鈴音的声音道士 17アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
極楽寺遊丸
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
2.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/19〜11/23
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●本文
――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。
画面は切り替わり、よろめきながらもひた走る白鬼。道士達にやられた傷を押さえるも止めどもなく血が流れ落ち、地面に点在し彼の通った道筋となっている。
「っく、これで良い‥‥良いんだ」
譫言のように呟き彼は必死の形相で羅豊の門を目指す。後ろから道士達が迫る気配をヒシヒシと感じていていた。
重い足を引きずるように前に運び、一歩、また一歩と門に近付いていく。
「しかし‥‥ここでやられるわけには、いかない‥‥あの鍵を誘き寄せてからでないと駮様に申し訳がたたんっ」
ぬっぺりとした顔に酷い脂汗を浮かべ後ろを確認する白鬼の耳に嗄れた不気味な声が響いた。彼の主人・駮であるのは間違いない。
「ああ、そうじゃとも白鬼よ。お前はよく解っているのぅ‥‥。流石じゃ。分別した力と鍵がなければ、我は絶対の力は出せぬ。あと少し、もう少しで我らが神を落とし、この地を支配する時がもうそこまで来ておる。さぁ‥‥最後にお主の力を我に与えよ。さすれば肉体の苦しさから解放され我と一つとなり地を治める事が出来る‥‥。もう力が尽きかけているお主の力を我に与えるのだ!」
「そ、そんな‥‥! こんなになっても仕えた私めを喰らい、妖力を取り込もうというのですか‥‥?!」
役に立たなくなったとみた駮は、僅かながらでも残っている白鬼の力を欲し、喰らい尽くし我がモノにしようと言うのだ。
あまりの主人の仕打ちに白鬼は、声を荒げキョロキョロ見回す。だが姿はどこにも見えない。
「何をそんなに怯える? 闇に息づくお主は、我の中に入り共に地を‥‥全てを闇に落とすと決めたのではないか? さぁ‥‥来い。白」
「い、嫌だっ我はそのままお仕えしたい! お願いでございます。駮様」
「ならぬっ! お主は我に入り最後の一滴までその妖力を寄こすのじゃ」
どぉん!
嗄れた声の一喝。瞬時に空気の波が立ち、波動の刃となって白鬼の体の一点を貫いた。薄い唇から断末魔の叫びの代わりに血を吐き、白鬼はガックリと倒れる。
「それで良い。それで良いのじゃよ白。お主の力をたんともろうたわ‥‥」
クツクツと楽しげな声音。幾分嗄れた声は若返ったようにも思える。
「さぁ、次は我の分別した力と鍵‥‥。早く取り戻さねばなるまい。白鬼の魂の無き肉体よ、既に開いた鬼郷の亡者と共にお主も手伝うが良い‥‥。ここで道士達を迎え撃て」
声に従いユラユラ立ち上がった白鬼。しかしその目はどんよりと曇り、半開きになった口元から舌がだらしなく垂れ下がっている。奇っ怪な動きで歩み前に出た白鬼をゾワゾワと囲むように現れた亡者。白鬼と赤鬼を崑崙山に送り込んでいる間、駮が鬼郷の亡者達を呼んでいたのだ。
闇に浮かび上がった扉‥‥。開いたそこから、更に濃い闇と障気が滲み出て、白鬼を追う彼らを待ち受けていた。
〜出演者を募集〜
中国ドラマ「鈴音的声音道士」で、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
〜道士の法力選択〜
・青い鈴
青龍
春と東の守護神
能力:水 守備型
武器 龍笛&方位計 龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。
・赤い鈴
朱雀
夏と南の守護神
能力:炎 攻撃型
武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。
・白い鈴
白虎
秋と西の守護神
能力:森または道 攻撃型
武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。
・黒い鈴
玄武
冬と北の守護神
能力:山 守備型
武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。
・黄色い鈴
麒麟
? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
能力:?
武器 ?
