female Buccaneers2−5アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 6.9万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/22〜10/24

●本文

 一艘の木造船が沖を滑るように進んでいく。その旅立ちを真っ青な空も海も祝福しているようだ。
 風を孕み脹れる真っ白な帆。高々と立てられたマストに真っ赤なジョリー・ロジャー(海賊旗)がはためく。
 そこに映し出されたドラマタイトルを豪奢に飾った文字が流れ消えた。

 一瞬の隙をついたトゥルーガの手中に宝剣とその鞘が握られていた。
 ローブに包まれた頭を上げ天を仰ぐ彼女。異国情緒漂う化粧が施されたその顔には嬉々とした表情が乗っている。
「今こそ女神とその神殿はあるべき姿に戻る。そして世界は変わるのだ。新たな創世が始まるのだ!」
 ぐんっとローブにくるまれた腕を振るいあげた。その際、腕につけた幾つものブレスレットがぶつかり合い、トゥルーガの行動に更なる魔術的な要素を与えだす。
 その仕草を見入る船員達の耳元でヒュッと風がひと鳴きした。
 直後、今まで抜けるように青かった空が、変化をはじめる。帆を破かんばかりに強い風が吹きつけ、その流れに方向など失ったよう。常に流れを変え、船を一定に保とうとする船員達の努力を著しく無駄にさせる。
 そんな風はどこからか重々しく怪しげな黒雲を呼び出す。
 空を見上げるジョリー・ルージュの船長を始めとする面々の顔に不安の色が浮かんでいく。勿論、プライベーティアの船長の顔や船員にもだ。
 そんなどの船からもざわつきが聞こえ出す中、トゥルーガは構うことなく更に高々と剣と鞘を持つ腕を振り上げた。
 風や雲もまるで応えるかのように勢いを増し、彼女の頭上で不気味に渦を巻き始め中心から鋭い稲光を海面に落とす。
 こんな異様な天気を経験したのは、船に乗る誰もが初めての経験。為す術無く戸惑う所に叫び声が上がった。
「おい! 何をしている、女神ティア・マが甦ってしまうぞ! あいつが元に戻ってしまったら海は神のモノ。自由が奪われる」
 確かに。彼女を甦らせる事はそういう事なのだ。咄嗟に声に反応し、取り上げようと走るジョリー・ルージュの面々。異国の服を纏った剣士が思いっきり体当たりをかまし阻止。トゥルーガは不意を付かれもんどり打ち、手にする剣と鞘を投げ出して彼女と共に甲板に転がる。
 同時に甲板に倒れた仲間を気遣う視線と叫び声。
 その隙を逃さなかったハーカー卿。自分を押さえる見張り役の少女の腹に強打を見舞い怯ませる事に成功する。彼は素早く己の娘の手を引き、勢いよく剣の元へ。
 操帆手と新に仲間に加わった船員が走るが、一歩及ばず。ハーカーは床に落ちた剣を握りしめた。そして鞘を探すも見あたらない。
「お探しのものは、こちらで? 貴方に渡してしまっては海の秩序はありませんので。かといって‥‥ね」
 礼儀正しい声。見れば美しい宝石と黄金を纏わせた鞘を握る男。ニヤリと不敵な笑みを浮かべ髭を撫でている。
 苛立ったハーカーは声を荒げる。
「それは我が国が所有するのが相応しい剣だ! 女王陛下も望まれ手に入れるのに必死。そうすれば海の支配は我が国のもの。さあ、渡すのだ。でなければこちらも考えがある」
 グッと娘の腕を掴むハーカー卿はプライベーティア号を見やる。船首で見ていた船長と目があう。彼はハーカーの意味する事は解った。
 合図を出そうか迷う所に声が響く。それに合わせ他の船員から戦きの声も上がった。
「せ、船長!! 前方に巨大な渦が!」
 それらを押しのけ発する勇ましい男性剣士。彼の言う通り、頭上で風を巻いていた大気が海面を巻き込んで、大きくかき回し始めたのだ。
 もの凄い轟音。舵は取られだし二隻の船は翻弄され始める。起こしているのは、トゥルーガだ。
 剣を持つハーカーと守り手を睨み付け、またジョリー・ルージュやプライベーティアの船員達をその大波に翻弄する。
「我が剣と鞘‥‥。お返し! 海は我のもの。もう人の自由になどさせはしないぞ!」
 ここにいる彼らの脳裏に最後の決戦っという言葉と神に逆らう警告が過ぎるのを感じていた。
 自分達はどうすればよいか考えだす。赤い旗を掲げる海賊船の乗組員達は、ハーカーとセントエルモの火の船員である男から鞘と剣を奪い神に鞘と剣を返し赦しを請い海の自由をもらうか、否、神と戦うべきか。
 私掠船は国の命に従い、以前の船長から鞘を奪い女王陛下へ献上するか。いや、ジョリールージュと共に海の自由を目指すか。
 そして、海の守り手をする男の考えは? ハーカー卿と娘は??
 様々な選択肢。その他にもあるハズ。
 誰もが宝剣に対する思考を巡らせ、最後の戦いと冒険の準備を進めた。


