鈴音的声音道士 11アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや易
報酬 2.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/13〜08/17

●本文

 ――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
 ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
 人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
 画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
 ――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。

 画面は切り替わり夕闇に包まれた家から、啜り泣く声が聞こえてくる。周りに立ちこめる長い線香の香りと、ひっきりなしに焚かれているお金を模した紙銭。そう、この町は今、葬式の真っ最中なのだ。幾度と無く奇っ怪な出来事に見舞われ、数名が何の前触れもなくこの世を去っていった。今夜の葬式は村長の娘。まだ若く、これから花開き人生を謳歌する矢先の出来事であった。
 誰もが打ちひしがれ涙を流す以外に何も出来ずにいる。
「‥‥おい、誰かお坊さんを呼んだか?」
「いや、早く呼びたいのは山々だが‥‥。先月、この町の坊さんも突然、死んでしまって代わりに隣町から呼んでるのだがまだ来ない」
「そ、それは不味い。早く呼ばないと魂を持っていかれるぞ」
「わかってる。しかし、来ないものは仕方がないだろう」

 丁度その頃、裏の空き地で何やら影が二つ。人の影にしては一回り、二回りも大きく、異様な気を放っている。
「おい、今回も抜かりなくいけ。もう少しであの方の‥‥羅豊の扉が開く。四神の力が弱まっている今、扉さえ開けば、この地も人も我らのモノ。神々の好きにはできない」
「しかし偵察の話によれば、計蒙が崑崙山に向かったそうではないか? 四神達の操る鈴とやらが、助けていると聞くぞ」
「‥‥あぁ、そうみたいだ。忌々しい四神‥‥鈴め。早くその鈴を奪い、あの方の復活を早めるのだ」
 二つの影はボソボソと会話を続ける。そこに丁度、雲の切れ間から月が顔を出した。
 照らし出された影の姿。それは見る者が息を飲み込んでしまうほどの異形‥‥。
 真っ白な顔の男は会話にそぐわず笑った表情のまま、一方の男は真っ赤な顔に怒り狂った表情。けして、崩れる事のないその顔は不気味といえようか。
 彼らは羅豊から使わされた冥界の鬼。地上に現れた彼らは目的を果たすべく、この町に狙いを定めたのだ。
「力が弱まれば鈴は容易に奪う事が出来るだろう。今は魂を集め門を開ける事が先決。‥‥そこにいるのだろう? 霊爽式憑よ。これだけでの魂ではまだ足りぬ。もっと魂を集めてくるのだ」
 鬼の呼びかけに、姿を見せたざんばら頭の妖怪‥‥妖怪と言うよりも霊に近い人型をした者は、鬼の言葉ににやりと薄気味悪い笑みを浮かべ、葬式の行われている家を見やった。
「行け、霊爽式憑。俺達はまだやる事が残っているのでな‥‥お前の活躍を期待して居るぞ。一人では大変ならば仲間を呼んでやる」
 言いながら鬼達は姿を掻き消していった。



〜出演者を募集〜
 中国ドラマ「鈴音的声音道士」で、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
 また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
 

〜道士の法力選択〜
 ・青い鈴 
 青龍
 春と東の守護神 
 能力:水 守備型
 武器 龍笛&方位計  龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
 玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。

 ・赤い鈴
 朱雀
 夏と南の守護神
 能力:炎 攻撃型
 武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。

 ・白い鈴
 白虎
 秋と西の守護神
 能力:森または道 攻撃型
 武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。

 ・黒い鈴
 玄武 
 冬と北の守護神
 能力:山 守備型
 武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。

 ・黄色い鈴
 麒麟 
 ? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
 能力:?
 武器 ?

