鈴音的声音道士 12アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや易
報酬 2.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/27〜08/31

●本文

 ――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
 ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
 人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
 画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
 ――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。
 画面は切り替わり、映し出されたのは、質素な一室。いつものようによく掃除が行き届いた場所だ。その部屋にいる五匹の種類が異なる獣がほとほと困ったように話をしている。
「のぅ玄武、お前さんはちぃと張り切りすぎではないか? 身体が小さくなってるではないか」
「うぬ、うぬ。前回、前々回と鈴に与える神気をちぃと遣いすぎたのだから。しかし計蒙が崑崙山に入り、もうすぐ朗報を持って参るだろう。その前に招揺山に寄って貰い猩々から祝餘の花を持ってこさそう。さすれば神気も完全とは言わないが回復する、青龍よ、計蒙にそう伝えてくれ」
「‥‥ワシをナメクジ扱いしておいて都合の良い時ばかり使うな」
「まぁ、そう拗ねるでない、青龍。それは私達にも関係のあることなのだ。早く鏡で知らせておくれ」
 止まり木にいる金糸雀が赤い羽根を羽ばたかせ、心配そうに水槽の中で泳ぐ小亀に問うた。その美しい声に応える黒い小亀は忙しそうに手足をばたつかせ水槽の縁に掴まろうと必死に藻掻く。
 小亀の言葉に恨みがましい目を向けた青蛇だったが、ゆったりと草をはむ黄色い毛並みの驢馬に絆されて渋々鏡を覗き込んだ。
「おぉ、居った。計蒙よ‥‥こっちに来る前に猩々のところに寄り祝餘の花を貰ってきてくれ、なるべく急いでだぞ。お前一人で大変だったら道士達をそこに導くのでな、手伝って貰え。そして彼らと共にここに参られよ」
 他の四匹が騒ぐ中、座布団の上で眠っていた白猫は片目を開けてその様子をみた後、またひとつ欠伸をしぱちりと目を瞑った。

 また画面が替わり、招揺の山中。人によく似た姿をした猩々の親子は、必死に逃げていた。
 彼らを追うのは霊爽式憑を操っていたあの鬼達。素速い動きで木々をなぎ倒し、黄金に輝く美しい山を見るも無惨な姿へと変えていく。
「そら、こっちへ来い猩々。お前は我々の元で色々として貰うことがある」
「追い詰めたぞ! もう逃げ場はない。大人しく来て貰おうか」
 崖に追い詰められた親子。父親の猩々は我が子を背後に回し必死に庇う。ふぃっと空間をよじりそれぞれ鞭と刺す股を取り出した鬼達はジリジリと彼らに詰め寄る。なにも武器を持たない父親は観念したのか俯き、子供を抱えると崖から身を躍らせた!
 子供の小さな悲鳴と共に崖下に流れる水飛沫の舞う川へ吸い込まれていく。
「くっくっく‥‥、まったく素直に掴まっていれば良いものを」
「これは助からないだろう。まぁ仕方がない、最後の仕上げだ畢方、山に火を放て! 全てを燃やすのだ」
「ヒッポウ!!」
 崖下を覗きこむ鬼達。猩々達が上がってくる様子のない川を一瞥すると、空を飛ぶ怪鳥に命じる。その声に反応した怪鳥――畢方は上空でくるりと輪を描くと、鋭く尖った嘴から青白い火を金銀に輝く木に目掛けて吐き出した。
「くっくっく‥‥‥これで一つ神の山を仕えなくしたわっ! あの方が目覚めた時、これで動きやすくなるわい」
「あぁ、もぅ半分は開いた! もう少しじゃ‥‥もう少し」
 高らかな笑いを残し鬼達はその場から掻き消えた‥‥。
 猩々の親子は飛び降りた崖からだいぶ流され、水の流れが緩やかになった中洲に流れ着いていることなど知る由もない。


〜出演者を募集〜
 中国ドラマ「鈴音的声音道士」で、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
 また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
 

〜道士の法力選択〜
 ・青い鈴 
 青龍
 春と東の守護神 
 能力:水 守備型
 武器 龍笛&方位計  龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
 玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。

 ・赤い鈴
 朱雀
 夏と南の守護神
 能力:炎 攻撃型
 武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。

 ・白い鈴
 白虎
 秋と西の守護神
 能力:森または道 攻撃型
 武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。

 ・黒い鈴
 玄武 
 冬と北の守護神
 能力:山 守備型
 武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。

 ・黄色い鈴
 麒麟 
 ? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
 能力:?
 武器 ?

