鈴音的声音道士 15アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや易
報酬 2.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/22〜10/26

●本文

 ――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
 ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
 人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
 画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
 ――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。
 画面は切り替わり、神が住まう山――崑崙山。様々な花が咲き誇る美しい山の中に築かれた宮殿に辿り着いた道士達は、今回の経緯を知るべく西王母の謁見に向かっていた。
 しかしそんな彼らよりも一足早く宮殿内を探る者が居る。それはあの冥界の鬼達。
「白よ、どこじゃ? 西王母がいるのは」
「あぁ焦るな、赤よ。今、鼻を効かせ神の匂いを探っておる、ぬ? 向こうじゃ!」
 柱をなぎ倒し先に進む彼ら。そんな彼らを止めるべく武器を構える護衛の兵達も柱同様に容易く投げ倒されていく。鬼達の目的は、全てを知る西王母。なんとしても道士よりも先に会い攫う必要があると考えたのだ。
「あっちじゃ! そら、おったぞ。お初にお目通りを申し上げるぞ、西王母様よ」
「さぁ、挨拶はそこまでだ。来て貰おうか? 嫌とは言わせぬ」
 兵士達によって奥の間まで逃げていた西王母に迫る鬼達。彼女は最大の恐怖に駆られながら威圧した態度を見せる。
「お断り致します。それにここは、お前達ような禍々しい者が入る場所ではありません。速やかに出てお行きなさい」
「ほぉ、言うてくれるわ‥‥、流石は駮様が心を寄せた女じゃな」
「かかかっ、気が強い女じゃ。まぁ強がるのも今のうち。とっとと来い!」
 ぐっと腕を掴み、無理矢理に連れ出そうとする。
 鋭い悲鳴を上げ、助けを求める西王母。それを聞きつけた妖怪が山の中から現れる。真っ白な身体をした三目の獅子。白澤だ。
「ぬぅぅ、冥界の鬼共がなぜここに居る! 西王母様をどうする気じゃ、離せ」
「おやおや、白澤。お主はまでおったのか。どうするかじゃと? 知れた事。駮様のお力を完全にするため連れ去り、女を差し出さす為の人質にするのだ。智を司る妖怪だというのに、それも考えつかぬとは‥‥」
 のっぺりとした白い顔の鬼が目の前にいる白澤を嘲笑う。白澤は低く唸りもするも西王母が囚われている今、手が出せない。
「まぁよい、どれワシらはこれからこの女を連れて行く。お前の相手ができんのは残念だ。まあこやつが相手すると申しておるわ」
 ケラケラと怒りの顔で笑う不気味な赤が、一つ豆を投げる。床に着く直前に音を立て変化を見せた。
 空を切り裂く風の音と共に人の大きさほどある猿、ユウアンが姿を見せる。白澤が身構える間もなく風を使い襲いかかり、白い毛皮を赤く染め出した。必死で抵抗する白澤。しかし彼には武器らしい物がない。
「さぁ、我らは羅豊で待つ駮様の元に‥‥」
「いや! 白よ。我は探し物をしに行く。邪仙は駮様のお力を完全にする一つの鍵。先に帰り、西王母を使って鈴と女を誘き寄せろ」
「解った。では主の帰りを待つぞ、赤よ」
 白鬼は小脇に抱える西王母を連れ、サッと姿を空にくらました。
 残った赤鬼は崑崙山の山中へ消える。彼が狙うは‥‥駮の力を増幅させる鍵。


〜出演者を募集〜
 中国ドラマ「鈴音的声音道士」では、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
 また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
 

〜道士の法力選択〜
 ・青い鈴 
 青龍
 春と東の守護神 
 能力:水 守備型
 武器 龍笛&方位計  龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
 玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。

 ・赤い鈴
 朱雀
 夏と南の守護神
 能力:炎 攻撃型
 武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。

 ・白い鈴
 白虎
 秋と西の守護神
 能力:森または道 攻撃型
 武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。

 ・黒い鈴
 玄武 
 冬と北の守護神
 能力:山 守備型
 武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。

 ・黄色い鈴
 麒麟 
 ? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
 能力:?
 武器 ?

