キャンプに行こうよ!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
極楽寺遊丸
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/30〜09/03
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●本文
ようやく番組が終わり後かたづけに駆け回るスタッフ。そこに一人のディレクターが悲しげな表情で現れた。そう、『とにかく捕まえろ!』のあの名物(?)ディレクターT氏だ。
「もぅ夏が終わるなぁ、このままだと俺の夏が何もしないまま終わってしまう‥‥」
他のスタッフに混じり、彼の視線から隠れるように片付けをしているスタッフA君は、その呟きを大量の苦虫を噛み潰したような酷い表情で黙殺する。
出来ることならもう関わりたくないと思っているのだ。他の部署に移りたいとまで思っているのだが、その話はなかなか実現にならない。
「‥‥と、言うことでA君! さっそくキャンプだ!!」
「はぁぁ?! 何いきなり人を指名して、訳の解らないことを言ってるのですかっ! そんな準備なんてしてないでしょう」
「むはははっ! 実は準備は万全。もうしてあるのだ! いつも君に迷惑を掛けまくってるから、たまには良いことをしようと思いロケバスをチャーターして近場だがキャンプ場の予約もしてある。だから行こうよ〜。俺、A君と一緒じゃないとつまらない〜」
A君の思いを知らないのか、はたまたの知っていても無視を決め込んでいるのか皆目見当が付かないT氏が、A君に向かって寸分違わず華麗なポーズで指を差す。それはまるでカンの優れた忍者か悪徳お代官のよう。
差された方は溜まらない。避けたくてしょうがないというのに、またも指名を食らったのだ。これが可愛いピチピチ(死語)のお嬢さんならまだしも、同性な上に嫌っている彼からの指名。好かれたってもちっとも嬉しくない。
「嫌です! なんであんたと行かなきゃいけないんだっ! 全てキャンセルしてください」
「ふぅ〜ん、上司に逆らうんだ。そっか‥‥次はフロアに何を放そうかな‥‥」
「〜〜!!」
唾をビシバシ飛ばしながら叫ぶA君。ここ数ヶ月で随分逞しくなった腕に凄い数のサブイボを点在させた。怒鳴られるT氏は柳に風とばかりに、気になどせずというか職権乱用な上、脅しまでかける。ここまでくると極悪人だ。
暴れたい衝動にかられたA君だが、見ず知らずのスタッフやまだ残っているお偉いさんが居る手前そんなことは出来ない。更に苦虫を五十匹足した表情でぎりりっと彼を睨み付け一言。
「‥‥解りました、行きましょう。ただあんたと僕だけでは寂しいですし、残っているスタッフや出演者さん達に声を掛けてきても良いですか?」
「もちろんっ! バスに乗れるのは十人までだよ。僕と君を抜いたらあと八人は行けるな、あ、あと細かい注意点は、俺が自作で用意した『キャンプのしおり』を読んでくれたまえ」
A君の了解を得て、とても嬉しそうなT氏。‥‥と言うことで、いきなりキャンプに行くことが決定となったのだ。
〜キャンプに行ってくださる方をA君が募っております〜
今回、T氏のポケットマネーでロケバスとキャンプ場を予約され、局からそう離れていない奥多摩のキャンプ場に行くこととなりました。
ちなみに予約したテントを二つ。八畳ほどのバンガローを三つ。寝袋、毛布などの寝具は八枚ずつだそうです。
テントで就寝される方は五名まで。その際、自分達で立てて頂きます。またバンガローを選んだ方は夕飯の献立を考え、テントを立てている皆さんの分まで作ってください。
その他、近くの温泉も使用することが可能。
夜になればキャンプファイヤーを囲んでギターを爪弾きながら歌ったり踊ったり、花火大会など、定番のイベントが用意されているそうです。
さぁ、皆さんも山の澄んだ空気を思いっきり吸って、リフレッシュしに来ませんか?
