female Buccaneers6ヨーロッパ

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/22〜11/26

●本文

『female Buccaneers 〜 海を彩る美しき女海賊たち 〜』

 一艘の木造船が沖を滑るように進んでいく。その旅立ちを真っ青な空も海も祝福しているようだ。
 風を孕み脹れる真っ白な帆。高々と立てられたマストに真っ赤なジョリー・ロジャー(海賊旗)がはためく。
 そこに映し出された金色の飾り文字『female Buccaneers 〜海を彩る美しき女海賊たち〜』とこのドラマのタイトルが流れ消えた。

 夜明け。まだ薄暗いが太陽は確実に海の向こうから空へと移動し始めている。
 マルティンク島の港から見る海上は気温の差の所為で乳白色の霧が立ちこめ、視界が悪い。尤もこれもいつもの事。太陽が昇りきってしまう前にサッパリと消え、変わりに抜けるような青い空と海が見えるはずだ。
 しかし今日に限り、普段と変わらないと簡単に済ませてはいけなかった。
 膜のような霧に紛れ、音もなく波の上を滑る数隻の船が、港に近付く。そう、それはあのサンド・ドミグ率いる軍艦だ。
「この霧に紛れ島に近づき、一斉砲火を浴びせた後、海賊達を全員捕縛する。あいつらに慈悲などいらん。全員捕まえて絞首刑台に送ってやる。抵抗しようとする者がいれば、その場で処断してしまっても構わん。そう、気を付けなければいけないのはジョリー・ルージュの面々だ。船長からロードストーンを奪え。その後は好きにして構わんぞ。なんせ噂の美しき女海賊達だ。色々と楽しませてくれるだろう‥‥」
 甲板に立つサンドは居並ぶ海の猛者‥‥部下達を前にカップに入った目覚めの一杯の紅茶を楽しみながら指示を出している。優雅な手つきでカップを水夫に渡すと、そのまま部屋へと引き上げた。
 彼の指示を受けた水夫達が甲板を慌ただしく走り回る。陸に面した部分の砲門が開き、頭を出す大砲。数十分後、戦闘態勢は十分に整った。
「くっくっく‥‥さて、皆さん目覚めの一撃と行きましょうか?」
 すぐさま弾が込められ、港に向かって一斉に砲撃が開始された。サンドは室内で空気を斬る音を楽しげに聞く。その手には長い鎖で繋がった古びた鍵があった。付けられた鎖は豪奢なモノで彼の首からぶら下がっている。
「このドミグ家に代々伝わる『紺碧の心臓』が入る箱を開ける鍵‥‥。こんな事にわかに信じられなかったが、ロードストーンが出てきた今、嘘ではなかったようだ。ジョリー・ルージュの奴等がロードストーンを持っていても、役にはたたん。私が手に入れ、王に献上し階級を上げて貰うのだ」
 着弾した爆発音が響く中、サンドが船長室で鍵を見つめほくそ笑んだ。

 夜も明け始めるが霧は一向に晴れず、太陽の光はぼんやりと港を差す。それでも活気ある港に突然、空を斬る奇妙な音が聞こえたかと思うと、間髪入れずに石畳が炸裂音と共に飛び散った。
 一瞬にしていつもの朝の風景が変わる。耳を劈くような轟音が響き、辺りに瓦礫と小石が噴き上げられ雨のように降った。
 飛来する砲弾が容赦なく建物を崩し、誰もが一心不乱に逃げ惑い、騒乱となる。それを見計らって武器で身を固めたサンドの部下達が軍艦からボートで上陸を果たし、暴れ始める。
 家に押し込み、海賊を見つけると縛り上げ連れて行く。見境無く銃を発砲し火を放つ。辺りは霧と煙が混じり一層、視界を奪う。止む事のない砲撃音に女達の悲鳴や建物が壊される地響きの中にマルティンクの港‥‥否、街までもが包まれた――。

