female Buccaneers2−4アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 6.9万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/08〜10/10

●本文

 一艘の木造船が沖を滑るように進んでいく。その旅立ちを真っ青な空も海も祝福しているようだ。
 風を孕み脹れる真っ白な帆。高々と立てられたマストに真っ赤なジョリー・ロジャー(海賊旗)がはためく。
 そこに映し出されたドラマタイトルを豪奢に飾った文字が流れ消えた。

 宝剣の鞘を無事に手に入れたジョリー・ルージュの面々。無事に元の世界に戻った彼女達は志気を高め青い空の下、船を進ませる。目指すは鞘に収まるであろう剣の行方。
 誰もが持ち場を守りしっかりと動く。風を読み帆を張る操帆手と共に剣士も銃士もなくロープを引き、波の動きに合わせ船を更に加速させる操舵手‥‥。そんな中、見張りに立つ少女が叫んだ。
「敵船! 敵を発見! 前にいるわ」
 すぐさま反応し望遠鏡を覗く船長。共に乗る妖術師は、身を乗り出し見張りの指す方向を見る。
 そんな彼女達の前方に3隻の軍艦。プライベーティア号だ。甲板にはいつもどおりの笑顔を貼り付ける船長と共にもう一人、見覚えのある男‥‥前船長の姿がある。
 彼らは傍まで来ると彼女達に鞘の受け渡しを申し出る。
「‥‥何か隠しているね、プライベーティアの‥‥船長よ。そっちのあんたもだ。そう易々と鞘は渡せないよ。あんた達がその宝剣をこっちによこすがいい。それさえあれば、私はこの狭い体からおさらばして海底にある我が国へ帰れるのさ。お前達が人間とバルバトスが閉じ込めたこの小さな体から出てだ! さぁ、およこし」
 なぜか強気の妖術師。言っている事が少々意味ありげ。すぐに船長の興味を惹く。
「‥‥それは無理なご相談を妖術師トゥルーガ・トゥーガ‥‥。君に渡してしまったらこちらの目論見が上手く行かない。さぁ、ジョリー・ルージュのお嬢さん方、お前達が見つけた品をこちらにおよこしなさい」
 更に彼らを割って入るのはハーカー卿の率いる英国の軍艦。宝剣を巡って三者の対立である。
 睨み合う船の長達。そんな中、一人の娘の視線はキツイ。彼女はハーカー卿に対して酷く険のある表情で睨み付けていた。
 そこにジョリー・ルージュ号の船長が些か態とらしい素振りで大きく手を挙げ、
「よぅ、お前さん達‥‥トゥルーにそこの貴族様、んでそっちの船長に元船長。あんた達はこの宝剣について色々と知っているようだな。きちんと説明をしてくれないか? どうも宝の在処しか指さない羅針盤の針がその剣が現れた途端、海底を指すようになったんだ」
 回りの二艘の船を見渡し質問。その手には愛用の羅針盤を翳す。フッと息を吐いたプライベーティアの元船長が答えた。
「その質問、私が答えよう。貴女達の手にする鞘とこちらにある宝剣は、我が一族の血を引く者とほんの一部の人間‥‥。王族のみが所有できるモノだ。剣の力は絶大で操れるのは血を受け継ぐ者のみ‥‥あぁ、あとはそこにいる妖術師、か。しかしその者は血を継ぐ者ではない。剣を造った者、創世の女神ティア・マだ。その鱗から作った剣を神殿から持ち出す際、女神に術を掛け人間の姿にした。だが、ティア・マも考えたモノだな。鞘を渡さなかったとは‥‥。それさえあれば世界‥‥否、海に沈んだ神殿を甦らせ海の全てを手に入れられる。っと、そう考えたのだろう? ハーカー卿」
 説明をしている元船長は、整えられた美しい髭を一撫でし、ハーカー卿を睨む。そしてジョリー・ルージュの船に乗る妖術師にも視線を送った。
 それをジッと見守るプライベーティアの船長と船員。それに捕縛しているアジアの海賊。
 彼らは頭の奥でこれから起こる出来事への警告が過ぎるのを感じていた。自分達は今どうすればよいか考え、近くにいる船員に何かを促す。それはどちらかに就き共に戦うか? いや、このまま独走し二隻の船を相手にするか? その他の選択肢もまだあるハズ。
 誰もが宝剣に対する思考を巡らせ、戦いと新たな冒険への準備を進めた。


