鈴音的声音道士 7アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/18〜06/22

●本文

 ――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
 ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
 人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
 画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
 ――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。
 画面は切り替わり、映し出されたのは質素な一室。置かれた調度品もやや古めかしい物ばかりだが、よく掃除が行き届いた場所だった。
 その部屋にいるのは動物。五匹の種類の異なる獣が己の場所を決め、銘々くつろいでいる。
「のぅ、このような生活ももう長い。そろそろ飽きてきたな」
「あぁ、しかしそう言ってもどうしょうも出来まいて」
 床に寝そべった青い蛇が鎌首を持ち上げぽつりと呟く。その言葉に座布団の上で白猫が前足を揃えて前へ出し背中を逸らせて伸びをする。
「もう少しの辛抱だとおもうわ。もっと妖怪達の力が弱まり私達に気が集まればいいのよ」
「早く集まればいいのだがねぇ。こんな姿にされて情けないやら、悔しいやら‥‥」
「そうじゃ、そうじゃ! 早く戻りたい」
「‥‥お前さんの場合、元の姿と変わり映えしないと思うがね」
 止まり木から美しい声を発する赤い金糸雀。ウロウロと歩き回る黄金色毛並みの驢馬が嘆くような口調で嘶く。のそのそと置かれた草をはみながら亀は強い口調で物を言うが、他の動物達からしらけた目で一言。
 人語を話す不可解な動物達、普通ではありえない行動をとる彼らこそ、四神と麒麟なのだ。
 このように弱々しい姿となった彼らは殆ど力を出せずにいた。彼の世界を牛耳る者によって奪われたいたのだった。
「むむ、なにやら不穏な動き‥‥鬼郷が開き、キョウシに混じり牛頭馬面が現れよった」
 蛇が床に置いた鏡を覗きこみ唸る。一同、不安の入り交じる面持ちとなった。
「鈴を道士達の元へ向けようぞ。世に害を加える妖怪を野放しには出来ぬ」
「そうね、あと妖気を神気に変えて集めれば、少しは私達も動けるわ」
「そうじゃ、そうじゃ。このままでは神気が抜けていけば青龍はナメクジになってしまうやもしれぬからのぅ」
「なにぉう、コケの生えた亀に言われたくないわっ。お主も神気が抜ければただの子亀ではないか!」
「‥‥主らはよぅ飽きぬものよ」
「こらこら、私らが争うてどうする? 早いところ鈴に言いつけるのじゃ」
 亀と蛇が言い争う。毎度のことと呆れ顔の白猫は丸くなり居眠りをし始め、その場を止めるのは驢馬。ようやく収まったところでそれぞれが鈴に念を込めた。

〜出演者を募集〜
 中国ドラマ「鈴音的声音道士」は、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
 また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
 

〜道士の法力選択〜
 ・青い鈴
 青龍
 春と東の守護神 
 能力:水 守備型
 武器 龍笛&方位計  龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
 玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。

 ・赤い鈴
 朱雀
 夏と南の守護神
 能力:炎 攻撃型
 武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。

 ・白い鈴
 白虎
 秋と西の守護神
 能力:森または道 攻撃型
 武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。

 ・黒い鈴
 玄武 
 冬と北の守護神
 能力:山 守備型
 武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。

 ・黄色い鈴
 麒麟 
 ? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
 能力:?
 武器 ?

 なお詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、能力、武器など一から決める事が出来ます。
 ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
 鈴は玄武、麒麟に限り二つに分けることが出来ます。しかし力は半分となってしまいます。また能力に適した技以外の力は、使えないことがあります。
 この五つ鈴は必ず埋めて下さい。
 四神及び麒麟の役は二名までとさせて頂きます。どの四神をするかお決めください。同時に二役、三役はお止めください。あくまでも一役でお願いします。
 また道士役の方、過去に顔出しで悪役をされている方は視聴者が混乱を起こす恐れがありますのでご遠慮ください。