 英国発のドラマ『Female Buccaneers2』の出演者を募集しています。
 前回同様、ジョリー・ルージュは基本的に女船長が仕切る船のため女性乗組員の構成。プライベーティアは王室から許可書を得た私掠船という設定で、こちらは男性の構成でお願いします。
 配役は二つの船の船長以外、決まっておりません。ドラマに沿った配役を考えお決めください。
 なお、引き続き出演して頂ける方は前回と同じ役でお願いします。代役案は出来ませんのでご理解ください。
 配役の決定は皆様の話し合い、くれぐれも喧嘩のないようお願いします。

 ジョリー・ルージュの船長
 プライベーティアの船長
 
 一等航海士・操舵手
 帆手
 甲板長
 大工
 砲手
 キャビンボーイ
 調理長など船に関わる仕事
 
 トゥルーガ・トゥーガ  ややへそ曲がりな妖術師。だがその正体は女神。海と海底神殿の支配者で本来の姿は人ではない。
 クイ・ホァン  アジアの海賊。未だ動きは不明。ただ戦闘に関して潔く戦う事も考えているらしい。
 ハーカー卿  英国貴族。娘を手にした彼は、プライベーティアに鞘を奪うよう命じる

●今回の参加者

 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa3293 Even(22歳・♂・狐)
 fa3325 マーシャ・イェリーツァ(23歳・♀・兎)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa4123 豊浦 まつり(24歳・♀・猫)
 fa4563 椎名 硝子(26歳・♀・豹)
 fa4611 ブラウネ・スターン(24歳・♀・豹)
 fa4764 日向みちる(26歳・♀・豹)
 fa4940 雪城かおる(23歳・♀・猫)
 fa5407 瑛樹(25歳・♂・豹)