 なお詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、能力、武器など一から決める事が出来ます。
 ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
 鈴は玄武、麒麟に限り二つに分けることが出来ます。しかし力は半分となってしまいます。また能力に適した技以外の力は、使えないことがあります。
 この五つ鈴は必ず埋めて下さい。
 

妖怪情報:
 ユウアン 入れ墨をした猿の姿をした妖怪。人を見ると嘲るように笑い、動きは矢のように速く、風を作る。これが姿を見せると台風が訪れ天災を撒く。
 白澤(ハクタク)万物に通暁し一万一千五百二十種もの妖怪について語る事の出来る妖怪。姿は獅子のようであるが顔に三つの目を持ち、また腹の部分にも同じく三つ目を持つ。
 赤鬼(通称 赤)怒りの形相をした冥界の鬼。武器は刺す股などを巧みに操る。また口から相手を混乱させる霧や溶解液などを吐き出したりする。邪仙を狙い山中に潜む彼女を追いかける。

●今回の参加者

 fa1170 小鳥遊真白(20歳・♀・鴉)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2986 朝葉 水蓮(22歳・♀・狐)
 fa3262 基町・走華(14歳・♀・ハムスター)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3578 星辰(11歳・♀・リス)
 fa3656 藤宮 誠士郎(37歳・♂・蝙蝠)
 fa3739 レイリン・ホンフゥ(15歳・♀・猿)

●リプレイ本文


 白澤の案内で西王母の元に急ぐ道士達。月明かりの下、長い石段を駆け足で登る彼らの目に飛び込んでくるのは破壊された建造物。美しかった山の面影一つ残らないほど酷い有様だ。
「ちぃ、つくづく後手回りかよ」
「そうらしいアル。もしかしたら鬼達も近くに居るかも知れないアルね」
「だったら、急いで西王母様の元に行かなきゃ!」
「えぇ、そうしましょう。‥‥あら? 鈴の色が赤から黄に変わりましたわ。今度は麒麟様のご加護なのですね」
 周りを見渡し舌打ちをする天曹(藤宮 誠士郎(fa3656))に続いて、鬼の襲来を予測する星麟(星辰(fa3578))。彼らの言葉に更に足を早める小風(基町・走華(fa3262))だ。
 後方の春霞(月見里 神楽(fa2122))は、小さく鳴った赤鈴の異変に気づき取り出す。闇の中で淡い光を放つ鈴が赤から黄へ色を変え、彼女の手の中で小さく鳴り響いた。
「しかし人と妖怪は滅ぼし合うものなのか? そういう運命なのかのぅ」
「‥‥そんな事はない。希な話だが我のように仲良くしておるのもいる」
 美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))は階段を上がるにつれ重く沈んだ表情となっていく。そんな彼女を先に上がる白澤が振り返り励ました。
「あぁ、そんな妖怪は幾らでもいる。私のようにな」
「誰だ?!」
 突如、空からの声に道士達は応戦を示した。が、リンと響いた鈴音で仲間だと気付く。彼女・良月(小鳥遊真白(fa1170))は背中の羽根を羽ばたかせ地に降り立つ。
「お前も妖怪か?」
「私は妖怪であって、人でもある者だ。遠い祖先が鳥の精霊と結ばれ、先祖返りで私が生まれた。赤鈴は何者か解っていて選ぶというらしい」
「彼女は良月。ここを守る者じゃ。ほう赤鈴に選ばれたか? なら共に西王母様の元へ急ごう」
 淡々と語る良月に一同、聞き入る。今回、赤鈴は妖怪の血を継ぐ彼女を選んだのだ。白澤は声を掛けると再度走り出した。


