鈴音的声音道士 14アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや易
報酬 2.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/08〜10/12

●本文

 ――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
 ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
 人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
 画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
 ――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。
 画面は切り替わり、崑崙山間近に聳える塀。ぐるり山を巡る長く大きな壁は、この地特有の厚い瓦で作られ奥に住まう神々を守るべく建っている。
 そう、崑崙山と神を守るべく任務を遂行するこの塀は人の町にあるような普通のものではない。中に壁神という妖獣が棲んでいるのだ。 そんな激務の中、壁神は仕事の傍ら趣味の笛や琵琶などの楽しげに演奏をする、なかなか芸術肌な者である。
 今夜も月の美しさに見惚れた壁神が、塀の中からのんびりと琵琶の音色を流しているところに、二つの黒く悪気に満ちた影‥‥。
「赤よ見てみよ、これぞ‥‥崑崙山への入り口となる塀。何やら不愉快な音が聞こえる上に、これまた随分と古びた汚らしいものだのぅ。さっさと打ち破ってしまおうか」
「そうじゃな。この塀を破り、ほぼ開いた羅豊の門と崑崙山を繋げてしまえば、神々など容易く征服できる」
 ケラケラと笑う声はたてているものの、表情はまったく動いていない冥界の白鬼が、隣に立つ相方に声を掛けた。赤と呼ばれた怒りの形相の赤鬼もにやりと笑い頷き、手に持っていた鉄槍で一撃。凄まじい破壊音と共に塀に大穴を開けた。
「ぐぉぉ?! なんじゃ‥‥目が‥‥目が痛くて堪らぬぞ!!」
「お前達、我を壊した報いを受けるのだ‥‥」
 壊した途端に赤鬼は突然、目に激痛を覚えた。流れ出る赤い涙を押さえ悶え苦しんでいると、彼が壊した箇所から羊に良く似た姿の壁神が飛び出し、威嚇の声を上げながら虎のように逞しく鋭い爪を振い襲いかかった。
 白鬼は赤鬼を抱え素速く避け、新たに攻撃を仕掛ける。
「無駄じゃ無駄。駮様のお力が元に戻りつつある今、お主如きに倒される我らではない。これでも食らえ!」
 開いたまま固まっている口から、赤黒い煙を壁神に向かって吐き出した。
 それを避ける間もなく、もろに浴びてしまった壁神は一瞬視界を失い右往左往するも、すぐに視界が開け一つ二つ頭を振る。
 しかし様子がおかしかった。先程の鬼達を追い詰める威嚇が失われ大人しくなってしまっている。
「‥‥さぁ、壁神よ。後から来る道士達と忌々しいあの女を倒すのじゃ!」
 青い瞳や身体から神気を失い、代わりに鋭い邪気に満ちた壁神の姿があった。


〜出演者を募集〜
 中国ドラマ「鈴音的声音道士」は、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
 また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
 

〜道士の法力選択〜
 ・青い鈴 
 青龍
 春と東の守護神 
 能力:水 守備型
 武器 龍笛&方位計  龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
 玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。

 ・赤い鈴
 朱雀
 夏と南の守護神
 能力:炎 攻撃型
 武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。

 ・白い鈴
 白虎
 秋と西の守護神
 能力:森または道 攻撃型
 武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。

 ・黒い鈴
 玄武 
 冬と北の守護神
 能力:山 守備型
 武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。

 ・黄色い鈴
 麒麟 
 ? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
 能力:?
 武器 ?

 なお詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、能力、武器など一から決める事が出来ます。
 ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
 鈴は玄武、麒麟に限り二つに分けることが出来ます。しかし力は半分となってしまいます。また能力に適した技以外の力は、使えないことがあります。
 この五つ鈴は必ず埋めて下さい。
 

妖怪情報:
 壁神:本来は旧家の塀に棲みつく羊の姿に虎の腕を持つ妖獣。今は崑崙山の入り口の守護する勤めをしている。普段は大人しく、音楽好き。だが敵や壁に危害を加えられると一転、相手に災いを持ちだしたり姿を現し阻止しようとする。