 英国発のドラマ『Female Buccaneers2』の出演者を募集しています。
 前回同様、ジョリー・ルージュは基本的に女船長が仕切る船のため女性乗組員の構成。プライベーティアは王室から許可書を得た私掠船という設定で、こちらは男性の構成でお願いします。
 配役は二つの船の船長以外、決まっておりません。ドラマに沿った配役を考えお決めください。
 なお、引き続き出演して頂ける方は前回と同じ役でお願いします。代役案は出来ませんのでご理解ください。
 配役の決定は皆様の話し合い、くれぐれも喧嘩のないようお願いします。

 ジョリー・ルージュの船長
 プライベーティアの船長
 
 一等航海士・操舵手
 帆手
 甲板長
 大工
 砲手
 キャビンボーイ
 調理長など船に関わる仕事
 
 トゥルーガ・トゥーガ  ややへそ曲がりな妖術師。だがその正体は凄い。宝の沈む海底神殿の支配者
 クイ・ホァン  アジアの海賊。いまだプライベーティアに捕縛中であるが、戦闘になれば潔く戦う事も考えているし、何か策を巡らすやも? ここではまだ彼の考えが読めない。
 ハーカー卿  英国貴族であり、王家の血を引く者。行方知れずとなった娘の安否を気遣いながらも、宝剣と鞘を狙う。

●今回の参加者

 fa0047 真神・薫夜(21歳・♀・狼)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa3293 Even(22歳・♂・狐)
 fa3325 マーシャ・イェリーツァ(23歳・♀・兎)
 fa4123 豊浦 まつり(24歳・♀・猫)
 fa4563 椎名 硝子(26歳・♀・豹)
 fa4764 日向みちる(26歳・♀・豹)
 fa4940 雪城かおる(23歳・♀・猫)
 fa5407 瑛樹(25歳・♂・豹)

●リプレイ本文


 弾を避けた所為でヘルムが脱げ落ちた一人の男の顔に誰もが釘付けとなる。彼はかつてプライベーティア号の総指揮官を務めたキャプテン・ホーキンス(AAA(fa1761))その人だった。
「ホーケン‥‥いや、ホーキンス、か‥‥」
 舳先に姿勢良く立つ彼をラス(瑛樹(fa5407))は、信じられないと呟く。それを口火に船員の誰もがざわめき出した。
 その声は潮風に乗り、ジョリー・ルージュ号のリコリス・コーラル(椎名 硝子(fa4563))と操帆手のサイリーン(豊浦 まつり(fa4123))の元に届く。彼女達は位置が離れているせいで彼らの様子をようやく確認する事ができ、話の内容をなんとか聞き取る事のみの状態だ。
 困惑する船員に興味を持ち、一層、事態の把握に努める。
 少しばかりレンズを動かせば現船長であるジル(Even(fa3293))の姿を見ることが出来た。彼は目まぐるしく脳を回転させ、男に問うように唇を動しだす。
「ホーキンス船長‥‥。セント・エルモのホーキンス。事情は理解致しましたが、貴方も鞘を手にしようと?」
「えぇ、海の平和の為に‥‥それが私に課せられた使命。ジル‥‥否、キャプテン・ジオラルド。私に構わず船長としての役目を果たしなさい」
 以前と同じ威厳に満ちた言葉をジルに投げるホーキンス。髭を撫でながら現船長からハーカー卿、そして赤い旗を掲げる海賊船にいる妖術師・トゥルーガ・トゥーガ(雪城かおる(fa4940))へ注ぐ。
「‥‥随分と話が大きくなったモノだ。おい、トゥルー。お前にも色々と話を聞きたいが‥‥そう悠長な場合ではないようだ」
 リコリスは事態の大きさに呆れたようにホーキンスと視線を一手に浴びるトゥルーガを窺う。当の本人は意味深で不敵な笑みを唇に浮かべ、ただただ立っているだけ。
「まぁいいさ‥‥。奴の言う事が真実であろうとなかろうと、鞘を渡すわけに行かない。かと言って、おめおめ引き下がるのも愉快じゃない。さて‥‥どうしたものか」
 半ば肩すかしを食らったように思うも、彼女は余裕があるといった風に腕を組み考えを巡らせる。
「なぁ船長、どこに付くかそれとも付かないか、その他にも無数に選択肢がありそうだよ。いっそダイスで決めてみるなんて、どう? 私は別にOKだよ」
 絡み合う各勢力に苦笑しながら、手にある愛用のルビーのダイスを見せ戯けるサイリーン。しかしその瞳は普段の飄々としたものはない。どんな状況でも船長に任せるという色が乗る。勿論、傍にいる瓢箪を腰に下げ酒を飲む剣士も同様のよう。
 見張りのロゼッタ(紗綾(fa1851))は、事態に戸惑い無意識に愛用のリュートに指が伸び始める。
「落ち着く為に音楽って考えたけど‥‥。この状態で弾いたら怒られるわよね‥‥解ったわ。やめとく」
 彼女は肩にとまるオウムのノヴァに訊ねた。質問されたオウムは白い羽根をばたつかせ勿論だという反応。仕方なく指を引っ込める。
 しかし戸惑うのは彼女だけではない。フリーランスの海賊であったクリス(日向みちる(fa4764))も同じ。極秘任務を全うするハズがこんな事態に巻き込まれ、かなり手間取る事となったから。
 今まで黙していたのは舵を握るメアリー・ショウ(マーシャ・イェリーツァ(fa3325))。頭の中で策を纏め上げ、
「このままでは軍艦とプライベーティアにやられるだけですわ。この鞘、向こうのホーキンスが持つ剣と対となるものですし‥‥。ねぇ、あの女王旗の船にいる貴族を人質にとれば、ホーキンスはとにかくジル達は動けない筈なのでは?」
「‥‥そうだな。奴を押さえてしまえばこちらに手出しは難しくなるだろう。よし、奴らの船の間に割って入り、軍艦に接舷する。メアリー、サイリーン頼んだぞ!」
 リコリスは意見を素早く飲むと、的確な指示を飛ばした。