妖怪情報:
 キョウシ:倒れた死体の意味を持つ。死体だが腐敗は見られないものの関節が硬直しているので跳ねながら動き回る。
 道士が簡単に死体を運ぶため術を施したものだが、道士の手や額のお札が剥がされると凶暴化し手がつけられない。今回は牛頭馬面に操られている。
 視力は良くないためか人の息を判断し襲いかかる。噛まれればキョウシとなってしまうが、ゆで卵で消毒または攻撃ができる。
 牛頭馬面:鬼郷を支配する鬼。体が大きく力があり、手には刺股を持っている。
 鬼郷:鬼や亡霊の住む街。人間界と変わらない街並みだが歩いているのはどれも死人。しかしここは地獄ではない。

●今回の参加者

 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2986 朝葉 水蓮(22歳・♀・狐)
 fa3262 基町・走華(14歳・♀・ハムスター)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3567 風祭 美城夜(27歳・♂・蝙蝠)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3739 レイリン・ホンフゥ(15歳・♀・猿)
 fa3859 無淨 惣慈(20歳・♂・犬)

●リプレイ本文


 仄暗い闇に包まれた街、鬼郷。
 行き交う人間は全て死人。そこを仕切る鬼――退屈を持て余した牛頭馬面(無淨 惣慈(fa3859))は、目の前に立つ美女を眺めながら、さも楽しげに言い放つ。
「ほぅ、この鬼郷と人間の村を同化ねぇ。‥‥面白そうじゃねぇか。いいぜ。乗った」
「うふふ、そう言って頂けると思いましたわ。ではさっそく」
「もう行っちまうのか? まったくつれない女だぜ。それにお前一人で大丈夫か? ‥‥そら、此奴を持っていきな。そのキョウシは俺が昔、道士から奪って術を施したもんだ。術を解いて使いな」
 彼に企みを持ちかけていたのは、前に鈴を奪い損ねた邪仙、雷后(桜 美琴(fa3369))。二つ返事に唇の端を上げると踵を返す。が、すぐに呼び止められた。
 荒々しい物の言い方をする牛頭馬面に冷たい視線を送るが、決して彼に悪気があるとは思ってない。この鬼郷を治めるにはこの位の気性でないと無理なのだ。
 その証拠に奥の仏閣の間から所有する女性のキョウシ(レイリン・ホンフゥ(fa3739))が現れた。彼女は雷后に歩み寄りカクカクとした動きで腕を上げ、挨拶をする。
「えぇ、ありがたく使わせて貰うわ。‥‥さぁ付いておいで」
「アいヨー」
 雷后はキョウシの額に張られた札に指でスッと印を結ぶ。突如、青白い炎が上がり札に書かれていた文字が書き直された。
 新たな配下となったキョンシを引き連れ、雷后は本当にその場を掻き消すように後にした。残された牛頭馬面はにんまりと笑み、
「くくく、いい女が持ってきた退屈凌ぎか。楽しみだぜ」
 酒の杯を飲み干し呟いた。


「あら? また鈴が。けれど色が違いますわね。‥‥それにどうなさったのかしら、以前より神様の気配が薄れている気がいたしますし、この声は? どこから聞こえてるのかしら? ‥‥鈴達から??」
「うぬ。確かに神気が薄くなっておるし、この声は白鈴と赤鈴のモノじゃ。なに? 鬼郷なる村に天へ続く道の手がかりがあると申すのか? 白鈴よ」
 赤鈴が琵琶の中に入り込み掻き鳴らすその音色を不思議そうに見る春霞(月見里 神楽(fa2122))の隣で白鈴を手にする美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))は音色を聞き分けていた。どうもこの二人、神の血筋が少しずつだが開花していた。
「ふぅん、お姉ちゃん達には何か聞こえるんだ。鬼郷? 村の人や訪れた人が帰らなくなった村があると聞いたけど、そのことかな?」
「なんにせよ、悪い妖怪の仕業やったら、倒すんは当然やろ。これ以上被害が広がる前になんとかせんとな」
 そんな二人を不思議そうに見る小風(基町・走華(fa3262))は、自分の青鈴を弄びながら、近くの村で起こっている事件の噂を話す。身を乗り出す好奇心旺盛で好戦的な法燐(敷島ポーレット(fa3611))は小風の話にのっけから突拍子もない発言。
「なんにせよ、その村を突き止めるのが先じゃな。小風、方位計で場所を掴めぬか?」
「うん。‥‥えっと、こっちみたいだよ」
 美蓮の言葉に小風は方位計を取りだし覗きこんだ。りーんっと青鈴が鳴り針はそれを合図にクルクルと回り出す。そしてピタッと止まった。方角は艮。そう離れた場所ではない。一同、顔を見合わせると方位計の示した場所を目指した。