●今回の参加者

 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2986 朝葉 水蓮(22歳・♀・狐)
 fa3262 基町・走華(14歳・♀・ハムスター)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3578 星辰(11歳・♀・リス)
 fa3656 藤宮 誠士郎(37歳・♂・蝙蝠)
 fa3739 レイリン・ホンフゥ(15歳・♀・猿)
 fa4619 桃音(15歳・♀・猫)

●リプレイ本文


 月の白光が重い雲の背中に隠れ、闇に包まれだす崑崙山。
 灯りもない暗く長い階段を駆け下りてくるのは、小さな娘の姿をした神、華林公主(桃音(fa4619))。
 その足取りはしっかりしたもの。なぜなら母や護衛の目を盗み下界へ遊びに出掛けるのに通い慣れているおかげ。こんな暗がりでも段差をしっかり把握しており、踏み外す事は決してない。
 公認で下界に降りていける所為か、彼女の足取りは軽く羽根でも付いたかのよう。暗い中でも映える白い頬を紅潮させながらも、なんとか落ち着きを保ち大人びた表情で駆け下りていく。
 そろそろ麓を守る壁神の弾く琵琶が聞こえてくる頃。彼の奏でるやや調子っぱずれな音色が華林公主は好きだった。
 だがいくら下界に近付いても聞えない。不思議に思った華林公主はふぅっと息を継ぎ辺りを見回す。暗闇に包まれるそこには異様な気と静けさが充満している。
「‥‥壁神、もぅ寝てしまったの? 起きているなら返事を頂戴な。道士様達がお通りになったか聞きたいの」
 いつもと違う雰囲気を感じ取った華林公主は、恐る恐る長い壁に向かって声を掛けるが彼女は気付き、すぐさまそこから飛び退いた。しかし一歩遅かった。
「誰ぞ? ワシの名を呼ぶのは‥‥貴様か‥‥この壁を壊した者はっ!」
 殺気に満ちた赤い瞳が華林公主を捕らえたと同時に突風が彼女を襲った。何も解らないまま壁に打ち付けられ、全身を襲う痛みに思わず顔をしかめる。霞んでゆく脳裏の中、華林公主は小さく呟いた。
「ど、どうしてですの? 壁神‥‥」
 地面に崩れ落ちる彼女が見たモノは仲が良いはずの壁神(レイリン・ホンフゥ(fa3739))。だが、その姿は彼女の知る妖怪ではなく、禍々しい障気を放ち鋭い咆哮を上げる怪物であった。


