あのサウンドをもう一度アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/24〜05/28

●本文

 薄桃色の花も散ると日差しがいっそう眩しくなる。輝く陽光が降り注ぐ初夏の午後。音楽番組担当のディレクターが、会議室の窓からぼんやりと外を眺めていた。
 新たに企画を予定している音楽番組の原案書類が机の上に山積みされ、一通り目を通していたがどうも閃きが湧かない。
 珈琲の入ったプラスチック容器を手に、息抜きにと外を眺めるも、やはり頭の中はおし迫った企画提出のため目まぐるしく起動していた

 ‥‥ふと耳に音が流れ込む。ずっと集中していたため聞こえていなかったのだ。
 音量が抑えられ邪魔にならない程度に絞られた天井備え付けのスピーカーから聞こえてくるのは、流行歌。団塊の世代といわれる彼はその速いテンポで紡がれる曲に馴染めず、かといって同年代が酒と共に好む大衆歌謡は苦手であった。
 だが音楽番組を担当する以上、そんな事は口が裂けても言えない。
「時代の流れだなぁ、次々にリズムの早い曲ばかりが流行る。おじさんはついていけなさそうだ」
 自嘲気味に一言。天井から流れる曲に聞き入る。 
 しかしそんな彼だって若い時分に流行歌をよく聞いていた。当時にしてみればリズミカルな音楽。流れる音楽を聴きながら、あのサウンドを思い出していた。
 それはGS。グループサウンズ。
 洋楽の要素をふんだんに取り入れた哀愁や甘く切ない雰囲気の漂うメロディアスもの、若い恋人達を歌ったもの、恋や行動の活発な自分達を等身大で歌った曲や、はたまた奇想天外な曲まで。次々に曲が脳裏を過ぎる。
「あぁ、そうだ。これで行ってみようか」
 窓辺に立ったディレクターはすぐさまに机に戻り、ノート型のパソコンを立ち上げると企画書を書き上げた。
「‥‥そうだ、木の芽のように恋が始まり、様々な感情が芽生える季節。それにちなんだ曲なんてどうだろう?」
 陽光を浴びたばかりではないだろうパソコンの画面を見つめる瞳はキラキラ輝き、あの時代の音楽へと引き込まれていった。


 〜〜あのサウンドをもう一度 出演者募集〜〜
ディレクターの企画が番組になりました。
それは洋楽の要素を取り入れながら、独自の音楽シーンを展開した日本発のポップスGS(グループサウンズ)。
今の時代からすればちょっとノスタルジックな曲が多いのですが、名前も知らない人でもちょっと聞けば、なんとなく懐かしさを覚える歌やルックス、衣装が印象にあると思います。
どうぞ皆様で楽しい歌番組に仕上げてください。
グループサウンズと言っていますが、歌手、お一人での参加も大丈夫です。
また同時に司会者、演出家、衣装担当、大道具を担当の方も同時に募集しておりますので、奮ってご参加下さいませ。

