とにかく捕まえろっ!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/29〜06/02

●本文

「ぬぁんだぁってぇ、何をやらかしてんっすかー! このすっとこどっこいディレクター!」
 会議室にスタッフAの怒鳴り声がこだました。
 しかし怒鳴られるディレクターT氏はなんのその。いつもの事とばかりに耳を掃除している。
「ごめんねー、可愛いから触ろうとしたら突き飛ばされちゃったんだよねー。あ? おトイレ行きたいの? 我慢しちゃだめだよー。行っておいで」
 一応、謝りの言葉を口にしているがもの凄く軽い。スタッフA君の俯きフルフルと震えてるのをトイレと勘違いしている。それを聞いたA君の震えがさらに大きくなった。強力滋養強壮剤を一リットル一気飲みしたかのように、こめかみの血管が浮き上がり破裂寸前。だが、のんびり屋のT氏はそんな事、気にも留めない。
「あのさー、番組どうしよっか? もう中止は無理だし」
 数十分後に始まる動物番組に登場予定だったニホンカモシカ。A君は盛大に溜め息を付き逃がした張本人を睨み付けるが、当のT氏はなんのその。だが番組中止は困るらしく腕を組みウンウン唸る。だがものの数秒、何か思い立ったのかいきなり人差し指を天井に向け、
「ぴんぽーん閃いた! 緊急企画! フロアを逃走するニホンカモシカを捕まえろってな番組に変更ってどう? どう? 」
「自分で効果音を発するなっ! しかも捕獲は人任せかよっ! 相手は特別天然記念物なんっすよ。マジに捕まえないと‥‥もしものことがあったらディレクター、クビがさくっと飛びますよ!」
 スタッフA君の凄まじい剣幕に押され、部屋の隅で怯えていた他のスタッフ達もそだ。そだと頷きあう。
「そうなんだよー、これは非常に不味い。俺も我が身はとても可愛い。と言うことでA君、任せた。頑張ってくれたまえ」
「それも人任せっ?! 無責任にも程がある! 自分でやったんd‥‥ん?」
 もう限界とばかりにT氏の襟を掴もうとしたA君の耳に扉の向こうの様子が聞こえてきた。
 ごふごふっという重い蹄が廊下を駆ける音を追うように悲鳴が湧き上がる。廊下はどんな事になっているのか、A君は想像もしたくない。
「と、とりあえずこのまままでは不味いし、番組に穴を開けかねない。その企画を採用。追い込みスタッフや出演者、それを撮影してくれるカメラマン、あと、捕獲する道具などを手分けして集めるんだ」
 的確に指示を飛ばすA君。T氏よりもディレクターらしい。当のディレクターT氏もその背後で彼の真似をしている。

 ――数分後、数箱の段ボールを前にしたA君は、またも血管を浮き上がらせ怒気を孕んでいた。
 そうなっても仕方がない。集められた道具は役に立ちそで、無さそなものばかり。
「どぁれが、コントの道具を集めてこいっと言ったぁぁあああ〜〜!!」
 しかしもう時間がない。これでやるしかないのだ!

 注意事項:フロアはその階で締め切っており、カモシカが他の階へ移動することは出来ません。相手は特別天然記念物です。注意して扱ってください。
 
 カモシカ情報:オス四歳。環境の変化と人の多さに驚き興奮し、えらく攻撃的。角には一応、保護の為、スポンジと布を撒かれてますが、頭突きを食らうとけっこう痛いかも? その他に二本足で立ち上がりひずめチョップ、後ろ足キックなどなかなか良い技を持ってます。
 怪我させた場合罰金が待ってるかも知れません。

 武器:たも、捕虫網、一斗缶、タライ、ハリセン、ピコハン、とり餅数本、蝿取り紙のロール数個、ただのキビ団子などなど。
 防具も用意されてます。野球審判用プロテクター&審判マスク、アイスホッケーのショルダーやエルボーパット。はたまた剣道の防具など。各界のスポーツ防具の詰め合わせ段ボールが二つ。
 着用推薦。万が一怪我した場合は番組予算の関係上、医療費自己負担でお願いします。