●リプレイ本文
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昼、少し前に出発したロケバスはキャンプ地のある奥多摩に向かいひた走る。T氏の急な案に応じてくれた八名の男女は到着までの一時を楽しんでいた。
「わーい、キャンプだキャンプー! T氏、Aさん。お招きありがとうございます。その節はお世話になりました」
「皆で楽しく山に川に自然で遊びつくす、これぞ夏! っな贅沢ですよねー。今回もよろしくお願いします」
幾度も番組を共にした小峯吉淑(fa3822)は二人に向かって挨拶。今回もよほど楽しみなのだろう、すでにハイテンション気味だ。彼の隣に座った河辺野・一(fa0892)も我知らずと釣られてしまっている。
「皆さん初めまして。俺、ウィルフレッドです」
「あ、キバです。テント張りに荷物運び、水汲みとお手伝いできることは何でもします!」
参加者の中で最年少組のウィルフレッド(fa4286)、八歳と十四歳のキバ(fa4319)も回ってきたマイクを手にきちんとご挨拶。
「よっお二人さん、ならそのまま得意の芸を披露してくれー」
小峯に負けないハイテンションのT氏。呆れ顔のA君は胃痛が襲っているのを堪えている。
「‥‥A君、お気に入りにされて大変ね。けどせっかくの二泊三日のキャンプだもの。楽しみましょ」
「あ、ありがとう。中松さん」
「ひゅーひゅー恋だねぇ? A君」
顔色の悪いA君を気遣う中松百合子(fa2361)はタオルを差し出し励ます。スタイリストという職業だけあり配慮も細かい。A君は心遣いに礼を述べ有り難く受け取る。そしてそのタオルでT氏の留まる事を知らない不躾発言を永遠に塞ぎたい衝動にも駆られていた。
「好、T氏。ん〜あなたが発案者というのは、すごく気に掛かるんだけどね」
通路を挟んで隣に座る竜華(fa1294)が声を掛ける。手にはキャンプ地近辺の地図や宿の電話番号が書かれた紙が収まっていた。どうも色々と信じていないらしい。今までT氏の行動を考えれば当たり前の事である。
そんな騒ぎを繰り返す中、バスはようや山道を上がりだし目的地に到着した。
●
「女性はバンガローで男性はテントに宿泊でーす。では男性諸君は寝場所確保! レディー達は昼食の準備をお願いします」
「ん〜バンガローなの? まぁ色々と不味そうだから仕方ないか‥‥。わたしはテントでも気にならないんだけど」
「なら、テントと言わず、僕の寝袋にもと言いt‥‥こほん。は、始めー」
バスを降りた途端、更に張り切り黄色いメガホンを手に仕切るT氏。宿泊の割り振りにやや不満げな月影 愛(fa2814)は冗談交じりな一言。もちろん、そんなオイシイ発言を聞き逃す彼ではない。セクハラとも取れる言葉を紡ぐが途中で背中に寒気を感じ言葉を噤む。
そんなT氏を皆は爽やかにスルーし、それぞれの作業に入っていった。
「キャンプといえばテント建てから始まり、ゴミをきちんと片付けて終わるまでが、そうなんです」
「大しぜーんでテント張りキャンプも良いけど、こういう便利な場所でもなかなかですよねー。そうだ! テントの周りに溝を掘ると水が落ちていいですよ。あ、ここは掘れないんだっけ? そこまでしなくても大丈夫かぁ。 え〜ではテントの張り方‥‥っと、ん〜よく解らないので説明書‥‥」
河辺野と小峯は組立に苦戦を強いられ説明書を手に頭を捻る。そんな小峯だが実は祖国での従軍時にテント張りを修得していた。しかし経緯を考慮した上で態と張れない素振りを見せる。だが些細な一言でボロが出てしまっているのに気付かない。
もう一方のテントを張るウィルフレッドとキバ、そしてトシハキク(fa0629)の三人。ウィルフレッドは骨組みとテントの生地を結びつける作業に集中。強い漢を夢見るちんちくりんなキバも小さな手で杭を打ち付けと大忙し。だが慣れていない作業のため上手く地面に刺さらない。
「ん? これを使えばいい」
「ありがとうございます」
そこにトシハキクは大道具という仕事柄、持ち歩いている金槌を渡し手際よく彼らに指導。二人が出来ない力仕事などは進んで行う。
キバは漢らしいトシハキクに尊敬の眼差しを送った。
「さてー竜華さん、月影さん。私達はお昼のカレーと夕飯の準備しましょう。あ、A君。その大きめのクーラーボックスは氷入れて冷蔵庫代わりにするからこっちへ持って来て、T氏はダッチオーブンを用意してね」
来る途中でホームセンターとスーパーに立ち寄り購入したモノを確認する中松。動きやすいようTシャツにジーンズ、そして履き慣れたシューズ姿だ。貴重品や虫さされの薬などはヒップバックに入れ腰に付けている。