 なお詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、能力、武器など一から決める事が出来ます。
 ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
 鈴は玄武、麒麟に限り二つに分けることが出来ます。しかし力は半分となってしまいます。また能力に適した技以外の力は、使えないことがあります。
 この五つ鈴は必ず埋めて下さい。
 

妖怪情報:
 猩々(しょうじょう):美しい招揺山に棲む人型の妖怪、耳は綺麗な白い毛で覆われ、普段は這って歩く。口数は少ない。
 畢方(ひっぽう):一本足の鶴の形をした妖怪。全身、青白く所々に赤い斑点が付き長い嘴は白く鋭い。「ヒッポウ、ヒッポウ」と鳴く。
 計蒙(けいもう):神の使いとされる妖怪。竜の頭を持ち身体は人。沼や池で遊ぶのが常でつむじ風と雨を降らす力を持っている。
 冥界の鬼達:笑顔を貼り付かせた白鬼と怒りの表情の赤鬼。どうもこの二人はあの方を目覚めさせるために奮闘している。
 
 招揺山(しょうようさん):猩々の親子が住む、楽園といっても過言ではないほど美しい山。この地のみに育つ韮の花の形によく似た強い神気を持つ祝餘(しゅくよ)や、実を食せば体が軽くなり花は四方を照らし道に迷わないという迷穀(めいこく)といった不思議な花や植物が豊富である。

●今回の参加者

 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2986 朝葉 水蓮(22歳・♀・狐)
 fa3262 基町・走華(14歳・♀・ハムスター)
 fa3280 長澤 巳緒(18歳・♀・猫)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3578 星辰(11歳・♀・リス)
 fa3656 藤宮 誠士郎(37歳・♂・蝙蝠)
 fa3739 レイリン・ホンフゥ(15歳・♀・猿)

●リプレイ本文


 招揺山の傍。小さな名もない山の中腹にある洞府から声が聞こえた。
「怠け者のお前が何時になく真剣だのう‥‥天曹よ」
「チビや嬢ちゃん達が頑張ってんだ、俺も気張らにゃいけねぇって思っただけだよ、じーさん」
 嗄れた年寄り声の後に、言い回しは悪いが天曹(藤宮 誠士郎(fa3656))なりの敬意を含ませた独自の言葉回しと低い声が聞こえる。
 彼の師である玄北老師は別に叱ることはしない。この二人の間にある気がその枠すら超えさせているのだ。
 玄北老師は無言のまま杖を天曹の手に持つ袋へと向けた。そこには四神の鈴、黒鈴が小さく揺れ何とか音を鳴らしている。
「ん? こりゃぁいけねぇ‥‥鈴の神気が弱まってらぁ‥‥」
「それに招揺山から唯ならぬ気配が漂っている」
「あぁ、鈴も来いと呼んでるみてぇだ。じーさん、行ってくる」
 すぐさま立ち上がると天曹はドア代わりの布を上げ、藪を走っていった。


「あの馬鹿共め‥‥。山の価値を知らず要らぬ事をして‥‥」
 白と赤の鬼が消えた招揺山。畢方(レイリン・ホンフゥ(fa3739))がさも嬉しげにあちこちの木に火を吐き出し付け回っている。その様子を離れた場所から見ている邪仙、雷后(桜 美琴(fa3369))。
 苛立ちも露わに形の良い唇を噛みしめ策を巡らす。
 ふと視線を落とせば、中洲に倒れる妖怪の親子が目に止まる。それを見、なにか策が思いついたのだろう。噛んだ唇を嬉しげに引き上げ、彼らの傍に降り立った。
「もし‥‥大丈夫でございますか?」
 小さく呼吸をしているのを確認し、二人を揺する。ようやく目を覚ました父親の妖怪――猩々がいきなり威嚇の声を上げた。
「大丈夫でございますね? 落ち着いてください、私は旅の道士。たまたま倒れている貴方達を見つけたのです。どうぞご安心ください」
「ウゥ‥‥ア‥‥アリガトウ‥‥。私ハ猩々」
「そうですか? まぁ‥‥大変! 坊やが怪我をしていますわ、どうしましょう?!」
 道士になりすまし猩々を助ける事に成功した雷后は、まだ起きない子共の足を爪で傷つけ叫ぶ。
 そうとは知らない父親は川に飛び込んだ際に傷つけたものと思い雷后に、
「スマナイガ肩ヲ貸テホシイ。祝餘ノ花、取リニ行ク」
 彼女は黙って頷き、猩々を助け起し子供を抱える。彼の案内の元、目的を果たせる事への喜びを俯かせた顔に乗せていた。


