female Buccaneers2−3アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
極楽寺遊丸
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.4万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
09/24〜09/27
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●本文
一艘の木造船が沖を滑るように進んでいく。その旅立ちを真っ青な空も海も祝福しているようだ。
風を孕み脹れる真っ白な帆。高々と立てられたマストに真っ赤なジョリー・ロジャー(海賊旗)がはためく。
そこに映し出されたドラマタイトルを豪奢に飾った文字が流れ消えた。
ジョリー・ルージュの面々はトゥルーガ・トゥーガの住む小屋の前にいた。
「ようこそ。我が地へ‥‥久しいのう、ジョリールージュ達よ。変わらずの美貌で結構」
粗末な戸を開け中に入ると声が掛かる。それは歓迎している言葉であるが感情が全く籠もっていない。しかし船長は気にせず、
「よう、トゥルー。俺達がここに来た理由が、傍を通りがかったから挨拶をしに‥‥なんていう事でないのは見通しているだろう。探し物を見つけて欲しんだ」
「藪から棒に本題かい‥‥。何かと訊ねていないうちから、無理な話だと思わぬのか」
様々な香りが充満する室内もさることながら、所狭しと置かれた奇妙な調度品も不気味で目を逸らしたくなるような物ばかり。更に船員の弾くリュートが合い重なって更なる不思議な雰囲気を漂わせている。
そんな部屋の主、トゥルーガはカード占いに没頭しながら答える。無論、先程と同じで感情の欠片も混じっていない。
「解っている癖に! 焦らさないでちょうだいな」
苛立った船員の一人がドレスを翻し踏み出す。
「おやまぁ、これはお気の強い‥‥のお嬢様。お父上はご健在であらせられるかな?」
憤る彼女に青白い顔と凍るような冷たい視線を投げるトゥルーガ。だが言われた方も負けず、強い視線を投げている。止めに入ったのは手中でダイスを弄っていた娘。
「‥‥まったく、じゃじゃ馬連中め‥‥。お前達の目的は知っておる。アジアから遠征してきた海賊の持つ剣についてと、その剣に纏わる足りないモノについてだ。違うか?」
小憎たらしい口を聞くトゥルーガ。正にその通りだ。確かに予言や占いの腕はピカ一だ。しかし態度が腹ただしい。
「‥‥そうだ。剣を探している。それと一緒に無くなった物も‥‥だ。何が足りないと思うか」
「それは、我よりもお前達が知っている。その娘の細腰にぶら下がっている物を見れば‥‥。解ったらそれがある場所へ案内する。そう‥‥船長よ。手にした羅針盤を決して放さずに。その針が指す方を頼りに行くのだよ」
今まで嗅いだことのない異様な匂いと音が響き、ジョリー・ルージュの面々の耳にトゥルーガの言葉がだんだんと遠くに聞こえだす。続いてボコボコボコっという水が気泡を発する音が響いた。
『貴女方が求めるモノのある場所は何もない島‥‥残忍で恐ろしい輩がわんさといる処‥‥きっと欲するモノを言えば取引を仕掛けてくるだろう。心して行け』
「お前も来るんだ! 交渉するのは得意だろ!」
船長は目の前が暗くなる前にトゥルーガの腕を掴み共に引き連れた。
次の瞬間、皆、目を開けばジョリー・ルージュの船上にいた。トゥルーガも一緒にだ。
見渡せば続く白い浜。それしかない。何もない。誰もが驚き身を固めると変わった鳴き声があちこちから響いてきた。
プライベーティアは船長の采配でアジアから遠征してきた海賊、クイ・ホァンを討伐した。今は彼を連行し裁判に掛け有罪にするべく船に乗せている。
船長は小窓からいつものように海を眺めているとノックの音が響き、船員と共に枷の嵌められた異国風の男が現れた。彼こそアジアで恐れられた海賊、ホァンである。
「さぁどうぞ。あなたを監獄へ押し込むには、まだ時間がある。その間、色々と話を聞きたくてね」