 絡み合うホーキンスとトゥルーガーの視線。そんな二人をヨソに海賊船が動き出す。しかも、速度を上げてだ。
「おや? お嬢さん方はどうやら素直にハーカー卿に鞘を渡すつもりで‥‥はないでしょうね。僕らも舞台に乗り遅れないように急ぎましょう」
 ジルは理解しがたい行動を不思議に思い、すぐにラスを通じて前進の指示を出す。
 しかし快速を誇るジョリー・ルージュ号の方が動きが良い。帆を操るサイリーンの腕と手伝う船員達が一丸となった結果だ。
「ここは腕の見せ所! 仕事はきっちり果たさせてもらうよ。リコリス、こっちはOKだよ! さぁてメアリー、船長からのちょっと無茶な指示でも船を回していくよっ! 舵は頼んだ」
「任せて頂戴!」
 綱を力強く引き、巧みに風の流れを読み帆に風を送るサイリーンは相棒のメアリーを見やる。メアリーも速度を上げる船の舵を取り、波の目を読む。ジョリー・ルージュ号は絶妙な技術と船員達の結束力を駆使し並ぶ二隻の間につけた。
 神懸かりに近い動きにリコリスは胸を張り敵船に向かう。
「む? あぁ、なんて事を! 退きなさいっ。こちらの手旗が見えないのですか! ‥‥仕方ないスターボード! 船首をぶつけて右舷へ。侵入を許してはいけません。衝撃備えぇ!」
 大胆な彼女達にジルは驚くが冷静に指示。
 しかし一歩遅かった。細い船体に割り入られ私掠船はその船尾を掠めた。木の割れる鈍い音が響き、強い衝撃が二艘の船を襲う。
 備えていた私掠船の乗組員は、すぐに立ち上がり武器を手に動き出した。
 本来、ここは砲撃をしたいところ。だが船の向こうには国の軍艦があり撃つことは出来ない。勿論、リコリス達はそれを狙ったのだ。
「さ、後は宜しく!」
「任せておけ。皆、突撃開始! 狙うはお貴族様だ。ロープを掴めぇ!」
「ラジャー! ターゲットはあのおじ様ね」
「トツゲキ、トツゲキ!」
 船を横付けし満足のサイリーンにリコリスの労いと共に勇ましい掛け声。合わせてロゼッタはヤードに結びつけたロープを渡していく。
 乗船を許すまいとする狙撃手達が彼女達に銃を構える。そこにノヴァが雄叫びをあげ飛び回った。
 突然のオウムの襲撃に狙撃手達は混乱に陥る。勿論、この好機を逃さない。リコリスと剣士、クリスは素早く船縁を蹴り軍艦へ。
 見咎めた私掠船の船員達も同様にジョリー・ルージュへ移る。
「すまないが、卿に手出しはさせぬ‥‥」
「皆、ここは任せて! お兄さん方、邪魔はさせないよっ」
 着地と同時に剣を閃かすラスを迎え撃つパリーイングダガーを握ったロゼッタ。彼らと別の場所でもジルと残ったサイリーンの戦いが始まる。
 足止めぐらいできればと苦笑いを浮かべる彼女に対して、ジルは彼女を傷つけず退かせる方法を頭に巡らせる。
 彼は閃き、行動に移した。
 剣を抜くと見せ一歩踏み出す。っと、釣られて慣れない剣で踏み込んだサイリーンの腕を素早く掴み、後ろに回り込んで首に手刀。一瞬で気を失わせてしまった。
 倒れ込む寸前の彼女の体をジルは抱きとめ、丁寧に床に寝かせると足早に軍艦へ向かう。
 そんな彼の横を風のように突っ切るホーキンス。彼は剣を交え合うロゼッタとラスの横を抜け、甲板にいたハズのトゥルーガを探す。しかし彼女は煙のように姿を消していた。彼は辺りを見渡し妖術師を追う事に専念。