なお詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、能力、武器など一から決める事が出来ます。
ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
鈴は玄武、麒麟に限り二つに分けることが出来ます。しかし力は半分となってしまいます。また能力に適した技以外の力は、使えないことがあります。
この五つ鈴は必ず埋めて下さい。
妖怪情報:
鬼郷の亡者達:以前開いた時に現れた亡者。一体一体の力はそう強くはない。しかし亡者となった白鬼は別。生前の力と技をそのまま持っているらしい。
駮:羅豊の支配者。未だ力は十分ではない。しかし白鬼を喰ったことで多少の回復したらしく、凄まじい障気を放つ。自我に目覚めつつあり、今は封印された邪仙と鍵の少女を虎視眈々と狙っている。
●リプレイ本文
●
濃い妖気が立ちこめ真綿で締められるような息苦しさを感じる羅豊の森。道士達は逃げた白鬼を追い掛け、いつの間にかはぐれてしまった赤鈴の道士がいない事に不安を覚えながらも先を急いだ。
「ちぃ、本格的だな‥‥妖気が濃くなってきやがるぜ」
「大丈夫か? 華蓮。この鈴を持っておくのじゃ、少し楽になるぞ」
「そんな事をしたら美蓮さんも辛くなるアル! この戻った黄鈴の効力を使って‥‥医師見習いとしては向上の妨げとなるようで納得は出来ないアルが、この場合そうは言っていられないアル‥‥ね」
緊張を紛らわす様に酒瓶を掲げ喉を潤す黒鈴の天曹(藤宮 誠士郎(fa3656))はいつもの悪態を吐きつつ、よれた道士服で口元を拭い、桃の枝を地面に刺しては小さく鈴を鳴らしながら呪を唱え、他の道士達の後を追う。
神の血を継ぐと同時に母親である白鈴同士の美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))が抱える娘の華蓮は、妖気に中てられ浅い息を繰り返す。それを見た黄鈴を持つ医者見習いを生業としている星麟(星辰(fa3578))は、不本意ながらも鈴を振るい華蓮を癒していく。
「見て!この血の跡‥‥というか凄い血溜まりだよ! 白のモノかな? だとしてもなんでだろう」
「こんなに流しているという事は仲間割れ‥‥でしょうか?」
先頭を進む小風(基町・走華(fa3262))は青鈴の付いた龍笛を手に応戦の構えを見せ、慎重に血の跡を辿る。と、目に入ったのは窪みに溜まる大量の血。
顔を背けつつ明確に分析していく宮廷楽士見習いであり黄鈴を持つ春霞(月見里 神楽(fa2122))が小さく呟やいた。
誰もが追っている白鬼のモノと判断したいところ。奪われた西王母のモノである事とは思いたくない。
「なんにせよ、ここで血が戸切れていアル。小風さん、方位計で探せないアルか?」
「うん、やってみるって‥‥、な、なんだ? この変な感じ!?」
一つに纏めた太い三つ編みの長い髪を背中から肩に掛けて前に垂らし思案する星麟は、素速く次の手を考え小風に促す。彼は腰の帯に付けた方位計を取り出そうとした瞬間、唐突に背筋に凍りつく様な悪寒が走る。
咄嗟にその場を飛び退いた彼らに血溜まりがユラユラと異様な陽炎が立ち上げ、地を這う無数‥‥否、数百もの無念を説く唸り声を響かせながら、異様な動きをする人々を排出していく。
ウォォォオオオ!
