて、どこか郷愁を誘う秋風が吹き抜ける。風はすぃっと柔らかい陽光の中を進み、実の詰まった黄金色の頭を重そうに垂れ下げる稲穂を悪戯に揺らしていく。
 長月に入り、夏日よりも少し早めに陽が傾き始め、ゆったりと夜の帳に包まれれば、闇に紛れる虫達の羽根を摺り合わせる音が響き、鈴が転がる音に似た心地よい振動が耳に入ってくる。
 心地よさを感じるのは、きっとそれだけではない。
 東屋に注ぐ優しい明かり。それは月の放つ光だ。女性の柔和な雰囲気に触れるような感覚のある明かりは簡素な作りを照らし出し、和みの空間を作っていた――。
 今日は十五夜。中秋の名月。月を堪能し愛でるにはもってこいの晩である。

■十五夜に参加してくださる方を募集致します。
 お盆が明けた途端に涼しくなり、散策にもってこいの時期となりましたね。
 さて、そんな過ごしやすくなった9月の25日(旧暦8月15日)に行われる和みのイベントお月見を過去二回、お花見をさせて頂いていた局に近い都内の植物園で行いたいと思います。
 そこは昔、江戸時代に御薬園として造られたという日本で尤も古く由緒正しい植物園。広大な敷地は雑木林や小さな山。そして大小様々な池や神社があり、各国から取り寄せた季節に合わせて咲く花を楽しむ事が出来、また美しい日本庭園に佇む東屋で、ゆっくりとした時間を過ごす事が出来ます。
 のんびりと中秋の名月を楽しみながら秋の七草を探し散策するもヨシ。俳句、唄を捻るのもヨシ。過ごし方は色々。ゆったりと和みの時を過ごしてください。

■用意されているモノと注意事項
 皆さんにはお月見を楽しんで頂きたいため、おはぎやお団子。果物(ふかし芋に葡萄、梨)といったこの季節に合う和菓子と果物、お茶を用意してあります。
 お月見という事で夕方から夜の為、お酒等を飲んでも構いませんが控えめに。
 また食べ物を持ち込む際は、節度を弁えゴミ等は、必ず持ち帰ってください。
 敷地は広いとはいえ、万が一近くの民家の迷惑なる恐れがあります、ですのであまり騒がぬようお願い致します。
 ではゆったりとお月見と和の趣におつき合い下さい。

●今回の参加者

 fa0597 仁和 環(27歳・♂・蝙蝠)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)
 fa4203 花鳥風月(17歳・♀・犬)
 fa5810 芳稀(18歳・♀・猫)
 fa5870 Judas(25歳・♂・狼)
 fa5960 LaLa(17歳・♀・鴉)

●リプレイ本文


 普段からニュース番組の一部天気予報やドラマロケなどに使われる都内の植物園。
 そこに植わる四季折々の花達が見頃を迎えると、館長から局の方々に宛てた押し花入りの招待状が届く。
 内容は日頃の喧騒を忘れ、安らぎと植物を愛でる静かな時間への誘いだ。しかし今回は草花がメインでないらしい。
 何が対象かといえば、月。
 そう、今年の中秋の名月となる今日、この植物園で古来より伝わる風習を楽しんで貰おうという企画である。
 と、いう事で今宵、秋の澄んだ夜空に昇る月を鑑賞し和みの時間を楽しもうという、乙な各業界の人々が植物園へ足を運んでいった――。

 これが先月なら日はまだ空にあり、暑さが支配していた時刻。だが今はすっかり秋めいた涼風がすいっと流れる長月だ。
 突き抜けるような薄青色の空がかなり高い位置で姫乃 唯(fa1463)の頭上に広がり、夕日の赤がそこに色味を加えていた。
 姫乃は前回も紫陽花の見頃に招待され訪れたことがあり、前回は花のキグルミ姿などのお茶目をして皆を和ませていたが、今日はお淑やかに過ごそうと試みて、季節に合わせた柄の小紋姿である。
 彼女は神社に通じる小径に佇み移り変わる空を眺め、夕暮れに魅入られ嘆息を漏らした。
「こんな色の宝石があったらいいのになぁ」
 通りがかりに見ていたスタッフは赤い夕日を浴び憂いを秘めた姫乃の横顔に思わずドキリ。そんな事はつゆ知らずの彼女はまた一つ、美しいそれを見て溜め息を吐く。
 本当に夕焼けが好きなようだ。
 姫乃の背後に追いついたイルゼ・クヴァンツ(fa2910)は、そんな姫乃と一言二言、挨拶を交わし先に進む。
 イルゼもまた気合いを入れた和装姿だ。生粋のドイツ系でありがなら和をこよなく愛する日本育ちのフロイラインである。
 夕日を眺める姫乃を追い越したイルゼは、本格的に月が昇るまで園内を散策し、秋の七草を愛でる事に決めているよう。秋の七草である尾花を探す事を試みていた。
 そんなにもイルゼがやる気なのは、日本の秋を愛でるという事と、東屋に用意されたおはぎにお団子、季節の果物などを美味しく食べるためでもあるようだ。それらを入れるため小腹ぐらいは空かせたいらしい。この辺はなんとも‥‥しっかり者であった。

