T氏、襲われる?!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 フリー
獣人 6Lv以上
難度 やや難
報酬 34.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/16〜10/18

●本文

 この日、バラエティー番組を担当するT氏こと槌谷馨は、珍しくPCに向かい企画書と役者さん達のスケジュール管理する用紙の制作に没頭していた。
「なぁ、ここ最近は、猟奇的殺人やら自殺やら‥‥異様に目立つよな?」
「そうだねぇ、異様に多いよなぁ。そういやぁ先日、男が住宅地で押し入った先の家人を殺して金を奪ったとか? その家にたまたま取り付けてあった監視カメラに映ったという映像を報道していたけど、未だ捕まらずだねぇ」
 T氏の背後でA君は仕事の合間を縫ってスタッフと共に珈琲のカップ片手に話す。話題は最近、続くどうにもやるせない事件の事だ。
「なんだか、こういった事件が多すぎだな」
 T氏は勝手に会話に入り込みコメント。だが話の途中で突如、勢いよく立ち上がったかと思うと、散乱していたメモや脚本、ノートパソコンなどを引っ掻き集めカバンに詰め込みだす。
 こういった奇行は毎度の事。スタッフ達の間で、またか‥‥と、でもいう風な視線を彼に送る。
「‥‥すまんが先に帰らせて貰う。後はA君、君に任せる」
 そんなもんまったく気にせず、T氏はカバンを抱え、戸口へ向かう。
 無論、いくら上司とはいえ、んな我が侭は許されない。それどころか彼はそのような輩を叱咤する立場のハズ。
 A君は半ば呆れつつも咎めるように睨むと、
「サボリの口実は? プロデューサー、残業続きで珠生ちゃんに会えなくて寂しいのは解りますがね‥‥」
「口実は‥‥え〜っと腹が痛い。駄目か?」
「‥‥」
 A君の言葉にT氏は困った顔を浮かべ無理矢理捻り出す。しかも腹が痛いといいつつ、押さえたのは頭。
 あまりにベタ過ぎなギャグにA君は大袈裟な溜め息を吐く。
「す、すまん。下らなかった。いや、それにしても‥‥何んだ、家の中で悪い事が起きそうな気がするんだ。今日だけはマジに見逃してくれ!」
 真剣な眼差しで懇願する。どうやらT氏の持つ動物的な直感センサーがよかならぬ事をキャッチしたらしい。仕方ないと言わんばかりにさっきよりも盛大な溜め息を吐き、
「‥‥解りましたよ。そろそろ家に帰らないと家族間の亀裂が更に深くなり、危機的状況を免れないって事ですよね。いいですよ。今日は俺の作業のみで仕舞いなので。どうぞ」
 まるで家庭内状況を把握しているかのようなA君の痛烈な一言に失笑が起きる室内。T氏は敢えて弁解せず、部屋を後にした。が、再度、ひょっこり戸口から顔を出し、
「あのさ、俺からの着信には必ず出てくれ‥‥よ」
 彼にしては珍しい気の弱そうな物言い。A君は嫌だね。っと突っぱねるも何か引っ掛かるモノを感じていた。