まるで友人を迎えるように船長はホァンだけを通し、護衛を下がらせた。
ホァンは不機嫌極まりない顔で彼を睨み付けている。無論、銃や剣などは全て取り上げられ丸腰で手も足も出ない。だからそれが精一杯の抵抗なのだ。
「まぁまぁ、そんな恐い顔をなさらず、お茶を如何です? あなた達さえアジアの海域から出ず、僕達の貿易の邪魔さえしなければ、こんなに美味しいお茶が飲めるのですよ」
船長は優雅な手つきで紅茶をカップに注ぎ、差しだす。
「‥‥枷は規則上、外す事は出来ないので上手く飲んでくださいね。ではお聞きしましょう。あなたが知っている宝剣の情報を」
ホァンは湯気の向こうで笑顔の青年を見る。確かに彼は笑っている。だが目だけは違っていた。観念したように話し始めた。
「宝剣‥‥あれはお前達では手に負えぬ品だ。創世の女神ティア・マの鱗から作られた剣で、探求の悪魔バルバドスが神殿から持ち出し所有した結果、二つの凄まじい力を秘めた剣となった。その剣は主と鞘を求めている。それがなければ本来の力を発揮する事が出来ないからだ」
「ほう、興味深い話ですね。だからあなたは領地でない、こちらに来ていたわけですか?」
ふむっと考える船長。ホァンは更に言葉を続けた。
「あれは魔性の剣だ。持つ者の思考を奪い、最後は魂までも吸い尽くすだろう。それだけではなく海を滅ぼしかねない力がある」
船長は彼の言葉に思慮を巡らせる。だがすぐに破られた。
「せ、船長! 大変です。掃除をしていたコイツが、勝手に剣を触った途端、光り出したんです」
ノックもそこそこに入ってきた大柄な船員。その腕にコイツと称されるヘルムを被る新人が抱えられ、一方には宝剣があった。
「不思議な事が起こったのですか。どれ」
触れるよう促す。新人は船長命令に逆らえずそろりと触れる。途端に剣は眩しく光り、彼の腕を引っ張るように一定の方角を指す。
「‥‥あの方角に何かあるのでしょうか?」
船長は何かを察し呟くと、すぐに指示をだす。船員達が号令に慌てふためく中、まだ剣を手に佇む新人のおかしな様子に誰も気付かなかった。
一方、ハーカーの豪奢な机に置かれた二通の羊紙皮。一通はプライベーティアからの報告書。もう一通はなんとジョリー・ルージュから送られてきたもの。
今いる位置と克明な行動が記されている。ハーカーは静かに言った。
「あの若造だけに任せておく事が出来なくなった。我々も行くぞ」
英国発のドラマ『Female Buccaneers2』の出演者を募集しています。
前回同様、ジョリー・ルージュは基本的に女船長が仕切る船のため女性乗組員の構成。プライベーティアは王室から許可書を得た私掠船という設定で、こちらは男性の構成でお願いします。
配役は二つの船の船長以外、決まっておりません。ドラマに沿った配役を考えお決めください。
なお、引き続き出演して頂ける方は前回と同じ役でお願いします。代役案は出来ませんのでご理解ください。
配役の決定は皆様の話し合い、くれぐれも喧嘩のないようお願いします。
ジョリー・ルージュの船長
プライベーティアの船長
一等航海士・操舵手
帆手
甲板長
大工
砲手
キャビンボーイ
調理長など船に関わる仕事
他にトゥルーガやクイ・ホァンなど
●リプレイ本文
●
私掠船プライベーティアの船長室ではアジアの海賊王と謳われたクイ・ホァン(水沢 鷹弘(fa3831))が両手に枷を嵌められるという屈辱に耐えつつも、目の前で起こった事が信じられずそっちに気を奪われていた。
「ま、まさか‥‥この船に剣の力を引き出せる奴が乗っていたとは‥‥」
「そのようですねぇホァン。貴方の与太話を信じるなら、この光の先にあるのは鞘、或いは主人という事ですかね。どちらにせよ野放しには出来ません」
ホァンを見ることなくジル(Even(fa3293))は、いつもの穏やかな口調で話す。瞳の色も同様であるが隙なく宝剣を握るホーケン(AAA(fa1761))だけを捕らえている。
「‥‥その剣は貴方を資格者として選んだのでしょうかねぇ? まぁ、なんにせよ光を辿り船を進めましょう。あぁ‥‥それは君がそのまま持っていても構いませんよ?」
「め、めめ滅相もないっス!」