 そんな女性二人が行く路と別の小径へ進んだJudas(fa5870)は、日が傾き夜気が植物園を覆い始める中をゆったりと歩いていく。 色づくにはまだ早い様子の銀杏並木に差し掛かったところでLaLa(fa5960)と会った。二人は、なんとなく照れた笑顔を浮かべ互いの傍へ歩み寄り、
「や、やあ、LaLaさんも来ていたのか。奇遇だな」
「あ、Judasさんっ!? はうっ、ここでお会いできるなんて、嬉しいです」
 ぎこちない会話をかわす。それは友達未満恋人発展中の二人である故の事。なんとも初々しい。
 しかしそんなJudasであるが、今宵月が導きで会えると僅かに期待していたよう。薄く笑った口元が青白い光に照らしだされる。
「‥‥」
「‥‥」
 挨拶を交わした後、二人は韓国旅行やライヴハウスでの話と礼を言い合う。だがそれもあっさりと済んでしまうと、会話が続かず、微妙な空気が流れだした。
 LaLaは困り、どうしようかっと考えた時、良い案が浮ぶ。
「あ、あの一緒に回りませんか? お話ししながら‥‥できると嬉しいです。お嫌ならいいんですけどっ!」
「折角の月の庭だ、良ければ一緒に回るか?」
 二人同時に提案。見事なハモりに、お互い目を丸くし声を立てて一頻り笑い合う。
「嫌じゃないよ。じゃあ、あっちのお稲荷さんへ行ってみよう。行きながら秋の七草を探そうか。ススキに荻に‥‥藤袴。花の形がひよどり花によく似ているから暗い中では難しいかもしれないけど。けれど香蘭の別名を持つ程、強い匂いを持っているんだ。祖母が好きで飾っていた。あの香りを見つけに行こう」
 JudasはLaLaに手を差し出し歩調を合わせ歩きだし、ようやく銀杏並木を抜けたカップル。どうやら笑い合ったのが良かったのだろう、かなり打ち解け合い会話を弾ませる。
 Judasは季節の移り変わりの速さに驚く話や、昔、祖母に聞かされた草花の事など和んだ口調で話す。LaLaはまた違う彼の一面に大いに満足し頬を染めドキドキのよう。瞳は好奇心に満ち輝き乙女モード全開だ。
 二人は銀杏の木の枝で邪魔をされ、あまりよく見られなかった夜空をようやく眺める事が出来た。既に濃紺に染まったそこに一日程欠けた月が浮いている。
「ここのところ突然降り出す雨が多かったから、今夜は晴れてくれれば良いと思ってた。月も草花も人も晴れた方がよく見えるだろう。そういえば、ずっと月を見る事なんてしなかったな‥‥綺麗だ」
 Judasは月が観られた事を心から楽しむ。LaLaも一緒に眺めるも、彼の傍にいられる事の方が嬉しいらしく、つい上機嫌で鼻歌を口ずさんでしまう。しかしjudasは気に留めず、LaLaの歌を聴きながら草間に群生する花火のような彼岸花を指差し、好きな花だと笑んだ。
 様々な草木を眺め進む彼ら。そんな二人の耳に虫の声と共に三味線の音色が聞こえてきた。二人は顔を見合わせ音の発信源を辿ると、着いた場所は目指していた稲荷。
 小さな石段に腰掛けた仁和 環(fa0597)が長唄『菊の泉』を謡奉納していた。すでに神社の方にも回り同じように奉納したよう。
 伸びやかな声を三味線と虫の音をバックミュージックに夜空に響かせ、持参できなかった名酒・菊水を引っ掛けた唄に喉を振るわせる。なかなかの粋な人物であるようだ。
 そんな仁和は唄いながらも、最近の事を思い浮かべ、心中でこっそりと反省会。
 普段から和装は多いが、それは普段着なだけで生活は然程、和ではない。
 本職の三味線奏者についても純邦楽の奏者という訳でなく、請け負う仕事は若者が好むロックや時にクラシックもあった。ただし演奏は全て三味線。彼の中で音楽のジャンルに境界はないと思っているから出来る事。しかしそれはそれで良いのだが、お師匠に腕が鈍ったと叱られては堪らない。ここで基本練習を兼ねて奉納っと考えたようだ。
 弾き終えた仁和に拍手が送られる。彼は礼儀正しく頭を下げると、
「夏のイベント以来だね、Judasさん。聴いてくれて有難う」
「ここで会えるとは、思わなかったよ。あの時はお疲れ様」
 月光に透く灰色の髪を揺らし、いつものように飄々と言う。呼ばれたJudasは久し振りの再会の挨拶。
 一頻りそれを終えると仁和が、
「さて、宵月夜となりましたね。そろそろ東屋の方へ移動しましょうか? これからの時間は冷える一方でしょうから。アーティストが喉を痛めてしまっては大変だ」
 三味線をケースに仕舞いながら東屋へ向かう。
 Judasもそうだっと納得。LaLaに風邪を引かせてしまっては大変だ。だが、彼女は冷えるのを見越してロングキャミソールの重着に薄手のカーディガン。ボトムはデニムと流行のブーツでしめているいう意外な厚着。
 しかしここは仁和の言う通り、東屋に行くのも悪くない。二人は仁和の後を追った。
 カップルから一人増え三人で少しのあいだ庭園散策。
 お邪魔だよなと思う仁和だが、彼らは存外そうでもないらしい。楽しげに会話をし歩く。
 進む路は手持ち灯篭があればオツかもしれないが、それが要らない程の十分な月が明かるく照らし、おかげで庭園に咲く萩や尾花、葛に女郎花に藤袴っと七草が見られた。しかし残念かな、桔梗、撫子は少々時期が遅すぎたよう。逆に藤袴には少し早い。それでも蕾が着いているのが解る。
 仁和は三味線の棹を持ち大きく伸びをして、夜気に漂う甘い空気を肺一杯に吸った。
「月に澄む藍空と可憐な紅紫の小花の対比は風情があるな‥‥。おっと踏まないように‥‥そっと脇を迂回、迂回」
 微笑みながら花を避け、飛び出す小さな虫に対して足を止めて横断を許した。なんとも暢気な彼にJudasとLaLaは顔を見合わせて笑んだ。

