鈴音的声音道士 10アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
極楽寺遊丸
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
2.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/30〜08/03
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●本文
――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。
画面は切り替わりひとつの街と湖を思わせるほどの大きな河が映し出された。雄大な大河――長江。長い歴史を見守り、日々、人々の暮らしになくてはならないものである。
人でごった返すズラリと並んだ市や屋台から見るいつもと変わらない岸の風景。何十隻もの船が物資や人々運搬し、またその豊かな恩恵に与り漁をする船が、ゆるゆると水面を進んでいく。
朝から日暮れ、人々が仕事を終え引き上げ、また朝の日の出と共に仕事が始まるその時も、ずっとこのままの風景が続くだろうと誰もが疑わなかったが、それは小さな風と共に終わりを告げた。
長江を渡る西風。昼前から吹き出しそれは生き物のようにすぐに力を付け、穏やかな水面に白波を立たす。
強烈な風が巻き起り河の水がぶつかり合い、荒波となるまでさほど時間は掛からなかった。さっきまでの穏やかさとは一転した長江。
沖に出ていた船達は慌てふためき、岸へ戻ろうとするが山のような波に翻弄され、次々と呑まれていった。
その様子を岸辺で見ていた一人の老人が呟く。
「ありゃ江豚、江豚達の仕業じゃな」
「なんじゃ、爺さん。その江豚とは?」
隣に立った男が老人の見ている波間を目を凝らし覗くが、何も見えない。
「この河に住む妖怪じゃ。西風が吹くと川底から現れ悪戯をするのだ。‥‥しかし、それにしても様子がおかしい。これはやりすぎではないか? ただの悪さとは違うようじゃ‥‥。このまま放っておくと、船を沈められるばかりではなさそうだ。街も危ないのぅ」
老人は何か納得がいかない様子で首を捻ねりながらも今後の危機を口にした。
〜出演者を募集〜
中国ドラマ「鈴音的声音道士」で、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
〜道士の法力選択〜
・青い鈴
青龍
春と東の守護神
能力:水 守備型
武器 龍笛&方位計 龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。
・赤い鈴
朱雀
夏と南の守護神
能力:炎 攻撃型
武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。
・白い鈴
白虎
秋と西の守護神
能力:森または道 攻撃型
武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。
・黒い鈴
玄武
冬と北の守護神
能力:山 守備型
武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。
・黄色い鈴
麒麟
? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
能力:?
武器 ?
なお詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、能力、武器など一から決める事が出来ます。
ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
鈴は玄武、麒麟に限り二つに分けることが出来ます。しかし力は半分となってしまいます。また能力に適した技以外の力は、使えないことがあります。
この五つ鈴は必ず埋めて下さい。
妖怪情報:
江豚(こんとん) 鯨のように大きな身体に細かい柔らかな毛を持つ豚の姿をした妖怪。普段はこの長江の川底に住んでいるが、西風が吹くと現れ、凄まじい荒波を起こさせる。
