鈴音的声音道士 13アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
極楽寺遊丸
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
2.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/24〜09/28
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●本文
――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。
画面は切り替わり、暗く薄気味の悪い森の中。木立の間に突如、出現した大門は半分ほど開かれている。羅方の門だ。その前に二人の鬼達が平伏していた。
「またも失敗したようじゃな‥‥鬼達よ」
門の中で何かが動き、鬼達に話しかけた。その声は低く嗄れ氷の刃で突き刺されるような威圧を感じる。鬼達は震え上がり尚も頭を低く下げ、地面に擦り付けた。
「お、お許しください、駮様! 忌々しい四神の鈴達の邪魔が入らなければ‥‥」
「今一度、機会を!」
口々に謝罪と懇願を吐く。
「‥‥我の力を認めず、羅豊に閉じこめ眠らせた憎き神々と四神が我の目覚めにより、その力を弱めているのは確か。奴等を打つのは今が好機。鬼達よ、一刻も早く魂と邪気を集め、我を元の力に戻すのじゃ。さすれば人間界は我らの手中ぞ」
「仰せのままに‥‥駮様」
門の中にいる駮と呼ばれた妖怪は戸の中から萎縮する鬼を見やり命を下した。
「そう堅くならずともよい。ただしワシ等はこの御簾越しから失礼する。なんせ今の姿は貴公らにお見せできるものではないのでな」
計蒙に案内され部屋に通された鈴を手にした道士達。彼らは長旅の疲れもどこへやら四神達に会えるとあってやや興奮気味だ。
薄い布越しから見える四神の姿は想像よりも小さく驚くほど神気が薄れているのを感じた。彼らの表情を察してか水音と共に嗄れた老人の声が聞こえる。声の持ち主は玄武だ。
「さて、貴公らには毎回、大変世話になっておる。まこと礼を言う。しかしながら、解っているでしょうがこれで終わりではないのだ」
「もう暫く我らの力になって欲しいのだが‥‥どうじゃ?」
部屋の中央に置かれた止まり木から朱雀の歌うような声に続き、すぐ傍の寝椅子の上から白虎がグッと背を反らしきちんと座る。
「仙女はこちらで預かる。私の出来る限りで怪我の治癒をして神達の元に送るので安心しなさい」
御簾越しから温かく柔らかな光が零れ、おそらく麒麟は計蒙が運んできた仙女の治療に取り掛かっているようだ。
誰もがその光に魅せられ安堵の溜め息を付く。が、すぐにその安心は青龍の荒げた声によって破られた。
「あぁ! これは拙いぞ。皆、羅方の門が半分、いや、半分以上開いてしまっている。恐らくワシ等の神力が弱まった所為であやつの力が強まったのだろう。一刻を争う事になった」
「そ、それでは、どうすれば? 門の在処を突き止め、あいつを倒すしかないでしょう」
傍で控えていた計蒙が話す。一同驚く。無理もない、今まで話すことなくいたのだから。しかし今一刻を争う話、誰も何も言わない。
「解っておる。だからこの鏡で門の在処を探しておるのじゃ‥‥。ん? ちょっと待て‥‥門ではないが、その在処と対策を知りうる者が生まれるようじゃ」
青龍の意図が汲みにくい言葉に一同頭を捻る。
「な、何が言いたいのだ? 青龍、とうとうお前様の頭がナメクジ並みになったとは‥‥。嘆かわしい」
「それはどっちだ。玄武よ、貴公こそ身体が縮んで脳も小さくなったのではないか!」
「言い争いは良いから、早く道士達に伝えなさいな、青龍。待ってるではないか」
悪態を付く玄武に青龍が鏡の上をくねり水槽に近付き応酬。呆れながらも止めに入った朱雀は先に促す。
「そうじゃった。‥‥っむ。ここよりそう遠くない漁村‥‥いやこれは夜叉国に話す牛、つまり件が生まれ落ちるようだ。それは雄が災いの未来予知をし、雌が対策を告げる。だたしこの妖怪は予知を告げると死んでしまう。それにこの二匹がすぐ傍で生まれるとは考えられぬ。危険な作業だが、主らが手分けして二つの件を探してくれないか?」
「そうじゃな、頼む。しかし鬼と一緒に夜叉達が待ち受けているようだ‥‥。くれぐれも注意をするのじゃよ」
気を取り直して話し出す青龍の言葉に道士同様に珍しく、耳を傾けた白虎。だが、途中で飽きたのか大あくびを一つした。
〜出演者を募集〜
中国ドラマ「鈴音的声音道士」で、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
〜道士の法力選択〜
・青い鈴
青龍
春と東の守護神
能力:水 守備型
武器 龍笛&方位計 龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。
・赤い鈴
朱雀
夏と南の守護神
能力:炎 攻撃型
武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。
・白い鈴
白虎
秋と西の守護神
能力:森または道 攻撃型
武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。
・黒い鈴
玄武
冬と北の守護神
能力:山 守備型
武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。
・黄色い鈴
麒麟
? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
能力:?