 テーマ:春から夏へ恋の芽生えや青春の謳歌した曲を歌ってください。

●今回の参加者

 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1796 セーヴァ・アレクセイ(20歳・♂・小鳥)
 fa2105 Tosiki(16歳・♂・蝙蝠)
 fa2726 悠奈(18歳・♀・竜)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2870 UN(36歳・♂・竜)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa3461 美日郷 司(27歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●オープニング
 眩しい初夏の陽光は流石にスタジオの中まで入ってこない。しかしその熱気はあった。もっとも陽気ばかりではない気もするが。
 賑わうスタジオ内、スタッフ達は右往左往しながらあの時代に使われていた濃いグリーンのセットと袖から一列に電球の並んだ舞台を倉庫から見つけ出し取り付けている。
 その様子を終始機嫌良く眺めるディレクターは普段以上に皆を労い手伝う。それもそのハズ、この音楽番組は自分が若い時分によく聞いたGS――すなわちグループサウンズの再現だからである。
 そんなスタジオの一角に設けられた休憩所で今回出演を希望してくれた八名のミュージシャンが各グループに別れて色々と相談していた。
 早い音楽ばかりのご時世で、こんなノスタルジックな企画に集まってきてくれた彼らに敬意を表すようにディレクターが近付き、一人一人に挨拶を交わす。
「やぁ、ありがとう、ありがとう。君たちがどんなGSを演奏してくれるのかとても楽しみだよ」
「そう言ってくれると嬉しいよ。俺、個人的に最後にディレクターの思い入れのある曲も選んでもらいたかったりするけど、どうかな?」
「いいんじゃないか? それ。もっと色々な音楽に触れたいしGSは初めて触れる分野でイマイチ自信はないけど、やるからにはしっかり唄いあげてみせるからさ!」
「私の思い入れ曲かい? では撮影までに決めておくよ、よろしくね」
 作曲の手を休めディレクターに新たな意見を出すTosiki(fa2105)に同意をするのは、ぶっきらぼうな言い方だが根は優しい亜真音ひろみ(fa1339)。ディレクターは嬉しそうに頷いた。
「憧れのバンドの方と組めるなんて凄く嬉しい! よろしくね。あ、もしお時間があるのでしたら今回の指導をお願いできますか?」
「そやね、歌も確かに打合せは必要やわ。うちはスタッフや司さんと照明や演出の話をしてくるさかいに、ラキちゃん宜しゅう」
「OK、任せてよ」
「わぁい、お願いします!」
「こっちも打合せが終わり次第、二人に音階というか音程を教えるから。ラキアは発声法をよろしくな。‥‥二人は性格が似ている様だな、兄妹に見える‥‥」
「え、似てる? わぁい! じゃ、ラキお兄ちゃんだね」
 悠奈(fa2726)は、憧れの彼らを前に大きな瞳を輝かせ元気よく挨拶。彼らの足を引っ張らないように指導を願いでると、打合せに余念のない文月 舵(fa2899)が柊ラキア(fa2847)に声を掛けた。快い返事と共に悠奈の指導を始める。
 美日郷 司(fa3461)も打合せが終わり次第、彼らに音の合わせをと考え声を掛けた。仲良く発声練習をする二人の行動にぽつりと一言。それを聞いた悠奈は嬉しそうに大はしゃぎだ。
「もう始まっていたのですね」
「遅くなったな。‥‥お! 随分と凝った作りだな、懐かしいもんだ」
 やや遅れ気味にスタジオ入りをした愛用のチェロを手にしたセーヴァ・アレクセイ(fa1796)と野性味がある印象のUN(fa2870)。
 舞台近くでディレクターと話し込んでいる文月の姿を確認し、今回組むことがなかったが互いに頑張ろうと、声を掛けたその時、
「アン発見、突撃開始ぃ! めいいっぱい楽しもうね〜〜」
「‥‥ああ、いい番組になるようにしよう」
 悠奈に発声を教えていた柊がUNの姿を見るなり勢いよく駆け寄った。殺気を感じたのか咄嗟に避けるUN。
「なんで避けるんだよぉ、こうなったら意地でも突撃してやるっ」
「あのぅ、お取り込み中申し訳ないのですが、そろそろ収録開始なのでお願いします」
 避けられたことにムッとした柊は再度、突撃開始。それでもUNに頭を押さえられ傍に近づけない。そんな二人のやり取りに遠慮がちにスタッフが声を掛けた。‥‥あのサウンドをもう一度、撮影開始である。