 半壊した建物から悲鳴が聞こえ、白澤は瞬時に飛び出した。道士達も後を急ぎ追う。しかし本気で走る白澤になかなか追いつけない。
 ようやく彼の傍まで来た道士達が目にしたのは、白鬼に羽交い締めされ西王母。咆哮を上げる白澤の前には大きな猿の姿をしたユウアン(レイリン・ホンフゥ(fa3739))が対峙していた。
「道士達よ、お主らが来るのが遅れたばかりに白澤がユウアンにやられておるわ‥‥くはっはは! さぁ、赤が鍵を探しに行っている間、我はこの西王母を羅豊に連れて行こうぞ! お主達はここでユウアンと楽しむが良い」
 高らかに笑う白鬼は、すっと空を駆け出し麓を目指した。自然とそっちに足が向く道士達だが、ユウアンが巧みに操る風で傷を負う白澤を放っておけない。
「陰極まれば陽もまた極まる。万物の理‥‥。ユウアン、あなたに虹輝の曲を差し上げましょう!」
 春霞が、急ぎ琵琶を取りだし海老尾に付けた黄色い鈴を一つ揺らすと曲を奏でだす。それに合わせ小風も青鈴を弾き龍笛を唇に当て彼女の曲に『鎮守の奏』『武神の奏』を重ねる。
 曲が召喚した虹色に輝く美しい龍が、強い光を放ち夜空を横切った。ユウアンはあまりの眩しさに腕で目を抑える。
「だ〜れキ、オイラの遊びを邪魔するのは〜?」
「誰とな? うちらは四神に鈴を託された道士。白澤から離れるのじゃ! 白き鈴音の響きに応えよ――光鴉ッ!」
「おいサル野郎っ、ちょこまか動くなよ、結界之縛・混元綾」
 美蓮が白鈴を鳴らしながら、折鶴を飛ばす。手から離れた鶴は、光り輝く鳥に姿を変えユウアンに襲いかかる。
 妖怪はいっそう激しく抵抗する。だが徐々に弱まる力を見極めた天曹が杖を振り地を一つ突く。黒鈴の音が響き現れた結界がユウアンを囲んだ。たじろぐ妖怪に神気を流す帯紐がその身体を捕縛する。
 共に死線を旅する道士の見せる阿吽の動きに隙はなかった。
「何するキ! 離せぇっキィ」
「お主を封印いたそう‥‥心穏やかに逝け!」
 藻掻くユウアンに良月が赤鈴を唸らせ剣を振り下ろす。が、妖怪は寸前の所でクルリと背を向け、一か八かの掛けに出た。
 ガキィン!
「やったキ‥‥。白鬼様、赤鬼様の後を追うキ! これをお前らにお見舞いするっキ、風爪!」
 良月の振り下す法剣が光りの帯を断ち切ってしまった。
 自由になったユウアンは、引っ掻くような動作と同時に風の刄を飛ばす。良月は咄嗟に避け、自分の所為で逃げられた屈辱を耐え凌ぐ。
「だ、大丈夫アルか? 今、回復を施すアル。全ての生あるもの大地の精もて健全に復すべし! 快功治癒、急々如々!」
 星麟はすぐに白澤を助け起し、黄鈴を手に回復の詠唱をする。だが二つに分かれた鈴の所為か力が弱い。春霞は琵琶を持ち直し『麒麟の湊』を爪弾く。低音で流れる曲に合わせ、空から金色に光る麒麟の幻が現れた。白澤の傷に優しく息を吹きかけ癒していく。
 彼女の神気がそこまで強まったのは崑崙山の持つ特別な力だろう。春霞は徐々に身体を流れる神の血を意識し始めた。
「仕方ねぇ、ここは二手に分かれて追おう! 良月、美蓮、小風‥‥赤鬼。あいつが探しているのは鍵、つまりはもう一人だ。俺と星麟、そして春霞は白鬼を追うぞ! おう、そうだ小風、お守り代わりにコイツを持ってけ。使えるのは一回だけだ。いざって時に使うんだぞ。美蓮と良月をちゃんと護衛しろよ!」
「え‥‥いいの? 謝謝、天曹さん。オイラは男だ! 頑張って女の人を守ってみせるよ!」
 素速く指示を出す天曹。普段は酒飲みでヨレヨレの印象を与える彼だが幾度となく戦いを経て幾分キリッとした印象に変わった。そんな彼が小風に手渡したのは、玄北老師から正規に預かった『宝貝・三十三天黄金搭』。鈴の力を借りずに捕縛出来るものだ。
 天曹の好意に、笑顔で答える小風の顔は少女のように愛らしい。まだ声変わりをしていない高い声で彼に礼とガッツポーズを取ると駆けだした。
「ふふ、道士達は二手に分かれる策にでたか。鈴も黄鈴も二つに‥‥出来ればその力を我がモノにしたい。力も連戦で弱まっているはず‥‥」
 邪仙、雷后(桜 美琴(fa3369))が潜んだ木の陰から小さく呟き、その姿を闇に掻き消した。