 方位計が示す村。他の道士よりも一足早く仄暗い闇に覆われたそこにいるのは暁明(風祭 美城夜(fa3567))。人気のない広場の椅子に腰掛け、先程から潤んだ瞳で黒鈴が付いた手鏡を覗きこんでいた。確かにそうなっても仕方がない程の美しさを持つこの男。だが少し行き過ぎのように感じる。離れたところから見ていた雷后は呆れたような視線を送っていた。
「はぁ、何度見ても飽きぬのぅ。これ程の美、他にはあるまいて」
「‥‥その黒い鈴と鏡‥‥。貴方は道士様でいらっしゃいますか? た、助けてください! 私、キョウシに追われております」
「は? いかにも道士であるが、な、何、キョウシにか?」
 そんな彼の恍惚時間を壊したのは、血相を変えた女性とそのすぐ後に数体のキョウシ。慌てて懐に鏡を仕舞うと棒を手に取る。
 女性――実は村人に化けた雷后は仕舞われた鈴の位置を盗み見た。そして小さく合図を送り、キョウシと丹を飲ませ似非キョウシとなった村人達に襲いかからせた。
 彼らは一斉に暁明に迫る。棒を振り回し、
「なんと、我が美しさに心奪われておったら死人が出ておるではないか。これ寄るでない! 死人の臭気が染るではないかっ。ええい、寄るなと言うておろうがっ」
 大切な時間を邪魔された怒りも含み、爪と牙を向きだし襲ってくるキョウシを次々なぎ倒す。わりに手強い暁明に驚きを隠せない。しかし、
「っふ、貰ったわ」
「ぬ、しもうた!」
 一瞬の隙を狙った雷后の幽鬼が襲う。暁明は避けきれず服を裂かれ懐の鏡と黒鈴が落ちると、すかさずキョウシが拾い、飛びながら逃げていく。
 暁明は懸命に追うが、またも幽鬼に阻まれる。グリリと首を舞わしキョウシは捨て台詞。
「タクサン殴られてマイッタネー。イタカタあるヨー、次覚えてるヨー」
「それを言うなら覚えていろ、だ。虚けめ!」
 暁明は悔し紛れに突っ込みを入れるが、雷后からすれば五十歩百歩だと思った。


「さぁ、これで結界が完成したわ」
「そうか、いやぁ楽しいぜ! さぁ雷后。あんたもここに来て一杯やりな」
「‥‥そんな暇はないわ。好きにしなさい」
 雷后は邪笑みを浮かべ、先ほど奪った黒鈴と手鏡を翳す。禍々しい光りを放ち結界はキョウシの額に張られた御札を中心に南東、南西、北西、北東の要が陣を結んだ。実はそのうちのひとつにあの大歳の核が埋まっている。
 そんな強力な結界の中で、好き勝手やっている牛頭馬面。
 似非キョウシや死人達に村人達を襲わせ、逃げ惑う彼らを楽しげに眺めながら侍らせた女達に酒を注がせている。ここでも呆れ顔の雷后。ぷいっと彼に背を向けると、キョウシをつれ、どこかに行ってしまった。そんな彼女の態度に苦笑いを浮かべ、ぐっと酒を飲み干した。