武器 ?
なお詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、能力、武器など一から決める事が出来ます。
ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
鈴は玄武、麒麟に限り二つに分けることが出来ます。しかし力は半分となってしまいます。また能力に適した技以外の力は、使えないことがあります。
この五つ鈴は必ず埋めて下さい。
妖怪情報:
件(くだん) 突然、生まれたばかりの牛の子が元凶の予知をし、その場で息絶えてしまう妖怪。しかし雄雌一対で必ず雌はその対処法を教えてくれる。
夜叉:悪鬼の類で、飛行や変身など神通力に長けた妖怪。鋭い牙と爪を持ち人肉を好んで食べる。女性には子を産ますため美男子に化けることもある。またその逆で美女に化けて男性にも近付く事がある。
夜叉国:人に国が有れば夜叉にも国があるらしい。沢山の夜叉達が住まう海と山に囲まれた集落。
●リプレイ本文
●
必要となる道具が運び込まれ、着々と仕上がっていく中華風のセット。その裏手にある休憩所で出演者達は撮影前の台本チェックに余念がない。
「今回はちょっと変った役だわ‥‥。みんなの撮影が終わったら次に私、CG合成で幽鬼っぽくして貰うしかないわねぇ‥‥。ん〜出番までまだちょっと時間が掛かるみたい」
「ソウカ〜、大変ネ! 桜さん、よかったらワタシの作ったマンゴープリンを食べて待ってるヨ。皆さんもドウゾなのネ」
「あ! レイリンさんなのか? びっくりだな。随分と美青年になっちまってるなぁ」
軽く腕を組む桜 美琴(fa3369)は初の合成CGに臨む予定。ここでみんなの演技を確認した後に、彼らの動きに合わせ後から撮るということになっている。
またレイリン・ホンフゥ(fa3739)も今回初の男装。メイクさんと相談の上、決めた胸部に晒しを巻き、チャイニーズカラーのゆったりとした上着に、男性に見えるメイクを施した顔で現れ、手にした特製のマンゴープリンを勧める。男装姿とそして菓子の出来映えたるは見事。出演者で唯一、男性の天曹役の藤宮 誠士郎(fa3656)が、黒いよれた道士服に着替えを済ませた姿で、その驚嘆の表情で彼女を覗きこみ、その鼻先を南国フルーツ特有の甘い香りが擽った。
「ちょうど甘い物が欲しかったんだ。ありがとうレイリンさん! ん〜、美味しいぃ」
「私もですの。頂きまぁす」
青い道士服の少年、小風役の基町・走華(fa3262)と赤という単色でも明暗によって色が豊かにみえる服を纏う春霞役、月見里 神楽(fa2122)がさっそく手を伸ばす。やはり女性、甘い物には目がない。一同、レイリンの菓子に舌鼓を打っているところに、
「皆さん、セットが出来ました。ではスタンバイをお願いします」
スタッフが声を掛ける。さぁ撮影開始だ。
●
山と海に囲まれた地にある夜叉達の住む村。その風景はどこにでもある人里と変わることなく、彼らもまた人のように静かに暮らしを送る妖怪であった。
「‥‥久しいな夜叉よ、お前の力を借りるぞ。お前はもうすぐここに来る道士達を葬れ‥‥。我はここに産まれる件を探し出し予言をする前に葬る。ぬかるでないぞ」
「御意。雷后様‥‥仰せのままに」
青白くユラユラと輪郭が定まらない邪仙――雷后が目の前に平伏する夜叉に命じる。この情報はかなり正確なものだ。何故ならあの麗君の身体の中に残したから魂魄から聞き取ったものだからである。
一礼をし、くるりと踵を返した夜叉は得意の変化で見目の美しい青年と転じ、やや離れたところに待たせていた少女、小春(甲斐・大地(fa3635))を連れ、足止めの準備に掛かった。