「女に剣を振るうのは些か忍びないが、これも役目。勘弁して貰おう」
「きゃ?!」
 ラスは隙をついてロゼッタの細い体を弾き飛ばす。そこに舵をとっていたメアリーがドレスを翻し現れる。
「その言葉、わたくしと勝負してお勝ちになったら言いなさいな」
 言うが早いか愛用のレイピアで鋭い一撃。ラスはフッと笑い交え応戦する。
 あちらこちらで行われる激戦。それは海賊船に留まらず軍艦の上でもだ。リコリスはレイピアを閃かし力強い剣筋で相手を倒す。負けじと舞うように剣を振るう剣士。右左と容赦なく襲う兵士を次々倒していく。その二人の先にいるのはハーカー卿。
「あんたがハーカー卿か? 我が船にご招待つかまつろう」
「リコリス、そうはさせませんよ」
 最後の兵士を倒したリコリスが卿を睨むと、追いついたジルが剣を振り翳す。二人は瞬間的に激しい金属音をぶつけ合った。
 リコリスはジルから放たれる一撃の重さで悟る。彼はとりわけ強敵になる相手だという事を。真剣勝負を見守るクリス。
 暫しの膠着状態。しかしキィンっと鋭い音が響いたと同時に終了を迎えた。それはジルがリコリスの剣を弾き飛ばしたから。
 リコリスは痺れる手を押さえる。ジルは剣を突き付けるも、背後から聞こえた呻き声に振り返った。
 そこには弾かれた剣により髭の一部を剃られ、服の一部を破られたハーカーがいた。裂かれたブラウスの間から赤い十字架のペンダントが見える。
 クリスはこれで確信し頷いた。
 戦いの最中、その光に驚くメアリー。ラスはその隙をつき剣を伸ばす。が、殺気に反応した彼女に攻撃を柔らかく絡め取られ、弾かれてしまった。ガランっと剣の落ちる音。それをメアリーは片隅に聞きながらドレスの裾を翻し、軍艦へ飛び移ってきた。
「‥‥何故、あなたがそれをお持ちなの‥‥?」
「彼は君のお父上だ!」
 ゆっくりと近付きながら訊ねる彼女にクリスはハーカーの代わり答えた。そしてハーカーの方へ視線を投げ、
「彼女こそ貴方が捜していた方です。これで契約は完了だ。私はこれからルージュの一員として行動させて頂く」
 キビキビと答えると、リコリスの方へ向き直り、
「ご覧の通り。私は卿の依頼で彼の娘であるメアリーを探していた。そして船で彼女を見つけ再会させる事が出来た。どんな形であれ、卿が娘を想う気持ちに偽りなど無い。それだけは信じて欲しい。‥‥許されるのであれば、今度こそ正式に仲間に加えてくれないか?」
「‥‥まったくお前と来たら。今更仲間など‥‥無理な話だ」
 俯きながら申し出てた。リコリスはクリスに鋭い視線と剣を突き付け、吐き捨てるように言う。そこにロゼッタの声。縁に掴まり叫ぶ。
「リコリス、お願い。クリスは裏切り者なんかじゃない! そんな事しないよ」
 以前、助けられた借りを返す。それでも船長は納得できないまでも、
「‥‥まぁいい。今はそのお貴族様にご説明頂きたい事が先だ」
 親子と称された二人を見みやる。娘、メアリーはどうにも整理が着かないようだ。
「わたくしの父様は、幼い頃亡くなったと‥‥。皆さん、潮風を浴びすぎて頭が錆び付いたんじゃありませんこと?」