 方位計によって鬼郷に飲まれた村に着いた道士達は、ようやく黒鈴を持っていた暁明と会い、色々と村の情報と妖怪の数を聞く事が出来た。
「‥‥それで、キョウシと村人に化けた女に鈴を取られてしまった」
「何してるのさ! 黒い鈴がなかったらコンビ技が使えないじゃないか! 鏡で顔を見るのは身支度をする時だけじゃ駄目なのか?」
「鈴を取られたことはともかく、鏡を眺められるのは不思議な事ですの? 天子様も移動の度に鏡をご覧になられましてよ?」
 小風は最後に鈴を取られた経緯を聞き、呆れたように自分の顔をぺちんと叩くと、彼に突っ込みをいれた。その態度にいじけて背中を丸める暁明。だが春霞ののほほんとしたフォローにすぐさま自尊心を取り戻した。
「取り敢えず、ここで揉めている場合じゃなかろう。すぐに鈴を取り戻すのが先決じゃ。行くぞって、う? な、なんじゃこれは??」
 村に入ろうと歩みを進めるが、黒い結界が働き弾きかれた。
「あら、ようやくお出まし? 鈴と手鏡はほら、預かっているわ。そしてこの結界の中には太歳の核も‥‥この封印解かせる訳にはいかないわ‥‥。ふふふ。さぁキョウシ達、この者達を倒しておしまい」
 キョウシを引き連れ現れた雷后。その手には黒鈴と鏡がある。にやりと笑うとキョウシ、似被キョウシを嗾けた。
「悪いやつなんやろ? とりあえず斬っとこかっ」
「いけませんわ。この方達は本当のキョウシではありません。普通の人ですわ」
「‥‥ということは斬ったら駄目なん?」
「当たり前じゃ。白き鈴音の響きに応えよ――雷虎ッ!」
 襲いかかるキョウシに光と闇を表した退魔の小刀を閃かせ迎え撃つ。が、春霞に止められ逆刃で峰打ちにしていく。美蓮も髪に付けた鈴を響かせ、牙の腕飾りを媒体に呼び出した白い虎が大きく咆哮。聖なる雷鳴が轟き非似キョウシ達が倒れ出す。
「さぁ、鈴を返してよ。それがないとオイラ達、困るんだよ」
 りりーーん。
「くく、何をおかしな事を‥‥っきゃぁぁ?! きょ、共鳴が‥‥こんな時に‥‥」
 龍笛を手に近づく小風。不敵な笑いを浮かべる雷后だが、突然、黒鈴と青鈴が共鳴し始め、神気に打たれ焼けつく痛みが彼女の襲う。灰色の長い髪が逆立ち一瞬、深紅に染まった。灼かれる痛みは鈴を持つ手に集中し、あまりの苦痛に鈴を落とした。
「黒鈴は返して貰ったよ!」
「死人との戦いなんぞ、あの臭いに染ってしまう。‥‥私はこの結界を崩すとしよう。由于美的呼吸阻止邪」
 すかさず小風は鈴と手鏡を拾い、暁明に向かって投げた。うまく受け取った暁明は結界を壊すべく、黒鈴を鳴らすと鏡に息を吹きかけ撫でる。それに合わせて小風も青鈴を鳴らし龍笛で『破撃の奏』を奏でだす。
 撫でる鏡が輝くにつれ、地面の結界も鏡のように光り始める。強い神気に耐えきれなくなった地中に潜る四つの結界の核が空に飛び出し音を立てて壊れていった。中でも太歳の核は酷い呻き声を上げ、四方に飛び散る。それに伴い、似非キョウシは皆動きを止め、その場に倒れ出す。
「おのれ黒の道士、鏡ばかり見る虚けだと思いきや‥‥」
「はん、失敬な。そんなあなたをこの結界に閉じこめましょう、止止不須反鏡」
「伊達に腕っ節一本で鬼郷をまとめちゃいねぇんだよ。なめんな人間がァ!」
 壊した結界の代りにまた別の結界を辺りに張り巡らそうとする。しかし、大きな刺股が鏡の結界に突き刺さった。現れたのは牛頭馬面。力ずくで刺股を抜き取ると、道士に襲いかかる。振り下げた先には法燐の姿、しかし、りーんと黄の鈴音が響き、真っ二つとなると同時に掻き消えた。
「残念。ハズレや、こっちやで」
「面白れぇ、来い道士!」
 本格的に戦えるとあって法燐も牛頭馬面も楽しげだ。
 法燐は両手に持った小剣を打ち鳴らし振動させてそれを詠唱代わりに様々な技を繰り出す。しかし牛頭馬面も負けてはいない。接近すれば凄まじい蹴りを放ち、大きな角を見舞う。
 やはり体格差で押され気味の法燐。にんまりほくそ笑む牛頭馬面はぶんっと刺股を振り回し、
「オラオラ、どうしたよ道士様ァ!」
「なれば、こっちも相手じゃ。白き鈴音の響きに応えよ――白蛇ッ!」
 美蓮が白蛇の式神で牛頭馬面を縛り上げる。そこに小風が龍笛で『幻惑の奏』で混乱に陥れる。
「ちぃぃ、このままやられるかっ」
 もの凄い力で式神を引きちぎった。しかし、戦闘もそこまで。壊された結界で鬼郷と村がだんだん離れだしていった。このまま留まれば牛頭馬面も帰れなくなる。彼はそう言ったことを見極めるのが早かった。
「おっと、祭りは終わりだ。ま、いい暇潰しになったぜ。じゃあな道士ども。次ん時にはもうちょっとマシになってろよ?」
「こ、こら〜、まだ勝負ついてへんやん! 逃げるなアホー!」
 かっかっかと笑い、結界の切れ目に入った。追いすがる法燐は悔しげにひと叫び。しかしもう一人、同じような人物がいた。置いて行かれた雷后。
「っふ、牛頭馬面がいない今、あなたとは契約終了です」
「‥‥キシャァァ」
 そう言うとキョウシの額の札を剥がし、毒霞を発生させ姿を眩ませた。
 札を剥がされ凶暴の状態となったキョウシは唸声を発し春霞に襲いかかる。桃の法剣で神楽舞で習った剣舞の応用するが、実戦の経験がないため軽々と吹っ飛ばされた。再度、彼女を狙うキョウシに美蓮が式神の光鴉を放ち、援護するように小風の龍笛『鎮心の奏』が聞こえる。
 怯むキョウシの隙に、立ち上がった春霞は法剣を掲げ柄に付いた赤鈴を鳴らし、
「有るべき所へお帰りなさいませ‥‥
 華を持ち歩き出そう 汝らの新しき門出 流れよ理のままに
 この地を離れようとも 汝ら悲しむなかれ いずれ戻り来る地なり
 華を持ち送りだそう 穏やかなる香りと共に 今しばし眠りのときを」
「森羅万象の詔持ちて赤き鈴の法剣に白き鈴音を!」
 静かに歌い舞い踊る。それは鎮魂歌の『華送』。優雅な動きに合わせ徐々に法剣に炎の花が揺らぐ。美蓮も鈴音と共に風を起し、その風の背に乗った紅炎がキョウシに纏うと静かにその身を崩した。