■参加者を募集します。
 ヨーロッパ発の海を渡る冒険活劇『female Buccaneers』に出てくださる出演者を募集してます。
 女性海賊達が乗り込むジョリールージュはなるべく女性の船員が好ましいと考えており、またプライベーティアの方は王室から許可書を得た私掠船。こちらは男性の乗組員で構成をして頂きたいと考えております。
 そして配役は二つの船の船長以外、まだきちんと決まっておりません。この二つの役が重ならない限り、皆様の演じたい役のご希望を頂ければ嬉しく、また添えるよう努力させて頂きます。ただしこのドラマに沿った役でお願いします。
 
 ジョリー・ルージュの船長 腕っ節と機転の良く利く女船長。
 プライベーティアの船長  明晰な頭脳と繊細な神経の持ち主だが、土壇場に強い男
 操舵手
 帆手
 甲板長
 砲手
 調理長など船に関わる仕事など。

 使用できる武器等。
ピストル:原始的なフリントロック式。殺傷能力は高いが一発撃ったら再装填しなければならない。また潮風で火薬が湿気り不発もしばしば。そのため何丁も肩帯から提げることがある。
マスケット銃:銃身の長いフリントロック式の銃。殴り合いの時でも使われる。
カトラス:海賊が用いた片刃の小剣。船など狭い場所で戦う時に威力を発揮した。

●今回の参加者

 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa3293 Even(22歳・♂・狐)
 fa3325 マーシャ・イェリーツァ(23歳・♀・兎)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)
 fa4611 ブラウネ・スターン(24歳・♀・豹)
 fa4716 エキドナ(24歳・♀・蛇)
 fa5088 リリア・フィールド(15歳・♂・犬)

●リプレイ本文


 霧と見境のない砲撃の煙で視界を奪われたマルティンクの港。夜の航海を避け、船で休んでいたジョリー・ルージュの乗組員達は耳を劈く轟音で目を覚まし様子を窺う。
 騒ぎを聞き起きてきたネグリジェ姿のメアリー・ショウ(マーシャ・イェリーツァ(fa3325))は、まだ抜けきらない眠気を払い一言。
「ん〜、夜も明けたのにひどい霧ね。しかもなんですのこの騒ぎ? いつもこんな賑やかな港なのかしら。出航は霧が晴れるまで待った方が‥‥って、これはカノン砲の音!? あれは国王の艦隊! 自国の港を無差別攻撃するなんて‥‥」
 一瞬にして目が覚めた彼女。繰り広げられる地獄絵図に怒りが沸点に達するもギリリと奥歯を噛みしめ爆発するのを耐え、すぐさまネグリジェを翻し舵を掴む。
 それを見たリーザ(エキドナ(fa4716))は素速く錨の鎖を掴み他の甲板員と共に引き上げに掛かった。動きに合わせ帆手も狙撃手と力を合わせて湿気った霧の中に帆を張る。長旅で培った阿吽の呼吸で言葉にせずとも互いの行動を瞬時に判断し、無駄な動きのない彼女達。出航準備を整えたところに、高く結い上げた金糸の髪を揺らし、一人の少女が船に手を振る。
「わわっ! すみませーん乗りますっ遅れましたが、新しく砲撃手として参加するメグ・ライオンです! 乗船許可を申請しますっ」
 挨拶と一緒に真っ赤なルビーのペンダントを掲げた。彼女は船長が昨晩スカウトしていた新しい仲間、メグ・ライオン(緑川メグミ(fa1718))だ。リーザ達が上げる錨の鎖に捕まり、彼女は甲板に上がった。
「よく来たメグ。いきなりで悪いんだが戦闘準備だ! 砲はこの下にある、急げ! メアリー、陸に上がろうとする奴等をここで食い止め戦う。陸にあがった輩は気にしなくてもあっちで応戦するハズだ。だがこれ以上、陸へあげる事はさせない。リーザ、戦闘の主力は任せたよ!」
「了解、船長。わたくし達があの方達に目にもの見せてやりましょう!」
 船長の指示が飛び、一同、気を引き締め戦闘準備に取り掛かった。