 夜叉国で見つけた件の予言を聞いた道士達は、四神達の元を再度訪れ結果を報告した。
 予言を聞いた四神達は誰もが口を噤み、ようやく言葉を発した青龍に命じられるまま道士達は崑崙山を目指す事となった。
 万能と思われた彼ら能力の薄れと限界を感じ取った星麟(星辰(fa3578))を始めとするどの道士達も不安に駆られ口数が少ない。
「まさか崑崙の近くで羅豊が開くとは‥‥大胆不敵ってのかねぇ。それに件の予言じゃ対抗できるのは鈴に選ばれた道士だけ。決め手になりそうな角のある剣の神も敵か味方か解かんねぇしなぁ」
「そうアル‥‥。青龍様の『件の予言にある二人の女の事を知る者は崑崙山にいる。今、主らの力が求められている』だけじゃ、何がなんだか解らず不安ばかりアルよ‥‥」
「まぁ何にせよ、心配のし過ぎは良くない‥‥の、かもしれん、ここは一つ行って聞いてみるのじゃ」
「そうだよ! 崑崙山に行って西王母様か智の妖怪、白澤に会えば解るってかもっていってたじゃない。皆で頑張れば何とかなるって! 頑張ろう」
「えぇ、そうですわね。まずは崑崙山の門を守護してくださる壁神さんにお会いして、お話しをして通して頂きませんと。山を守護するくらいですから強い神様では無かったのかしら?」
 ヨレヨレの黒い道士服に酒の入った瓶を担ぎ歩く天曹(藤宮 誠士郎(fa3656))は、この長い道中を使い皆に相談をしながら足を進めていく。そんな言動にいつになく天曹がきりっとして見える。
 慎重に言葉を探す星麟は、右肩に垂れる一本で結う三つ編みを弄りながら答え、美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))も心中深い不安を持っているが、なるべく表には出さないよう心掛けている様子だ。
 いつも明るい小風(基町・走華(fa3262))も沈んだ雰囲気を察してか、殊更皆を励ますように愛らしい声を張り上げ、普段からおっとりめの春霞(月見里 神楽(fa2122))は、話を逸らすべく山を守る神に関心がある素振りを見せた。その言葉に麗君(桜 美琴(fa3369))が、笑顔で言葉を紡ぐ。
「強いのは確かだけれど、それよりも月の綺麗な晩に良く音楽を奏でるのよ。きっと貴女と気が合いそうだわね、春霞さん。そう、気が合うと言えば‥‥華林公主はお元気かしら? あの子も音楽が好きでよく、壁神の所に行ったりしていたわ。好奇心旺盛な私と仲が良かったのよ」
「まぁ、そうですの。なら、ぜひ壁神様にご一緒させて頂いて、麗君さんのお友達の華林公主様にも聴いて頂きたいものですわね」
 麗君はつい先日まで瀕死の重傷を負った者とは思えない回復を見せ、治癒をしてくれた四神と道士達の礼を兼ねて女道士に変し崑崙山への案内役を買って出たのだ。
 のんびりと春霞との会話を楽しむ彼女だが一刻も早く崑論山へ戻り、天帝に報告――邪仙、雷后は剣の神の一部、意識を切り離した存在で今もなお、己を狙っている事を。何故、狙われるのか分からずにいるが何かしらの因縁が絡んでいる事は確かだ。いち早く警鐘をするべく崑崙山へ向かう足は忙しない。
 墨を流したような黒い空にぽっかりと浮かぶ美しい月に照らされた紅葉華やぐ森を抜けると崑崙山の入り口。しかし近付くにつれ、道士達は酷い悪寒を感じだす。粟立つ肌、心臓が早鐘のように打ち、酷い耳鳴り。足を進める毎にそれは酷くなる。
「なにかしら‥‥嫌な気が漂ってくるわ。‥‥はっ!? 公主が襲われているわ、どういう事?」