 なお詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、能力、武器など一から決める事が出来ます。
 ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
 鈴は玄武、麒麟に限り二つに分けることが出来ます。しかし力は半分となってしまいます。また能力に適した技以外の力は、使えないことがあります。
 この五つ鈴は必ず埋めて下さい。
 

妖怪情報:
 霊爽式憑(れいそうしきひょうい):葬式に現れるざんばら頭をした幽霊に近い妖怪。参列者に紛れ込み、死者の魂を貪ると言われている。僧侶はその気配を強く感じ、姿を認める事が出来る。なので僧には弱く、立ちはだかれると手出しできない。

 冥界の鬼:笑った表情の白い顔をした鬼と、赤い顔の怒りの表情を浮かべた鬼。彼らはあの方の配下。しかし今回、すでに姿をくらましている。

●今回の参加者

 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2726 悠奈(18歳・♀・竜)
 fa2986 朝葉 水蓮(22歳・♀・狐)
 fa3262 基町・走華(14歳・♀・ハムスター)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3578 星辰(11歳・♀・リス)
 fa3656 藤宮 誠士郎(37歳・♂・蝙蝠)
 fa3739 レイリン・ホンフゥ(15歳・♀・猿)

●リプレイ本文


 撮影現場の裏手にある休憩所に着替えを済ませた出演者達が台本の最終確認をしている。
「うぅ、こんな綺麗な服は撮影でしか着れないから、がっかりヨ〜」
「そうですね、なかなか着られませんものね。けれどとても似合ってますわ」
 CGを使うため先に撮影を済ませた霊爽式憑役のレイリン・ホンフゥ(fa3739)が、白い着物に見事な刺繍が施された古風な姫君の衣装を摘み、切なそうに溜め息を付く。それに相づちを打つのは春霞役の月見里 神楽(fa2122)。今回は黄色と白の黄鈴、麒麟の道士服ではなく赤と薄桃で構成される赤鈴の朱雀の道士服を着用した姿だ。普段のおっとりとした雰囲気を打ち消すように活発な印象を与えている。
「えぇ、物語も佳境に入ってるみたいだし、近々、この煌びやかな衣装ともさよならかもね。まぁ、それはさておき、皆、今回も頑張ろうね」
「うん! 今回も宜しゅうお願いしまーす」
「こんにちはー、悠奈です。初参加でアクションも初めてだからドキドキだよ〜、足を引っ張らないように頑張るね」
 レイリンの言葉とディレクターから聞いた事を重ねた雷后役の桜 美琴(fa3369)は、少し寂しげな笑顔を見せるが、すぐに気を取り直す。そこに少女のように愛らしい雑伎団の少年を演じる小風役の基町・走華(fa3262)と、娘の幽霊、明華役で登場の悠奈(fa2726)が、支度を整え、そこにいる皆に挨拶をした。
「そろそろ、お時間です!」
 彼らの話の途切れを見切ったスタッフが声を掛ける。さぁ、今回も撮影開始だ。


 鬼達が掻き消える前――、妖艶な肢体に紫の霧を纏わせた女が立った。この女はそう邪仙、雷后だ。
「良ければ私も手を貸そう。早く扉を開いて欲しいからねぇ」
「お、お前は‥‥雷后。それはあの方のご指示か? いや、違うな‥‥、勝手な行動は慎めと言われてないか!」
「まぁ、そう怒るな、白。雷后は手伝うと言っているのだ、任せようではないか‥‥、しくじるな、雷后。期待している」
 雷后の言葉に白面の鬼は怒りを露わにするも赤鬼に諭される。顔を見合わせ、二人の間でしか解らない通信を交わすと、鬼達は雷后に目配せで合図をし掻き消えた。
「くっくっく、そうでなくっちゃ面白くないわ。そら‥‥霊爽式憑よ、お前の力を強めるため丹をやろう。早いところ魂を集めてくるのだ」
「解ったワ‥‥」
 俯き含んだ笑いを浮かべた雷后は傍に立つ白く半透明の霊爽式憑に向かって命じた。