●リプレイ本文


 混乱に紛れ甲板に煙の如く現れたトゥルーガ・トゥーガ(雪城かおる(fa4940))が、瞬く間に宝剣と鞘を手にするとジョリー・ルージュ号の甲板へ再び姿を現した。
 彼女は力を見せつけるように両手を振り上げ、強風と重々しい雲を呼び海面を巻き込んだ盛大な渦を作り出す。船達は為す術もなく内側へ飲み込まれ始めた。
 拙い状況だがメアリー・ショウ(マーシャ・イェリーツァ(fa3325))は、強烈な父親との対面に未だ思考が動かず佇んでいた。その足下には彼らの剣を受け倒れるホーキンス(AAA(fa1761))。それは親子の深い溝を示すよう。
 ジル(Even(fa3293))とラス(瑛樹(fa5407))共に倒れた彼を担ぎ安全な場所へ連れだす。
「メアリー、しっかりしろっ。皆、船へ! 俺はトゥルーを何とかする」
 リコリス・コーラル(椎名 硝子(fa4563))はレイピアを抜きトゥルーガに挑む。
 船長の声は混乱の最中にいたメアリーを正気に返し、自分の手を握る父親であろう人物・ハーカー卿を見た。
 確かに伝わる温もりは記憶に残るもの。その温もりに引かれ歩いた幼少時代‥‥。だが彼女は振り切った。
「‥‥貴方がわたくしの父様なのは認めましょう。けれど今はジョリー・ルージュのメアリー・ショウ! 貴方が手を引いていた幼い女の子ではありませんのよ」
 そう、ここにいるメアリーは誇るべきジョリー・ルージュの一員。彼女は急ぎ船を守るべく走った。
 手からすり抜けてた娘を呆然と見るハーカー。リコリスは時が来れば‥‥と思いつつ剣を振るう。矛先は宝剣と鞘を手にするトゥルーガだ。
 彼女が飛び込む一歩早く、女剣士の体当たりがトゥルーガを襲った。不意を突かれ宝剣と鞘を投げだし甲板に転げる二人。宝剣と鞘は勢いよく空を飛び、再度、ハーカー達の元に落ちる。
 無論、ハーカーは手を伸ばし宝剣を掴んだ。続けざま鞘を探すもホーキンスが素早く拾い上げ阻止。
 倒れたトゥルーガは捲れたローブから怒りを露わに傍に落ちた剣に手を伸ばし剣士を貫く。惨い行為にマルコ・ロッソ(ブラウネ・スターン(fa4611))はハーカーに向ける予定であったマスケット銃を彼女に放った。しかし怒りに駆られる彼女と裏腹にリコリスは意外なほど冷静に、
「なぁトゥルー。剣と鞘をお前に渡せば‥‥俺達の事だけは赦してくれるか?」
 猛る女神に海賊らしい取引を持ち込む。
「命乞いか? ‥‥よかろう。宝剣と鞘を差しだすなら許してやろう」
 トゥルーガは怒りに燃える目を納め、屈服する彼女をさも楽しげと笑う。リコリスは成立とばかりに背負い革からピストルを抜きハーカーとホーキンスに狙いを定めた。
「‥‥という事だ。俺らも命が惜しいのでね、大人しく宝剣と鞘を渡して貰おう。お貴族様に幽霊船長さん」
 彼女は空いている手を差しだす。銃と剣、戦闘経験の薄いハーカーでも勝ち目がないことくらい容易に計算できる。
 渡すか否か躊躇する彼にリコリスは苛立つ表情を見せ、目を細めて引き金にあてた指に力を込めた‥‥っと思った瞬間、いきなり反転。
 トゥルーガへ発砲!
「‥‥などと俺が言うとでも思ったか? 俺は支配するのもされるのも御免だぜ!」
「ウテェ」
 ドォン!
 風の動きを読む事の他にカンにも長けた帆手のサイリーン(豊浦 まつり(fa4123))が、発砲にタイミングを合わせ、オウムの砲撃命令と共に見張り役の少女と8ポンド砲を打ち込む。空を切り唸りをあげる弾がトゥルーガの脇を抜け軍艦の右舷側に命中し大きく揺らす。
 避ける為、均衡を欠いたトゥルーガを追い打ちのように連射するマルコ。トゥルーガは耐えきれず縁を乗り越え渦巻く海へ落ちた。
「皆、早く船を動かせ!」
 リコリスは声を張りあげる。従って良いものか戸惑いを見せるクリス(日向みちる(fa4764))にサイリーンが帆の準備を手伝えっと呼んだ。
 メアリーは舵を握り必死に渦に抗う。しかし逆に危機を脱したハーカーは好機とばかりにホーキンスから鞘を奪うべく剣を振り翳す。その顔悪魔そのもののようだ。
 ラスの剣が空を切り、鋭い金属音のぶつかる音を響かせた。
「‥‥な、何をするのだ?! お前は。キャプテン・ジル、その男を止めろ。そして鞘を取り上げるのだ。そうすれば女王と我が国は海の権力を握り永く栄光を掴める」
 ジルは何を信じて良いのか考えあぐねる。確かに彼は英国の女王陛下から直々に許可書を貰う私掠船の船長。ならば上司にあたる彼の言葉を聞くべき。だが心のどこかに拒否する感情が生まれだしていた。しかしそれは国を裏切る行為。
「おやまぁ、私の思い違いだったのでしょうかね? まったくもってキャプテン・ジオラルドは船長として資質がなかったようだ」
 ホーキンスはゆっくりと起きあがり痛烈な一言。
「英国や女王陛下などという、そんな枷で何故、自らを束縛しているか? 優雅に空を舞う大鷲のようなあなたが‥‥。ジル、真価はなんら制限のない状況でこそ、最大限に発揮されるハズなのですが‥‥ね」
 伊達男ならではな詩的な表現でありながら、彼ならではの不器用なエールも含まれている。
「そう、選択肢はあるよ、どこにチップを張るかなんて自由! ‥‥いっそ私に張る? なんて‥‥ね」
 たまたま接近出来た瞬間にサイリーンがジルに向かって声を張る。なんとも彼女らしい言葉だ。
「ジル船長、王室に許可証を返上し『本当の』海賊になるのは、全てを裏切るという事。そのご覚悟があるのか?」
 ハーカーと剣を交えながらラスも問う。ジルは少し考える素振りを見せるが、
「‥‥ふふっ。そうですね、ラス。裏切る‥‥それは海賊への一歩。国と女王陛下を裏切るより、自分の気持ちと最愛の海を裏切ることの方が辛いようです。申し訳ありませんハーカー卿、生憎と僕も海に生きる者。これ以上誰かに僕の舵は任せる気がなくなりました。勿論、渦の中で待ち構える美女‥‥にもね」
 ラスとハーカーの間に割りこみ、ハーカーを弾き飛ばす。床に転がった彼に丁寧に一礼。
 ハーカーはあまりに人を食ったジルに憤慨し襲いかかる。しかし船が傾いため出来ずに終わった。どうやら軍艦は被弾によって浸水し沈没する時を迎えはじめていたから。
 咄嗟に全員、マストや縁に捕まる。しかしハーカーだけは宝剣と共に海へ落ちていった。
「ジル船長。我が剣は貴方と共にある。命尽きるまでご一緒いたす」
「光栄ですね。さぁ早く船へ戻りましょう!」
「でしたらハーカー卿の部下達にも乗船許可を!」
 納得できる答えを得たラスは、退避命令を出すジルに誓いを立てる。ジルの命に従うため船の移動を始めた時、無数に残るハーカーの部下に目を向け、船長に願い出る。勿論っと頷くジル。
「‥‥だそうだ。命が惜しい者は船に乗れ。すぐ出発するぞ!」
 沈む船から脱出を急いだ。