揺らめきながら見送る雷后。その瞳に背筋も凍るような邪気に満ちた赤い光りを宿し呟く。
「‥‥くっくっく‥‥道士達如きに我を止めることなど出来ぬ。麒麟によって傷を癒された麗君よ、待っておれ‥‥その身体、贄にするのに具合が良いのだよ。‥‥天帝の力を受け継ぐその血が。易々とは手放さぬ‥‥我の試金石。尤も今は道士達にも頑張って貰わなければなるまい。祝餘によって復活した鈴の力を弱める為に‥‥」
彼女はそのまま掻き消すように、場を後にした。
●
「青龍様、ようやくお会いできたというのに‥‥おいたわしいお姿に」
「まるで夢のようですわ‥‥。お父様やお母様も一緒に来られたらさぞ喜んだ事でしょう。ひとつ伺っても宜しいでしょうか? 何故、私たちに鈴の声が届くのでしょうか?」
「あぁ、それはうちも聞きたかった事じゃ、やはり神族の末裔のためなのか? 教えて欲しいのじゃ」
衝立の向こうに映る小動物と化した影。衰えた彼らの神気を感じ取った黄鈴をぎゅっと握りしめ驚きを隠せない星麟(星辰(fa3578))
小風は嬉しさの後に憂いを感じ視線を伏せ、その隣できちんと作法にならった挨拶をする春霞も喜びのあまりやや興奮気味ではあるが、再度影を見たことで小風と同様に一瞬視線を下げ、ふと、今まで感じていた疑問を四神達に投げかける。その言葉に彼女と共に頷いたのは美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))。彼女もずっと白鈴の主、白虎に選ばれ続けた一人だからであった。
「うぬ。それは遙か昔、羅方との戦で人間界に降りた神々が、妖怪に負けない強い血を人にも与えようと交わり産まれた子‥‥それが我らや神の声を聞く事の出来る、お主ら‥‥神の血を引く者なのだ」
水音と一緒に説明をしているのは、どうやら玄武。
「ふぅん、そういうことなのか‥‥。それよか玄武様よ、俺達が元の姿に戻す前に溺れちゃどうしょうもない。いい加減、水槽から出た方が良いんじゃないか?」
「なにをっ天曹、青龍とどっこいな程、口が達者な奴じゃな! ワシは溺れぬわ」
恐い者知らずな天曹が一声掛け、その場に居合わせる全員に笑いが起こり、一気に和んだ。
「それはそうと道士達よ。もうすぐ夜叉国で件が産まれる。一刻も早く見つけ出し、羅方の動きと対処を聞き出すのじゃ!」
「四神様、オイラ達に任せてください!」
鶴の一声ならぬ朱雀の一声。小風は胸をポンと叩く。一同も謁見を終え、新たな使命の旅へと戻った。
●
海沿い、すぐそこは夜叉の住む村。いつになく真剣に鋭い警戒を見せる天曹。それもそのハズ、事態の大きさを彼から聞いた玄北老師の命と一緒に法貝を授かり幾分キリッと凛々しい様子でこの地に立っているのだ。
「なんだか天曹さん、燃えてるよね〜。‥‥さて、これからどうしようか?」
「っふ、‥‥別に俺ぁ、ただ早く旨い酒が飲みたいだけだ」
「村とお聞きしましたけれど、随分と広いのですわね‥‥」
「そうだな、二手に分かれるというのはどうじゃ?」
「良いアル! 産まれてくる件は二つ。ここで別れて探し、またここで合って、お互いに聞いた予言を話すと行こうアル!」
いつもの冗談口調で小風が天曹にじゃれつく。海風に道士服を靡かせ、のんびりと辺りを見回し思案している春霞に美蓮が一案を出す。
一つで三つ編みにした長い髪が後ろに弾かれるほど勢いよく、彼女の意見に賛成の声を上げた星麟。
「美蓮さん、宜しく。必ずオイラが守るからねっ! 天曹さんは春霞さんと星麟さんの護衛を頑張ってね」