 ■出演者募集
 急遽、番組変更となり、ディレクターのぶっとんだ閃きにより企画となった『とにかく捕まえろっ!』は、ニホンカモシカを捕まえてくださる勇者(猛者)を募集します。
 我こそは! と思われる腕自慢のアナタ!! ご参加をお待ちしております。
 申し忘れておりましたが、彼らに同行してくださるカメラマンさん数名を含む撮影クルーも同時に募集しております。
 どうぞ奮ってご参加ください。

●今回の参加者

 fa0484 林檎(18歳・♀・鴉)
 fa0611 蒼月 真央(18歳・♀・猫)
 fa1058 時雨(27歳・♂・鴉)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa3503 Zebra(28歳・♂・パンダ)
 fa3671 風宮・閃夏(18歳・♀・虎)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)

●リプレイ本文


「んー、番組でニホンカモシカと戯れるチャイナお姉さんをやる予定だったんだけどね。いつの間にか捕獲作戦の要員ね」
 白と黒を基調とした中華風のリングスーツを着た竜華(fa1294)が、少しばかり困った表情で言う。彼女が腕を組み替える度に胸元がぱっくり開いたリングスーツの下の大きな胸がユサユサと揺れ、足を組み替えれば、程良く上がる愛らしいヒップについた白い付け尾が感情があるかのように動いた。
 そう、今回の動物番組に出演する予定だった竜華だったが、ディレクターのT氏のおかげで急遽、捕獲作戦に変更。彼女も借り出されたのだ。
「天然記念物を連れてくる金があるなら、もっとギャラ上げてくれても‥‥こほんっ」
 同様に出演予定だった風宮・閃夏(fa3671)はぽろりと本音を吐きながらも咳払いで誤魔化す。A君はさらりとそれを聞き流しメガホンを手に捕獲の説明開始。
「え〜〜、このフロアを逃げ回っているニホンカモシカを捕まえてください。捕獲用の部屋はすでに用意してあります。もし、その部屋にトラップ等を仕掛けるのでしたら、僕か、他のスタッフと一緒に移動をしてくださいね。そして今回の武器と防具はこの段ボールに入ってます。防具は着用は絶対ですからね! 怪我しても責任は持てません。そこんところ宜しくお願いしますー」
「‥‥考えてみれば逃がしたのは私達ではなく、むしろその後始末をさせられている訳で何が起きても責任は委託した側にあると、思うんですが?」
 ニホンカモシカを逃がしたディレクターのT氏に代わり、一切を仕切るスタッフA君。脇で林檎(fa0484)の鋭い意見に理に詰まるが、彼とて後始末をさせられているのだ。悲しきサンドイッチ管理職。グッと言葉と涙を飲み、林檎の言葉をスルーし、防具等が入る段ボールを彼らの前に置く。
「ニホンカモシカか、可愛いんだよなあ。特別天然記念物に触れるチャンスなんて滅多にないし、捕まえついでにぎゅっと抱きしめてみたいな」
 なにやら危険発言をぶちかましながらティタネス(fa3251)は嬉しそうに段ボール箱の中を物色し始める。
「キックボクシングのトレーナーがつけるようなヤツないかな? 腕や脚は邪魔になるし、この背丈だ。頭のはいらないよ。あ、これだな! えっと‥‥武器はコレでいこうか」
 すぐに自分に合う防具を見つけ出すと、次に武器、シンバルと適当な棒を手にした。それを皮切りに各自、自分にあう防具や武器を調達し始める。
「はい、竜華さんはコレね!」
「って、ハリセン‥‥なんでやねんっ」
「あふぅ、もっとやっt‥‥ぎゃーっ暴力反対!」
「ほぉ、そんなに仕置きが欲しいなら俺がしちゃるっ! 殺ってやるぜ」
 竜華は戸惑いながらT氏から渡されたハリセンを受け取るが、すぐに切り返しノリよく彼の頭に一撃。叩かれたT氏はアホな発言と身悶えるが、でこぼこの金属バットを手にこめかみの血管を浮きただせたA君を見るなり、退却をきめた。
 そんなやり取りを横目に各自、捕獲の武器を手にした出演者達は、座談になりカモシカ捕獲作戦会議を開き、自分達の行動を決めた。
「とにかく、カモシカに怪我させないことは勿論ですが、皆さんも怪我には気を付け、気を引き締めていきましょう!」
 キャッチャー防具を纏った林檎が活を入れ、捕獲作戦が開始された。