「私は薪や火の準備をして夕飯の支度をするわ。夏場だから辛いマーボー豆腐とかどうかしら? 豆腐が無いなら他で代用するけど」
「夕飯は本格中華か〜、いいんじゃない? 自慢じゃないけど、わたしはあまり料理が得意じゃないぞ〜。ま、普通には出来るけど。それじゃキャンプ料理としてインパクトは薄いのよね。だからお手伝い担当ね。あ、豆腐とかいるの? なら、買い出しに行くよ!」
「そうね月影さん、お願いするわ。私はその間にお昼を用意しちゃう。まずはご飯をお鍋で炊こう、コツさえ抑えれば美味しく炊けるのよ。赤ちゃん泣いても蓋は取っちゃダメよ」
「んじゃ、ビールをしこたま買ってきますよん、あぁジュースもね」
テントを作る男性陣とは違う女性ならではの華やかさが調理場に漂う。月影は調理の代わりにレンタカーのキー手に買い出しに出掛けた。数十分後、炊きたての米とカレールーの旨そうな匂いが漂いだす。
「おーしテント完了! 昼食も出来たみたいだな。ではここで記念の一枚。‥‥思い出や記録が残れば、後でより鮮明に楽しめるからな」
ぱちり。
そこに買い出しから戻った月影を新たに交え、出来たてのテントとカレーを手にトシハキクが初めの記念撮影。誰もがにこやかである。
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山の夜は早い。昼食を済ませ遊んでいたら既に辺りは暗くなりだす。用意していたランプを付け夕飯開始。竜華特製の本格中華と中松がダッチオーブンを駆使したローストチキンに一同、舌鼓を打つ。
「せっかくのアウトドアなのだから、飲まなきゃ嘘でしょ」
「そだー! って、月影さんはまだ未成年では?」
「それは拙いだろうって、いや、職業を考えれば‥‥違うか。子供扱いしてごめんよ。俺は未成年だからジュースを貰おう」
「確かにー見た目はこうだからね。さー飲むぞ! あ、フレッド君とキバ君はジュースね。トシハキクさんも?」
冷やしたビールのプルタブを起こそうとする月影を止めるT氏とトシハキク。だがすぐに見た目と違う彼女の年齢に気付く。月影は微笑み気を取り直して、ビールを美味そうに飲みだした。
「あまり飲むと寝るテントが男臭にプラス酒臭さ加えそうだから程々にしておこう」
ビールを手にした小峯の一言。その通りそれは強力だ。消臭剤を持ってしても消えない匂いだろう。
中松と竜華、河辺野にA君も今後の予定、いきなり何を言い出すか解らないT氏の行動を考え嗜む程度な酒盛り。
案の定、大いに酔っぱらったT氏が、
「せっかくの山だ。なんかこぅ、これも良いんだが他になんかしようよ」
皆に問う。そこに肝試し提案するトシハキク。
「この傍に廃線跡や作られたもののすぐに潰れたロープウェーの乗り場と色々面白いものはあるらしい、そこでやるか。A君、ごめんな」
「あ、胃痛ですか‥‥A君は休んでてください。T氏が何を仕掛けてきても、僕がきっちり受け止める気でいますから」
「肝試しか〜。俺より小さい子もいるし、嫌だと言うような恰好悪い姿は見せられません! 見せたくないけど‥‥」
またもT氏の迷発言に胃痛を起こしたA君に小峯がそっとフォロー。この時点で涙目になっているキバの隣で黙々と釣り竿に蒟蒻をぶら下げ張り切るウィルフレッド。女性陣もわりに乗る気で皆、懐中電灯を手に廃線後へと行った。
そこから聞こえた叫び声は唯一キバのモノだけ。
「へーじょーしん‥‥大丈夫、だいじょーぶ‥‥ぎゃぁ〜っ」
「あら、そんなに駄目だったの?」
「にしても、夏場に下手に霊感がある人間が山に来るって不味い気がするのよねー」
これくらいの肝試しでは怖がらない中松がキバの額にハッカを含ませたタオルを乗せ、道士服の竜華が背負いテントへ運んだ。
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翌朝も清々しく晴れている。
「ん〜よく寝た。清々しい朝の空気の中での一服ってのさいこー! あ、T氏、そんなところでなにしてるの?」
くわえ煙草で大きく伸びをしてバンガローから出てきた月影。目の前の太い木に蓑虫よろしく吊されたT氏を見て、携帯灰皿で煙草をもみ消し近寄った。
「何も‥‥竜華ちゃんの寝顔撮影をしようとしたらこの有様だ」
太い荒縄でふん縛られ、首から『私は敗北主義者です』の札を掛けられたT氏はさめざめと訴える。しかし自業自得。身支度を整え現れた中松と竜華はスルーして朝食の炊き込みご飯と野菜スープを作りだす。
良い香りに誘われテントの中から男性陣も寝ぼけ眼でチラホラ現れる。
「もぅすぐ朝ご飯よ。顔を洗ってきてね」
「で、出られないよー」
「おーい、俺を下ろしてくれー」
「あんたは当分、巨大芋虫のままでいろっ!」