 ジョリー・ルージュ号とは離れた沖合で鈍く響く砲声を聞いているプライベーティア号。
「船長はサンドの所。俺達は留守番――で、こりゃまた景気のいい目覚ましなこった。が、下手すりゃ永眠だな。まったく派手に出たもんだぜ。っで、どうするんだジル? このままじゃルージュと一緒にロード・ストーンも連れていかれちまうんじゃないか?」
「ふふん、サンド・ドミグというのは噂どおりみたいですね。‥‥血筋が良いというだけで、貴族としても船乗りとしても三流だ。そして女性の扱い方もね。この霧の中で連携も取れない無粋で鈍重な艦を使い、かの麗しい女性達を射止められるとでも思っているんですかね? さ、クライドこちらも応戦と行きましょうか。どちらの味方かは、賽の目まかせ風任せという事で」
 手摺りに凭れ二日酔い冷めやらぬ頭を掻く調理長のクライド(四條 キリエ(fa3797))は気怠そうに、隣の副長のジル(Even(fa3293))に声を掛けた。
 無粋極まりない奇襲に対してジルはいつも通り穏やかな口調でありながら痛烈に嘲笑ると、操舵室に向かい船長が訪問している軍艦に向かって船を進めた。

「突然の不躾な訪問をすみません。えぇ、なんでも貴方がここで海賊達を根こそぎ捕らえている予定だと聞いたものでしてね」
 プライベーティア号のキャビンに負けないくらい、豪奢な作りのサンド・ドミグの部屋。
 キャプテン・ホーキンス(AAA(fa1761))は革椅子に座るサンドの前に立ち、優雅な所作で一礼をする。それを穏やかと取るか、不敵と取るか解りづらい笑顔を貼り付かせていた。彼の慇懃な態度に気をよくしたサンドだが、どこか訝しげな目で見据え席を勧めるでもなくそのまま話を聞く。ホーキンスは咳払いを一つすると言葉を続けた。
「‥‥しかしながらここでご忠告を。あのジョリー・ルージュを貴方が相手にするには荷が重すぎるのでは? いやいや、お気を悪くされたのでしたら申し訳御座いません。ですがあの海賊達は他の者よりも一枚も二枚も上手。並の采配では難しいかと存じますよ」
「ホーキンス君の意見では、この軍艦と部下では不足だと言いたいのか、え? なら見るが良い外を。あれは君の言うジョリールージュではないのかね? もう少しで我が部下がロード・ストーンと海を賑わせた麗しい女海賊を捕らえてくるだろう」
 ホーキンスの紡ぐ皮肉を自分への侮りと捕らえたサンドは、勤めて冷ややかな怒りを見せる。彼はゆっくりと椅子から立ち上がると、ホーキンスに負けないよう優雅な足取りで甲板へ共に出る。望遠鏡を手にし戦っている彼女達を楽しげに眺めた。浅瀬で身動きが取れない小さな海賊船は恰好の餌食だ。
 しかしホーキンスは彼の自信を打ち負かす様に、
「そうまで仰るのなら、ここで見物と致しましょう」
 優雅な笑み再度、皮肉を向けた。