「なんか皆と会うの当たり前になっちゃったね。あ、良い意味でだからね」
「んなこたぁ、言わなくたって解ってるよ坊主。それよりもこの煙‥‥どっかで火が付いてるな。それを消すのが先決だなぁ‥‥」
「計蒙殿もそう思うてるようじゃし、彼が言う猩々の親子の姿が見えぬのが心配じゃな」
「あぁ、鳥や動物が怯えているのは煙の所為ばかりではないな‥‥妙に気配も淀んでいる。これはただの山火事では無さそうだ」
 青鈴が操る方位計に導かれ招揺山に足を踏み入れた愛らしい少女のような容姿をした雑伎団の少年、小風(基町・走華(fa3262))。ここでまたも道士達と会い、彼らに長い髪を揺らし焦りながら挨拶。もちろん意図を理解している天曹は彼の頭を撫で、あちこち火の手が上がる山をいつになく真剣な眼差しで見据えてる。
 計蒙の護衛を務める美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))が彼に変わって言葉を紡ぐ。その隣では辺りを見回し煙から逃げ惑う動物達の様子を伺う飛麗(長澤 巳緒(fa3280))。彼女はすでに何かに感づいているようだ。
「あのぅ‥‥美蓮さん。計蒙さんが何か言いたげで‥‥えぇ? こっちに何かあるのですね」
「行ってみるのアル!」
 美蓮同様に神の一族の末裔である春霞(月見里 神楽(fa2122))にも計蒙の声を聞き取る力があるらしく、傍にいる竜頭人の妖怪を恐れることなく促されるまま足を動かす。それに合わせ彼女と同じ黄鈴を持つ星麟(星辰(fa3578))が皆に声を掛け彼らの後を追った。
 彼らは計蒙が進む後を付いていく。
 小一時間歩いただろう、森が拓けた。そこは幻想のような場所。見た事のない花が咲き乱れ、香しい芳香を放っている。思わず小風が走り花に近づいた。真っ白で清楚な花は彼の指先で小さく揺れる。
「うわぁ‥‥綺麗な花だな。オイラ、こんなの初めて見たよ」
 嬉しげに微笑む。追いついた道士達も美しい景色に暫し見取れた。が、束の間。六人の持つ神鈴が警告を発するように鳴り出す。
「な、なにアルか?」
「何だ? ここいら物騒な気配は‥‥もしや? あぁ、やっぱりな。姉ちゃんよ、こんな事して楽しいかい? 懲りないねぇ」
「くっくっく‥‥、口が減らない黒鈴よ。思ったより遅かったな。お前達の目的はこの猩々の親子ではないのか? さぁ、その花から離れろ」
「お前がやったのか? 正に悪鬼羅刹の所業。惨いな」
 音に驚いた星麟の声に一同が一番、殺気立った一つの場所に視線を注ぐ。そこには猩々と共に雷后がいた。さっきの優しい微笑みは道士を見た途端に酷く冷たい笑みへと変わっている。ようやく騙された事に気付いた親子は腕をねじ伏せられ逃げる事が出来ない。
 人質を取られてしまっては、彼らも手が出しづらい。天曹と飛麗は悪態を付くも後退し始める。っと、空から劈くような鳴き声と共に無数の火の玉が落ちてきた。
「ヒッポーウ、鬼様のお二人に命によりこの辺も燃やしちゃうネ〜。きちんとお仕事すれば、あの方に沢山褒めて貰えるネ〜」
 空で輪を描きながら甲高い声を発し、激しい炎を吐き出す畢方。
「酷ぇもんだな、妖怪共も本腰か‥‥堪んねぇなぁ‥‥おい、鳥野郎、いい加減にしろ! 宝貝・三十三天黄金搭!」
「よぉし、戦闘開始だね! 僕は縁の下の力持ちに撤するよ。皆、頑張れ」
 玄北老師から黙って持ち出した結界宝貝を天高く上空の畢方目掛けて投げる。阿吽の呼吸で小風が『鎮守の奏』『武神の奏』を奏で、黒と青の鈴の音が一つに重なる。
 道士達の目が畢方に行った隙をつき雷后が猩々を投げ出し花に駆け寄る。
 小風は気付くも手を離せない。が、
「・・・・そろそろ終わりにしようかのぅ‥‥白き鈴音の響きに応えよ――雷虎ッ!!」
「雷后よ、お前の好きにはさせない」
 咄嗟に反応したのは美蓮。牙の腕輪から鋭い電撃と咆哮を上げる雷虎を雷后に向けて召喚した。怯んだ雷后の隙を見逃さず、高く飛んだ飛麗が法剣を打ち下ろす。
 間一髪、素速く後ろに避けた雷后だが、胸から腰に掛けて大きく斬られた。
「ちぃぃ‥‥退け! さもなくば‥‥!」
 やられてばかりの雷后ではない。フッと唇を尖らせ大量の紫色に淀む毒霧を発生させた。飛麗と美蓮が怯む番。毒霧の中から金色の剣を無数に投げる。
 寸前でかわす彼女らの隙を見て、雷后は祝餘の花をパッと摘むと、
「もう用はない。畢方が全てを燃やすだろう。くっくっく」
 一つ言い残すと美蓮と飛麗に攻撃態勢を整えさせず、さっと霧の中に掻き消えた。
 悔しさで諦めきれないのか飛麗は腹立ち紛れに法剣を振る。
 美蓮も毒霧を微量だが吸ってしまい咽せていた。
「おい、こっちを手伝ってくれ!」
 しかし残った妖怪畢方を相手している天曹の一言でそっちに走る。が、飛麗は一つ気付いた猩々親子の安否を。
「あぁ‥‥そういえば猩々はどうした? すぐに手当を」
「それは大丈夫アルよ。やっぱり身体を壊した親子は見捨てられないアルね、飛麗さんってば優しいアル! ちゃんと俺達が手当てするから‥‥麒麟の名において大地の精をもって健全に復すべし、快功治癒、急々如律令!」
「えぇ、お任せください」
 心配も星麟と春霞が猩々を抱える姿で瞬時に吹っ切れた。星麟は腕輪に付けた黄色鈴を春霞は琵琶に付けた同色の鈴を優しげに鳴らし、詠唱と琵琶を奏でる。癒しの効果が高い黄色の鈴はたちまち猩々の傷を塞いでいった。
「さて、残るは畢方だ。黒鈴の力が弱まっている今、奴を閉じこめておくので手一杯だ、後を頼んだぜ」
「解った。白き鈴音の響きに応えよ――白蛇、光鴉ッ!!」
 天曹は神経を集中させなんとか畢方を閉じこめておくのに専念している。美蓮が白鈴を二つりりんっと鳴らし光鴉を召喚。結界の中だというのに高く飛び、未だ大きく翼を羽ばたかせ炎を粉を撒き、火の玉を吐き続け木々を燃やす妖怪に攻撃を仕掛けた。立て続けに放った白蛇で鶴のような羽根を縛り封じる。堪らず地に落ちてくる畢方。
「ヒッポーウ、何をするっ! 仕事の邪魔ヨ、やっつけるヒッポーウ」
 縛られてなお、暴れ長い嘴の先から火の玉を無数に吐き出す。小風と青鈴の奏でる『沈静の奏』で畢方は攻撃力を激減させられてる。そのおかげで道士達の痛手は軽減されていた。が、あまりに長引けば良くはない。
「森羅万象の詔持ちて赤き鈴の法剣に白き鈴音を!」
「赤鈴、白鈴‥‥法剣を光の刃に‥‥非道を働き世を乱す行為、許さん! 封ッ」
 美蓮の投げる護符と共に白鈴が鳴り響き、飛麗の赤鈴と共鳴し合う。飛麗は大きく桃の法剣を掲げ、高く飛び上がり二つの術が合わさる発光する光剣を畢方目掛けて振り下ろした。
「ぎゃぁぁ」
 畢方がけたたましい悲鳴を上げ消えゆく中、星麟が妖怪に向かって小さく歌を歌った。
「ヒッポウ、ヒッポウ、無く声は? 山海経、南海山の項に曰く鳥有り、これ現ると干ばつの兆しなり。泣く声、自ら名呼ぶ。山よ、地に満ちる生ある者よ。鈴の音を以て癒され給え」
 歌に合わせるように春霞も琵琶を奏でた。