寝相を気にして寝袋に奥まで潜り込んでいたキバは出られず一人慌てふためく。A君と河辺野が助けに向かうと、身体を揺すりT氏もアピール。だがA君の一喝で虚しく終わった。
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「奥多摩といえば、ハイキングコースや鍾乳洞があるみたいだね。けどみんなの体力を考えると登山はキツイかな?」
「いいわね、行きましょうよ」
朝食も終わり河辺野の案で皆、ハイキング。あまり無茶をしないコースを選び出発。
中松は用意した水を手に小休止を取りつつデジカメで風景や嬉しそうに歩く小峯やウィルフレッドをスナップ撮影。勿論、トシハキクも手にはカメラを携えていた。
辺りは木立に囲まれ空気が清々しい。そんな心地よい中でキバはむやみに拾い食いをしないよう気を付け歩く。茸などを見つければ食べれるかどうかを聞き、また野生動物やその他の者に対する注意を怠らない。河辺野も同じように周りを気にしながら歩く。動きやすい服装に日除け帽子を被った彼はこっそり半獣となり、鋭敏視覚を生かし険しい崖にいたカモシカなどを見つけると双眼鏡を皆に回す。
「ここも都内だけどこんなに自然が残っているんだね」
そう言って微笑んだ。
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昼間近に戻ってきた彼らは昼食の蕎麦打ちの準備に取り掛かる。竜華と中松が見守る中、蕎麦にコシを持たす為、懸命に捏ねるトシハキク。だが遣りすぎにも細心の注意を払いタイミングを見計らうとキバに切りを任せる。彼もまた包丁を握り丁寧に蕎麦を切り、一人前ずつに分けていく。
「ちゃんと切れてる? 繋がってたりしてない?」
「大丈夫みたいよ。ここは私達に任せてキバ君もみんなと一緒に川で遊んできたら」
心配げに聞くキバに蕎麦を受け取って、茹でる作業をする中松は微笑み彼を川遊びに促す。キバは嬉しげに頷くと、
「うん、じゃあ晩のオカズが増えるように釣りをしてくる。大物が捕れるといいな〜。テナガエビとかウグイ‥‥頑張ってくるね」
元気よく掛けていき、川で釣りや水遊びを楽しむ皆の仲間に入った。
「ねぇ〜釣れる? 魚がいるのは解るけど、なかなか餌に食いつかないわね〜。こうなったらよぉし!」
魚が掛からないのに業を煮やした月影が釣り竿を投げ洋服のまま川に飛び込み手で魚を追う。数回失敗はするもののコツを捕らえ、見事魚を確保。
「やったー、見て見てー」
嬉しげ跳ね回りその場にいた小峯や河辺野に見せるが、服が濡れて貼り付いている月影の姿に目のやり場に困り俯き加減。その様子にも満足げな彼女。
トシハキクも負けてはいられない。同じように手で捕まえるのに挑戦。無論がっちりと魚を数匹ゲット。これで夕食のバーベキューの品数が増えた。
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満天の星空。夕食の中松と竜華が率先して作ったバーベキューも月影が握ったおにぎりも全て平らげた彼らは、ウィルフレッドが持ち込んだ大量の花火で遊びだす。
「もう夏も終わりだから湿気らない内に使い切ちゃおうよ。危ないからライターとか持って来なかったけど、誰も火の準備していないなんてオチはないよね?」
「あるわけないよ。はいドウゾ」
ウィルフレッドの問いにA君は蝋燭に火を灯し石に固定する。皆それぞれ手にした花火に火を付けた。
赤や黄、青の輝く儚い花達がそこかしこで開く。竜華は浴衣姿でくつろぎながらその様子を眺める。
大はしゃぎで振り回すT氏を横目に人に向けることなく安全に楽しむキバ。花火が終われば中松が用意したバケツの水にきちんと浸す。
どどーん!
空を響かせて奥多摩の花火大会が山の間から見える。河辺野と月影は並んでその大輪の花を眺めた。小峯はキャンプファイヤーの火でマシュマロを炙りながら、
「たまやーですね」
嬉しそうに呟くのだった。
●
翌日、朝一番で中華風リゾットで朝食を済ませた一同は綺麗にキャンプ地を片付け、近くにある都営の露天温泉に向かった。
のぼせる前に上がり、牛乳を飲むキバ。トシハキクは獣人になりたいところをグッと堪えT氏に尋ねる。
「いい思い出になったかな、T氏?」
「勿論、楽しかったよ」
にっこりと返すT氏。そこに湯船に半身だけ浸かる小峯も伺う。
「A君、お疲れ様でした。どうでした?」
「ん? あぁ凄く楽しかったー。ありがとう」
ふぅっと息を吐き、タオルで顔を拭うA君。そこに河辺野が、
「折角だから皆の楽しそうな様子を朝の番組で数分、夏休み特集とか自然紹介でコーナーに出来ないかな?」
っと企画を提案した。