「‥‥これは鬼の妖気だな。あっちの気が勝るとは‥‥神様の住処にしちゃ神気が薄すぎる。あぁ〜それに塀に空いた大穴‥‥やれやれ、何時もながら手が早い奴等だ。囚われの神様‥‥なかなかの別嬪さんじゃねぇか」
「女の人を危ない目に遭わせるなんて‥‥許せない!! 」
 森を抜けた彼らが見たものは、長い塀に開いた修復が難しそうな程の大穴。その前で羊に良く似た妖怪に襲われている娘、華林公主だ。
 天曹が冗談を交えながらも素速く杖と鏡を取りだし、黒鈴を一つりんと鳴らし印を結び結界を作り出すと、合わせて小風も懐から青い鈴の着いた龍笛を出し『鎮心の奏』を奏でる。
「貴様等も侵しにきた者共かっ!」
 天曹と小風が作り出す結界が壁神を覆う。だがガッと口を開き鳴号が発すると、暗雲を呼び闇を裂く稲光で壁を作る結界を簡単に破壊した。驚きを隠せない天曹に向かって容赦なく大きな手を振り下す。
「流石崑崙山の守り手‥‥強いねぇ」
 間一髪、鋭い爪を得意の酔拳を駆使した棒術で避けた。その千鳥足がなんとも危なっかしい。見ていた春霞と美蓮も攻撃に加わる。
「楽を愛する者に悪い人はいませんわ‥‥たぶんですの。ですからここは足止めを‥‥夢通華!!」
「白き鈴音の響きに応えよ――光鴉ッ! ‥‥白蛇ッ!」
 赤い鈴が柄に着いた宝剣を手に舞う春霞。調子を取る鈴音に合わせ剣先から炎の花弁が吹雪く。それは生き物のようにうねり壁神の回りを囲んだ。炎の間を白鈴の清い音色と共に美蓮が召喚した折り紙が輝く鳥の姿で飛び回り、壁神の攻撃を天曹から退ける。怒り狂う壁神は無茶苦茶に手を振いかぎ爪で赤い花弁や鳥を裂く。
 時間差で美蓮の手から放たれた髪を結う紐が、白い大蛇となり壁神の身体を縛り上げる。一時動きを封じられた壁神。それを見逃さない天曹は、再度結界を張る為、黒鈴の着く鏡を天に掲げ鈴を鳴らした。
「天曹さん、結界で完全に動きを封じてくださいませ! ちょっとはお手伝いになれば‥‥戦武陣」
「そうじゃ、小風も沈静させぇい、うちの蛇ではもうそろそろ限界じゃ‥‥」
「ありがとよ! お二人さん、後は任せろっ結界之縛・花籠‥‥そして宝貝 縛龍索!」
 春霞は一旦、運ぶ足を止め舞いを切り替える。それは天曹の詠唱と混じり、壁神の足下に赤い陣が現れごうっと火柱が上がり。太い縄となって壁神を確実に捕らえた。灼熱で暴れる壁神の目が禍々しい赤から穏やかな青い色へと変化する。
「ど、どうしたというのじゃ‥‥華林公主を傷つけたのは我か‥‥あ、ぐっ身体が操られる‥‥。早くお前達の手で‥‥我を葬れ」
「いけませんっ! 壁神は操られているだけなの‥‥お願い正気に戻してあげて‥‥」
「華林公主、大丈夫! 動いちゃ駄目よ」
「大丈夫だ、倒しはしねぇよ。邪気の浄化は任せたぜ!」
「華林公主様、お怪我は! 大丈夫おいら達に任せて! まずは落ち着いてね壁神。いくよ星麟さん」
「これも命を預かる者の責任アルね‥‥全ての生あるものは大地の精もて健全に復すべし、快功治癒! 急々如律令!!」
 ようやく目覚めた華林公主を見て、彼女を抱いていた麗君は安堵の息を付く。勿論、彼女の言葉を解っている天曹達。一時的に正気を取り戻した壁神だが、再度瞳の色が変わり炎の縄を引きちぎる勢いで壁神が暴れ出す。
 華林公主を安心させるように微笑み壁神の前に立った小風が青の鈴音と一緒に『鎮心の奏』奏でる。ふっと緩んだ壁神の瞳の色を見逃さない星麟は腕輪に着いた黄色い鈴を黒い空に掲げ詠唱した。黄色い鈴がコロコロと愛らしい音を立てると途端にパッと黄色い閃光が走り、縛り上げていた壁神を優しく包む。ふわりと黒い障気が抜け出し、闇の中へ掻き消えた。