あまり人前に姿を現す妖怪ではないが、今回は少々勝手が違うようだ。
●リプレイ本文
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そよりとも風が吹かない大河の畔。ロケの現場は昔の街並みを再現しているせいか道路は舗装されておらず、土を固めただけの道を行き交う機材や大勢のエキストラにスタッフ達が舞い上げる埃が容赦なく休憩中の出演者達のところにも降り注ぐ。
「んもぅ、本格的に暑いわね‥‥それにこの埃‥‥余計、オバサンには堪えるわ」
「ホントに厚いネー。けど、今回は水辺だから撮影中は少しは涼しくなるカモネー」
おばさんと言うにはまだ若く美しい邪仙・雷后役の桜 美琴(fa3369)が役の準備を終え、手に持つ扇子を忙しなく扇ぎ、日傘の下でくつろいでいる。
その隣で、今回の妖怪、江豚役のレイリン・ホンフゥ(fa3739)は、スタッフから受け取ったボイスチェンジャーや長江に沈ませた模型を動かすリモコンを慣れた手つきで操作し、不備がないか確認をしていた。
「南央です。ドラマに参加できるなんて嬉しいです。上手く演じられるか少し緊張するけど、近い歳の方もいるみたいだから楽しみ。どうぞ宜しくお願いしますね」
赤い道士服に着替え現れた慶帆役の南央(fa4181)がレギュラー出演者の多い中、物怖じせずきちんと挨拶を済ませると、スタッフの一人がメガホンを手に現れた。
「皆さん、今回は初めて大河を使っての撮影です。え〜ダイバー達が川の中で待機しているとはいえ、くれぐれも注意して撮影に挑んでください! では、宜しくお願いしますっ」
気合い十分なスタッフの声と共に撮影が開始された。
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夜。邪仙――雷后は船を使わず、妖力で水面を滑るように歩き、川の中央まで来ると懐から壷を取りだし川へ投げ入れた。
ゆっくりと沈む陶器。その中身が水の流れに合わせ出てくると水はどす黒く染まり、そしてすぐに元の色へ戻る。その様子をにんまりと眺め、
「さぁ、いつまでも大人しくする必要はない。もっと好きにして良いのだ、江豚」
呼びかけに応えるように川の底から波音と共に邪眼を携えた大きな豚、江豚が姿を見せた。
「くっくっく‥‥さぁ、どうでる? 道士達」
●
活気が溢れる町、様々な屋台と人が溢れかえる中を物珍しげに見回しながら琵琶を手に歩く春霞(月見里 神楽(fa2122))。宮廷で過ごしていた彼女にとって、ここは全てが珍しい物ばかりの場所なのだ。暢気に足を止めては屋台の主人に話をしている。彼女はどうも他の道士達と一緒だった事を忘れてしまったらしい。
「このお菓子は、何とおっしゃいますの? とても美味しそうですわ」
「‥‥あれ? 春霞かい。奇遇だな、こんな所で‥‥さすが成長期だ。でかくなった」
「まぁ、月琴さんですの? ‥‥お久しぶりでございます。ここで如何なさいましたの?」
そこへ緩く垂れ気味の裾長い服に頭から布を被り姿を覆い隠した月琴(Zebra(fa3503))が嬉しそうに声を掛けた。そう、春霞とは家系は離れているものの同じ一族である。血族としての特別な交流は無かったが、互いの顔は知っていた。
月琴は現在、見聞を広める旅中に黄色い鈴を手にし、この町に導かれたのだ。
「俺はこの鈴の呼びに応えて、この町に来た。そしたら馴染みの船乗りが妖怪の被害にあってしまったらしい‥‥」
「‥‥まぁ、そうでしたの‥‥。その鈴の色は私の持つ鈴と一緒ですわね。私達には麒麟様のご加護が付いてらっしゃるのね」
吐き捨てるように言葉を口にする月琴は端に見えないように袖に隠れる拳に怒り込めグッと握る。そんな彼の内に秘めた怒りを気遣い、帯に下げられた黄鈴を見て取った春霞は微笑み自分の鈴を取り出し見せる。
和みのある彼女に釣られ微笑みを浮かべた月琴。雑踏の中、穏やかな雰囲気が流れるもすぐに鋭い悲鳴で打ち破られた。
「うわぁぁ〜江豚だ! また江豚が暴れ出した!」