 泣く子供を抱えた赤鬼を見つけた道士達は、素速く戦闘態勢を整える。
「おい、赤鬼。その子をどうするつもりだっ!」
「どうするも、鍵を見つけたまでじゃ。そら‥‥ここにいる誰か見覚えがあるじゃろう? なぁ」
「そ、その子は?! お主の好きにさせん。我を只の人だと思うでないぞ! 響くは鈴音、吼えるは雷鳴‥‥白き雷虎よ来たれぇ!」
 小風の言葉に赤鬼がにんまりと笑いながら抱く子供の顔を彼らに向けた。その瞬間、美蓮が珍しく声を張り上げる。そう、鍵となる子供は美蓮の娘だったのだ。
 すぐさま白鈴の音を響かせ、光り輝く白虎を呼び出す。それに合わせ小風も龍笛で『幻鏡の奏』で美蓮を補助する。白虎の攻撃を寸前で交わしていく赤鬼。
「むははっは! 子を返して欲しくばもっと本気で戦え。尤も子も危なくなるじゃろうがな」
 その言葉に美蓮が動けなくなる。変わって剣を振るう良月。羽根を羽ばたかせ空中から攻撃を仕掛けていく。
「ここに有ることは間違いない‥‥何としても奴らより早く見つけねば‥‥私の野望は果されぬわ! ‥‥あそこかっ」
 薙ぎ倒された木々の間をくぐり鍵を探す雷后。逃げ惑う子供の顔を覗き見ては投げ出す。だが奥で赤鬼の笑い声を聞き取ると素速く移動した。しかし戦う彼らを見た彼女は、木の陰に身を潜め様子を窺う。
「キ、赤鬼様を助けるキィ! 辻風っ」
「くっ!? おのれ‥‥」
 追いついたユウアンが鎌鼬を放つ。良月は避けきれず、至る所切り裂かれていく。
「ユウアン、邪魔はさせないよ!」
「キィィ! 出せぇ」
 小風が空に向かって宝貝・三十三天黄金搭を思いっきり投げる。パッと光が差すとユウアンの周りに結界が作られた。そこに素速く鈴と龍笛の音‥‥『龍脈の奏』を奏で、いっそう結界の力を上げ、どんなに暴れても中からは破れない結界にユウアンを閉じこめる。
 良月は動けなくなったユウアンに向かうが、視界の隅で白虎を撒き逃げようと企む赤鬼を捕らえる。素速く地を蹴りつけ、美蓮に向かって叫んだ。娘を攫われる怒りに震えた美蓮の身体から強い神気が漲る。神への覚醒が始まったようだ。
「法剣を強化してくれ!」
「うぬ。森羅万象の詔持ちて赤き鈴の法剣に白き鈴音をっ!」
 振りかぶった法剣が赤から白熱の色へと変わる。身動きが取れない赤鬼の腕の子供を素速く奪い取った小風のすぐ後にその剣が赤鬼を貫いた。
「うがぁ〜ぅ!」
 言い難い奇声を発しそのまま地に崩れた赤鬼は、グズグズと灰へ変わり風に流された。
「赤鬼を退治して仕舞うとは‥‥な。鍵は美蓮の子だったか‥‥確かに神の血を継ぐ者だ」
「ぬ? その声は麗君、お主か?!」
「ち、違う。私は雷后だ‥‥! 今度はその鍵を狙うぞ。心しておけ‥‥」
 小風の腕から子供を受け取った美蓮が、木の陰から声のする方へ呼びかけた。すると弱々しい足取りで灰色の髪を持つ雷后が姿を見せる。嘲笑を唇に乗せ素速く姿を消した。
 だがその後に微かに聞こえるもう一つの声音。
『‥‥早く封印を‥‥』
 それは道士達の耳にしっかり届いていた。