●GS4U 登場
「GSをこよなく愛する番組のために結成した即席ユニット、GS4Uだ! 今宵限りのメロディを存分に聞いてくれ! あの独特のリズムを刻むのはTosiki!」
 Tosiki愛用の多彩な音源を扱う事のできるシンセサイザーから流れるドラム音が軽快なリズムを刻む。同じパターンを繰り返す独特のサイケデリックな音楽がスタジオを包み、白いシャツの上に暗色のスーツをラフに着こなすUNのMCを兼ねたメンバー紹介。
 用意した揃いの青いバンダナを巻きつけた右腕を上げ、やや斜め後ろのTosikiを指名。
「このメンバーに会えて良かった! 色々と良い勉強になったよ」
 シンセサイザーを操る彼はやや大きめのバンダナをターバン風に頭に被るなかなかイカしたルックスで登場。演奏の合間、親指を立ててひとつウインク。
「シビれるサウンドを宜しくな! っと次はアレクセイだ!」
 UNの右後ろでアップテンポな曲に合わせ、白いグランドピアノを弾くアレクセイ。ざっくりと着る薄い生地のシャツの首もと、バンダナをボウタイ風に結び、穿いているデニムと上手く色を合わせていた彼にカメラがぐっと寄れば更に早く指を動かしアピール。滑らかに鍵盤を叩く指先が魅入られるほど美しい。
「宜しくお願いします」
 ピアノの横に備えられたマイクに向かい小さく言ったアレクセイに、UNはその左側で手を叩き身体を揺らしてリズムを取る紅一点のボーカル、亜真音を紹介。
「最後になっちまったが、俺と二度ほど組んだことあるボーカル、亜真音ひろみ!」
 引き締まった身体を包む白いブレザー姿のボーイッシュなスタイル。右足の太股に巻いた揃いのバンダナはワイルドなセクシーさを醸し出している。
「GSは初めて触れる分野、イマイチ自信がないけどやるからにはしっかり唄いあげてみせるさ! この一つの小さな出会いもあたしにとってかけがえのない大切なものになっていくんだ! いくぜ! UN」 
 テンポが一層早くなり、二人のボーカルの声が合わさる。バックのTosikiもコーラスを交えた。アレクセイのピアノがついてゆき徐々にゆったりとしたペースに変わっていく。
 彼らの足下に、白い文字で歌の題名が書かれたテロップが数秒入る。
 単独で歌い始める亜真音。節目からピアノが静かに入るとUNの低い声が追う。二人の声が調和が詩の物語を紡ぎだす。癒し的なスローバラードだ。

『デジャビュ〜いつか見た風景』 作詞作曲 セーヴァ・アレクセイ
「 季節は巡る いつものように
  風が緩み 花が咲きそして 夏へと移ろっていく

  君と出会えた奇蹟 初めて出会えた日から繰り返される想い
  遠い日の憧れと 今そばにいる君
  若葉の木漏れ日 君の横顔まぶしくて
  僕の心に刻み込まれる‥‥ 」 

 ラストは四人のハモリが決まり綺麗に重なった。一旦、舞台の照明が落ちる。

 『初夏のロマンス』 作詞作曲 亜真音ひろみ
「 季節は変わり行く 風が匂いを変える
  新たな生活に馴染めなかった内気な僕を変えたのは君だった

  触れ合った肩と肩 見つめ合った目と目
  手が重なり頬を赤らめる君のはにかんだ笑顔 君に出会った瞬間僕の世界は変わったのさ
  少しでも君の気を引こうとギターを覚えたり、慣れない読書を始めたり
  僕の心を君の笑顔が満たしそれだけで僕の心は夏の空さ 」

 夏を意識した眩しすぎるほどのスポットがUNを照らし出す。初夏の日差しが跳ね回るような軽快なイントロが流れ歌い出したUNの渋い声は迫力満点だが曲調に合わせて、やや軽めに仕上げていく。
 Tosikiも乗ってシンセサイザーとキーボードを両手で器用に操り音を作り出す。ピアノからチェロに楽器を変更したアレクセイが弓を手に軽快に弾く。重厚な音ばかりではないと主張するようにチェロの豊かな音色が曲にスパイスを与える。
 亜真音がタンバリンを手にリズムを取り、UNの声に沿うように歌い上げていった。
 実に軽快で爽やかな曲調がスタジオの隅で見ていたディレクターの耳を心地よく擽り、その足が小刻みに拍子を取っていた。

●リバティブルー 登場
 パナマ帽と白い短めの上着と同色のショートパンツから覗くフリルの付いた空色のキャミを愛らしく着こなし、ほっそりとしたウエストに青いスカーフをサッシュベルトのように巻き付けた悠奈が、ヘッドセットしたマイクで空いた両手を上下に大きく振り翳すゴーゴーダンスで舞台を賑わす。
「今夜限りのユニット、リバティーブルーです。よろしくね! レッツゴー! メドレーリバティーブルー!!」
 それを合図に絞られた明かりがキラキラと輝く。まるで夏。心躍るアップテンポなリズムを刻むドラム担当の文月は白いカジュアルスーツに身を包み、青いスカーフを首に巻き長い髪をきっちりと纏めた清々しさがライトに映える。