彼の言葉にホーケンは慌てる。だがヘルム隙間から覗く瞳は、美しい剣にもう魅せられているよう。
勿論、ジルはその否定を見越した事。何かあると感じているがまだ答えに辿り着いていない。それにここで返されては進むべき路を絶ってしまう恐れがある。
「だ、駄目だ! そいつに持たせていては危険だっ。おい、そこの。枷を外せ! いや‥‥外さなくてもいい。とにかく船長を止めろ。このままではとんでもない事になる!」
船長の考えを素早く汲んだホァンは凄む。そこでジルはようやく彼に目を向けた。それは暴言に拘わらず優しげなもの。
「ホァン、君はもう牢へ戻りましょう。ラス君、ご案内してさしあげなさい」
非道な海賊相手でも勤めて紳士的であるが、ぴしゃりと否定する。
ジルの用心棒も兼ねる剣士・ラス(瑛樹(fa5407))は頷き、ホァンの腕を掴んだ。出て行く際ホーケンを見やり、
「‥‥無理はするな」
彼は本気で心配しているようだ。言葉数の少ない剣士は情に溢れる男でもあった。ホァンと共に出て行くラスを黙したまま目で追うホーケン。
ジルは彼の握る剣から発せられる光の先にあるものを興味深げに見ていた。
●
神秘的な香漂う小屋。
トゥルーガ・トゥーガ(雪城かおる(fa4940)は、謎掛けのような言葉と共にメアリー・ショウ(マーシャ・イェリーツァ(fa3325))の腰に視線を送る。
「足りないモノで‥‥腰に下がっている? 鞘、ですのね?」
メアリーが気付く。
にたり。長いローブに深く被る頭巾でよく解らないがトゥルーガは頷き、笑ったようだ。と、とたんに異様な匂いと音がジョリー・ルージュ達に襲いかかった。水中にいるような音が耳元に響き、耐えきれず目を瞑ると押し流されるような感覚に包まれた。そんな中リコリス・コーラル(椎名 硝子(fa4563))は必死にトゥルーガの腕を掴み道連れにした。
水の気配が無くなり誰もが恐る恐る目を開ければ、白い砂浜があった。見渡す限りどこまでも白一色。天を仰げば強い日差しを送り込む太陽が一つ、大地にその光りを跳ねさせている。
彼女達の傍には海に錨を降ろしているハズのジョリー・ルージュ号があった。今は丘に打ち上げられた恰好である。
「はてさて‥‥今度は夢か現か現実か?」
「ここは何処ですの? 神秘島にこんな砂浜がある筈が‥‥」
辺りを見回し飄々と言うサイリーン(豊浦 まつり(fa4123))と戸惑うメアリー。リコリスは人を食った様なトゥルーガを見やり、
「‥‥トゥルー。本当にこの場所に求める物があるんだろうな?」
「さぁ、それはあんた達次第だよ。羅針盤通り進めば辿りつくかも‥‥だ。我の忠告はここに棲む残忍で恐ろしい輩に気を付ける事だな」
「‥‥」
喉を鳴らし笑う妖術師に怯むマルコ・ロッソ(ブラウネ・スターン(fa4611))。景気づけに銃の他に手にしたラム酒を煽る。
彼女は化け物類がどうにも苦手なのだ。それでも海賊の名に恥じぬよう、手に持つ他にラム酒を2本程、引っ掛け兵器庫から出てきたのである。
トゥルーガはそんなマルコを満足そうに見る。垣間見えた顔はエキゾチックな化粧が施され、額には深紅の宝石が太陽光に輝く。
ひと目見ただけで特殊な能力の持ち主と感じさせるもの。マルコは手早く十字を切った。
「何が出るか解らないって‥‥なんだ怖気づいたのかぃ? このままボーっと突っ立てても日干しになるだけさ。お宝は手に入らないよ」
「ま、確かにそうだ。進むしかない‥‥か」
黒い旗袍を着るランファ(真神・薫夜(fa0047))は、左裾が大きく開いているといえ暑い。出来れば体力を酷く消耗する前に片付けたい。っと付け加える。サイリーンも納得。
「わたくしは怖れたりなどしませんわよ。船長、参りましょう!」
「だな。ここで逃げたら海賊が廃るってもんだ! 行くよ、お前達。残忍で恐ろしい輩達に俺達の信念と結束はヤワじゃないとこを見せてやろうぜ!」
リコリスは勇猛な仲間達の顔を見回し羅針盤の導く方へ進んだ。
●
ホァンを牢へ連れて行くラスは途中、先程の話を問う。
「さっきの船を止めろとは、どういうことだ? 詳しく聞かせてくれ」