その言葉に顔を見合わせた二人はすぐに川へ向かう。丘へ逃げる人々の間を逆走し押しのけ、ようやく長江の畔にたどり着くと目の前に広がった光景に愕然とした。
鯨の如く大きな豚が、川の中から巨体を揺らし津波を作り出しているのだ。沖にいる船達は翻弄されあっという間に波に呑まれていく。
すぐに春霞は琵琶を月琴は名と同じ楽器を取り出し、黄鈴の音色で調子を合わせ弾き始める。その美しい調べは、人々の叫び声に掻き消されることなく、川で暴れる江豚に届く。
「チィィ‥‥道士達ガ現レタ‥‥コノ音メ‥‥ェ! 川ヲ汚シタ、貴様ラ許サヌ」
江豚は一瞬動きが鈍くなり、耳障りなのか忌々しげな表情を浮かべると波間に消えた。
一息入れる間もなく、心配げな小風(基町・走華(fa3262))の女の子のように高い声が響く。
「やっぱり春霞さんだったんだね! 駄目だよー、勝手に行動しちゃ、迷子になっちゃったでしょ? オイラ、心配したんだから」
「迷子? そう言えば市を見てましたら、いつの間にか一人になっておりましたわ」
暢気に応える春霞。黙ってはいるが安堵した表情の美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))は彼女を母のように温かな視線で包んだ。
●
「皆に会うの必然的になっちゃったね。みんなもこの川を渡るんだ? けどこのままでは無理そうだ、早いところなんとかしないね。町の人達も大変だけどオイラ達、雑技団も次の巡業先に行けないんだよね。何とかして収まらせないと」
「そうじゃな。またこれもあの邪仙の仕業かも知れぬ。あやつが何か仕掛けて、江豚を操っているやもじゃ。しかしいつ現れるか解らぬ妖怪を待つのも大変‥‥よき手は無いものか」
「邪仙の仕掛け? そう言えば江豚、川を汚された云々言っていたな」
「やはりそうか。思った通りじゃ‥‥」
「深き河とその妖怪を前に人は只無力だ。‥‥我らが力にならねば。あの江豚も救いたい。‥‥角煮にしたら‥‥いやなんでもない」
「あ、いい手がありますわ! お祭りみたいな騒ぎを起こして呼ぶのはどうでしょう? 料理を作ってくださる美狼さんや雑伎団の小風さんもいらっしゃいますし」
「ええんとちゃいまっか? うちがたんと料理して美味しい匂いで釣ったりましょ」
全員揃った鈴の道士達。小風はテーブルの上に両手を使い頬杖を付いて一生懸命頭を働かせ、その隣で同じように悩む美蓮。
前回、彼女は計蒙と共に崑崙山へ向かったのだが、まだ人である事を理由に神との交信を許されなかった。
どうしたらよいモノか、考えあぐねた元に現れた白鈴。ここまで離れない四神の鈴はきっと美蓮が求めるモノを察知し、手助けをしているのだという考えが過ぎり、妖怪を退治しながら極める事を誓ったのだった。
そんな美蓮の言葉に先ほどの戦いで聞いた江豚の台詞を思い出した月琴。彼の言葉に合点がいった美蓮は小さく頷く。
一見、離れてみれば華奢な青年を思わす男物の着物を纏った中性的な慶帆が表情も変えず淡々と道理と自分の意見を小さく交えた。
それを聞いていた春霞が一計を案じ、企画に二つ返事をした美狼(ゼフィリア(fa2648))はすぐに準備に取り掛かる。
「祭りか‥‥何を考えているやら」
道士達の様子を木陰で見ていた雷后は呆れ顔で溜め息をついた。
●
すでに日が傾き始めた時刻。準備を整えた鈴の道士達は船着き場にいた。辺りに美狼が手がけた料理の美味そうな匂いが立ちこめ、小風得意の玉乗りや綱渡りを披露し、一同、和気藹々と盛り上がっていく。
「‥‥あ、嫌な気配を感じましたわ。不浄‥‥と申せばよろしいかしら?」
「来るんやな!」
春霞が悪気を感じた直後、水面から現れた江豚。すぐに美狼は天鏡を取りだし印を結ぶ。
「結界は単に防御するだけやない。こういう使い方もあるんやでぇ」
水を使わせない為、最大出力で亀の甲羅型をした光りの結界が浮かび上がる。それにより長江の水が江豚の周りから退きはじめ、川底がでた。
高度な結界を作りだした美狼は歯を食いしばり、維持だけに専念する。
「グンモモ〜〜ッ! 何ヲスル!」
結界のまばゆい光りに包まれ水の干上がる中を江豚は己の技が出せずに藻掻き暴れる。そんな江豚を落ち着かせるため川底へ降りた道士達。