「任せろ! お前こそ、張り切りすぎて美蓮さんの足を引っ張るなよ」
俄然張り切る小風に天曹が釘を刺す。彼らは上手い具合に左右二手に分かれ、夜叉国へ入り探索を開始した。
「件‥‥? 牛から産まれる妖怪だからな。取り敢えず牛舎を探すのか」
「産気づいた牛を探すのは任せるアル! これでも命を預かる者アルよ」
夜叉達の目を盗み、牛小屋を見つけては中を覗きこむ天曹。しかしお腹の大きな牛を見つけるのは容易ではない。星麟は彼らに見張りをさせ、その間に一頭一頭、素速く丁寧に見て回る。そんな中、ここの母屋から鋭い悲鳴が聞こえた。それは夜叉が発するものではない、人の娘の声だ。
「何事ですの? 行ってみましょう、天曹さん」
「あ、あぁ。ここは敵地だ。くれぐれも用心してくれよ、お二人さん」
悲鳴が方へ雪崩れ込む三人が見たものは、異形の女夜叉に囚われ傷だらけとなった娘。身体を自力で揺さぶるも大きな手で掴まれそれを外せないでいる。
「ま、いけませんわ! 夢通華!」
春霞は背負う桃の法剣を抜く、柄に付いた赤鈴が鳴り響きその度に細かな火が巻き起り、それは赤い炎の花吹雪のよう。剣を女夜叉目掛けて振るうと、渦を巻いて攻撃をした。
辺りに焦げる匂いを撒きつつ消える女夜叉。
「大丈夫アルか? 今、治療してあげるアル! 快功治癒、急々如律令!」
助け起こした星麟は素速く黄色の鈴を取りだし、りんっと温かな音色を一つ鳴らす。すぐに少女の傷が癒えだした。
「あ、有難うございます。私は小春。幼い頃よりこの国に連れ込まれ無理矢理、ここで働かされている人間です。宜しかったらお礼にご馳走させてください」
「いえ、私達は探し物をしているので、ここで失礼させていただきますわ」
「あぁ、そんな‥‥また夜叉の仲間が仕返しにくるかも知れません。後生です。少しの間、ここにいて下さい‥‥。それに探し物とはきっと私にも解るモノかも知れませんわ。何かを教えてくだされば」
「あ、あぁ、大したものではないので気にすな。ここは一つ休憩をとるか」
小春の切実な願いに春霞はさらりと受け流そうとする。彼女から探る様子を感じ警戒した天曹が上手く誤魔化し、暫しの間の休憩を兼ねて残る事を決めた。
小風から方位計を預かりそれを手に、牛小屋を覗いては件を探す美蓮。その後ろで青鈴の音と共に『幻惑の奏』と『奇声の奏』龍笛を吹き続け夜叉達を近づけない細工をする小風。そんな二人の元にどこからか美しい青年が姿を見せた。
「良い音色がすると思ったら、何をしておいでなのです? ここには夜叉という妖怪が棲む地。女子供だけでは危険です。私の家にご案内いたしましょう」
やや古めかしい皇子の衣装を隙なく纏う青年は優しげに微笑む。顔を見合わす小風と美蓮。
「そうじゃな、どうも道に迷うてしもうたのじゃ。すまぬが貴公の家で休ませて貰おう」
機転を利かせた美蓮は彼の申し出を快く受ける。小風は彼の言い回しに機嫌を損ね、やや不満気味な顔で彼らの後に付いていった。
「さぁ沢山食べて、ゆっくりとしていって下さいね」
「‥‥なんかここに頭がボーとしてきたアル‥‥」
「えぇ‥‥眠くもなってきましたの‥‥」
「‥‥雷后様、そろそろ道士達の思考が鈍って参りました。鈴を奪うなら今です」
「良くやったぞ、小春。では、あの帯に付いた黄色い鈴を奪って参れ」
「‥‥やっぱり、いたか。人の血の臭いさせた姉ちゃん。声が聞こえたぜ、それにあんたは人だが企んでる? この鏡に映って正体を見せな! 妖怪照真天鏡光波」
「っく、ばれちゃ仕方ないわね。いけ! 人形達よ」