「麗君、一体今まで何処にいたのですか? 皆、心配していたのですよ」
「あはは、ごめーん。ちょっと色々とあったのよ。そ、そうだわ、ねぇ春霞さん。ここで一曲どうかしら?」
「えぇ、重い雲が無くなり月がとても明るくてなんだか凄く良い気分ですものね。壁神様とご一緒させて頂かせて貰いますわ」
 壁神も元に戻り、華林公主の傷も星麟の手によって癒された。友との再会に喜びを分かち合う麗君と華林公主。春霞は元に戻った壁神と共に琵琶を奏でだす。月夜の中に鳴る音色は心地よく、小風も龍笛を取りだし吹き始めると聴き入る美蓮と星麟。その隣で天曹は音を肴に一人勝手に酒盛りを始める。
「望月」
♪ 月の夜に見ゆる 柔らかな光
  夜空仰ぎ見れば 広がりし光は
  心の望月よ 月の夜に聞こゆ 穏やかな鈴音
  信じよ曇りなき 心の望月を 鈴音は導かん ♪

 一時の安らぎが、彼らに注ぐ。そこに妖怪が姿を見せた。真っ白な三目の獅子、白澤である。
「ここにおったのか、華林公主様。母上の西王母様がお帰りが遅いので心配しております‥‥、あぁ、貴殿達はもしや四神の選ぶ道士達?」
「私ったら役目を忘れて‥‥道士の皆々様、お初にお目にかかります。華林と申します。ようこそ神々の住まう崑崙山へ」
「ねぇ、白澤。貴方だったら覚えているわよね? 教えてくれない、件の予言の話‥‥」
「え? 白澤って、あの智を司る妖怪の主‥‥は、白澤様、お初にお目にかかります。お願いです、知っていることをオイラ達、道士にお話くださいませ」
 一見強面だが、よく見れば三つ目が優しげ。ゆったりと顔を回し彼らを見渡す。白澤の一言で自分の役割を思い出し、遅れながらも道士達に優しげな笑みを向け深々と華林公主は挨拶をする。
 麗君と小風がそんな白澤に質問を投げた。一瞬、戸惑う表情を見せるもぽつりぽつりと話し出す。
「それは西王母様が貴殿達との面会で話す予定だった事じゃったが、ワシは触りだけでも話そう‥‥。件の予言する二人の女、その片方は麗君様の事じゃ。尤も体内に潜む邪仙、雷后をさしておるのじゃがな‥‥。羅豊の主、駮は自分の魂の一部を切り離し天帝の血を引くお力を手に入れたいのだろう、麗君様に乗り移る機会を窺っておるのだ。麗君殿もそれを薄々は感じておるのだろう? やはりもう一人も幼き神の血を受け継ぐ者らしい」
「えぇ‥‥皆に迷惑をかけたわ。事実を聞いて驚いたけれど、納得もしたわ‥‥私は駮の封印の一つだったのね」
「駮って‥‥じーさんから聞いたが、仇名は混世魔王。今の世の中の状況見るとあいつの復活を納得するしかないもんだがねぇ。ったく酒が不味くてしかたねぇや」
 白澤が語る話に一同、静まりかえる。事実を突きつけられ麗君は戸惑いも見せるが理解したようだ。
 流石、玄北老師について修行をする天曹は、聞かされた内容に驚くも吐き捨てる一言。他の道士達は考え深げに立ち尽くしていると、急に麗君が苦しみだした。
「きゃぁぁ〜?! な、何? この感覚は‥‥うぅぅ‥‥体が乗っ取られ‥‥るっ」
「れ、麗君! 大丈夫アルか? い、今鈴の力で‥‥」
 ぶわっと麗君の足下から黒い霧が吹き出す。咄嗟に身構える道士達。苦しみ藻掻く彼女に駆け寄る星麟は暴れる麗君の腕で思いっきり殴られた。受け止める美蓮は懐から護符を取りだし応戦に備える。
 尚も黒い霧が麗君の身体を覆い、靄の間から見える髪が赤から灰色へと変じ、目つきは鋭く妖艶な笑みが口元に浮かぶ。
「ふふふ‥‥鈴の道士達よ、今度こそ逃がしはせんぞ。まぁ、あと一人は後日にな‥‥」
 突如麗君から雷后に転じると、その場から毒霧と共に掻き消えた。


 撮影終了後の休憩所。誰もが役を演じきり、疲れた表情で椅子に凭れる。
「小風を演じるのも残りあと僅かかぁ〜。寂しいなぁ、悔いが残らんよう頑張るでー!」
「そうネー、クライマックスなんて淋しいネ〜」
 汗を拭う基町の一言にコクコクとうなずく藤宮と朝葉。レイリンがいつものように手作りの菓子を皆に振る舞う。今日は炒りたての胡麻香ばしい胡麻団子。皆、顔を綻ばせ箸を出す。
「いつも美味しいもの頂いてばかりなので、今日は工芸茶の『錦上添花』を用意してみたよ。お花が咲く様子が見れるんだ。神楽のお気に入りの一つだよ♪」
 用意していた透明の急須にゆっくりとお湯を注ぐと赤い花弁を模した茶葉が徐々に開き始める。見た目も香りもリラックスすること間違いなしの優しい香りだ。見ている桃音がふっと息を付く。
「さぁ、ひと息付いたらクライマックスまで張り切って頑張るわよ!」
 笑顔で桜が気合いを入れると、星辰も元気よく賛同した。