 ようやく戦い終えたのも、つかの間。春霞と美蓮は鈴と血の力を使い似非キョウシとなった村人を救うべく、動き回っている。
「それじゃ、オイラはこれで。雑伎団の団長にはぐれちまったのがばれたら叱られちゃうからね」
「うん、それじゃあね。うちもそろそろ行こう! あの牛頭馬面にしてやられたから、修行を積んでやりかえさな、あかん」
 小風が手を振る。法燐も彼に手を振り返し道を歩き出した。その小さな胸に誓ったものは大きい。
 そんな皆をヨソに切り株に座りこみ相変わらず鏡を覗いてはうっとりした表情を浮かべる暁明。
 それぞれ思い思いの道に進み出していた。

 彼らからこっそり抜け出した鈴達は、また新たな妖怪に立ち向かうべき道士達を捜しに空へ飛び立った――


「お疲れ様ー。いやぁ暑いねぇ、このスーツ」
 撮影終了後、スタッフに手伝って貰いようやく牛頭馬面の特殊スーツを脱いだ無淨。灰色の髪は額に汗で貼り付き、敷島が気を利かせおしぼりを持ってきた。
「ねぇ、うちの演技というか殺陣、どないやった?」
「うん。よかったよ。かなり迫力の演技だったと思うよ」
 顔を拭き終わり、ようやく眼鏡を掛け直し淡々と言う。しかしこれも役同様悪気があるわけではない。性格なのだ。
「はぁぅ、どうらんも暑いネ。早く化粧落とすネ〜〜」
 そんな二人の横をレイリンが団扇を扇ぎながら過ぎていく。しかしさっき顔を衣装で擦ってしまったのだろう。愛らしいパンダのようになっていることに彼女は気付いていなかった。