「なっ!? 何だ? うぉ凄い数がお出ましだぜ」
「なんて数?! これって亡者だ‥‥よね? これじゃぁ先に進めないよ! けど早く西王母様を助けないとだ。皆の補助頑張るよ!」
「こんなに沢山‥‥。駮が羅豊から出てしまうと、人間界もきっとこの様な光景になってしまいますわね」
「凄まじい数じゃな‥‥しかし我は神の血脈にして白き鈴の道士! 猛る白虎の進撃はこれしきの亡者には止められぬわ! 響くは鈴音、吼えるは雷鳴、白き雷の猛虎よ来たれぇ!」
身じろぐ天曹。だが、すぐさま呼吸を整え手にした白澤から借り受けた崑崙山の宝貝棒、宝貝・金棍を振り、得意の酔拳で亡者の群れを薙ぎ倒した。小風は少女の様に愛らしい声で呟くと龍笛をを唇に当て青鈴を鳴らしつつ『鎮守の奏』『武神の奏』『疾風の奏』を立て続けに吹く。美しく勇ましい音色が聞こえだし、耳にした道士達の体に力が漲る。
春霞も琵琶を取りだし、撥で弦を爪弾き小風の奏でる『鎮守の奏』に交えた。天に音が届くと光り輝く竜の仲間である虹が姿を見せ、亡者達の目を眩まし怯ませだす。その中を美蓮が牙の腕輪から召喚し放った白光する虎が雷を伴い駆け抜け瞬時に消滅させていく。
混沌に惑わされながらも敵を探し回る亡者達の中で、一人の男に取り憑いた駮の影(諒(fa4556))が不気味な笑い声を上げ、補佐に夢中の小風に向かって手を伸ばした。
『ハハハハッ! 道士ドモヨ、コノママニノ手、三ノ手ヲ取ラヌト思ウタカ? 最早我ハ待ッテオルダケデハナイゾ! 行ケ白ヨ』
「‥‥うわ、は、離せぇ」
「鍵ノ女を渡セ‥‥我が力ノ糧になル鍵を渡すノダ」
「小風さん、屈むアル!」
ドグッ!!
直接頭に響く嗄れた不気味な声と共に、伸ばされた手から黒い帯が小風の細い体に巻き付き締め上げる。
苦しさで悶える彼に白鬼(レイリン・ホンフゥ(fa3739))が虚ろな視線で力任せに殴りかかった。だが一瞬速く、小風は背後から聞こえた星麟の言葉に従い、縛られながらも屈み避けると、タイミングよく星麟が繰り出した三節棍の突きが白鬼の顔を的確に捉えた。
鈍い骨の砕ける音を立て呆気なく地面に倒れされた。そんな白鬼に星麟はやや訝しげな顔をする。
「あの白鬼が、こんなに簡単に倒されるはずないアル!」
『クハハ、ソノ通リダ。道士ドモ‥‥白ヲ含ム、コノ亡者ノ群レガ、オ前達ヲ喰ライタクテ待ッテオルゾ』
「我が力ノ糧になル鍵を渡すノダ‥‥」
駮の影の言う通り、何事も無かった様にユラリと立ち上がる白鬼の目に生気が感じられない。だらしなく垂れる舌を噛んでも痛み一つ感じない様子で、星麟によって割られた額からどす黒い血を流しながらまたも襲いかかってくる。
身を翻し応戦する星麟。だが倒れない敵とあっては分が悪い上、立ちこめる障気の中で息が上がるもの早い。
有利だった体勢も徐々に押され出したその時、
「私達は急ぎますので、白鬼さんのお相手ばかりしてられませんの」
春霞の爪弾く琵琶の『天射光』音色と共に陽の気を纏った大小様々な光の矢が、天から飛来し亡者達を薙ぎ払う。星麟は同じ鈴を持つ彼女との阿吽の呼吸ですぐに後ろに下がったその瞬間、矢の一片が閃き白鬼の胸を貫いた。カクカクと不可思議な動きでまたも地に倒れる。それでも琵琶の音は鳴りやまず、高い音域から低い音域に合わせ降り注ぐ矢達は道士達を避け亡者達を狙い地に返していく。その一つの矢が小風を縛る黒い影の触手に触れ、彼を解放した。
「チィィ! 黄鈴ノ同士メ‥‥ヨクモ‥‥」
「イタタ‥‥ようやく離れた。けど待て!」
「任せるのじゃ! 白き鈴音の響きに応えよ――光鴉ッ!」