『太陽とワンピース』 文月 舵
「 lalala‥‥
  白いワンピース揺らし 青い空に口笛を響かせる
  海が似合う季節にはもっと素敵な恋になる
  My baby La lalala‥‥ 」

 曲目のテロップが画面下に映った。柊の優しい音色のハーモニカに合わせ、恋する少女のように胸の前で手を組みはにかんだ笑顔でハミングする悠奈が歌い出す。もう遠くない季節の日差しを思い起こさせる曲が終盤に近づくと変調。一変してより派手な曲へ繋がった。

『GO THE SKY』 柊 ラキア 
「 『さぁ、行こう!』

  エンジンかけて アクセル踏み込む
  瞬間閃く 夏の風
  嫌でも攫うよ 一緒に行こう
  真っ直ぐに伸びていく 空に続く道 」

 やはり白を基調としたカジュアルスーツを着こなす柊が、台詞と一緒に元気よく手をカメラに突き出す。すぐに青いギターを奏でなかなかのギターワークを披露する。
 長い髪を青いスカーフで結び、白いロングコートを翻して美日郷が競うようにベースをギターのようにつま弾き出す。柊と背中を合わせ互いに目で合図を送りながら楽しげだ。
 そのままの勢いで次の曲へ移る。

『PLEASE×3』 柊 ラキア
「 PLEASE!PLEASE!PLEASE!
  LOOK AT ME DARLING! 」

 首からぶら下がる青いゴーグルが柊の動きに合わせて黒いシャツの上で踊る。悠奈とハモリを効かせ、元気よく力強く歌い上げていく。
 最後のフレーズに差し掛かった時、悠奈は被っていた帽子をラキアの頭に乗せた。後ろでドラムを叩く文月は、楽しげに絡んでいくメンバーを見ながら微笑み、スティックをくるくるっと指先で回した。

 少しばかり照明が落とされ、最後の曲。清らかな音色のバラード。今までの賑わいとは一転して、悠奈も柊も神妙な面持ちで歌い出す。

『永遠のヒロイン』 美日郷 司
「 君の素顔が眩しくて 瞳逸らしたまま
  自転車で駆け下りる 明るい森の小径

  僕の心を届けたい 君の心にそっと 秘やかに
  南風に乗せた想いは  大輪の花を咲かすだろう

  飾る事のないその姿を ありのままに僕に見せて
  笑顔のままで そのままで 永遠の僕のヒロイン
  笑顔のままで そのままで 永遠の僕のヒロイン 」

 二人のハーモニーがぐっと魅了する。ラストのヒロインの節に差し掛かると、そこは柊の独唱。遠くを見るように言葉を思い入れ、優しく切なく歌い上げた。

●エンディング
 舞台には今回出演した八名の姿がある。
 始まる前にTosikiが聞いていた、この企画を担当したディレクターの思い入れのある曲をシンセサイザーで小さく流していく。
 それに合わせ文月のドラムが躍動感溢れるリズムを刻み、美日郷のベースが音を支える。
「最後の曲だ! 夏と君がある限り」
「えっとね、今回企画してくれたディレクターさんがお若い頃に流行した曲だそうです! 初めて聞いたけど良いよね」
「さぁ行ってみよう! レッツゴー!」
 UNが曲紹介をするその隣に立っていた悠奈が微笑みながら簡単に説明をすると、柊がギターを掻き鳴らす。合わせて大きくタンバリンを振る亜真音。

「 行こうよ君! 僕と一緒にさ
  夏はそこまで来ている 恋をするのなら今のうち
  行こうよ君! 僕と一緒にさ
  暑さに怯んでる暇はない 明るい太陽は僕と君の友達さ!
  恋の女神も微笑む渚へ直行! 恋をするのは今のうち
  夏と君がある限り 」

 ピアノを軽快に叩くアレクセイ。Tosikiはショルダータイプのキーボードを演奏しながらステージを歩き回り、マイク無しでコーラスに参加。
 ドラムの向こうから、こっそり口パクでディレクターに「楽しんでくださいましたか?」と合図を送る文月に舞台の袖で、楽しそうに見ていた彼が親指を立てて、ウインクで返した。