 燻る木。畢方の放った火を消し止めるべく天曹は黒鈴に活を入れ招水結界の術を唱える。
「もうひと息だ、頑張ってくれよ! 結界之霊水、霧露乾坤網」
「大丈夫だよ‥‥。オイラ達が癒してあげるね」
 火が消えていく傍から小風が龍笛で山の動物、そして山自身を落ち着かせるため『鎮心の奏』を吹く。一緒に春霞も浄化し元に直すため軽やかな『麒麟奏』を奏でる。
 だんだんと元の姿に戻る森を嬉しそうに猩々の親子は眺め、その中へ消えていった。
「凄い! 見て麒麟様だよ」
 感動で一際高く大きな声を上げる小風。ここは神気が強い所為か天を駆ける麒麟の幻が光る道を作りながら現れた。
「さて、祝餘も摘んだ事じゃ。計蒙殿と共に四神の待つ地に急ごう」
「はいアル! 楽しみアルね〜」
「うわぁ、祝餘の花は四神に届けて、青龍様とのご対面かぁ!」
「神様に謁見‥‥できますの?」
 花を手に美蓮は計蒙と歩き出す。その後を飛麗が続き、嬉しげに足取り軽い小風、そして同じように一本で結った太い三つ編みを左肩に軽く揺らしながら星麟が続いた。
 春霞は、短い言葉の中に天地がひっくり返りそうなぐらいの驚きで一瞬、思考停止した。数秒後、慌てて彼らの後を追う。嬉しいのと緊張で百面相になりながらも、ずっと不思議に思っていた事が聞けるとあり、それを目標に足を運ぶ。
 そろそろ山の麓というところで前方に倒れている人を見つけた。
「何で人がこんな所で‥‥。ん? これは雷后‥‥か?」
「あぁ、確かに雷后だったみたいだ。が、今は違うようだぜ」
 駆け寄った飛麗はすぐさま法剣を抜く。が、天曹によって剣を抑えられた。
 倒れていたのは、雷后‥‥だった人。
 飛麗によって付けられた傷に更に深い傷を負わされ動けず倒れている。
「これは麗君じゃ! どうしたというのじゃ?」
「‥‥」
 言葉を発する事が出来ない麗君を抱き起こし口元に耳を持って行き聞き取る美蓮。
「‥‥な、なに? 鬼共にやられ、雷后が身体を離れたじゃと‥‥」
「あのぅ、このままでは麗君さんが危ないですわ。星麟さんに処置をして頂いて一緒に四神の元に連れて行きましょう」
「そうするアル!」
 春霞は心配げに傷口を押さえ、星麟の応急処置を手伝う。それが済むと天曹が彼女を背負い歩き出した。
「おっといけね。俺は報告をしに行かなきゃいけない所がある。先に行ってくれるか? すぐに追いつく。なぁに麗君の事は任せろ」
 天曹は麗君を背負ったまま彼らと一時別れを告げ歩き出した。