「また会えたけど、この雰囲気じゃ素直に喜べないね」
「あぁ、確かにな。‥‥村じゃ葬式、んで二日酔いの頭が重くなる程の霊爽式憑の妖気。この厄介な重い気と二日酔いを打ち砕くにゃぁ、まずは迎え酒だ」
「うぬ。確かに厄介じゃ。しかしどうもそれ以上に嫌な風が吹きだしているのを感じるのじゃが‥‥」
「アイヤー、みんな再見! 病人が出たと聞いて来たアルが、病人ではなく死人ばかり‥‥これじゃ看護ができなアル。それに皆の悲しみが心に響くアルよ‥‥。けど泣く前にやるべき事をやっておくアル」
 少女と見間違うほど華奢な小風は散歩中、追いついた他の道士達を見つけるとお茶に誘った。小風が所属する雑伎団も色々と足止めを食らいこの町で休業していたのだ。
 浮かない表情の小風の頭をワシャワシャとひとしきり撫で回した天曹(藤宮 誠士郎(fa3656))は、かばりと酒瓶を口に含む。その隣で何か考え込む美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))。同じように春霞も黙ってお茶を飲んでいる。静かな空気が流れたのは僅か数分、太い一本の三つ編みを左右に揺らし大きな医療箱を抱えた星麟(星辰(fa3578))が輪の中に元気良く入ってきた。男勝りの彼女は医者見習い。どうも死人が増え続けるこの町の主に呼ばれたらしい。
「星麟さん、久し振りだね。町の人だけでなく鈴にも呼ばれてきたんでしょ? これで五つの鈴が揃ったね、さてこれから‥‥」
「お、お願い‥‥た、助けて‥‥」
「??」
「な、なんだ?! 気配を感じるアルっ」
「そこに霊がおるのじゃ。小風、龍笛を吹くのじゃ」
「う、うん」
 彼らの傍に新たな人の気配がした。が、誰もいない。キョロキョロと見回す春霞と星麟。巫女である美蓮は落ち着いたまま一言。小風は言われた通り青鈴の付いた龍笛を吹き始めた。清らかな青鈴の音に混じる細い笛音に導かれ、うっすらと姿を現した少女の霊。その表情は悲しげで懇願するように手を胸の前に組んでいる。
「あ! 葬儀の最中の町の主の娘さんアルか? えっと‥‥」
「明華と申します。私が見えるんですね、皆様から見える神々しい光にもしや? 思って参りました。お願いです。私は死んじゃったので何も出来ないけれど、亡くなった人々の魂が悪い妖怪に連れていかれてるのです! このままでは成仏出来ません。助けてください道士様」
「その話‥‥私は本気で怒りましてよ、死者を冒涜する行為は誰であろうと許されませんわ」
「話は決まったね。霊をオイラ達、皆で成仏させてあげようね」
「嬉しい、お願いします!」
 切実に訴える明華の言葉に珍しく怒りを露わにする春霞。拳が白くなるほど握りしめている。その横で話を承諾した小風に嬉しさのあまり抱きつこうとする明華。だがスっと身体が彼の上を掠めた。そんな様子につい酒を吹き出しそうになる天曹の背後から、また新たに声が聞こえてきた。
「お前、ここにいたのか。こっちへおいで。その若さで死ぬとは‥‥残念だな。恨むなら毒を盛った私ではなく、見鬼の力を持った自分を恨みなさい‥‥」
「今回の黒幕もお主か‥‥」
「心外だな、今回はタダの協力者に過ぎないのだが」
「よう、姉ちゃん。ホントに頑張るねぇ〜。歳考えなよ、見た目は若いが俺の師匠のじーさんと大差ないだろ? おや、ここにいるのは、あんただけじゃないな? 妖怪照真天鏡光波!」
 紫の霧を纏う雷后がクツクツと可笑しげに声を上げながら道士達の前に現れた。それぞれ素速く体勢を整える。美蓮は護符を取りだし身構え、雷后に向かって呆れた口調で話しかける。それを聞いた雷后は片眉を上げて軽く否定。そこに天曹が鋭い悪態と共に空に天鏡を翳した。光りに応えるように力強く黒鈴が鳴り『照妖鑑』の術。強い光りが雷后を掠め、その背後にいる霊爽式憑が見えだす。
「ふん、煩い男だ。そいつからやっておしまい、霊爽式憑!」
「シャァァ〜〜ッッ!」
 声にならない唸りを発し、霊爽式憑が道士目掛けて真っ赤に燃える火の玉を繰り出しながら彼らの生気を吸おうと襲いかかる。酔っぱらったように上半身を柔軟に動かし千鳥足で避ける天曹と護衛の本分を忘れ三節棍を振るう星麟。だが、実体のない霊爽式憑には打撃技は効かない。
「そこを退くのじゃ! 白き鈴音の響きに応えよ――ッ白蛇!」
 りりーんっと白鈴が鳴り髪を結う紐を媒体に美蓮は真っ白な大蛇を呼び寄せる。美蓮の声にすぐ屈む二人。蛇はその二人を飛び越え、向かってくる霊爽式憑に巻き付き締め上げた。そこに再度、龍笛を吹き始める小風。
「こっちにくるのだよ。さぁ、人々の霊が待っているよ」
「い、いやぁ」
「あ、雷后! 逃げるのですかっ。ええと、どちらを追い掛けたらよろしいのかしら?」
 戦いの隙を見て雷后は明華を捕まえると、逃走に気付いた春霞が繰り出す法剣を避けるようにその場から消えた。
「しまった、美蓮さんこの場は任せたよ! 追おう! 青龍様、お力を与え道を示してください! ‥‥あっ、こっちだね」
「あぁ、うちも倒したらすぐに追う、一刻も早く明華を探すのじゃ!」
 咄嗟に小風が方位計を取りだし青龍に祈った。僅かに残る明華の霊気を頼りに方位計の針はグルグル回った後、北を向く。美蓮を残し、他の道士達はその気の後を追った。