 約二時間後‥‥。
 帰ろうとしたA君の携帯が鳴った。それは仕事用の携帯。着メロはT氏専用のモノだ。
 舌打ちしたい気分に駆られ、投げやりな視線を携帯に送る。はっきり言って出たくない。しかし先程の状況も心に引っ掛かっていたので、仕方なしに通話ボタンを押す。
「もしもし‥‥。ハイ。って、あ、奥さん? どうしてこの電話に?」
「‥‥え、A君! た、大変なの‥‥あの人が‥‥あの人がぁぁ〜〜!!」
 耳に押し当てた受話口から聞こえる声は、A君の聞き慣れたものでなく女性のもの。
 声の主は彼が出た途端に慌てたような、わめきを浴びせられ意味が解らず、いったん言葉を遮る。
「ちょ、ちょっとタンマ‥‥。落ち着ついてくださいっ奥さん。まずは深呼吸で」
 静かにリラックスさせるように深呼吸へ促す。一緒に繰り返してやる事で、彼女は少々落ち着きを取り戻したのか、改めて順序立てて話し出した。
「‥‥突然、男の人が押し入ってきて‥‥。最近ニュースで話題の監視カメラに映っていた強盗に良く似た男だったの‥‥。その男がうち‥‥うちで働くメイドに襲いかかったのよ。そしたら体の内側からいきなり化け物が現れて‥‥。私、他のメイドと一緒に、子供‥‥勉と剛は連れて逃げたのだけど‥‥珠生だけ見えなくって‥‥帰ってきたあの人にそれを伝えたら、この携帯を渡されてアナタに連絡するように言われ、その間に家に入ってしまったの‥‥」
「T氏が?! 解りました。俺、そのことを伝えなくてはならない場所がありますので、そっちに連絡します。奥さんは連れ出したお子さんと安全な所に避難してください。あ、っと、その前にそいつの特徴を聞かせてください」
 A君の落ちいた声に安心したのか、奥さんは押し入った男の容姿、特徴など話し、A君はスラスラッとメモを取る。
「‥‥解りました。その場から離れて避難してください。そしてまだ警察に連絡はしないでください。理由は解ってますよね? 騒ぎを大きくしては恰好のスキャンダルですから。なんせT氏は、かりにも槌谷財閥の御曹司。俺の方で専門的に動いてくださる方へ連絡を取りますので」
 っと話している間、もう一つの電話が鳴った。見れば私用の携帯。『スキスキT氏』という名前と見知らぬ番号がディスプレイに表示されている。出てみると聞こえたのはT氏の声。背後で小さな鳴き声が響くのは娘の珠生ちゃんだろう。
「よぅ、NWが家に入り込んじゃってさ、軟禁されちゃった。助けに来てくれない?」
「それは奥さんから、今しがた電話があり聞いてます。って、この携帯に掛けているのなら軟禁ではないでしょ」
 あぁ、やっぱりと怒鳴るA君。イマイチ怒るところが違うようだが、そんな場合ではない。
「今の情報をください。NW、何体いて、形状は? その場の安全はどうです?」
「あんまり良く解らなかったが、見たところ1体で男の恰好をした奴。俺の居場所は書斎の奥の専用部屋。2階だ‥‥。今はここでジッとしているが、万一、見つかれば別の部屋に逃げ込もうかと思ってる。まぁ足には自信があるのでな。しかし娘を連れているのであまり早くは逃げらない。なるべく早く来てくれ。あ、そろそろ見つかると拙い。いったん電話を切る」
 ブツッ!
 そう言うが早いか切れる。A君は早速WEAに電話した。

■T氏を救出してくださる方を募集します。
 彼の自宅にNWが現れ娘を助けに入った彼共々逃げ遅れたようです。ということで、救出かつNWを倒してくださる方を募集します。
 武器の使用・獣人化は大丈夫ですが、なにぶん屋敷内。場合によっては聞きつけた報道陣が殺到する恐れがあります。注意してください。
 屋敷の間取りは
・一階部  玄関ホール、リビング、キッチン、サニタリールーム、ゲストルーム、その他部屋2
・二階部  子供部屋3、寝室1、書斎1 隠し部屋1
 です。
 NWは壁や天井などに張り付くことができるようで、こっそりと忍びより襲いかかるタイプのよう。勿論、部屋に篭もるT氏からその動きは解りません。
 またT氏は愛娘と一緒。彼女の体力・精神力が消耗する前に、迅速な救出を願います。

●今回の参加者

 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa4038 大神 真夜(18歳・♀・蝙蝠)
 fa4558 ランディ・ランドルフ(33歳・♀・豹)
 fa4716 エキドナ(24歳・♀・蛇)