「あれか。アジア海域の海賊である俺達もあの宝剣の噂を聞きここまで来たのだ。‥‥だが知るうちにとんでもないモノだと分かったのだよ」
静かに答えるホァン。
海賊王と讃えられた男にラスは敵とはいえ礼儀を欠かない。だからといって信用はしていない。隙無く窺っている。
「俺も最初は与太話と思っていたのだ。しかし纏わる伝説の殆どが事実だ。例え剣と鞘を見つけお宝を手にしたとしても、この海を支配していた奴や、その他の者の手で滅ぼされてしまったら意味がない。海という自由を奪われては俺達、海賊は死んだも同然だからな。この船が鞘の元に辿り着く前に何とかしなければ‥‥」
ホァンは苦々しい顔で語る。ラスはそれらを聞き逃さないよう耳を傾け、彼を牢に入れるとジルの元へ向かった。
●
サクサクサク。
その足音しか聞こえてこない。どこまで歩いたかなど、もう解らない。
「ふん、本当に何も無い所だな。尤も見えているモノが全てとは限らないが」
リコリスは腹立たし気に砂を蹴る。と、マルコが酔いに任せ、
「んな事なかったよ。数時間前に人型をした砂の奴らにピストルをぶっ放した」
「その前は烏賊のような化け物も切ったな。あたしらの航海ってぇのはいっつもこんなもんじゃないか」
マルコに次いでランファが話す。こんな場所に来ても何もないより、また海が荒れて出航できない時よかマシと言いたげだ。
二人の言う通り、時折砂に襲われた。その度に皆、手慣れた連携を見せ倒していったのだ。リコリスはそうだなっと笑う。
「そういえばトゥルーガ。わたくしのお父様はとっくに亡くなったと聞いてますの。希代の妖術師でも間違えるんですのね」
メアリーは占いを亡き母から聞いた話で訂正した。話には聞いていないがその他にも複雑な事情もあるよう。
「‥‥そうかえ? 先程からお前に拘わる者の視線を感じておるのだが。ま、それは追々解る事のようだ」
意味ありげに言葉を紡ぐトゥルーガに、メアリーはなんとなく居たたまれなくなりドレスの上からペンダントを押さえた。
「‥‥みんな気をつけて! 風が吹いてきたよ」
サイリーンが急遽注意を促す。僅かな風が頬を掠める。それは先程の敵が現れる時と同じ。予兆だ。カンの鋭い彼女は皆を制止させる。
リコリスは羅針盤を見た。目まぐるしく動いていた針がピタリと止まる。確信した途端に砂が大きく盛り上がり巨大な竜となった。
驚く彼女達を空洞の目が捕らえ、
「人間ヨ‥‥ココハ、ウヌラノ来ル所デナイゾ」
「お前が鞘の在処を知る者か? ここにあると羅針盤が示している。出してくれないか?」
恐ろしげな唸り声が竜から発せられるが、物怖じしないリコリス。
「‥‥アレガ欲シイノカ? ナレバ、オ前達ノ一人ヲ、ヨコセ」
「おやま、安易に入手は不可能っていう事かい‥‥。そんな取引を受けられるとでも思うのか? みくびらないで欲しいぜ。鞘が手に入ったとしても、そのために仲間がいなくなっては何の意味もない」
無茶な条件にリコリスはすぐさま反論し次の手を考えようと思った矢先、
「よいぞ。飲もう」
「ちょ、勝手に‥‥」
押しのけ出てきたトゥルーガが勝手に進める。慌ててリコリスが止めに入るも何かを察し黙った。そこに、
「‥‥そのチップは私ってとこでいい? 大丈夫大丈夫‥‥。こう見えても悪運も強いしさ、どこかで大逆転が有るかもよ」
ニィッと笑うサイリーン。相変わらず飄々としているが些か俯き加減で歩いていく。強ばった表情を見られたくないのだ。
「駄目よ、サイリーン。わたくしとの勝負、一人勝ちのままにするの!?」
「ま、そう言う事! 最悪の時は‥‥頼むわ」
メアリーが必死に止めるも振り切られた。他の面々も彼女の勇気に止められずにいる。
竜は足下に来たサイリーンを砂の落ちる口で飲み込む。その瞬間まで絶やさない彼女の笑顔にメアリーが言葉にならない叫びを上げる。
サイリーンを飲み込んだ矢先、竜はドッと砂煙を上げ消えた。残されたのは砂に刺さった鞘。
そしていつの間にか聞こえだした、さざ波の音。見ればジョリー・ルージュ号が沖に浮いていた。
誰も話すことなく、重苦しい空気のまま彼女達は出航する。その感情を表すような深い霧。舳先はそれを分けるように進む。舵を握るのはメアリーでなくリコリス。彼女は力無く縁に凭れていた。