「その体では無理アルよ、すぐ治療するアル! 全ての生あるものは大地の精もて健全に復すべし、快功治癒、急々如々!」
光を浴び爛れた触手を引っ込めた駮の影は吐き捨てる様に一言。すぐに残る大量の亡者の間に身を隠す。追いかけようとする小風を美蓮が止め、娘を胸に抱きながらも鶴の折り紙を取り出し詠唱と共に飛ばす。手から離れた鶴はパッと光り輝く鳥と化し逃げた駮の影を追っていく。
止められた小風は星麟が素速く的確に傷と中てられた障気を見定め黄鈴を鳴らし回復を促した。
「白鬼の奴、魂魄が抜けてるな。大方、駮に喰われたんだろ。憐れだねぇ‥‥ま、同情はしねぇが胸糞悪い話だぜ。しっかし、こう数が多くちゃたまんねぇな。よしっ完了っと‥‥。崑崙山で育った杏の枝、こいつは強力だぜ‥‥亡者よ土に帰れ! 結界之陣、杏黄旗」
羽根よりも軽い宝貝棒で亡者共を薙ぎ倒していく天曹。数的にかなり不利と悟っていた彼はこっそりと準備していた桃の枝で作った結界を完成させ、印を踏み力強い詠唱。それに応える黒鈴が鳴り響き、大きな結界が発動し、幾多の亡者達が聖なる光の中で蒸発していく。だが、それでも無数の亡者達を残し、かつ、いつも間にか身を隠した白鬼の姿もここにはない。しかしその気配は感じる。まだ油断ならない状況下であるが、この結界はしっかりと意味を成していた。羅豊の森へ崑崙山の兵達を召喚する意味も含んでいたからだ。
再度、輝く光の中から崑崙山の兵士達が武器を手に現れた。
「遅くなってすまねぇ、ちょいと手間どちまってな」
「いや、‥‥ありがとう黒鈴の道士! ようやく来れたぜ、うちは朱雀様より仕わされた応龍だ。さぁ行くぞ」
まだ無邪気さの残る少年である応龍(武田信希(fa3571))は、動きやすい武道着姿で鳳凰から預かる赤鈴が柄に付いた法剣で、率いた兵達に号令を掛け、勇ましく突進し、赤い旋風の如く亡者を薙ぎ倒していく。
それでも亡者達は白鬼が生前残した血から滾々と水のように湧き、数を増やしていった。
「ちぃ、キリがねぇな‥‥結界之陣、杏黄旗」
「今度こそ倒す! 駮の好きにはさせないよ、西王母様のためにも‥‥オイラも攻撃に加わるっ 勿論、無茶は承知の上。だけど引き下がることなんてできない!」
もう一度、印を踏み詠唱をする天曹に星麟の術で完治した小風が戦闘に加わるため『昇龍の奏』を吹く。力強くなる黒と青の鈴の音が合わさると、凄まじい神気を帯びた竜巻が起き、亡者達を中に巻き込み散り散りにしていく。竜巻に巻き込まれない様に避けながら応龍は残りの亡者達に法剣を振り上げ斬り捨て先に進む。
『白ノ血ハ‥‥所詮ハコノ程度カ‥‥ナレバ我ノ力ヲ分ケ与エヨウ。最後ニモウ一働キスルノダ』
身を隠していた駮の影が先程から美蓮の操る光鴉によって胸を貫かれ倒される。瞬時に彼は体を捨て難を逃れるも、豪奢な飾りをたっぷり付けた皮の甲冑を纏う人とも馬‥‥否、豹とも取れる駮の影が揺らめきながらその場に姿を見せた。
亡者の中から呼び寄せた白鬼に命じるすぐさま姿を消した。残された白鬼は傍にいた黄鈴の道士達に牙を剥き襲いかかる。
「我に鍵ヲ寄こすノダ!」
「な、何をするアル」
「危ないっ! 白き鈴音の響きに応えよ――白蛇ッ!」
咄嗟に応戦態勢を作る星麟は三節棍を操り力尽くの攻撃を防ぐ。琵琶を手に持つ春霞は、生のない者が持つ異様な空虚に圧倒され膝を付いた。背に冷たい汗が流れる。っと、そこに凛とした美蓮の声が響き、白鈴の音と共に新たに召喚された蛇が白鬼の体に巻き付き動きを封じる。
以前から美蓮の胸に引っ掛かっていた『人と妖怪との共存、手中にある鈴の存在、娘を守る為に命を掛けて戦う』がここに来て少しずつ解った様に思え意を決した彼女の声に濁りはない。