 闇の中でも解るほど惨憺たる崑崙山の麓。挑発するように西王母を抱える白鬼が現れては消える事を繰り返し、その後を追って降りてきた道士達。
 春霞は進みながらも垣間見る破壊された山を心から悲しんだ。
「酷いですわ‥‥」
「くぁははは! そうか? 我らにとっては良い光景ぞ? 駮様が甦ればもっと良い光景が見られるわ」
「そんなコトさせないアル!」
 笑う鬼に追いついた星麟は西王母に注意しながら、三節棍で鋭い突きを繰り出した。白鬼は振り返り様空から大きな青龍刀を掴みかわす。
 春霞も黄鈴の音と共に『天射光の湊』を奏でると、曲に合わせ一閃の矢が天から飛来した。それを音色で操り新たな攻撃の手とする。
 流石に二つの攻撃を避けきれない白鬼は、壁に背中を付く。そこに天曹も酔拳を駆使した技で挑んだ。
「簡単に事が運ぶと思うか? お前さんの動きを封じるくらいわけないぜ!」
 一見すれば危なっかしい足取りであるが、白鬼の青龍刀を寸前で避け、逆に杖を急所目掛けて伸ばす。白鬼も邪魔になった西王母を離し、戦いに夢中になる。
 激しい闘志がぶつかり合う。だがそれは一瞬の隙をついた天曹が白鬼の青龍刀を弾き、杖の先を喉元に突きつけ終了した。
「白鬼よ、封印の宝剣がないから、ちったぁ痛いだろうがこのまま俺が倒してやる」
「天曹さん、聞きたい事があるので待ってください。ねぇ、鍵について教えて貰えないかな‥‥」
「かかっか! なんじゃそんな事。お主らのすぐ傍にいる道士に聞けばよいわ。娘を持つ道士にな」
「娘‥‥ですか? あ! も、もしかしてっ」
「そうだったのか! 白鬼、お前の役目はお終いだ。経の一つでも唱えて封印されろ!」
「以金気剣成、疾!」
 白鬼は春霞の問いに鼻で笑う。天曹が杖を振り翳した瞬間、物陰から飛び出した鋭い光りの刃に阻止された。慌てて飛び退く彼らの前に雷后がフラリと姿を見せる。
「な、なんだ?! 麗君、いや、雷后。毎度、暗躍ご苦労さん。‥‥御用のモノは手に入ったか?」
「ふん、麗君か。アレは一部であってそうでない。白鬼、そして道士達よ、お前達の好きにはさせん、西王母を頂いていく。以水気氷雪嵐成!」
 ぼんやりと麗君の影が見える雷后が西王母に近付く。それを阻もうとする道士達に氷の嵐を見舞い、弾き飛ばした。
 雷后は邪笑みを浮かべ、倒れる星麟から鈴を奪うと西王母を連れ出そうとする。が、いきなり白鬼が雷后に仕掛け、隙をついて西王母を抱くと壁に向かって姿を掻き消す。
「ふはははは‥‥いつもいつもお主達にしてやられる我らではない! 西王母を返して欲しくば、駮様のお力を甦えさせる鍵を連れて参れ! 邪仙、お主も来るのだ。ようやく奪い取れた黄鈴、半分の力しかないとはいえ駮様には必要じゃ。勿論、お主自身も必要だがな」
「くそっ‥‥どいつもこいつも!」
 天曹は、してやられた悔しさとこれから先の事を考えると頭が痛くなり、つい髪を掻きむしった。


 撮影が終了した休憩所。
 この脚本に驚きを隠せないスタッフや出演者達。彼らを前に撮担当ディレクターが説明を始める。
「皆さん今回、『鍵』となる人物の展開に驚かれたと思いますが、脚本家のユウ氏の役の設定を重んじた意向で採用になりました。大変かと思いますが、宜しくお願いします」
「ふ〜ん、なんかクライマックス間近を感じるね。有終の美が飾れるよう頑張ろ〜!」
「えぇ、大詰めになってきたわね。ほんと頑張らないと‥‥って、私が頑張っちゃうとバッドエンドよね」
 基町と桜がお茶で喉を潤しながら話はじめると、身体を毛布で包んだレイリンが足早に横切った。
「久しぶりでちょっと‥‥いや、かなり恥ずかしーネっ」
 実は特殊メイクではなく、獣人の姿で演技した彼女。一目散逃げるように控え室へ向かうが、スタッフに呼び止められた。
「メイクお似合いでしたよ。よかったら来週もその役でお願いしますと、ユン氏からの伝言です」
「え〜っそれ本気ネー?!」
 レイリンは驚き声を上げる。あまりの大きさに皆を振り返えらせて仕舞うほどだった。