 スタッフ達はニホンカモシカ捕獲用に宛われた会議室をZebra(fa3503)の提案に従い、彼と共に柔らかいスポンジやマットでバリケードを築き、若干狭くした。
 そこに竜華の女性らしい提案で必要最小限に絞られたクラシックの音楽と森林の香りでリラックスできるお香が焚かれる。
 なんとも居心地の良き空間が出来上がった。
「う〜ん、なかなか居心地の良い部屋ですね。最後にカモシカさんの餌かお弁当の残りとか無いですか? ここに用意しておけば誘導しやすくなると思うかなぁと。やっぱりお腹が空くとみんな気が立っちゃいますもんね」
 のほほんとした雰囲気のパトリシア(fa3800)が小首を傾げながら言う。小さな身体に合わない剣道の防具で動きづらそうだ。
「良いんじゃないか? さて、私は廊下の角で待ち伏せよう。獣といえど角を曲がるには速度を落すはずだ」
 風宮は部屋のチェックを終えると、近くの角へ身を潜めた。
「なら、あたし追い込むね〜っていうより、仲間と思わせて落ち着かせる気なんだけどね」
 六月の陽気の中、お友達作戦のためかキャンペーン用トナカイの着ぐるみを衣装さんから拝借しそこにラグビー防具着用と、なんとも動きづらい格好の蒼月 真央(fa0611)。努力は認めるが、無理だと言うことは誰もが感じている。
「皆さん、僕も微力ながら‥‥頑張ります‥‥」
 アンパイアファッションで防御を固めた時雨(fa1058)、マスクの隙間から見える顔は青ざめ引きつり、膝はガクガク笑っている。彼が言う通り本当に微弱そうである。
 その様子に大丈夫なのだろうかと不安げなA君。だがそんな心配もつかの間、アノ忌まわしい? 音が響いてきた。
 ゴフゴフゴフっっ
 奴、ニホンカモシカの足音だ。廊下の絨毯を踏みつけるその音は重々しくそして激しい。未だに混乱を極めているのであろう。幸いこのフロアに居たスタッフ達は避難し、残っているのはこの捕獲隊のメンバーだけだ。
「第一陣、いっきまぁ〜す」
 しゅたっと手を上げ、カモシカの行く手を塞いだ蒼月は不敵な笑みを浮かべると、お腹のポケットに手を差し入れた。
「じゃかじゃーんっ吉備団子ぉ、じゃなくって産地直送、奈良の鹿も大好き鹿煎餅〜〜っあれ? あれ? きゃ〜〜っっ」
 が、モフモフの手の所為で上手く取り出せない。ポロポロと破片となった煎餅をホレホレと振り誘導を試みるも、着ぐるみのおかげで足が縺れそのまま廊下に見事、大の字に突っ伏する。
「な、なんでぇぇ〜〜こんなハズじゃぁ〜〜?!」
「あ‥‥危ない! こ‥‥恐いけど、来い‥‥。ぼ、僕が相手です‥‥」
 迫ったカモシカに踏まれてしまうのか? 危うし蒼月! の前に膝が笑い、及び腰の時雨が蠅取り紙を手に立つ。どうやら蠅取り紙を巻き付けて動きを止めようという魂胆らしい。
 だがカモシカの方が上手だった。彼の前に来ると、いきなり二本足で立ち上がりチョップを見舞う体勢を作る。言うまでもなく驚きたじろぐ時雨。手にした蠅取り紙を放り出し逃げようとするもそれが運悪く落ちてきてそのまま自分を捕縛してしまった。
 嘲笑うかのような鼻息を吹き、カモシカは床に倒れている蒼月をヒラリと飛び超え風宮の待つ角へ差し掛かる。
「貰った!」
 タイミング良く飛び出し、カモシカの角を押さえ込むも、すぐに振るい落とされ床に転がる。彼女を落とし一瞬、勢いが弱まるが、すぐに体制を立て直し、大きく両の前足を振り上げると怒濤のように去っていく。残された彼女は、すぐに気を取り直し、
「う〜ん、無駄に頭、使ってもダメね。次に賭けるわ」
 タライを抱えると追い込み部屋へ向かった。
「勢いが止まりませんね‥‥用意されていた吉備団子はカモシカが食べるようには思えないのですが‥‥、なら目潰しとして使ってみます‥‥少し粉っぽさが足りませんが仕方ありませんね」
 言うが早いか、やや離れたところから林檎がカモシカの顔に狙いをつけ吉備団子を投げる。しかし敵も然る者、崖上りで鍛えた足を使い軽いフットワークで避けていく。
「むむむ、猪口才な‥‥。他に何か目潰しになりそうな物は‥‥汚れても水を流せば落とせる類の物‥‥、あぁこれは良いですね」
「いかぁん、そんなモノを投げて壁紙でも汚したら洗わされるだけではなく、始末書も書かされる!」
 林檎は、なぜか床に用意されていたパイを手にすると、すぐに振りかぶる。が、投げることなくA君に素速く取り上げられてしまった。
「駄目なのですか? 仕方ないですね。ではこれで怯ませてみます」
 残念とばかりに今度は背後に用意していた鏡を取り出し、引っ掻きだす。歪なノイズが辺りに響く。その音に林檎以外は両手で耳を塞ぎ身悶え逃げ出した。
 んぎぃいぃ〜〜、ぎゅぎゃぁぁ〜〜!
 カモシカは僅かに怯みはするもすぐに怒りの表情で猛進してきた。どうやらよけい神経を逆撫でしてしまったようだ。紙一重で林檎はその攻撃をかわし、カモシカを見送った。
「次の方が無事だと良いですね」
 呟く言葉は、少々恐いことだった。
「れっつ、しょーたいむ!」
 マジシャン風の燕尾服に時雨同様アンパイアファッションのZebraが、マジック用の大きな段ボールをフロアに設置し、それを障害物としてカモシカの行く手を阻む。
 しかしそれは色々と飾り立てられてはいるものの、手作り感の漂うただの段ボール箱。彼を撮影するA君の目はレンズ越しに糸よりも細く、捕まるのか疑っている。
 そんなことを気に留めないzebraは段ボールの横でマジックタクトを振りポーズを決めている。上手い具合に突進してきたカモシカがそのまま段ボールへ突撃した。
「さあ! ここに入ったカモシカが一体何に変身する事でしょう!」
 ずっぞ!!
 なんにも変化せず、一瞬で破られた。当然の結果といえよう。
「も、もうひとつ向こうに用意してるんだ、そっちで‥‥」
「いや、もうそれはお終いにしてください。なんか某愛護協会から問い合わせが殺到してますので‥‥。よかったらカモシカでなく僕が入りますよ、アハハハ」
 zebraの肩を叩き止めるA君、その顔は真っ青でやや前屈みで胃の辺りを押さえている。よほどの強いストレスだったのだろうコワれ発言を呟く。そんな彼に誰もなにも言葉を与えられなかった。