 茂る緑に秋の気配を感じつつ歩く芳稀(fa5810)は、神社へのお参りを済ませ、池の周りを進む。時折、足を止めて水に浮かび揺らめく月を眺めたりと情緒に浸った。
 普段と変わらない彼女の衣服。実は和服を考えたのだが、いつも通りが一番と考え直し自然体でのんびりする事にしたのだ。
 確かに慣れない和装よりも歩きやすくそれが賢明と思える場所にいる芳稀。木々の間を抜け、月に因む桂‥‥金木犀を探し歩く。それは先日読んだ美しい物語、女神が地上に降らせた月の花という話に基づいた行動。
 あの独特な芳香を頼りに足を進めるも見あたらない。どうやら少しばかり時期が早かったようだ。関東では10月初旬から中頃にならなければ咲かないのである。
 仕方なく諦め東屋へ。広い園内を巡り着いたそこには、すでに数名がすっかりと落ち着き昇った月を眺め楽しんでいた。


 薄青白い月光照られ夜風に揺れる薄と黄色い花の女郎花達。その風は東屋にそろりと吹き込み、縁側に用意されていた団子や果物にふかし芋や栗、そして菓子の匂いを攫い腹の虫を刺激する香りを隅々まで運んでいった。
 誰もが楽しく飲み食いし歓談する。仁和は体を柱に預けて邪魔にならない程度で三味線を爪弾き謡う。
「‥‥三五夜中の新月の 中に餅つく玉兎 餅ぢやござらぬ望月の‥‥風に千種のはなうさぎ 風情ありける月見かな」
 月を仰ぎつつ、清元『玉兎』‥‥カチカチ山の元ネタという面白い曲を披露。
 彼を見て興に乗った芳稀。次いで、縁側の方まで歩みつつ青白い月を凝視し、
「この国に生まれぬるとならば、嘆かせたてまつらぬほどまではべらむ。過ぎ別れぬること、かへすがへす本意なくこそおぼえはべれ。脱ぎ置く衣を形見と見たまへ。月のいでたらむ夜は、見おこせたまへ。見捨てたてまつりてまかる、空よりも落ちぬべき心地する‥‥」
 即興の一人芝居。まるでかぐや姫の心境で、月を見上げ悲しい表情を浮かべた。
 舞台の明るさと異なる少々心許ない月明かり。だが自然光が芳稀の演技に花を添えたのは確か。
「‥‥ふふ、ちょっと脳裏に浮かんだ竹取物語のかぐや姫を演じてみました。彼女が月へ昇って行ったのも旧暦8月15日、中秋の名月でしたよね」
 演技を終えた芳稀は照れて冗談めかし笑う。
 ゆるゆると酒を飲みながら聞き、また観ていた深森風音(fa3736)は、二人に向かって拍手。合わせてJudasとイルゼも。
 うっとりの表情を浮かべた姫乃に自前の星形クッキーを配る手を休め魅入ってしまったLaLa。二人は感動を出すようにふぅっと息を吐く。
 姫乃が二つの興の似合う月を眺め、
「良い唄にお芝居‥‥素敵でした〜。はぁ‥‥ほんと神秘的な物がよく似合う深海のような青の世界に浮かぶ青白い月ですよね。あ、思ったのだけど月光って意外と明るいんだね〜」