 彼らからこっそり抜け出した鈴達は、道士達を導くべく空を漂っていた。


「だいぶ佳境に近づいとんなぁ。これから頑張ろなっ!」
「そうねと言いたいけど、そろそろ私もお役ご免かしらねぇ?」
「そんな事はないアル! ねーディレクターさん」
 撮影が終了し、休憩所に集まる出演者達。小風役の基町が今回の内容からそろそろクライマックスに近付いてきている事を悟る。
 雷后役の桜がお茶を手にひと息入れながら冗談をポツリ。慌てた星麟役の星がディレクターに振ると、「居てくれないと困る」と大真面目に桜の手を取り返した。
 その表情に一同、ドッと笑いが出る。
「今日も暑くて疲れたネー。そんな時は甘いモノが一番ネ。レイリン特製の杏仁豆腐をドゾー」
 畢方で使った甲高い声になるボイスチェンジャーや模型を片づけたレイリンが、クーラーボックスで冷やしていた大きなタッパーを取り出し蓋を開けた。ふわりと風に乗りさっぱりした杏仁の良い香りが皆の鼻を擽る。
「わぁ、頂きます」
「ほぅ、これはいいのぅ」
「こりゃ、美味い。たまには酒の肴に甘い物も良いかもしれんな」
 熱心に飛麗役に打ち込んだ長澤は、ようやく息が抜けたのか穏やかな表情で、レイリンが差し出した杏仁豆腐を食べる。同じように美蓮役の朝葉と春霞役の月見里も受け取り口に運ぶ。天曹のよぼよぼの衣装のままで酒瓶を片手に、藤宮は杏仁豆腐をぺろりと平らげてしまった。
 彼のあまりのギャップにまたも出演者達から楽しげな笑いが聞こえた。