「‥‥そろそろ本気でいかないとね」
「えぇ、あれだけ走り回ってるからそろそろ疲れているハズよ」
 追い込みに部屋の扉前で待ちかまえる風宮と竜華。そのひとつ向こうのT字通路にティタネスの姿が見える。その奥の通路にはパトリシアが立つ。上手く誘導を考えての配置。これが失敗すれば一からのやり直し、それぞれの顔に緊張が浮かんでいる。
 ゴゴゴゴッ!
「えっとぉ、何かボケないといけないそうなので、‥‥とりあえず賛美歌でも歌います」
「んな、変わった事せんでいいから! 追い込んでくれっ」
「え? よく解らないボケはいらないですか? 解りました。それじゃあカモシカさんを捕まえにいきますね」
 焦るA君を後目に、なんともマイペースでボケをかますパトリシア。しかしカモシカが迫ってくれば、その顔つきも変りだす。
 手に持つピコハンで通せんぼし、ギリギリまでカモシカを引きつける。
「来た!」
「〜〜っ!!」
 パトリシアは恐そうな唸り声を発しカモシカを威嚇。驚いたカモシカは方向を変え、次に待ちかまえているティタネスのいる通路へまたも猛進。
「ほら、こっちだよ」
 ばしぃぃん!!
 ティタネスに向かっていくカモシカ。この狭い廊下での一騎打での勝負なら抜かせない自信がある彼女だが、役割はカモシカの方向転換。部屋に追い込むために、あえて攻撃は避け手に持ったシンバルを鳴らし脅かす。
 音に驚いたカモシカがくるりと転換し後ろ足で蹴るような仕草を見せるがティタネスは軽くかわす。すぐに攻撃が無理と解ったらしいカモシカはそのまま部屋のある通路を疾走し、二人の待つ扉へ向かった。
「よしっ! ほらもう一回、驚かせて悪いけど‥‥って、かわされたかっ」
 風宮は手に持っていたタライを落とし大きな音を立て、部屋へ追い込もうとしたが音に慣れてしまったのか止まらない。彼女の頭上を得意の高いジャンプで飛び越えようとするが、そう甘くはなかった。咄嗟にタライを拾うと掲げ道を塞ぐ。カモシカは踏鞴を踏み体勢を崩した。その怯みを見逃さず絶妙なタイミングで、横首を掴んだ。しかし風宮ひとりでは抑えきれず、まだ暴れるのを竜華がアームガード等で受け流し、優しく撫で落ち着かせるように動きを固定した。
「うん、怖くないから。ちょっと暴れるのをやめようね」
 ゆっくりと部屋へ閉じこめた。