 古寺の中。幾つも否、数十もある町の人の幽霊が特殊な紐で縛られ、それだけでは足りず攫ってきたまだ生きている人間を檻の中に閉じこめられいた。
「‥‥な、何でこんな酷い事を?」
「ふふふ‥‥、それもこれも我らの為。悪く思うな、その僅かな霊力が災いを呼んだのだよ」
「あ、あぁ‥‥!! ‥‥は、い‥‥解り‥‥まし、た‥‥スズを」
 怯える明華の口をこじ開け、雷后は袖の中から出した丹を呑ませた。瞳の色がさっと赤色となると、淡々とした口調で語り出す。
「さぁ、行け! 鈴を奪っておいで」


 町の外れ、古ぼけた寺を小風の持つ方位計が示す。
「明華さんはここにいるみたい」
 ばきぃ!!
「あ、いた! けど‥‥うわぁ」
「な、なんでこんなに沢山の霊がいるのです?」
「ちぃぃ、わらわら出て来てもらっちゃ困るんでね、鈴よ、ちっとばかし気張ってもらうよ! 結界之陣、杏黄旗」
 針の位置を見た星麟が、寺の扉を勢い蹴り開く。とたんに凄まじい霊気と異様な気配が辺りに漂った。驚く春霞の頭を押さえ伏せさせる天曹は、さっきこの寺の周りを杏の小枝で囲った結界を鈴音と一緒に発動させる。柔らかな光が寺を包むと飛び出そうとした霊達が動けなくなった。
 その間に奥に縛られていた明華を星麟が助け出す。
「あ、あり‥‥がとう。ど、道士様‥‥鈴の力を‥‥貸してください」
 起きあがった明華はなぜか実体となっている。不思議に思い一瞬躊躇した星麟に明華が鋭い爪を浴びせようとする。殺気を感じ素速く後ろに跳ね難を逃れた星麟。しかし明華はそれでも食い下がり、襲いかかってくる。
「くっくっく、これはなかなかの余興だ」
「何をしたのです? 許せませんわ」
「おいらも許せない!」
 部屋の隅から姿を現した雷后はさも楽しげに笑いながら、明華の戦いを見ている。
 凄まじい怒りを帯びた春霞は、小風の青鈴と龍笛が奏でる防御力、攻撃力の上がる『鎮守の奏』『武神の奏』の連続した曲調に合わせ、桃の法剣を使った大空高く舞う聖獣を模した『朱雀舞』を舞う。徐々に剣に真っ赤な火を帯び、小さな火の玉がへろりと雷后の元に飛ぶ。
「おやまぁ、こんなものなのか? 今日の赤鈴の道士は? なんとも情けない」
「やっぱり、白鈴‥‥美蓮さんがいないとなのでしょうか‥‥」
「そいう言えるのも今のうちじゃ! 白き鈴音の響きに応えよ――ッ雷虎!」
 皮肉めいた笑いを浮かべ手で軽く火の玉をはね除ける雷后を目の当たりにした春霞は、悔しさで更に唇を噛む。そこに凛とした声と鈴の音が聞こえたかと思うと、光りを帯びた真っ白な虎が姿を現し、雷后を壁まで弾き飛ばす。突然の痛みと霊爽式憑がやられたことに雷后は目を見張り、
「な、なに、霊爽式憑を‥‥? そ、そんなはずはない! ぴぃぃ」
「なんじゃ?! ふ、封じたと思うたが‥‥無理じゃったか!」