 浅瀬で上陸するボートを食い止めるジョリー・ルージュ号。砲室に降りたメグは真新しい砲を見て感嘆の声を上げる。
「これが‥‥噂のジョリー・ルージュの砲室かぁ、綺麗にしてるのね。ほかの船の‥‥といっても一つしか乗ったことないけど、それよりも整理整頓されて‥‥。あ、これって新型砲かしら?」
「あぁ、ようやく手に入れたんだ。しかし話し込んでる暇はないよ、砲撃準備! 狙いはあの軍艦だ」
「あわわ‥‥は、はいっ。そ‥‥装填完了ですぅ! 発射します〜!!」
「待て、メアリーの合図まで待機だ」
 手を伸ばしメグを止めに入る船長。頭上にいるメアリーの合図を静かに待つ。そう彼女は小回りのきく船体と卓越した操船を活かし、霧を盾に撃破を目論んでいるのだ。
「そんな砲撃、わたくしが舵をとるジョリー・ルージュに当たると思って? ふふ、霧と波に翻弄されて艦隊運動がバラバラでしてよ‥‥まずは、一隻!」
「撃てぇ!」
 ドォォン!
 飛び交う弾と爆撃の余波を巧みに避けながら、船を射程距離内に誘い込んだメアリー。小さく手を振る彼女の合図を読んだ船長が砲撃命令をだすと、合わせてメグが引き金を思いっきり引いた。
 ヒューンッと空を切る音の後、軍艦の右舷を爆撃。凄まじい音と共に船を吹っ飛ばす。粉々に砕けた屑を受け、下にいるサンドの部下達も一緒に海の中に消えていった。
「やったー! ほんと船長達はすごいな‥‥こんな激戦でもあんなに冷静なんだもん。私もああなりたいなぁ」
「お褒めの言葉をありがとよ、メグ! よし次だ‥‥ってうわぁ! あ、弾が‥‥」
「こりゃ次の弾を込める前にちと時間稼ぎが必要じゃねぇ。どれ出張ってくる」
 メグの言葉に照れた船長は、次の弾を彼女に渡そうとするが大きな揺れで前につんのめり弾を取り落とし転がしてしまった。追いかける彼女達に苦笑いを浮かべつつ、鎧を着込んだリーザがマントを翻し近付いてきた一隻に飛び乗った。それを援護する狙撃手。
 幾多といる体躯の良い水夫達に怯むことないどころか、冷静にその動きを見極めマントの下から吊り下げた改造ショテルを取り出すと、グンッと投げつけ打ち倒していく。それは発砲するよりも素速く彼女の意志のままに動き男達を無惨にも倒し、乗り込んだ船を壊滅へと追いやる。どんな攻撃にも冷静に対処しかつ恐れないリーザは、さながら海の戦乙女と言ったところか。
「おや‥‥また外してしまいましたね。あぁ、ほらほら‥‥今度は左舷が狙われておりますよ」
「う、煩い! 黙っていろ‥‥こ、この船も向かうぞ! 全速前進だ」
 サンドの隣で望遠鏡を覗きこみながら、ホーキンスは嬉しげに独り言を呟く。それは二隻船を不能にされたサンドの怒りに油を注ぐには十分。
 怒鳴られたホーキンスは呆れた様にひとつ肩を竦めまた望遠鏡を覗きこんだ。


「ねぇ、何故そんなにこの海域に詳しいんですの‥‥? それならそこの浅瀬に誘い込みましょう! よし」
「ふーむ。時間は無事稼ぎ終えた様じゃねぇ。お遊びの時間は終わりじゃ! またのぅ」
 後を追ってきた三隻目の軍艦をメアリーは帆手の指示通り、浅瀬に乗り上げさせた。
 そこで二隻目を肉弾戦のみで壊滅に追いやったリーザが自船に舞い戻る。最後にヒュンと投げ斧をし、軍艦の舵を粉々に破壊した。皆の無事を確かめた船長がにっこり微笑み、
「さぁ、そろそろ親分の船を倒しに行くか!」
 気合いを入れた。