●リプレイ本文


 スタッフA君からの要請でT氏の自宅に小型トラックを乗り入れたヘヴィ・ヴァレン(fa0431)。
 彼と共にイルゼ・クヴァンツ(fa2910)に大神 真夜(fa4038)も降りてくる。三人はそつのない動きで辺りを警戒しながら荷台の幌を上げ、ランディ・ランドルフ(fa4558)、エキドナ(fa4716)にモヒカン(fa2944)、そして敢えて荷台希望のマリアーノ・ファリアス(fa2539)と掃除用具等を下ろす。
 彼らは素早く各自の荷物を手に玄関口に立った。そこに並んだ全員、なぜか清掃業者の作業着を着用している。なぜ、彼らがこんな姿で現れるのを余儀なくされたのか。それはT氏が槌谷財閥という著名な家柄という事と、何より彼らが普段、芸能関係で働くことにあった。
 マスコミにとって何より美味しいネタ。スクープされては一大事となりうる。
 それを配慮し事前にT氏の奥さんにこの話を伝達していた。彼女には努めて普段を装わせ子供達と家から離れた門前で遊んでいる素振りで迎えるよう指示し、すでに挨拶だけは済ませていたのだ。
 大神は離れたところから彼らの様子を見詰めている奥さんの心中を察し、なるたけ優しげなで笑みを浮かべ無言のまま小さく頷く。それは武芸に秀でる者特有の敢えて言葉を発せず、ただただ静かに見守るという心配りだ。
 しかし落ち着きいた大神の内心は、以前番組で世話になった事に加えNW被害者を少しでも助けたいという、強い信念が燃えていた。
「‥‥しかしなんだ、T氏は相も変わらず‥‥事件を巻き起こす天才だな。‥‥困ったもんだ」
「ほんとに。でも虫の知らせという奴でしょうかね‥‥勘でも何でもそれで奥さんや息子さんがひとまず無事だったのだから」
 奥さんから渡された見取り図に目を通しながら、ヤレヤレ顔のヘヴィに頷くイルゼ。家族を守った事は褒めるべきと思っているようだが、言葉にどことなく毒が含まれていたり。これも彼女ならではの心配の仕方かも知れない。
「ま、T氏にはもっと楽しい企画を立てて貰わなきゃいけないから、助けないト♪ まずNWより先に合流するのが絶対条件だネ。自分のお家だから間違っても退路のないところに逃げ込むようなヘマはないと思うけど‥‥。追い詰められているような事もあるし、誰か『知友心話』で連絡して、早く合流した方がいいかモ。そこで班で別れて動くなんてどウ?」
「いいんじゃないか。なら、どう班分けをしよう」
 マリアーノが一応フォローに回りながら考えを述べていくと『灰代傀儡』で作り出したそっくりの身替わりも同じような動きで、皆に同意を求める。それに対して些かぶっきらぼうな物言いのランディ。続いてエキドナが提案。
「討伐と救出、バランスを取れるように配置をじゃな‥‥」
「遅れて済まぬ。それは良い案じゃな! さて、わしはどこに属しようか?」
 KDDX250で現れた愛称ヒノトことDarkUnicorn(fa3622)が、ハード・ナイトを外しながら話に加わる。
「マリスは囮を使う関係もあるし、討伐班がよさそうだネ。パートナーはモヒカンさんとヘヴィさん以外、おねーさんデ」
 緊急な事態にも拘わらず、マリアーノはちゃっかり女性陣と組む事を申し出る。どうも本心と共に場を和ませる意図もありそう。
 をいをいっとツッコむヘヴィ。イルゼが私と組もう、と彼を誘った。
 モヒカンがマスコミや出口封鎖役を買って出ると、ランディが一緒にっと手を挙げそっちへ。
 ヘヴィ、大神、そしてヒノトが二階探索を兼ねた救護班に回る。エキドナはなんともバランスの良い救護班の邪魔になっては拙いと一階探索兼討伐班に入った。
 そうと決まれば突入あるのみ。彼らは突入すべく半獣へ姿を変えた。
 戸に向かい気運を高める一同。その一人であるヘヴィにモヒカンが大きな手で頭を軽く叩き『幸運付与』を。それは気合いを注入するかのよう。完了と同時にエキドナの手によって玄関の戸が開けられた。


 中は不気味に静まっていた。封鎖を担当するモヒカンとランディに見送られ、一同は吹き抜けの玄関フロアから廊下を進み、広い居間へ移動した。
 へヴィはここで『知友心話』で、二階部に居るだろうT氏に呼びかけを試みる。すぐに大丈夫だっと反応が返ってきた。しかし子供に意識が向いているのか集中しきれていないのと、あまり親しくない所為で反応がよろしくない。
 本来ならば状況、隠れている場所にNWの有無等の情報を収集しておきたかったのだが、無理なようだ。ヘヴィよりも少し多くT氏に接触をしていたヒノトも『知友心話』をして貰うも結果は同じ。やはりここは彼の番組に多々出演しているイルゼに頼みたいところ。しかし残念、彼女はその能力を持ち合わせていなかった。
「ふむ。どうやら安否の確認は出来たが、そこまでのようじゃ‥‥。よし二階に急ぐぞ」
「そうネ。ならマリス達は一階でT氏とNWを探すヨ。行こう、イルゼさん、エキドナさん」
 一角獣特有の美しい角を額から生やしたヒノトは、戦闘準備と称し圧縮空気で膨らんだウサ耳のヘアバンド&尻尾という出で立ちで考えを纏め、螺旋階段へ急ぐ。
 イルゼ、エキドナにマリアーノ+1の4名はキッチンの方へ。その際、マリアーノは作り出した身替わりを先頭に立て、本体はイルゼの背後に寄り添い進む。それはもう隙間なく‥‥ピッタリとだ。万が一、役を果たせずNWに襲われては元も子もないネっと言っているが、イルゼはあまりの接近に冷ややかな視線を送り、NWにも注意だがこの少年にもだな。っと思った。
 そんなマリアーノにヘヴィは呆れた視線を送りつつ、大神、エキドナと共に螺旋階段へ。彼らよりも先に『俊敏脚足』で勢いよく駆け上がり斬鉄を防御姿勢で構え乍ら用心しつつ扉を片っ端から開けていくヒノトを追った。