小風は帯に挟んだ龍笛を取りだすと青い鈴の音色と共に『鎮守の奏』と『武神の奏』を立て続けに吹き、美狼の結界の補助と桃の法剣を抜いた慶帆の攻撃力を上げていく。
「怒れる豚よ、来るがいい」
くるりと法剣を峯に返して暴れ回る江豚の攻撃を受け流し、斬るより打ち払うという派手な動きを交えかわし引き付けていく慶帆。
その間に美蓮と春霞、月琴が雷后が落としたと考える物を探す。
「なかなか見つからぬのじゃ‥‥」
「くっくっく‥‥そう易々とは見つからぬ。先の一件で少しだけだが力が増した。礼を言おう」
紫色の霧を纏い現れた雷后、必死に探す美蓮達を嘲笑った一瞬、髪が赤くなり仙女、麗君が扱っていた金属製の剣が無数打ち込まれる。「え? 麗君さ‥‥ん?! お主の目的は何じゃ!」
「不思議か? こやつの体が覚えているからな‥‥我の目的は天界の混乱‥‥天乱れれば地も乱れる。その逆も然り」
美蓮は素速く避け、垣間見えた髪の色に驚きを隠せない。その顔をさも楽しげに見つめ答える雷后。またも金属製の剣を彼らに向かって放つ。
「‥‥誰であろうと邪魔はさせぬ、我が力、侮ると痛い目を見るぞ! 白き鈴音の響きに応えよ――雷虎ッ!」
召喚され、雷を伴い現れた虎を雷后目掛けて解き放つ。鋭い咆哮を上げ、牙を剥きだし襲いかかる。が、雷后は間一髪のところ毒霧に身を隠しやり過ごした。
「お前はもしや、神人の末裔か? くぅぅ忌々しい! 今日のところは退く。江豚と遊んでおれ」
三度、江豚に向かって剣を放ち怒りを倍増させ、そのまま掻き消えた。
「グァァァ!!」
「い、いかんっ、せっかくもう少しだったのに!」
「江豚、オイラ達がおまえを鎮めてあげるから安心して! 春霞さん、月琴さんもお願い」
「まあ、これでお前が大人しくなるんなら‥‥麒麟の慈悲だ」
慶帆が少しずつ力を削ぎ落としていたというのに雷后の一撃で怒りを噴き上げさせてしまった。結界も破壊するほどの勢い。小風が小さな体でその前に立ちふさがり、龍笛を取り出すと『鎮心の奏』を奏で、それに合わせるように春霞の琵琶と月琴の歌声が響き始める。ゆっくりと三つの鈴も自らを振るわせて音を立て共鳴し合う。
「ウ‥‥ウガァぁ〜〜っ」
江豚の体から黒い霧が立ち上り天へと浄化されていった。
「ふぅ、終わったんか‥‥」
戦いの終わりで美狼の集中が切れた。結界の光りもフッと切れ、今まで塞き止められていた長江の水が道士達に襲いかかる。
「うわ‥‥」
悲鳴も上げる間もなく、水に飲み込まれていく。
「江豚、お願いや! 仲間を助けて!」
「ぶ? ぶぶ!」
美狼は大慌てで江豚に向かって助けを請うと、正気に返った江豚は解ったとでも言う風に言葉に応え、一つ潜る。
気を失う寸前の春霞を抱えた月琴、その水圧に押される小風を背に乗せ、剣を抱え泳ごうと藻掻く慶帆をくわえた。最後に美蓮の姿を探すが、見つからない。流されたのだろうかと辺りを見回す江豚の前に、小脇に壷を抱え自力で泳ぐ彼女を見つけ、そっと背に誘導した。
「ぷはぁ〜〜っ、た、助かったぁ〜」
「江豚の背中に乗っての遊泳って楽しいですわ」
「‥‥そこまで言えるのなら大丈夫そうだな‥‥流石、血筋‥‥」
「げほげほっ、我は水よりも旨い飯がいい‥‥」
「今回の元凶、邪仙の壷を見つけたのじゃ!」
陸に顔を出した彼らは口々に話す。その姿を見て美狼は心底気が抜けた。
●
先ほどの戦いから一転。周りは賑わいを見せ本当のお祭りを開いている。
「新鮮な魚も入った事やし、改めてお祭りで宴会やーー」
こっそりと江豚に新鮮な魚介類を運ぶよう頼んでいた美狼は腕を振るって次から次に料理を出す。準備万端とばかりに慶帆は法剣から箸へ持ち替え、黙々と料理を平らげていった。
大きな舞台が用意され、春霞が奏でる琵琶と自分が吹く龍笛に合わせを小風が器用に玉乗りの曲芸を子供達に披露している。その会場の隅で傷ついた人々の治療に当たる月琴。
邪仙が長江に沈めていた壷を捨てる場所を探すべく、町を後にする美蓮の後ろ姿を一度帰ったはずの江豚が川面からちょこりと顔を出し見送っていた。
彼らからこっそり抜け出した鈴達は、また新たな妖怪に立ち向かうべく道士達を捜しに空へ飛び立った――