 無論、港の方でもサンドの部下達を倒した海賊達が、街を守るため高台に上がり海に浮かぶ軍艦に向かって砲撃を開始している。
 ジルの舵によって弾を避けながら、クライドが自衛のために放つ砲で、ようやくサンドの船に近付くプライベーティア号。
 左右に大きく傾く船に翻弄される船長付きの音楽隊の一人、リリ(リリア・フィールド(fa5088))はバイオリンを守りながら、おぼつかない足取りで樽やマストの影を転々と逃げ惑う。元々彼は甲板員志願だったが音楽の腕を見込まれ今の職に就いた。だが、この場ではあまり役に立つ事が出来ず、逃げるばかりだ。
「リリ! ここは危ない。中に入っておけ」
「えぇ、けどクライドさんは、中に入らないのですか?」
「あぁ、俺はいいんだ。砲撃手が足りないからな」
 弾を手にしながらクライドは見かけたリリに中に入る様、戸を開け促す。リリは弾を避け、クライドに開けて貰った戸の中に急いで飛び込んだ。
 ようやく隣に並び、拡声器を手にしたジルが大声で、戦闘で慌ただしいサンドの乗組員達に声を掛ける。
「そちらにウチの船長がお邪魔していると思うんですけど、伝えてもらえます? 浮気してないで、僕らのところに帰ってきて下さいって」
「う、煩い! こっちはそれどころじゃねぇんだ。もうそこまで三隻も壊滅させた女海賊の船が来る。お前達も王様付きの船なら護衛しろ」
 すげなくされたジルはそれでもいつも通りの笑顔で手を上げて合図する。船は波を蹴り前に先に進んで軍艦の援護体勢を取った。
 三隻の軍艦を打ち破り、勢いを増すジョリールージュ号は風に乗り、旗艦であるサンドの船に近付いてく。いくら砲撃しようともメアリーと帆手の合わせた呼吸には叶わない。
 ジョリー・ルージュとサンドの船が並ぶ。メアリーは舵を操り、メグが砲撃をしやすい位置を作ろうとする。そこに狙いを定めていたサンドの狙撃手。
 引き金を引く前、一瞬早くそれを目に留めたジルが砲手を勤めるクライドに向かって拡声器を手に微笑みながら指示を出す。が、その目は笑っていない。
「右舷砲撃準備! 狙いはルージュの少し右ですよ」
「まったく調理長まで駆出すから、誤射なんぞ起こすんだ‥‥よっと! って事だよな」
 ドォォン!
 発射された弾は、ジョリー・ルージュを超え狙った様に軍艦の脇腹を打ち抜く。
 クライドは誤射と言っているがそれは、はなただ疑わしい。
「な、なに今の砲撃は? チャンスよメグ、今よ!」
 誤砲を受けて怯んだ軍艦に風を掴み、砲撃に最適な相対位置へ付けたメアリーはメグに合図を送った。その好機を生かしメグは引き金を再度勢いよく引くついでにどこで覚えてきたのか、賑やかな掛け声を上げた。
「そーっれぇ、いっちゃぇぇ!!タマヤー! ‥‥だっけ? ほら東方世界の砲撃の合図ってこれでしたっけ」
「‥‥ちょっと違う気が‥‥まぁいいか」
 あまりの元気良さに、釣られて笑顔で応える船長とリーザ。メアリーは終わった事を悟り海に飲み込まれる軍艦から素速く船を退避させた。


「う、な、なんでだぁー‥‥」
 船四隻が容易くやられてしまい、半狂乱となるサンド。彼に向かってホーキンスは「だから言ったのに」でも言いたげに肩をすくめる。
 グラリと船が大きく傾き、サンドは立っていられず転ぶ。その拍子に彼の首に下がっていた豪奢な鎖が切れ、鍵が音を立ててホーキンスの足下に滑ってきた。
 彼は相変わらずの優雅な所作で拾い上げ、空いている手で髭をひと撫で。慌てふためくサンドの様子を窺う。
「か、返せ! それは我が一族に伝わる『紺碧の心臓』を開けるための鍵‥‥これとロード・ストーンを持って行けば‥‥」
「それは大切な物ですね。そぅ一つ貴方の望む階級を簡単に上げる方法をお教えしましょう。ロードストーンを献上しなくとも、簡単な方法があるのですよ。それは‥‥」
 サラリと口を滑らせたサンドにホーキンスは微笑みを作り愛用の宝剣を抜くと、一閃。
 サンドの首と胴が切り離した。手が首のあった場所をまさぐる。あまりに見事な手口に斬られた本人も何が起こったのか解らない様だ。
「名誉の戦死ということで‥‥これでお望み通り、階級も上がることでしょう」
 だがドウッと音をサンドの身体は倒れる。ホーキンスはそれを見届ける間もなく、沈む船を離れ自船へと戻っていった。

「お帰りなさい、船長。ご無事で何より、何か見つかりました?」
「えぇ、誤砲には驚かせられましたよ。勿論」
 沈む船に危険を顧みず船を寄せ船長を出迎えたジルの笑顔に、にこやかに応えるホーキンス。速やかに自室に戻っていく彼にクライドは、
「あーようやく終わったぜ。やっぱ俺には火薬よりこっちの方が合ってるわ。‥‥本気で誤射しちまったぜ。そうだ俺の大事な城は無事だろうか? 片付けをして船長に祝杯の用意だな。リリ、準備の間、音楽を一つ頼むぜ」
「はい!」
 なかなか恐い事を言いながらクライドは、こっそりと出てきたリリに曲を頼むと本来の持ち場である厨房へと帰っていく。
 リリも嬉しげに守り抜いたバイオリンを顎に当て演奏を始めた。