 口笛を吹く。その音が終ると同時にボロボロに傷ついた霊爽式憑が姿を見せる。雷后に変わって目を丸くしたのは美蓮。
「あぁ、いたか! もう、私との契約分はここまでだ。あとは好きにするが良い」
「待て、逃げる気か? 雷后、勝負は付いておらぬぞ」
「ふふふ、そんなに私を倒したいか? 倒してところで天女が一人死ぬだけだ‥‥まぁ、今度こそ倒して、その鈴を奪ってみせる」
 呼び寄せた霊爽式憑に素速く呪を施し、闇に掻き消えようとする雷后に向かって美蓮が言い放つ。しかし雷后の方は意味ありげな一言を残し、そのまま消えていった。
「さて、早いところ妖怪を倒して明華さんを正気に返し迷える霊と一緒に送ってあげよう。龍笛‥‥皆を導いてあげて! 『浄化の奏』」
「そうだな‥‥結界之送、百霊旗!」
「そ、そうアル! 今は実体化しているからもしかしたら使えるかもアル? 生命の守護である麒麟の名において大地の精もって健全に復すべし、快功治癒! 急々如律令!」
 先ほどよりも更に凶暴と化した霊爽式憑が、見境なく暴れ回っている。それを抑えるのは先ほど美蓮が放った雷虎。しかし限界も近付いてきている。
 小風が龍笛を奏でると、シャンっと赤鈴を鳴らし春霞がゆったりとした動きで鎮魂歌『華送』を舞う。手に持つ法剣に灯が点った。天曹の葬魂結界により春霞の法剣の炎がゆっくりと魂を導く道となった。
 星麟は一か八かで鈴を取りだし、実体となっている明華に向かって呪文を唱える。呪文に応えるように鳴り響く黄色の鈴に悶え苦しみだす。
「行くぞ、春霞! 森羅万象の詔持ちて赤き鈴の法剣に白き鈴音を!!」
「は、はい!」
 美蓮が術符を投げる。華送から朱雀舞へと切り替えた春霞の法剣に護符が巻き付き、凄まじい炎を上げたかと思うと火の鳥が生まれた。二つの鈴音と劈くような火の鳥の鳴き声が霊爽式憑を襲う。悲鳴を上げる間もなく炎に包まれ用意された天への道へと一緒に舞い上がった。そこにようやく正気に返った明華が咄嗟にその炎に包まれた足を掴んだ。
「本当に有り難う御座いました。今度生まれ変わったらお会いしたいです」
 生前と変わらない笑顔を皆に向け天へと上がっていった。


 戦いの後、ようやく明華の葬儀も終わり、僅かにしんみりとした道士達。小風と春霞は亡くなった方の弔いのため町に残ることを決め、美蓮と星麟は、次の旅へと町を後にした。もう一人、天曹は今回の事件を重く捕らえ、町外れの酒場で酒を飲みながらぽつりと呟いた。
「やれやれ‥‥こりゃ本格的になりそうだねぇ。気は進まんが師匠ん所戻ってみるか」

 彼らからこっそり抜け出した鈴達は、また新たな妖怪に立ち向かうべく道士達を捜しに空へ飛び立った――


 暗い部屋の中。水鏡を前にした雷后がそっと呟いた。
「我が眠りし半身よ‥‥」
 鏡に映っていたのは大きな門。すでに半分、開き掛けていた――