「ふぅ、ようやく終り。ありがとう皆さん! 番組を見てくださった皆さん」
 A君が嬉しそうにお礼を兼ねた締めの言葉を綴る。
 カモシカが居る部屋は少しばかり騒々しいが、もう少ししたら落ち着くだろう。今回の出演者達は、一様にボロボロな姿であるが、爽やかな笑みが満面に乗っていた。
「では、お疲れ様でしたーって、うわっ何やってるんすっか、このすっとこどっこいディレクター!」
「だって、せっかく大人しくなったんだっから、じっくりみたかったんだよ‥‥ぐほっ!」
「うわっ危ない!」
 誰もが安堵の息をつき、互いの健闘を讃え合っていたが、それもつかの間だった。T氏がまたしても扉を開けてしまったのだ。
 A君の罵倒が飛ぶ中、カモシカが内側から勢いよく扉を蹴り開けT氏をはね飛ばし、にゅっと顔を出した。愛らしい黒目がちな瞳はまだ怒りに燃えている。
 すぐに動いたのはティタネス。僅かな両角を握り部屋へ押し戻す。そのまま一緒に中へ入って行った。
「カモシカが無事に落ち着ければ満足だから、少し中で様子を見てるよ。何、あたしは別に顔で売ってるワケじゃないし、多少の怪我は問題ないよ」
 にっこり微笑むと扉の向こうへ消えていった。そういえば番組開始時に言っていた抱きしめることを可能にする気ではないのかっとA君は思った。