 二艘の船をドンドン中心へ引きずる渦。縁に捕まり覗きこんだリコリスの目に、戻ってきた宝剣を手に笑むトゥルーガと横たわるハーカーが映った。
 彼らは古代の海底神殿の一部に立っていた。そう、女神ティア・マを祀ったものだ。
 一方、翻弄されながらも船員と海軍達はプライベーティアに辿り着き安堵の表情を浮かべる。しかしラスは腑に落ちないよう。それはあまりに船が傍にありすぎたからだ。彼は視線を巡らせる。
「やはりな‥‥そこで何をしている、大人しく牢に戻るか、剣の錆になるか‥‥選べ」
 なんとクイ・ホァン(水沢 鷹弘(fa3831))が舵を握り船を寄せていたようだ。礼どころか鋭い視線を投げるラスに凄みの効いた声を響かせ、
「小わっぱが‥‥凄むな。俺はどちらもごめんだな。それより手を結ぶ方が良いのではないか? 宝剣は女神の元。これから起こる戦には人はいるだろう」
 交渉に掛かる。一旦は脱出を考えたが、この渦に飛び込んでは助からない。戦いに加わる方がまだ望みはあると目論んだのだ。
 ラスは更に睨むが、ジルは違う。ここは一人でも協力者がいる方が良い。まして戦闘に長けた男なら尚更。
「良いでしょう。ただし終わったら話は変わりますから。心してくださいよ、ホァン」
 いつになく強い視線を送り交渉を成立させた。