 動き出した彼らを玄関フロアの天井に吊り下げられる大きなシャンデリアの後ろから伺う目があった。二階へ足音が過ぎ去るのを理解したように、人と懸け離れた蜥蜴を思わす薄気味悪い歪な頭が煌びやかな硝子の向こうから出てきた。
 どうやらNWは気付かれまいと、息を潜め過ぎるのを待っていたよう。ここで狙うべき獣人に的を向け天井と壁を伝い動く。
 っと、その僅かな音にイルゼの耳が反応した。
 何も言わず踵を返し『俊敏脚足』と『地壁走動』で壁を伝い素早く走り抜ける。そんな彼女に何事? っと焦るマリアーノとエキドナ。だが聞く前に二人も反応し後を追った。なんせイルゼは口で言うより行動の方が早いタイプだから。
 元の玄関ホールへ飛び込んだ彼らは辺りを見回すと、その目に数m先の壁に貼り付き、背を見せていたモヒカンに飛びつきそうなNWを発見。
 緊迫し現れた彼らにランディが事態を察知し『地壁走動』『俊敏脚足』を使いながら、一方で爪を出しモヒカンの元へ。
 走る緊張の下、イルゼが刀を手に迫る。背に異様な気配を感じたモヒカンは素早く『金剛力増』で、丸太のような腕を更に太く変化させ、襲い来るNWのタイミングに合わせ、その首を掴み前方へ放り投げる。放物線を描き壁にぶち当るNW。
 反動で床に雪崩れるそれを許さないよう、背中を丸め剣を胸元にグッと引きつける構えのイルゼが、その腹を目掛けてバネが勢いよく伸びるような鋭い突きを放つ。見事に命中。その直後に飛び退くと、今度はランディの電気を帯びスパークさせた爪、『放雷紫爪』が決まった。NWは体を硬直させ麻痺に陥る。
「やったか? よし、そこから動くなじゃ。コアを探すのじゃ」
『器用な尻尾』で隠し持っていた模造刀を構えるエキドナや、応戦の構えを見せるモヒカンが近付いてくる。
 ランディは攻撃からコアを探すのに切り替えた時、NWはいきなり目覚め、さっきの仕返しとばかりに鋭い鈎爪でギュッと彼女の腕を掴みかかる。
「うわぁ?!」
 ランディは目があった瞬間に咄嗟に退いたものの、スーツを裂き肌にまで達した。睨む彼女にNWは怒りを帯びた威嚇を見せ、腹に刺さるイルゼの刀を引き抜くと、それをモヒカンとエキドナ目掛けて投へつけた。
 間一髪、エキドナが刀を振るい避ける。
 その隙をついて壁を伝い二階へ逃げだすNW。そっちにはまだ発見されていないT氏と娘がいるハズ。モヒカンはすぐに『知友心話』でヘヴィに報告。すぐに了解の言葉が返ってきた。
 その間、イルゼとマリアーノが『地壁走動』を使いNWを追跡。モヒカンは再度、逃走口を塞ぐべく一階で構え、戦闘を見守った。
 ランディから受けた痺れが収まりきらずどこか動きの鈍いNW。マリアーノがそこを突いて、両手装備+尻尾ガントレットでラッシュ。だがコアの発見に至らず倒すまでできない。それどころか攻撃が効いているのか不明。電撃ショックで全て麻痺したのか? とマリアーノが考える程。その隙を突かれ、彼に襲い来る爪。咄嗟に体を反転し身替わりにヒットさせた。マリアーノの姿が灰に帰っていく。
 その灰を下で護衛に回ろうとしたイルゼが運悪くモロに被る。すぐに腕で顔を覆うも吸い込んだ灰で咽せた。
「うわぁ〜〜、ごめんネ! イルゼさ〜んっ」
 慌てふためくマリアーノ。またも隙を突かれNWは二階の踊り場に飛び降りた。