出される馳走を前に、虚ろな視線を泳がす星麟と春霞。裏で小春は揺らめく雷后と鈴を奪う話をする。そこに天曹が乗り込み、黒鈴の付く天鏡を掲げた。りりーんと鳴ると同時に真っ白な光りが現れ小春の正体を暴く。現れたのは道士崩れの少女。手には札を掲げ攻撃態勢を作り、この部屋を埋め尽くすほどの式神達を召喚した。三節棍を振り回す星麟と傍から見ればかなり危なっかしい酔拳による変則的な棒術で迎え撃つ天曹。
春霞は一定の鈴音を保ちながら法剣を操り「戦武陣」で舞うように相手の足下に赤い線の法陣を描くと小さく念を唱え火柱を上げる。中に入った数匹の式神が業火に燃やされただの紙と化し熱風に煽られていく。
「鈴を奪う千載一遇の機会だと言うに‥‥あぁ口惜しい」
「そう簡単に鈴を奪われるわけないよ」
悔しげに身体を揺らめかす雷后の耳に痛みにも似た音が飛び込む。それは戸口から小風の吹く『武神の奏』。彼らを案内した男も天曹の術を浴び本来の夜叉の姿へ戻り、目の前の美蓮に鋭い牙を剥き飛びついた。
「すまんな、うちは美男子よりも年上の方が好みなのでなぁ〜白き鈴音の響きに応えよ雷虎ッ!」
にっこりと微笑むと牙の腕輪から雷虎を召喚する。凄まじい唸り声と雷を上げ美蓮を襲うはずの夜叉に逆に襲いかかった。
「ちぃぃ、なんだかキリがねぇ! 封じ込めよ! 三十三天黄金搭」
業を煮やした天曹が玄北老師から正式に預かる結界宝貝を天高く放り投げた。凛とした鈴音が響くと同時に光りの網が上空から降り注ぎ、敵を結界に閉じ込める。惜しくも雷后がその網が被さる前にするりと抜けした。
「よう、雷后さんよ、この術を抜けるとは、ほんと侮れないな。‥‥しっかしまた貧相な格好になったもんだ。似合ってるぞ」
「煩い! 次は見ておれ‥‥よ」
「次など無いわ! 響くは鈴音、吼えるは雷鳴、白き雷の猛虎よ、来たれ!」
召喚されていた雷虎が更に一回り大きくなった。真っ白な巨体を転換し揺らめく雷后に向かって力強く腕を振う。掠った雷后は実体ではないにも拘わらず痛みを覚え顔を歪めながら、姿を掻き消した。
「出セ出セ〜〜っ! お前らを食ろうてヤル!!」
牙と爪を剥き出し咆哮する夜叉。しかし結界の中には一緒に人の娘である小春もいる。二人を封じ込める訳にはいかない道士達。
「おっと暴れるなよ。取り敢えず娘は人のようだ頑丈に縛っておくか、結界之縛、混元綾」
天曹は神気の帯を操り小春の動きを封じ込める。
「残るは夜叉‥‥。お主から強い血の匂いがする。流石に野放しには出来ぬ‥‥森羅万象の詔持ちて赤き鈴の法剣に白き鈴音を!」
「次に生まれ変わる時は、人を騙さぬ善人となりなさいませ! 朱雀舞」
美蓮の鈴がりーんと一つ鳴る。それに反応した赤鈴。道士服を翻し春霞が法剣を操り舞うと剣先に眩しい白い炎の羽根が宿り、夜叉目掛けて術を放った。美しい鳥の姿となった炎が夜叉を覆い燃え尽くす。
「〜〜‥‥」
悲鳴を上げる間も無く一瞬にして夜叉の姿はここから消滅した。
●
「こ、これが件‥‥?」
「そうアル。凶兆あれば、覆す予言在り‥‥真、陰陽の理は良く計られているアル」
道士達の前に産まれたばかりの牛が二頭‥‥人面を持つ仔牛がいる。ぐぐっと仔牛は首をもたげ話し出す。
「鬼が棲まう門が開き、神の山を苦しめ‥‥角のある剣の神の時代が始まる‥‥」
「それを倒すことができるのは五つの色に守られた人のみ。‥‥剣の神の力を完璧にする二人の女を見つけ出せ‥‥」
「やはり羅豊の門のことか‥‥ヤバイなぁ‥‥」
そう預言を発すると二頭の牛は相次いで息絶えた。残った道士達は重苦しい空気の中、これから起きる元凶について各々思案するしかなかった。
――彼らから、こっそり抜け出した鈴達は道士達を導くべく空を漂っていた。