「ようやく、幻はお終いのようだね」
霧の晴れ間を見て言うトゥルーガ。言葉通り視界は晴れいつもの海が見えた。だが誰一人として喜ばない。
「サイリーン‥‥。こんなものの為に‥‥!」
メアリーはやるせなさを爆発させ、砂竜と引き替えた鞘を掴むと船員を振りきり海へ投げ込もうとする。
「苦労したお宝に何するんだい? メアリー」
背後からサイリーンの声。メアリーは振り返り夢中で駆け寄り、震える手でその顔を撫でた。
「本物?! 生きていたのね、サイリーン‥‥」
「そうだよ。竜との賭けは勝ち‥‥ってとこかな。皆が何とかしてくれると思った。仲間信じて命張っての賭け‥‥ま、負けても悔いは無かったが」
「まったく、貴女ときたら‥‥」
「なーんてね。本当は恐かったんだけど。格好付け過ぎたな、恥ずかしい」
確認したメアリーは力が抜けへたり込む。その頬に一筋の涙が光った。リコリスは肩を叩き帰りを労う。喜び合う彼女達を見てトゥルーガが、
「あれは幻覚さ。お前たちも我が地で見たろう。あいつ等に術をかけるのは少々骨だがねぇ‥‥。お前達が仲間を本気で心配したおかげで、まんまと引っかかってくれたって訳さ。結束のおかげで鞘が手に入ったんだ。‥‥尤も例外も居るようだけどね」
そう言って海の向こうを睨む。その先には豪奢な船。次いでプライベーティアも迫っているよう。
見張り台から警告の声が響く。
「宝に惹かれて、お客さんが来た様だ‥‥」
「女王旗を掲げた軍船とは物々しいですわね」
「プライベーティアまで?! ほんと飽きもせずきやがった、このコバンザメ」
望遠鏡で確認を急ぐリコリス。メアリーはマストにある旗で一隻を特定した。刀を抜き船ごと斬り捨ててやると意気込むランファ。
しかし考えれば、こんなに早く追いつくのはおかしい。リコリスの顔色が変わった。
「‥‥この中に密告者がいるのでは?」
「ありえない! 馬鹿だよ‥‥そんな事をしてどうなるんだ!」
ランファが叫ぶ。しかしそれが真実のようだ。
●
「おやおや、お嬢さん達に先を越されたようですね。どうでしょう? この前の借りをチャラにするという事で、その鞘を渡して頂けません?」
ジルは拡声器を使い交渉に乗り出す。宝剣の事など一切出さずにだ。
しかしホーケンが剣を手に甲板に現れた。とたんに鞘が異様な音を立て剣と共鳴し始め誰もが目を奪われる。
そんな一瞬の隙の中、銃声が轟く。
ズガン!
それはハーカー卿が狙撃手を使いホーケンを狙ったもの。しかし素早く反応したホーケン。掠りもしなかったが大きな動きによってヘルムが外れてしまう。
がらんという音の後に前船長のホーキンス自慢の美髭が皆の目に晒された。
驚きを隠せない船員。ラスも同様だ。
「‥‥皆さん、随分と世話になりましたね。私がいるのが不思議ですか? そうですよね。‥‥あれから紺碧の心臓の一片によって蘇ったのですよ。今は七海の守り手セント・エルモ幽霊船団の一員です」
正体を明された事を気にした風でなく、ホーキンスは手中にある剣を眺め語りだす。
「‥‥そう、この宝剣は英国王家の秘宝だった‥‥。すなわち王家が悪魔バルバドスの末裔でその血を引くという事。それが公になれば王家の栄光は失墜するのは確実でしょう。この事は僅かな者しか知らず、この剣は王家の血を継ぐ者にしか扱う事はできない。だから今まで私が所有を許された。‥‥鞘を戻し完全な力を取り戻すまで‥‥ね。‥‥この二つが揃えば王室は思うまま海を支配できる。しかし、鞘を隠したあいつを甦らせてしまう恐れもある。だからでしょう? 私同様、否それ以上に血を濃く引くハーカー卿、貴方が出てきたのは。さてこれからどうしますジル‥‥いやプライベーティア船長?」
「どうしましょうねぇ‥‥。それよりもまずは挨拶を。‥‥お久し振り、です、ホーキンス船長」
微笑み合う二人。
手枷のままだが、牢を抜け出す事に成功したホァンはマストの裏から眺め、
「遅かったか‥‥」
口惜しそうな表情でに呟く。
だがもっと口惜しそうなのは、見る事が出来ても話が今一つ届かないジョリー・ルージュの面々であった。