「人よ、海は我がティア・マの手にあれば良かったと後悔するのだ‥‥さぁ僕達よ、鞘と我に刃向かう者の命を奪うのだ」
 ドォォン!
 トゥルーガは祭壇に宝剣を勢いよく突き刺すと、そこから盛大な水柱が上がり、両船に降り注いだ。誰もがそれだけ? っと思った矢先、甲板を濡らす水の粒が武器を手にした骸骨に変化していく。
 化け物嫌いのマルコはたじろぐも引っ掻き集めた弾薬と火薬樽の間からラム酒の瓶を手に取ると一気のみ。気を奮い立たせフリントロックピストルで敵を砕いていく。
「化け物と対峙する最後にして欲しいもんだわね」
 酔いに任せ捨て台詞。クリスが苦笑いを浮かべつつ剣を振り回す。
 そんな彼女達に帆を裂き頭上から不意打ちを狙う骸骨戦士達。しかしサイリーンがナイフでロープを断ち切り、帆と共に落下させた。
 大事な帆を裂かれた恨み付きで思いっきり髑髏を蹴り飛ばす。
「海はその上に住まう誰もが自由に生きる場所。国は勿論のこと創世の女神にだって勝手にさせて堪るものですか!」
「そうだぜ、メアリー。だがこのままじゃ、いい加減、埒も明かない。奴を止めなければ‥‥何か方法はないのか」
 レイピアを振るい次々に襲い来る骸骨を倒すメアリー。同じくリコリスも息つく暇なく剣を捌いて蹴散らす。だがいい加減、疲労が濃くなる。渦を挟んだ向こうの船、ジルを筆頭にラスが二刀流で剣を振るい、ホァンが蹴散らしているが、徐々に動きが鈍くなっている。
 中でもホーキンスが酷い。負傷の理由もあるが華麗な剣技を誇る彼にあるまじき姿だ。ジルの他、リコリスとメアリーも心配げに目を配りながら剣を振るう。だが気付いた。床板に刻んだ彼の文字。
『血と血は混ざり合わない』
 ホーキンスは気を引く為、態と装っていたのだ。戦いながらも顔を見合わせる二人にクリスが叫んだ。
「祭壇を見てくれ! 聖と魔は表裏一体 表裏は同一にして交わらず‥‥一体どういう意味だ?」
 骸骨戦士に剣を浴びせたリコリスが示す場所を見ると悟った彼女。
 リコリスは荒れ狂う渦、トゥルーガの居る祭壇目掛けて縁を飛び越える。勿論、メアリーも自分の血が関係することに気付き続く。
「宝剣を渡せ、トゥルーガ」
「ならば鞘を渡すよう男達に言うのだな、リコリス」
 迎え撃つトゥルーガと斬り結んだ。妖術師とは思えない剣技にメアリーも参戦し攻めていく。
「これもティア・マの力、か‥‥」
 二人の剣筋はトゥルーガに軽くあしらわれ金属の火花を散す。流石のリコリスも不意を付かれ倒された。
「トゥルーガ、もう止めましょう! 要求を飲み鞘は貴女に渡しましょう 海は貴女のもの。ただ少しだけ航海くらいはさせて下さいな」
 彼女達の体勢不利を見たジルは剣を振るいながらもホーキンスから受け取った鞘を掲げ、トゥルーガに見せる。
 それを見たトゥルーガに僅か隙が出来メアリーに対する剣の筋が甘くなった。勿論見逃さないリコリスが下から剣が閃かす。
 だがそれは誘いであった。大きく空いた脇に鋭い一撃が飛び込む。
「‥‥!!」
 咄嗟に顔を歪めたリコリス。だが何もない。それはクリスが覆い被さり受けていたから。
「言ったでしょう。仲間にしておいて損は無いって‥‥」
 苦痛で顔を歪めながらも笑む彼女。リコリスは自分を庇ったその体が力を失い重くなるの感じる。勿論、好機を逃がさず剣を振るうトゥルーガ。しかし何かに止められる。それはいつの間にか起きだしたハーカーが刃を握りっていたのだ。
「メアリー‥‥娘よ。早くするのだ」
「父様!」
 ハーカーの言葉にメアリーが斬り付ける。怒りに駆られたトゥルーガは無理矢理に踏み出そうとする。しかしハーカーが渾身の力を込め剣を奪った。
 彼は血の伝う宝剣を娘に投げる。受け取ったメアリーは足を大きく踏み出しトゥルーガに一刀を浴びせた。
「〜〜!!」
 鋭い悲鳴を上げのたうつトゥルーガ。そこにジルが鞘を投げメアリーが受け取りざま剣を納めるとリコリスに向かって投げた。
「船長‥‥今よ!!」
 ズガガァン!
 納まった瞬間から鈍い音を立て罅が入りだした宝剣。空で放物線を描くそれをリコリスがホルダーから早抜きした銃で撃ち抜く。
 衝撃で砕ける宝剣と鞘。合わせてトゥルーガも煙となり人ほどの竜へ変貌していった。
「憎らしや‥‥。だが人よ、忘れるな。そなたたちの知恵と勇気、絆が大いなる運命を変え海はうぬらものとなった‥‥いずれ陸や海に留まらず全てを掴もうとするだろうぞ。それが己の首を絞める結果となってもな。私は見届けはせぬぞ。深い深い海の底で永く夢を見るだろう。人よ、うぬらの切り開いた道を受け入れるが良い」
 予言のような言葉を紡ぎ、トゥルーガは鱗に覆われた身体を神殿に横たえた。途端に真っ二つに割れ、その体を飲み込む。
「終わった、のか? ‥‥不味い、神殿に罅が?!」
 安堵するリコリスだが、神殿が崩れだしたのに気付き慌てる。
「ティア・マをやったようだな。全力で退避するぞ!」
 彼女の死と共に骸骨戦士も元の水へ変わっていく。
 戦闘が終わったことに声を張り上げるホァン。彼らを助けるべくサイリーンがロープを下ろす。
 クリスを抱えたリコリス、両手から血を流すハーカーを抱えたメアリー達が次々に引き上げられた。
 甲板にたどり着いた彼らを見て安堵の表情を浮かべるジル。だがトゥルーガと共に神殿を飲み荒れ狂う波からどう指示を出し脱出しようか思案した。