 信じないと叫ぶ彼女。再度ハーカーをみるも彼の面影が母が大切にしていた肖像画に酷似していた事、更に胸に光るペンダントを握り母と自分の名を呟く彼に、益々現実を帯びだし混乱し始める。
「母とわたくしの名を何故? ‥‥まさか、本当に?! ‥‥それなら何故わたくしを‥‥わたくしと母様を捨てたんですの!? 母様は死の間際まであなたの事を呼んでましたわ!」
 メアリーは瞳に涙を溜め訴える。今までの仕打ちを怒りに変え、一撃剣を振るう。
 ズサ!
 手応えがあった。しかしそれは父を刺したものではない。どこからかホーキンスが二人の間を割って入り体を張って阻止した。
「‥‥娘が父親を刺すなど、美しくない。この海の上ではして欲しくないもので‥‥す」
 幾度となく剣を交えたメアリーのタイミングを上手く計り飛び出したのだ。ホーキンスは刺された腹部を見やりながらも、止めた事へ満足し薄く笑みを浮かべる。その目に同族という色もある。
 ガラン。
 刺されたホーキンスの手から宝剣、そしてメアリーの手から鞘が滑り落ちた。
 リコリスは今の状況を確認する。床にあるお宝。わななくメアリーの腕を引き、ジル達を見やると、
「親子の対面に無粋は承知‥‥ハーカー卿、あんたも来て貰うよ。親子の話は後でゆっくりと聞かせて貰おうか」
 視線を剣に戻して拾い上げようとする。が、そこになぜかない。
 首を傾げると煙が剣と鞘を握っていた。形のない煙は徐々に形を変えトゥルーガへ変わった。
「遥かな時の輪を越え、剣と鞘は我が手に戻った!」
 ローブの下から笑うと青い空を仰ぐ。その瞳、今までの妖術師と全く異なっていた。
「‥‥長い時間をかけ我の仕組んだ運命という見えざる術糸に操られたお前達。この瞬間を長らく待っておった‥‥。さぁ、今こそ女神とその神殿はあるべき姿に戻る。世界は変わり新たな創世の始まりだ」
 嬉々として叫ぶトゥルーガ。また変貌し始める彼女に、誰もが言葉を失う。
 気を取り戻したサイリーンは素早く危険を察知し縁に凭れつつ、
「メアリーの父親、ねぇ。今は人質として捕まえとくんだし、取り敢えず船に戻って話せばいいんじゃない? 尤も父親の方は縛られた状態でだろうけど」
「そうだな‥‥今は嫌でも手を取らなければいけないようだ。行こうリコリス」
 サイリーンならでは戻ってこいという言い回しで危険を警告。リコリスはクリスに手を借りながら親子を抱えジョリー・ルージュ号へ走った。
 追おうとするジルは倒れたホーキンスと見比べながら事態を対処する。サイリーンの言葉の意味に気付いた彼は、
「確かに感動のご対面をそちらの船で‥‥。ま、積もる話は色々な出来事の後、お願いします」
 ラスを呼び寄せホーキンスに肩を貸し安全な場所へ。彼も幸い致命傷ではないらしい。尤も血すら流れていなかった。
 トゥルーガは更に腕を上げ、剣と鞘から異様な気を青い空に海に放つ。ロゼッタは呟く。
「創世の女神ティア・マ‥‥海の封印がついに解ける?!」
 クリスは彼女の言葉に耳を傾けながら心の中で、
「これからの事は神のみぞ知る‥‥か。その相手は神だが。このうえなく分が悪いって言うのに何故だろうか、逃げる気が起きない」
 思う。しかし見渡せば誰もが同じ心境のようだった。