 お茶を啜るイルゼに向かって話す。彼女の口は湯飲みで塞がっている為に頷くのみ。だがジェスチャーだけの理由は他にもある。
 心の中で葛藤しているのだ。
 中秋の名月にマッチしたススキの他、秋の草花が植わる庭を眺め、聞こてくる虫の音に耳を傾ければ風流な事この上ない。更に用意さたお茶と和菓子にお酒。もう全ての名役者が揃っているよう。
 秋の味覚を味わうべきか、また日本酒で月見酒としゃれ込むべきか。の二者択一。
 とことん楽しみたいと考えるイルゼは目の前にある二つの品をぢっと見詰めている。そこに更なる妄想が驀進。
 月見酒に加え温泉か露天風呂でもあれば、月下の湯浴みに月見酒の黄金コンビの一本勝ちだなっと。
「‥‥夜空にお月様があるかどうかで夜の明るさ全然違うなんて凄いよね! それって太陽の光が反射した結果なんだけど、考えてみると何だか吃驚だよね‥‥。それに星も! だってずーっと前に出された光が、今、届いているんだもの。もしかしたら同じ時間には、あの星があそこには無いのかもしれないんだよね。見えているのに。んー、天体って神秘的」
 瞳を輝かせ話す姫乃に、やはり頷くだけのイルゼ。姫乃は聴いてくれているのか些か不安になり覗きこむ。
「そうだな、うん。それだけ考えても確かに、何億光年なんて気が遠くなる数字があるくらいだから、今ここに届いた光は何時の時代のモノなどと考えたら‥‥なんかロマンスさえ感じる」
 勿論ばっちりとイルゼは聞いている。性格上、冷淡に思われがち&不思議系の所為で勘違いされやすいが、人の話はちゃんと聞いているのだ。
 ま、今は思われても仕方ないようにも思えるが。
 彼女達の話を聞き、深森はつい笑んで、
「天を見上げれば静かな月 地に視線戻せば、慎ましき草花 その周りに可愛らしい少女達‥‥。これを桃源郷といふものか?」
 戯れに唄う。紡がれる言葉に合わせ三味線を弾く仁和。
 judasuはLaLaと並んで彼女特製のクッキーを食しながら茶を楽しむ。芳稀は深森の隣に座を置き、共に酒を嗜みだした。
 そんな彼らを横目で見つつ、イルゼは未だ葛藤の渦に巻き込まれている。
 和気藹々と誰もが楽しみ、続いたお月見。
 だが楽しい時間は流れるのが早い。
 深夜を回る前に解散となり姫乃は時計を気にしながら家路に急ぐ。
 LaLaを送るjudasuはタクシーの手配をし、芳稀は家で待つ弟の為にお土産を貰っていく。彼女曰く働かせる為には餌が必要だから。だ。
 帰り支度の皆をみながら、仁和はまだ三味線を弾いていた。
「――という訳で、謡も三味も健在ですよ。お師匠」
 彼はこっそりと高い位置まで昇った月に呟き深々と頭を下げた。