「は、離セっ! 鈴ヲ‥‥鍵を我ニヨコセ」
「哀れな白鬼よ。うちが朱雀の霊力を持って封印してやろう」
「森羅万象の詔持ちて赤き鈴の法剣に白き鈴音を!」
白蛇が絡み神気に中てられた痛みに暴れ回る白鬼。突き進みようやくその前に辿り着いた応龍が赤鈴を一つ鳴らし法剣を翳すをみた美蓮が術符を法剣に投げつけた。シュッと鋭い音を立て真っ赤に燃える法剣が巻き付いた術符の力により白熱の色へ変わる。
応龍は白鬼を見据え剣を振り下ろそうとするその時、春霞が琵琶を弾き、これから冥土に旅立つ白鬼をしっかり送るべく『華送』を奏す。それは彼女が赤い鈴を持っていた際に使われた術。更に赤の方術を強化すべきものだ。
「 華を持ち歩き出そう 汝らの新しき門出
流れよ理のままに この地を離れようとも
汝ら悲しむなかれ いずれ戻り来る地なり
華を持ち送りだそう 穏やかなる香りと共に
今しばし眠りのときを‥‥ 」
更に強い光に見舞われた法剣を応龍は白鬼目掛けて打ち下ろした。
「ウギャあぁぁ!!」
真っ二つに割られ凄まじい悲鳴を上げ倒れ伏し灰と化す白鬼。彼が生前に流した血も同時に蒸発し亡者は現れなくなった。
ブォォオォ!!
小風がまだ奏ていた『昇龍の奏』は、最後の大掃除へとかかった。
●
「ふぅ、ようやく落ち着いたね‥‥」
「うぬ。さぁ、華蓮。ちょっと休ませてくれ」
「怪我がある方集まるアル! 次の戦闘に備えて治していくアル」
「お役に立てて良かった」
やっといつもの笑みが漏れる小風。いつも以上に大きな術を使ったせいかその場にへたり込む。無論、それは彼だけではない。息を継ぐ天曹も顔には出ていないがそのようだ。
美蓮は戦闘中、娘を守るため抱き放しだったせいか腕が痺れてしまい、休憩となった今、地に下ろし腕をさすっていく。星麟は春霞の『麒麟奏』と共に怪我をした応龍を含む兵達に黄鈴を鳴らし治癒をしていった。
長い戦闘でようやく気を許した時間をもてた彼ら。しかし束の間の休息を狙う駮の影。シュッと触手に似た手を伸ばし地面で遊ぶ華蓮を攫った。素速く美蓮が追うが間に合わなかった。彼らの頭にまたあの嗄れた声が響く。
『フハハハ! ツイニ‥‥ツイニ手ニ入レタゾ! 返シテ欲シカロウ‥‥。ナレバ我ノ主ノ城ニ勾玉ト共二来ルガイイ‥‥鈴ニ選バレシ道士達ヨ』
「な、なんて事じゃ‥‥ここで奪われるなんて」
「しっかりするアル、美蓮さん! けどなんと巧妙ないう手口アルか‥‥。駮‥‥なかなか侮れないアル」
「駮にいよいよご対面‥‥でしょうか‥‥。急いで城に行きましょう」
「羅豊の城へ来いか‥‥俺は腹くくったぜ!」
目の前で娘を奪われ打ちひしがれる美蓮を慰める星麟。春霞は驚きを隠せない様子であるが意を決した様だ。天曹も同様にぐぃっと酒を飲み干し己の腹を決め、小風も応龍も同意するように小さく頷いた。
●
放たれる障気が凄まじい冷さとなって漂う闇の中。
『アト一ツ‥‥アト一ツダ。鍵ト力。ソシテ五ツ鈴モ手ニシ、地ヲ我ガ支配スルノダ』
ぐったりとした華蓮を抱く影が呟いた。
●
撮影終了後の休憩室。妖怪役の諒とレイリンはボイスチェンジャーで嗄れた声に挑戦し、模型やCGで後撮りされるという大変な作業であった。
しかも役者の体調不良のため急遽、白鬼をレイリンが演じている。
「うハー、白鬼さんを演じるのはどきどきだったヨ。でも楽しんで演じさせて貰ったネ」
「良かったよーお二人さん。しかしホンマ緊迫の展開になってきたなぁ。気張っていこか」
にこやかに受け応える基町はぐっと気合いを入れた。