 二階でT氏救出を行うヘヴィにヒノト、大神。彼らは順繰り部屋を巡りT氏とその娘を捜索していくも見つからない。
 見取り図通り書斎へ入るが、何故か梯子が無造作に置いてあるだけでA君の言っていた専用の部屋という場所の入り口が見あたらないのだ。三人は頭を捻る。そこに大神が思いついたように手を打ち、
「その階段、力ずくで外した痕があるな。もしかしたらロフトとかあるのでは?」
 その言葉に三人は天井を見上げた。ビンゴ! 小さな取っ手あった。ヒノトが『知友心話』を使いながら手にした剣でそこを突っつく。
「入ってますよ〜」
 緊迫の薄い返事が聞こえ、すぐに出るよっと言うT氏の声。しかしヘヴィはモヒカンからの『知友心話』で聞きいた二階へ逃げ込んだという報告に彼を押し留め、そこまで来ている戦いに備え素早く部屋から出て非常線を張る。本来の考えと些か違うが仕方ない。これも『知友心話』で聞いた壁を伝う事の出来るNWのためのこと。
 ここで彼らロフトから出せばT氏どころか娘にも危害が及ぶ可能性があるから。だ。
「来た!」
 警戒を張り巡らせていた大神はNWを確認したと同時に『虚闇撃弾』を放つ。ヒノトも後押しするように『淡光神弾』を乱射。
 黒い光と眩しい光が廊下を包み、視界を失う程のまばゆさ。二人は一旦、攻撃を止め、どうなったのか確認する。しかしそこにNWの姿がない。
 あれ? っと目を見張る三人。だがすぐに天井に目をやる。いた!
 攻撃を受け、かなり傷ついてはいるもののまだ動いている。しかもその目、異様に爛々と輝き不気味このうえない。
「まずい! 早くコアの位置を確認し破壊だ。‥‥コアはどうも服の中かもしれん」
 ヘヴィは危険を察知し素早く二人に指示し、『望遠視覚』でコアの在処を探る。が、見える範囲でないよう。ヒノトは鞭を取り出し器用に振り回すと足止めと服を剥ぐべく振り回す。
 辺りに引き裂く音が響き、近づけないよう大神が『虚闇撃弾』で援護。
 すでに前回のイルゼやマリアーノの攻撃でボロボロとなっているブルゾンにシャツ。一振り毎に容易に布きれへと変わっていく。
「‥‥こんな事に使う為に持ってきたのじゃないのがのぅ‥‥」
 苦笑いのヒノト。
「あ、あったぞ! 右肩口だな‥‥よし」
 鞭に打たれながらも腕を振り上げ近付くNW。また一枚、袖が引き裂かれた床に落ちた時、キラリと肩口が光った。ソレをヘヴィは見逃さない。
『金剛力増』を使い腕の筋肉を凄まじく盛り上げると、打ち破るべくダッシュ。ヒノトも考えたが可動部分への攻撃というのはなかなか難しい上、ここは護衛が得策。
 ヘヴィは向かい合ったNWの肩に鋭い一撃を放つ。
 ピシィ!
 もう一撃っと思った矢先、ヘヴィの肩に痛みが走った。NWが爪で反撃を仕掛けたのだ。彼はチッと舌打ちすると左手でその腕を掴み、廊下の向こう、吹き抜け目掛けてぶん投げた。
「すまんが、締めをよろしく!」
『金剛力増』の賜。NWは勢いよく壁にぶち当たり落下する。ここで強か床に体を打ち付ける予定だったが体勢を変え、ヒラリと四つんばいとなり着地。しかし待ち構えていたエキドナが模造刀を振るいその足を凪ぐ。続いてモヒカンが『金剛力増』を用いて、爪に注意を払いつつ俯せの状態のままコアのある腕を取り、勢いよく痛めつけながら、
「マリアーノ、こい!」
「OK!」
 攻撃したくてウズウズの彼を呼ぶ。最後とばかりに『加重衝撃』の激しい攻撃。重い拳のヒットにコアは光を失った。


 大神とエキドナの手を借りロフトから出てきたT氏とその娘・珠生。
 転がった遺体を見せまいとイルゼとマリアーノがブルーシートを掛けている。その傍を娘の手を引き通ったT氏は、
「イルゼちゃんにマリアーノくん、‥‥みんな、ほんとサンキュ。助かったよ‥‥。にしても凄い状態だな‥‥」
 壁を見回し溜め息。だがすぐに灰を被り目を抑えていたイルゼを心配したりと、以外に甲斐甲斐しい。
「これは、まあ不可抗力という事で諦めてください‥‥」
 イルゼはなんだか悪い事をしたように思え呟く。
「秋の特番予定のとにかく捕まえろっ! スペシャルの予行練習じゃと思えばよろし。そこで稼いでリフォームすればよいのじゃ」
 ヒノトはヘヴィとランディに『治癒命光』の波動を当てながら言う。
 その近くでモヒカンは珠生につきまとわれ、本気で困っていた。どうやら彼女の物応じしない性格はパパ似らしい。